ストリートライブ編5。
今回はがっつりと、あるガールズバンドのメンバーが出ます。
どのキャラがどう関わってくるのか本編をお楽しみに!
【アンケート協力のお願い】
ラストのサイドストーリー美咲ちゃん編のアンケートをとっております!
おそらくこの話を含めてあと3話で〆る予定です。
《ミッシェル結婚式ルート》か《おばあちゃんの田舎訪問ルート》か、読みたい方にがんがん投票してくださいまし!
あなたの一票で『野良ベーシスト』の未来が変わる!
ーー○○駅。
町と町、人と人を繋ぐこの町の一大公共施設。
しかし、俺は駅の方には目もくれず、駅前に設けられた緑地帯のある広場へと向かっていく。
「いやー、なんかここに来るのもひさしぶりだなっと」
思わずそんな言葉を呟きながら、車輌侵入禁止用のポールに引っかけないように手に下げたアンプを持ち上げながら広場に足を踏み入れる。
元々、この駅前広場は《バックドロップ》に所属していた頃の俺にとってはホームグラウンドとでも言うべき場所だった。なんなら、実家を離れて寮生活をしていた高校時代にも当時のバンドメンバーと何度か足を運んだこともある。俺にとってはそう、いわば人生の一部のような場所だ。
この広場は市が「アーティスト特区」と銘打って造った公共施設であり、その最大の特徴は「一部の大がかりなライブ・ダンス・パフォーマンス等を除き、許可を取らずにこれを行うことを可とする」と、フリーライブのお墨付きが出ていることだ。8:00~19:00まで許可されている音を出すパフォーマンスの時間ならばバンドの演奏だってやりたい放題となるのだ。
そんな金のない学生バンドやパフォーマーたちにはこの上なくありがたいこの広場は、いつだって誰かが何かしらの芸を披露してしのぎを削る戦場と化している。
俺が《
戦いの後に芽生える絆。
まるで少年漫画のような展開が起こるのもこの場所の魅力の一つだった。ストリートのシビアな評価を恐れないバンドマンたちは、今でも俺の大切な同志達だ。
「さーて、そろそろ場所を確保するか。いい場所を押さえんことには話にならんしな」
一通り広場を眺めた俺は、そう呟いて早速演奏スペースの確保に移る。
バンドは機材の都合上、他のパフォーマーと比べて圧倒的にスペースを取る。なので、早めにいい場所をキープしないと後からねじ込むことは困難だ。しかも、ここは許可証のいらないフリースペースということで場所取りの競争率も高い。
《バックドロップ》のようなスリーピースバンドならまだしも《ハロー、ハッピーワールド!》は5人組、人が増えればまず間違いなく大きく取れる場所は広場でも目立たないスペースになるだろう。
しかし、現在の時刻はまだ朝の8時。見せるべき相手がほとんどいない広場は閑散としていて、まだ発展途上中と思われる数人のダンサーとパントマイマーがスキルを磨く練習をしている最中だった。
俺は広場の中でも中央の最も開けたスペースに近いところに立つと、鞄から取り出したガムテープで地面を目張りしていく。ここでは、誰かを一人その場所に残して後から回収さえすればガムテープでの場所取りも許されているのだ。
「おっし、こんなもんか。さてと、あとはあいつらが来るのを待つだけだが……」
ガムテープの陣地を作り終えた俺は、持参してきていた、
「……やっぱり、何もしないで待つなんて手はないよな」
そう、俺がこんなに朝早くから広場のスペースを確保しに走ったのは何も《ハロハピ》のためだけではなく、自分が演奏するためでもあったのだ。
特に最近は《ハロハピ》の練習にお熱だったので、自分の練習が疎かになっていた。この胸の内に燻る炎を慰めるのは、やはりストリートという名の戦場に他ならない。
ギグケースからMB-40を取り出して、ストラップを首にかける。シールドをストラップに巻き込む形にして抜け防止にする。そうしてアンプとベースにプラグを繋げばもうストリートライブは開始直前だ。
トーンとボリュームノブを回し、4弦をスラップ。
………ッボーン。
あまりにも心地の良い低音が、澄んだ早秋の空気に響く。それはどこか、凪いだ水面に落ちた
音が止む。恐ろしいまでの静謐。あたかも完璧であるかのような調和の取れた空間に、今から俺は
深呼吸を一つ。ゆっくりと口から吸い、その倍の時間をかけて鼻からはきだす。
……さぁ、
心の中の覚悟と共に、俺の十指が弦の上を踊り始めた。
◇◇◇
「……っ!」
思わず零れそうになる舌打ちを堪えながら、止まりそうになる左手の小指を必死に動かす。
俺が演奏をし始めてからもう30分が経つ。指も温まってきた現在、俺はトリル奏法の強化のための自作のドリル譜面を黙々と弾いていた。
トリルとは左手の指で弦を叩いて音を出す「ハンマリング・オン」と、逆に弦を引いて音を出す「プリング・オフ」の動作を高速で繰り返す奏法のことだ。
基本的に右手のピッキングで音を出すベースだが、ピックを使うにしろフィンガースタイルにしろ、あるいはチョッパーで叩くにしろ、弦を弾いた直後に再び同じ弦から音を出すのは難しい。そこで、このトリルに使われる二つの奏法を用いることで、ピッキングの隙間を埋める。するとベースやギターは、より断続的に音を刻むことができるのだ。
他にも、通常のピッキングでは出ない微妙なニュアンスを出すのにも「ハンマリング」と「プリング」は使われていて、この二つはギタリストとベーシストに広く求められるスキルだと言える。
……でも、続けると、めっちゃ、しんどい、んだよな、これっ!
「ハンマリング」や「プリング」は、メインの弦を押さえている指とは別の指で行うことが多い。例えば、人差し指で5フレットの音を出しているときに、一瞬7フレットの音を出したいなら指板の距離の都合上、薬指や小指で「ハンマリング」する他ない。
つまり、普段は余り使わない指をフル活用せねば成り立たず、そのせいで指が馬鹿みたいに酷使されるのだ。
「…………んっ、…………くっ」
特に今は練習曲ということもあり、この譜面にはあり得ない密度でのトリルが含まれている。歯を喰いしばって更に声が漏れるのも仕方のない話だ。
しかも、オーディエンスが、ついてる、からな。ダセェ、姿は、見せられんぜ!
更に俺が耐えなければいけない理由として、俺の演奏を聴くオーディエンスの存在があった。
最初のころは気づいていなかったのだが、いつの間にか周りのパフォーマーや、朝の散歩なんかに繰り出していた道行く人の何人かが足を止めて俺の演奏に耳をすましている。
たとえ偶然俺の演奏に足を止めた人であっても、いや、偶然足を止めてくれた人だからこそ、ダサい俺の姿は晒せない。その人が生涯でたった一度しか聴かない俺の演奏がダサいものであっていいはずがない。
いつだって、俺は、最新で、最高の、俺を、届けるんだよ!
周囲の視線を浴びて、曲はいよいよクライマックスに突っ込んでいく。
……ベベッベベッベッベ……
絶え間なく響く低音。
もっと音を。
もっと密度を。
指が、心が、魂が追い求めていく。
……これでっ、終わりっ!
左手がグリスで弦の上を滑り音がうねる。そのうねりをしっかりミュートして切ったあと、最後にスラップ。
……ヴーーーン,ベェン!
「………………っし!」
パチパチパチ………
振り下ろした右手を跳ね上げ高く掲げると、周囲からささやかな拍手が起こる。
そして、ある人物たちの前で頭を下げたとき、ふと気づく。
「どうも……ん? あれ、君たちって……」
俺が頭を下げたのは三人組の少女たち。《ハロー、ハッピーワールド!》を除けば、あまり女性関係には縁のない俺だったが、それでも目の前の少女たちには見覚えがあった。
俺の言葉に三人組の中央、銀糸のきらめきを放つ長く伸ばした美しい髪の少女が軽く頭を下げる。
「その節はどうも。基音さん、でしたよね?」
「ああ、やっぱり。羽丘女の、えーっと、湊さん、だったかな」
「ええ、湊友希那です。おはようございます」
「やっぱり! こちらこそおはよう。いや、偶然だね」
お互いに探るように名前を言い合って、無事に正解だった俺たちは軽く微笑みあって挨拶を交わす。
もっとも、疲れていた俺の微笑みは少しぎこちなかったかもしれないが。
しかし、そんなことは気にしないといった様子で湊さんは会話を続ける。
「はい、今日はたまたまスタジオに行く途中でここを通りかかったんですが、そうしたら今井さんが『あちらからすごいベースの音がする』って走り出してしまって」
「いやー、だってベースの音が聴こえたら同じベーシストとしては聞き逃せないじゃん?」
そう言って、恥ずかしそうに赤茶色の長い髪の毛を弄るのは今井さんと呼ばれた少女だ。
「それでも、私たちに同意を求めずに走り出すのはどうかと思うわ」
「あははー、ごめーん紗夜!」
正論オブ正論、といった言葉で今井さんを窘めたのは艶やかな翠の髪の毛を持つ、恐らく氷川さんという少女だったはずだ。
そう、俺の目の前の三人組は俺が羽丘女に《ハロハピ》をライブに連れて行ったとき、俺のことを不審者として
結局、あの後すぐに誤解は解けたのだが、やはりなんというかこちらとしては一部の気まずさが残る別れとなった。
しかし、目の前の少女たちはそんなことは気にならないといった風に会話を続けている。
「でもさ、実際すごかったっしょ?」
「……ええ、確かに今井さんがそう言うだけのことはありましたね。今井さん、貴女は今の曲を弾いたりできますか?」
「え、……あははー、多分、いや、間違いなく無理。後半のトリルとか、何であんなに連続で弾き続けられるのかちょっとわかんないかなーって。アタシだったら半分ぐらいのところで指がもたなくなると思う」
「へぇ、リサでもあれは再現できないのね」
口々に俺の演奏の感想を述べ合う少女たちの会話を聞いて、俺はふとあることに気づいた。
「……んん? そういえばさっきから曲が弾けるだのどーのこーの言ってるけど、もしかして君たちって」
「あ、そういえば言ってませんでしたね。アタシたち、実は《Roselia》ってバンドやってるんですよー! リーダーは友希那でボーカル。紗夜はギターで、アタシはお兄さんと同じベーシストやってます!」
同じバンドマンということがわかって俺は自分の顔が自然に綻ぶのが分かる。いつだって、新しいバンドマンとの出会いの
「へぇー! そりゃ偶然だな、じゃあ《
気分がよくなった俺の問いに湊さんが頷く。
「はい、私たちと同じガールズバンドということで。ですがーー」
そこまで言って、湊さんは躊躇ったように言葉を切る。しかし、すぐにそんなことは無意味だと思い直したのか、引き締まった表情で言葉を続けた。
「ーーそこまで期待はしていませんでした」
「わっ!? ちょっ、友希那!?」
湊さんの感想に、今井さんが慌てた表情で彼女の口を塞ごうとする。
しかし、俺は慌てる彼女を手で制して「へぇ、そりゃどうして?」と湊さんに続きを促す。
湊さんは軽く頷くと、今井さんの不安そうな視線を浴びながら言葉を続けた。
「私たち《Roselia》は、メジャーデビューを目標に掲げたシリアスなバンドです。だから、あなた方が結成してまだ一年も経っていない、ライブも一度しか経験していないバンドだと聞いて、私たちの糧にはならないと、そう思っていました」
……ふぅん、「糧」ねぇ。俺たちは自分達が上に行くための
湊さんの言葉を聞いて俺はなるほどと得心がいった。確かに、メジャー志向の彼女にとっては、自分の引き出しを広げる質の良いバンドの演奏はともかく、温いお遊戯会みたいな演奏を聞いている暇はないはずだ。
言ってくれるねぇ。……でも、嫌いじゃないタイプだな。
俺は心の中で湊さんの評価を上げた。バチバチにメジャーを目指すなら、自分はスパッと前に出していくべきだ。たとえそれで誰かを敵に回したとしても、それ以上の味方を作れば批判しか能のない者など路傍の石未満の障害だ。
でかく勝つためにはでかいリスクを背負わなければならない。湊さんはそれが判るタイプの人種なのだ。
つまり、それは彼女は
そんな湊さんは、再び言葉を区切ると、今度は言葉を少し選ぶような仕草を見せてから口を開いた。
「でも、蓋を開けてみればそれは間違いでした。《ハロー、ハッピーワールド!》の演奏、そしてパフォーマンス。あれが結成わずか一年未満のガールズバンドなのかと脱帽させられました。彼女たちは恐ろしく強い。少なくとも私の背中に火を着けるほどに」
「そうかい。確かに、レースでも先に飛び出した奴ほど後ろを走るやつが気になるもんだからな」
俺の言葉に湊さんが頷く。
「はい、その通りです。ほんの数ヵ月前まで楽器も知らなかった彼女たちがどうしてそこまで強くなれたのか。私は理由が知りたかった。そして、私は今その答えを得ました。……基音さん。あなたがいたから彼女たちはあそこまで飛べたのですね」
「……まぁ、俺が全てって訳ではないけど、俺も理由の一つではあるだろうな」
この言葉は全くの俺の本心だ。
俺がいなければ《ハロハピ》はここまで伸びなかっただろうが、彼女たちに素質がなければ俺が叩いたところで意味がなかっただろう。屑鉄はいくら叩いて伸ばそうとも屑鉄のままだ。不純物を取り去って正しく叩かなければ、鉄もその真価を発揮することは不可能だ。
彼女たちはその心に
故に《ハロハピ》の今は俺だけではない、俺たちで創ったものなのだ。
その事を湊さんは知る由もないだろうが、俺の言葉に感じるところがあったのか、今までで最高に真剣な表情で俺の瞳を見据える。
「基音さん、そんなあなたを見込んで少しお願いをしたいのですがよろしいですか」
「ん、願い事の内容次第だな。取りあえず言ってみな」
「お願い」という言葉を聞いて、氷川さんと今井さんの二人は怪訝そうな表情を浮かべた。これは二人には想定外の言葉だったらしい。
氷川さんが少し何か言いたげな表情をつくったが、湊さんが少し見ていてというような手振りでそれを制した。
俺は黙って言葉を待つ。
そして、氷川さんを制した湊さんはすぐにその口を開いた。
「私たち《Roselia》は今からスタジオで練習をする予定なんですが、演奏を聴いていただけませんか?」
「俺が? 別に構わないが……いいのか?」
「はい、そして忌憚のない意見を聞かせてほしいのです。私たちに足りないものはなんなのかを」
「それは俺だけではないアドバイスが欲しいってことか? でも、プロじゃないから俺ではためにならないかもしれないぞ?」
確かに、俺のスキルは彼女たちよりも上かもしれない。しかし、俺もまだプロという訳じゃないから立場は彼女たちと同じだ。出せるアドバイスも経験則から来るものなので、彼女たちには的外れかもしれない。
そのニュアンスを滲ませた返答だったが、湊さんは首を横に振った。
「それでも、構いません。先程の演奏を聴いて、あなたも私と同じで本気でプロを目指す人間だと直感しました。だからこそ、すでに
「……なるほど、確かにそれは大切なことだ」
アドバイスというものは誰が出すかによっても効果が変わる。
例えば、アル中の無職と、大学の教授が同じ言葉を口に出したとしても、説得力は後者の方が上だろう。
そして、バンドにおいてもそれは同じだ。
すでにプロデビューを決めた人間のアドバイスはためになるだろうが、それはただ「彼らが辿った道をなぞるだけ」だ。それで生まれるのは結局、先行者の
しかし、同じ立場の人間でなおかつ利害関係にない者の意見なら話は違う。完成したパッケージのプロと違い、プロになるために同じ方向を向いて様々な戦略を試す者の意見なら、その中から自分なりの答えのパーツを見つけることもできるだろう。利害の不一致によって足を引っ張られることもないし、身内への忖度をされることもない。
アドバイザーとして、これ以上の立場の存在はないだろう。
そんな湊さんの言葉の真意を汲み取ったのか、氷川さんと今井さんの二人も納得した表情を作る。
「確かに、同じ立場に身を置く者の先駆者として、貴重な意見が出るかもしれませんね。私からもお願いできませんか、基音さん」
「アタシも、同じベーシストとして色々聞けたら嬉しいかも! お願いします、基音さん!」
「厚かましいお願いだとは思いますが、どうでしょうか基音さん」
そう言って、三人は深く頭を下げる。
流石に、年下の女の子たちにそこまで言われて断るようでは男が廃るというものだ。
……ペグ子も、初手でこれくらいしおらしい態度だったら俺もちょっとは…………無理か。あり得ない仮定はよそう、うん。
「……基音さん?」
「ん……ああ、何でもないよ!」
俺が妄想に耽っていたことを見咎めた湊さんが怪訝な表情を浮かべたので慌てて両手を振ってアピールする。
「あー、そこまでされたら流石に俺も無下にはできないな。ためになるかは分からないけれど、俺のアドバイスでよければしてあげるよ」
「……! ありがとうございます」
俺の言葉に湊さんがその顔に微笑みを浮かべて頭を下げる。
「そんなに畏まる必要はないって。頭を下げるなら、俺のアドバイスがためになったときに下げてくれ」
そう言うと、湊さんはようやく頭を上げてくれた。
「分かりました。では、私たちは今からこの先の《CiRCLE》というスタジオで練習する予定ですのでご同行願えますか」
「……なんか、『ご同行願えますか』って言われると羽丘女で連行されたときのことを思い出すな」
「ぶふっ!」
俺が過去の苦い思い出に触れた瞬間、今井さんがそのときのことを思い出したのか思わず吹き出していた。
それを見た湊さんが、少し慌てた様子で俺と今井さんを交互に見つめた。クールビューティーかと思っていた彼女がそんな表情もできたことに少し驚く。
「あっ、ご、ごめんなさい。そういうつもりで言ったわけでは……リサも笑わないの」
「だ、だって、仕方ないじゃん。あの時の両手を縛られて警備員に連れられてとぼとぼ歩く基音さんを思い出したら……ふふっ」
「あれは確かにしゃーないわ。俺も悪かったし」
「そ、そうですか。なら、いいのですけど」
そして、なんとか平静を取り戻した湊さんに、先程からスマホを操作していた氷川さんが声をかける。
「湊さん、宇田川さんと白金さんはもう《CiRCLE》についたみたいです。私たちもそろそろ……」
「分かりました。それではよろしくお願いします基音さん」
「あいよ、っと、その前に二ついいか?」
「……はい? どうかされましたか?」
「一つは基音さんは他人行儀で固いから、俺のことは鳴瀬でいい。どうせ歳も5つも離れてないんだ、同じバンドマン同士気楽にいこう」
俺の言葉に湊さんが頷く。
「分かりました鳴瀬さん」
「それでは……よろしくお願いします鳴瀬さん」
「鳴瀬さんよろしくね~」
呼び方を変えた湊さんに続いて二人も俺のことを「鳴瀬さん」で呼ぶ。それを確認した俺も一つ頷く。
「おう。ちなみに男の俺は女の子の名前を軽々しくは言えないから名字呼びさせてもらうからな。《ハロハピ》でも、リーダーのこころと名字の響きが伝わりにくい薫以外は名字で呼んでるし、そこは理解しておいてくれ」
そこまで言うと、今井さんが意外というような表情を浮かべた。
「えっ、じゃあもしかして鳴瀬さんって、リーダーと特別な関係だったりするんですか~!?」
「……どうしてそんな恐ろしい想像になるのかな今井さん?」
「だって、特に理由もないのにリーダーだけ名前呼びなんて、そーいうこと疑うなって方が難しくありません?」
確かに、理由もなく名前で呼んでたら親密な仲を疑われるのもしゃーないか。とりあえず、変な誤解の根は早めに断ち切っておくか。尾ひれがついても嫌だし。
そう冷静に判断した俺はすぐに今井さんの誤解を解くために動いた。
「いや、あいつの場合は出会った時に名前で呼ばないと会話がエンドレスリピートしそうだったんだよ」
「へー! ちょっとその辺りの話、《CiRCLE》に着くまでにお聞きしてもいいですか!」
「えー……、聞いても何にも面白くないと思うぞ?」
「それでもいいですから!」
「はー、分かったよ。でも、その前にもう一つ」
そこまで言って俺はジーンズのポケットからスマホを取り出した。
「実はここ、《ハロハピ》のストリートライブのために確保してたんだよ。だから、代わりの待機要員を呼ばせてくれ」
「ああ、そういうことでしたらどうぞ」
「悪いね。多分、代わりが来るまでにそんなに時間はとらせないから」
俺はスマホを立ち上げると、電話帳から「黒服's」というアドレスを呼び出しコールボタンを押す。一回目のコールが鳴り止まない内に通話画面が開く。
「はい、鳴瀬様。こちら、こころお嬢様親衛隊の黒服でございます」
「あー、お忙しいところすみません。実は今《ハロハピ》のための場所取りをしていたんですが、急遽用事が入りまして。できれば場所取りを代わっていただけないかなと」
「承知しました。ちなみにその場所は」
「あ、駅前の緑地帯のある広場です」
「承知しました。もう、交代の者が向かいましたので大丈夫です」
「あ、そうですか。いつもありがとうございます」
「いえ、いつもお嬢様の無茶を聞いてくださる鳴瀬様の頼みとあれば、私どもも助力は惜しみません。それでは、後は現地の黒服が引き継ぎますので、私はこれで失礼します」
「どうもー、失礼します」
うーん、やっぱり困ったときは黒服の人だな!
黒服の迅速な対応に感謝の念を覚えながら、俺はもう大丈夫だと伝えるために三人の方を振り返る。
「待たせたね、交代の人と連絡がついたからしばらーー」
「鳴瀬様、お待たせいたしました」
「ーーくもかからなかったわ!? 早くないですか!?」
俺が言葉を言い終わる前に既に現れていた黒服に、流石の俺も驚いた。
三人も突然湧いたように現れた黒服に戸惑いを隠せない様子で辺りをきょろきょろ見渡していた。
そして、交代要員の黒服は俺の言葉を受けて当然と言わんばかりに胸を張る。
「それはもちろんです。鳴瀬様は我々黒服にとって、こころお嬢様の次にお仕えしなければならないVIPでございますから」
「ええ……、弦巻家での俺の扱いってどうなってるの?」
というか、もしかして俺、黒服の人たちに見張られてたりするの? なにそれ、怖い。
「さぁ、鳴瀬様! ここは私に任せて早くお役目をお果たし下さい!」
「あ、うん。そうね」
なんだか、返事もそこそこに黒服の人に背中を押された俺は、戸惑う気持ちを抱えたまま、三人と共に《CiRCLE》に向かって歩き始めた。
道中、今井さんから黒服の人たちのことも含めて俺とペグ子の関係を根掘り葉掘り聞かれたことはもちろん言うまでもなかった。
というわけで、出たのは《Roselia》の三人でした。
あまり書かないメンバーなので口調がトレスできていないかもしれません。というか、初期の友希那さんと沙夜さんの書き分け難しくない……?(震え声)
そして、登場想定していた友希那さんだけが登場するストーリーから大幅に方向を変えたのでまさかの分割。本当は軽く縁が結ばれるだけにする予定が、まさかのガッツリ大盛りに。コンナハズジャナイノニィ!!
まぁ、ブリーチの久保師匠もライブ感は大切って言ってたから、多少は、ね?(全然多少ではない)
というわけでストリートライブ編はライブ編だけにライブ感増し増しでお送りしますわよ!
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
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田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。