野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。

ストリートライブ編その2。

早ければこの話から他のガールズバンドが絡むかな?


野良ベーシストは下準備が周到である

「はいちゅーもーく!」

 

 俺が叫び声をあげて「パンパン」と手を打つと《ハロー、ハッピーワールド!》のメンバーたちの視線が集まる。

 

「なにかしら、鳴瀬?」

「おー、実はそろそろストリートライブに《ハロハピ》を突っ込んで行こうと思ってなー」

「ライブ!? はぐみたち、またライブできるの!? やったぁ!」

 

 俺の言葉に北沢さんが文字通り跳び跳ねて喜ぶ。まるで、飼い主が久しぶりに家に戻ってきた時の犬のような彼女を俺は苦笑いしながら手で制する。

 

「どうどう。ライブとはいっても、ストリートだから始めから客がいる訳じゃないからな。《STAR DUST(スターダスト)》の時のようにはいかんぜ」

 

 俺の言葉に表情を引き締めたのは松原さんだ。

 

「そうですね。ストリートに出るということは場所によっては完全にアウェー、お客さんがゼロの状態から始めないといけませんからね」

 

 彼女の言葉に俺も無言で頷く。

 

 ストリートでのライブは、事前に告知を打っていなければ基本的には観客ゼロからのスタートだ。

 その日その時その場所をたまたま通りかかった人間の足を己の音だけを武器に引き留める。それだけの純然たるスキルが求められる最高にシビアな世界。それがストリートというやつだ。

 ストリートで成功するのは、ある意味ライブで成功するよりもハードルが高い。ライブの客は間違いなく曲を聴きに来ているのに対して、ストリートにはそんな人間は存在しないからだ。

 もちろん、客が付かないと割り切って演奏している人間もいるが、演奏をみんなに披露したいと思う人間にとってはかなり過酷な環境であると言える。

 

「あー、確かに前のライブの時はチケットの割り当ても、薫さんのファンだけで()けるくらいの人数が最初からついてくれましたもんね」

 

 松原さんの言葉に奥沢さんも同意する。

 

 ライブハウス(ハコ)でのライブに参加するバンドには基本的に割り当てられた枚数のチケットを捌くことが義務づけられる。売れないバンドはチケットを捌けず、結局自腹を切ってチケットを買い取り、それを知り合いにばら蒔いてもまだ余るなんてこともざらだ。

 

 彼女の言う通り、《STAR DUST》のライブでは《ハロハピ》の王子様である薫のファンが先を争うようにチケットを求めたので一瞬で捌けてしまったのだ。あまりの勢いで無くなったので、身内用に確保しようとした分まで出してしまい、家族を誘おうと思っていた北沢さんと松原さんががっかりしていた姿が今でも目に浮かぶ。

 

 とにかく。《ハロハピ》は薫を擁している限り、ライブで客がつかないことがないという、稀有なアドバンテージがあるバンドなのだ。

 

 故に、彼女たちは出来立てのバンドが当たり前のように経験する挫折を知らないバンドであるといえる。

 

 ……松原さんは、その辺りは経験してきてるみたいだけどな。

 

 《ハロハピ》結成前からの唯一の楽器経験者の松原さんは少なくともドラムをやめてしまおうというレベルの挫折を経験している。そこから立ち直ったことは、間違いなく今の彼女の芯になっていることだろう。

 

 そのレベルを他の《ハロハピ》メンバーにも味わって欲しい、とまでは言わないが、やはりある程度の困難には曝さなければならないとは思うのもまた事実だ。困難を乗り越える度にバンドの絆は深まり、良い情熱(パッション)も往々にしてそこから生まれるものだからだ。

 

 そして、挫折を経験するなら早いうちがいい。高く建てたビルと建て始めたばかりのビル、重機で鉄球をぶち当ててそれを早く直せるのは間違いなく後者だ。遅い挫折は時に致命傷に繋がる。

 

 ……とはいっても、最初からシビアなストリートにぶっ込むのもあれだし、とりあえずはみんなの希望の場所から回っていくかな。

 

 ストリートでライブする感覚を身に付けるために、最初はイージーモードから始める。そう考えた俺は再び「パンパン」と手を叩いた。

 

「ま、最初はそこまでシビアに考えなくてもいい。とりあえず全員、ライブハウス以外で演奏したいところ自由に言ってくれ。いけそうならそこを順番に回ろう」

 

 俺がそう言うと真っ先に手を挙げたのはペグ子だ。

 

「はーい! わたしはいつも行く公園がいいわ! あそこでよく遊ぶ子どもたちにライブを聴かせてあげたいのよ!」

「あー、あの公園か。あそこは楽器演奏可能だから管理者に連絡とればいけるな。オッケーだ」

 

 俺がスマホを取り出してメモをとり始めると、すぐに次の手が挙がる。

 

「はーい! はぐみはね、うちのある商店街でやりたいなー!」

「あー、商店街な。うーん、ここは多分演奏許可を警察署に取りにいかないとダメだな。あと、商店街の管理組合にも連絡とって、どこのスペースを借りられるかも相談しないとな。ちょっと後回しになるかもしれないけどいいかな?」

 

 俺が北沢さんに尋ねると彼女は大きく頷く。

 

「うん! はぐみはそんなに急がないから鳴瀬くんのペースでゆっくりやってね!」

「サンキュ、北沢さん。なら、商店街も候補にいれてっと」

「なら、次は私が言ってもいいかな、Mr.鳴瀬」

 

 北沢さんの次に前に進み出てきたのは薫だ。

 

「薫か、どうぞどうぞ」

「私が提案するのはズバリ、羽丘女子学園でのライブさ!」

「うぇ、女子高かぁ……」

 

 薫から女子高の名前が上がった時点で俺は顔をしかめる。男の俺が女子高側と正面切って演奏の交渉をするというのは中々にハードな展開だ。ある意味、商店街よりもきつい条件だと言える。

 

「男の俺が女子高と交渉ってのは苦しいものがあるんだが、どうしてもやりたいか?」

 

 そのことを俺が薫に伝えると薫は申し訳なさそうに首を立てに振った。

 

「ああ、私事ですまないのだが、《STAR DUST》での初ライブ以来、チケットが取れなかった子猫ちゃんたちに『次のライブはいつなんですか』とせっつかれてね。それならいっそのこと学校でやってしまえと思ったのさ」

「あー、なるほどなー……」

 

 これはライブ後しばらくしてからわかったことなのだが、実は薫の売っていたチケットの購入に漏れた子猫ちゃんたちは思いの外大勢いたようなのだ。

 しかも、中にはライブのこと自体知らなかった子もいたらしく、ライブの話は尾ひれがついて広まって、薫王子の次のライブは子猫ちゃんたちの垂涎の的らしい。

 当然、元締めの薫のところに子猫ちゃんたちが向かって行くのは必然であり、彼女はその対応に苦慮しているという話も少し前に聞いていた。彼女への負担を減らすためにも、羽丘女子学園でのライブは既定路線で進めるしかないだろう。

 

「状況が状況だけに仕方ない、か。わかったよ薫、羽丘でのライブも何とかしよう」

 

 そんな俺の言葉に薫は笑顔で応える。

 

「感謝するよMr.鳴瀬! もし、学園との交渉をするときにはわたしも同席させてくれないか、きっと上手くことが運ぶはずさ」

「おお、それは心強いな。頼むよ、薫」

「ああ、任せたまえ!」

 

 そして俺と薫がアイコンタクトをとって頷き合うと、その横でおずおずと手が挙がった。

 

「あ、あの、わたしはストリートライブをやるなら駅前がいいです。あそこはこころちゃんが私を《ハロハピ》に誘ってくれた思い出の場所だから、もう一度ちゃんと演奏したいなって……」

「やーん! それ、とっても素敵よ、花音!」

「わわっ、こころちゃん!?」

 

 松原さんの言葉に感極まったペグ子が急に松原さんに飛びついて、驚いた松原さんは目を白黒させながらもペグ子の顔を見て微笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、ありがとうこころちゃん」

「こちらこそよ、花音。それに、駅前は私が鳴瀬に初めて出会ってバンドをするきっかけになった場所だもの。ここは外せないわ!」

 

 そう言って俺の顔に向かってビシッと指を突き付けてくる無礼なペグ子の右手を払い除けながらも、俺は松原さん提案の駅前ライブに首肯する。

 

「こら、こころ。俺に指を突きつけるな無礼者め。んで、とりあえず駅前のライブはオッケーな。あそこは町のパフォーマー特区になってるから、よほど大がかりなセットでも作らない限りは許可も要らないし問題なしだ」

「やったわね、花音!」

「えへへ、よかったねこころちゃん」

 

 俺の許可に顔を見合わせて笑う二人。そんな二人に俺は忠告の言葉を告げる。

 

「ただ、気を付けたいのは、さっき言ったように、駅前はパフォーマー特区だってこと。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだ」

「……!」

 

 この言葉に他の《ハロハピ》メンバーにも緊張が走る。

 

「だから、ここは客を集める以外にも、条件次第では客の取り合いになる場所だ。今までの提案の中では一番シビアだと言える。松原さん、それでも駅前でOKかい?」

 

 俺がその事実を踏まえた上で改めて松原さんに話を振る。しかし、それでも彼女は首を縦に振った。

 

「はい、その可能性も頭の中にありました。それでも私は駅前を希望します。今の私たちなら、あそこでも通用するって信じられますから」

 

 そう言い切った松原さんの瞳には確かに強い光が宿っていた。初対面の時の彼女はどこに行ったのやら。本当にこのバンドで一番成長したのは松原さんなのかもしれない。

 

「オッケー、じゃあ駅前も決定だ。ただ、順番的には後回しだな。それじゃあ最後に奥沢さん、どこか希望はあるかな?」

「んー、希望ですか。私はこれと言って強い希望はないのでどこでも。強いて言うなら、ミッシェルが動きやすいところですかね。DJデビューはまだ先になりそうなので、とりあえずパフォーマンス優先でお願いします」

「なるほど、じゃあ奥沢さんの分はこころとは別のどこか広い公園にしようか」

「じゃあそれでお願いします」

 

 そう言って奥沢さんはペコリと頭を下げた。

 なんだかんだでパフォーマンスのことを気にしている奥沢さんも、やっぱり《ハロハピ》メンバーの一員としての自分について色々と考えているようだ。

 

「よーし、それじゃあストリートに向けて全員練習再開だ! 俺はこれからしばらく渉外作業でいないこともあるけど、ちゃんとするんだぞ」

「おー!」(×5)

「よし、それじゃあ目標に向けていつものやつを頼むぞ、こころ!」

「わかったわ鳴瀬! さぁ、みんな! ストリートライブに向けて《ハロハピ》出発よ! せーのっ!」

 

 

「ハッピー、ラッキー、スマイル、イエーイ!!」(×6)

 

 

 こうして、俺たち《《ハロハピ》はストリートライブに向けて舵を切った。

 

 しかし、この時の俺はまだ、この中のあるストリートライブがあんなに大勢のガールズバンドを巻き込んだ一大イベントになるとは、まだ知るよしもなかったのである。

 




というわけで今度は短めです。

他のガールズバンドは次回に持ち越しということで許してクレメンス!

話の流れ的に次回は確実に出るので許してくださいまし! 何でもはしませんけど!(ルール違反)

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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