野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
二章の2話、《ハロハピ》メンバーの再登場です。

この話までは本格的に二章が始まる前の助走期間になるかな?

とにかく、二章の投稿も始まりましたのでじゃんじゃんバリバリ行きますよー!

そして、評価の投票ありがとうございます! おかげで3つめの目盛りも赤で染めることができました。このままのテンションで最後まで突っ走れたらと思うのでどうかよろしくお願いしまっす!

【アンケートの協力依頼】
はぐみちゃんのサイドストーリーのアンケートを投下しております。これを書いている現時点でまだどうなるか読めない票の差です。あなたの清き一票で作品の流れが変わります! どうか多くの方のご参加をお待ちしています!


野良ベーシストは道を示す

 独りの時間というものは人を物思いに耽らせる。

 

 それがいいか悪いかは別にしてもだ。

 

 そして、今日の俺にとってはこの時間というやつはあまりよろしくないものだった。

 

 

 ーー鳴瀬、お前《ハロハピ》のあの子達の中では誰が一番なんだよ?

 

 ーー契約の関係で仕方ないから《ハロー、ハッピーワールド!》を助ける。だけどこいつらはお前自身の人生を、そしてお前の音楽(せかい)を台無しにする。そして多分、彼女ら自身も。

 

 

 頭の中に浮かんでくるのは、今日の四方津(よもつ)さんの言葉と、夢の中でカート擬きの何かに言われたあの言葉だ。

 

 答えが見えない問題の二重螺旋に、俺の思考はどんどんと深みに嵌まっていく。

 

 ……ああ、くそっ。これは良くないな。何か、流れを変えてくれるものが欲しい。気分を上向きにさせてくれる何かがーー

 

 ーーバタン!

 

 突然の物音に、深みに嵌まった思考が急速に現実に引き戻される。

 

 音の正体はスタジオの扉が開く音だ。俺が顔を上げてそちらを見ると、そこには最早お馴染みとなったあの笑顔が待ち構えていた。

 

「やっほー、鳴瀬! さぁ、今日も1日頑張りましょう!」

 

 いつもの調子で元気よく挨拶してくるペグ子に、俺は軽く手を挙げて応える。

 

「お、今日もこころが一番乗りか」

「当然! 面白いことは待ってるだけじゃなくて、こちらから近づかないとやってこないもの!」

「そいつは実にいい心がけだな」

 

 ペグ子を褒めてやると、彼女は「ありがとね、鳴瀬!」と言って嬉しそうに笑う。

 

 その笑顔を見ていると、先程までの沈んでいた気分がいくらかはましになってきた。本当にペグ子様々といったところである。

 

「それで鳴瀬、今日は何をするのかしら? ライブから間を空けずにわたしたちを呼んだのだから、かなり重要なことよね?」

 

 相変わらずの鋭い指摘を飛ばすペグ子に俺は頷いた。

 

「ああ。詳しくはみんなが揃ってから話すが、一つ目のステップを超えた《ハロハピ》に、次のステップを見つけてもらおうと思ってな」

「まぁ、いいじゃないの鳴瀬! わたしも早く次の楽しいこと(ハッピー)を見つけに行こうと思ってたところだったのよ!」

 

 俺の言葉を聞いた途端にペグ子の目がキラキラと輝く。ふんふんと鼻息荒くこちらを見上げるその姿は今にも俺に飛びかからんばかりだ。

 

「おいおい、落ち着けって。他のみんなが来てからって言ったろ」

 

 両手でペグ子をどうどうと宥めると、彼女はウサギのようにぴょんぴょんと跳ねるバックステップで俺から距離をとると、ドラムのスツールの上に腰を下ろした。

 

「それもそうね! 楽しいこと(ハッピー)はみんなで分け合わないとね!」

 

 スツールの上に座ってパタパタと足を上下させるペグ子は、さながら車の助手席に座って遊園地へと出発するのが待ちきれない子どものようだ。

 

 ……まぁ、実際子どもみたいなもんだしな。

 

 その内面性と行動があまりにも合致し過ぎているペグ子に、思わず苦笑してしまう。

 

 すると、それに気付いたペグ子が俺の方を見るとぷっくりと頬を膨らませる。

 

「むー、鳴瀬ったら、またわたしに失礼なことを考えてるでしょう!」

「ん、いやいや、そんなことはないぞ」

 

 ペグ子の指摘に俺は頬に手を当てて引き伸ばすことでなんとか苦笑を取り繕ったが、ペグ子の追及の手が休まることはない。

 

「そんなことあるわ! だって失礼なことを考えてるときの鳴瀬っていっつもそんな苦笑いしてるもの!」

「えっ、マジで。いや、でも、こころに対して失礼なことを考えてるときにいつも今みたいな苦笑いしてるわけじゃないしな」

「あ! 鳴瀬ったらやっぱり失礼なことを考えているじゃないの!」

「しまった、やぶ蛇か!」

 

 失言を飛ばしたことに気づいた俺が、今にも飛びかからんばかりのペグ子を避けてスタジオの扉の方へと逃げようとしたその時。

 

「こんにちはー、皆さんお疲れ様です」

 

 奥沢さんの挨拶を皮切りにして、《ハロハピ》の他のメンバーがぞろぞろとスタジオに入ってきた。

 

「おっ、こんにちは奥沢さん。それにみんなも」

 

 そして、ナイスタイミングだみんな。

 

 やって来たみんなに挨拶を返しながら、俺はペグ子の追及をうやむやにできそうな予感に、心のなかでみんなに称賛を送った。

 

 ペグ子も先程までの膨れっ面を引っ込めて、笑顔でみんなに声をかける。

 

「こんにちは、美咲~! それにみんなも! ちょっと待ってね、今から無礼なことを考えた鳴瀬を懲らしめるから!」

「あ、ダメだったわ!」

 

 結局、その後意外なねちっこさを見せたペグ子の追及によって俺はスタジオの床に正座させられて、反省の言葉を述べさせられた。

 

 味方に回ってくれるかもと期待していた他のメンバーたちも「鳴瀬さん、そういうところですよ」とペグ子の援護に回り、結局俺は針のむしろ状態で甘んじてペグ子の追及を受ける羽目になった。

 

 ……納得いかねぇ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 しばらくして、ひとしきり俺を言葉でぼこぼこにして気が済んだペグ子たちと俺は向かい合っていた。

 

 別に俺はM(マゾ)ではないので、言葉攻めを受けるために《ハロハピ》を集めたわけではない。彼女たちを呼んだのは、既にペグ子には伝えたように、また次の目標(ステップ)を彼女たちに見つけてもらうためなのだ。

 

 だから、俺はそのことを早速《ハロハピ》全体に向かって告げた。

 

「というわけで、今日みんなをここに呼んだのは他でもない、《ハロハピ》の次の目標を決めるためだ」

 

 俺の言葉に《ハロハピ》のみんなは深く頷いた。

 

「『ローマは一日にして成らず』というわけだね。確かに私たち《ハロハピ》も、世界に笑顔(ハッピー)を届けるためには、日々次の目的地を目指さなければいけないね」

「はいはーい! わたしは次のステップをもう考えているわよ!」

 

 薫の言葉に反応してペグ子が威勢よく手を挙げる。

 

「はい、それじゃあこころ。お前の言うところの次のステップとは何かな」

 

 俺が学校の先生のようにビシッとペグ子を指名すると、彼女は腰に手を当ててふんぞり返り、自信満々といった表情で答えた。

 

「もちろんライブよ! 前のライブよりもっとも~っと大きな会場で《ハロハピ》を世界にお届けするのよ!」

「はいだめー」

「!? どうしてなの鳴瀬!」

 

 俺がペグ子の言葉を即座に腕をばってんにして否定すると、彼女は再びのハムスタースタイルの顔で抗議してくる。

 しかし、そんな表情をされてもダメなものはダメなのだ。

 

「理由は何個かある。まず一つ目は、デカい会場(ハコ)でのライブってのはあくまでも最終目的地だ。俺が今求めてるのはそこに至るまでの過程だ」

「あ、はぐみ知ってるよ! 『スモールステップ』ってやつだよね! 大きな目標を実現するためには、そこまでの小さな目標が大切なんだって監督が言ってたよ!」

 

 しゅばっと手を挙げて答えた北沢さんに俺は頷く。

 

「その通り。バンドにとって大きな目標はいくつかある。『デカいハコでライブ』『単独で全国ツアー』『メジャーレーベルからのCD発売』『オリコンチャート上位』、いろんなバンドがそれぞれの目的地を目指している訳だが、大切なのはそこに至るまでの過程だ」

 

 みんなが真剣な表情で聞いているのを確かめてから俺はさらに言葉を続ける。

 

「ライブが俺たちの目的地だとするならば、そこまでの過程は旅のようなものだ。目的地まですっ飛ばすのも旅の一つの手なんだろうが、それでは少し味気ないだろう? 道中色んなものを見て、色んな経験を積んで、自分の世界を広げるのが旅の醍醐味だと俺は思う」

「確かに、今の私たちにはそういった見聞を深める時間が足りていなかったかもしれませんね」

 

 松原さんが噛み締めるような調子で言葉を発する。向上心が芽生え始めた彼女にとっては色々と思うところがあるのかもしれない。

 

「んで、二つ目なんだが、初心者がライブできるデカバコってのはめったにない。今回の奥沢さんが取ってきたキャパが500弱の《STAR DUST(スターダスト)》は、初ライブとしては破格の条件だったんだぞ。普通は100程度のちっこいライブハウスからコツコツ始めるもんなんだからな」

「ええ、正直もうあんな条件ではしばらく取れそうにないですね」

 

 奥沢さんが首肯する。心底疲れきったようなその表情が彼女の苦労を物語っている。

 

 めぼしいライブハウスの候補は渡したとはいえ、短期間であれだけの候補とのすり合わせを担当した奥沢さんはかなりの負担を強いられたはずだ。作曲と合わせて《ハロハピ》メンバーは彼女に足を向けては寝られないだろう。

 

「最後に三つ目、サマーシーズンが終わるので純粋にハコのライブイベントが減る。特に初心者や学生向けのイベントは大きなハコではしばらく取り扱わないだろうな」

 

 ライブハウスにも一年を通して季節ごとにトレンドが存在し、学校の夏休みと被る夏の間は学生向けの大きなイベントをバンバン打ち出しているところは多い。学生バンドがチケットを捌くにしても、身内を呼びやすい夏休みの方がやり易いだろうという配慮も多分に働いているだろう。

 

 しかし、学校が始まってしまうとそういったブーストがなくなるので、学生バンドは観客動員が難しくなるところが多い。だから、キャパの大きいハコほど学生向けのイベントが減っていくのである。特に秋は文化祭や運動会のシーズンで、さらに学生離れが加速するのもイベントの減少に拍車をかけている。

 

「そうなのね、私たち向けのイベントがなければ参加できないのは仕方ないわね」

 

 俺の話にペグ子は合点がいったという表情で頷いた。

 

「納得してくれたようで何より。そこで俺は《ハロハピ》のアドバイザーとして、今後の活動方針に対して次の提案をしたい。あくまでも提案だから変えたいと思うことがあったら遠慮なく言ってくれよ」

「わかったわ!」「OKだ、Mr.鳴瀬」「うん!」「はい」「了解~」

 

 全員が返事をしてくれたのを確認してから、俺は自分が暖めていた今後の構想を口にする。

 

「よし、まず一つ目は純粋なスキルアップを目指すこと。この間の《HS DM》とのライブは、正直勝ちを譲られた感が否めないからな。とにかくスキルを高めて演奏だけでも魅せられるようにしたい」

 

 《STAR DUST》でのライブで《ハロハピ》が場を沸かすことができたのは《HS DM》が直前まで場を暖めてくれていたことが大きい。それがなければ、ペグ子のダイブに対してモッシュが生まれたかも分からないし、演奏中のレスポンスもあそこまで大きくはならなかったかもしれない。

 

 そして、この言葉に強く頷いたのはやはり松原さんだった。

 

「そうですよね。バンドをやる以上、やっぱり楽器の演奏で魅せられないと駄目ですよね。パフォーマンスはいつも同じようにできるとは限りませんし、そもそも私はパフォーマンスはできないと思いますから……」

 

 ドラムという楽器の性質上、松原さんはパフォーマンスに参加することが難しい。自分の腕前だけが頼みの綱となる彼女にとっては、芽生え始めた向上心も相まって、ここが一番気になるところなのだろう。

 

 そんな松原さんに俺は頷き返す。

 

「その通り。今回のライブはこころのダイブで客がガッツリ食いついたが、客層によっては逆に引かれることもある。それにハコのキャパが増えたら、ダイブの演出は後ろの方の観客が参加できないから全体がノれない可能性も高い。パフォーマンスが通用しないことを想定して演奏一本でもステージに耐えれる状態にしていこう」

 

 今後《ハロハピ》は更なる高みへと向かうだろう。もしも今後ハコのキャパが千、あるいは万まで伸びたら今のやり方が通用しないことは絶対にあり得る。

 

 ゆえに、バンドの真髄とでも言うべき演奏技術を伸ばすのはこのタイミングを置いて他にはないだろう。

 

 バンドの本質はやはり演奏であるべきなのだ。

 

「そして、二つ目。ちゃんとしたレコーディングスタジオを借りて、正式な《ハロハピ》の音源を録ってCDの形で出したい」

 

 CDを作るという俺の言葉に《ハロハピ》メンバーが色めき立ったのが分かった。中でも一番大きな反応を見せたのは薫だ。

 

「おお、私たちのCDを出すというのかいMr.鳴瀬!」

「そうだよ。まぁ、インディーズのレーベルから出す訳じゃなくて、個人製作のライブに出るためのサンプル音源や物販用のやつだけどな。今ある音源は《arrows(アローズ)》で録らせてもらったやつだけど、ここはレコーディングメインじゃないからな」

 

 レコーディングスタジオと演奏用のスタジオでは機材の質や、部屋の構造がかなり違う。当然、音楽を録るにはレコーディングスタジオが最適だし、年に100以上のアーティストのレコーディングを担当するようなスタッフからアドバイスをもらうこともできるので音源のクオリティが全然変わってくるのだ。

 

 前回のライブでは物販に音源を出すことができなかったので、これから増えるライブシーンのためにもこれはなるべく早く作りたい。

 

「私たちの音楽が目に見える形となって子猫ちゃんたちの手元に届く。ああ、なんて儚いんだ!」

「いや、形の残らないものが形になるんだから儚くねーだろ。逆だ、逆」

 

 薫に冷静にツッコミを入れながら、それでも発言の前半部分に関しては俺としても諸手を挙げて賛同できる。

 

 演奏を聴いてくれたファンの元に音源が残るというのはやはり大きい。ファンが「このバンドお薦めだよ」と言おうにも、音源がないと薦めにくいのだ。

 逆に音源が世の中に十分に出回れば、ふとしたきっかけでバンドが流行す(バズ)ることもあり得る。

 

 今の《ハロハピ》が最も必要とするもの。それは普遍性(ポピュラリティ)だ。とにかく世間に《ハロハピ》を浸透させるためにもちゃんとした音源の確保は急務だ。

 

「それで、音源作成に付随して三つ目。次のデカいハコのライブまでに《ハロハピ》オリジナルの曲を最低二つは作る」

「え゛、それ、マジで言ってます、鳴瀬さん?」

「まぁ、それってとっても素敵じゃないの!」

 

 俺の言葉に対象的な反応を示したのは奥沢さんとペグ子だ。自分の思いつき(アイデア)を勝手気ままに口ずさめるペグ子にとっては願ってもないことだろうが、その思いつきを形にする奥沢さんにとっては苦悩の連続となるだろう。

 

 すまんな奥沢さん。でも、これはどうしても必要なんだよ。

 

 心の中で奥沢さんに頭を下げつつ、俺はなぜそうするのか理由の説明に入る。

 

「残念ながらマジだよ奥沢さん。物販用のCDを出すためには、カバーじゃないオリジナルの曲が3曲は欲しいんだ。カバー曲は版権の関係でやり取りが煩雑になるからね」

「あー、確かにそうですね」

 

 他のバンドの曲をカバーする際に、著作権の問題はいつだってついて回る。ゆえに、CDなどを売ってガンガン自分達を売り出したいバンドは、ライブで演奏するしないは抜きにして早い段階から自分達のオリジナル曲を何曲も抱えているのが普通だ。

 実際、俺も《バックドロップ》時代には、各自が持ち寄った既製品の曲を含めて12曲のオリジナルを持っていた。

 

 まぁ、いよいよそれをレコーディングして、CDに焼いてアルバム化しようとしたときに俺が抜けたことでその曲たちはお蔵入り状態になったんだがな。

 

 ともかく、メジャーデビューを考えるならこれぐらいのペースでオリジナルを産み出さなければ世間からすぐに忘れ去られてしまう。特に現在ブームのガールズバンドにはステージでスポットライトを浴びているバンドの二の矢三の矢を担うバンドなんて掃いて捨てるほどいるのだ。

 一度ステージに登ったらそこから蹴落とされないためにも、作れるときに曲をごりごりと作ってなんぼのものである。最悪、作った曲を小出しにすれば延命を図ることだってできる。

 

 そんな様々な思惑から、《ハロハピ》にとって新曲の作成は急務であると言えた。

 

 トホホというような表情を作る奥沢さんの肩をポンポンと叩いて彼女を慰める。流石にこのままでは救いが無さすぎるので、もちろん彼女には今から俺が助け船を出すつもりだ。

 

「もちろん、作曲に関しては俺もしっかりサポートするつもりだ。ただ、それでも負担が大きすぎるからしばらく奥沢さんには作曲に専念してもらうことになるけどな」

「な、鳴瀬さん、ありがとうございます~(涙)」

 

 涙目でホッとした声を出す奥沢さんに親指をグッと立てて応える。

 

 恐らく、奥沢さんは今後も《ハロハピ》の作曲のキーマンになるだろう。だから早い内に作曲家としての彼女のスキルを高めておきたい。

 

 そういった意味ではこの新曲ラッシュはいい契機だ。彼女にはここで一皮剥けてもらっておこう。

 

 そして、他人に無茶をさせる以上は俺自身も傍観者ではいられない。当然、次のデカバコのライブに向けては俺もがしがし攻めの姿勢で臨む。

 

 俺だって《ハロハピ》の一人なのだ。俺しかできないことをやるだけやってやるだけさ。

 

「ということで、奥沢さんが作曲に専念している間の四つ目。これからしばらく皆には小さめのハコでのライブを何度も経験してもらうつもりだ」

「えっ、ライブできるの!?」(×2)

 

 俺の口から漏れた「ライブ」という言葉に、ペグ子と北沢さんが同時に反応する。

 

 どちらも表舞台でガシガシ活躍するのが好きな二人だ。諦めかけていたライブが目の前に急に吊るされて興奮を隠しきれていない。

 

 しかし、その興奮の中にも「何でライブができるんだろう?」という戸惑いが混じっていたので、俺はその理由を説明することにした。

 

「俺は別にライブをしないとは言ってない。デカいハコでの(・・・・・・・)ライブをしないってだけだ。小さめのキャパのハコでのライブはむしろどんどんぶっ込んでいくぞ。《ハロハピ》は今ボーナスステージだからな」

「ボーナスステージ?」(×2)

 

 再び首を傾げる二人に、俺は軽く頷く。

 

「そう、ボーナスステージ。この間の《school band summer jam 14th》で俺たち《ハロハピ》はかなり目立った。この流れを潰さずにいれば、間違いなく《ハロハピ》の知名度は伸びる。だからとにかく小さなライブを繰り返しまくることで流れを生み続けるのさ」

 

 前のライブで俺たち《ハロハピ》は、正直あり得ないほどの勢いに乗った。しかし、あり得ないからといってそれを潰したり手放したりすることはそれこそあり得ない(・・・・・・・・・)。ここは普遍性(ポピュラリティ)を得るためにもじゃんじゃんそれを利用していくべきだ。

 

 具体的に言うと、とにかくライブに顔を出し続けて《ハロハピ》が今勢いのあるバンドだということをとにかくアピールしていく。

 

 聴衆はそういった知名度や勢いのあるものに弱い。限られた時間や情報網で、できるだけハズレを引かないように考えると必然的に知名度や勢いのあるものを選ばざるを得ないからだ。

 

 そうして、固定のファンをつけながら新規のファンも増やす。そうすることによってデカバコのライブでも多くの観客を動員できるようになる。

 

 更にライブを通して他のバンドとも交流を深めて相互に刺激を与えあうことで、自分達に足りないものを見つけたり、逆に自分達の強みを見つけたりすることもできる。

 

 もっと広い視野に立てば、それはガールズバンド界隈の活性化の流れを加速させることにも繋がる。

 

 とにかく今はジャブとフットワークを刻んで前へ前へと切り込んでいくインファイターのボクサーのように攻めの姿勢一本だ。《ハロハピ》を心に刻み付ける止めの一撃を観客に見舞うためにも、こちらはテンポよくステップを重ね続けるのだ。

 

「そして、本来ならこれは奥沢さんが担当するところなんだが、奥沢さんには作曲に専念してもらう都合上、次の大きなライブまではこれは俺が全部面倒を見る」

「えっ、いいんですか鳴瀬さん!?」

 

 驚いて弾かれたようにこちらを見る奥沢さんに頷く。

 

「いいよいいよ、俺は今まで色んなライブハウスを渡り歩いてるからノウハウもあるしな。よさそうな対バンライブなんかがあれば、どんどん入れていくからそのつもりでいるよーに」

「おー!」(×5)

 

 威勢よく全員が返事をしたのを確認してから俺はもう一度頷いた。

 

「あと、他の予定が入ったときは遠慮なく言ってくれよ。特に薫と北沢さんは掛け持ちだからブッキングは仕方ない。あと、『こんなとこで()りたい』とか、逆提案してくれてもいいぞ。俺もあくまで《ハロハピ》のメンバーの一人でしかないからな。みんなからの意見も尊重したい」

「はいはーい! それじゃあ鳴瀬くんにしつもーん!」

「はいどうぞ北沢さん」

 

 俺の言葉が終わった瞬間に勢いよく手を挙げた北沢さんを指差して回答を待つ。

 

 北沢さんはこれまた勢いよく立ち上がって元気に言葉を発した。

 

「えーっとね、そのライブする場所はライブハウス以外でもいいのかな? 例えばその、うちのお肉屋さんがある商店街とか!」

「あー、大がかりな路上ライブとかか。いいよ、路上とか公共スペースでのライブは、そこを管理してる人や組織とか警察なんかに届け出もいるけど、まぁ、何とかするさ」

「やったー!」

 

 俺の答えに北沢さんは跳び跳ねて喜ぶ。

 

「ふむ、それじゃあ私も学校でのライブなんかを計画してみようかな。この間のライブのことを聞き付けた子猫ちゃんたちが『次はいつなんですか?』と、最近よく聞いてきてね」

「うーん、薫の学校というと女子高だよなー。女子高なら男の俺が頼むのはあまりよろしくない気もするんだが」

 

 薫の言葉に俺は難色を示した。

 

 女子高はある種の聖域のような場所で、親御さんたちの中に男子がいないからという理由でご息女を通わせている人がいる以上は、あまり俺が出ていくのは得策ではない気がする。

 

 この言葉に薫も納得したようで、「ふむ」と軽く頷いてから顎に手を当てて暫し考え込んでから口を開いた。

 

「それもそうだね。じゃあ、学校との交渉は私が先頭に立とうじゃないか。Mr.鳴瀬には打ち合わせや、舞台設営などでどうしても学校に来てもらう必要がある時にだけ来校してもらうというのはどうかな」

「んー、それぐらいならいけるかな。女子高といえど100%男子禁制ということもないだろうし」

 

 郵便などの運送業や先生方なら男性といえども学内に入ることもあるだろう。俺が矢面に立たないなら、そこまで問題があるとは思わなかった。

 

「決まりだね。もし、学校でのライブが決まったら日程の候補はすぐに《ハロハピ》全員に伝えるよ」

「そうしてくれ。ライブをするならそこに向けて練習も調整するからな」

 

 薫と頷き合ってから、俺は再び《ハロハピ》全員に目を向ける。

 

「ということで、以上の四つをスモールステップとして《ハロハピ》は次の目標に向かう。俺の考えでは次の目標は年末、冬休みのシーズンにルーキー向けのデカバコでのライブイベントに《ハロハピ》を突っ込んでいく」

 

 年末には紅白歌合戦など音楽番組の特番が多く組まれるように、ライブシーンでも多くのイベントが催される季節だ。そこには夏のライブで弾みをつけたルーキーバンドを想定したイベントなんかも多分に含まれている。

 

「次のライブは前のライブよりもハードルが高くないと意味がない。だから、次のライブは演奏オーディションありのガールズバンドオンリーイベントを狙うつもりだ」

「……!」

 

 俺の言葉ににわかに《ハロハピ》メンバーに緊張が走る。

 

 この前のイベントは録音したデモテープを送るだけで大丈夫だったが、次は演奏で予選を越えさせる。

 

 何回も演奏した内の最良を使える録音ではなく生の演奏での予選突破を目標とすることで、常に一定のコンディションで演奏できるレベルを目指す。そうすることで、演奏の波を無くして常に最高の《ハロハピ》を観客にお届けすることができる。

 

 観客は一期一会の思いでライブハウスに足を運んでくれている。そこで中途半端な演奏をする《ハロハピ》を見て、それが《ハロハピ》の全てだと思って欲しくないのだ。

 

 ……《ハロハピ》はこれから間違いなく最高のバンドになる。だから、一度たりともその演奏に汚点を残してほしくない。それが俺の本当の望みなんだ。

 

「《ハロハピ》はついに世界(ワールド)に解き放たれた。だから、ここからは世界を笑顔(ハッピー)にするまで後退のネジは外していく。ここからもっと多くの人たちに俺たちを味わってもらい(ハロー)に行こうじゃないか!」

「おー!」(×5)

 

 みんなが勢いよく返事をすると、ペグ子がずいっと前に進み出る。

 

「それじゃあ、みんな!ここで『合言葉』といきましょうか!」

「おっ、そうだな。それじゃ、こころ、一発ガツンとやってくれ」

 

 俺の言葉にペグ子は大きく首を縦に振った。

 

「わかったわ鳴瀬! みんな、次の目的地に向かって《ハロー、ハッピーワールド!》出発よ! 『合言葉』は、せーのっ!」

 

 

 

「ハッピー、ラッキー、スマイル、イエーイ!」(×6)

 

 

 

 こうして、《ハロハピ》は新しい門出を迎えた。

 

 数々の目的地を経由して、目指す旅の果ては世界中の幸福。

 

 それはどんな困難な旅路になるかはわからない。

 

 それでも。

 

 この5人となら、そんな途方もない夢物語でもいつかきっと現実に変わる。

 

 そんな確信めいた予感がしてくるのだ。




リアル多忙につき結構間が空きました!

何とかこれぐらいのペースでは投稿していきたい!

今回は10000字なので、これより短ければもっと早く投下できるかな(できるとは言ってない)。

次は《ハロハピ》の修行シーンや、路上ライブの話になるかな? そのあとに薫さんのサイドストーリーに移りまーす! 

オ゛ォ゛ン゛!カワイイ薫さんが書きたいニ゛ャ゛ア゛!(某ネズミネコ)

それでは次のお話でお会いしましょう! またよろしくお願いしまっす!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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