野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。

薫編の中編その2!

投稿できる内に頑張って短期集中投稿していきたいですわね!

ここから少し薫さんの乙女チックを注入していきますわよ!


野良ベーシストは夢の国へと旅立つ(中編2)

「それじゃあ、わたしたちは最初のティーカップを選んだことにして、次は鳴瀬か花音のペアが決めて頂戴!」

「お、マジか」

 

 あれからしばらく、ティーカップの衝撃から立ち直った俺たちがマップを見ながらあーでもない、こーでもないと言い合っていると、ペグ子の口からそんな言葉が発せられた。

 どうやら、ティーカップは彼女が引きずって行ったこともあってペグ子ペアの最初の一回に充てるつもりらしい。

 こちらとしても特に不都合もないので、俺はこの言葉を受け入れた。

 

「んじゃ、松原さん、奥沢さん、どっちが先に決めようか?」

 

 俺が松原さんペアに話を振ると、二人もマップから顔を上げて、お互いの顔を見て軽く頷き合ってからこちらを見る。

 

「あー、私たちは少し時間がかかりそうなので良ければ先に鳴瀬さんたちがお願いします」

 

 奥沢さんがそう答えている間に、既に松原さんはまたマップに視線を落としていた。どうやらかなり悩んでいるらしい。

 

「了解~。じゃあ薫、どうしようか?」

 

 松原さんペアの提案に乗った俺は薫に話を振る。

 

 正直、このペアになったときは俺が薫の舵取りをすることを考えたものの、こういうテーマパークから10年近く遠ざかっていた俺にはあまり良い案がないというのも事実だった。

 

 初めは薫に決めてもらって、あからさまにヤバそうなら口を挟むようにするか。

 

 そんなことを心の中で考えていると、薫が顔を上げてこちらを見た。

 

「ふっ、なら二つ目のアトラクションは私に任せてもらおうか! 私が提案する二つ目のアトラクション、それはミラーハウスだ!」

「おおー!」(×5)

 

 なるほど、建物系のアトラクションならゆっくり回れるからいまだに残るティーカップのダメージを癒しながら回るのに丁度良い。

 

 俺は意外にもよく考えられていた薫の選択に舌を巻いた。

 

「中々いい提案じゃないか、薫」

 

 素直に俺が薫の選択を誉めると、薫はお馴染みの眉を八の字にするどや顔で応える。

 

「ふっ、そうだろうMr.鳴瀬。ゆっくり歩けるアトラクションは私たちの疲労回復にはもってこいだ。それにーー」

「それに?」

「ーーミラーハウスには鏡が盛りだくさんだ。すなわち美しい私の姿を一時とはいえ大量に見ることができるわけだ! ああ、なんて儚い!」

「……感心した俺がアホだったわ。おーいみんな、移動するぞ~、ついてこいよ~」

「ああ!? 待ちたまえMr.鳴瀬!」

 

 ナルシストここに極まれり。俺は妄言を吐き始めた薫を放置して、他のメンバーを集めるとミラーハウスに向かって、てくてくと歩き始めたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おおぅ……これは凄まじいな。感覚が狂うぞ……」

 

 ミラーハウスはティーカップからさほど離れていない場所にポツンと建ったお屋敷という風情の建物だった。

 外観は普通の家だが、いざ建物の入り口を潜るとそこから先は鏡、鏡、鏡……恐るべきまでの鏡地獄である。

 

 つーか、ティーカップの直後にこれはちょっと判断ミスだったか? せっかく戻った感覚がまた狂い始めてきたぞ……。

 

 遠心力によって振られた脳にとって、この鏡の迷宮は中々に堪える。自然と足取りが覚束(おぼつか)なくなってゆっくりとしたペースになる。しかし、それが迷宮への拘束時間を増やしてますます脳がこんがらがってくる。

 

「おーい、薫。大丈夫か?」

 

 俺は、俺からやや遅れた場所を進む薫に声をかける。

 

 ミラーハウスは建物を使ったアトラクションということで通路の関係上全員で一気に入場というわけにはいかなかった。現在、俺はペアの薫と一緒に入場している状態というわけだ。

 

「ああ、大丈夫だともMr.鳴瀬。私はこの通りなんの問題mぐはぁ!?」

「か、薫!?」

 

 足元がふらついた薫がしこたまガラス張りの柱に頭をぶつけた。

 その場に踞って額を押さえる薫に、慌てて俺は駆け寄る。

 

「大丈夫か? 結構いい勢いでぶつかったように見えたけど」

「……あ、ああ。ふっ、ふふっ、鏡に映る自分の姿に思わず見とれてしまってね。不覚をとったよ」

「アホかお前は。ほら、手を貸してやるよ。立てるか?」

「ああ、すまないね鳴瀬君……」

 

 うーん、このポンコツ王子め。

 

 痛む額を擦りながら手を取って立ち上がる薫を、やれやれといった視線で見つめる。

 この数ヶ月で分かったことだが、薫はなんというか全てにおいて脇が甘い。舞台の上では完璧なのに、その反動なのか私生活のようなところになると途端にポンコツ感が増してくるのだ。

 

 それがある意味では、役者たる薫らしさなのかもしれないが。

 

「額が赤くなってるな。ここを出たらハンカチ水で冷やして来てやるから額に当てとけよ。傷でも残ったら大変だからな」

「助かるよ、鳴瀬君」

 

 額に手を当てたまま薫が深々とお辞儀をする。ダメージがあるというのにどことなく芝居がかった仕草をとるのは流石役者といったところか。

 顔を上げて軽く頭を左右に振ると薫はにこりと微笑んだ。

 

「よし、そうと決まれば早くここから出てしまおう。さぁ、出口に急ごうじゃないか鳴瀬君」

 

 少しダメージは残るものの、再び早足で歩き始めた薫の背中に声をかける。

 

「急ぐとまたぶつかるぞ。ここはマジで通路に見えて鏡だったってことが普通にあり得るからな。“Don't be hasty(焦らず). Stay sharp(慎重に).”だ」

「……! その通りだ鳴瀬君、確かに拙速にことを進めるのは良くないね、うん」

 

 ……やっぱり、英語でそれっぽいこと言うとすぐに反応するなぁ、こいつ。

 

 出会ってすぐに見抜いた薫の癖は相変わらずだ。俺との会話の中で彼女が残し始めた格好いい格言ノートが2冊目に突入した今でもそれは変わらない。

 

 正直、「松原さんを超えて《ハロー、ハッピーワールド!》のメンバーの中で一番御し易いのでは?」と思うこともあるが、薫の前では決してそのことは口にしない。

 

 ……だって、手綱を付けられる奴にはしっかり着けておきたいからな!

 

 普段、ペグ子などに振り回されている分、コントロールできる人間はコントロールしておきたいと思うのは人として正しい感情ではなかろうか。

 

「……鳴瀬君、そろそろ出口に進まないか?」

「おっと、悪い悪い。少し考えごとをしてた」

「やれやれ、Mr.鳴瀬は私と違って鏡にぶつかっていないのだからしっかりしてくれないと困るな」

「こいつ……」

 

 ダメージから立ち直って軽口を叩き始めた薫にじとりとした視線を送りながら俺はふと気づく。

 

 ……ん? なんか、さっきまでの薫とのやり取り、ちょっと変だったな?

 

 完全に復活した今の薫と先程までの薫。俺はどこかその姿に違和感を覚えた。

 

「……Mr.鳴瀬? 本当に大丈夫かね?」

「んぁあ、すまんすまん。出口だったな、すぐ行こう」

 

 再び考えごとで足が止まった俺に、今度は薫が心配そうに声をかけてきたので俺は思考を中断する。

 

 ……まぁ、そんなに悩むことでもないな。

 

 結局、俺は鏡の迷宮の中で覚えた違和感の招待を突き止めないままに、その中を抜け出したのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うーん! 美味しいわねー!」

「はぐみのハンバーグも美味しーい! これ、すっごくいいお肉使ってるよ!」

「ふむ、はぐみがそう言うということは本当にいいお肉なんだろうね。ん、こっちのカルボナーラも濃厚な口当たりで美味しいじゃないか」

「私のオムレツはふわとろです~。デミグラスソースもおいひぃ、はふはふ……」

「どのメニューもかなり凝ってますねぇ。私は無難に美味しそうなカレーにしたんですけど、これならもう少しチャレンジしたメニューでもよかったかなー」

 

 時刻はもう昼頃になり、俺たちは園内のレストランの一つに腰を落ち着けていた。

 

 ファンタジアランドは、ハリボテじゃない実際に入れる建物が他のテーマパークに比べて多いことは先に述べたところだが、その建物の中には様々な食事を提供する店が多々ある。

 他のテーマパークと比較すると食事を扱う店の数は3倍に近く、和洋中と店舗ごとに多彩なメニューが客の混雑を緩和するのに一役買っていた。

 

 特にプレオープンの今は客の数も限られているので、俺たちが入ったこの店は貸し切り状態だ。

 そんな訳で俺たちはゆっくりとメニューを選ぶ時間があったのだが、このメニューがどれもリーズナブルでこちらを悩ませてくるのだ。

 大概こんなところでは所謂「夢の国価格」が適応されてどんなショボい料理でも最低1000円ぐらいはするものと覚悟していたが、これがなんとほとんどの料理がそれ以下に抑えられている。1000円を超えるメニューはステーキのように素材の原価が高い価格相応のものが提供されるようだ。

 

「お待たせしました。『ペパロニのピッツァ』でございます。窯出し直後で熱いですのでお気をつけ下さい」

「ありがとうございます。おお、これは凄い!」

「ピッツァは当店でもかなり力を入れているメニューなんですよ。それではごゆっくりどうぞ」

 

 そんなことを考えている内に、最後に俺の「ペパロニのピッツァ」が運ばれてきた。店内に設けられた石窯を使って焼く本格ピザは生地を捏ねるところから店内で行っている。今日は不在だったが、日によっては生地をジャグリングのようにして伸ばす「ピザ回し選手権」の入賞者もいるというのだから驚きだ。

 

 そんなこんなで一手間かけた俺のピザはみんなの料理よりも少し遅い提供となったわけだ。しかし、待っただけあって、その豪華さはかなりのものである。

 

「よっし、俺も食うか! いただきまーす!」

 

 六枚にカットされた内の一切れを掴むと濃厚なチーズの橋が皿の上に残されたピザとの間に生まれる。これを見るだけで喉がごくりと動いたのが分かった。

 添えられたフォークでチーズを切るといよいよそれを口に運ぶ。一口それを噛った瞬間、俺の口の中に幸福が弾ける。ごろごろのカットトマトが残ったソースの爽やかな酸味。そこに惜し気もなく乗せられたペパロニの辛さを濃厚なチーズが包んでほどよいアクセントにしている。

 とてもテーマパークのレストランのレベルではない、今まで食べた中でも表彰台に食い込むレベルのピザだ。

 

「う、美味い……」

 

 俺が感動で口元を手で押さえながらピッツァを味わっていると、ペグ子が興味津々といった感じで俺の方を見つめていた。

 

「鳴瀬、そのピザそんなに美味しいの?」

 

 ペグ子の言葉に俺は大きく首肯する。

 

「ああ、飾らずに言って、俺の人生の中で今まで食べたピザの中で三本の指に入るレベルで美味い」

「へぇ、そんなに美味しいのね!」

 

 俺がそう答えると、ペグ子の視線がテーブルの上に残された五切れのピザに注がれた。気がつけば他のみんなも俺のピザにその視線を注いでいる。

 

 ……嫌な予感がする。

 

 そう思った次の瞬間には、もうその予感は現実のものになっていた。

 

「鳴瀬! あなたのピザ、一切れ貰うわね!」

「あっ、こら、こころ!」

 

 そう言うや否や、ペグ子の手が素早く動いて俺のピザを掠め取った。慌てて左手のフォークで止めようとするも、フォークは伸びたチーズを切り裂くだけで終わり、むしろペグ子のアシストをしてしまった。

 唖然呆然とする俺の目の前で、憐れな俺のピザはペグ子の口に消えていく。

 

「うーん、おいしーい! 本当に美味しいわねこのピザ!」

「ああ、それは本当によくわかってるよ、ちくしょー!」

 

 まったく悪びれもせずにピザの感想を述べるペグ子。

 

 そして、それを皮切りに俺のピザに他のみんなの手が殺到した。

 

「はぐみも一切れもーらいっ!」

「あ! ちょ、まっ!」

 

 電光石火の早業で伸ばされた北沢さんの手に俺は全く反応できず、三切れ目のピザは北沢さんの口へと消える。

 

「ふっ、Mr.鳴瀬にそこまで言わせるピザ、味わわない訳にはいかないな」

「薫、お前! さっき助けた恩を忘れたのか!?」

 

 四切れ目を奪っていったのは薫だった。薫がいる側の俺の右手はまだ食べかけのピザを持ったままだったので、俺にはそれを止める術はなかった。

 

「わ、私も一切れ貰いますね。ごめんなさい鳴瀬さん!」

「ま、松原さんまで……」

 

 おずおずと遠慮がちに伸ばされた松原さんの手は払いのけようと思えばいくらでもそうすることができたが、ぷるぷると震えながら伸ばされたその手を払うことがどうして俺にできるだろうか(反語)。

 

 そうして、俺の皿の上にはもう一切れしかピザは残っていない。

 

 最後のピザに視線を落とすと、そこに伸ばされた最後の手が視界に入った。

 

「お、奥沢さん……」

 

 俺がその手の主に声をかけると、彼女はにっこりと微笑んだ。

 

「はーい、なんでしょう鳴瀬さん」

 

 少し間延びしたようないつもの返事で奥沢さんが応える。俺は彼女の目を見て次の言葉を発する。

 

「お、奥沢さんは俺のピザを取ったりしないよな?」

 

 そう言った俺の声は間違いなく震えていただろう。

 

 それを聞いた奥沢さんの顔には苦笑いが浮かぶ。

 

「やだなー、鳴瀬さん。私がそんなことをするはずないじゃないですか」

「……! そ、そうだよな! いやー、流石奥沢さんだよ!」

 

 流石奥沢さん! やっぱり《ハロハピ》の常識人枠の絆は硬かった! ありがとう、ありがとう奥沢さん!

 

 俺は、極めて全うな返事をしてくれた奥沢さんを脳内でこれでもかと讃えた。

 

 しかし、その後で俺は気付く。

 

 じゃあ、その伸ばされた手は一体何なのかと。

 

「もちろん私はただ貰うだけじゃなくてちゃんとお返しもしますよ。というわけでごめんなさい鳴瀬さん! 後で私のカレー、分けてあげますから!」

「あ゛~!!」

 

 そう言って奥沢さんの手が最後の一切れのピザを掠め取っていった。

 

 ま、マジか? 俺、一切れしか食ってないんだけど? ど、どういうことなんだよ……これ……。

 

 あまりの酷い仕打ちにただただ呆然とする俺の前で、《ハロハピ》のメンバーたちの手で次々と空いた皿の上に、彼女たちの食べていた料理の一部が乗せられていった。

 

 そうして、微妙なお子さまランチのプレートのようになった俺の皿を見ながら、申し訳なさそうな表情を浮かべてナイフとフォークを持ってきてくれた店員の気遣いを俺は決して忘れないだろう。




なんか中編2も長くなりそうだったので、ここで再度分割しますことよ?

少し休んでいた間に、なんだか私の執筆感覚がガバガバになっていますわね!(元から)

とりあえず、中編は次の3で終わらせますからそのつもりでいらして下さいな!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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