路上ライブ編後半の第3話です。
【お礼】
日間ランキング二次創作で54位にして入っておりました。散発的な投稿の作品は中々ランキングに載ることがないので、それだけ沢山の人に追いかけてもらえて感無量です!
そして、評価者が35名を超えましたので、グラフの目盛りが4/5に増えました! 調整評価で9.00と、投票いただいた多くの皆様に高く評価していただき、ありがたい限りでございます。
このような形で反応が返ってくると非常にモチベーションも上がります! コメントや評価など、ぜひお待ちしてます!
なんとか完結までに評価を5/5埋めることを目指して頑張ろうと思います。どうか今後も野良ベーシストをよろしくお願いします!
「もしもし、美竹です。あの、失礼ですがどなたですか」
覚悟を決めて、スマホで美竹さんに連絡をとった俺を待ち受けていたのは、なんだか少し他人行儀な反応の彼女だった。
「あ~、えっと……俺です、基音鳴瀬です」
その反応に少し面食らい、少し丁寧な口調になりながらも、俺が名前を伝えると、スマホの向こうで「あ~……」という、少し気まずそうな声色で美竹さんの声が響いた。
「基音さん、か。お久しぶりです。すみません、実は電話帳に名前を登録してなくて、誰だかわからなくて他人行儀になりました」
「そうだったのか、いや、忘れられたかと思ってちょっとびっくりしたよ」
「すみません、あんまりスマホを活用してないもので」
「ははっ、美竹さんらしいな。いいよ、気にしないで」
そういえば、美竹さん、前にスタジオで既読スルーを上原さんに叱られてたっけな。
俺は頬をぷくっと膨らませた上原さんに怒られて、人差し指で頬を掻きながら視線を逸らす美竹さんを思い出して、思わず苦笑してしまった。
そんな、俺の苦笑の理由を知らない美竹さんは「ありがとうございます」と、まだ少し恐縮した様子だった。
「それで、基音さん。突然どうしたんですか。番号交換してから電話なんて初めてですよね」
美竹さんのそんな言葉で当初の予定を思い出した俺は、早速本題を切り出すことにした。
「あ、そうそう。ちょっと用事があるんだけど、今、時間いいかな?」
「はい、丁度スタジオ練の休憩中なんで大丈夫ですよ」
「あ、じゃあ《Afterglow》の他のメンバーも揃ってる感じかな?」
もし《Afterglow》のメンバーが全員揃っているなら好都合だ。美竹さんの口から説明してもらう手間が省けるので時短の効果が大きい。
「モカとひまりが少し買い出しで外してるんですけど、多分もうすぐ……あ、帰ってきた」
その言葉のすぐあとで、「ごめーん、遅くなっちゃった!」という上原さんの声と「皆の衆~、モカちゃんからの補給物資をありがたく受け取るがよい~」という青葉さんの声をスマホのマイクが拾う。どうやら、向こうでは《Afterglow》のメンバーが全員揃ったらしい。
「美竹さん、もしよければ通話をスピーカーにして《Afterglow》全体に聞こえるようにしてもらえないかな」
「……? 構いませんが、どうしてですか?」
「いや、今回の用事なんだけど、美竹さん個人にではなくて《Afterglow》に向けてなんだ。だから、特にリーダーの上原さんには聞いておいてもらいたくてさ」
「なるほど、わかりました。少し待ってもらえますか」
そう言うと、しばらくスマホを擦るような音が聞こえ、程なくして美竹さんがスマホをどこかに置いて側を離れる音が聞こえた。
それから、「ひまり、スマホの通話スピーカーにするのってどうやるんだっけ?」「え、どうしたの蘭?」「いや、基音さんから電話があって、私たちと話したいって」「えっ、そうなんだ。……もしかして、今繋がってるの?」「うん」「うわっ、ダメじゃん!? ちょっと蘭、早くスマホ貸して!」「はい」というやり取りとともに、恐らくスマホが上原さんの手に収まったとおぼしき雑音が入る。
「……これでよしっと、あーあー、基音さん? 聞こえていらっしゃいますか?」
「はーい、聞こえてるよ。そっちも俺の声、全員に聞こえてるかな?」
スマホ越しに聞こえる上原さんからの言葉に返事すると、少し遠くから「やっほー、聞こえてるー?」「あ、ダメだよモカちゃん。失礼だよ」「こっちは大丈夫ですよ、基音さん」と他のメンバーが口々に喋る声が聞こえてきた。
「オッケー、こっちも聞こえてるよ」
「すみません、なんか騒がしくて……」
「はは、気にしなくていいよ。こんなノリの方が《Afterglow》らしいしね」
恐縮したトーンで喋る上原さんに答えてから、俺は早速本題に入ることにした。
「えーっと、それで本題なんだけどさ。今回、俺がみんなにコンタクトをとったのは、うち、あ、うちってのは《ハロハピ》のことなんだけど、うちで主催するライブに参加してもらえないかって話なんだ」
「えっ! ライブですか!?」
「ライブ」の言葉に、《Afterglow》のメンバーが色めき立つのがスマホ越しでもよくわかる。
「まぁ、そんなデカイ話じゃないんだけどさ」
「ほほぉ、それじゃあ一体どれくらいの規模なんですかー?」
「あっ、モカったら勝手に喋って!」
「いいよ、自由に喋ってくれて。んー、期待させてあれなんだけど、どこかのハコを借りてやるわけじゃなくてさ、10日後に○○商店街で祭用のステージを借りて路上ライブをやる予定なんだ」
「えっ、商店街でですか!」「おお! いいじゃん、いいじゃん!」
すぐに反応したのは羽沢さんと、宇田川さんの二人だ。この二人、羽沢さんは商店街で羽沢珈琲店を営業する商店街の人間で、宇田川さんは中止になった秋祭りで、毎年和太鼓を叩くのが定番となっていた人間だ。商店街でのライブと言われれば真っ先に反応するだろうと踏んでいた。
そして、その二人の口から漏れるのはどちらも肯定の言葉だった。
「私はいいと思います。商店街を私たちで盛り上げられるなら、ぜひ参加したいです」
「いやー、秋祭りが無くなって、正直ちょっとテンション下がってたんだよな。それを基音さんが路上ライブなんてやってくれるんだ、断る理由はないよな、ひまり?」
「うーん、どうしようかな……」
乗り気な二人の言葉を受けて、上原さんは少し考え込む様子をみせる。
「んー? ひまりは何をなやんでるのー?」
「んー、いいお話なんだけど、10日後っていうのがちょっとね」
「あー、確かにスケジュールを考えると結構タイトだねぇ」
「うん。それに、今回のお誘いはストリートで、観客には一般の人もいるよね。だから、演奏する曲のセトリ*1もしっかりと考えないと。それができても、そこから曲の練習をするとなると……」
色々なことをぶつぶつと呟きながら、上原さんは更に思考の海へと入り込んでいく。
んー、流石に冷静に頭が回るな、上原さんは。
この上原さんの冷静な反応に、俺は内心舌を巻いた。
人前で、ステージで、しかもチケットを捌くなどの負担も無しでライブができるなんて聞けば、後先考えずに飛び付く人間の方が多い。プロじゃないバンドにとって、ライブというのはそれだけ出演に手間がかかる。
しかし、上原さんはそれでもそこで踏み留まってリスクを天秤にかけることができる。この若さで、そこまで考えが回るのは大したものだ。
「うん、私も同感。下手な演奏をして、初めて見る人に『これが《Afterglow》か』なんて思われたくないから、やるなら万全にできる方がいい」
「……蘭」
そんな上原さんの考えに同調したのは、他ならぬ美竹さんだった。それはプロフェッショナル志向が強い、彼女らしい反応といえた。
「まだ10日もあるんだ。得意な曲をメインにして、一週間ぐらい練習すれば形になるんじゃないか」
「形になる程度では駄目。私達《Afterglow》は常にベストじゃないと」
「でも、今後も常にベストでやれるとは限らないだろ? ベストを目指して、たとえ無理でも、そのときの最高レベルの演奏を出せればいい。違うか?」
「それでも、私はベストでありたいんだ」
あくまでも完全な状態の《Afterglow》を求める美竹さんに対して、宇田川さんは演奏を強固に主張する。そこからは祭太鼓の穴埋めで商店街を盛り上げたいという彼女の強い意志が感じられた。
「まーまー、二人とも。とりあえず、他の情報を聞いてからでもいいのではないですかなー?」
「……モカ」
「……確かに、ちょっと早急に話しすぎたな」
そうしてバチバチと火花を散らす二人の間に、するりと割り込んだのは青葉さんだった。比較的いつもフラットな感情でいる彼女らしい絶妙なアシストだ。
「というわけで基音さん、続きをどうぞー」
「はいどうもね、青葉さん。この件、みんな色々思うところがあると思うんだけど、俺も《Afterglow》にメリットがあると思って持ってきてるんだよね」
「私たちにメリット、ですか……例えばそれはどんなものですか?」
「メリット」の言葉に反応したのは上原さんだった。やはり、バンドのリーダーとしては気になるところなのだろう。
「正直、《Afterglow》さんにはかなりタイトなスケジュールで参加してもらうから、こちらもかなりのメリットを用意してある」
「ほほう、それは『山吹ベーカリー』のサービス券10枚綴りにも匹敵しますかな?」
「こら、モカったら茶化さないの!」
俺の言葉にすかさずネタを挟んできた青葉さんを上原さんが窘める。こんなときでも自分らしさを崩さない青葉さんは、中々に肝が太いなと思う。
「ふふっ、それは強敵だな。でも、君たちなら俺の提案に、もっと価値を見いだせると思うよ」
そう俺が断言すると青葉さんは「おー」と声をあげ、上原さんも「それほどまで、ですか……」と呟いた。固唾を飲んで次の言葉を待つ《Afterglow》に、俺は今回彼女たちを誘った核心となる言葉を口にした。
「俺が君たちに与えられるメリット、それは《Roselia》とのイベントでのヘッドライナーの役割だ」
「なっ……!」
「おおー」
「えーっ!? 《Roselia》!?」
「ヘッドライナー……!」
「マジかー!」
ーー《Roselia》とのヘッドライナー。
俺の提示するこのメリットは、《Afterglow》のメンバーに対して少なからず衝撃を与えたようだ。
「……《Roselia》というと、
「ああ、君が想像している《Roselia》だよ、美竹さん」
衝撃からいち早く立ち直って、喋り始めた美竹さんに、俺は肯定の言葉を返す。
「この界隈のガールズバンドで三本の指に入る《Roselia》、ここと君たちを今回のイベントの目玉にしたい」
「……!」
俺がはっきりとそう言い切ると、美竹さんが息を飲む音がスマホ越しにもはっきりと聞こえた。
「ろ、《Roselia》!? 基音さん、《Roselia》と伝があったんですか!?」
「ああ、前に演奏についてアドバイスしたことがあってさ、そのときにリーダーの湊さんと連絡先を交換してあるんだ」
「うわー……そうなんですね……。じゃあ、本当に《Roselia》がいるステージに私たちが……」
上原さんはまだ信じられないといった様子でぶつぶつ呟き始めている。
確かに、《Roselia》と同じステージに上がるというのはこの界隈では特別な意味があるといっても過言ではない。《Afterglow》も素晴らしいバンドであるには違いない。この界隈では、選者によっては十指には入れるスキルはある。
しかし、
そのことをスマホの向こうで、《Afterglow》のメンバーも話し合っている。しばらく、その状態が続いた後、こちらに言葉を投げ掛けてきたのは美竹さんだった。
「基音さん、待たせてすまない」
「いいよ、難しい話だから、適当に即決されるよりはこの方がいい」
「ありがとう。……基音さんに一つ質問があるんだけど、いいかな」
「どうぞ」
「ありがとう」
「基音さんはこの案件、どうして私たちに持ってきてくれたんだ?」
美竹さんの口からこぼれた言葉は、至極当然な疑問だった。
彼女たちから見れば、俺の提案ははっきり言って《ハロー、ハッピーワールド!》にとって何のメリットもないからだ。これだけ大きなイベントを準備しておいて、ステージのヘッドライナーは取られる上に、実力的にも差があることを見せつけられることになる。もし当人なら「そりゃないぜ」となること受け合いだ。
でも、それは彼女たちが、俺の《
だが、そのことを《Afterglow》に伝えていいものか……。
ここにきて、俺には少し迷いがあった。
それは、俺の《利己主義》を《Afterglow》にさらけ出してもいいものか、という迷いだ。
俺の《利己主義》に関しては身内の《ハロハピ》にすら漏らしていない。前にも考えたように、この手の《利己主義》はあまり外に漏らすべきものではないからだ。
しかし、美竹さんの疑問に答えるためには、俺の《利己主義》について、必ず触れなければならない。誰にも伝えていないから別に適当に理由をでっち上げればすむ話だが、本気でぶつかってきている彼女たちに対してそんな不誠実は許されない。
だから、俺に取れる選択肢は全力で全てを晒すか全てを伏せるかの二択だ。当然、後者を取るなら美竹さんの疑問には答えられないが、他人に漏らせぬほど大切なことなのだと彼女を納得させられるかもしれない。
……駄目だな。ここで腹を割って話せないなら、美竹さんたちに胸を張って向き合えない。ラブコールを送っておいて、本心を見せないのは漢じゃないぜ。
そもそも《利己主義》で動き始めた今回のイベントだ。それに完全に蓋をするのは土台無理な話だ。
覚悟を決めた俺は、スマホの向こうで沈黙を守る美竹さんに向けて口を開いた。
「そのことについて、理由は二つ。一つ目は、美竹さん、君が前に俺に頼んだことへの
「……! 私の、ため……」
「そうだ。美竹さん、君は、いや、君たちは自分が思っている以上に才能がある側の人間だ」
「……そう、思いますか?」
「ああ、少なくとも俺は間違いないと思う」
少し不安を感じさせる声色の美竹さんに俺は即答した。これに関しては100%の自信で、俺はそう言いきることができる。そして、ここはそうしなければならない場面であることも解っている。
「しかし、その才気ある人間がより輝きを放つためには、磨く側の道具にも格というものがある。十把一絡げ、有象無象のガールズバンドでは最早君たちの才能を磨きあげることはできない、俺はそう感じている」
そこまで言った俺に対して、震える声で応えたのは、上原さんだった。
「……つまり、つまりですよ? 基音さんは、《Roselia》は私たちを更に輝かせる道具、そう言いたいわけですか?」
恐る恐る、探るように言葉を選んだ上原さんに、俺は薫
「おお! 恐ろしいことを言うねぇ上原さんは! 俺はそんな恐ろしいことは絶対口に出せないよ!」
「ふえっ!? そ、そそそ、そんな!?」
急に梯を外された上原さんがあわてふためくのに乗っかって、他のメンバーたちがここぞとばかりにやんややんやと彼女を囃し立てる。
「すごいなひまりは。今のは私でもちょっと言えないかな」
「やー、我らがリーダーは大胆ですなぁ」
「ひまりさん、流石です」
「いやー、ひまりは言うところで言ってくれるねぇ」
「えええ!? いや、みんな、今のは違うよ! あ、いや、違わなくもないけど! あーっ!?」
みんなから集中砲火を浴びて、ますます狼狽える上原さんに、ここで俺はようやく助け船を出すことにした。
「ま、冗談はさておき」
「ふぇっ? ……冗談?」
「俺は君たちにはそれぐらいの気概で《Roselia》とバチバチやってほしいんだよ」
「バチバチ、ですか」
正気に戻ったばかりの上原さんに変わって、美竹さんが呟く。
「そう、バチバチだ。ステージの上では上座も下座もない。それぞれがそれぞれの想いをただ全力でぶちまければいい。そして、それこそが、いや、それだけが君たちを次のステージに押し上げる」
「次のステージへ……」
「ああ、そしてこれが俺の二つ目の理由。まぁ、単純にそうやって強くなった《Afterglow》が見たい。それだけだよ」
「えっ?」
「おやー、基音さん、《ハロハピ》ともあろうものがありながら、モカちゃんたちに浮気ですかー?」
俺の口からこぼれた《Afterglow》を推す発言にすかさず青葉さんが食いつく。ピラニアも真っ青の嗅覚だ。対策無しではあっという間に骨にされるだろう。
でも、今回の俺はそれには対策済みだぜ、青葉さん。
「確かに、俺は《ハロハピ》の人間だ。それでも、他のバンドを好きになっちゃ駄目な理由はないだろ? いいものはいい、それでいいじゃないか。それで、今俺は好きなバンドが更に成長できるチャンスを握ってるんだ、これを活かさない手はないさ」
「おおー、ズバッと言ってくれますなぁ」
「まぁ、本当のことだからな」
青葉さんはまんざらでもない様子で、俺から牙を外してくれた。
それを確かめて、言葉を続ける。
「それに、何も道具にされてるのは《Roselia》だけじゃないぞ。俺たち《ハロハピ》だって、隙有らば《Afterglow》を踏み台にするつもりでいるんだからな」
「……むっ」
「他のバンドも《Afterglow》を狙ってるかもしれない。あるいは、《Roselia》だってそうかもしれないぜ」
「ええ!? そんなこと……」
「あり得なくはないさ。君たちと《Roselia》は持ち味がまるで違う。自分に足りないものを他のところから見つけようとするのは自然な流れだろ?」
俺は「あり得ない」と言いそうになった上原さんの言葉を遮る。
自分たちに足りないものの答えを、自分の内に見つけようとするのは愚行だ。有るか分からない答えを探し続けるよりも、答えを持つ人間からそれを学びとる方が遥かに有意義だ。
ならばそれは《Roselia》も決して例外ではない。
「私たちが《Roselia》に足りないものを持っている……」
「ああ、というかどこのバンドだって何かしら足りないものを持ってるのさ。そして、それを埋める答えを探してるーー」
ーーそうだ。
俺たちバンドマンは、俺たちの想いをいかに多く観客たちと共有できるのか。その答えをずっと探し続けている。
それは日々の練習の中で。
それは歌詞に頭を悩ませるベッドの中で。
それは仲間と言い争う対立の中で。
それはステージの上の熱狂の中で。
ずっと、ずっと探している。
だからーー
「ーーだから、俺は今回のライブを、それを埋める答えを見つける場にしたいんだよ。そして、このライブに集った全てのガールズバンドを次のステージへ押し上げる。これが俺の《利己主義》だ」
「……」
スマホの向こうから音は聞こえない。みんな、全てをさらけ出した俺の言葉に聞き入ってくれている。
それを確かめた上で、俺は最後の言葉を口にした。
「語りたいことは全て語った。その上でもう一度聞こう。《Afterglow》、今度の商店街の路上ライブに《Roselia》と並ぶヘッドライナーとして君たちが欲しい。さあ、返事を聞かせてくれ」
「……」
スマホの向こうはやはり沈黙。
しかし、そこからは先程まではなかった《Afterglow》の息づかいを感じる。それは、まるで彼女たちがお互いに顔を見合わせているような息づかいだ。
いや、実際に見合わせているのかもしれない。
「……お待たせしました、基音さん」
「美竹さん」
暫しの沈黙の後、スマホから聞こえたのは美竹さんの声だった。
俺の呼びかけに、また少し沈黙してから彼女はゆっくりと、そしてはっきりとその言葉を口にした。
「今回のライブ、《Afterglow》は参加させてもらいます」
「……! ありがとう、絶対にそう言ってもらえると信じていた」
ーー《Afterglow》参戦。
それは俺の《利己主義》が、形になるときがまた一つ近づいたことを意味していた。
歓喜に叫びそうになる自分を抑えつつ、俺は淡々と連絡を続けた。
「俺はまだ連絡先が残ってるから、詳細は追って伝える。それじゃあ、一旦通話を切らせてもらうよ」
「はい、わかりました……あ、最後に一ついいですか」
「ん、何かな?」
通話終了のボタンを押そうとしたとき、美竹さんの声が響き、俺は指を止めた。大きく息を吸い込む音が聞こえたあと、彼女の声が今日一番の力強さで、俺の鼓膜を叩いた。
「今度のライブ、《Afterglow》は《Roselia》だけじゃなくて、《ハロー、ハッピーワールド!》も、他のガールズバンドも、全部踏み台にさせてもらいますから」
「……!」
……ああ、たまらないな。
決して、誰にも従わない。己の咲き方は己で決める。
全てに逆らい、夕焼けの下でのみ咲くことを選んだ一輪の花。
その花の名はーー
「ーー美竹蘭、君の活躍を期待するよ」
「はい、それでは」
その言葉を最後に、彼女との通話が切れる。
「それでこそ、それでこそだ美竹さん。……俺も頑張らないとな」
そうだ。俺の役割はまだ終わっていない。
俺が《利己主義》を晒す相手はまだ一組残っている。
「さぁ、君たちもステージに上ってくれよ《Roselia》?」
そう呟くと、俺は湊さんの電話番号をコールした。
書いてる途中で、操作ミスで最後の3000字がぶっ飛んでおぎゃりましたわ(白目)
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
-
結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
-
田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。