楽器の受け渡しパートから演奏パートへ。忙しくて全然筆が進まんぬ。
【オリキャラ紹介】
年齢49歳。外見は身長178cmで体格はがっちりめ。濃ゆい顔立ちで肌は地黒。ロマンスグレーの髪をオールバックにしてうなじ付近で小さく結んでいる。
鳴瀬が贔屓にしているスタジオ、《
30年近く昔はドラマーとして《オブリビオン》というバンドで活動していたが、仲間の就職などで解散、現在は一線を退いている。ジャズドラマーだったこともあり、繊細なブラシワークとフィルインの引き出しの多さが武器。体格に似合わず技巧派。
【ネタ紹介】
『イケてるバンド天国(通称:イケ天)』
一昔前に多かった視聴者参加型番組の一つ。毎回バンドをいくつか登場させて番組内で対バンライブを行わせ、投票により王者を一組選ぶ。王者はディフェンディングチャンピオンとして次週も登場し、5週勝ち抜けばメジャーレーベルからのCDデビューが確約される。
元ネタは『三宅裕司のいかすバンド天国(通称:イカ天)』。『平成名物TV』という番組の一コーナーで、ここから多くのバンドがメジャーデビューして当時の日本のバンドシーンを支えた。しかし、ディレクターなどの不祥事とテコ入れの失敗、日本のバンドブームの終焉によりその幕を下ろした。
この番組からメジャーデビューを果たした代表的なバンドは《JITTERIN'JINN》《たま》《BEGIN》《人間椅子》《マルコシアス・バンプ》など。
実は、メジャーデビュー前の《GLAY》も登場したことがあるが、演奏途中で無念のワイプ落ちになっている(審査員の評価が低いと、途中で画面がワイプされ演奏停止になるシステムだった)。
「よし、それじゃあ早速やろうぜ。こころ、みんなに楽器を渡してやれ」
俺の言葉にペグ子が頷く。
「分かったわ! 黒服の人たち、薫とはぐみにギターとベースを渡してあげて!」
「承知しました。では瀬田様、北沢様こちらをどうぞ。松原様のドラムは既に運搬済みです」
「どうも、ありがたく受け取らせていただこう」
「わーい! はぐみのベースだー!」
「あ、ありがとうございます」
黒服たちが恭しく差し出した楽器を受けとると、二人はいそいそとケースから楽器を取り出し始め、松原さんはドラムセットの方へと向かう。楽器をケースから出そうとする二人の目はキラキラ輝いて見える。
やっぱり新品の楽器をケースから取り出す瞬間というものはワクワクするものだ。たとえ店頭で自分の目で見て試奏して買ったものでも、このワクワクはいつだって変わらない。それが初めて手にする楽器なら尚更だろう。
それにしても、ペグ子は一体どんなギターとベースを持ってきたんだ? 特にベースが気になるな。
俺はベーシストとしての純粋な興味から北沢さんが開けたケースを覗き込んだ。そして。
「わー! 見て見て、はぐみのベースすごくカッコいい!」
「ぶふぅー!? げほっ、げほっ!?」
「わっ!? 鳴瀬くん大丈夫?」
「あ、ああ。ちょっと驚いただけさ……」
現れたベースを見て盛大にむせることになった。
リ、リッケンバッカーの4003シリーズ!? 実売30万超えの高級機じゃねえか! 俺の虎の子、Fender jazz bass American professionalよりも高けぇじゃん! 初心者が持つベースじゃないぜこいつは……
リッケンバッカーの4003はその独特な取り回しから、ある程度ベースに慣れた玄人向けの機種と言われている。
しかし、その音作りの面白さはピカいちで、使いこなせば様々なシーンで多彩な音色を奏でてくれる、使い手の技量によってその真価が引き出されるベースだ。
面白いベースだけど、最初の一本に選ぶか普通? ……いや、ペグ子は普通じゃなかったわ。
間違いなく初心者が使う一本ではないが、それでもペグ子が選んだと言われれば妙に納得してしまう自分がいた。
しかし、この分だと薫の方のギターも凄いのが出てきそうd……
「おお! 見てくれ、この純白のボディ! 優美なシルエット! まさにこの私に相応しいギターじゃないか!」
「おいおい、こっちはグレッチのホワイトファルコンかよ!?」
ーーこの世で一番優美なギターとは何か?
そんな問いが世のギタリストたちに投げ掛けられたら、真っ先に名前が挙がるのがこのグレッチホワイトファルコンであろう。
汚れを知らぬ純白のボディにバイオリンのようなfホールを開けて、ペグなどにゴールドの金属パーツを惜しげもなく使ったこの名機は、ロココ調の絵画の一場面に登場してもおかしくないような気品と高貴な佇まいがある。
フルアコ・エレアコギターの雄、グレッチ社のフラグシップとも言えるこのモデルは当然お値段も高く、新品の実売価格は50万を下らない。まさにワンランク上の選ばれし者のためのギターなのだ。
必然、演劇の役作りで弾いて以来ほとんどギターとは無縁の薫が持つレベルものではないのだが、ホワイトファルコンを持ってポーズを決める彼女の姿はめちゃくちゃ様になった。イケメン無罪というやつである。
松原さんの前に鎮座するドラムに関してはあまり詳しくないので詳細不明だが、どうやらYAMAHAのヴィンテージらしい。まだ、国内で最高水準の木材が容易に確保できた頃のモデルだ。その証拠にさっきから松原さんが軽く叩いているが、音の抜けが数打ちのドラムとは段違いだ。
そして、最後に奥沢さんなのだがーー
「ーーあれ? 奥沢さんには楽器無しなのか?」
奥沢さんにだけ楽器が無いことを不審に思った俺が声をかけると彼女は首を左右に振る。
「あー、私はあくまでも『ミッシェル』の代理なので演奏はしませんよ」
「……そうなのか」
「そうなんです」
……だから「ミッシェル」って何だ!?
謎の存在「ミッシェル」への疑問は深まるばかりだったが、とりあえず今は奥沢さんは楽器を演奏しないということでいいだろう。
「んじゃ、これで全員楽器は行き届いたわけだな」
確認の意味を込めて俺がペグ子の方を振り返ると、彼女は首を横に振った。
「まだよ! 最後の楽器が残っているわ!」
「ん? 最後って言ってもこれで全員の手元に楽器はあるだろ?」
一瞬、ペグ子自身のことかとも思ったが、彼女の手には既にスタンド付のマイクが握られている。それは当然のようにノイズキャンセルとハウリング防止のシステムが搭載された高級機だ。
薫のホワイトファルコン、北沢さんのリッケンバッカー、松原さんのドラムセットと合わせれば総額は200万に届くかもしれない。このブルジョワジーめ。
……しかし。それじゃあ、残る楽器は一体誰のなんだ?
不審に思った俺が首を傾げていると、ペグ子が右手の人差し指をビシッと俺に突き付けた。無礼な奴だ。
「もちろん最後はあなたよ、鳴瀬! 鳴瀬だって《ハロー、ハッピーワールド!》の一員なんだから、ちゃんとあなたの分も用意したのよ!」
「マジか」
まさか俺の分までペグ子が用意しているとは想定外だった。
ペグ子は基本的には空気を読まず自分の世界に周囲を巻き込み引っかき回すが、たまに見せるこの辺りの絶妙な気遣いや正鵠を射た発言が彼女を憎めない存在にしていることは間違いないだろう。
……でも、俺は自前のベースがあるからなぁ。五弦みたいな多弦ベースなら興味があるけど。
そう、用意してくれたペグ子には悪いが俺は愛用のベースが既に二本もあるのだ。
一本はYAMAHAのミディアムスケールの名機motionB MB-40。安心と信頼のYAMAHAらしい安定感とミディアムスケール特有の取り回しの便利さが売りのこのベースは、持ち運びの利便性からほとんどの演奏シーンで俺のお供をしてくれる頼れる相棒だ。
楽器店で美品中古として25000円で吊るされていたのに一目惚れして即金で購入したのだが、本当にいい買い物をさせてもらったと今でも思っている。
そしてもう一本が先程リッケンバッカーと引き合いに出されたFender jazz base American professionalだ。
ジャズベースのド定番のFenderのハイグレードモデルに位置するこの機種は、motionBが相棒だとすれば用心棒の先生みたいな立ち位置になる。クラブハウスでの対バンライブやスタジオや自宅録音のようなここぞというシーンで活躍する大先生である。
本来20万近い高級機なので普通なら手が出ないところ、馴染みの楽器店の商品入れ替え処分ということで半値近くまで値引きしてもらってようやく手に入れたという経緯があるので、かなり大切に使っている。
なので、四弦のベースは俺にとってはあらゆるシーンをカバーしてくれるこの二本で事足りる。それに、あまり手広くやり過ぎてもそれぞれのベースの扱いが疎かになってしまうかもしれない。
ただ、五弦や七弦の多弦ベースは四弦と違音域の拡大によって表現の幅が広がるので、もう少しスキルアップしたらそろそろ導入しようかなと考えていたこともあった。
だから、もしペグ子が持ってきたベースが多弦ベースなら現物を見せてもらって使わせてもらうのもありかもしれない。
「あー、こころ。折角用意してもらって悪いが、俺は四弦のベースはもう二本も持ってるんだ。五弦や七弦のベースなら興味があるんだが、用意してくれたのは何本弦のベースなんだ?」
ありのままの思いをペグ子に伝えると、彼女は目を丸くする。
「あら、そうなのね。んー、わたしが用意したベースは四弦なのだけど、鳴瀬はわたしたち《ハロハピ》の先生だから一番良いのを用意したのよ! 見れば鳴瀬もきっと気に入ると思うわ!」
「え、一番良いのって薫のホワイトファルコンよりもか?」
俺の問いにペグ子が大きく頷く。
「もちろんよ! 鳴瀬もきっと気に入ると思うわ! 黒服の人たち、楽器を持ってきて!」
「はい、こころ様。鳴瀬様、こちらが鳴瀬様の楽器になります、お納めください」
「あ、どうも」
黒服の一人から差し出されたハードケースを受けとる。ずいぶんと古めかしいケースだ。どうやらヴィンテージのベースらしい。
確かにヴィンテージの楽器なら良い木材が自由に使えた頃ということもあって、ホワイトファルコンよりも高額な物もあるだろう。
「さあ、鳴瀬! 早速開けてみて!」
「分かってるから急かさないでくれよ……」
ぴょんぴょんと跳び跳ねながら俺の周りをぐるぐる回るペグ子を片手で制すると、ケースを床に置いてゆっくりとその蓋に手をかける。
鍵を開けるとわずかな軋みとともに蓋が開き、ついにその楽器が俺の前に姿を表した。
「これは……Fenderのジャズベース? いや、でもこいつは……」
目の前に現れたベースは俺が持っているFenderのジャズベースだった。カラーは定番のサンバーストで、ジャズベース、いや、全てのベースで最も売れたと言っても過言ではないスタンダードモデルだ。
しかし。
……なんだ、このジャズベ。オーラがすごいぞ……。
このジャズベースはおそらくヴィンテージなのだろうが、打痕や弾き傷といったボディダメージがまるでない。持ち上げてネックコンディションも確認したが、ストレートでフレットも9割以上残る極上の状態だ。しかも使った木材が良かったのかトラ目まで浮いている。
だが、そんなことよりも特筆すべきなのはその塗装だ。
長い年月を経たサンバースト塗装は、エイジングによって得も言われぬ飴色の塗装へと変化している。これがボディ中央から外部に向かって徐々に黒くなるグラデーションは、思わずため息が出るほどに優美だ。
……この色は、20年やそこらの経年ではでないぞ。もしかして、マジにスゴいヴィンテージなのか、これ?
自分が今手にしているこのジャズベースから途方もないオーラを感じた俺は、思わずこいつを渡してくれた黒服の人に声をかけていた。
「あの、ちょっといいですか?」
「なんでしょう、鳴瀬様?」
「このジャズベース、来歴とか年式とかって判ります?」
「はい、こちらは1960年式Fenderジャズベースになります。当時Fender社のクラフトマンだった職人のお孫さんから譲って貰った全パーツオリジナル、正真正銘のFenderジャズベースです」
「ぶふぅーー!?」
聞いた瞬間、狼狽えて思わずむせた。
というか、狼狽えるなってのがもう無理。
だってこれ、博物館行きレベルの名機ですやん。
「鳴瀬!? 急に噴き出したりしてのどうしたの!?」
「噴き出すに決まってるだろ、加減しろこのアホ! ホワイトファルコン云々なんか吹き飛んだわ! これ一本で自動車が買えるレベルの名機じゃねーか!」
「えっ!?」×4
俺の言葉に反応した他の《ハロハピ》メンバーも慌てて楽器を覗き込みに来る。
しかし、それも無理からぬ話だ。
生産ラインに初めて乗ったFenderジャズベースのミントコンディションなんて、博物館のガラス越しに眺める位しかお目にかからない。しかも、こいつは恐らくケースも当時物だ。本体と合わせてどんなに安く見積もっても500万は下らないはずだ。
いかん、金のこと考えたら手が震えてきたぞ。
ぐにゃぐにゃになって俺の制御下から離れようとする指先に喝を入れて、俺はなんとかジャズベースをケースに戻すと蓋を閉めた。
ジャズベースの姿が目に見えなくなってから大きなため息を一つ吐く。
「ふぃ~」
「あら、鳴瀬。わたしの楽器はしまっちゃうの?」
「当たり前だ! こんなん緊張してまともに弾けんわ! 黒服の人も、もっと使いやすいのは無かったんですか?」
ペグ子に叫んだあと、俺がさっきの黒服に問いかけると、彼女は申し訳無さそうに首を振った。
「申し訳ありません。鳴瀬様には本当でしたらFender1959年のプロトタイプをお持ちする予定だったのですが、交渉がまとまる寸前に所有者に翻意されまして、急遽こちらをお持ちした次第です」
「余計にタチが悪いわ!? そんなんますます弾けないじゃん!?」
Fenderのジャズベースには一般流通した1960年式の前に、試作品として1959年式のプロトタイプが存在するのは有名な話である。
ちなみにこのプロトタイプは現存確認が取れているのはこの世にたった二本だけであり、当然、二本とも博物館行きかコレクション用の美術品レベルの楽器である。
「とにかく、このベースは受け取れません。お返しします」
「えー、折角鳴瀬のために用意したのよ?」
「アホ、こんなん持ってても緊張して指が動かねーよ」
「あー! またアホって言ったわね!」
アホ呼ばわりされてぷりぷり怒るペグ子は無視して、俺はジャズベースを黒服に預ける。
至高の名機が手元から離れるのは名残惜しい気もしたが、楽器にも格というものがある。今の俺が扱うにはにはこいつはまだ重すぎた。
……それに、こんなの貰ったら一生ペグ子の面倒見ることになりそうだしな。
かくして、俺の手元に渡るはずだった至高の名機は再び俺の手から離れたのであった。
……やっぱりちょっともったいなかったか。
◇◇◇
ペグ子にジャズベースを戻してからしばらく。思い思いに楽器を弾いている《ハロハピ》メンバーを見ながら俺は声をかけるタイミングを伺っていた。
とりあえず、今のところ俺に与えられた任務はボーカルのペグ子を除いた薫、北沢さん、松原さんの三人、彼女たちがどれだけ楽器をやれるのか確認することが急務だ。
楽器の特性もある程度は確認できた頃だ。肥をかけるならそろそろかもしれない。
そう考えた俺はいよいよ口を開くことにした。
「よーし、全員集合」
「はーい」×5
俺の呼び掛けに楽器を弄くっていた面々が楽器を置いて俺の前に集合する。
全員が揃ったことを確認して、俺は楽器担当の三人を見回してから言葉を続けた。
「じゃ、早速みんながどれだけ楽器をやれるか確認したいわけだが、まず前提として薫、北沢さん、松原さん。みんな楽譜は読めるか?」
この問いに三人は首を縦に振る。
「ああ、私は問題ないよMr.鳴瀬。前に演劇で弾いたときに楽譜は読み込んだからね。複雑な演奏指示がない限り大丈夫さ」
「はぐみはTAB譜? とかいう押さえる指の位置が書いてあるのなら読めるよ!」
「わ、私はドラムの譜面なら問題ないです」
「おお、なんだかいけそうじゃないか」
楽器担当の三人が楽譜をある程度読める、これは大きなアドバンテージだ。バンドをやる上で最初のハードルが楽譜・スコアの読み方の理解なのでこれをすっ飛ばせるのは大きい。
特に、通常とは音符などの指示が違うドラムの譜面を松原さんが読めるのは素晴らしい。
ペグ子の一番の功績は真っ先に松原さんを確保したところだと言っても過言ではない。
腕のいいドラマーの確保は全てのバンドの至上命題といえる。他の楽器に比べ機材を揃えることや演奏環境を整えることが格段に面倒くさいドラムはとにかくなり手が少ない。
なってもいいと手を挙げる者がいても、練習が満足にできないので中々上達しない。結果、バンドが空中分解なんてのはよくある話だ。
しかし、《ハロー、ハッピーワールド!》はなんとドラムが一番の経験者。これがどれだけ恵まれたことなのか他のメンバーは恐らく理解していないだろう。
とにかく、松原さん。貴女に会えて本当によかった。
彼女との出会いに感謝する俺の頭の中では小田和正の名曲、《言葉にできない》がどこからともなく流れていた。
「オッケー、じゃあ第一段階はみんなクリアな。じゃ、次はこれで実際演奏してみせてくれ」
そう言って俺は用意していた楽譜を配る。
楽譜は有名な曲のものではなく、運指やスティックワークの確認のための
これをどこまで弾けるのかで全員のレベルが見えてくる。
これからの練習や、演奏楽曲の選定や作成に至るまで、ここでの実力確認が肝になる。
「それじゃあ、30分で譜面を確認して、それから演奏な。俺の期待を裏切らないでくれよ?」
「任せてくれたまえ、Mr.鳴瀬。最高に儚い演奏をお見せしよう」
「はぐみもやるぞー!」
「じょ、上手にできるかなぁ……」
ある者は自信たっぷりに、別の者は不安げに楽譜に目を通しながら楽器と向き合う。
さあ、ここからが本番だぜお嬢様方。君たちの実力、全部俺に見せてくれよ。
彼女たちがどんな演奏を見せてくれるのか期待に胸を膨らませ、俺はその時が来るのを今か今かと待ち構えていた。
次もできる限り早く投稿したい。
でも仕事が忙しい。やむ!
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