野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
水着回後編!

アンケートご協力ありがとうございました!

というわけで、鳴瀬君と一緒にウォータースライダーを楽しむことになったお相手はペグ子でーす!

やっぱりペグ子は強かった!

以前の前書きで複数ルートやるかもと言いましたが、今回はペグ子のみに絞りました。その理由は後書きに書かせてもらってます。

そして、ウォータースライダー前の前半は水鉄砲バトルです。

前後半ともに、ToLoveる重点な展開があります!

この作品にワイセツは一切ない。いいね? アッ、ハイ。

とにかく、今は本編をどうぞ!

【ペグ子のサイドストーリーについて】
ペグ子のサイドストーリーのアンケートを開始しました。
実は全員のサイドストーリーの構想は、現時点でメンバーそれぞれ二つずつ用意してあります。

ただし、時間の関係で選べるのは一人につき1ルートです。

なのでどっちがいいかご意見ください。アンケートは字数制限であまりルートの特徴が詳しくかけないのでここに書きます。

①ペグ子お誕生会ルート。鳴瀬君たちがペグ子のお誕生会にお呼ばれするお話。ほとんどオリキャラのペグ子の家族も出す予定。ラブコメに良くある外堀を埋められる系主人公的な王道展開。

②ペグ子お買い物ルート。偶然オフになったペグ子と鳴瀬君が町に買い物に繰り出すお話。ペグ子のとんでもない価値観に鳴瀬君が振り回されつづけるギャグ寄りの話。

このどちらかをやるので見たいと思った話に投票お願いいたします。


野良ベーシストはどちらかというと山派である(後編)

 照りつける夏の日差しで乾いた風が俺たち二人の間を駆け抜ける。

 

「……こころ、お前とはいずれはこうなる運命だと思っていたぜ」

 

 俺は流れる熱い風を射抜くような鋭い眼差しで、目の前約15メートルほどの距離で対峙しているペグ子を睨む。

 

 ペグ子はそんな俺の視線に曝されながらも余裕の表情を崩さない。

 

「あら、私は少し意外だったわよ鳴瀬。あなたは手を抜いてもっと早く退場すると思っていたもの」

「抜かせ。お前が敵なら話は別だ。お前を倒せるならタダでも喜んでやるぜ」

「ふふっ、それじゃあやる気は十分ということね!」

 

 俺を見てペグ子が不敵に笑う。

 

 天使のような悪魔の笑顔とはまさにこのことか。

 

 こんな笑顔が町に溢れ始めたら、早晩その町はソドムの市と化すだろう。なんとしてもここで俺が食い止めなくてはならない。

 

「負けて吠え面かくなよ、こころ」

「あら、わたしには膝から地面に崩れ落ちる鳴瀬の姿が見えるわ」

「ふっ……」

「ふふっ……」

 

「「ふはーっはっはっはっ! しねぇ!!!」」

 

 大声で笑い合った俺たちはまったく同じタイミングで手に持った水鉄砲(・・・)を抜いて撃ち合った。

 

 ここは「トコナッツパーク」のアトラクションの一つ「ウォーターウエスタン」、水鉄砲によるサバイバルゲームが楽しめる人気スポットだ。

 

 現在は《FREE FOR ALL(なんでもあり)》という参加者全員が敵のルールでゲームが行われている。《ハロハピ》の5名と他の参加者を含めて計40名が互いに潰し合うことになった修羅の巷は、既に終局を迎えつつあり、生き残りは現在7名。しかもその内の4名は俺を含めた《ハロハピ》メンバーだ。

 

 生き残っているハロハピのメンバーはペグ子を筆頭に、薫、北沢さんの三人。松原さんは開始後初めての犠牲者となって早々に退場し、奥沢さんはスナイパースタイルで高台からの狙撃に徹していたところ、ペグ子の水風船グレネードの直撃を食らって、残り半数ほどであえなく退場となった。

 

 そして、《ハロハピ》以外の3人なのだが、実は俺には見覚えがあった。

 

 ……どう考えてもあの3人、ペグ子のお付きの黒服の人なんだよなぁ。

 

 そう、なんと《ハロハピ》以外で生き残っている残りの三人は、こころの側にいつも付き従っていたレギュラー黒服の三人なのだ。あの三人はよく顔を合わせるので、黒服の人たちの中でも間違いようがない。

 

 つまり、このサバイバルゲームの参加者は現在100%俺たちの身内! 負ける訳にはいかない!

 

 ペグ子の射撃をカバーポイントに滑り込んで避けながら俺は決意を新たにする。

 

 イイゾー! ニイチャンマケルナヨー! ガンバレー!

 

 そして、そんな俺の活躍に場外から声援が飛ぶ。

 

 実はこのサバイバルゲーム、優勝者を予想するゲームに誰でも無料参加が可能で、もし予想が当たればフードコートの無料券などが進呈されるシステムなのだ。

 アトラクション内の様子はモニターなどで外部に流れており、泳ぐのに疲れた客たちなどでゲームの外はかなりの盛況である。

 

 俺は現在生き残った7人の中では唯一の男ということもあって、割と熱い声援をもらっている。

 

 俺は勝つ! 万が一負けるにしてもペグ子よりは後に負ける!

 

 恐らく、この機会を逃すと俺がペグ子に勝てるチャンスは一生来ない。その確信が俺を勝利へと突き動かしていた。

 

「さて、ここからどう攻めようか?」

 

 呟いて俺は手元の水鉄砲に視線を落とす。

 

 俺の水鉄砲はオーソドックスなライフルタイプ。平均的な射程と、平均的な容量の水が入るバランス型だ。

 

 しかし、この水鉄砲、どうやら現実のライフルの三点バースト機能が再現されているようで、無駄に水を垂れ流しにくく容量以上に弾が続くように設計されている。

 

 水の補給中はまったくの無防備になるこのゲームで、無駄が少ないというのは大きなアドバンテージだ。

 

 一方、ペグ子は体格に似合わずライトマシンガンのような巨大な水鉄砲をぶん回している。分隊支援火器でもあるそれをモチーフにした水鉄砲は、射程と威力、連射性に優れるも、その分弾切れが早いのと小回りが効かないデメリットを抱える。

 

 しかし、ペグ子は野生的な直感で、危険な水の補給を3回も成功させており、参加者が減った今ではほぼノーリスクで補給ができるため、最早そちらはデメリットとして機能していない。

 

 ……故にペグ子相手に直線的な戦いは不利。カバーポイントをジグザグに渡り歩いて接近、回り込んで倒す!

 

 そう考えて俺がペグ子の位置を確認するため頭を出したその瞬間。

 

「あー! 鳴瀬くんみーっけ!」

「げ! 北沢さん!?」

 

 なんと獲物を求めて徘徊していた北沢さんと目が合ってしまう。

 

 北沢さんの装備はショットガンタイプだ。射程距離は極端に短いが、面で相手を制圧できる強みがあり、弾もそこそこの回数はもつ。

 彼女はそれを水で滑る床をスライディングすることによって使いこなし、遠距離や物陰からスライディングで滑り込みながら、射線が通った一瞬で相手を撃ち抜く戦法で既に4人を葬り去っている。

 

 できれば最後まで当たりたくなかった相手だったのだが、まさかここで出会うとは!

 

「いっくよー、鳴瀬くーん!」

「くそっ、やるだけやるしかってやつか!」

 

 叫びながら北沢さんが駆け出してくる。ソフトボールのベースランで鍛えられた彼女を、走っている途中で捉えるのはほぼ不可能だ。

 

 撃てるのはお互いが交錯する一瞬のみ!

 

「おりゃー!」

「来い、北沢さん!」

 

 北沢さんがスライディングを始める。俺はそれを迎え撃つ。カバーポイントを北沢さんが通り抜ける。お互いの姿が遮蔽物なしで曝されたその瞬間。

 

「え!?」

「残念だったな北沢さん!」

 

 北沢さんの目が驚きで見開かれ、その口から驚きの叫びが漏れる。

 

 北沢さんの銃口の先に俺の姿はなかった。なぜなら俺はカバーポイントの壁とその後ろの壁を足場にして、地面から離れ空中で銃を構えていたのだ。

 人間は地面からは離れられないという思い込みを利用した俺の作戦はガッチリとはまっていた。

 

 しかし、北沢さんもさるもので、とっさに銃を滑らせて予想よりも上に射た俺を狙い撃つ。

 

「鳴瀬くん!」

「北沢さん!」

 

 叫びながら互いの銃口が水を吹く。そしてーー

 

「ーー24番の方、脱落です。退場してください」

 

 やられた方の番号がコールされる。その番号の主はーー

 

「あちゃー、はぐみ、負けちゃった!」

 

 ーー北沢さんだった。彼女の銃口はあと一歩届かなかったのだ。

 

「いい勝負だったよ北沢さん」

 

 俺が北沢さんを称賛すると、彼女は満面の笑みで答える。

 

「そうだね! 鳴瀬くん、頑張ってね!」

「おう!」

 

 手を振り退場する北沢さんを眺めながら思う。

 

 マジでいい、ギリギリの勝負だった……。俺が、両足の的を失うほどに……。

 

 俺が見下ろす足元では、脛につけられたプロテクターのような的が水を当てられ赤く変色していた。

 

 このサバイバルゲーム、頭と胴体に着けた的に当てられると一発アウトなのだが、その他にも腕と両足に合わせて4つの的があるのだ。

 これらの的は、時間切れの時に多く残っている方が勝ちという優勢判定に使われる。

 

 そして、俺はその内の二つを今失ったということだ。

 

 ……これは、嫌な展開だぞ。ペグ子の的はまだ無傷だ。ペグ子の性格上、遅延戦闘はしないと思うが、普通に時間切れになったら俺が負ける!

 

 これでこちらから積極的に攻める必要が生まれた俺は頭を抱える。この局面で取れる戦術の幅が狭くなるのはきつい。

 

 そんなことを考えているとーー

 

「38、39、40番の方脱落です。退場してください」

「なっ!?」

 

 無慈悲なアナウンスが流れ、三人の脱落がコールされる。

 

 連番ということはつまり、やられたのは黒服の三人で間違いないだろう。

 

「ペグ子がやったのか? それとも薫が?」

 

 ペグ子が相手ならいくらオフとはいえ黒服も忖度するだろうが、薫がやったという可能性も十分にある。

 何せどちらも最後の3人に残った実力者だ。どちらがが何をやってもおかしくはない。

 

 んー、薫とはまだ交戦したことがないから、できればペグ子と潰し合ってもらって生き残った方と決戦したいんだが……っ!?

 

「くぉっ!?」

 

 一瞬、俺に差していた陽光が陰ったことに気づいて、反射的にカバーポイントから転がるように飛び出す。

 

 結果としてこの判断が俺の命を救った。先程まで俺の頭や体があった場所を幾筋もの水の奔流が駆け抜けていく。

 

「ああ、Mr.鳴瀬はこれを避けるか。できれば苦しむ暇も与えずに倒したかったものだが」

「……っ! 薫か!」

 

 俺の視線の先にはハンドガンタイプの水鉄砲を構える薫の姿があった。

 

 ハンドガンタイプの水鉄砲は低射程、低精度、低容量のダメダメ三拍子が揃った武器だ。

 ただしその代わりに、通常一個しか持ち込めない水鉄砲の縛りをハンドガンだけは無視してもいいことになっている。

 

 現に俺の目の前の薫は、両手に一丁ずつの二刀流な上に腕と足の的に付いたホルスターにも一丁ずつの計6丁を持ち込んで容量不足も補っている。

 両手に持つことにより、カバーポイントの左右から覗き込んで撃てる、挟まれたときでも両方の相手を牽制できるというメリットが生まれる。

 しかし、それでもなおハンドガンのパワーの低さはいかんともしがたいのだが、それでもここまで生き残ったのは薫の力量ゆえか。

 

「……ハンドガンのような貧弱な武器でよくここまで生き残ったじゃないか、薫」

 

 俺の称賛の言葉に薫が頷く。

 

「ああ、私が水鉄砲を構えて決めポーズを取ったら、子猫ちゃんたちはその姿に感動して、目の前で固まってくれたからね。倒すのは容易かったさ」

 

 ……それ、銃の腕関係ないじゃん!

 

 ここでも相変わらずのイケメンぶりを発揮している薫に俺は溜め息を吐いてしまう。

 

 最後まで生き残った黒服の人たちを倒したのも恐らく薫だろう。多分出会い頭の彼女の決めポーズで硬直したところを一網打尽にされたのだ。

 

「ふふっ、しかし、男性に関しては全て実力で討ち取った。君もこれからその一人になるさ、Mr.鳴瀬!」

「……! そいつはどうかな!」

 

 その言葉のやり取りを最後に銃撃の応酬が始まった。

 

 腰だめでライフルを撃った俺の水流の弾を、薫は横っ飛びで回避、回避動作の途中で俺に両手のハンドガンで射撃を叩き込む。

 

「ちっ!」

 

 低い位置から俺に迫るそれを、俺は転がって避ける。

 

 一見、低い位置からの射撃を避けるのに転がるのは適していないように思うかもしれないが、跳んで避けるのは悪手だ。人間は跳んでいるときには動きを変えられない。着地の硬直などに射撃を合わされると間違いなくやられる。

 

 転がった勢いはそのままに、俺は目の前の腰の高さぐらいの小さなカバーポイントに滑り込む。

 薫の飛び込んだ先も同じような大きさのカバーポイントだ。

 

 お互いが腰の高さのカバーポイントに隠れることになり、俺はカバーポイントから上体を晒してライフルを構える。

 

 左右と上のどちらからでも気軽に攻撃ができる薫に対して、俺はライフルを抱えては咄嗟に動けない。

 上体を晒すリスクを負ってでも、ここは広い視野を確保して薫の動きへの反応を早めることを選ぶ。

 

 ……さぁ、どう出る、薫?

 

 戦場にわずかな時の淀みが生まれた次の瞬間、カバーポイントの右から薫のハンドガンが飛び出す。

 

 右か!

 

 咄嗟に左へと体をずらす俺。しかし、その俺を待っていたのはカバーポイントの上から遅れて飛び出したもう一つのハンドガンだった。

 

 ……っ、時間差か! 右の銃は俺の動きを縛る囮! 本命は上から出した二丁目のハンドガンの方だ!

 

 俺は薫の強かさに驚愕する。この重要な局面でここまで大胆な戦術を取れるものかと。

 

 銃口は間違いなく正確に俺を狙っている。このままでは間違いなくやられる。

 

 なら、俺がとるべきはーー

 

「ーーくそっ、腕一本持っていけ!」

 

 俺は無理やり体を捻ると左腕を射線に割り込ませる。腕へのヒットはそちらの腕が射撃に使えなくなるというペナルティがある。それを負ったとしても回避にはこれしかなかった。

 

 薫のハンドガンから放たれた水流が左腕に当たる。腕の的の色が変わってこれで左腕は射撃には使用不可だ。

 

「くぉらぁ!」

「むっ!?」

 

 俺は体を捻った勢いのまま、カバーポイントの上を乗り越えて薫に肉薄する。銃の位置関係からして薫は今、地面に伏せているのに近い体勢のはずだ。すぐには起きて対応できない。

 

 だから、俺は薫の隠れたカバーポイントを走り高跳びのロールの要領で飛び越えながら、地面に伏せた薫を撃つ!

 

 薫の迎撃体勢が整ったり、俺が射撃を外せば相討ちか俺の負け。捨て身の特攻だが、活路はここにしかない。

 

「だぁぁぁぁぁ!!」

「くっ!」

 

 カバーポイントをロールで巻き込むように乗り越えながら右手の銃を構える。

 

 頼む、策よはまってくれ!

 

 祈りながら壁を越える。

 

 果たして、俺の予想通り薫はまだ床に伏せたままこちらを向く動作を始めたばかりだった。

 

「Mr.鳴瀬!」

「薫!」

 

 お互いに名前を叫びながら水鉄砲を撃つ。

 

 互いの手から放たれた水流は、薫のそれは俺の頬の横をすり抜け、俺のそれは薫の胸の中央を狙い違わす撃ち抜いていた。

 

「18番の方、脱落です。速やかに退場してください」

 

 薫の着けた番号がアナウンスされる。勝負ありだ。

 

「ふっ、負けたよMr.鳴瀬!」

 

 薫が立ち上がって俺のことを褒め称える。俺はロールの勢いで床を転がったので、少し遅れてゆっくりと立ち上がる。

 

「いや、お前もなかなかの腕……あっ」

 

 立ち上がって薫の方を向いて称賛の言葉を投げかけようとして、気付く。

 

 げぇーー!? 薫のビキニの紐がほどけかかってる!?

 

 フロントで紐を結ぶタイプの彼女のビキニは先程までの激しい動きと、俺の銃撃を受けたことによって今にもその役目を放棄しそうだ。

 

 先ほど言ったように、このアトラクションは外の観客席に映像中継されている。このまま彼女の水着がほどければ、その美しき双丘が惜しげもなく衆目に曝されるのは想像に難くない。

 

「ん、どうしたのかねMr.鳴瀬?」

 

 しかも薫は全くそのことに気づいていない。しかも俺を気遣ってこちらに上体を傾けたせいで、最後の砦の崩壊が始まる。

 

 そこからの俺の判断は、先ほどの銃撃戦の比ではない速さだった。

 

「薫! 胸!」

 

 必要最低限の言葉だけを発して俺は水鉄砲を捨てる。

 

「えっ……きゃあああ!?」

 

 俺の言葉で薫の口から可愛らしい悲鳴が零れる。その瞬間にビキニの紐が完全にその役目を放棄した。

 

 南無三!

 

 俺はそのまま薫に飛びかかかると、彼女の体を床に押し倒した。アトラクションの床は安全に配慮して少し弾力があるので怪我の心配もない。

 

 地面に転がり至近距離で見つめ合う俺と薫。

 

「薫、もう大丈夫だぞ」

 

 カメラワークの関係で、この配置なら映るのは俺の背中だけだ。俺が背中でカバーしている間に薫は水着を直せばいい。

 

 しかし、薫は俺の下で頬を赤く染めて惚けたように動かない。

 

 おいおい、何をちんたらしてるんだよ。

 

 いくら安全が確保してされたからといってもこの体勢はあまりよろしいとは言えない。彼女には早く水着を直してもらわねば困る。

 

 それにこうしている間にも本丸のペグ子が俺に迫っているかもしれないのだ。事態は急を要する。

 

「薫、早く水着を直してくれ。でないとーー」

 

 俺が言葉を言い終える前に薫の口が開く。

 

「な、鳴瀬くん。そ、その、君の手が私の胸をだね」

「ーー胸? だからその胸をだな…………Oh…………」

 

 そこまで言って気付いた。

 

 薫を押し倒したその瞬間。

 

 俺の両手が彼女の生乳を鷲掴みにしていることに。

 

 あー、そりゃ、水着を直すのなんて無理だな。

 

 だって俺の両手が胸を掴んでて邪魔だもんな!

 

 ワーッハッハッハ!

 

「うわー!?」

「な、鳴瀬くん! あんまり強く触らないで!?」

「あっ、その、ごめっ!」

 

 あまりにも衝撃的な最悪の事態に、パニックに陥る俺と薫。

 

 しかし、弱り目に祟り目とはよく言ったもので。

 

「さぁ、水もたっぷり補充したし準備万端よ! 鳴瀬! いよいよ私たちの決着を付けるときがきたわ……よ……」

「こ、こころ……」

 

 他で戦闘が起こっている隙に水を満タンに補充したペグ子が最悪のタイミングで帰ってきた。

 

 事の成り行きを知らなければ、今のこの状況は、俺が薫を襲って床に押し倒して、嫌がる薫の胸を無理やり揉んでいるようにしか見えない。

 

 ま、まずい! な、何か弁明を……

 

「……あの、こころさん。ちょっt」 

「鳴瀬の変態ーー!!」

「ぶへぇ!?」

「な、鳴瀬くん!?」

 

 弁明の言葉を口にすることも許されぬまま、水をパンパンに溜め込んだペグ子の水鉄砲が、俺の顔面に向かって全力投球された。

 未だに薫の乳を両手で掴んでいた俺にそれを防ぐ術はなく、重さ3kgはありそうなそれを甘んじて俺は頭部に受けた。

 

「1番、銃を投げての攻撃は反則です。失格による退場となります。よってこの勝負、勝者は22番の彼です! おめでとうございます!」

 

 薄れゆく意識の中で、俺は願い通りに自分の番号が勝者としてコールされるのを聞いていた。

 

 ……もう、本当に、どうでもいいです。ガクッ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ゛あ゛~、ひどい目にあった……」

 

 「ウォーターウエスタン」での決斗からおおよそ一時間。

 あれから暫く変な方向を向いたまま固まっていた俺の首も、ようやく元の動きをするようになった。

 

「鳴瀬もう怪我は大丈夫なのね! さっきはごめんなさいね、でも、あれは鳴瀬も悪いわよ」

「俺、一ミリも悪くねーし!」

 

 俺の体調を気遣いながらも、俺を悪者にしようとするペグ子に俺は思わず抗議する。

 

「えー、はぐみもあれは鳴瀬くんも悪いと思うなー」

「そ、そうですよ。鳴瀬さんにももっと気を付けていただかないと……。薫さんも女の子なんですから」

「鳴瀬さんはもっとバンド以外のことへのリテラシーを高めないと、いつかこれ以上のポカをやりますよ?」

「えぇ……俺が悪い流れなの?」

 

 り、理不尽!

 

 唯一、薫だけが「いや、Mr.鳴瀬は悪くないんだよ」とフォローに回ってくれたが、いつもの堂々とした振る舞いは鳴りを潜めて、消え入りそうな声で呟いたので焼け石に水だった。

 

 そして、それを見た他の《ハロハピ》メンバーがまた俺を口撃するというサイクルが暫く続いたのであった。

 

 ……やっぱ、つれぇわ。

 

 そして、そんな俺への風当たりが幾分かましになった時、おもむろにペグ子が口を開いた。

 

「それじゃあ、いよいよ本日のメインイベント、ウォータースライダーに行きましょう!」

「あー、確かにもうそろそろ閉園時間だもんなー」

 

 「ウォーターウエスタン」のアトラクションで、かなりの時間を食った上に、終了後にも俺が回復するまで時間を費やしたので、空はもう西日が差す時間だ。

 

 「トコナッツパーク」のウォータースライダーはそのバリエーションに応じて5本ものコースを抱え、一本辺りのコースの長さも長く、リピーターが多いため結構な時間を食う人気アトラクションという位置づけだ。

 

 恐らく、みんなが後一回乗ったら帰るには丁度良い時間となるだろう。

 

「わーい! 待ってましたー!」

 

 来る前からウォータースライダーが第一希望の北沢さんがはしゃぐ。

 

「あれ、はぐみさん、もう何度もウォータースライダーに行ってませんでした?」

「そうだよー。でも、良いものは何度行っても楽しいし、みんなと一緒に行くのがいいんだよ!」

 

 奥沢さんの言葉に北沢さんが拳を握りしめて力説する。

 

「確かに、私も流れるプールでなら、いつまでも浮き輪で流れていられると思う……」

「花音先輩、実際流れすぎて指先ふやけてましたもんね」

「ふぇぇぇ……」

 

 今度は奥沢さんの指摘で松原さんが照れる。

 

「とにかく、そろそろスライダーに向かおう」

「そうね! でもその前にーー」

 

 ペグ子が俺の言葉に同調しながら、持ち込んだ手提げ鞄の中からあるものを取り出す。

 

「ーー誰が一緒のボートに乗るかくじで決めましょう!」

「ああ、なるほど」

 

 ウォータースライダーには大別して、個人が身一つで滑るタイプと、ゴムボートに乗り込んで滑るタイプの二種類が存在する。

 

 ここ「トコナッツパーク」では後者が採用されており、定員は2人乗りだ。ゆえに俺と、5人の内の誰か1人が1人乗りで、残りがペアを組んで乗ることになるわけだ。

 

「んじゃ、早くくじを引いてくれよ。俺は先に行って並んでおくから」

 

 そう言ってスライダーに向かおうとした俺の肩をペグ子がガッチリと掴む。

 

「何を言ってるの、鳴瀬? あなたもくじを引いて誰かと一緒に乗るのよ!」

「はい~!?」

 

 いや、流石にそれはない。ないから。

 

 そう言って断ろうとしたが、他の《ハロハピ》メンバーの顔を見ると、みんな「仲間だから当然でしょ?」みたいな顔をしている。

 

 えっ? なにそれ? また俺がおかしいの?

 

 戸惑いを隠せないまま、俺はペグ子によって彼女の手の中のくじの棒を握らされる。

 

「くじには番号が書いてあるから同じ番号の人と乗るのよ! それじゃあいくわよ!」

「せーの!」(×5)

 

 みんなが気合いを入れて勢いよくくじを引き抜く瞬間、俺はできるだけ無難な相手がいいなぁと他人事のように考えながらゆっくりとくじを引き抜いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「んー! もう少しで一番てっぺんのスタート地点よ! 楽しみね、鳴瀬!」

「おー、そーだなー(棒)」

 

 くじ引きの結果はご覧の有り様である。

 

 よりにもよって、絶対にペアになってはいけない人物筆頭のペグ子が俺と同じ3番のくじを引いていた。

 

 他の四人もペアを組んだようだが、誰と誰がペアになったのかは衝撃が強すぎたため記憶が定かではない。

 

 ペグ子と同じ番号だと分かった瞬間、俺の記憶は曖昧となり、気付いたときには既にウォータースライダーのスタート地点への階段を半ばまで登った頃だった。

 

「ようこそ、『トコナッツパーク』自慢のウォータースライダーへ!」

 

 てっぺんに辿り着いた俺たちを、競泳水着にサンバイザー姿の係員が笑顔で迎える。

 

「こちらのウォータースライダーはゴムボートに最大2名で乗って滑ることになります。お二人は一緒のボートでよろしいですね?」

「はーい!」

「そうみたいですねー」

 

 ここでゴネて別のボートに乗ることもできるのだろうが、そうすると下に着いたときに《ハロハピ》のメンバーたちからぼこぼこにされることは目に見えていたのでしぶしぶ肯定する。

 

 係員も俺たちの温度差には気付いているのだろうが、あくまでもその営業スマイルを絶やさない。見事なプロ根性だ。

 

「はい、それではコースのご説明です。『トコナッツパーク』のウォータースライダーのコースは全部で5つあります。内2つが動きの激しい全面チューブ張りのコース、2つが危険なコーナーだけチューブ張りのコース。残る1つが全面オープントップのパーク周遊コースになります」

 

 係員の説明に、ペグ子と俺は顔を見合わせて頷く。

 

「「もちろん」」

「全面チューブの一番激しいコースで!」

「オープントップのゆったり周遊でお願いします」

「なんでよ鳴瀬!?」

「自分の胸に手を当てて考えろよ!?」

 

 最初の「もちろん」以外一切発言が被らなかった俺たちは、お互いにツッコミを入れ合う。

 

「「なんで(だ)よ!?」」

「折角スライダーに乗るのよ? 一番激しいコースが楽しいに決まってるじゃないの!」

「バカか! 一番激しいコースなんか選んだら、スライダーの出口から出る前に俺は死んでるんだよ!」

「死なないわよ!」

「死ぬって!」

 

 互いに一歩も退かず、ギャーギャーと言葉のドッヂボールを繰り広げる俺たちに、何かを察した係員さんがその間に割って入る。

 

「まぁまぁ、お兄さん。ここは年長者のあなたが妹さんを立ててあげてはいかがですか?」

「いや、こいつ妹じゃないんで」

 

 「ペグ子が妹」という恐ろしい発言をする係員さんに、俺は真顔で否定の返事をする。

 もし仮に、こいつがおれの妹だったなら、恐らく俺はこの歳になる前にもう墓の中でおねんねしているだろう。死因はもちろんストレスによる心労だ。

 

 そして、ペグ子もそんな俺に同調して首を縦に振る。

 

「そうよ、私と鳴瀬は兄妹じゃないわ!」

「あら、それは失礼しました。ということは……」

 

 係員さんは右手の人差し指を顎に添えて、暫し考えるポーズを取る。その後、何かに気付いたようにハッとした表情になってから、笑顔で再び俺の加尾を見る。

 

「もう、ダメですよお兄さん。折角年下の可愛い彼女を捕まえたんだから、少しのワガママぐらいは多めに見てあげないと。そんなことじゃいつか逃げられちゃいますよー?」

「ちっがーう! カップルでもねーし! というか、俺が逃げてるのにこっちが追ってくるの!」

 

 先ほど以上に恐ろしい係員さんの発言に、思わずなりふり構わない全力のツッコミをしてしまう。

 

 ペグ子の彼氏? 俺が? 前世でどんな悪行をしたらそんなこの世のあらゆる拷問の一番苦しいところのエッセンスばかりを詰め込んだみたいな罰を受けるんだよ!

 

 しかし、恐ろしいことに係員さんの発言にペグ子は意外にもまんざらでもない表情をしている。

 

「やーん! わたしたちカップルに見えるみたいよ、鳴瀬! これはそれだけわたしたちの仲が良さそうに見えるってことよね!」

「お前、今の係員さんの言葉は『兄妹』の後の妥協案ってことを忘れんなよ?」

 

 ペグ子に釘を刺しつつ、俺は苦い表情で後頭部を掻く。

 

「とにかく、俺とこいつはただのバンド仲間ですよ。だから、コースについて譲る気は更々ないです」

「そうですかー。でしたらもう、じゃんけんで公平に行くしかないですね。丁度お兄さんたちのボートも上がってきたことですし」

 

 そう言う係員さんの横に、ベルトコンベアで運び上げられたゴムボートが到着する。

 

 運命は自分で切り開くのが信条の俺は、運命を天に委ねるのは癪だが、ここは贅沢を言ってはいられない。

 

「しゃーないか。こころぉ! じゃんけんだ!」

 

 力強い俺の叫びに、自信満々といった顔でペグ子が頷く。

 

「ええ、分かったわ、鳴瀬! 一回勝負よね!」

「もちろんだ! いいか、俺はグーを出すぞ!」

 

 意味はないかもしれないが、とりあえず心理戦をしかけてみる俺。

 

「なら、私がパーで勝つわ!」

 

 そして、それに対して特に考えもなく即答するペグ子。

 

「「せーの、じゃーんけーん……」」

「「ポン!」」

 

 こうして運命を決めるじゃんけんの手が決まった。

 

 

 

◇◇◇《side 係員》◇◇◇

 

 

 

「はーい、それではウォータースライダー『スーパーエキサイティングコース』の入り口はこちらでーす」

 

 私は、これまで何度言ったか分からない、いつもの言葉を口にする。

 

 毎日千や万単位の人を飲み込む「トコナッツパーク」だ。当然、ウォータースライダーの利用者も一日に百単位では効かない人数が利用する。いちいちそんなことを覚えていられない。

 

 しかし、それでもインパクトのある客というのは記憶に残るもので。

 

「なぁ、こころ。お前、なんで俺がグーを出すって信じないんだよ?」

「だって、鳴瀬はいつものらりくらりとわたしのことを避けるじゃない! そんなのお見通しよ!」

「くそっ、日頃の行いが裏目に出たか……」

 

 そして、それは今目の前で相手をしてる二人の男女にも当てはまりそうな予感がした。

 

 私の目の前にいるのは背の細高い男の子と小柄で髪の毛の長いくりくりした目の可愛らしい女の子のペアだ。男の子と女の子は、少し歳の差があるように見える。

 

「はーい、それではゴムボートにお入りください」

「すみません、遺書を書く時間とかってありますかね?」

「ないでーす。早くお入りくださーい」

「……はーい」

 

 男の子ががっくりと肩を落としてボートに乗り込む。女の子は既に楽しみで仕方がないといった表情でボートの中で跳び跳ねている。

 

 本人たち曰く、二人の関係はバンド仲間とのことだが、歳の離れた二人が一体どうやって出会ったのか少し興味が湧く。もちろん、興味が湧くだけで決してそれを聞いたりはしないが。

 

 それにしても安全に十分配慮して作られたウォータースライダーで遺書を書くとは、男の子の方は何かと大袈裟である。

 

「はい、それでは注意点を説明しますね。滑走中はボートの外に頭を出さない、ボートの取っ手から手を離さない。この二点を安全のためにお守り下さい」

「はい」

「はーい!」

 

 私の言葉に女の子が手を挙げて元気に頷く。反対に男の子はこれから死地に赴くような覚悟の決まった表情で取っ手の感触をしきりに確かめている。

 

 ……ウォータースライダーですよ?

 

 二人がしっかりと乗り込んで取っ手を握ったことを確認する。これであとは私がボートを押し出すだけで二人とはお別れだ。

 

 私は「スーパーエキサイティングコース」に入る人に向けた最後のアドバイスを口にする。

 

「はーい、それでは準備よろしいですね。『スーパーエキサイティングコース』は、スピードを一定に保つために、高低差以外にも途中で水の噴出スポットがいくつかあります。そこに合わせて体を動かすとスリルがある動きが楽しめますよ」

「「えっ!?」」

 

 私の言葉に二人が全く同じ言葉で反応する。

 

 少女の子は喜びが抑えきれないといった歓喜の表情で。

 

 男の子はこの世の絶望を全て塗り固めたような表情で。

 

 同じ言葉でよくこうも対称的に反応できるものだと感心してしまう。

 

「噴出スポットの前にはチューブの天井に予告があるので確認してみて下さいね」

 

 最後のアドバイスも全て終わり、いよいよお別れの時だ。

 

「鳴瀬! とっても素敵なことを聞いたわね!」

「すみません、その情報、本当に必要……」

「それでは、いってらっしゃい!」

「……でしたかぁぁぁぁ!!??」

 

 私が挨拶をしてボートを押すと、男の子が尾を引く叫び声を残して、二人は勢いよく滑って行った。最初のカーブを曲がってあっという間にその姿は見えなくなる。

 

 しかし、カーブを曲がるときに、普通よりもはるかに大きくアグレッシブに膨らんで曲がったように見えたのは、私の気のせいだったのだろうか。

 

「まぁ、気のせいよね。それにしてもーー」

 

 私は出発前の二人のやり取りを思い出して思う。

 

 ーーすごくお似合いのカップルだったなぁ。

 

 今まで星の数ほどのカップルをスライダーに送り出して来た私だが、あそこまで自然体でやり取りをしている二人はそうそうお目にかかったことがない。

 私が最初に二人を「兄妹」だと勘違いしたのもそのせいだ。長年連れ添った家族のように二人の関係は自然だったのである。

 

 きっと、心の底ではお互いのことをしっかりと信頼しているんだろうなぁ。

 

「あー、私もあんな彼氏が欲しいなぁ……」

 

 もう、どこまで滑ったか分からない二人のことを羨ましく思う言葉がぼそりと口から飛び出す。その時、私の次の担当のお客さまが階段を登って現れる。

 

 よし、切り替え切り替え!

 

「ようこそ! 『トコナッツパーク』自慢のウォータースライダーへ!」

 

 私は二人のことを頭の外へ追いやると、もう何度目になるか分からない言葉をまた口にしたのだった。

 

 

 

◇◇◇《side 係員 over》◇◇◇

 

 

 死ぬ。

 

 死にます。

 

 死んじゃう。

 

 死ぬって!

 

 ウォータースライダーが走り出してから、俺は全く新しい「死」の、四段活用を脳内に見出だしていた。

 

 それもこれも、全ての原因は俺の真正面でキラキラ輝く笑顔を無理矢理俺に押し売りしてくる恐怖の訪問販売員ペグ子のせいである。

 

 走り出してからまだそんなに加速がついていない最初のカーブ。そのカーブですらペグ子は絶妙な体重移動によって、ボートをほぼ垂直になるまで傾けていた。

 

 少しでも気を抜けば俺はこのウォータースライダーの出口に着く前に死ぬ。

 

 そんな確信めいた予感が俺にはあった。

 

「楽しいわ! 楽しいわね! 楽しいわよね! 鳴瀬!」

「ウン、トッテモタノシイヨ、ペグ子。だから、もうそんなにボートを傾けるのはやめてええええぇぇえ!?」

 

 ペグ子は「楽しい」の三段活用を見せつけながらボートを傾けてアグレッシブに動かす。今のカーブもボートの傾きは垂直に近かった。

 

 そして、恐ろしいことに。

 

「あっ! 鳴瀬、いよいよ初めての(・・・・)『噴出スポット』よ!」

「そ、ソウダネー」

 

 係員さんが言った恐怖の「噴出スポット」を俺たちはまだ一度も経験していないのである。

 

 チューブの天井には赤のペンキで書かれた1/3の文字が勢いよく踊っている。

 

 ……三回もあるの? ねぇ、俺、死んじゃうよ?

 

 そんな俺の静かな絶望を知らぬペグ子は既に体を左右に揺すってボートを揺らす気満々である。

 

「なぁ、ペグ子。最初の『噴出スポット』では少し様子見……」

「来たわ! いくわよ鳴瀬! そーれ!」

「あっ……(絶望)」

 

 チューブ内の水が白波立つほどの『噴出スポット』。

 

 左に曲がるカーブで、進行方向に背を向けているペグ子は思い切り体を右に傾けてから、カウンターで勢いよく左に体を振り抜いた。これだけ激しい動きなのに、係員さんの指示通りボートの外に体が出ていないのは流石の一言だ。

 

「きゃー!!」

「ぎゃー!?」

 

 そして、見事にコーナー外側に合わせて振られたボートは「噴出スポット」の勢いを借りて垂直を軽々と越えーー

 

「わーい!!」

「いやぁぁぁ!?」

 

 ーーなんとチューブの天井を一回転して元に戻った。

 

 そして、天井を滑った時にひねりの力が加わったのか、いつの間にか今度は俺が進行方向に背を向ける形になった。

 

 さ、最悪! 前が見えないと次の恐怖が来るタイミングが掴めないじゃないか!

 

 そう、恐怖とはその姿が見えない時こそが最も恐ろしい。恐怖は想像の中で際限なく膨らむ魔物。それは《HS DM》の時にも散々《ハロハピ》が体験したことだ。

 

 しかし、まさかこんな形で俺も体験することになるとは誰が予測できただろうか。

 

 だが、それ以上にーー

 

「今度は反対ね鳴瀬! ボートを動かすのは私に任せて!」

「…………」

 

 ーー目に見えるペグ子(きょうふ)が恐ろしいこともあるのだと、今日俺は初めて理解した。

 

「きゃー!! きゃー!!」

「ぎゃー!? ぎゃー!?」

 

 ペグ子が歓喜の悲鳴を。

 

 俺は恐怖の悲鳴を。

 

 悲鳴のデュエットがスライダーに響く。

 

 当然のようにチューブの天井を滑ってなんとか二つ目の「噴出スポット」を越えた俺は、再び進行方向に顔を向けることができた。

 

 これで、最後の「噴出スポット」は幾分ましになる。

 

 そう思って顔を上げた瞬間。

 

「………Jesus………」

 

 俺の目の前に「噴出スポット」よりも恐ろしい光景が広がっていた。

 

 …………ペグ子の水着のトップがずれている。

 

 なんと、激しい左右の運動が祟ったのか、ペグ子の着ている水着のトップがいつの間にか完全にめくれ上がってしまっている。そのことにペグ子はまったく気付いておらず、彼女は胸を隠す素振りすら見せない。

 

 そのせいで、不覚にも以前顔を押し付けることになってしまったペグ子の胸が、生まれたままの姿で惜し気もなく俺の前に晒されている。

 

 想像以上にあるその女性らしい膨らみが、その双丘の頂点に位置する桜色のそれ(・・)が、否応なしに俺の視界に入る。

 

 このことを教えなければペグ子の胸は間違いないなく衆目に晒される。いくらペグ子といえども、胸を人前で晒して平気でいられる保証はない。

 

 しかし、教えてしまえば恐らく俺の命はペグ子によってほぼ確実に刈り取られるだろう。

 

 ペグ子か、俺か。

 

 究極の二択を強いられる。

 

 もちろん、優先すべきなのは自分の身の安全だ。

 誰だって我が身が可愛い。それが、命に関わるならなおさらだ。

 

 だが、それでも。それでもだ。

 

 俺は男で、ペグ子は女の子なんだ。

 

 気張れよ、俺!

 

 覚悟を決めた俺はすぐさまその口を開く。多分、時間をかけてしまうとその勇気が霧散してしまう気がしたからだ。

 

「こころ!」

「なぁに、鳴瀬!」

 

 俺の叫びに何も知らぬペグ子はいつも通りの笑顔で応える。

 

 しかし、次の瞬間には彼女は全てを知るのだ。

 

「お前の水着、む、胸のところが丸出しになってる!」

「えっ……」

 

 ペグ子が一瞬、きょとんとした表情になる。そして、

 

「きゃーーーー!!」

「ぎゃーーーー!!」

 

 今度の悲鳴はペグ子が羞恥の、そして、俺は断末魔の悲鳴だった。

 

 事実に気が付いたペグ子は、慌てて腕で胸を隠すと、その足で俺の股間を全力で蹴りつけたのだ。

 

 ボートで踏ん張るために足を開けていた俺は、無防備な股間に鎮座していた俺の分身で、完璧にその衝撃を受け止めていた。

 

「み、みちゃダメよ、鳴瀬!」

「あ、ああ、あぅあぅあ……」

 

 ペグ子が何か言っているようだが、俺の脳は既にそれを言語として認識することを放棄して生存本能に全力を注いでいた。口から飛び出す言葉も当然のように意味を成さない。

 

「ちょっと向こう向いて! その間に水着を直すわ……きゃっ!」

「あばー………」

 

 ペグ子がなにやらもぞもぞしているが、何をしているのかはよく分からない。しかし、その瞬間ボートに強い衝撃が走り、最早手に力を入れることすら叶わなかった俺は、ボートの取っ手から手を放してしまい、ペグ子の方へと倒れ込んでしまう。

 

「きゃー! 鳴瀬のエッチ!」

「アバーーーッ!?」

 

 なにやら、頬に柔らかですべすべとした感触を覚えた次の瞬間、ペグ子の二度目の蹴りを股間の分身に受けた俺は完璧にその意識を手放してしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後のことはあとから伝聞で聞いた範囲でしか分からない。

 

 どうやら俺は最後の「噴出スポット」で、今度はペグ子の生乳にダイブしてしまったらしい。

 

 その後、ペグ子が恥ずかしさからボートで暴れまわったせいでスライダーが出口から出た瞬間、暴れ馬と化したボートは盛大な水しぶきを上げて転覆。

 

 投げ出された俺は水中を向いたまま水面に浮かんで微動だにせず、慌てて《ハロハピ》メンバーと黒服の人たちに救助されたらしい。

 

 結局、俺が目を覚ましたのは「トコナッツパーク」が閉園したあと、「トコナッツパーク」の外でだった。

 

 さらに恐ろしいことに、目が覚めた俺は水着姿ではなく、私服姿に着替えていた。

 

 一体誰が俺に服を着せたのか。

 

 そして、そんなことよりも大切なのは。

 

 一体、誰が俺の水着を脱がせてくれたのか(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 俺は《ハロハピ》メンバーの方に、それとなく視線を送るも、目が合った瞬間に今日はペグ子すらも頬を染めて俯いてしまう。

 

 ……もう、このことを深く考えるのは止そう。うん。

 

 こうして、俺の心の中にまた一つ封印するべき記憶が増えたのだった。

 

 

 

 

 

 なんか、俺、最近こんなのばっか……(涙)

 

 




はい、ということで水着回でした。

なんと本編だけで文字数15000オーバー。アホでしょ、馬鹿でしょ、ドラえもんでしょ(空耳アワー)

もっと時間がかかると思いましたが、ゾーンに入ってしまったのかめっちゃ筆が進みました。お、俺は自分が怖い……。

次は本編か、ペグ子のサイドストーリーのどちらかで行きます。サイドストーリーはアンケートもとるので、多分本編を進める可能性が高いです。

そして、ペグ子以外のウォータースライダーはこんな感じになる予定でした。

薫ルート
普通のコースを選び颯爽と二人でボートに座るが、意外にお互いの距離が近いことに気付いてどぎまぎしてしまう。すると、係員から「離れると危ないから彼氏さんと彼女さんはもっとくっついて下さいね~」とカップル扱いされて、更にどぎまぎしてしまう。

そのまま二人はかなり近い距離で滑り始めるが、スライダーのパイプの繋ぎ目でボートが跳ねてお互いに抱き合うかたちになる。真っ赤になる二人。

結局そのまま恥ずかしさでほとんど記憶が残らないままウォータースライダー終了。しかも、ボートから出るときに二人は手を繋いだままで、他の《ハロハピ》メンバーから冷やかされてしまう。

はぐみちゃんルート
一番刺激的な全面チューブコースを選択。係員から「コーナーなんかで跳び跳ねるとボートの動きが激しくなって面白いですよ」とオススメされて、その通りにはぐみちゃんが跳び跳ねる。

すると鳴瀬君がバランスを崩してはぐみちゃんに抱きついてしまう。焦ったはぐみちゃんが動き回ったせいで二人は手足がこんがらがって更に密着するはめに。

なんとかスライダーが終わる前にほどこうと焦る度にお互いに体の変なところを触ってしまい真っ赤になる二人。

なんとか出口までに体をほどくも、気恥ずかしさからお互いに視線を反らす二人。そんな二人を見た他のメンバーは首を傾げるのだった。

花音先輩ルート
怖がる花音先輩のために一番穏やかなコースを選ぶ鳴瀬君。ボートに乗るときに花音先輩の手を取ってエスコートしてあげる鳴瀬君。真っ赤になる花音先輩。

ボートは穏やかに日の当たるコースを進むが、コーナーでバランスを崩した花音先輩がボートから落ちそうになって、鳴瀬君が慌てて彼女の手を取って抱き寄せる。

そのまま手を握りあって肩を抱き、お互いに見つめあっていい雰囲気になる二人だが、コースがオープンな上に、下に降りるにつれて周りの高台から丸見えになることに気がついた二人は慌てて離れる。

ゴールした二人はお互いに謝り会いながらボートを降りる。すると、花音先輩に鳴瀬君が何かをしたのではと考えた《ハロハピ》メンバーから鳴瀬君が制裁を受ける。

ぼこぼこにされてプールの底に沈む鳴瀬君を見て、花音先輩がわたわたするシーンで終了。

美咲ちゃんルート
どのコースにするか悩んでいると係員が「カップルで二人きりの時間を長く過ごしたいなら穏やかなコースがオススメですよ」と言われて真っ赤になってカップルであることを否定する二人。

でも、結局美咲ちゃんの提案で二人はチューブとオープン半々の比較的穏やかなコースを選択。

滑りはじめてからはボートに座りながらまったりと談笑して、お互いの苦労を労り合う二人。

「俺たち似た者同士だよね」と言う鳴瀬君に、「相性バッチリですよね私たち」と返す美咲ちゃん。なんだかいい雰囲気に。

その時、スライダーのパイプの繋ぎ目で美咲ちゃんの体が跳ねて鳴瀬君と急接近。至近距離で見つめ合う二人。そのまま顔が近づいてーー

ーーというところでスライダーが終了。気を抜いていた二人はバランスを崩してボートは盛大にクラッシュする。

グショグショになった二人の元へ《ハロハピ》メンバーが慌てて駆け寄ってくる。それを眺めながら二人が顔を見合わせて苦笑するシーンで終了。

はい、なんとあらすじだけで1400字弱になりました! 全部書かなくて良かった!(賢明)

ちゅーか、このお盆休みの頭ぐらいで「10万字越えたー! うれぴー!」とか言ってた気がするんですが、今見たら20万字越えてるとかちょっと頭おかしい(恐怖)。

これもひとえに読んでくださる皆様のおかげです。ありがとうございます!

ちなみにペグ子だけに絞ったのは、構想を練りきったとろこで「あれ、思ったよりどれもイチャイチャしてるやん! ……これ、複数ルートやったら鳴瀬君、女の子にだらしないただのチャラ男になるじゃん!」という天啓が舞い降りたからです。やっぱり神託ってすごい。オラクル、オラクル……。

まあ、余力があればこれらのルートが清書される日もいつか来るでしょう。

しかし、それはまだ混沌の中……(ドロヘドロ)

ではまた次の話でお会いしましょう!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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