《ハロハピ》の方向性が決まってからの一話目!
タイトルからしてお話のメインはあのメンバー。
後半は別の話になるかもしれないし、分割するかもしれない。
とにかく頑張って書く。
【アンケートについて】
はぐみちゃんのアンケートですが、この話を投下した日の0:00頃に締めようと思います! 次のアンケートは薫さんのサイドストーリーを投下したあとに始める予定です。詳細もその時に書きますのでよろしければお付き合い下さい!
全員が例の「合言葉」を元気よく唱えた後で、俺はパンパンと手を打ってから口を開いた。
「オッケー、それじゃあ《ハロー、ハッピーワールド!》出発といくか。あ、そうだ。もし何か今のうちに言っておきたいことがあるなら聞くが、何かある奴はいないか?」
さっきまではほとんど俺が話しきりだったから、ここでみんなから何か意見が出るなら吸い上げておきたい。
そういった判断でみんなを見回すと、ペグ子の手がビシッと挙がった。
「はい! わたしから一つ提案があるのだけどいいかしら!」
「ほいほい、取りあえず言ってみな」
正直、ペグ子からの提案とか無茶振りの予感しかしねぇ……。
危うく出そうになったその言葉をなんとか飲み込み、俺がペグ子に発言の許可を出すと、ペグ子は身を乗り出し気味にして口を開いた。
「えっとね、提案というのはミッシェルのことなんだけど」
「おっ? ミッシェルか」
「えっ?」
ペグ子の口から飛び出した「ミッシェル」という意外な言葉に奥沢さんも反応する。
「そう、ミッシェルなのよ。わたし、これからはミッシェルにも楽器を弾いてもらいたいと思ってるの!」
「む」
「え゛」
ミッシェルに楽器を弾かせる。
このペグ子の提案に俺は少し唸って、奥沢さんは驚愕の声を漏らした。
「……ふむ。こころ、お前ミッシェルに楽器を弾かせたい理由はなんだ?」
俺はとりあえずペグ子の考えを聞いてみることにした。
またいつもの思いつきであれば、奥沢さんに負担をかけることになるこの申し出は受け入れられないし、正当な理由があるならば一考してみる価値があるかもしれない。
とにかく、ペグ子の答え次第だな。
俺(と奥沢さん)は静かにペグ子の答えを待った。
「鳴瀬はさっきバンドは演奏で魅せるのが本質って言ったじゃない?」
「ああ、確かに」
俺は頷く。
「だからわたし、ミッシェルにも楽器を演奏することの楽しさを味わって欲しくって! ミッシェルだけ仲間外れは可哀想よ!」
「こころ……」
奥沢さんがペグ子の心遣いの言葉に思わず声を漏らす。
「それに、これからのライブは小さめのところでするんでしょ? そうしたら、ミッシェルはステージで満足に踊れないこともあるかもしれないわ!」
「なるほどな」
ペグ子の答えは筋が通っていた。
確かに今後のライブの
そして、踊ることができず手持ち無沙汰になるミッシェルに楽器を演奏させたいというのはある意味順当な流れだと言える。
……ふーむ、確かに俺も奥沢さんにも楽器を楽しんで欲しいところはあるんだよな。
バンド活動の華と言えば何を置いても楽器の演奏だ。実際に自分の手で音を生み出してこそのバンドであり、ライブでもあるだろう。
「確かに、こころの言う通りミッシェルが動きにくい時を考えて、楽器を使えるようになるのはアリだな」
「うぇ!? 本気ですか鳴瀬さん!?」
ペグ子に同調した俺に奥沢さんが思わず声を挙げる。
「あら、美咲はミッシェルが楽器をやるのは反対なの?」
「え゛、だってただでさえ作曲で忙しいのにこれ以上はちょっと……」
「……? 作曲で忙しいのは美咲でしょう? ミッシェルは特に忙しいことはないはずよ」
「あ゛、そういえばそういう設定でしたねー……ハハハ……」
「奥沢さん……」
乾いた笑い声をあげる奥沢さんを見て思わず声をあげてしまうほど、俺は彼女に同情を禁じ得なかった。
ペグ子たちお花畑三人衆の中では、奥沢さんは未だにミッシェルとは別の存在なのだ。ゆえに、ミッシェルへの負担がそのまま奥沢さんにフィードバックされてしまうことを彼女たちは知らない。
奥沢さんの本当の努力を知っているのは俺と松原さんの二人きり。
……頑張れ奥沢さん! 負けるな奥沢さん!
心の中で奥沢さんにエールを送りつつ、それと奥沢さんが楽器を弾く弾かないは別の話なので、俺は「おほん」と一つ咳払いをして話を続けた。
「実際問題、ミッシェルが今後もステージに立つ以上はこころの言う通り楽器を使えた方が何かと有利なんだ。もちろん、ミッシェルの特性上そんなに複雑な技術のいる楽器にはしないつもりだ」
「うう、鳴瀬さんがそういうならそうしましょうか。でも、ミッシェルは一体何の楽器にするんです?」
「それなんだよなぁ~」
俺は奥沢さんの問いに歯切れの悪い返事をするしかなかった。
ミッシェルにやらせる楽器を何にするかは、実はかなりデリケートな問題だ。
まず、《ハロハピ》の楽器構成を考えると真っ先に候補に上がるのはギターやキーボードなどのメロディ担当の楽器だ。現在の《ハロハピ》はメロディ担当は薫のはギターだけなので、演奏に厚みを持たせるためにもメロディ担当を一人増やせるというのは大きなメリットだ。
しかし、その実現を阻むのがミッシェルの造形だった。
もともと、風船やビラ配り程度の軽作業を目的にデザインされたミッシェルは、指の本数が親指・人差し指・その他の三本しかないうえに、どれもかなり図太い。細い弦や鍵盤を押すにはあまりにも不向きなのだ。
さらにメロディパートの楽器は練習にもかなり時間を食うため、今から作曲との二足のわらじを履かせるのはあまりにも無謀。
となると必然的にミッシェルが担当できるのはリズム、それも複雑な動きを求められないパーカッション系の打楽器辺りが順当ということになる。パーカッションなら今流行りのカホンを始め、コンガやジャンベなんかも視野に入るし、トライアングルやウッドブロック、銅鑼、ベルのような飛び道具的な楽器の使用もいける。
この世で最も偉大なロックバンド《ローリングストーンズ》のリーダー、ブライアン・ジョーンズのように、マリンバなんかを叩ければメロディパートをサポートすることだって夢ではない。
だが、無論こちらもノーリスクというわけにはいかない。ミッシェルの性質上、奥沢さんがリズムパートに入り込むとその割りを食うことになるのは、何を隠そう彼女の最大の理解者である松原さんなのだ。
弦楽器のベース担当の北沢さんはまだいいが、松原さんはドラム担当なのでミッシェルが打楽器を担当するなら役割が被る。
そして、正確無比なスティックワークが武器の松原さんに対して、ミッシェルは正確性が全く発揮できないという課題を抱えているのである。
打楽器というのは同じ打面を叩いても、叩くスティックの角度やチップの形状、叩く場所や威力などの違いで実に多彩な音を奏でてくれる。松原さんはパワーという点では他のドラマーに一歩譲るが、これらのコントロールの点では他のドラマーに先んじている。
逆にミッシェルはその大きな手でカホンなどを叩けば素晴らしいパワーが生まれるのだが、打面の制御などは不可能に近い。しっかり狙って叩いたとしても、着ぐるみの手は変形してしまうので正確に力を伝達することは難しいのだ。
また、着ぐるみの可動域の関係から大がかりな動作や極端に細かな動作も苦手なため、表現の幅や精度も狭まる。
その結果考えられる最悪の事態は、ミッシェルと松原さんがお互いの長所を打ち消しあってしまうこと。これだけはなんとしても避けたいところだ。
……特に、松原さんは今がドラマーとしての伸び代を最大限に使える時期だ。下手に余計なことに気を使わせて成長を阻害したくない。
松原さんはライブによってドラマーとしての殻をまた一つ破った。今伸ばせる内に才能の限界を伸ばしておかないと、折角殻を破ったのに羽が伸びきらずに地に落ちることだってあり得る。特に気配りしがちな松原さんは周りに気を使う内に羽が伸ばせなくなる可能性が高い。
「うーん、それでもやっぱりミッシェルにはパーカッションか打楽器しかないんだよなぁ……むむむ……」
中々即決できない問題に俺が頭を抱えていると、その肩をポンポンと叩く者がいた。
「ん?」
そちらを振り向くと、ペグ子と目が合う。彼女は何か言いたそうな表情でじっと俺の方を見ていた。
「鳴瀬、ミッシェルの演奏する楽器に提案があるのだけどいいかしら?」
「お、なんだ、何か考えがあるのか。いいよ、言ってみてくれ」
俺の思考が袋小路に入った分、こんなときはペグ子の突拍子もない意見が案外ブレイクスルーになる可能性も否定できない。
そうしてペグ子の言葉を待つと、彼女はさもないと名案を閃いたといわんばかりの自信ありげな表情で口を開いた。
「わたしの考えはね、ミッシェルには《ハロハピ》のDJをやってもらおうと思っているのよ」
「ほぉ!」
DJか! その発想はなかったな!
俺はペグ子の提案に素直に感心した。
「え、DJですか? でも、《ハロハピ》はバンドなんだから、音楽を流すDJって必要なんですかね?」
ペグ子の口から飛び出した「DJ」という単語にあからさまに奥沢さんが戸惑う。
「あー、多分奥沢さんが想像してるのは『クラブDJ』のことだな。実は『DJ』にも色々あってさ、クラブで二台のターンテーブルを回してる『DJ』とバンドの『DJ』は別物なんだよ」
「へー、そうなんですね」
一般的に「DJ」と言われて世間の人が想像するのは「クラブDJ」だろう。「クラブDJ」は、その名の通りクラブで絶え間なく音楽を流すために二台のターンテーブルを駆使して楽曲同士を滑らかに繋ぎ合わせる「DJ」だ。
それもただ単に曲を繋ぐのではなく、場の盛り上がりにあわせて曲のBPMを考えて繋いだり、あるいは繋ぐ曲のジャンルなどを切り替えるなど、臨機応変な対応が求められる「DJ」だ。
「バンドの『DJ』っていうのは、例えばバンドの楽器の構成でどうしても入れられない楽器がある。でも、音だけは欲しいってときにその楽器のパートだけをパソコンで打ち込んでおいて演奏にあわせて流す、なんてことをするんだよ」
「ああ、曲を全て流すんじゃなくて、その中の一部だけを担当するんですね!」
ようやく合点がいったようで奥沢さんがポンと手を打つ。
「そうそう。あとは飛び道具的に効果音を仕込んでおいたりとか、ライブの雰囲気に合わせて曲にエフェクトかけたりとか、中々器用に立ち回れるポジションだよ」
「えー、わた……ミッシェルにできますかね?」
「んー、というかむしろミッシェルにしかこれは無理だな」
効果音やエフェクト、打ち込みの音源を流すタイミングは楽曲に精通していないと不可能だ。それが《ハロハピ》の中で誰なのかというと、間違いなく作曲を担当する奥沢さん以外にはあり得ない。
さらにエフェクトを仕込むにしても、それは客席の雰囲気を広い視野で見渡せる人物でないと難しい。そう考えれば、これもやはり気配り上手の奥沢さんしかあり得ないポジションだ。
その事を俺が懇切丁寧に説明すると、奥沢さんは頬を染めて照れたような表情で後頭部を掻いた。
「えへへ、そ、そうですかね。なら私もちょっと頑張る……ようにミッシェルに連絡しておきますね」
「わーい! ミッシェルによろしくね、美咲!」
「頼むよ奥沢さん、これは君にしかできないことだから」
「まぁ、やるからには無茶じゃない程度で頑張らせていただきますよ鳴瀬さん」
最後のやり取りはペグ子に聞こえないようにひそひそ声で二人で交わした。
こうしてついに、ミッシェルはステージの上で「DJ」という新しいポジションを手に入れることとなった。
これが今後《ハロハピ》にとってどのような影響を及ぼすかは未知数だが、今の状態を見ればそれは決して悪いようにはならないだろうと俺は思う。
特に、奥沢さんにはこれを契機に、これからより一層《ハロハピ》の一員としての満足感を手に入れて欲しい。
少し嬉しそうな表情の奥沢さんの横顔を眺めながら、俺は心からそう願わずにはいられなかった。
「んー! それじゃあ早速ミッシェルのためにも早くDJシステムを用意しなくちゃね! 黒服の人たち、何かいいものはないかしら?」
「はい、こころお嬢様。私共で調べましたところ、Pioneer社のCDJ-TOUR1とDJM-TOUR1は国内外様々なライブシーンで非常に高い評価を得ております。いかがでしょうか?」
「え」(×2)
「あら、二台合わせて160万円ぐらいなのね! いいじゃなーい! これにしましょう! 壊れたときのスペアも合わせて二台ずつ頼んでおいてちょうだい!」
「うわーー!? こころ、ミッシェルは最初はもっと安いのでたくさん練習してから高いのが欲しいな~、って言ってたよ!」
「あら、そうなのね! それじゃあ美咲、ミッシェルが好きそうなものを二人でカタログを見ながら選びましょう!」
「そうだね、こころ。……ふぃ~、あぶない、あぶない。あんな高額な機材なんて怖くて絶対にまともに触れないよ」
危うく、ペグ子のセレブパワーに巻き込まれて精神崩壊しそうになったが、奥沢さんの渾身のセーブによって俺たちの心の平穏は守られたのだった。
加減しろ
ということでコメントにもあったDJミッシェルはここから本格始動です!
ちなみに、PioneerのCDJ-TOUR1とDJM-TOUR1は昔は総額200万超えだったんですが、価格改訂により現在の値段になりました。それでも一般的なライブやクラブハウスに備え付けられたDJシステムの倍近い値段なので、いかに高級機なのか分かりますね……。
最後の言葉は若先生の名作漫画『シグルイ』からのパロディ。
鳴瀬君「できておる喃、美咲は……」
美咲ちゃん「心という器は(金持ちの暴挙によって)ひとたび、ひとたびひびが入れば、二度とは、二度とは……」
次は他のメンバーの練習シーンを一話挟んで薫さんのサイドにいきまーす! よろしくおにゃーしゃーっす!
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
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田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。