野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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息抜きにサイドストーリーを投下します。

ガルパやってるときに、ポピパが御守り買うイベントがあったので、そこからインスピレーションが湧いて一気に書きました。


野良ベーシストは新年を迎える

「あー、(さみ)ぃ……。予定では、今頃は実家の炬燵でぬくぬくしてるはずだったんだがなぁ……」

 

 1月1日。時刻は朝の5:30。

 俺はそんなことを呟きながら、市内から少し離れたところにある神社の境内に上がる石段の前でガタガタ震えていた。

 そもそも、俺がなんでこんな正月の朝っぱらから外で震える羽目になったのかというと、原因は言うまでもなくペグ子だった。

 俺が《ハロー、ハッピーワールド!》絡みで、酷い目に遭うとき、その原因の大体8割はペグ子で、残り2割の1割ずつを薫と北沢さんが仲良く半分こする感じだ。

 

「ペグ子め、急に『そうだわ、今からみんなで初日の出を見に行きましょうよ!』なーんて言いやがって……。日付が変わったときから、なんだか嫌な予感がしてたんだよ、まったくもう……」

 

 そう、俺が今ここで震えているのは、ペグ子の思い付きにより、急遽神社に初詣と初日の出を見に行くことになったからなのだ。

 元々、俺は正月は実家へと里帰りをするつもりでいたのだ。だが、実家に帰る前日、さて荷造りをしようとしたところで、急にいつもの黒服の人たちが家に押しかけて来た。

 彼女たちから、「招待状」と無駄に可愛らしい文字で書かれた封筒を受け取った俺が、三日三晩外に吊るされた干し柿ぐらいゲンナリした顔で中を確かめると、そこにはやはり無駄に可愛らしい文字でペグ子からのメッセージがしたためられていた。

 

ーー鳴瀬へ

 今年もよろしくお願いするわね!

 それと、大晦日なのだけど、今年は《ハロハピ》のみんなで、ホームパーティーをすることにしたのよ! 年越しそばもあるわよ!

 もちろん、《ハロハピ》の一員の鳴瀬も参加だからね!

 当日は寒いと思うから、黒服の人たちがリムジンで迎えに行くわ! 暖かくして家で待っててね!

                  こころより

 

「よろしくって、今年後3日しかねーよ、阿呆め。つーか、年越しもあいつらと一緒かぁ……。年末年始ぐらい休ませてほしいぜ、とほほ……」

 

 こうなってしまうと、例え地の果てに逃げたとしても、弦巻家のあらゆる力を使って追いかけてくるのがペグ子という生き物だ。全てを諦めた俺は、それでもリムジンをマンションの前に横付けされるのは嫌なので、ささやかな抵抗として、歩いてペグ子の家に向かったのだった。

 途中、全く同じことを考えていた奥沢さんとばったり出会ったときには、お互いに苦笑いが止まらなかったことは記憶に新しい。

 ちなみに、もう一人の常識人枠の松原さんは、方向音痴のためリムジン送迎でやってきた。家の前にバカみたいに長いリムジンが横付けされて、近所の人が何事かとわらわら出てきて、顔から火が出るほど恥ずかしかったらしい。

 

 ……よかった、歩いてきて!

 

 ちなみに、実は俺のマンションの前にも迎えのリムジンが来ていたらしく、「一体、あれは何者なのか」と同じマンションの住人に俺が問い詰められることになるのは、もうあと半日ほど先の話である。

 

 閑話休題。

 

 ともかく、そうして俺はペグ子の年越しパーティーに招かれた。

 着いてすぐ、俺たちはパーティーで料理や会話を楽しんだ。その後は部屋で年越しそばを啜ったり、紅白なんかでテンションを上げたり、年越しの瞬間みんなでジャンプして地球にいなかったという定番のネタをやったりしてなんだかんだで盛り上がったのだが、日付が変わってしばらく経つと、流石にいつものメンバーでも少し中弛みする時間が生まれた。

 今思えばこの中弛みがいけなかった。

 その時、俺たちは屋敷の中の茶室と思しき和室で、みんなで炬燵に入ってよく分からない正月特番をだらだらと見ていたのだが、その中弛み(タイクツ)に耐えきれなくなったペグ子の口から飛び出したのが「初詣&初日の出」だったのである。

 正直、もうだらだらしていたい常識人チームは必死になってペグ子を止めに動いたが、時すでに遅し。「それじゃ、わたし達は今から着替えるから、鳴瀬は少し先に行って屋台とか見て待っててね! 黒服の人たち、お願いね!」とペグ子が言った瞬間に、ペグ子たちは黒服の人たちに連れられて屋敷の奥に消え、俺は結局リムジンに乗せられて、気づいたときにはもうここ、神社の石段の前だった訳である。

 

「いや、屋台見ろって言っても、一人じゃなぁ……」

 

 確かに周囲を見渡すと、初詣の客を捕まえるための屋台がところ狭しと並んでいる。初詣ということもあり、祭とは違った、中々珍しい屋台もある。

 だが、俺はどちらかというとこういう喧騒は一歩引いたところから眺めるのが好きなタイプなのだ。だから、いくら珍しいからといっても、進んでそれを見に行くようなことはない。

 必然、今の俺にできることは人通りの邪魔にならないように、石段の少し脇に立ってペグ子たちの到着を待つことしかなかった。

 

「それにしても、遅いな、ペグ子たち。着替えにどれだけ手間取ってるんだか……ん?」

 

 あいも変わらず、ぶつくさと新年には不釣り合いな文句を垂れる俺の鼻先を、後ろから甘い香りが通り抜けた。

 

「鳴瀬様、甘酒はいかがでしょうか?」

「あ、いつもの黒服の。すみません、いただきます」

 

 振り返るとそこには、いつもペグ子に付き従う、レギュラー黒服3人組のセンターの人が甘酒を持って立っていた。プールのときもそうだが、この3人組の黒服さんにはかなりお世話になっている。そう考えると、なんだか申し訳ない気分になるのだが、遠慮したりすると、彼女たちは「これが仕事ですから」と慎み深く返してくるので、今ではその気遣いに甘えている。

 受け取った甘酒を口に含むと、そのまろやかな甘さと酒精を含んだ湯気の温かさが、身体を芯から温めてくれる。コップを空にする頃には、感じていた寒さはかなりマシになっていた。

 

「鳴瀬様、飲み終えたようでしたら、お替りいただいてきましょうか?」

「あ、お気持ちだけで結構です。多分、これからこころたちと屋台で何か買うことになると思いますから」

「では、空いたコップだけお下げしますね」

 

 そう言って、差し出された手に俺は空のコップを手渡す。

 

「すみません、ありがとうございます。おかげでかなりマシになりましたよ」

「そうですか、それは何よりです」

 

 コップを手渡すときにお礼の言葉を告げると、黒服の人はその口元に微笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

 

「でも、ほんとにいつもすみませんね。黒服の皆さんには毎回お世話になってしまって」

 

 そんな黒服の人の姿を見て、思わず俺は頭を下げてしまう。色々な気配りをしてもらって、そこに頭まで下げられては、やはりどうしても申し訳ない気持ちを拭い去ることができなかったのだ。

 

「いえ、それは違いますよ、鳴瀬様」

「えっ?」

 

 黒服の人から出た、予想外否定の言葉に俺が思わず聞き返すと、彼女は先程よりも明らかに嬉しそうな表情で口を開いた。

 

「お世話になっているのはわたくし共です、鳴瀬様。鳴瀬様と出会われてから、こころお嬢様は本当によく笑われるようになりました」

「そうなんですか? 元からあんな感じじゃないんですか」

 

 俺の言葉に黒服の人は首を左右に振った。

 

「昔のこころお嬢様は、確かによく笑われる方でした。ですが、その笑顔はいつも同じような笑顔だったんですよ。一人で楽しそうなことを考えて、試して、その結果に満足して一人で笑う。こころお嬢様の笑顔は一人で完結していたんです」

「一人で……」

「はい。でも、鳴瀬様と出会われてから、こころお嬢様の笑顔は外に向くようになったんです。鳴瀬様、薫様、はぐみ様、花音様、美咲様、ミッシェル様……」

「あ、ミッシェルはやっぱり別枠なんですね」

 

 思わずツッコミを入れてしまったが、それを気にせず彼女は話を続けた。

 

「皆様に向けるこころお嬢様の笑顔はどれも違っていて、そのどれもが今まで以上の笑顔なんです。今のこころお嬢様は、一段と魅力的になられました」

 

 そこで、彼女は一呼吸置くと、じっと俺を見つめて再び口を開く。

 

「わたくし共、黒服の喜びは、お使えするこころお嬢様の喜ぶ顔を見ることです。鳴瀬様は、わたくし共では引き出すことのできなかったお嬢様の笑顔を引き出してくださいました。それだけで鳴瀬様、わたくし共はあなた様に頭を下げないではいられないのです」

 

 そこまで言うと、彼女は俺に向けて深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます、鳴瀬様。そして、これからもこころお嬢様の新しい笑顔を引き出せるように、どうかお力添えをよろしくお願いいたします」

「黒服さん……」

 

 本当に、心の底から頭を下げる黒服の人の姿を見て、俺はペグ子のことを見直していた。

 自らの下に付く人間にここまで慕われるには、その心に支配者の驕慢があってはならない。そんな者に人はけしてその心を許しはしない。

 彼女たちの忠誠は、それ即ちペグ子のもつ支配者のカリスマ性に他ならない。ペグ子はやはり、生まれついてのお嬢様で、丹念に心を込めて育てられた、見る者の心を潤す一輪の花なのだ。

 

「……俺はそんなに大したことはしてませんよ。それでもよければ、ささやかですが僕の力をお貸しします」

「鳴瀬様、ありがとうございます」

 

 もう何度目になるか分からない謝辞の言葉を述べながら、黒服の人が顔を上げた。その顔には、間違いなくこれまで見た中で一番の笑顔が浮かんでいた。

 

「どうやら、今年もお互いにこころに振り回される1年になりそうですね。困ったときは支え合っていきましょう。よろしくおねがいしますよ、黒服さん。他の黒服の方々にもよろしくお伝えください」

「ふふっ、こちらこそよろしくお願いいたします。あっ、どうやらこころお嬢様たちがお越しになったようです」

「おっ」

 

 黒服の人の視線を辿ると、その先にはやはり他の人々の視線を集める無駄に長いリムジンがこちらに走ってくるのが見えた。

 

「それでは、私は影からの警備に戻ります。鳴瀬様、こころお嬢様をよろしくお願いします」

「わかりました、お世話になります」

 

 俺が返事をするやいなや、黒服の人の姿は人混みに溶けるように消えて、最初から彼女などそこに居なかったかのような喧騒が戻ってきた。そして、今度はそれを割くようにして、リムジンが俺の前で停車する。

 

「お待たせ、鳴瀬! ちょっと着付けに手間取ったわ!」

「何が『ちょっと』だ。こっちは、もう少しで凍えるところだったんだからなー」

 

 車から飛び出して来たペグ子に向けて、もう少しキツい言葉で咎めようと思ったが、彼女の着物姿を見た瞬間、その言葉は俺の胸の内にスッと引き下がっていった。

 髪を上に結い上げ、その色に合わせた黄色い着物には金糸で刺繍された春風の中、淡桃の桜の花びらが踊っている。統一感のある色の中、手から下げた錦の巾着袋が良いアクセントになり、可愛らしさの中に日本の伝統美が融合した美しさがそこにはあった。

 

「……確かに、ここまで仕上げれば、あれだけ待たされたのも納得だな」

「ふふーん、きれいでしょ! でも、他のみんなも私と同じくらい綺麗なのよ! さぁ、みんなも出てきて鳴瀬に晴れ姿を見せてあげましょう!」

「では、二番手は私が務めさせてもらおうか!」

 

 その言葉とともに車から出たのは薫だ。

 彼女の着物は日の出寸前の空のようにグラデーションされた生地の裾に赤富士が、そしてそれを背景にこちらに向かって飛ぶ鷹の意匠が縫われた縁起物の図案だった。

 普通の人間では服に着られてしまうようなかなり派手な意匠だが、華やかな薫が着ると見事なほどに釣り合いが取れていて、思わず感嘆の声が漏れてしまう。

 

「へぇ、薫はどちらかといえば洋装って感じだけど着物もいけるな」

「ふっ、着物にはあまり袖を通さないが、それでも立ち振る舞いは身につけていてね」

 

「よーし、次ははぐみだよ!」

 

 いつもの様に髪をかき上げて悦に浸る薫の後ろから出てきたのは北沢さんだ。

 北沢さんは、薄桃色の生地の裾に白い雲が垂れ込めた合間から、ご来光が飛び出している構図の着物を身にまとっていた。首元に巻いた白いファーの首巻きと合わせて、ゴージャスかつ彼女らしい元気を感じさせるいいチョイスだった。

 

「おー、北沢さんのは見てるだけで暖かくなりそうだなぁ」

「へへー、そうでしょそうでしょ! はぐみもお日様のパワーって感じで好きなんだー!」

 

 そう言ってその場でクルクルと回って着物を披露する北沢さんの元へ、今度は奥のドアから降りた松原さんが回り込んできた。

 

「ふええ……、二人と比べると私は少しちんちくりんかもしれません……」

 

 そんなことをいう松原さんの着物は鮮やかな空色の生地を使ったものだ。抜けるような空に見立てたその生地に、縫い付けられた図案は「梅に鶯」。紅梅の枝に泊まる鶯の赤と緑が空に映え、彼女の髪の色と、結った髪に刺した梅のかんざしも相まって、彼女が着物の世界に溶け込んだような調和の取れた美しさがあった。

 

「そんなことはないよ松原さん。着物に負けてないくらい綺麗だよ」

「ふぇっ!?」

 

 俺が言葉をかけた瞬間に、松原さんの顔が真っ赤になって、まるで日が昇ったようになってしまったのはご愛嬌だ。

 

「もー、また鳴瀬さんはサラッとそういうこと言うんだからー」

 

 真っ赤になって固まった松原さんの奥から最後に出てきたのは奥沢さん。奥沢さんの着物の図案はズバリ「夜桜」。艷やかな黒の生地に、ほのかな桃色で表現された月と桜の花びらが踊る、ペグ子と似た構図なのだがこちらは大人の香りを漂わせる仕上がりとなっていた。

 

「奥沢さんは大人の女性だなぁ、大和撫子ってのはこういうことなんだろうな」

「……っ! だから、鳴瀬さんはすぐそういうこと言っちゃうんだから……」

「いや、実際みんな見違えたよ。全員のイメージに合わせて着付けしたんだ、そりゃこれだけ待つのも仕方ないな」

 

 流石にこれだけのものを見せられたら、多少の寒さを我慢したかいもあったというものだ。

 

「それじゃ、お披露目も終わったことだし早くお参りしましょう! そうすればゆっくり初日の出が見られるわ!」

「たしかに、今が6時で日の出が7時ちょうどだから、ここから上の本殿まで着物で動くことを考えると30分はみておきたいから、今から登ると完璧なタイミングでご来光を見られそうだ。行こうか、みんな」

「わかったよ」

「はーい!」

「ふええ……」

「花音さん戻ってきてー!」

 

 そうして俺たちは、本殿を目指して歩き始めた。

 慣れない着物の《ハロハピ》メンバーの歩みは案の定ゆっくりで、本殿につく頃には背後の東の空がかなり白み始める時間になっていた。

 

「さぁ、お参りよ! 今年1年の幸福(ハッピー)を願うんだもの、派手にいくわ!」

「おい、ペグ子。まさか、お前、その、帯付きの札束、まるごと賽銭箱にぶち込むつもりじゃないよな? な?」

「えーい!」

「うっわー!? やりやがったこいつー!?」

 

 本殿の前で、そんなやり取りを繰り広げながら俺たちはなんとかお参りを済ませた。

 

「やーん! さっきの神主さんからもらった御籤、全員大吉じゃなーい! 早速お参りの効果があったみたいね!」

「おお、神様も粋なことをしてくださるじゃないか! ああ、儚い……!」

「わーい! これしばらくお店に飾ろーっと!」

 

 ペグ子の札束お賽銭事件の後、本殿の中からすっ飛んできた神主さんから御籤をもらった俺達は、それを開いてワイワイ騒いでいた。

 しかし、全員大吉に盛り上がるバカ3人衆と対象的に常識人チームは手元の大吉を眺めながら非常に冷めたテンションになっていた。

 

「いや、お参りというか、お賽銭の効果だろ」

「神主さん、御籤の箱からすごい時間かけて選んだの渡してくれましたもんね」

「顔も、ニコニコ通り過ぎてニヤニヤしてましたね……。ま、私が同じ立場なら絶対同じ表情になりますけど」

「ちなみに、宗教法人は非課税だから、あの札束まるごとこの神社のものだぞ」

「ふぇー、そうなんですかー!」

「うわー、坊主丸儲けだ。そりゃ表情も崩れますねー」

 

 新年早々人間の嫌な部分を見たことで盛り上がる常識人チーム。そこに3人衆が近寄ってくる。

 

「ねぇ、みんなはさっき神様に何をお願いしたのかしら? 私はもちろん今年も世界がハッピーになりますようにってお願いしたのよ!」

「え、お願いかぁ……」

 

 ペグ子の突然の問いかけに戸惑っていると、その間に松原さんの方が先に口を開いた。

 

「えっと、私は今年も《ハロハピ》でみんなともっと演奏できるようにってお願いしました」

「やーん、素敵じゃないの、花音〜!」

「わっ、こころちゃん!?」

 

 松原さんの言葉に感極まったペグ子が、松原さんにダイブして抱きつく。最初は戸惑っていた松原さんだったが、抱きついたペグ子の満面の笑顔を見て、その顔に微笑みを浮かべる。

 

「去年は、《ハロハピ》のみんなに出会えたおかげで、私はずっと幸せでした。だから自然とそう願ってたんです」

「私も《ハロハピ》が今よりももっと活躍する未来を祈らせてもらったよ」

「はぐみも!」

「ふふっ、みんな考えることは一緒みたいですね」

 

 《ハロハピ》のことをお互いに祈り合っていた4人は嬉しそうに笑い合う。なんとも微笑ましい光景だ。

 

「美咲と鳴瀬は、どうなの?」

「あ、えーっと実は私も似たようなもんですよ。みんなが元気でいられますようにーって」

「わーい! 美咲もありがとね!」

「わわっ!? こころったらとびつかないでって、もう……」

 

 松原さんからターゲットを変更され、ペグ子に飛び付かれた奥沢さんは、最初は驚いたもののすぐに苦笑いを浮かべながら、満更でもない様子で抱きついているペグ子の髪の毛を撫でてあげていた。

 ペグ子に振り回され続けた奥沢さんも、なんだかんだで結局は《ハロハピ》の一員なのだ。

 そんなことを考えながら、微笑ましい視線を彼女たちに送っていると、いつの間にか彼女たちの視線が全て俺に集まっていることに気付いた。

 

「……ん?」

「ん? じゃないわよ、鳴瀬! 鳴瀬は一体どんなお願いをしたの?」

「ああ、俺ね。俺はーー」

 

 ーー《ハロハピ》のみんなの笑顔(ハッピー)が今年も見られますように。

 

 そう祈ったんだけど、流石にこれ言うのはちょっと恥ずかしいな……。

 

 黒服の人との会話が尾を引いたのか、自然とこんな願い事をしてしまった俺だったのだが、冷静になってみると中々口にするのは恥ずかしい願いだ。

 

 まぁ、どうせ分からないだろうし適当に言っとくか。

 

「あー、こころと同じで世界平和だよ世界平和」

「あっ、鳴瀬が嘘吐いたわ!」

「いや、嘘じゃねーし」

「いーや、嘘よ! だって心がこもってないもの! みんな、鳴瀬に本当の願いを吐かせるわよ!」

「わー!(×5)」

「うぉ!?」

 

 ペグ子の鶴の一声で俺の周りに《ハロハピ》メンバーが群がる。男一人が、年頃の女の子5人に群がられる。客観的に見て、この状況は中々にマズい。

 

「おいこら、離れなさい。可及的速やかに離れなさい!」

「ダメよ! 鳴瀬の口からホントのことを聞くまで離れないわ!」

「観念して口を割り給えMr.鳴瀬!」

「鳴瀬君、しょーじきにならないとだめだよ!」

「な、鳴瀬さん、私も言ったんですから、ね?」

「そうですよー、私もちょっと恥ずかしかったんですけどちゃんと言ったんだから、一人だけ逃げるのはだめですよー」

「くっ、常識人チームまで敵に!?」

 

 マズいぞ。絶対にホントのことは言いたくない。かといってこの状況を抜け出さないのは色々マズい。何かないか、何か。この状況を切り抜けるなにかが……。

 

 そんなことを考えている俺の目の前に、ふとあるものが飛び込んできた。

 

「あ、お守りだ! みんな、年の初めにお守りを買おうじゃないか! ここは俺が買ってあげようじゃないか!」

 

 「お守り」という言葉に、一瞬全員の動きが鈍った隙きを突いて、俺は包囲の輪をするりと抜け出した。

 

「あ! 逃げちゃダメよ鳴瀬! でも、お守りは欲しいわ!」

 

 ペグ子が俺を咎めるも、どうやらお守りの方には興味津々らしい。他のみんなも、お守りに気を取られている様子だ。

 

 おっし、このままお守りを買ってるうちに話を有耶無耶にするぞ!

 

 そう決意した俺は、お守り売り場の前に立ち、みんなをこちらに手招きする。

 

「ほら、みんなもお守り欲しいだろ! さ、集まって選ぶといいよ! こころは髪の色に似ているこれなんて良いんじゃないか?」

「うーん、鳴瀬がそう言うならそれにしようかしら!」

「へぇ、中々儚いデザインのお守りだねぇ」

「うわー、刺繍がかわいいー!」

 

 バカ3人衆は早速お守りに夢中になって、もうさっきまでのことは頭にないようである。実にいい流れだ。

 

「た、確かにお守りというよりもアクセサリーみたいなデザインでかわいいですね」

「これなら、カバンとかに付けてもお洒落ですね。どれにしようかな」

 

 常識人チームも俺を追求するよりも、お守り選びをする方が建設的だと判断したようで、二人でお守りを見比べながらどれがいいか相談し始めた。

 

 やった! これで俺への追求は回避された! 

 我ながら厳しい舵取りだったが、なんとかなったな。やはり、ペグ子があれだけ賽銭箱に突っ込んでくれたから、神は俺の願いを聞き届けてくれた、ということか。ふふふ、ありがとう神様!

 

 厳しい局面を完璧に切り抜けたと確信し、胸を撫で下ろす俺。しかし、俺は重大なことを見落としていた。

 

 ーー《ハロハピ》のみんなの笑顔(ハッピー)が今年も見られますように。

 

 《ハロハピ》のみんなの笑顔が見られる(・・・・)。つまり、この願い事の中には、観測者である俺の笑顔は含まれていなかったのである。

 そして、それは奥沢さんの一言から始まる一連の流れによって、すぐに現実のものとなった。

 

「あ、このお守り、色によって効果が違うんですね」

「あ、本当だ。水色は……学業成就なんだぁ。これってドラムにも効果があるかなぁ?」

 

 奥沢さん曰くどうやら、お守りは色ごとに効果が分けられているらしく、売り場の上に掲げてある看板にその効果が書いてあるらしい。

 

「そうなんだー! じゃあ、はぐみは商売繁盛にしよーっと!」

「なら、私は無病息災かな。子猫ちゃんたちを笑顔にするには、まずは自分がいつも笑顔じゃないとね!」

 

 みんな、看板の効果を見ながら、ワイワイとお守りを選んでいる。

 そんな中、一人だけお守りを選んでいない人物がいることに俺は気付いた。

 それは誰かというとーー

 

「へー! お守りって色んな効果があるのね! 鳴瀬が選んでくれたお守りは、一体どんな効果なのかしら?」

 

 ーーペグ子だ。

 そういえば、ペグ子のお守りは俺が咄嗟に髪の色に合わせたやつを渡していたんだった。

 

 それに気づいた俺は、そのお守りの効果が気になって看板の方を見上げてみた。そして、その効果を目にした瞬間、俺は自分の顔から一瞬で血の気が引いていくのを感じていた。

 

「えーっと、黄色のお守りの効果は……」

 

 マズい。ペグ子が見つける前にすぐにここを離れないと、俺の身の安全がヤバい!?

 

 そう思った次の瞬間、「あ、こころ。黄色は一番右の端だよ」と、まさかの奥沢さんによるバッドアシストが決まってしまう。

 

「ちょ、まっ」

 

 慌ててペグ子の目を覆いに行こうとするも、それよりも先にペグ子はお守りの効果を目にしていた。なんなら、お守りを選び終わった他の《ハロハピ》メンバー全員が、そのお守りの効果を目にしていた。

 俺の伸ばす手の先で、無情にもペグ子の口がその効果を読み上げる。

 

「えーっと、黄色のお守りの効果は、子孫繁栄、安産祈願……」

「あっ(×4)」

 

 ペグ子が効果を読み上げる声が段々と小さくなる。他のみんなも全てを察して、短い声を上げた。

 

 あ、ダメだコレ。

 

 もう、手遅れなことは分かっていた。頭ではなく、心で理解していた。

 それでも一縷の望みをかけて、俺はペグ子に必死の弁明を試みた。

 

「あ、えっと、こころ、さん? これは、お守りの効果には深い意味はなくてだな、ただこころの髪の色とお揃いでいいかなって」

「鳴瀬の……」

「え?」

「鳴瀬のエッチ〜!」

「ぐぼぁ!?」

 

 結局、必死の弁明は用をなさず。

 顔を真っ赤にしたペグ子の渾身の前蹴りを受けて、俺の体は仰け反るようにして宙を舞った。

 そして、仰け反った俺の顔の先には。

 

「あっ……初日のでっ!?」

「Mr.鳴瀬ー!?」

「鳴瀬くーん!?」

「な、鳴瀬さーん!?」

「わー!? 鳴瀬さーん!?」

 

 顔を覗かせたばかりの眩い初日の出を浴びながら、ペグ子に蹴られた俺の体は、神社のある山の斜面を転がり落ちていったのだった。

 

 やっぱり、隠し事はよくないね。ちゃんちゃん。




サイドストーリーを挟むつもりはなかったのですけど、新年なのでそれらしいストーリーをはさみましたわー!

因みに、本編は作中時間のクリスマス辺りで終わる予定で、正月イベントはないつもりでいたので、ここで挟めてよかったですわ!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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