野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
初ライブアフターです。そんなに長くないと思うよ?

いよいよ《ハニースイート デスメタル(HS DM)》との勝負の決着です。

この戦いに勝つのは一体どちらのバンドなのか!?

乞うご期待!


【アンケート】

アンケートの結果ですが、約10票ほどの差でポニーテール萌え(いるよ派)が一位でした~。ここはキョン君が多いインターネッツですね(古典派)。

ただ、「おう、本編を早く進めるんだよ。あくしろよ」って方も多いので、個別のメンバーごとのストーリーではなくて、全員一緒に出せるサイドストーリーを一つにして、個別はちょこちょこ間で挟もうかなと思ってます。いわゆる折衷案というやつです。

んで、個別のストーリーに関しては各キャラごとに何個か考えてるのがあるのでまたアンケートさせてもらおうかなと思ってます。多分全部を形にするのには圧倒的に時間がないので。

なんだかんだでストーリーはまだまだ続きます! どうか今後ともよろしくお願いいたします!


野良ベーシストは夢の終わりを迎える

「それじゃあ、みんな行くわよ」

「ああ」「うん!」「はい」「ええ」「おう」

 

 ペグ子の言葉に俺たちは顔を付き合わせて頷く。

 

 『school band summer jam 14th』が大成功の内に幕を下ろしてからしばらく経った。他のバンドが捌けてしまった後の控え室前の廊下で、倉田さんと別れた俺たちは最後の勝負にけりをつけに行こうとしていた。

 

 それは俺の命運を決める《HS DM》のメンバーとの勝負。《ハロハピ》の勝利条件は、「メンバー全員が今日のライブに満足すること」だ。

 

 有力バンドの《HS DM》の出番が直前にあるというおおよそ理想的とは思えなかった条件。

 

 しかし、俺の胸に不安は一切存在しなかった。

 

 だって、《ハロー、ハッピーワールド!》はあれだけのライブを見せたのだから。

 

 ペグ子が歩くのに従って、俺たちは決戦の地へと向かう。

 

 そこは控え室スペースの一番奥に位置する第一控え室よりも更に奥へと廊下を進んだ突き当たりに位置する資材倉庫になった部屋だ。《HS DM》が《STAR DUST》の管理者と交渉して、少しの間そこの鍵を借りてある。

 

「失礼するわ!」

 

 そう言ってペグ子が部屋の扉を開け放つと、果たして《HS DM》はそこで俺たちを待ち構えていた。

 

 《HS DM》のメンバーは、壁にもたれて立っていたり、木箱の上に座っていたりして、まるで少年漫画の敵の組織の登場シーンか、CDジャケットの撮影の風景を思わせる。

 

「待っていたよ、鳴瀬くん。そして、《ハロー、ハッピーワールド》」

 

 SAKIさんは俺たちの姿を確認すると、余裕綽々といった様子で軽く右手を挙げた。自分が敗北するなど微塵も思っていない強者の佇まいといったところか。

 

 しかし、そんなことなどものともせずに、ペグ子はずいっと彼女の方に進み出る。

 

「待たせたわね! さぁ、決着を着けましょうか!」

 

 腰に手を当てて仁王立つペグ子に、SAKIさんはゆっくりと頷く。

 

「ああ、話が早いのは助かるよ。こっちはアフターの準備もしなくちゃいけない。さぁ、聞かせてもらおうか『君たちは今回のライブ満足できたのかな?』」

「もちろんよ!」

 

 口火を切ったのは案の定ペグ子だ。間髪を入れぬ即答に、《HS DM》メンバーの何人かが少し驚いた表情になる。

 

「わたしは、いつも通り完璧に弦巻こころをやりきったわ! 『世界をハッピーにする』わたしたちの目的も、会場のお客さんたちの顔を見たら、それが達成できたんだってすぐに分かったわ! だから、わたしは今回のライブには大満足よ!」

 

 ペグ子の自信たっぷりな答えに、SAKIさんはまだ、その余裕の表情を崩さない。

 

「ふふっ、なるほどねぇ。でも、君たちの勝利条件は全員の満足だ。他のお嬢さんたちはどうかな?」

 

 彼女はそう言って、今度はペグ子の後ろの4人に水を向ける。

 

 勝利条件は全員の満足。

 

 みんながそれぞれに満足の物差しを持っている以上、全員の満足を同時に引き出すことは難しい。

 しかし、それでも俺にはこの勝負に勝てる確信めいた予感があった。

 

 だって、ライブの時の彼女たちはあんなにいい笑顔をしていたのだから。

 

「ふっ、じゃあ次は私がいかせてもらおうか」

 

 次にすっと一歩を踏み出したのは薫だ。

 

 薫はいつも通りの堂々たる立ち振舞いで《HS DM》と対峙する。いつもはキザに見える王子様らしさが、ここでは最高に場の雰囲気に合う。

 

「私も、こころ姫と同じで満足したよ。演劇とライブ、同じ舞台だと思っていたが、ライブがこんなにもエモーショナルで儚いものだとは思っていなかった。実際に体験して私の中の新しい扉が開いたよ。だから、間違いなく私は満足だ」

 

 言い切って薫はライブの感覚を噛み締めるように頷く。感受性の高い彼女を、今日のライブはステージに立つものとしての彼女のレベルを一つ上の領域へと運んだようである。

 

「はいはーい! 次ははぐみだよっ!」

 

 薫の横に今度は北沢さんが跳ねるように進み出る。

 

「はぐみも今日のライブはもうサイコー! はぐみもね、薫くんと同じでソフトボールで人前にたつのは慣れっこだと思ってたんだ。でもね、ソフトボールと違ってライブはお客さんの顔がすっごくよく見えるんだ! だから、はぐみの演奏を聴いてお客さんが笑ってくれるのを見て、はぐみ、まだ胸がぽかぽかしてるんだ!」

 

 北沢さんは言い終わると自分の胸の上にそっと手を置く。まるでそこに愛おしいものが宿っているかのように。

 

「じゃ、じゃあ、次は私が……」

 

 先の三人とは対象的に、おずおずと前に出たのは松原さんだ。

 

「えっと、《HS DM》の皆さんに先に謝っておきます、ごめんなさい!」

「んん?」

 

 松原さんの開幕早々の謝罪にSAKIさんが怪訝そうな声をあげる。松原さんは、顔を上げるとそんなSAKIさんを力強く見つめた。

 

「実は、私はもう今日のライブに出られた時点で満足していたんです。一度はドラムを諦めかけていた私が、全部捨ててしまおうとしていた私が。今日ここでこんなにもしっかりとドラムが叩けて、私を支えてくれるみんなと一緒に演奏ができて、そして、お客さんたちの心を動かすことができた。これで満足していないなんて言ったら、みんなに失礼です」

 

 松原さんはどうやら今日のライブで完璧に答えを掴んだようだ。おどおどした生来の気質は中々変わらないだろうが、それでもここにいる彼女はもう今までの彼女とは違う高みにいる。

 

「えー、それじゃあ最後はわたしですかねー?」

 

 トリを飾る奥沢さんは後頭部を手で掻きながら自然体で前に進み出る。

 

「えーっと、最初に言っておきたいのは、私はここにいる他のみんなと違って凡人です。楽器は弾けない、才能もない、そこら辺によくいるJKです。それを頭に置いた上で聞いてください」

 

 軽く前置きしてから奥沢さんが続ける。

 

「正直、実は私はライブが始まる寸前までずっと不安だった。私の中の弱い私がずっと『無理だよ』って囁いてた。でも、それが変わった。変えてくれたのはここにいる《ハロハピ》のみんな。私が作った拙い曲をみんなが最高に演奏してくれた。私を《ハロー、ハッピーワールド!》の一人として認めてくれた。もうそれだけで私は何も要りません」

 

 そこまで言って奥沢さんはしっかりと前を向く。その瞳に宿る輝きが、強い意志が、彼女が変わったことをはっきりと示していた。

 

「あ、あとミッシェルから伝言でーす。『今日のライブは大満足』だってさ」

 

 そして、ちゃんとミッシェルのフォローも忘れない。この辺りの気配りも含めて、奥沢さんはやっぱり奥沢さんだ。

 

 そして、奥沢さんが全てを話し終えたその時点で、今日の勝負が決着を迎えたことになる。

 

 俺はそれを確かめるためにずいっと前に足を運んだ。

 

 SAKIさんの前に立つとその瞳をまっすぐ見つめて口を開く。

 

「というわけだSAKIさん。これでわかったと思います。今日の勝負はーー」

 

 俺たち《ハロー、ハッピーワールド!》の勝ち。

 

 そう言う前にペグ子の口が動いた。

 

「ーーでも、やっぱり最高に満足したかと言われると、そうじゃないと思うの」

「………………へっ!?」

 

 おいおいおーい!? ちょっとこころさーん!? あなた一体何言ってくれちゃってんの!?

 

「ちょっ、おまっ……!」

 

 俺は慌ててペグ子の口を塞ごうとしたが、その前に今度は別の口から言葉が漏れる。

 

「ああ、残念なことに私も同感だよ。まさか、私の想いを込めたピックが他の子猫ちゃんのものになってしまうとはね。私もまだまだということがよくわかったよ」

「薫!?」

 

 ……え、なに、何なのこの流れ?

 

「実ははぐみも、もっと頑張れたかなーって。お客さんのことを見過ぎて、いっぱい演奏間違えちゃったし」

「そ、そんなことないよー……北沢さーん?」

 

 あ、北沢さん、自分でも気がついてたのね。でも、それって今ここで言うことなのかな? かなー?

 

「わ、私ももう少しみんなが走って行くのを引き留められたかなって思います……」

「ま、松原さん……」

 

 うわー、松原さんったら完璧に自分の壁を越えちゃって目標が高くなってるぅー! でも、タイミング最悪ぅー!

 

「私も、なんだかんだでみんなに助けられ過ぎましたし、ミッシェルも『一番ウケてたのが事故ってマネキンの頭部を粉砕した時だったから、まだまだかなー』って言ってましたよ」

「奥沢さん……ミッシェルの分まで……」

 

 あ、頭部粉砕(あれ)って狙ってやったわけじゃなかったのか。

 ……いや、そういうことじゃなくて。

 

 なんだろうな、すごく嫌な予感がするぞ?

 

 ひんやりとした倉庫の空気のなかで、俺は背中を一筋の汗が流れていくのをはっきりと感じていた。

 

「だから、勝負はわたしたちの負けよ。約束通り、鳴瀬はあなたたち《HS DM》に進呈するわ」

「あー、やっぱりそういう展開になるのね! いや、ちょっと待って、こk……うわっ!?」

「えーいっ!」

 

 俺が抗議の声をあげるその前に、ペグ子の手が俺の背中を押し出して、俺はつんのめるようにSAKIさんの方へと進んでしまう。

 

「わっ、わっ、わっぷ!?」

「おっと、大丈夫かい鳴瀬くん」

 

 慌てて転びそうになる俺を支えてくれたのはSAKIさんだった。柔らか感触が両頬を包む。

 

 こ、これは……おっぱい!?

 

 なんということか。転びそうになった俺はなんとSAKIさんの胸に顔を埋める形で彼女に支えられていた。SAKIさんの後ろからは「うひょー!」だとか「いいぞ、リーダー! もっとやれー!」なんて《HS DM》のメンバーが囃し立てる声が聞こえてくる。

 

 ああ、想像したよりもずっとやわらかい。それにいい匂い……じゃなくて! マズイですよ、これは!?

 

 一瞬、全てをSAKIさんに委ねそうになった俺は慌てて正気に戻る。頭を振って意識を覚醒させようかとも思ったが、今の状況でそれをしてしまうとSAKIさんの胸に顔を押し付けてぐりぐりする、まごうことなき変態になることに気が付いてすんでのところで踏み止まった。ナイス判断、俺。

 

 しかし、状況は依然として最悪。

 

 その証拠に、俺の背後からは《ハロハピ》のメンバーたちの発する怒気がどす黒いオーラとなって漂ってきている。

 ひんやりとしたはずのこの場所で、再び俺の背中を汗が流れた。

 

 そして、そんなことなどお構い無しといったといった様子でSAKIさんは「よしよし」と俺の頭を撫でる。背後のオーラが更に膨れ上がったのが見るまでもなく分かる。

 

 ひぇっ……、SAKIさん、わざとやってますよね?

 

 そんな恐怖に生まれたての小鹿のように震える俺の頭を撫でながら、SAKIさんはゆっくりと口を開く。

 

「それでは、約束通り、鳴瀬くんは私たちがいただいてしまっても構わないね?」

「さ、SAKIさん、それはちょっと……もがっ!?」

「鳴瀬くんは少し黙っていてくれたまえ」

 

 抗議の声を上げようとした俺の頭を更にSAKIさんが自分の胸に押し付ける。この状態で話すのは危険だと判断した俺は口を閉じて成り行きを見守ることしかできない。

 

「もちろんよ。 わたしたちに二言はないわ」

 

 ペグ子がSAKIさんの言葉を肯定する。

 

「ふふっ、そうか。では私が今からここで鳴瀬くんに何をしようとも文句はあるまいね?」

「くどいわ! 勝負はわたしたちの負け! あなたが鳴瀬に何をしようとも、それを止める権利はわたしたちには無いわ!」

 

 えっ、俺、一体これから何をされるの……?

 

 頼みの綱のリーダーであるペグ子があっさり引き下がってしまった現状、もはや他の《ハロハピ》メンバーからの援護は期待できそうもない。俺の運命はまさに俎板の鯉というやつだ。

 

「そうか、ならば好きにさせてもらおうか」

「わっ!……SAKIさん?」

 

 その言葉と共にSAKIさんが俺の肩を掴んで、自分の体から引き離す。腕一本分の距離で俺と彼女は見つめ合った。

 

「おー!? チューか? チューすんのか!?」

「うぉー、やれー! キッス、キッス!」

「やーん! 人前での初キッスなんてだいたーん!」

「いいなぁ、あこがれますねー」

 

 《HS DM》のメンバーが「キッス! キッス!」と囃し立てる中で、SAKIさんの瞳が潤んで熱を帯びていく。

 

 ダメだ。これ、本気でキスされるやつだわ。

 

 でも、それを避ける運命は、最早俺の手の中にはない。

 

 ああ、すまないみんな。俺はもうここまでのようだ。今までありがとう、ありがとう……

 

 走馬灯のように巡る《ハロハピ》の思い出に想いを馳せながら、俺はその瞬間が来るのを目を閉じて待つ。SAKIさんが「ふっ」と笑って、その顔を近づけてくるのが分かる。すでに吐息が顔にかかる距離に彼女の顔があるのを感じる。

 

 しかし。

 

「ありがとう、鳴瀬くん。またね」

「…………えっ」

 

 SAKIさんの唇が俺の唇に重ねられることはなく。

 

 彼女は俺の体にぴったりと寄り添うと、耳元でそう囁いた。

 それから俺の体をくるりと反対に回すと「えいっ」と今度はペグ子の方に俺のことを突き飛ばした。

 

「わ、わ、わっぷ!」

「鳴瀬!」

 

 再びバランスを崩した俺は今度はペグ子の胸にその顔を押し付ける形で抱き締められることになった。SAKIさんと比べてかなりささやかな大きさの胸が俺の顔に押し付けられる。

 しかし、ペグ子があまりにもガッチリと俺のことを抱き締めるので、俺は存分にその胸の柔らかさを堪能することになってしまった。

 

「こ、こころ、ぐ、ぐるじい……」

「これはどういうことなの?」

 

 あまりにきつく抱き締められて呼吸が怪しくなってきた俺の抗議の声を無視して、ペグ子がSAKIさんに問いかける。

 

「どうしたもこうしたも見たままさ。好きにしていいと言われたから『鳴瀬くんを君たちに返した(・・・・・・・・・・・・)』だけだよ」

「……! ……SAKIさん」

 

 SAKIさんの言葉でペグ子の拘束が弛んだ一瞬の隙を突き、その胸から抜け出した俺は彼女の方を見つめる。

 

「あなた……どうしてなの?」

 

 ペグ子はSAKIさんの真意を掴みかねているようで、探るような調子で彼女に問いかける。

 俺も彼女の真意は掴めていないので、大人しく彼女の次の言葉を待った。

 

「どうしたもこうしたもないさ。私もお前たちのライブを見て負けたって思ったんだよ。ハコは同じぐらい沸いてたけど、ほぼプロの私たちとほとんどルーキーのお前たちが同じなんじゃお話にならないからな」

 

 そう言ってSAKIさんはガリガリと自分の頭を掻いた。

 

「でも、勝負の内容は『わたしたちが満足したかどうか』でしょう?」

「そんなことはどうでもいいさ。要は私の心が勝ったと認めたかどうかなんだ。私は自分の心に嘘は吐きたくないんだ。だから、今回の勝負はノーゲーム、鳴瀬くんは元通り《ハロハピ》に戻るってことだ」

「……!」

 

 「たとえ売れなくても自分の心に正直にでいたいんだ」

 

 それはまだ、《HS DM》が《ハニースイート》の時にSAKIさんと交わした会話の中で彼女が言っていた言葉だ。彼女はまだ、自分の芯を貫き続けているんだ。

 

 そう思った瞬間、俺の目にはSAKIさんの姿が、とても尊いもののように見えた。

 

「あなた……わかったわ。あなたの言う通り鳴瀬は元通りわたしたちのものよ! もう、やっぱりやめたとか言っても返さないわよ!」

 

 そう言ってペグ子が俺の腕に自分の腕を絡めて引き寄せる。

 

「とーぜん。そんな無粋なことは言わないさ。それにーー」

 

 そこまで言って、SAKIさんはおどけた調子で首を竦めて、手のひらを上に向けた。

 

「鳴瀬くんは、なかなか女の子にモテるみたいだからね。私の方だけしか見てくれない男以外はお断りだ」

「へっ?」

「あら」

 

 そう言うと、SAKIさんはポンと俺の肩に手を置く。

 

「ということでお別れだ鳴瀬くん。まぁ、今回の勝負は引き分けだから、鳴瀬くんが一人になったときにはまた改めて迎えにこさせてもらうよ」

 

 そう言い残すと彼女は俺たち《ハロハピ》の横をすり抜けて通路の出口へと向かう。

 

「あらら、そいつは残念」

「鳴瀬、オレには個別に男を紹介してくれてもいいぞ!」

「あらRYOKAさん、はしたないですよ。さぁ、行きましょう」

「ざんねーん、でもまた機会はあるよね、鳴瀬くんまたねー!」

 

 《HS DM》のメンバーたちもそれに従って出口へと向かう。

 その背中に向かってペグ子は叫ぶ。

 

「残念だけど、次のチャンスが来ることは二度とないわよ! だって鳴瀬は私たち《ハロハピ》とずーっといっしょなんだもの!」

 

 SAKIさんはペグ子の言葉に振り返ることはなく、ただ軽く上げた右手をひらひらと振って俺たちの前から消えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その数ヶ月後に《HS DM》はメジャーデビュー。

 

 デビューシングルの《斬首八裂(キルシュヴァッサー)》はスマッシュヒットを飛ばし、他の曲も月9ドラマ等とのタイアップで人気を博して、翌年にはそれから5年連続となる紅白の出場も決めた。

 

 《HS DM》はその人気に陰りを見せることなく、メジャーデビュー8年後に、最後に残ったSAKIさんが彼女と同じミュージシャンの男性とゴールイン。全員の結婚により、《HS DM》公約通り元の《ハニースイート》へと戻った。

 

 それから2年ほど、昔の路線の曲をいくつかリリースした後に、メンバーの出産や育児が重なって《ハニースイート》は解散を発表した。

 

 彼女たちのきらめきは、ガールズバンドブームの黎明期を支えたバンドの一つとして、今でも日本のバンド史にその名を遺している。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 《HS DM》のメンバーがいなくなって、倉庫に静寂が訪れる。

 

 その静寂を破って俺は口を開く。

 

「ということで、俺は結局元のところに戻ってきた訳なんだけど……」

 

 そう言って《ハロー、ハッピーワールド!》のみんなを見回すと、みんなは黙って俺の言葉を待っている。

 

「みんなは、まだ、俺が《ハロハピ》のアドバイザーでも構わないか?」

 

 俺がそう確認すると、全員が笑顔で口を開いた。

 

「もちろんよ! 《ハロハピ》のアドバイザーは鳴瀬しかいないわ!」

「ふっ、今度投げるピックはMr.鳴瀬に受け取ってもらわないといけないからね」

「鳴瀬くんよりベースが上手い人は見たことないもんね! もっともーっとはぐみに色々教えてね鳴瀬くん!」

「わ、私ももっと鳴瀬さんから色々教わりたいです! 技術だけじゃなくて、精神的にももっと成長したいです!」

「ま、私としては《ハロハピ》の常識人枠として残ってもらうのは当然ですかねー?」

 

 その言葉を聞いて不覚にも目頭が熱くなる。

 

 ……なんだよ、みんな。めちゃくちゃ優しいじゃないか。

 

 少し上を向いて、迸りそうになる熱いそれを抑えると、俺は改めて一人一人《ハロハピ》のみんなを見る。

 

 大切な俺の仲間たちを。

 

「こころ」

「はい、鳴瀬!」

「薫」

「ああ、Mr.鳴瀬」

「北沢さん」

「はーい! 鳴瀬くん!」

「松原さん」

「はっ、はい! 鳴瀬さん!」

「奥沢さん」

「はいはーい、鳴瀬さん」

「これからもよろしく頼むよ」

「もちろん!」(×5)

 

 俺たちは大きな壁を一つ乗り越えて、また一つ大きく成長した。

 

 これから俺たちを待つ未来は楽しい(ハッピーな)ことばかりではないだろう。

 

 でも、この最高の仲間となら何があっても大丈夫だ。

 

 俺の元へと駆け寄ってくる笑顔に、そのことを俺は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

「……そういえば鳴瀬、あなたさっきSAKIの胸に顔を押し付けてたわよね。あれはわざとなの?」

「…………えっ?」

 

 ペグ子の言葉で和やかだった倉庫の中の空気が変わる。

 

「そういえば、確かにMr.鳴瀬は狙って彼女の、そ、その、胸に飛び込んでいたように見えたね」

「いや、そんなことないよ!」

 

 違う違う! つーか、恥ずかしがるぐらいなら「胸」とか言うなよ薫!

 

「もしかして、鳴瀬くんは大きなおっぱいの女の子がすきなの……?」

「ふぇぇぇ……な、鳴瀬さん、そうなんですか……?」

「だ、断じて違う! 二人とも信じてくれ!」

 

 北沢さんと松原さんが俺の顔と自分の胸を見比べて暗い表情になる。

 

「お二人とも、それは違いますって」

「……! 奥沢さん!」

 

 北沢さんと松原さんの肩に手を置いて、奥沢さんが首を左右に振る。

 

 おお、奥沢さん! すかさずフォローに入ってくれるなんて、やっぱり持つべきは常識人のなかmーー

 

「鳴瀬さんは、大きなおっぱいじゃなくて、とにかく女の子の胸が好きなんですよ。思い出してください、鳴瀬さんがこころのところに戻ったとき、鳴瀬さんがこころの胸にもダイブしていたことを」

「あっ!」

「そ、そういえば!」

 

 ーーうっほほーい!? 何でそんなこと言うの奥沢さん!? 俺たちの間にあった常識人同士の絆はどこに行ったの?

 

「違う! あれも偶然! 偶然です!」

「で、でも鳴瀬くんさっきからはぐみたちのおっぱいチラチラ見てる……」

「ふえっ!?」

 

 北沢さんと松原さんが頬を真っ赤にして、恥ずかしそうに腕で胸元を隠す。

 

 北沢さん……そんな表情をすることもあるのか……じゃなくて。

 

「いやいやいや、だって、胸の話なんかされたら気にするなって方が無理だからね!?」

「あら、そうだったのね鳴瀬! 鳴瀬はおっぱいが好きなのね!」

「だから、ちげーよ!」

 

 ああ、もう! 今はこれ以上引っ掻き回さないでくれペグ子ぉ!

 

 しかし、そんな俺の心の叫びも虚しく、ペグ子は更なる爆弾を投下していく。

 

「じゃあ、鳴瀬! わたしとSAKIのおっぱいのどちらがよかったかしら!」

「はぁ!? 何言ってんのペ……こころ!?」

 

 危うくまた「ペグ子」と言いそうになったのをすんでのところで飲み込んだが、それで事態が好転することもなく。

 

「だって、鳴瀬はわたしのおっぱいにもSAKIのおっぱいにも顔を押し付けたでしょう? 条件は同じなのだからどちらが好きなのか答えられるはずよ!」

「いや、そんな無茶な……」

 

 確かに条件は同じなのだろうが、何が悲しくて年下の女の子の前で自分の好みの胸の話をしないといけないのか。

 

「確かにそれは私も後学のために聞いておきたいね、Mr.鳴瀬?」

「か、薫まで……」

 

 くそぅ、こんなところまで好奇心を発揮しなくてもいいんだよ! 大人しく名言だけに興味を持っててくれ!

 

「はぐみも聞きたーい! 鳴瀬くんはどっちのおっぱいが好きなの? あ、答えにくいならはぐみたちの中で誰のおっぱいが好きかでもいいよ!」

 

 いや、そっちの方がもっと答えにくいわ!

 

「わ、わたっ、私たちの、お、おっ、ふぇぇぇ!?」

「あー、なるほどねぇ。確かにそれちょっと聞いてみたいかも」

 

 松原さん、君はそのままの貞淑な君でいてね。

 そして、ブルータス(おくさわさん)お前もか。つーか、明らかに悪ノリしてるよな? な?

 

「ねぇ、どっちなの鳴瀬! それか誰なの鳴瀬!」

「本当のところはどうなんだいMr.鳴瀬?」

「早く教えてよ、鳴瀬くーん!」

「ふぇぇぇ……」

「鳴瀬さーん、そこのところどうなんですかー?」

「…………それは」

「それは~?」(×5)

「これが答えだっ!」

 

 言うや否や、俺はみんなの横をすり抜けて倉庫の出口から飛び出した。

 

 《HS DM》が出ていった時に、扉が半開きだったことは確認済みよ、ふはははは! アディオス、セニョリータ!

 

「あっ、逃げた! 待てー!!」(×5)

 

 その後、超人的な身体能力を見せたペグ子と、驚異的な連携を披露した《ハロハピ》、そして、ペグ子の指示で動いた黒服の人たちの手によって、俺は《STAR DUST》を飛び出して数十メートルも走らない内に捕獲された。

 

 その後、ライブの打ち上げ会場につくまでの俺の記憶は定かではない。道中、彼女たちに何かすごく大変なことを口にさせられたような気もする。

 

 しかし、俺がそれを思い出すことは永久にないだろう。

 

 

 

 

 あーあー! 覚えてなーい! 何も覚えてないでーす!

 

 

 

 

《初ライブ編・完》




はい、ということで初ライブ編でしたー!

わたくし、くう疲でございましてよ?

取りあえず、当初は基本エンドのみを想定してたので《ハロハピ》メンバーが最後に駆け寄ってくるシーンで終わる予定だったのですが、恋愛エンドありになったので最後にシーンを付け足しました! ラブコメ重点な!

そして、《HS DM》のお話はここでおしまいです!

SAKIさんのお相手は見知らぬ誰かなのか、それとも鳴瀬君を連れ去ったのか、それはまた別のお話。


次の話は次章に繋がっていく話で《ハロハピ》メンバーは出ない鳴瀬君メインのお話になります。少し毛色の違うお話になりますが、よろしければお付き合い下さい。


そして、これで一章が終わったということで、ご意見・ご感想、よろしければご評価等もいただけると幸いです。

「よかった……次に………活かせる…………(死)」と、某海王のように大いに参考と励みにになりますので、どうかよろしくお願いいたします!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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