野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。

路上ライブ編、後編の2話目です。

久しぶりに《ハロハピ》メンバーが登場して、ライブに向けてストーリーがすすんでいきますよー!


野良ベーシストは240時間戦える 【10日前・午後】

「……というわけで、商店街での路上ライブは他のガールズバンドとの合同ライブになった」

 

 俺がその情報を《ハロー、ハッピーワールド!》のメンバーたちに告げたのは、路上ライブ10日前の午後、《arrows(アローズ)》に全員を集めてのセッション練習の直前のことだった。

 合同ライブの話を突きつけられたメンバーは暫し沈黙。その後、

 

「きゃー! 合同ライブなんて素敵じゃないの、鳴瀬!」

「ああ、それも青空の下、町行く人たちに私たちの歌をステージから盛大に聴かせるなんて、最高の舞台じゃないか!」

「わーい! これで商店街もすごく盛り上がるね! コロッケいっぱい買ってもらえるかなー?」

「ふぇぇ……な、なんだか途方もないことになってます~!?」

「ま、いつものことなんですけどね……」

 

と、全員が思い思いの反応を示した。何だかんだで、難色を示すメンバーがいないのは、良くも悪くもバンドマンとして全員が染まってきた証拠だろう。

 

「それで、それで! 一体どこのバンドと合同なの!?」

「うわっ!? 急に飛び付くなよこころ! 今から言うところだったんだから、少しは落ち着け!」

「はーい!」

 

 堪えきれなくなったペグ子が首筋に飛び付いてきたのを軽くひっぺがして捨てると、ペグ子はひらりとスタジオの床に降り立ち、先生の話を聞く園児のように体育座りをして体を左右に揺らしていた。相変わらず、恐るべき身のこなしである。

 そして、気が付くと残る二人のお気楽三人衆のメンバーも体育座りして俺の言葉を待っていた。規則正しく左右に揺れる三つの影は、さながら共振するメトロノームのごとしだ。

 

「……まぁ、いいや。えーと、とりあえず、今回の話を持ってきてくれたのは他ならぬ《popin' party》の皆さんだ。だから最低限ここの参加は確実だ」

「わぁ! じゃあまた香澄ちゃんと一緒にステージに立てるんだね! やったぁ!」

 

 《popin' party》の参加を聞いて、飛び上がって喜んだのは北沢さんだ。

 

「そういえば、北沢さんは戸山さんと幼なじみなんだっけ?」

「そうだよー! 小さい頃に、よく近くの公園で遊んだりしたんだー!」

 

 俺が確認すると、北沢さんが元気よく答える。

 

「おー、それじゃあ《ポピパ》さんへの連絡なんだけどさ、俺が忙しいときは北沢さんが窓口になってくれないかな?」

 

 今後、俺を待ち受けるスケジュールは中々にハードだ。特に他のガールズバンドとの折衝に当たらなければならない俺は、どうしても拘束されてしまう場面も多くなる。

 だから、並行して複数のバンドと連絡を取り合うためにも、《ハロハピ》から他のガールズバンドの窓口になれる人間を用意しておきたい。

 俺のこの提案に、北沢さんはビシッと敬礼のポーズで応えてくれた。

 

「りょーかい! はぐみ、《ポピパ》さんとの連絡役、頑張るよ!」

「頼んだよ北沢さん。戸山さんの連絡先はわかるかな? わかるなら少し挨拶を入れといてくれるかな」

「ガッテン!」

 

 そう応えるや否や、北沢さんはスマホを取り出し素早く操作し始めた。恐らく、戸山さんにメッセージを送っているのだろう。

 

「でも、これだけのステージをやるってことはうちと《ポピパ》さんだけじゃないですよね? 他はどこに声をかけるつもりなんですか?」

「お、よくぞ聞いてくれた奥沢さん」

 

 奥沢さんからのしごく最もな指摘を受けたところで、俺は話を先に進める。

 

「残りのバンドは二つ、はっきり言ってどちらも格上のガールズバンドだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、奥沢さんが思わず苦笑いを浮かべる。

 

「うへぇ、格上ですか……」

「そうだな。あまり、どんぐりの背比べでステージをやってもスキルアップにならんからな」

 

 バンドマンとして恐ろしいのは停滞だ。

 常にシーンの最前線で歌い続けようと思うのなら、やはり最前線にいる者達と並び立つ覚悟がいる。

 そこそこのラインに立つ者同士でいい勝負を演じたところで、結局観客が見ているのは最前線のバンドだけなのだ。有象無象を掻き分けてでも前に立つ覚悟がなければ、この大ガールズバンド時代に爪痕を残すバンド足り得ないだろう。

 

 そんなことを思っていると、ずいっと前に進み出て来たのは薫だった。

 

「その通りだね、Mr.鳴瀬。やはり人の成長は困難に打ち克ってこそ成し遂げられるものさ!」

「お、たまにはいいこと言うじゃないか、薫」

「はっはっは! 私はいつだっていいことを言っているさ!」

 

 額に手を添えて天を仰ぐ薫。相変わらず芝居がかった仕草だが、この向上心は見習うべきだ。

 

「そんなわけで、俺たちに与えられる困難だが、ひとつ目は《afterglow》だ」

 

 《afterglow》の名前を聞いた瞬間、ペグ子が嬉しそうに跳び跳ねた。

 

「《afterglow》! 《スクジャム》のときに一緒だったガールズバンドね! すごく力強い演奏だったのを覚えているわ!」

「うん、あそこは基礎の技術がしっかりしてるからね。その自信がパワフルな演奏に繋がってる。一歩先を行くバンドとして学ぶべきところは多いだろうよ、それにーー」

「それに?」

「ーー《afterglow》のメンバーは商店街に縁がある娘が多いんだよ。多分、俺の見立てではそこから引っ張れると踏んでる」

「なるほど!」

 

「それじゃあ、もうひとつのバンドはどこなんですか?」

「んー、こっちは引っ張れるか微妙なところなんだけどさ《Roselia》に声をかけようと思ってる」

 

 《Roselia》の名前に反応したのは奥沢さんだった。しかし、先ほどのペグ子のそれとは違って、彼女は頬をひきつらせている。

 

「うぇ!? 《Roselia》っていったらこの界隈じゃトップクラスのガールズバンドじゃないですか!」

「うん、それに聞いた話だと、もうすでにメジャーレーベルからの声もかかってるとか……」

 

 奥沢さんの反応に松原さんも乗っかる形で声をあげた。二人とも、本当に《Roselia》を連れてくることができるのか半信半疑といった様子だ。

 そして、それ以外に「《Roselia》と同じステージに立って演奏することが自分たちにできるのか」という不安も、そこには多分に含まれているようだった。

 

「鳴瀬さん、ほんとに《Roselia》みたいな大物を引っ張ってこれるんですか?」

「さっきも言ったけど、こればかりは蓋を開けてみないとわからないな。一応、コネはあるから話は聞いてもらえるとは踏んでるよ」

 

 実は、前に軽く《Roselia》にアドバイスをさせてもらったときに、リーダーの湊さんとは連絡先を交換済みだ。そのときに、バンドにとっていい刺激になるような話があれば、是非連絡が欲しいとの言葉も貰っている。今が正にそのときというわけだ。

 

「ま、《Roselia》に連絡をとるのは《Afterglow》が参加を約束してくれてからだけどな」

「あら、そうなの?」

 

 俺はきょとんとした表情のペグ子に向かって軽く頷く。

 

「ああ、《ハロハピ》も《popin' party》も、今勢いのあるガールズバンドって部分では悪くはないんだが、《Roselia》からしたら数段格落ちになる感は否めない。彼女たちにとっても意味のあるライブでなければ、お誘いするのは失礼だからな」

「なるほど、そこでスキル的に私たちの上を行くバンドの《Afterglow》に仲立ちをしてもらう訳ですね」

 

 奥沢さんがそう言って、納得したように頷いた。

 

「その通り。《Afterglow》は《Roselia》と比べれば荒削りなところはあるけれど、その『荒さ』がむしろ良い。あの熱さが《Roselia》にとって、今回のライブに参加する『価値』になると俺は考えている」

 

 俺が思うに、《Roselia》はある種の完成したバンドだ。

 そしてそれは、バンドとしてというよりも、個々としての完成に近い。今が伸び盛りの宇田川さんを除けば、彼女たちは個々のプレイヤーとしてある程度のスタイルを確立している。実際、そんなメンバーが集まってできたバンドだということは、氷川さんから聞き及んでいる。

 しかし、それはともすれば、今のままでは個々としての輝きしか放てないということだ。《Roselia》がひとつ上のステージに行くには()()()()()()()()()()()R()o()s()e()l()i()a()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が肝心なのだと俺の直感が告げている。そうすれば間違いなく彼女たちは歴史に名を残すガールズバンドになるだろう。

 しかし、《Roselia》を削るほどの「何か」は、そう簡単には見つからない。ダイヤモンドを研磨するのにダイヤモンドの粉をまぶしたカッターを用いるように、強いものを磨くにはそれに匹敵する強さの「何か」が必要なのだ。

 

 ーーそして、それこそが《Afterglow》だ。

 

 《Afterglow》の、特にボーカルの美竹さんから感じるあのバチバチとした《闘志》とでもいうべき勢いは、スキルの差を埋めて《Roselia》を削るに足る。

 いや、むしろスキルという《Roselia》で既に輝くものではない《闘志》こそが、彼女たちの新たな可能性を削り出すに違いない。いつだって、新鮮なひらめき(インスピレーション)を与えてくれるのは、自分の内ではなく外にあるものだ。

 そして、それはきっと苦しみもがく《Afterglow》にとっても、現状を打開する福音となるだろう。

 

 《Afterglow》と《Roselia》が互いを引き上げ、それを見た《ハロハピ》と《popin' party》が釣られて引き上げられ、その熱が観客を盛り上げる。これが俺が今回のライブで引いた絵図だ。

 

 なんてことはない。

 俺は、商店街を盛り上げるライブをぶち上げると見せつつ、その実《ハロハピ》を含むガールズバンド全てのステップアップを目指したのだ。

 

 《ハロハピ》には、上質な共演による成長を。

 

 《popin' party》には、商店街の復興による自信を。

 

 《Afterglow》には、現状を打開する鍵を。

 

 《Roselia》には、更なる高みへの階段を。

 

 このライブは、彼女たちがそれぞれ次のステージに昇った姿が見たいという、俺の《利己主義(エゴイズム)》で固められているのだ。

 

 ……そして、それゆえに計画にGOが出れば、間違いなくこのライブは成功する。いや、成功させる。いつだって、世界をより良くするのは、「もっといい思いがしたい」「もっと上に行きたい」という、人間の《利己主義》なんだからな。

 だからみんな、俺に最高の君たちをみせてくれよ。

 

 そう心の中で思いながら、決してそれを表には出さずに俺は《ハロハピ》のメンバーに指示を出す。この手の《利己主義》は、演奏で見せる《自分らしさ(エゴイズム)》とは違って表には出さない方がいい。

 

「みんなはライブに向けて演奏の精度を高めてくれ。北沢さんは必要に応じて《popin' party》との連絡を頼む。そして、奥沢さんは参加するバンドが決定したら《ハロハピ》のSNSの更新を頼む。ホームページの方は俺が更新するから大丈夫だ」

「はーい!」(×5)

「よーし、それじゃあ俺は早速《Afterglow》と《Roselia》にコンタクトをとるから少し席を外す、俺が居なくても頑張れよ」

「もちろんよ! 鳴瀬も頑張ってね!」

「任せたまえ、Mr.鳴瀬。いい報告を期待してるよ!」

「はぐみもやるぞー!」

「が、頑張ります! 鳴瀬さん、よろしくお願いします!」

「鳴瀬さん、あまり無茶しちゃだめですよー」

 

 メンバーそれぞれの返事とねぎらいの言葉を受けて、俺はスタジオを後にする。

 受付の四方津さんに軽く手を挙げて挨拶しながら《arrows》を出る。スマホを取り出し通知を確かめるが、アッ君先輩からの連絡はまだない。とにかく、彼女からの連絡がくる前に、なんとか二つのガールズバンドを口説き落とさないと、区役所でのプレゼンが破綻してしまうことになる。ここからの動きにはあまり時間の猶予はない。

 

「女の子を口説くのは柄じゃないんだが……やるしかないか」

 

 これから待ち受ける彼女たちとの交渉のことを考えると若干ナーバスになる。

 それでも俺は、自分の《利己主義》のために、スマホを操作して美竹さんの番号をコールするのだった。

 

 

 




というわけで、次回は二つのガールズバンドとの出演交渉パートになりますわ!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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