ストリートライブ編その6。《Roselia》パート2です。
ここで《Roselia》のメンバーが全員出る予定です。多分、後編に分割します。
【アンケートについて】
美咲ちゃんのサイドストーリーは《Roselia》パート後編投下時点で締め切らせていただきます! 過去最高に投票してくださって感謝感激でございます!
【お礼】
前書き時点でUAが40000を越え、お気に入りが470になりました。多くの方に見てもらってありがたいことでございます。
とりあえずはお気に入り500を目標にコツコツ投稿しますので、ご愛顧よろしくお願いいたします!
《CiRCLE》は、駅からかなり近場にある、立地としてはかなり恵まれたライブスタジオだ。
地上一階地下一階の構造のこのスタジオは、一階はスタジオを兼ねたラウンジ、地下にラウンジと数部屋のスタジオを備えたコンパクトな造りである。故に人数をたのみにした収益は見越せないタイプのスタジオといえる。
しかし、完成して日がまだ浅いスタジオということで注目度は上々。お洒落な外観と内装も相まって、ひっきりなしにガールズバンドの予約で埋まる人気店だ。
さらに、店の真正面にはカフェスペースを備えた広場があり、天気のよい日はカフェ目当ての客でも賑わう。むしろカフェの方が儲かってそうなレベルで、ガールズバンドブームにうまく乗り多角経営に成功したスタジオだと言える。
「うーん、やっぱり《CiRCLE》はキレイだな。この華やかさは一昔前のスタジオとは違うなー」
店舗の正面に立った俺は思わずそう漏らす。
普段お世話になっている親父さんの《
「そうですね、私たちは機材が新しいという点で選んでいるんですが、そういった観点から利用するガールズバンドも少なくないですね」
誰にともなく呟いた俺の言葉を拾って氷川さんが応えてくれる。
「色々な要素が兼ね備えられてるんだな。とりあえず中に入るか。残りの二人は中で待ってるんだろ?」
「はい、もう受付を済ませてロビーで待機しているようです。行きましょう」
「おう」
促されるままに扉を潜ると、「いらっしゃいませ~」と間延びした挨拶が聞こえる。白と紺の太いボーダーカラーのシャツを着た若い女性の店員が湊さんたちの方を向いて微笑むと、俺の顔を見て「おや」という表情を浮かべる。
しかし、それも一瞬のことで、店員はすぐに接客用の笑顔を浮かべると俺の方にしっかりと体を向ける。
「いらっしゃいませ! こちらはスタジオ《CiRCLE》です。ご新規の方ですよね? 今回はご予約での来店でしょうか?」
「あー、いや、俺はそうじゃなくてーー」
「彼は私たちと一緒のグループよ、まりなさん。今日は演奏のアドバイスをもらうためにここにお呼びしたの」
「ーーというわけです」
新規の客と間違えられ、慌てて訂正しようとする俺を遮り、湊さんが的確な説明を入れてくれる。ありがたい。
「へぇ、そうなんですね! ……あの、つかぬことをお伺いしますが」
「……なんです?」
「もしかして、お兄さんは《Roselia》のどなたかの彼氏さんだったり?」
声のトーンを落として探るような視線で問いかけるまりなさんと呼ばれた店員に俺は首を左右に振って答える。
「いや、全然。というか、《Roselia》の方とはつい先日あった羽丘女子学園のライブで知り合ったばかりなんですよ。ここにいる三人以外のお二人とは今日初めて会うぐらいの関係です」
「あら、そうだったんですね。すみません、てっきり『あの《Roselia》のメンバーに彼氏が!?』ってスクープかと思いまして」
まりなさんは恥ずかしそうに頭を掻く。四方津の親父さんといい、やはり、年頃の男女が一緒にいれば何でもかんでも恋愛に結び付くものなのだろうか。この辺りは俺にはよくわからない感覚だ。
「はぁ……。まりなさん、私たちは今そんな色恋にうつつを抜かしているときじゃないんです」
「ええ、湊さんの言う通り、私たちは今が勝負の時といっても過言ではありません」
「まー、アタシは恋愛に興味が無いわけじゃないけど、今じゃないってのは同感かな~」
「あ、あはは……これは失礼しました~」
《Roselia》の三人に集中放火を浴びたまりなさんはすごすごとカウンターの中に戦略的撤退を決める。カウンターの中に入り、その影にすすっと体を隠すまりなさんの、その背中にはどこか哀愁が漂っていた。
「それにしても、宇田川さんと白金さんの姿がありませんね」
「そういえばさっき受付前で待ってるって言ってましたね」
きょろきょろと辺りを見回す氷川さんに、俺も同意して辺りを見回すがロビーには俺たちの姿しかない。
すると、俺の目の前でカウンターからニュッと手が生えて地下に続く階段を指差した。
「お二人なら地下のラウンジですよー。さっき受付がちょっと混んだので避難したんです」
「なるほど、ありがとうございます、まりなさん」
「いえいえ~、ごゆっくりどうぞ~」
俺がお礼を言うと、まりなさんは相変わらず姿は見せず、手だけをヒラヒラと振って応えてくれた。
……結構お茶目な性格なのか?
そんなことを頭の片隅で考えながら、俺は一度階段の方に頭を向けてから、三人の方を振り返る。
「んじゃ、ラウンジに下りますか」
「はい」「ええ」「ですね」
三人の同意を受けて俺は、階段を下る。
下ったその先は多人数掛けの大きなソファとテーブルが備わった中々に広いラウンジがあった。これだけの規模だと、恐らく隣の店舗の地下までぶち抜いているに違いない。
そして、ラウンジのソファには先客が二人座っていた。
一人は少し幼さの残る顔立ちの少女で、菫色の髪の毛を二つにくくり、その服装は白黒モノトーンのドレスのようなデザインだった。いわゆるゴシックロリータというやつだろうか。華美な装飾のフリルが目立つデザインである。
もう一人は、先の少女と比べて遥かに落ち着いた雰囲気の少女だ。黒絹のような艶のあるストレートの長髪を丁寧に刈り揃え、服装は白のブラウスに黒のロングスカートとこれまたモノトーンなのだが、こちらは徹底して装飾を排し、シックな落ち着きに包まれている。
階段を下りる足音に気づいていたのかこちらを見上げていた対称的な二人の少女は、俺を見ると再び元の会話に戻ろうとしたが、続く三人が現れるとその瞳を輝かせた。
「あっ、りんりん! みんな来たよ!」
「あ、あこちゃん本当ですね」
満面の笑みを浮かべた「あこちゃん」と呼ばれた少女に、「りんりん」と呼ばれた少女が微笑んで同意する。流石に「りんりん」は本名ではないだろうから、恐らくニックネームだろうが、もしかすると「あこちゃん」の方は「あこ」が本名なのかもしれない。
「ごめんなさい。待たせたわね、二人とも」
「そんなことないですよ! あこたちもホントについさっきまでロビーに居ましたから!」
「はい、それにゲームの話をしていましたから、あまり待っている感覚もありませんでしたし」
ふーん、もうちょっとシリアスな雰囲気のバンドかなって思ったけど、結構和やかなところもあるんだな。
湊さんの言葉に対しての気遣いを見せる二人の姿を眺めて、俺は《Roselia》への評価を少し修正する。
バンドを評価する上では、演奏技術はもちろんだが、バンドの持つ特性というものも大切だ。特にアドバイスをするときには技術面よりも後者が重要になってくることが往々にしてあるのだ。
そんなことを考えつつ、俺が《Roselia》のメンバーを眺めていると、宇田川さんと視線が合った。彼女は探るような視線で俺の顔を眺めると、再び湊さんの方を向く。
「友希那さん、さっきから気になってたんだけど、あっちのお兄さんって友希那さんの知り合いですか?」
「ん? ああ、えっと……」
「ええ、そうよ」
突然話題の中心に持ってこられた俺がどう返答したものか考えあぐねていると、先手を打って湊さんが口を開く。
「宇田川さんは、先日の
「もちろんですよ! あこたちの《Roselia》とは違うけど、聞いていてワクワクするような凄く楽しいバンドでした!」
宇田川さんが胸の前で握り拳をグッと固めて答える。その力の入りようと、キラキラした瞳の輝きから判断するに、彼女の本心からの言葉らしい。あまり腹芸ができるタイプにも見えないからまず間違いないだろう。
そして、そんな宇田川さんの反応を見て湊さんが軽く頷く。
「ええ、私たちとは方向性は違うけれど見るべきところは多いバンドだったわ。そして、その《ハロー、ハッピーワールド!》の演奏を、たった半年程度の期間であそこまで仕上げたのが彼、基音鳴瀬さんなのよ」
「ええ!? 本当ですか!」
「す、凄い……」
宇田川さんが驚きに目と口を丸く開き、白金さんの口からも思わず言葉が零れた。
「んー、半分は《ハロハピ》のメンバーの素質もあるけどな。そう、俺が《ハロー、ハッピーワールド!》のアドバイザーで、今はプロモーターみたいなこともやってる基音鳴瀬だ。一応の肩書きは、早応大の二回生な。適当に鳴瀬とでも呼んでくれ」
そう言って軽く右手を挙げると真っ先に反応したのは目の前にいる宇田川さんと白金さんではなく、俺の後ろにいた氷川さんと今井さんだった。
「えっ、基音さんって早応大の方だったんですか?」
「ホントに!? 頭いいんだ~!」
「一応、英文科に特待生として籍は置いてるけど、私大だからなぁ。全教科満遍なく強いわけじゃないから、頭がいいというよりも要領がいいみたいな感じだよ」
そう言って俺は右手で後頭部を軽く掻く。学業に関しては誉められることにはあまり馴れていないので、こそばゆく感じる。
しかし、それでも氷川さんと今井さんの俺を見る目付きは先程とは変わったままだ。
「なるほど。それだけの学力があれば、短期間でバンドの力を伸ばせたというのも頷ける話ですね」
「これはいいアドバイスが期待できるかもね~!」
「そ、そんなに大したことないと思うぞ……?」
むやみやたらにハードルを上げてくる二人に対して俺は戸惑いを隠せない。
実際、文系科目以外はそこまで点を稼いでいるわけでもなく、入試の時もメインの英文の筆記が過去最高レベルに冴えてくれたのと、英語オンリーでの面接試験の分析を徹底して行ったことが功を奏しての合格だった。だから、他人が誉めるほどの学力がないことは俺自身よく分かっている。
その分、天狗になることもなかったので、なんとか身を持ち崩さずにバンドと学業を両立できているのだが。
「ま、いいとこの大学に通ってるからといって、いいアドバイスが出せるとは限らんさ。先入観は捨てて聞いてくれよ。それでも、楽器自体は三歳の頃から15年以上触ってきてるから、全く的外れなことは言わないつもりだけどな」
そう言って後頭部から手を離してヒラヒラ振ると、宇田川さんが興奮した様子でぴょんぴょんと跳び跳ねる。
「おー! なんか凄いアドバイスが貰えそうな予感! 私は《闇のドラマー》宇田川あこ、羽丘女子学園の中等部の3年生です!」
「おう、よろしくな」
……「闇のドラマー」ってなにさ? デスメタル系? うーん、よくわからん。
宇田川さんの言うところの「闇のドラマー」が全く想像がつかなかったが、それは今からの演奏の中で見えてくるだろうとここは一旦保留する。
そして俺は、もう一人の新顔である白金さんの方を向いた。彼女は俺と目が合うとびくりと肩を震わせて、宇田川さんの後ろにサッと移動した。身長差があるので全く隠れられてはいないが。
そのことを悟った白金さんは、諦めたように息を吐くとこちらを向いておずおずと口を開いた。
「あ、わ、渡は白金燐子です……。パートはキーボードを担当しています。よろしくお願いします……」
「よろしく、白金さん」
白金さんは引っ込み思案なタイプかー。松原さんよりもまだ臆病そうだな。
俺は白金さんのびくびくした姿に、出会った頃の松原さんの姿を重ねていた。最初はおどおどしていた松原さんも、《ハロハピ》に揉まれているうちに随分と成長したものだ。白金さんも、もしかすると今後《Roselia》で揉まれていくうちに成長できるのかもしれない。
そして、全員がお互いに何者なのか把握ができた時点で、俺は《Roselia》の顔を見回した。
「よし、自己紹介も終わったことだし早速演奏を聴かせてくれよ。そっちはスタジオを借りてる訳だし、こっちはストリートライブを仕切らないといけない。お互いに時間は貴重だ」
「同感ね。ではみんな、スタジオに行きましょう」
「はい、湊さん」「オッケー!」「はーい!」「はい」
湊さんの鶴の一声で、全員がぞろぞろとスタジオに向かう。どうやら《Roselia》のリーダーは彼女で、しかもメンバーの信頼はかなり篤いようだ。
……ボーカル一本でメンバー全員の信頼を得られるというのは、よっぽど歌唱力が冴えてないと無理だ。これは期待してもいいかもな。
ペグ子に初めて出合ったときに、バンドはボーカル以外を集めるのが難しいと判断したように、身一つでできるボーカルと違って他の楽器は道具を使いこなすという点で一つハードルが高いといえる。
故に、バンドの要のリーダーは楽器担当か、楽器+ボーカルの場合が多い。より優れた、より多くの能力があるものが上に立つのは自然の摂理だ。
もちろん、マネジメント能力を買われてのリーダーというように、演奏能力以外の点でリーダーを任される人間もいる。《
しかし、この《Roselia》というバンドに関しては、そうでは無さそうなことを、俺は全員が揃った時からひしひしと感じている。
「では鳴瀬さん、お入り下さい」
スタジオの扉を開けた湊さんが入室を促す。それまで人をその内に抱え込んでいなかった部屋が持つ、薄ら寒い空気が廊下へ広がり、皮膚が冷気に刺されて鳥肌が立つ感覚がする。
しかし、寒さの理由はそれだけなのだろうか。
……
「どうもありがとう、湊さん」
感じた寒さの理由に思い当たった俺は、しかし、表面上はそれを出すことはなく、虎穴に飛び込むような思いでスタジオの扉を潜るのだった。
???「やはり分割か、いつ後編を書く? 私も同行する」
???「は、話が長院!」
というわけで(?)、無事(??)前中後編の三本立てになりました。
何でこんなにしっかり《Roselia》を描写するのかというと、《Roselia》のメンバーが初登場ということもありますが、《Roselia》が今後の『野良ベーシスト』本編に割と絡むバンドだからです。
彼女たちがどのように《ハロハピ》と関わるのかは今後の展開を「マグロ、ご期待下さい。」
というわけで少し《ハロハピ》成分が薄くなってますが、準備期間ということでしばらくお待ちくださいませ~!
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
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田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。