野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
後編3-2でぇーっす!

この前書きを書いてる時点ではここでライブを完結させる気でいます(完結させるとは言ってない)!

今回も《ハロハピ》メンバー視点があります。誰がどのタイミングで出るかはお楽しみに!


野良ベーシストは仲間を信じる(後編3-2)

 

 

 

ーー人の世に熱あれ。人間に光あれ。

 

 

 

◇◇◇《side ある少女》◇◇◇

 

 

 

 素晴らしいものを見た。

 

 素晴らしいものを見た。

 

 素晴らしいものを見た。

 

 本当に素晴らしいもの・美しいもの・偉大なものに出会った瞬間人は言葉を失うというけれど、やっぱりそれは間違いじゃない。

 

 人生で初めて《Poppin'Party》のライブを見せてもらったあの天に昇るような高揚感。

 

 まさか、あれをまた経験できるなんて。

 

 やっぱりバンドってすごい!

 

 でも、《Poppin'Party》の時と、今の《ハロー、ハッピーワールド!》の演奏の衝撃はふたつとも違った衝撃でした。

 

 《Poppin'Party》の衝撃は、例えるなら桜の花弁を舞い上げた春風が心をすり抜けたような爽やかな衝撃。

 

 《ハロー、ハッピーワールド!》はまるで、一つ一つ宝箱を開けていくようなワクワクする衝撃。

 

 今までの自分が塗り替えられるような、でも、どちらもとっても心地よい新鮮な衝撃。

 

 どちらにも、優劣なんて付けられない、いや、つけちゃいけないものなのだ。同じ花だからといって、桜と向日葵のどちらが綺麗かなんて決められないように。

 

 だって、二人のバンドの演奏はどちらもそのバンドの精髄を集めたものなのだから。

 

 ああ、この心の高鳴りをいったいどうすればいいんだろう。どうすれば、静まってくれるのだろう。

 

 もしかすると、一生この鼓動の速さが治まらないのではないかという錯覚に囚われる。このスピードで青春を駆け抜けてしまうのではないかという不安が過る。

 

 ーーでも、今はこれでいい。

 

 だってまだ、この素敵な(うた)は終わっていない。一つの夢から覚めても、また次の夢が私を待っている。

 

 だから、この夢から覚めるまではこのままでいい。面倒くさいことは全てが終わって現実に帰ってから考えよう。

 

 そう決めて、私はその胸の高鳴りを抑えることなく、彼女たちの次の夢を待つ。目が覚めれば儚く溶けていってしまうそれを、決して忘れてしまわないように。

 

 

 

◇◇◇《side ある少女 over》◇◇◇

 

 

「はーい、みんなー! 《ハロハピ》風《小さな恋のうた》、楽しんでもらえたかしらー?」

 

 ウォー! サイコー! タノシカッター! イイゾーココロチャン!

 

 曲の間のMCで、またペグ子がマイクを握る。

 観客は既にペグ子に夢中で、彼女のクエスチョンに対するレスポンスが、客席のあちこちから返ってくる。

 

 まったく、初ライブの無名のバンドへの反応じゃないぜこんなの。

 

 あっさりと初心者の壁を乗り越えた、あるいは無視しでぶち破ってしまったペグ子を見て俺は苦笑する。

 ステージには上座も下座もないとはいったが、バンドの練習量とスキル、知名度などで、ある程度の席の位置は決まってしまう。

 しかし、《ハロハピ》はそれらの問題を一切感じさせない。まったく、恐ろしく横紙破りなバンドだ。

 

 ま、俺もその一人なんだがな。

 

 だから、俺はステージの下から仲間たちにしっかりと視線を送る。大切な仲間たちの晴れの姿を一瞬たりとも見逃さないように。

 

 そんな俺の視線の先で、ペグ子が薫に駆け寄っていく。どうやらMCを譲るようだ。

 

「わたしはもっともーっとみんなとおしゃべりしたいけど、他のメンバーもみんなとおしゃべりしたいらしいからそろそろ代わるわね! 薫、お願い!」

 

 ペグ子のデータ離れたマイクが宙を舞い、薫の手にすっぽりと収まる。

 薫とペグ子が軽く頷き合ったあと、ペグ子が後ろに下がり、入れ替わるように薫が前に進み出る。

 

「やぁ、子猫ちゃんたち。私の演奏は楽しんでもらえたかな?」

 

 キャー! カオルサマー! サイコー! ヨカッタゾー!

 

 先程の紹介の時に聞こえた黄色い声援に混ざって、男性の声での声援も飛ぶ。どうやらペグ子と同じように、彼女も会場の心を掴んでいるようだ。

 

 その声援に薫はステージでうっとりとした艶のある表情を浮かべる。ぞくりと背筋が動くような魔性。

 

 ……いつもそうしてればもっとカッコいいのにな。

 

 いつものなんちゃって宝塚の薫の姿を思い出して俺は苦笑する。俺にとっては彼女は「黙ってればカッコいい人物」の筆頭だ。

 

「ああ、ありがとう子猫ちゃんたち! 最初の紹介でご存知だとは思うが、私は羽丘高校演劇部に所属していて舞台に立つのはこれが初めてではないんだ。でもーー」

 

 そこまで言って薫は客席を見渡す。

 

「ーーこんなにもステージと客席が一つになった瞬間は演劇では味わえなかった。演劇とバンド、どちらが優れているとは言えないが、どちらも違った儚さがあるのだと、今身に染みて実感しているところさ」

 

 確かに薫の言う通り、演劇は演者が表現する作品の世界に静かに浸るものであり、静かに深く味わうものである。

 逆にライブは自分の内に沸き上がる感情をインスタントに表現できることにその魅力がある。二者は全く逆のベクトルで優れた芸術なのだ。

 

「しかも素晴らしいことに、まだ私たち《ハロハピ》の演奏はまだ二曲も残っている。次も、その次も、最高に儚い私たちをお届けしよう! 子猫ちゃんたち、私たちに着いてきてくれるかな?」

 

 イイトモー!

 

 客席からの答えは「Yes」。当然だ。あんな(もの)を見せられて、途中下車なんてあり得ない。

 

 耳に手を当てて返事を聞いた薫は満足そうに頷く。

 

「ありがとう、子猫ちゃんたちの応えに感謝を! そして共に行こう、次の(うた)へ! 2曲目は《ハロー、ハッピーワールド!》で《えがおのオーケストラっ!》、こころ姫、マイクを!」

「オッケー、薫!」

 

 薫るの手から放たれたマイクが後ろからステージ最前列に飛び込んできたペグ子の手に収まる。

 ペグ子が着地すると同時に、《ハロハピ》の演奏が始まった。

 

 ーーシュババババッ!!

 

「うぉっ!? なんだ、なんだ!?」

 

 ステージに気を取られていた客たちの間を黒い閃光が走る。閃光が走ったあとには、そこにいた客の手に1枚の紙が握られている。

 

「これは《えがおのオーケストラっ!》の歌詞カードか! 黒服の人たち、相変わらずいい仕事をするじゃないか!」

 

 手元の歌詞カードには、歌詞だけではなくコールなどもしっかりと書き込まれている。これなら初めての曲でも客はノれる。

 

 先程の《小さな恋のうた》は借り物の曲だったが、この《えがおのオーケストラっ!》は《ハロー、ハッピーワールド!》のオリジナル。

 

 それは、ペグ子が歌い、奥沢さんが心血を注いで作り上げ、そして、みんなで奏でる《ハロハピ》の魂の精髄。

 

 観客たちは遂にここで真の《ハロー、ハッピーワールド!》を理解するだろう。

 

 ーー準備は万端。気分は上々。さぁ、行こうぜ!

 

 観客の熱を帯びた視線に応えるようにウインクを一つ決めて、ペグ子の唇が震える。

 

『トキメキ! メキ! はずませて 始めよう オーケストラっ!』

 

 先ほどの《小さな恋のうた》とは違う、弾むようなわくわくが止まらない子どもようなペグ子の声が響く。

 

 その声を聴いていると、なんだか俺の心まで子どもの頃に帰って行く気がした。

 

 

 

◇◇◇《side 北沢はぐみ》◇◇◇

 

 

 

 すごい! すごい! すっご~い!

 

 ライブってこんなにすごいんだ!

 

 今はぐみたちの前で、こころちゃんの声とはぐみたちの演奏に合わせて、お客さんが一緒になって動いてくれる。

 

 まるで、会場が一つの大きな動物さんになったみたい! くじらさんかなー? あ、もしかしたらくまさんかも、だって《ハロハピ》にはミッシェルがいるもんね!

 

 そんなことを考えるとお客さんたちがピンクのくまさんに見えて、自然と笑顔があふれてきちゃう。

 こんな気持ちは、ソフトボールでは感じたことはないかも。

 

 はぐみはソフトボールの、試合なんかでお客さんの前で何かをすることには慣れっこ! はぐみがホームランを打ったり、バッターを三振にしたりすると、はぐみと一緒にお客さんたちも喜んでくれるんだ!

 

 でも、そのときの気持ちと今の気持ちは全然違うんだ。

 

 ライブが始まったときは「何でだろう?」って全然分からなかったんだけど、はぐみ、今はその理由が分かるよ!

 

 ライブでは、お客さんの顔を見ることができるんだ!

 

 最初はベースを弾くことに夢中で気がつかなかったんだけど、段々慣れてきてふっと顔を前に上げたら客席のお客さんたちの笑顔が飛び込んできてびっくり!

 でも、すぐにはぐみも笑顔になっちゃった!

 

 ソフトボールの時は打つときも、投げるときもボールに集中しないといけないからお客さんの顔を見るタイミングはあまりないんだー。特に、お客さんが喜んでくれるときは!自分が活躍してるときだから、試合に集中してて顔なんて見てる暇がないんだよね。

 

 でも、ライブは違うね! ライブは演奏していると自然とお客さんの顔が見えるようになってるんだ! 

 

 だから、はぐみの演奏でお客さんが笑って、その笑顔ではぐみが笑って、またその笑顔と演奏でお客さんが笑ってくれる! すごい、これって笑顔の永久機関じゃないかな!?

 

 すごいことに気がついちゃった! もしかして、はぐみ、ノーベル賞がもらえちゃうかも! あ、でもライブを考えたのははぐみじゃないから、ノーベル賞はライブを考えた人のものなのかな? うーん、どうなんだろう?

 

 でも、まぁ、いいか!

 

 はぐみにとってはすっごい賞よりも、目の前のみんなの笑顔が一番の宝物だもん!

 

 だから、もっともーっと笑顔の宝物をあつめるぞ~! はぐみ、いっくよ~!

 

 

 

◇◇◇《side 北沢はぐみ over》◇◇◇

 

 

 

 北沢さん、《小さな恋のうた》の時よりも、顔が前を向くようになったな。その分演奏が荒くなってるけど、北沢さんの笑顔が客席に届けば差し引きするとお釣りが出るな。

 

 俺はライブの中で成長していく北沢さんの姿を見て自然と頬を綻ばせる。

 

 素晴らしい才能が花開く瞬間というのはなんと美しいものなのか。

 そして、それに立ち会えること、ましてその開花に自分が携わっているなんて無上の歓びだ。

 

 北沢さん、君は今最高に美しい。君にベースという最高の楽器を教えた者として、そして同じ一人のベーシストとして、これ程誇らしいことはないよ。

 

 俺は北沢さんに、新しく世に生まれた一人のベーシストに、最大の賛辞を送った。

 

 キラキラ! キラキラ!

 

『星のリズム』

 

 ピカピカ! ピカピカ!

 

『手を鳴らして』

 

 キラピカ! キラピカ!

 

『キズナの色 地球の色 同じなんだ!』

 

 客席全体から嵐のようなコールを受けて、ペグ子は最高の笑顔で歌い続ける。

 

『繋いだ手を』ハイ! ハイ!

『繋いでこー!』ハイ! ハイ!

 

 ペグ子がステージの真ん中で自分の左手という右手を掲げてぎゅっと握る。

 

 その時、俺の前に右横からニュッと手が差し出される。

 

 驚いて、横を見るとアゴヒゲを生やした見知らぬ若者がにかっと笑って俺を見ていた。

 

 ーーなるほどね。

 

 すぐに理解した俺は、アゴヒゲの若者に笑い返すと差し出されたその左手に俺の右手を重ねて力強く握る。俺が握ると彼も力強く返事をしてくれる。

 

 思えば、子どもの頃は何も深く考えずに初対面の相手とも手を繋いですぐに友達になれたものだ。

 

 一体いつの頃から俺たちは誰とでも手を繋げなくなったんだろう。

 

 でも、今の俺はペグ子の歌声のおかげで子どもの心に戻っている。今なら世界中の誰とでも手を繋ぎに行ける気さえする。

 

 だから、俺はまだ空いている左手を、躊躇うことなく左隣の少女へと差し出した。

 

「えっ?」

 

 驚いた少女が俺の顔を見上げるので、俺は顔の動きでステージのペグ子を示してから、少女の方を向いて「ん」と軽く頷いた。

 

「あっ……はい!」

 

 それで全てを察した少女が俺の手を取ってくれる。そして少女ももう片方の手を別の誰かと繋げていく。段々、客席(せかい)がひとつになっていく。

 

『世界はひとつになる ボクらで作り出そうよ』

 

 まるでペグ子の見る(うた)のように。

 

『フェスティバルだ!』

 

 ウォォォォ!!! ハイ!!!

 

 ペグ子が叫んでジャンプするとそれに合わせて客席を右から左へとウェーブが流れる。これは歌詞カードに書かれていた演出にはなかった。

 

 ペグ子が、《ハロー、ハッピーワールド!》が、観客を動かしたのだ。

 

 みんなが互いに集まって、ひとつの大きな(うた)を見ているのだ。

 

 ーーああ、ライブはこんなにも美しい。

 

 

◇◇◇《side 瀬田薫》◇◇◇

 

 ああ、客席に海が広がっているのが分かるよ! なんて、なんて儚いんだ!

 

 子猫ちゃんたちの作るウェーブを見て私の胸は高鳴った。

 

 こころ姫の考えで、歌詞のように子猫ちゃんたちに手と手を繋いでもらうという構想は元からあったもの。

 

 しかし、繋いだ手でウェーブを起こすということは私たちの考えにはなかった。つまり、これは子猫ちゃんたちが私たちの演奏を見て自然に起こしたのだ。

 

 ああ、これを「儚い」と言わずしてなんと言おうか!

 

 私の目には、客席にできた海だけではなく、すでにその先の光景まで見えている。

 海の先にあるのは当然別の国だ。つまり、この客席の海はその先の世界に繋がっている。私たちは今、間違いなく未来への扉の前に立っているんだ。

 

 これは啓示だ。私たち《ハロー、ハッピーワールド!》が、幸せ(ハッピー)世界(ワールド)に届けに行くという啓示なんだ!

 

 ……ああ、儚さで胸がつまる! 私たちの未来はこんなにも祝福されている!

 

「……そんな世界(ゆめ)を見せてくれたこころ姫と《ハロー、ハッピーワールド!》の仲間たちに。そして、この空間を作ってくれた子猫ちゃんたちへ無上の感謝を。さぁ、最高の私を受け取ってくれたまえ!」

 

『繋いだ手を』ハイ! ハイ!

『繋いでこー!』ハイ! ハイ!

 

 曲が最後のサビへと向かう。

 

 客席に再び大きな海が見える。

 

 その大きさが、その強さが、そのうねりが、人間の持つ力なんだ。

 

『世界はひとつになる ボクらで作り出そうよ』

 

 偶然ライブハウスで出会った人間たちが作り上げる、今日この瞬間限りの(うた)。ここに集った人たちはもう二度と関わることはないかもしれない。それでも、ただ、今はその手と手を取り合って笑い合っている。多分、きっとそれでいいのだ。

 

 世界は儚さで出来ている。それゆえに世界はこんなにも美しい。

 

『フェスティバルだ!』

 

 再び生まれたウェーブに向かってこころ姫の最後の歌声が響く。

 

 私のギターが最後の音を掻き鳴らす。

 

 その残響がまだ消えないでいる内に、私の右手が客席へとピックを放つ。

 

 手から離れたピックは、照明の明かりを受けてまるでそれ自体が輝きを放っているかのようだ。

 

 輝くピックは放物線を描き、熱気の中を切り裂いて飛んでいく。

 

 ピックの行き先は投げる前に決めていた。私が投げる初めてのピックを受けとるのに相応しい人物は、この場で()をおいて他にいないだろう。

 

「ふっ、私の想い、掴み損ねないでくれよ、Mr.?」

 

 右手の指をピストルの形にすると、私は宙を舞うピックと、その先にいる人物を狙い違わず撃ち抜いた。

 

「ーーBanG !」

 

 

 

◇◇◇《side 瀬田薫 over》◇◇◇

 

 

 

 ーーああ、たった二曲だというのにこの満足感、この充足感は何だ。

 

 《えがおのオーケストラっ!》で二回目のウェーブを作る俺の心はただひたすらに穏やかに満ちていた。

 

 ウェーブが終わり手が離れたあとも、繋ぎあった手のその熱が、ひとつになった心がまだそこに残っている気がする。

 

 《ハロー、ハッピーワールド!》、最高に最高だ!

 

「……ん?」

 

 そんなことを考えていた俺の目に、何やらひかりの粒が突き刺さった。

 光の方へと顔を上げると、何やら空を切って小さなものが俺の方へと飛んでくる。

 

 うおっ、マジか!

 

 ウェーブが終わった直後で気が緩んでいた俺は、手を伸ばそうとするも間に合わずーー

 

ペチッ!

 

「ーーいてっ!?」

 

 空飛ぶ何かは俺の額にぶつかると、そこに居座った。

 

「何なんだよ、全く……」

 

 折角のいい気分を邪魔された俺は、ぼやきながら額に張り付いた何かを指で摘まんで剥がす。

 

「これは……」

 

 改めて、指で摘まんだそれを見るとそれは紫紺色のピックだった。ピックの表面には「20××/8/××《STAR DUST》瀬田薫」の文字がサインペンで書かれている。

 

「……これ、俺が薫にあげたピックじゃん」

 

 間違いない。これは俺の家に薫たちが遊びに来たとき、役立つ小物セットの中に入れたピックの中の一枚だ。薫の髪の毛の色に似てるなと思って選んで入れた物だからよく覚えている。

 

 ーーおいおい、俺にピックを投げても意味がないだろ。まったく、薫はそういうとこが抜けてるんだよな。ま、でもらしいといえばらしいかな。

 

 折角の初めてのファンサービスをまさかの身内に送ってしまう薫に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 でも、それが最高に薫らしくて何だか安心する。

 

「あっ……すごい……」

「……ん?」

 

 横からボソッと聞こえた声に振り向くと、少女が俺の持つピックを羨ましそうに眺めている。

 

 俺は少女の顔と手元のピックを交互に眺めてから、笑顔でピックを少女に差し出した。

 

「……ねぇ、君。このピック、いらないかい?」

「えっ!? でも、それは凄い貴重なものなんじゃ……!」

 

 確かに、このピックは薫が初めてライブで投げた一枚目のピックだ。もし今後《ハロハピ》が世界に飛び立てば、このピックの持つ価値は計り知れないものになり、バンドの歴史上のマスターピースになるかもしれない。

 

 しかし、それでも。

 

「いや、このピックは君にもらって欲しい。今日この日偶然隣り合って、俺と一緒に《ハロー、ハッピーワールド!》を応援してくれた君にこそ、このピックは相応しいんだ」

 

 バンドのライブは一期一会。その場で結ばれた絆もライブが終わると消えてしまう。

 それでも、思い出となる何かが残れば、それを見てあの時感じた思いを、結んだささやかな絆を思い返す日があるかもしれない。

 だから俺は《ハロハピ》の一員として、目の前の少女には今日この日の想いを、絆を、このピックで刻み付けておいて欲しかったのだ。

 

「それに、さっき言ったけど俺は《ハロハピ》の身内みたいなもんだからな。ピックを手にする機会はいくらでもあるさ」

「そういうことでしたら、ぜひ……。ありがとうございます」

 

 差し出したピックを少女の細い指先がしっかりと掴む。

 彼女はそのピックをまるで少しでも力を加えると壊れてしまうかのように優しく、そして愛おしい手つきで両手の中で握りしめていた。

 

 その姿を見て俺は自分のやったことが間違っていなかったと一つ頷いてから再びステージに視線を戻す。

 

 いよいよ残すはあと一曲。

 

 これで会場の全ての人間の胸に《ハロー、ハッピーワールド!》が完全に刻み付けられることとなる。

 

 そして、このライブを見た全ての人間が、世界に《ハロー、ハッピーワールド!》を届ける先触れとなるのだ。

 

 ーーさぁ、正念場だぜみんな!

 

 ついに《ハロハピ》のライブが始まりの終わりを迎える。その時を待つ俺の胸は不思議なまでに穏やかだった。

 

 

 




はぐみ「私が演奏してお前らが笑う お前らが笑うとそれを見たはぐみが笑って演奏する 永久機関が完成しちまったなぁ~? これでノーベル賞ははぐみのもんだぜ!」

 はぐみちゃんのパートは『チェンソーマン』を読んでるときにふっと頭に思い浮かんだのをそのまま形にしました。ですから、みなさんも『チェンソーマン』をお読みになるといいですわよ(ダイレクトマーケティング)。

ほぼ鳴瀬君をトレースできる薫さんと違って、はぐみちゃんは地の文にらしさを出すのがめっちゃ難しかった……。伝わってくれ、はぐみちゃんの魅力!

そして、薫さんは案の定若干のコメディリリーフ。薫さんに関してはそのちょっとずれたところが可愛いと思ってるので、少しオチをつけたくなってしまう。愛だよ、愛。


そして案の定、2で終わらなかったので3に続きます。

うん、またなんだ、すまない。でも、仏の顔も三度までって言うしね、笑って許してほしい(バーボンハウス)。


そして、今回の最初の言葉は水平社の「水平社宣言」の末文から引用。もう紛れもない日本の、世界の歴史に残る名言・名文です。道徳の授業なんかで聞いたことがある人もいるかもしれない。

部落解放運動の旗印となった人権宣言なので、全文はかなりどろどろとしたオーラが漂いますが、人が人として生きるってこういうことなんだよな、とはっと気づかされます。

最後の部分を引っ張ったのは、ここが《ハロハピ》の理念に通じると思ったからです。こころたちは誰もが分け隔てなく笑える世界を目指しているわけですから。


いよいよ、「クライマックスだ!」(ハル子)。

《ハロハピ》運命の3曲目にはカバー曲を使う予定です。何を使うのか楽しみにしていただきながら、しばしお待ちいただけると幸いです。

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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