野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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 続きました。一応終わりまでのプロットは考えたので、長くかかっても完結はします。


【オリ主紹介・設定】

基音(もとね) 鳴瀬(なるせ)

 私立の名門、早応大学の文学部文学コース英米文学科の二回生。大学の軽音部で同期の二人とスリーピースバンド《バックドロップ》を結成するも方向性の違いから脱退。野良ベーシストとなる。

 メインの楽器はベースだが、ギターとドラムもできる。むしろ、人生で一番練習した楽器はドラム。バンドを組むときに他のメンバーに合わせて何でもできるようにした結果、マルチロールの便利屋になった。中学・高校時代は他にドラマーがいなかったので、軽音部全てのバンドのドラム担当だった。

 スタイルとしてはゴリゴリのロックンローラーで、特にグランジとパンク好き。一番好きなアーティストはカート・コバーン。服装も、よれよれのTシャツにダメージジーンズとスニーカーの往年のグランジファッション。

 名前は「(ベース)の音、鳴るぜ!」のもじり。

 愛用のベースはYAMAHAのmotionB MB-40とFenderのjazzbase Americanprofessional。カラーリングはどちらもナチュラルウッド。


野良ベーシストはバンドを作る※

ーーベベベベボボボボ……

 

 路上に置かれたアンプから、今日も心地よい低音が響く。

 《バックドロップ》からの脱退、そして弦巻こころとの出会いから五日が経ったが、あれから毎日のように俺は駅前で一人ベースを弾いていた。

 「一人」という言葉から分かるように、まだ俺に新しいバンドとの出会いはない。演奏の合間に他のバンドから声がかかることもあったが、それは「何で一人で演奏しているのか」とか「弾いているのは何の曲か」などの表層的な質問だけだった。

 

「ふー……」

 

 演奏が終わり、ため息を一つ吐く。三曲分をぶっ通しで弾いたので、汗をかいたし喉も乾いた。水分を摂るために俺が足下に置いたペットボトルに手を伸ばしたその時。

 

……ヴーッ!ヴヴッ!ヴーッ!ヴヴヴッ!

 

「……げ」

 

 ジーンズのポケットに入れていたスマホから、着信を知らせるバイブレーションが響く。不安を掻き立てるような不規則なその振動に、俺は大いに心当たりがあった。

 あわよくば、取り出しているうちに切れないかと願いながら緩慢な動作でポケットからスマホを取り出し、半ば顔を背けるようにしながら画面を確認する。

 

《着信 ペグ子 XXX-XXXX-XXXX》

 

「うへぇ……やっぱりか」

 

 画面に表示される案の定な名前を見た瞬間の俺の顔は、端から見れば乾期を迎えたサバンナの植物のように、さぞかしげんなりしていたことだろう。

 

 ちなみに、「ペグ子」とは俺が弦巻に勝手につけたアダ名だ。「(げん)を巻く」と書いて「弦巻(つるまき)」なので、それってギターやベースの「糸巻き(ペグ)」のことじゃん、というところから来た安直なネーミングだった。

 

 そんなことを考えている間にも一向に着信が切れる気配はなかったので、俺は諦めて画面の受話器のボタンをタップした。

 

「……もしもし」

「鳴瀬!! 出るのが遅いわ!!」

 

 ……声がでけえ!

 

 スピーカーから耳を貫くように発せられる大音量に、俺は思わず音量ボタンを操作していた。普段の半分ほどまで下げた時に、ペグ子の声はようやく普通のボリュームになった。相変わらずあり得ない(やかま)しさだ。

 

「俺だっていつも電話に出られるほど暇してる訳じゃねぇよ」

 

 さらっと嘘を吐く。こうでも言っておかないとペグ子は四六時中電話をかけてきそうな確信めいた予感が脳裏を過ったからだ。

 

「それもそうね! でも、着信履歴が残るから暇になったら返事してね!」

「電話代かかるからやだよ。んで、今日の本題は何だよ? 雑談なら切るぞー」

 

 このまま適当に話していたら、エンドレスでペグ子の話を聞くことになりそうだったので、俺はこの電話の目的に水を向ける。

 俺の言葉を聞いた瞬間、ペグ子が待ってましたと言わんばかりの声色で話し始めた。恐らく、スマホの向こう側ではあの眩しい笑顔を作っているのだろう。

 

「よくぞ聞いてくれました! ついにバンドのメンバーが揃ったのよ!」

「……マジか」

 

 電話がかかってきた時点である程度想定はしていた。しかし、まさかたったの五日でメンバーを揃えられるとは。行動力の塊のようなペグ子に、俺は舌を巻かざるを得なかった。

 そんな俺の感心が伝わった訳ではないのだろうが、彼女は自信満々な口調で話を続けた。

 

「マジよ! それでね、今からメンバーを連れてあなたに会いに行くことにしたわ! あなたは今日も駅前にいるんでしょ? すぐに行くからそこで待っててね!」

「え? いや、ちょっと待て。会うとなったらこっちにも色々と準備がだな。とにかくすぐには無理だ」

 

 突然発せられたペグ子の襲撃発言を、俺は慌てて拒絶する。流石に今からと言われても心の準備ができないし、初対面の相手に何を話したものか検討もつかない。せめて明日ぐらいには予定を繰り下げてもらわなければ。

 

 しかし、そんな考えはペグ子の次の言葉で一瞬で打ち砕かれ、俺は彼女がいかに行動力の塊であるのかということをまざまざと思い知らされることになる。

 

「それは無理よ! だって私たち、もう駅前にいるもの!」

「……は?」

「あっ、見えたわ! こっちよ、鳴瀬~!」

 

 その言葉でスマホを切って呆然と顔を上げた俺の視線の先には、スマホを片手に手を振りながらこちらに走ってくるペグ子の姿があった。

 

 電話を切った瞬間、目の前に現れる少女。こんな都市伝説を俺は知っている。

 

「……メリーさんかな?」

「私はこころよ? 忘れちゃったの、鳴瀬?」

「そういうことじゃねぇよ」

 

 既に目の前にやって来ていたペグ子に突っ込みを入れると、彼女は安心した表情になった。

 

「そうなのね、忘れられた訳じゃなくてよかったわ! じゃあ、早速あなたに新しいメンバーを紹介するわね!」

「紹介するって、一体誰を紹介してくれるんだ?」

「誰って、それはもちろん……あら?」

 

 そう言って振り返ったペグ子の後ろには誰もおらず、その遥か遠方からこちらに走ってくる四人の少女たちの姿があった。

 こいつは俺を見つけた瞬間に、他のメンバーに何も言わないでこちらめがけて走り出したのだ。当然、誰もついてこれる訳がない。

 

 久しぶりに飼い主に会った犬かこいつは。

 

 そんな考えが一瞬頭を過ったが、その場合こいつの飼い主は俺になるという恐ろしい事実に気づいて、思わず頭を振ってその考えを振り払った。

 

 そして、俺が頭を振っている間に他のメンバーがこちらにたどり着く。肩で息をするメンバーたちの呼吸が整うのを待ってから、ペグ子が再び口を開いた。

 

「それじゃあ、今度こそメンバーを紹介するわ! 入ってくれた順番通りに一人ずつ紹介するわね! まずは、鳴瀬はもう知っているけど花音、お願い!」

 

 そう言ってペグ子がビシッと指差すと、指名された松原さんがびくりと体を震わせる。

 松原さんはおどおどした視線を俺とペグ子に何度か交互に向けたあと、意を決したように口を開いた。

 

「あ、わ、わ、私は松原花音です。花咲川高校の二年生で、バンドではドラムを担当する予定です。あまり上手くはないですけど……よろしくお願いします」

「よろしく松原さん」

「あっ、は、はい!」

 

 差し出した俺の手を松原さんがゆっくり握り返す。緊張しているのかその手は少し震えて汗ばんでいる。まぁ、いきなりほとんど面識のない年上の男に引き合わされたらそうなるのも無理からぬ話だ。

 

 挨拶を交わして、握手をする俺たちを見てペグ子はうんうんと頷く。

 

「よーし、花音はこれでオッケーね! じゃあ次からは完璧に初対面のメンバーよ! 薫、ずばっとお願いね!」

「ふふっ、任せたまえ!」

 

 ペグ子の言葉に自信たっぷりな表情で進み出たのは、薫と呼ばれた長身の少女だ。かわいいというよりは美しく凛々しい顔立ちと、整ったその所作は宝塚の男役を彷彿とさせた。

 

「ただいまご指名に預かった、瀬田薫だ。所属は羽丘女子学園の二年生。普段は演劇をやっているのだが、迷える子猫ちゃんたちの求めに応じてここに馳せ参じた次第さ。バンドではギターを弾かせてもらうことになっている。よろしく頼むよ、Mr.鳴瀬」

「本業は役者か、通りで所作が洗練されているわけだ。よろしく、Ms.薫」

 

 薫の方から差し出された手を俺はしっかりと握り返す。握る前に確認したが、その手は長身の彼女らしく少女にしては大きく、指も長い。これはギターを弾く上で限りないメリットになるだろう。

 

「じゃあ、次は私から指名させてもらおうか。はぐみ、後は任せるよ」

「はいはーい!」

 

 指名をして一歩下がった薫と入れ替わるように飛び出して来たのははぐみと呼ばれたショートヘアーの活発そうな少女だ。

 彼女は選手宣誓のようにビシッと右手を挙げると名乗りを上げる。

 

「私は北沢はぐみだよ! クラスは違うけど、こころちゃんと同じ高校の同じ学年なんだよ。いつもはソフトボールをやってて、家は近くの商店街でお肉屋さんをしてるんだよ」

「え、もしかしてそこってコロッケが美味いって評判の店だったり?」

「そう、そこです! もしかしてお客さんですか?」

「そうそう! あそこのコロッケ安くて美味いから、金欠の時はいつもお世話になってるよ! そうかー、君はあそこの娘さんか!」

 

 意外なところで接点があったことで俺たちは暫しの間、盛り上がった。まさか行きつけの店の関係者がこんなところにいるとは世間は狭いものだ。

 それからひとしきり店の話をした後に、はっとした表情ではぐみさんが口を開いた。

 

「あっ、そういえば自己紹介の途中だったね! 私はバンドではベースを担当するよ! お兄ちゃんがバンドやっててギターは弾かせてもらったことがあるんだけど、ベースは初めてだから色々教えて欲しいな! お店共々今後ともよろしくね!」

「こちらこそ、はぐみさん。また店に寄らせてもらうからサービスたのむよ」

「うん! お母さんに頼んでおくね!」

 

 よっし、これであそこの店でサービスが受けられる!

 

 はぐみさんの言葉に俺は心の中でガッツポーズをした。正直、あそこの店はバイトの給料日前の俺には生命線と言って差し支えないレベルの場所だ。状況によってはヘビーユーザーと化すのでサービスが受けられるのは素直にありがたい。

 彼女と話せただけでも今日はかなりの収穫があったと言ってもいい。俺は今初めてペグ子に感謝してもいいと思った。

 

「かなり盛り上がったわね! それじゃあ、最後はミッシェルの人、お願いね!」

「やっぱりまだ名前覚えてくれてないのね、はぁ~」

 

 最後にため息と共に前に進み出してきたのはキャップ帽を被った少女だ。顔立ちは整っていて美少女と言っても差し支えのないレベルだが、前のメンバーのパンチが効きすぎているので相対的になんだか地味に見えてしまう。

 

 しかも、「ミッシェルの人」って何だ?

 

 四人の中で唯一名前で呼ばれなかった少女のことをいぶかしんでいると、彼女の口がゆっくりと開いた。

 

「あー、特に名前を紹介されなかった私は奥沢美咲といいます。一応、弦巻さんのクラスメートです。担当はミッシェル、よろしくお願いします」

「よ、よろしく?」

 

 だから「ミッシェル」って何だ!?

 

 頭の中にクエスチョンマークを浮かべる、俺を見て奥沢さんの方はその顔に苦笑いを浮かべる。

 

「ははは……、色々疑問に思うかもしれませんが、ミッシェルのことは追々分かりますよ。……はぁ、バイトを探してただけなのに何でこんなことに……」

 

 そうぼやきながら肩を落として元の配置に戻る奥沢さんを見て俺は確信する。

 

 ははーん、この娘は俺と同じでペグ子に巻き込まれたタイプだな! しかも中身はかなりの常識人とみた!

 

 あっさりとしたやり取りの中で、一瞬でそのことを見抜いた俺は、もしこれからペグ子たちに関わるならば、奥沢さんにはできるだけ優しくしようと心に誓った。

 

 そして、奥沢さんが元の位置にとぼとぼと戻ると、五人が揃って俺を見つめる。

 どうやら次は俺の番と言う訳らしい。

 皆の視線を一身に浴びるなかで、俺は「ごほん」と一つ咳払いをしてから話し始めた。

 

「ご挨拶ありがとう。もう知っているかもしれないが、俺の名前は基音鳴瀬。学校はすぐそこの早応大に通ってる。文学部で英米文学を研究してるから、これでも一応は文学青年だ。バンドでは主にベース担当。でも、その気になればギターも弾くしドラムも叩く。実際、中高ではドラム担当だったしな。これからどうなるかは分からんが、まぁ一つよろしく頼むよ。そして、最後に一つ言わせてくれ」

 

 俺の自己紹介を興味深く聞いていた五人は、俺の最後の言葉にしっかりと耳を傾ける。

 それを確認してから俺はゆっくりとその言葉を発した。

 

「……このバンド、もう俺いらなくないか?」

「えっ!?」×5

 

 驚愕の表情であんぐりと口を開ける五人娘。そこに畳み掛けるように俺は言葉を付け加える。

 

「いや、だってこのバンド、もうギターとベースとドラムのスリーピースが揃った上に専属のボーカルまでいるんだろ。よく分からんけど『ミッシェル』もいるし、もう俺はいらないんじゃないかなー?」

 

 俺の言ったことはその場しのぎの出任せではなく正鵠(せいこく)を射た言葉だ。ギター、ベース、ドラムさえ揃えておけばバンドというものはは間違いなく機能する。ツインギターやツインベースの構成も無くはないが、よっぽどメンバーがシンクロしていなければ、互いが互いを食い合って音が濁る原因になる。

 だったら、ここは俺が男らしく身を引いて、後は若い少女たちに任せるのが筋というものではなかろうか。いや、そうに違いない。

 

「それじゃあ、俺はそういうことで……」

 

 そう言って俺は右手を軽く挙げると、機材を持ってそそくさとその場を立ち去ろうとした。

 決して面倒くさくなって逃げる訳ではない。これは彼女たちのことを思って潔く身を引いているだけだ。

 

 後はこのままゆるりゆるりと立ち去るだけ。そう思った矢先。

 

「って、何逃げようとしてるんですか! 弦巻さん、鳴瀬さんが逃げますよ!」

「くそっ! 思ったより早く正気に戻られた!」

「あっ! 逃がさないわよ、鳴瀬! はぐみ、お願い!」

「オッケー! 鳴瀬さん、待てー!」

「ぐふっ!?」

 

 一足先に我に帰った奥沢さんの鶴の一声によって、ペグ子の命令を受けたはぐみさんのタックルを食らい、俺の逃走計画、ではなく彼女たちへの気遣いは水泡に帰した。

 

 ……無念!

 

「まったく、油断も隙もないわね!」

「な、鳴瀬さん、いなくなっちゃダメですよ……」

「ふふっ、すがる乙女を見捨ててゆくとは君も罪作りな男のようだね」

「もーう、逃げたらうちのお店でサービスしてあげないよー?」

「いやー、ようやく私と同じ常識人枠が増えそうなのに逃がすわけないでしょ。大人しく私と一緒にこいつらの暴走を止める役目をこなしましょうよ鳴瀬さん」

「……悪かったって、そういうつもりじゃなかったんだよ。あと、謝るからお店でのサービスはよろしくお願いします、はぐみさん」

 

 結局、その後すぐに捕まえられた俺は今度は逃げられないように五人に周囲を囲まれて、その中央で正座をさせられている。

 その姿は端から見れば謎の儀式か何かに見えるようで、俺が駅前に演奏に来てから一番周囲の注目を集めていた。

 

 ……いや、こういう形で目立ちたいんじゃないんだけど。

 

 ため息の一つでも吐きたいところだったが、余計なことをすると更に突っ込まれそうだったのでぐっと堪える。

 しかし、いつまでもこのままこうしているわけにもいかないので、状況を打開すべく俺は口火を切った。

 

「しかしだな、実際問題、俺はあんまりこのバンドにはいらないと思うぞ」

「どうしてそう思うの?」

 

 俺の言葉にペグ子は首を傾げる。他のメンバーも納得がいかない表情だ。

 だから俺はその理由を懇切丁寧に説明することにした。

 

「まぁ、最大の理由は俺が男だからだな」

「そんなことは心配しなくていいさ。私たちは性別なんかでMr.鳴瀬を区別することはない。実際、私は生物学上女だけれども、今までに乙女たちのハートを奪っているし似たようなものさ!」

「いや、全然似てないけど。いや、とにかくバンドは同じ性別で固めておく方が都合がいいんだよ」

 

 よくわからない薫の発言に突っ込みを入れつつ、俺は性別を固めるメリットについて語った。

 

 現在、空前のガールズバンドブームが来ている日本では、それを対象としたイベントやフェスも多い。ライブハウスなんかにも男性禁制の施設だってある。そんな中で俺一人を混ぜたことによって、それらの参加資格を失うのは彼女たちにとって大いなる損失だ。何事にもチャンスは多い方がいい。

 

「なるほど、バンドにもお店のレディースデイみたいなシステムがあるのね!」

 

 俺の言葉にペグ子は得心がいったという表情で頷く。それを好機と見て、俺はそこから更に畳み掛ける。

 

「それに、はっきり言わせてもらうと、俺とみんなとでは腕前に差がありすぎる。メンバーの腕が違いすぎると悪い意味で目立つんだよ」

 

 メンバーの腕前の均一化はバンドにとっては至上命題の一つだ。お遊戯レベルのメンバーの中で超絶技巧を披露すれば、そこだけ密度が高過ぎて調和が狂うし、逆に超絶技巧の中に素人が混ざってもそこだけがすかすかになって見映えが悪い。

 全員が足並みを揃えて、徐々に高みにへと登ってゆく。バンドはその過程が尊いのだ。

 

「実際ちゃんと聴いてないから分からない部分もあるけど、俺は小学校入学前から楽器をいじってるんだ。この中で、誰か俺と同じレベルで楽器触ってるやつはいるか?」

 

 俺の問いかけに返ってきたのは沈黙。案の定、誰もそこまで楽器に打ち込んではいないようである。

 

 ……ただ、握手した感じでは松原さんは少しはやれそうだったけどな。

 

 先程の握手の時に触った松原さんの手や指は思ったよりも固かった。それは彼女が結構しっかりとスティックを捌いてきた証拠に他ならない。

 しかし、他は皆素人に毛が生えたレベルだし、「ミッシェル」に至っては最早何なのかすら分からない。あまり期待はできないし、そんな俺の予想は全く外れてはいないだろう。

 

「んー、そう言われると何だかそれが正しい気もしてくるわね」

 

 ペグ子が今までにない歯切れの悪い言葉を返す。他のメンバーも微妙な表情で沈黙している。

 

 これはもう一押しすれば俺は解放されるのではないか。

 

 一筋見えた希望という名の光明に、俺の表情が輝こうとしていたそのとき。

 その光明は意外な人物の手によって隠されることとなった。

 

「あのぅ……」

 

 恐る恐るといった様子で発せられたその声の主を皆が見つめる。

 

「どうしたの花音? 何かあったら遠慮なく言っていいのよ!」

「はうぅ……、あの、その……」

 

 皆の注目を一身に浴びた松原さんは小さなその体を更に小さくすくませる。

 しばらくはおどおどしていた彼女だったが、ようやく決心がついたようで、きゅっと表情を引き締めてから話し始めた。

 

「鳴瀬さんのいう通り、私も鳴瀬さんがバンドに入るとメンバーのバランスが崩れると思います」

「……!」

 

 松原さんの口から出た援護射撃ともとれる言葉に俺は喝采を上げそうになった。

 しかし、続く言葉でそんな俺の目論見は大きく外れた。

 

「だから私、鳴瀬さんには私たちの演奏指導をして欲しいと思います。鳴瀬さんはギターもドラムもできるって言ってたから、きっと私たちの力を伸ばしてくれると思うんです」

「え」

 

 松原さんの口から出た想定外の言葉に俺の体が固まる。硬直して動けないでいるその間に、次々と他のメンバーが彼女の言葉に同調していく。

 

「ナイスアイデアよ花音! 鳴瀬に教えてもらったら私たちのバンドはすごい演奏ができるようになるはずよ!」

「その通りだ。こころが認めたMr.鳴瀬に教えてもらえるなら、私たちはより高いステージに進めるはずだ。ああ、神が与えてくれたこの出会い、運命とはなんて儚い……」

「そうだね! 私も鳴瀬さんと同じベース担当だからしっかり教えてもらいたいな!」

「私は常識人が増えてくれるならなんでもいいです」

 

 結局、俺が再び口を開く前に俺の運命は五人の少女たちの手によって勝手に決まってしまった。

 

「ということだから、これからは私たちの先生として協力お願いね、鳴瀬! 私は約束通りメンバーを集めたのだから、今度はあなたが約束を守る番よ!」

「……分かったよ、約束は守るさ」

 

 決して分かりたくはなかったが、今の俺にはそう答える以外に道は残されてはいなかった。

 その答えを聞いたペグ子は満足そうに頷くと、がっしりと俺の手を握る。その手を振り払うこともできず、俺はなすすべもなく彼女に引き摺られていく他なかった。

 

「さぁ、それじゃあメンバーも先生も揃ったところで、バンドのこれからのことを話し合いましょう! ここからなら私の家が近いから、早速今から向かいましょうか!」

「……もう好きにしてくれ」

 

 最早抵抗する気力を失い、ずるずると連れていかれる俺の頭の中には、小学生の頃に学校で歌わされた『ドナドナ』の歌がエンドレスで流れ続けていた。




※ただし、自分はメンバーに入っていない。

ということで当初の予定通り、オリ主はバンドのアドバイザーとしての起用で、ハロハピはいつもの五人でやっていきます。

他のメンバーも登場しましたが、口調とかキャラとか大丈夫かなー? ハロハピは個性的なキャラが多いので上手くトレースできてるか心配です。

よろしければコメントなどお待ちしてます。

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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