野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。

路上ライブ編前半の最後です。ここで次に花音ちゃんのショートを挟みます。


野良ベーシストは流れ星とぶつかる(後編)

「とりあえず、好きなもん頼んでいいよ。俺が奢るから」

 

 市役所での《Poppin' Party》との偶然の遭遇(エンカウント)から約30分後。俺と《ポピパ》のメンバー5人は市役所から程近い、ファストフード店に腰を落ち着けていた。

 市役所であのまま話し込むのもなんだと思った俺が、場所を変えることを提案したのだ。

 市役所での手続きや移動時間のため、現在は昼にも晩にも飯時としては微妙な時刻だった。人も疎らな客席の中で易々と自分の席を確保した俺たちは今、カウンターで注文に入ったところというわけだ。

 そして、場所を変えることを提案したのがこちらのため、俺はカウンターの前に立ってすぐ、《ポピパ》の皆にここでの食事を奢ることを提案した。

 セットやサイドメニューを頼むと中々の金額が飛んでいくことになるだろうが、ここはやはり男の年長者としての威厳を見せるべきところだと判断した。バンドマンは見栄を張ってなんぼのものである。

 

 それに、実は俺の最近の懐事情は結構明るい。それも、元々の出費の最大要因だった《バックドロップ》の活動が休止になったためだ。スタジオ代、ライブのチケ代、消耗品代のほとんどが無くなったことは非常に大きい。改めてバンド活動というものは金食い虫だと実感させられる。

 《ハロー、ハッピーワールド!》の練習のためにバイトのシフトを少し減らしてはいるものの、《ハロハピ》で使うお金は基本ペグ子の持ち出しなので、こちらの出費はほぼゼロ。バイト代がほとんど丸っと懐に入るので、正直これまでの人生で、今が一番金を持っているといっても差し支えのないレベルだ。

 それと比べて、《ポピパ》の皆は、ペグ子のような大蔵省の後ろ楯もないガールズバンド。日々コツコツとライブに向けて節制をしているであろう彼女たちを支えてあげるのは、やはり先輩バンドマンとしての務めではないだろうか。

 

 そんな様々な思惑の絡まった俺の提案に、ギターの戸山さんが目をキラキラと輝かせる。

 ここまでの道中のやり取りでも分かったが、戸山さんは気分によってコロコロと表情が変わる、自分の気持ちに素直な女の子のようだ。タイプ的にはペグ子寄りなのだろうが、ベースが一般人なのでペグ子と違ってどこか安心して見ていられるのは気のせいではないだろう。

 

「えー!? そんなのいいんですかぁ! やったぁ!」

「ちょっ!? 香澄、ちょっとは遠慮しろよ!」

 

 嬉しさを隠せない戸山さんの横で、彼女を制止しながらこちらをチラチラ伺うのはキーボードの市ヶ谷さん。

 市ヶ谷さんは《ハロハピ》でいうと間違いなく奥沢さんのポジション。地球をスイングバイする探査衛星レベルでペグ子に振り回される奥沢さんからすれば、まだましなのかもしれないが、ペグ子からの無茶ぶりを俺と分けあえる奥沢さんと違い、《ポピパ》のツッコミ役を一手に担う彼女には、やはり「苦労人」という言葉がよく似合った。

 

「いいんだよ、市ヶ谷さん。場所を変えようって言ったのは俺だからさ。俺の頼みを聞いてくれた分ぐらいは奢らせてくれよ」

 

 そんな市ヶ谷さんに、俺は努めて優しく声をかける。そこには同じ「苦労人」枠としての同情が多分に含まれているのはまず間違いなかった。

 

「そう、ですか。じゃあ遠慮なく選ばせてもらいますね。ありがとうございます」

 

 そう言って律儀にぺこりと頭を下げる市ヶ谷さんの向こうで、他の四人のメンバーはもうメニューに夢中といった感じだ。

 

「うわぁ……今ってアメリカンバーガーフェアっていうイベント中なんだぁ……」

「へぇ~、もしかして、オッちゃんが食べられるようなバーガーもあるのかな?」

「おたえは本当にオッちゃん第一だね……あ、アボカドベジーバーガー、これなんていいんじゃない? アボカドソースにレタストマトオニオンを挟んだサンドイッチ風バーガーだって!」

「ほんとにあるもんだね! でも、ここでおたえが食べちゃうなら、あんまり意味がないんじゃない?」

「「「……! 確かに!」」」

「黙って聞いてたけど気付くの遅せーよ!」

 

 そんなこんなで市ヶ谷さんも加えてやいのやいの騒ぎ合う《ポピパ》のメンバーを眺めていると、思わず微笑ましい気分になる。

 高校生の頃は何だかんだで、こんな他愛もない話題で何時だって延々と盛り上がれていたものだ。年齢こそ彼女たちとはまだ5歳ぐらいしか離れていないが、やはりこの無意味やたらに輝いている青春というのは、高校生特有のものだと改めて気付かされる。

 就職など大人の影が見え隠れする大学生や、義務教育の枷を未だに抜け出せない中学生とは違う、モラトリアム真っ只中の高校生だけが放てる輝き。

 彼女たち(ポピパ)は、まさに《青春》の体現者なのだ。

 

 だから、彼女たちの演奏はあんなに綺麗だったのかね。

 

「あ、すみません。ダブルチーズバーガーセット、サイドはポテトLでドリンクはコーラで」

 

 「school band summer jam 14th」(スクジャム)のときの彼女たちの輝きを頭の片隅に思い描きながら、俺は手早く自分のオーダーを通す。

 

「おーい、俺は先に席に戻ってるから、決まったら支払いのために呼んでくれ」

「あ、すみませーん! なるべく早く決めまーす!」

 

 注文札を受け取った俺が《ポピパ》に声をかけると、戸山さんが元気な声で返事をしてくれる。

 それを確かめた俺が席の方に向かおうとすると、その背中に再び彼女の声が刺さる。

 

「鳴瀬さーん!」

「なんだー?」

「あのーぅ、そのーぅ、サイドメニューの注文なんかしちゃっても……? えへへ……」

「だー!? 何でそんなに香澄はあつかましーんだよ!」

「いひゃい、いひゃい!? ひゃってぇ~!」

 

 サイドメニューの要求を、市ヶ谷さんに頬っぺたをつまみ上げる形で窘められる戸山さんの姿に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「おーう、好きなだけ頼んでいいよ」

「ひゃったぁ~! あ、痛い!」

「あー、跳び跳ねたりなんかするからー! ほんっとうにすみません、鳴瀬さん」

「いいって、いいって。ゆっくり選んでてよ」

 

 思わず跳び跳ねたせいで、市ヶ谷さんの指が外れ、頬っぺたを押さえて痛がる戸山さんの悲痛な叫びを後に、俺は再び席へと向かう。

 

 ……女の子たちの、この手の注文なんかは絶対に長くなるのは、すでに《ハロハピ》で経験済みだからな!

 

 そんな俺の予想は見事に的中して、結局みんなの注文が出揃い、料理が席に揃うまでにはそれから15分ほどの時を要したのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うわぁ……なんだか凄いことになっちゃいましたね……」

「あぁ……マジでな……」

 

 15分後、俺たちの目の前のテーブルを眺めて、俺と戸山さんは思わずそう呟いていた。

 テーブルの上にはまさに「Look this(みよ), this is America!(これがアメリカだ)」と言わんばかりの光景が広がっていた。

 七個のバーガーを筆頭に、ポテトL6箱M1箱、ナゲット50ピース、サラダ二皿、シェイクL3つ、パンケーキ、チョコパイ、人数分のソフトドリンク……さながらアメリカ版満漢全席とでも呼べる光景に、通路を通る人も何事かとこちらを眺めていた。

 ちなみに、バーガーが人数よりも一個多いのは、子供向けのセットメニューである《ラッキーセット》に、某有名な白いウサギのキャラクターのおもちゃが付くことを見つけた花園さんが、強固な意思で買うことを主張した結果だった。

 そして、その花園さんは付いてきたおもちゃのウサギの人形を指先でつついてご満悦の表情である。いい笑顔だなぁ。

 

「って、何他人事みたいに言ってるんだよ! 100%私たちのせいだよ!」

「ご、ごめんなさい……奢りだからって頼みすぎました………」

 

 市ヶ谷さんによる今日一番の鋭さのツッコミを受けて、流石の戸山さんも申し訳なさそうな表情で反省の弁を述べる。

 

「あの~、やっぱり少しは私たちも出しますよ」

 

 こちらも申し訳なさが前面に押し出された表情を浮かべた山吹さんが、鞄から財布を出そうとするのを見て、俺はその動きを手で制する。

 

「あぁ、気にしないでいいって。これだけ頼んでも一万もいってないから平気、平気。むしろ、もうちょっと飛ぶかなぐらいの気分だったからさ」

 

 この言葉に嘘はない。実際のところ一万ぐらいはかかる気持ちではいたのだが、これだけ頼んでも俺の支払いは8000円強程度で済んだ。

 《ハロハピ》と出会うまで、こんなところに来るのはバンドマンの野郎同士だったから、どうやら未だにそのときの金銭感覚が抜けていないらしい。

 

 マジで野郎どもで集まるときは打ち上げとかでテンションが上がりきってるから、ポテトL50箱にナゲット50箱とか、ろくでもない注文してたからな……。しかも、ライブ後でエネルギー切れ寸前だからペロリと平らげてたし。

 

 それを思えば目の前にいる少女たちのなんと慎ましいことだろうか。この程度、年長者の俺が支払わなければ男が廃るというものだ。

 

「はぁ~、もう、なんだか本当にすみません……」

「ありがたくいただきますね」

 

 深いため息と共に頭を下げる市ヶ谷さんと、それに同調するようにベースの牛込さんも頭を下げる。

 

「みんな、じっくり味わって食べようね」

「そうだね、お残しも厳禁だよ」

 

 花園さんがみんなに目配せをすると、山吹さんがそれに応える。

 そして、最後にみんなを仕切るのはもちろんーー

 

「もっちろん! じゃあ、みんなせーの!」

 

 ーー戸山さんの仕事だった。

 

「「「「「いっただっきまーす!」」」」」

 

 大きな声で挨拶をする《ポピパ》のみんなを眺めながら、俺も小さな声で「いただきます」と言ってダブルチーズバーガーに手を伸ばす。そうしているうちに、一番素早い戸山さんはもう自分のバーガー《アメリカンスペシャル》に噛りついていた。アメリカンという名に恥じぬ厚さ10㎝以上のボリューミーさで、見てるだけで胸焼けしそうな一品だ。

 

「わーい! 一回こんなの食べてみたかったんだよね~。あーん……むぐっ!?」

 

 大きなバーガーに、それに負けじと大きな口を開いてかぶり付いた戸山さん。

 しかし、それでも女の子である彼女の口はバーガーに対していささか小さかったようで、噛みつけなかった真ん中辺りのパティやレタスが、パンズに押し出されるように盛大な勢いでトレーの上に射出されてしまった。まるでコントである。

 

「ぶふっ!?」

 

 そして、それをみた市ヶ谷さんがこれまた盛大に吹き出して、飲み始めていたコーラでむせていた。

 

「えほっ、か、香澄……ふふっ、な、何やってるんだよ……」

「凄い……こんなコメディみたいなことってあるんだね」

「まあ、ある意味、香澄はコメディの世界の人間だしね」

「あ、それ分かるかも」

 

 牛込さんたちも、どうやら戸山さんの姿にコメディのオーラを感じ取ったらしく、三人で顔を見合わせて頷きあっていた。

 

ふへ~(えぇ~)!? ほんはほほはいほ(そんなことないよ)?」

「ぐふっ……ちゃんと食べてから喋れよ……」

 

 いつもは鋭い市ヶ谷さんのツッコミも、パンズをアヒルの嘴のようにモゴモゴさせながら喋る戸山さんのせいで、切れ味30%オフのような有り様である。

 

「まぁ、ゆっくり食べなよ。腹が膨れてからゆっくり話をしよう」

 

 俺の言葉に戸山さんは首をかくかくと振って頷く。もちろんパンズは咥えたままである。

 

ふぉ~へふね(そうですね)!」

「だ~か~ら~、食べてから喋れって!」

 

 いつまでも口をモゴモゴさせたまま話す戸山さんに耐えかねた市ヶ谷さんが、戸山さんの両肩を掴んでかくかくと揺さぶる。

 ただでさえ首を振っていた所に更に肩を揺らされたものだから、戸山さんはメタルバンドの観客もかくやという残像が残るスピードで、高速ヘッドバンキングを極めていた。

 

ふひゃ~(ふひゃ~)!?」

「あ、有咲ちゃん、あんまり揺すると残った具も落ちちゃうよ」

「もし落ちて食べれなくなった野菜があったら遠慮なく言って。オッちゃんに持って帰るから」

「それはどうかと思うな~、私」

「ははは……」

 

 キレを取り戻し始めた市ヶ谷さんのツッコミに揉まれる戸山さんと、それを眺めてなんとも言えないのほほんとしたやり取りを繰り広げる彼女たちに思わず苦笑を浮かべながら、俺はダブルチーズバーガーに一口かぶりつくのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……というわけなんですよ!」

 

 戸山さんの高速ヘッドバンキングからしばらく。

 テーブルの上の食べ物も3分の1ほどまで目減りした今、俺はテーブルの上に身を乗り出して熱弁を振るう戸山さんの話を聞いていた。

 戸山さん曰く、彼女たちが市役所に足を運んでいた理由はこうだ。

 

 北沢さんのお店もある商店会では、毎年この季節になると商店街全体を挙げてのお祭りをやっていたらしい。それも、祭り太鼓の舞台が組まれ、御輿が練り歩き、屋台も出展するかなり大がかりなやつだ。

 しかし、どうやら今年はそのお祭りが中止になることが決まったようなのだ。商工会の会長に話を聞きに行った彼女たちは、祭りの中止を決定したのが市役所のあの部署だと聞いて、祭りの再開を直談判しに向かい、すげなく断られていた、というのが先ほど俺と出会った場面らしかった。

 

「なるほど、大体わかったよ」

 

 戸山さんの話を聞き終わった俺はゆっくりと頷いた。

 

 ……路上ライブの許可を貰いに行ったときに、ステージまで会長さんが貸してくれたのはそういう訳か。

 

 確かに、祭りで使うはずだったステージが丸々浮いてしまうのはもったいない話だし、それをなんとか商店街を盛り上げるかたちで使ってほしかったのだろう。そんな会長さんの気持ちが戸山さんの話を聞いた今ならよくわかる。

 そう、わかるのだが。

 

「……でも、市役所の人の言い分も分からなくもないんだよなぁ」

「えぇ~!?」

 

 俺の言葉に戸山さんはあからさまにがっかりした表情を浮かべる。

 

「実際、無い袖は振れないしなぁ。もし、祭りに予算を回すなら、当然他の部分に皺寄せがくる。例えば、街灯が切れかかっているのに交換されなかったり、清掃の頻度が落ちたり、真っ先に削られるのはホスピタリティの部分だろうね」

「そうですよね、やっぱりそういうところにコストをかけるのも、お客さんを呼び込む上で大切ですもんね」

 

 山吹さんが、俺の意見に深く頷いた。彼女の実家の「山吹ベーカリー」は、商店街の中に店舗を構えている。食品を扱うお店として、商店街のクリーンさは客足を左右する死活問題だということが彼女にはよくわかっているのだろう。

 

「それに、一度付けた予算を変えるとなると、会議をもう一度通した上で、関係各所への連絡と連携の再確認も必要だからな。あまり現実的な話じゃあないな」

 

 状況の悪さに首を左右に振る俺に対して、戸山さんがますますテーブルの上に身を乗り出す。

 

「でもでも、お祭りがないとそれを楽しみにしていたお客さんが逃げちゃうよ~!」

「確かに、香澄の言うことも一理あるんだよなぁ。イベントが中止になったら、やっぱり活気がなくなるんじゃね?」

 

 この戸山さんの意見に真っ先に同調したのは市ヶ谷さんだった。戸山さんのツッコミ役というような立ち位置の彼女だが、やはり心の底では通じ合う部分があるようだ。でなければあそこまで息の合った行動はとれないだろう。

 

 ……本人は否定するかもしれないけどな。

 

 ともかく。確かに、毎年のイベントが打ち切りになると、戸山さんたちの危惧するような「ああ、この商店街も、もうダメなのか」という負のオーラが漂い、そこからの客離れに繋がるということは想像に難くない。

 ただでさえ、選択肢の多い今日(こんにち)だ。落ち目の場所から人が消えていくのは火を見るよりも明らかだ。

 

「つまり、今の商店街に必要なのは、『予算をあまりかけずに、人を呼び込めるイベント』って訳か」

「そうなんです、だから、かすみちゃんが言っているように、路上ライブでお祭りの代わりに商店街を盛り上げられたらなーって。ライブなら楽器を持ち込めば、あとは電源と場所さえ借りれば大丈夫ですし」

 

 そう言う牛込さんの言葉に、他の《ポピパ》のメンバーたちも頷く。

 

 確かに、路上ライブで商店街を盛り上げるのは悪くない。悪くないんだが……。

 

「……もう一押し欲しいな」

「もう一押し、ですか?」

「ああ、路上ライブだけでは少し『弱い』」

 

 探るように訊ねてくる花園さんに、俺は頷く。

 

「そもそも、お祭りってのは地域に根差したもんだ。だから、そこに一体感が生まれて盛り上がる土壌ができる。子供からお年寄りまで世代を超えて繋がれるからな」

「確かに、お祭りは商店街や周辺に住む人たちみんなが楽しみにしているイベントですからね」

 

 山吹さんが顎に手を当てて少し考え込む仕草をする。多分、いつものお祭りの光景を思い浮かべているのだろう。

 

「そう考えたとき、路上ライブに足りないものは『地元との繋がり』だ。今のままだと、商店街という場所(ハコ)だけを借りてバンドが演奏してるってだけだ。盛り上がりはするが、繋がりがないから継続性がない。今年をそれで乗りきったとしても、来年同じことができるかと言われれば厳しいと俺は思う」

「えぇ~……、じゃあ、やっぱりライブじゃあ厳しいのかなぁ」

 

 戸山さんががっくりと肩を落とす。

 

「いや、ライブをして盛り上げるっていう方向性は間違ってないよ。ただ、『ライブ』と『商店街』を結びつける何かが欲しいんだよね」

 

 「路上ライブ」が「お祭り」の枠に収まるためには、「路上ライブ」と「商店街」を繋ぐ「何か」が必要だ。逆に言えば、繋ぐ「何か」さえ見つかれば、「路上ライブ」を商店街の新しい伝統にすることだって可能なはずだ。

 その「何か」を見つけるためには、もう少し手がかり・足掛かりになる情報が必要だ。

 

「……そういえば、市役所の人はお祭りの中止の直接的な原因について何か言ってたかな? 例えば、こんなところで赤字が出てる、とか」

「あ、それなら確か『お祭りで集めた客が落とすお金が商店街にほとんど入らない』って言ってたと思います」

 

 俺の問いかけに答えてくれたのは花園さんだ。

 

「へぇ? そこ、もっと詳しく聞けるかな?」

「えーっと、確か商店街のお祭りでは出店が出るんですけど、これって外部の人を呼び込んでるんです。一応、出店料なんかは納めてもらってるんですが、それで出る利益はそんなに大きくなくて……」

「あー、そういうことかぁ。的屋さんを使うなら、確かに商店街に落ちるお金は減るなぁ」

 

 祭りの花の一つである出店を外部の人間に任せていたら、確かにお金は商店街にあまり落ちてこないだろう。

 しかも、出店は商店街の店の前に建つから、その間は商店街の店は開けない。そうなると祭りの間、商店街の店の利益はほぼゼロに等しいというわけだ。もちろん、出店料等は取っているのだろうが、出店も利益ありきで出店しているからそこまでの金額を取ってはいないだろう。

 俺は顎に片手を添えて暫し考え込む。

 

 市役所の人が難色を示すのも、無理はないな……。

 しかし、今回の件の要諦(ようてい)は見えたな。つまり、外部からの出店の代わりに、商店街の店が「路上ライブ」で稼げるシステムを構築すればいいわけだ。そうすれば、市役所の協力を取り付けることだって夢じゃない。

 

 ……考えろ。

 

 路上ライブ、商店街、店、利益、ステージ、ガールズバンド、お祭り……これらの要素を上手く結びつけて一本にする「何か」を。何か、ないか。例えば、一番目立つステージを上手く使って、人を集めて、集めた人に…………

 

「……あ」

 

 そこまで考えて気付いた。

 

 ……繋がった。全部繋がったぞ!

 

 俺は考え込んでいた頭を、銃で弾かれたように持ち上げた。

 

「あっ、何か思い付きましたか?」

 

 こちらも先ほどからそれぞれに考え込んでいた戸山さんの一声で、《ポピパ》のメンバーたちも釣られて顔を上げる。

 

「ああ、『ステージ』、『店』、『路上ライブ』、『利益』……全部の要素が一つに繋がった!」

「マジでか!? 基音さんすげぇ!」

 

 市ヶ谷さんが驚愕の声を上げ、テーブルに身を乗り出す。それに続いて身を乗り出す《ポピパ》のメンバーを、俺は両手で制する。

 

「いや、喜ぶのはまだ早い。ここから、『路上ライブ』に向けてはかなりの大立回りをやる必要がある。俺はもちろんだが《ポピパ》さん、君たちにも協力を頼みたい」

「もちろんですよ! 何でも言ってくださいね!」

「そもそも、ライブに参加させてもらえるって時点で、なんだってやるつもりですよ」

「そうだね、やるからには本気でやらないとね」

「うん、頑張ろう」

「私は自分の家のこともあるから、手は抜けないからね!」

 

 俺が真剣な眼差しで彼女たちを見つめると、彼女たちは俺以上に本気な眼差しを返してくれる。

 それはまさに、俺が大人になるために、少し前に手放してきた《青春》の輝きを放っていた。

 

 ……ああ、いいな。うん、実にいい。

 

 やはり《ポピパ》には、《青春》の香りがよく似合う。

 

「基音さん……?」

「……ああ、悪い。少し考えごとをしてた」

 

 不思議そうな表情で問いかける戸山さんの声に、俺は我に帰った。

 

 いかん、いかん。ボーッとしてるなよ、俺。ここからが正念場なんだから。

 

 心の中で自分に喝を入れて、軽く呼吸を整える。

 

「よし、じゃあみんなにお願いしたいことを今から言うぞ。何個かあるからよく聞いてくれよ」

「はい!」

「オーケー。じゃあ、まずは…………」 

 

 それからしばらく、俺たちは額を付き合わせて作戦会議に移った。話はそこまで長くはなく、時間にすると10分もかからない程度のものだった。

 しかし、その話が終わったときの《ポピパ》の表情は、今日一番の晴れやかなものだった。

 そして、最後にみんなと連絡先を交換すると、再会の約束を交わし俺たちは別れた。

 いつまでも手を振ってくれる《ポピパ》に応えながら、俺の胸の内には熱い炎が灯っていた。

 

 ……最高だ。路上ライブが、まさかのとんだ一大イベントになりそうじゃないか。

 冬のフェスに向けての前哨戦として、この路上ライブは《ハロー、ハッピーワールド!》にとって、これ以上はない最高の舞台になるぞ。

 

「……さぁ、ここからが俺の腕の見せ所だ。精々気張らせてもらおうか……!」

 

 《ポピパ》の提案に乗るならば、秋祭りの代わりの路上ライブまでは、あと10日の期限がある。ここからの10日は、恐らく俺の人生で最も忙しい時間となるだろう。

 しかし、それでいて事が成った暁には、最も充足した10日間になるであろうことも俺は確信していた。

 

 秋も深まり始めた雑踏を、ただ一人で俺は歩く。脇に並んだ街路樹は、まるで俺の胸の内を具現化したかのように、その葉を秋の陽光に赤々と燃やしていた。

 

 




というわけで、盛大なフリを作って路上ライブ編前半終了~!
ここから、サイドストーリーを挟んで後編をぶっこんでイクゾォ!

後編はライブ描写増し増しになりそうなので、島○卯月、頑張ります!
どの曲を使うかも今から考えていかないとなぁ(他人事)

よろしければ、感想・評価・コメントお待ちしてますわよ!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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