野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。

ストリートライブ編の9。

次に一旦、花音先輩のサイドストーリーを挟む予定ですので、本編はここでストップとなります。


野良ベーシストは流れ星とぶつかる(前編)

 今日は平日の昼下がり、俺は、慣れないスーツ姿で○○市の市役所へと足を運んでいた。

 目的はもちろん、最後に残った商店街でのライブをするための許可を貰うためである。

 

 ライブを含むストリートパフォーマンスは、一部の許可が出ている場所を除いては、所轄の警察署で届け出を出さないと通報されて警察に退去させられることがある。

 更に今回の商店街に関しては、商店街の管理者などとも折り合いをつける必要があった。現場にある建物全般の責任者は地元の商工会なのだが、商店会のある土地を管理しているのは市役所だったため、こうしてわざわざスーツなんかを着て、こんなところにまで出向いて来たというわけだ。

 

 そして、俺は今まさに、市役所からのGOサインをいただくために、市民環境部の市民文化推進課のカウンターで、弁舌をふるっている状況だ。

 

「……というわけでして、ライブの申請は商店街の商工会と所轄の警察署には既に済ませてあります。電源設備の利用許可もいただいていて、こちらがそれらの契約書となります。利用料金は定額で買い切りの形で契約を結ばせていただき、料金は既に商工会の口座に振り込み済みです。こちらの振り込み明細も添付してあるのでご確認お願いします」

 

 そこまで言って、鞄の中から書類一式をカウンターの上に置くと、市役所の受付の若い女性が書類に少しの間目を落とした後に、顔を上げてにっこりと微笑む。

 

「はい、書類は確かに確認いたしました。不備も無さそうですのでこれで申請を受理させていただきますね」

 

 どうやら、書類に不備はなかったらしい。ストリートライブの許可は今まで数えきれないほど取ってきているが、ここまで大掛かりな許可を貰いに行ったのは初めてだったので、無事に済んだことにホッと胸を撫で下ろす。

 

「よかったです。どうもありがとうございました」

 

 受付の女性に、感謝の言葉を述べて一礼すると、彼女は微笑んだままゆっくりと頷く。

 

「はいどうも。こちらこそ、しっかりと書類を用意してくださっていたので助かりましたよ。最近は、ガールズバンドブームのせいで、新しくできたバンドの中には、許可の取り方を知らなくて全く違う様式の書類を出してくる方や、無許可でライブされる方も多くて……」

 

 受付の女性はがっくりと肩を落とす。どうやら、世間を賑わすガールズバンドブームも、公務員にとっては悩みの種の一つらしい。

 

「それは大変ですね、お疲れ様です。僕なんかは、昔からちゃんと下調べをしてやってますけど、そんな人ばかりじゃないですもんね」

「ええ、母数が増えるとどうしてもいい加減な人も混ざりますからね……」

 

 その声色に苦労を滲ませながらも、受付の女性は微笑みを崩さぬまま、席から立ち上がった。

 

「それでは、市役所からの許可証を発行致しますので、しばらく後ろのベンチでお待ちいただけますか。通常の処理よりも少々お時間かかりますので」

「はい」

 

 促されるままにカウンターを離れた俺は、側のベンチに腰を下ろした。

 

「ふぃ~、疲れた疲れた。今は俺がやってるけど、将来的には《ハロー、ハッピーワールド!》のみんなにも、事務処理を覚えてもらわないとな」

 

 ネクタイをしめた襟元を少し緩めながらぼやく。

 ライブというものは楽しいものだが、それもそこに至るまでのコツコツとした下準備があってこそだ。

 《ハロハピ》のメンバーは、今スキルアップにしか時間を割けないから、俺が代わりに裏方を回しているわけだが、本来はトータルマネジメントが出来てこそのバンド活動である。やはり、誰かが受け持たねばならないことだろう。

 

「つっても、誰にやらせるかな~。ペグ子や、北沢さんは明らかに向いてないしなぁ。かといって、奥沢さんなんかに投げたら、マジで奥沢さん干からびちまうぜ。松原さんは押しに弱いところがあるから、消去法で薫かなぁ……」

 

 そんなことをぶつぶつと呟きながらベンチで時間をもて余す。

 

「……そこをなんとか!」

「……ん?」

 

 すると、そんなとき、さっきまで俺が座っていたカウンターの横のブースがにわかに騒がしくなった。

 

「お願いします!」

「そう言われても、無理なものは無理だよ」

「みんながお祭りを楽しみにしているんです!」

「それは分かってるよ。でも、こちらとしても予算の都合がある。無い袖は振れないよ」

「そこを何とかできないでしょうか……」

「一度付けた予算の見直しは、手続きに時間がかかるんだよ。ましてや、この規模の話になるともう時間が足りない、残念だが諦めてもらう他ないね」

「そんな……」

 

 パーティションで区切られたそのブースからは、神経質そうな男性の声と、若い女の子たちが喧喧囂囂(けんけんごうごう)の議論をする声が漏れている。その会話の調子から、両者の意見が平行線を辿っていることが伺えた。

 

 あらら、なんか揉めてるな。

 というか、女の子たちの声、なんか聞き覚えが有るような?

 でも、市役所に用事が有るような女の子の知り合いなんていないし、気のせいか……。

 

「鳴瀬さん、お待たせしましたー」

「あ、はーい」

 

 そんな益体もないことを考えていると、カウンターから先程の受付の女性が俺を呼んだ。

 思考を中断すると、再び襟元を整えながらさっさとカウンターへ向かう。やはり、こういうフォーマルな場所はなるべく早く抜け出すに限る。

 

「それでは、こちらが鳴瀬様にご提示いただいた書類になります。コピーを一部、私どもの方で保管させていただいております」

「はい」

「そして、こちらが市役所発行の許可証になります。当日はステージ付近などに保管していただいて、何かありましたらご提示いただければと思います」

「ありがとうございます」

 

 受付の女性から差し出された二つのファイルを預かると鞄にしまう。これで、あとはストリートライブを行うだけだ。

 

「いやぁ、それにしてもこのストリートライブ、中々大掛かりなものになるみたいですね。ステージの配置図まで添付してくるバンドなんて滅多にないですよ」

(……ストリートライブ?)

 

 書類を鞄に入れていると、受付の女性が声をかけてきた。

 

「そうなんですよ、なんか○○商店会の商工会に挨拶に行ったら『やるならどーんとやってくれ』って会長に言われて、ステージや電源まで貸してくれて。最初は小ぢんまりとやる予定だったのが大事(おおごと)になっちゃいました」

(○○商店会……!)

 

 女性の言葉に、俺は苦笑いしながら頭を掻いた。

 

 そもそも、俺は最初は携帯できる最低限の楽器だけを広げたコンパクトなライブを考えていた。商店会というスペースの都合上、大掛かりな設備は往来の妨げになるし、騒がしすぎる。そういう判断だった。

 しかし、その話を会長に持って行ったとき、全てが変わった。何やら、予算の都合で当初予定していた商店会秋祭りが中止になったらしく、秋祭りの祭り太鼓用のステージを丸々貸し出してライブをさせてくれることになってしまったのだ。

 俺だけなら、その申し出を断ることもできたのだろうが、不幸なことにその日の俺の真横にはペグ子という恐るべき局地災害(モンスター)が存在した。「やーん! 素敵じゃないの!」という、ペグ子の鶴の一声で、商店会のストリートライブは、ステージや電源まで借りたガチライブへと変貌を遂げたのだった。

 

 マジで、ペグ子さえいなかったらわざわざ市役所なんかに来なかったぜ……はぁ……。

 

 ペグ子のせいで余計な疲労を抱えたことにため息を吐く、俺の内心に気付かない受付の女性は楽しそうに微笑む。

 

「でも、大きなステージでバリバリ演奏できるのっていいじゃないですか」

(大きなステージ……バリバリ演奏……)

「まぁ、そうですね~。ステージで演奏する感覚ってやっぱり大切ですから。あとは商店会の人にも楽しんでもらえたらって感じですね」

(商店会……楽しんでもらえる……!)

「そうなるといいですねぇ。ライブって、一週間後ですよね。私も行っちゃおうかな~」

(一週間後の……)

「ぜひ見に来てください。あ、でも、ライブするのはうちのバンドだけなんでそんなに長くはやらないと思います。10時位に開演予定なんで、それぐらいに来てもらえれば」

(10時開演……!)

「そうですか、ありがとうございます。でも、せっかくここまでしてステージを借りたんだから、ちょっとで終わるのはなんだかもったいないですね」

「確かにそうですね。なんなら()()()()()()()()()()()()()()()()ね~、ははは」

 

 ーー「他のバンドなんかも誘ってみますか」

 

 俺がその言葉を口にしたその瞬間。

 

「はいはいはーい! 私たち、そのライブに参加しまーす!」

「うぉっ!? 何事!?」

 

 突然、声をかけられた俺が、慌てて声の方に振り向くと、そこには隣のブースとこちらを隔てるパーティションの上から身を乗り出して、こちらを覗き込む一人の少女がいた。

 屋敷のバルコニーから地上のロミオを見つめるジュリエットよろしく、パーティションの上からカウンターの前に座る俺をキラキラと輝く瞳で見つめる少女。茶色の髪の毛を頭頂部の両サイドで猫耳のような、あるいは角のような三角形に結った特徴的な髪型のその少女に、俺は激しく見覚えがあった。

 

「……え、もしかして、戸山さん?」

「あれ? そういうあなたはもしかして、《ハロハピ》の鳴瀬さん、ですか……?」

 

 そう、彼女の名前は戸山香澄。

 

 《school band summer jam 14th》で、オープニングアクト(OA)を務めたガールズバンド《Poppin' Party》のリーダー。

 

 今日この日、俺は彼女と市役所のパーティション越しに運命の再会を果たしたのだった。

 




結構間が開きましたわ!

実は、正月にはふっとオリジナル小説のネタが湧いたのでそちらを書き進めておりましたのよ。

『おっさんヒーローの現実』というタイトルでハーメルン様で連載しているのでよろしければそちらもぜひお読みくださいませ!(ダイマ)

というわけで、久しぶりに《Poppin' Party》の登場です。実は、初ライブ編で「もう出せないかも」と言っておりましたが、こっそり再登場の機会を探っていたのですわ。

だって、《ポピパ》さんはデラかっこええからね!(某R氏)

この後、後編を投下して、そのつぎから花音ちゃん編を2話挟みますのでよしなにですわ!

よろしければ感想評価もお待ちしておりましてよ!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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