ストリートライブ編7。《Roselia》編の3です。
《Roselia》編はひとまずここで一区切りです。
花開きつつある未だ蕾の青薔薇たちを眺めて、鳴瀬君は一体何を思うのか。それでは本編をご覧ください。
湊さんに促されスタジオに入った俺は、予備のスツールに腰を落ち着けて《Roselia》のメンバーがてきぱきと準備を終えていく様を眺めている。
メンバー全員の動きが機敏で、場馴れした印象を受ける。結成してから間もないバンドだというが、個々のスペックの高さが窺えた。
中でもボーカルの湊さんはチューニングの手間が他よりもかからないので、早々に準備を整えて皆に指示を飛ばしている。
「それじゃあ、すぐに演奏に入ります。みんな、最終チェックをお願い」
「はい、湊さん。では、演奏する曲は何にしますか?」
「そうね……」
氷川さんの問いに、湊さんは顎に指を当てて考える仕草をとる。
しかし、逡巡は一瞬。
すぐに湊さんは一度メンバー全員を見回してから口を開いた。
「では、演奏するのは『BLACK SHOUT』にしましょう。この曲ならメンバー全員の力を見てもらうのに相応しいわ」
湊さんの言葉に全員がすぐに頷いた。彼女の指示に間違いはないとでもいうかのような、圧倒的な信頼が滲む。
すげぇな。完璧にメンバーを取り込んでるじゃないか。これぐらいの年頃のバンドで中々ここまで際立ったカリスマ性を発揮できるやつはそうはいないんだが、いるところにはやっぱりいるもんなんだな。
《ハロー、ハッピーワールド!》においても、バンドの発起人であるペグ子を中心とした、ある種の中央集権状態が形成されているのだが、《ハロハピ》の最大の特徴は、そんな中にあっても
ペグ子はあくまでもバンドの中心で、そこからのメンバー同士の関係はクモの巣のように、均質でフラットなものなのだ。
その点でいえば《Roselia》は上意下達のピラミッドタイプのバンドだ。リーダーである湊さんが確たる意思で判断を下して、周囲はそれに対して従属的に振る舞う。
はっきり言って、リーダーが余程完成されていなければどこかで
しかし、完成されたリーダーの下でなら、このタイプのバンドはコンダクターのタクトに従うオーケストラが如く、完璧な調和を生む。
彼女達は果たしてどちらなのか。
見極めさせてもらうぜ、《Roselia》。
そう密かに決意を固める俺の前で、《Roselia》は手早く演奏準備を整えていく。
「湊さん、エフェクターはオーバードライブとコーラスでいいでしょうか?」
「そうね、今日は小さめのスタジオだから、どちらも落とし気味で使ってくれるかしら」
「あ、ちょっといいか」
俺は、エフェクターについて指示を仰ぐ氷川さんと湊さんの間に割って入る。そんな俺を氷川さんが怪訝な表情で振り返る。
「どうかされましたか、鳴瀬さん?」
「よければ、今回はエフェクターを噛まさずに
エフェクターを使った音作りも、ある意味演奏者の技量なのだが、今回俺に求められている評価は、恐らくその部分ではない。
そう判断しての差し出口だったが、これは正鵠を射ていたようで、二人は顔を見合わせて頷いた。
「確かにその通りね。紗夜さん、今回はエフェクター抜きでいくわ」
「ええ、わかりました」
「それじゃあ、アタシもエフェクターは抜きの方がいいよね」
「ああ。申し訳ないが、たのめるかな」
「オッケー!」
セットからエフェクターボードを外し始めた氷川さんを見て、今井さんもそれに倣ってエフェクター抜きでシールドを直結する。
そして、エフェクターの音作りの時間が無い分、演奏の準備はすぐに終わった。
スタジオの中央、マイクスタンドの前に湊さんが立つ。
その堂々とした佇まいは、それだけで人を魅了せずにはいられない華がある。
「みんな、準備はいいかしら」
その口がするりと言葉を紡ぐと、すぐにメンバーが同意の言葉を返す。
「もちろんです」
「アタシもオッケーだよ友希那!」
「いつでもいけますよ友希那さん!」
「よろしくお願いします」
それを確かめ、メンバー全員に刹那意識を巡らせてから、湊さんがマイクを握る。その視線の鋭さは薔薇の棘のそれに等しい。心地のよい緊張感が俺を射抜いていく。
「では、往きます。《Roselia》で『BLACK SHOUT』」
「ああ、いつでもどうぞ」
俺の返答に湊さんが軽く頭を下げると、宇田川さんのスティックが3度打ち鳴らされる。
そして、次の瞬間には豊潤な薔薇の香りを思わせるような音がスタジオに満ちた。
◇◇◇
これは俺の自説なのだが、優れたバンドは
例えば、この
自分がどこかに置き忘れてきた過去の
これから歩むはずの未来の
ーーもう終わりなのか。まるで、
《Roselia》の演奏が終わった瞬間に、俺の頭を過ったのは演奏に対する感想ではなく、気がつけば過ぎ去っていた時間への驚きだった。
「鳴瀬さん。私の、《Roselia》の、演奏はどうだったかしら?」
「…………っと、ああ、そうだな、とりあえずまずはバンドへの講評から、個別の評価を伝える感じでいいかな」
先ほどまで極上の
それほどまでに、この湊友希那という少女の歌声は完成されていたのだ。
「はい、それで構いません。よろしくお願いします」
俺の反応の遅さを、湊さんは特に気にすることもなく頭を軽く下げる。
それを見た俺は軽く息を吸い込んで調子を整えてからゆっくりと言葉を紡いだ。
「先にも言ったけど、俺はあくまでもアマチュアだ。だから、これは絶対的な意見という訳じゃない。拾いたいところがあったら拾って、要らないところはそこらの犬にでも食わせてくれても構わない」
《Roselia》が頷いたのを確かめ、言葉を続ける。
「まず、このバンドへの評価なんだが、はっきり言おう。《Roselia》は間違いなく売れるバンドだ。遅くとも一年以内には大手のレーベルから声がかかる、そう思っていい。結成から日が浅いから、まだハーモニーが甘いところはあるんだが、その粗削りなところすらもバンドの勢いに変わってる。元のポテンシャルが高いからできる芸当だ。多分、これから洗練されてくると今とは雰囲気も変わるんだろうが、それすらも観客にとっては楽しみの一つになる。ずっと成長を追いかけていきたいと思えるような、すげぇいいバンドだよ、《Roselia》は」
ーー手放しでの賞賛。
それが俺の《Roselia》に対する素直な評価だった。
このバンドはガールズバンドブームにあやかって生まれた有象無象とはわけが違う。いつか美しく咲き誇る日を夢に見て陽の光を追い求める花のように、ただひたすらに、ひたむきに、音を追いかけ続けるような魂の芯がある。
このバンドの演奏を一度聴けば、間違いなく人は虜になる。そう思わせる艶のある演奏だった。
「そう、ですか。ありがとうございます」
賞賛を受けて湊さんが頭を下げる。一見すると先ほどまでと変わらないように見えるが、その言葉の端には喜色が窺える。
声を出さない他のメンバーたちの頬が朱に染まっているのも、決して演奏後の体の火照りだけが原因ではないだろう。
「まぁ、さっきも言ったように、これは君たちと同じ一アマチュアバンドマンの個人的意見だからな。そんなにマジに聞かれても困るけどな」
そんな《Roselia》たちの熱に水を差すような言葉を向ける。
実際、いくら
そう考えれば、俺がアドバイスするなんて烏滸がましいのかもしれない。
しかし、湊さんはそんな俺に首を横に振って応えた。
「いいえ、貴重なご意見をありがとうございます。中々、本気でプロを目指している同志の意見を聞ける機会はないのでそれだけでもありがたいです」
湊さんの言葉に他のメンバーも頷く。
……確かに、同じガールズバンド同士ならストレートに評価をぶつけ合ったら遺恨が残るか。そう考えると確かに俺は《Roselia》にとっては、やっぱりベストなアドバイザーって訳だ。
そういう訳ならこっちとしてもガチで言葉をぶつけにいくのが礼儀ってもんだな。
そう思った俺は、深呼吸して気合いを入れ直す。
「……よし。なら次は個人への評価だ。人によっては結構キツいことも言うと思う。でも、同じ本気でバチバチにプロを目指している者としての、本気の意見として聞いてくれると嬉しい」
「……! ええ、お願いします」
俺がそう言った瞬間、弛んでいた彼女たちの表情が一瞬で引き締まる。統率の取れたよい緊張感が場を支配していく。
その雰囲気を確かめるように、スタジオを見渡してから、俺は再び口を開く。
「よし、じゃあまずはリーダーからいくな」
「はい、遠慮なく言ってください」
そして、俺の言葉により一層その表情を引き締めた湊さんを見て。
「……といっても、正直湊さんにはあんまり厳しい意見がないんだよなぁ」
俺は気の抜けるような言葉を発していた。
「え、えぇ? そうなんですか……?」
俺の言葉に肩透かしを食らったのか、湊さんは少し戸惑ったようなあまり見せることの無い珍しい表情をみせた。間違いなく先ほどまでよりも彼女の気は弛んでいるだろう。
大切な話をするとき、気が張り詰め過ぎるのはよろしくない。
部活で監督に怒鳴られて固くなった選手が、更にミスを重ねる悪循環に陥るのはよくある話だ。これぐらいの緊張感で話した方が案外するりと相手にアドバイスが伝わることもある。ゆとりのないところに何かが入り込む余地は無いものだ。
そして、先ほどまでよりも幾分か弛んだ空気の中で、俺はゆっくりと核心に向かって進み始める。
「そうなんだよなー。ボーカル、聴かせてもらったけど、正直、同年代で相手になる奴は数えるほどしかいないだろうな。声量や音程、どれをとっても精度が高い。かなり長い年月、真面目にボイトレをやって来た人間の声だ。文句のつけようがない」
「はい、確かに、練習量と時間に関しては、誰にも負けていない自信があります」
力強く頷く湊さんに、俺も一つ頷く。
「そう、その自信が更に湊さんの声を強くしている。練習量と自信の相乗効果、これは間違いなく揺るがない君の芯になってる。加えて、湊さんは声質も最高だ。薔薇の花のように優美で、時には棘のように鋭く胸に刺さる。これは他者の追随を許さない君だけの武器だ。自信をもって存分に振るうといい」
ボーカルがどれだけトレーニングしようともどうにもならないもの。それは声質である。
こればかりは、喉の構造など個人の生まれ持ったものだけが物を言う世界なので、そういった点でも湊さんは音楽に選ばれた側の人間であることは疑いようもない。
「ありがとうございます。私も自分自身の強みは意識しているつもりですが、やはり客観的な意見を貰えると、自分が間違ってはいなかったことが分かって励みになります」
そう言って湊さんは丁寧にお辞儀をする。誉められても慢心することのないその姿勢も、彼女の強さの一つなのだろう。
「ああ、自信はいつだって自分の翼に代わる。もっと自信をもって羽ばたくといいさ。そして、ここからがアドバイスの肝なんだが、よく聞いておいてくれ」
「……! いつでも言ってください」
いよいよ核心に迫って、俺は弛めていた緊張感をここで再び投入する。弛さと緊張感の落差によって会話にターニングポイントを設け、アドバイスに意識を向けるテクニックだ。
湊さんが程よい緊張感に包まれたのを見て、俺はついに話の核心に踏み込む。
「湊さん、君はプロになることが決まっているとして、『そこまで』と『それから』を考えた方がいいかもしれない」
「『そこまで』と『それから』、ですか……」
「そうそう、湊さんや《Roselia》にとってはプロになるってのはあくまでも一地点でしかないわけだ。大切なのはその一地点ではなくて、『そこに至るまでの過程』と『そこからどこに向かうのか』という長い道程の方だと俺は思う」
《Roselia》は間違いなくプロになるバンドだ。世の中には「プロになる」が目的地になったバンドも多いが、《Roselia》にとって、そこは一瞬で過ぎ去る通過点でしかない。ならばより長い時間をかけなければならない、「どのようにそこを超えて」、「そこからどこに向かうか」の方が遥かに考える意義がある。
最初からフルスロットルで突っ走るのか、あるいは見聞を深めてゆっくり歩き回るのか。
自分から売り込みに向かうのか、声がかかるその時を待つのか。
デビュー後の音楽性はどうするのか、ライブなどの計画はどう立てるのか。
そこを見誤ると、無限の可能性を秘めた《Roselia》が
「花は一度根を張ればそこから動くことはできない。精々、陽光を求めて枝葉を伸ばす方向を変えることぐらいだ。だから俺は、特にデビュー前の舵取りが、今後の《Roselia》を、そして、湊さん自身の未来を決める上で大切だと思う。これは非常に難しいが、リーダーである君にしかできないことだ」
「私にしかできない、私の未来を決めること……」
湊さんは俺の言葉を噛み締めるように口の中で呟いている。
「俺は《Roselia》は自分達を安売りするようなバンドではないと思う。だから、湊さんには、君や《Roselia》が最高に輝く未来を考えて欲しい。これが俺のアドバイスの全てだ」
俺の言葉が終わってから、湊さんは考え込むように視線を伏せていたが、しばらくして視線を上げると真っ直ぐに俺の目を見つめた。視線がしばらく交わった後、湊さんは今日一番深々と頭を下げた。
最敬礼からゆっくりとした所作で頭を上げると、彼女はその口をゆっくりと開いた。
「鳴瀬さん、ありがとうございます。あなたのアドバイスは、本当に私に刺さりました。胸のうちの靄のような迷いが晴れた心地です。本当にあなたにお願いしてよかったと思います」
「それはどうも」
「このご恩はなにかしらの形で必ず返します」
「おいおい、そんなに気張らなくていいよ。最初に言ったろ、『あくまでも一アマチュアのアドバイス』だって。そこまでしてもらおうとは思ってないさ」
慌てて突き出した手のひらを左右に振った俺だったが、湊さんは首を横に振った。
「だとしても、私に益があった以上は、施されるだけでは気がすみません」
「そうか、ならまた今度何かの機会に助けてもらうことにするよ」
このままでは水掛け論になりそうだと思ったので、俺はあっさりと引き下がる。湊さんは色んな点で芯が強い少女のようだ。
「はい、私にできることでしたらぜひ」
「よろしく頼むよ。それじゃあ、次は今井さんね」
「あ、次はアタシですか! それじゃあ、お願いしまーす!」
湊さんに軽く手を上げて応えると、俺は次の相手である今井さんに声をかけた。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますよっと。んー、とりあえず今井さんに言いたいのは、君がベース担当でよかったってことかな」
「え、そ、そうですか!? アタシ、ベースちゃんと出来てますか!?」
少し照れたような表情で嬉しそうに声を上げる今井さんに、大きく頷く。
「うん、俺が思うに今井さんの強さは『視野の広さ』にあると思うんだよね。今井さんってさ、結構気遣いや気配りのできる人でしょ?」
「え? そ、そうなの、かなぁ?」
今井さんは俺の言葉に同意しかねて首を捻っていたが、そんな彼女の代わりに思わぬところから返事が飛んだ。
「あー、確かにアコもそう思うな~!」
「そ、そうですね……今井さんは、よく私たちのことを気にかけてくれていると思います」
「ええー……二人ともそう思ってるんだ。そう言われるとなんか照れるね、へへへ……」
宇田川さんと白金さんの二人からも援護射撃を受けて、ますます今井さんは照れ臭そうに頭を掻く。
「メンバーが二人もそう言ってるなら間違いないな。今井さんの気遣いできる力ってさ、ベーシストには結構大切な力なんだよね」
「え、そうなんですか?」
「そうそう、ベースってさ、メロディほどの華もないし、かといってドラムを差し置いてリズムのメインを張れる訳でもない、ステージ上での生存圏がかなり狭い楽器だと俺は思ってるんだ」
「あー、確かにそんなところありますよね」
俺の言葉に今度は今井さんも思い当たる節があるのか、ウンウンと首を縦に振る。
「じゃあ、その狭い生存圏でベースが生き残るためにできることはなにか。そう考えた時に、大切だと思う要素の一つに俺は『観察眼』を挙げたいんだ」
ベーシストがステージ上で存在感を発揮するには常に他の楽器に気を配る必要性があると俺は思っている。
メロディよりもでしゃばらず、ドラムの手数が足りない部分を常にカバーし続けて、曲の密度を高める。これを続けるためには周りが何を求めているのか、あるいは、周りに今何が足りていないのかを常に意識する「観察眼」が備わっていないといけない。
「今井さんは、気遣いや気配りができる優しい性格がベースという楽器にマッチしてるんだよね。意識しなくても自然にメンバーの観察ができてる感じっていうのかな。とにかくそれが最高にいい。多分、結成して間もない《Roselia》が上手く回ってるのも、今井さんの存在が大きいと俺は思ってるよ」
《Roselia》は、調和がとれたバンドというよりは、既にそれぞれが鍛えていた個々のスキルがいい具合に
放っておけばどんな風に変化するか予測不能なバンドを支える今井さんは、《Roselia》の裏のリーダーといえるかもしれない。
「な、なんかそこまで誉められると、照れるを通り越して恐縮しちゃうかも……」
今井さんの献身を誉める俺の言葉を聞いて、先ほどまで照れながら頭を掻いていた彼女は、こそばゆくなったのか今度は体の前で腕を結んでもじもじしていた。
「こちらとしては事実を言ってるだけだから、そこまで恐縮する必要はないと思うけどなぁ」
「いやー、そう言われてもこういうのはアタシも慣れてないからねー」
「じゃあ、誉めるだけじゃなくて課題も挙げておきますか。今井さんの課題を挙げるとするなら、やっぱり演奏技術かな。ベースは性質上バンドの中で埋もれやすい楽器でもあるから、今のままだと少しパワー不足に感じるシーンが出てくるかもしれない」
「パワー不足………なんか分かるかもしれない」
「まぁ、これは今井さんの性質上仕方ないところもあるけどさ。気配り上手ってのは得てして自分を抑えてしまいがちだからね」
「うーん、それじゃあアタシはどうやったらパワーアップできるんですかね? 鳴瀬さんの口振りだと、どちらかを立てればどちらかが崩れそうな感じなんですけど……」
確かに、今井さんの言う通り「バンドの中で調和を作る」ことと「パワーをガンガン出していく」ことは矛盾する要素だ。
しかし、実はこれにはめちゃくちゃ手っ取り早い解決法があるのだ。
「いや、実はね、これはすごい簡単に解決できるイージーな問題なんだよ」
「えっ、マジですか! じゃあ、その解決法というのは……?」
?」
「それはズバリ、『ベースがめっちゃ輝く曲を作る』! これだ!」
「なんかスッゴい力業がきたー!?」(ガビーン!)
「力業だけど、正直これが一番手っ取り早いからな!」
曲の構成上、ベースがめちゃくちゃ主張する曲であれば、ベースだろうと否応なしにパワープレイを要求される。つまり、俺の提案する解決法は「ベースを頂点としたピラミッド型の調和」を、曲の中に作ってしまえという訳なのだ。
「えー、でも、それだとベース本来の立ち位置から外れるから本末転倒じゃあないですかね?」
「うん、その通り」
「その通りなんですか!?」
「だって、実際ベースが全面に出ちゃってるし。でも、大切なのはそこじゃない。俺がやって欲しいのは曲作りを通して、今井さんが『どうすれば曲の中でベースがもっと輝くのか』を考えることなんだよね」
「……あっ!」
今井さんが何かに気づいたように大きく口をあける。彼女とアイコンタクトをとってから、俺は言葉を続ける。
「どうすればベースが輝くのか考えていけば、自ずと自分が演奏でどこに力を入れればいいのか見えてくるはずだ。このときに作った曲を実際に披露する必要はない。だから、自分が力をつけるための
「曲」と一言で言っても色々なものがある。例えばピアノなんかには『左手のための○○』のような、左手の練習に主眼を置いた曲なんかも存在する。
ステージに立ち大勢の観客の前で披露する曲もあれば、家で一人、黙々と弾くための曲だってあるのだ。
例えば、俺が今朝駅前の広場で弾いていた曲だってそういった練習用に俺が作った曲の一つだった。
「誰かに披露するための曲じゃなくて、アタシの成長のための曲かぁ……。それは盲点だったかも」
目から鱗が落ちるといわんばかりに、目を丸くした今井さんが納得の表情で頷く。
「バンドをやり始めるとどうしても『誰かに曲を聴かせたい』って思いが先行するから、初歩的なことを見失いがちになる。世の中には自分のスキルを高めるための練習用の譜面なんて山ほど転がっているのにな」
「そっかぁ……。うわ、なんだろこれ、なんだかアタシ、無性に練習したくなってきたかも!」
自分が今すべきことの答えを得た今井さんは、もう待ちきれないといった風に指を動かしている。
これならもう、今井さんを引き留めてアドバイスの必要はないな。彼女はもうやるべきことを見つけたみたいだし。
そこで、俺は話を切るためにパンパンと手を打って一旦今井さんの注意を引く。
「なら、今井さんへのアドバイスはこれでおしまい! さぁ、すぐに練習、練習!」
「がってん! へへっ、鳴瀬さん、ありがとね~!」
そう言うと今井さんは芝居がかった仕草で敬礼をすると、すぐに自分のベースの下へ向かった。恐らく、実際にベースを弾きながら練習用の曲を作るつもりなのだろう。
さて、残るは三人か。少し厳しいことを言わなくてはいけない彼女は最後に回すとして次は彼女にしようか。
まだアドバイスは折り返しにも達していない。あまり時間をかけて戻るのが遅くなれば、ペグ子にどやされてしまうだろう。
そんな最悪の未来を避けるために、俺はすぐに次の名前を呼んだのだった。
ここで《Roselia》編を終わらせるはずだったのに、まさかの再分割でハーブも生えませんわ!
次の後編-2では間違いなく終わらせますのでもう少しお待ちくださいましね!
そして、次回では美咲ちゃんのサイドストーリーのアンケートの結果発表もありまぁす!
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
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田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。