野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
投げキャラは投げられるときに投げるものなので連続投稿ですわ。


野良ベーシストは240時間戦える 【7日前・午前】

「よし、それじゃあ練習始めるか!」

「はーい!」

 

 《arrows》での顔合わせから一夜明けた今日は、いよいよイベントの一週間前だ。

 今日は日曜日ということもあり、《G4SProject》に参加するガールズバンドは、丸一日《arrows》に缶詰で練習することになっている。ステージを再現した大フロアは一つしかないので、オーナーの四方津さんに頼んで、朝の6時からビルを開けてもらい、2時間交代の2サイクルで16時間ブン回し、残りの時間は個室でひたすら練習というクソ最高なスケジュールだ。

 もちろん、こんな無茶が通るのもペグ子という金の湧き出る泉があるからだ。朝一で俺たちがお礼に向かうと、四方津さんは「いやー、これだけ貰って文句を言ったらバチが当たるってもんだ! そろそろビルの改装でもしちまおうか……いや、2軒目のスタジオなんてのも悪くないな! ガハハハ!」と大笑いしていた。

 一体、今までの《ハロハピ》の無茶振りで、四方津さんの懐にどれだけの金が流れ込んだのか。俺は深く考えることをやめた。

 ともかく、そんな中で、我ら《ハロー、ハッピーワールド!》はステージ利用の一番手を拝命しており、早速朝っぱらからステージのレイアウトを試しにきたのだ。

 

「とりあえず、このステージの配置でいちばん重要なのはセンターの櫓に誰を乗せるか、だ。後の四人はどっちを向いたとしても、基本的にやることは同じだからな。ちなみに、演奏の安定性を取るなら、リズムの要であるドラムを載せるのが一番だな」

 

 演奏中、全員が同じリズムを共有できていれば、少なくともそれぞれが好き勝手に突っ走るリスクは少ない。

 そう考えると、リズムを支えるドラムが中心にあるのは理想だ。通常のステージでも、ドラムはステージ後方中央に位置して、他のメンバー全体に均等に音を届けるような配置になっている。

 加えて、ドラムという機材のサイズ感から、見栄えの良さの観点からもベターな選択肢といえた。

 

 しかし、この俺の意見にペグ子が首を左右に振った。

 

「うーん、それも考えたのだけど、肝心の花音があまり乗り気じゃないのよね~」

「ふぇぇぇ……、ごめんなさい。やっぱり櫓のうえは恥ずかしいかなって……」

「ああ、そんなに恐縮しなくてもいいよ、松原さん。俺のはあくまで、一つの提案だから」

 

 申し訳無さそうにペコペコ頭を下げる松原さんを、俺は両手で宥める。

 ドラムのセンターはあくまでも一つの提案であって、絶対的な意見ではない。本人が乗り気でないなら別の配置を考えるほうが寧ろ良い。

 それよりも、松原さんがちゃんと《ハロハピ》の方針に自分の意志を表明していることが、彼女の成長が窺えて俺には、嬉しかった。

 

「でも、考えたってことはさ、こころたちには他にも腹案があるってことだよな?」

 

 俺が尋ねると、ペグ子が自信満々に頷く。

 

「そうね! わたしたちが提案するのはミッシェルセンターのステージよ!」

「ほー、ミッシェルかぁ」

 

 ペグ子の口から出た「ミッシェル」の言葉に、俺はちらりと奥沢さんの方を窺ったが、彼女は俺と目が合うとコクリと頷いた。どうやら、本人同意の上での選択らしい。

 

 少なくとも思いつきの選択ってことは無いわけだ。ひとまず、理由も聞いておくかな。

 

 実は、センターにミッシェルを据えるというフォーメーションは、俺の中では2番目に理想の選択肢だった。だから、彼女たちがどうやってこの選択肢に辿り着いたのか、そのロジックを知っておきたかった。

 

「一つ聞きたいんだが、皆がミッシェルを選んだ理由って何なんだ?」

「ん〜、それはね、『商店街のお客さんたちに、一番ハッピーを届けられるのは誰か』で選んだのよ!」

 

 俺からの問いにペグ子が満足気に答えると、他の四人も満足そうに頷いた。

 

「正直、私達の誰もが櫓の上で演奏するだけの力はあるだろう」

「うん! だから、はぐみたち、次に『誰が櫓の上にいたらお客さんは嬉しいかな?』って考えたんだ!」

「ミッシェルは商店街のマスコットとしてビラ配りなんかで活躍してますし」

「子ども受けなんかも考えるとベター何じゃないかな~って話になりまして」

 

 最後に奥沢さんが喋った後、ペグ子が「ちなみに、ミッシェルには美咲を通じてOKは貰ってあるわ!」と自信満々に頷いてみせた。

 

「……いいな。観客(オーディエンス)の視点に立ってライブをするのはいい事だ。なんだ、皆ちゃんとバンドマンとして成長してるじゃないか」

 

 ーーステージは観客ありき。

 

 これは、ライブをする上での大原則だ。いかに上手い演奏を披露したとしても、観客の満足度が低ければ、それはライブとして成功したとはいえない。自分らしい演奏がステージでできるようになったら、次に考えるべきは観客のこと。

 元々、《ハロハピ》は観客の笑顔ありきのバンドなのでこの辺りのケアは丁寧な方だが、それでもちゃんと理詰めで答えを導き出しているのは大きな成長だ。

 直感だよりのステージでは、観客の目が肥えてくればいずれ破綻するときがくる。そういった意味でも、思考の果てに結論を出すことは間違いではなかった。

 

 俺がそのことを褒めると、彼女たちは、あるものは満足そうに、あるものは照れ臭そうに頬を染めた。

 

「実を言うとだな、俺の中でもセンターミッシェルは2番目に浮かんだ選択肢だったんだよ。その理由の半分は皆と同じだ」

「じゃあ、残り半分は違うんですか?」

 

 奥沢さんが首を傾げながら尋ねてくる。

 

「ああ、俺がミッシェルを勧めるもう半分の理由は、ミッシェルはDJだから、パフォーマンスをしても演奏が狂いにくいところだよ」

「なるほど、確かにセンターで狂いにくい演奏をすれば全体の演奏も自然と整うわけですね」

「そういうこと」

 

 納得したと、「ポン」と手を打った奥沢さんに俺は頷いてみせた。

 DJは、演奏のネタはライブの前に既に仕込んであるので、機材のトラブルでもない限り、当日のコンディションに左右されることなく安定した演奏ができる。

 当然、その場の雰囲気に応じての、曲のピッチの上げ下げやトラックのループなどの調整は必要だが、それでも他の楽器と比べて人力の介在する余地が少ないことが、演奏の安定性に繋がるのだ。

 

「んー、ということはわたしたちの考えは鳴瀬的には50点ってことなのかしら」

 

 そんな中、俺の言葉の「半分」というところに引っかかったペグ子が少し不満そうな表情を浮かべるが、俺は笑って首を左右に振ってそれを否定した。

 

「いや、100点だよ。皆は、ちゃんと自分たちでロジックを考えて、正しい、というよりは妥当性のある答えを導き出した。ステージには『これ』って正解はないから、俺の答えが満点って訳でもない。だから、答えに至る筋道として百点満点だ」

 

 俺がそう補足すると、今度こそペグ子はその顔に満面の笑みを浮かべた。

 

「やったわ! 鳴瀬のお墨付きを貰ったわよ!」

 

 ペグ子が嬉しそうに跳び跳ねると、他のメンバーからも歓声が上がる。

 

「ふっ、ならば後は練習あるのみだね! 最高に儚い演奏を披露しようじゃないか!」

「うん! みんなでサイコーのライブにしようね!」

「が、頑張ります!」

「あ、私はミッシェル呼んでくるのでちょっと抜けますね〜」

 

 気合を入れる《ハロハピ》メンバーの中から、奥沢さんがスッと右手を上げて抜け出した。

 彼女は一応、ミッシェルとは別人の設定なので、そのまま練習に参加するというわけにはいかないのだ。

 

「俺も、マネジメント関係でやることがあるから、少し抜けさせてもらうぞ。たまに顔を出すからサボるなよ?」

「もちろんよ!」

「じゃ、あとは頼むぞ」

 

 ペグ子の声を背に受けながら、俺は奥沢さんの後を追うようにフロアを抜け出す。小走りに廊下を抜けると、ラウンジ部分で黒服の人に声をかける奥沢さんがいた。

 

「はい、それではすぐにお持ちしますね、奥沢様」

「いや〜、いつもありがとうございます」

 

 そんなやり取りが聞こえた後、黒服の人はエレベーターで階下へと向かって、奥沢さんはラウンジの長椅子に腰を降ろす。

 俺がラウンジに入ると、奥沢さんはすぐに俺の存在に気付いた。

 

「あ、鳴瀬さん、お疲れ様です。ここに出てくるなんて、何か別件の仕事ですか?」

「おー、それが理由の半分だな」

「それじゃあ、さっきみたいに、もう半分の理由があるんですか?」

「そうそう、またあるんだな。隣、座っても?」

「ええ、どうぞ」

 

 奥沢さんが長椅子の端に体をずらしてくれると、俺は「ありがとう」と言って空いたスペースに腰を下ろした。

 そして、長椅子の座り心地を確かめることもそこそこに、俺は口を開いた。

 

「ま、単刀直入にいうとさ。理由のもう半分は奥沢さんなんだけどね」

「へっ? 私、ですか?」

 

 突然話題の中心となって戸惑う奥沢さんに、俺はスパッと核心を切り出した。

 

「うん、奥沢さん、無理してないかなって」

「……あー、そういうことですか」

 

 奥沢さんはどちらかといえば、こういったところで矢面に立つような性格ではない。しかし、今回のライブではセンターのしかも櫓の上という、最も目立つ部分に抜擢されてしまった。そのことで、苦労を背負い込みがちな性格の奥沢さんが無理をしていないかと、俺は心配になったのだ。

 

 奥沢さんは俺の問いかけに、苦笑いを少し浮かべてから「うーん、そうですね……」と顎に人差し指を添えて考えごとを始めた。どうやら、今の自分の気持ちを整理して、語るべき言葉を慎重に選んでいるようだった。

 その後、一分ほどその姿勢でいた奥沢さんは、「よし」と呟くと、その顔を俺の方に向けた。

 

「無理、はしてると思いますね、正直」

「ふ〜む、そうか」

 

 ゆっくりと紡がれた、奥沢さんの本心に俺は頷く。

 

「でも、それは全然嫌なことじゃないんですよね」

「へぇ……」

「なんというか、この無理はですね、そう、例えるなら人が成長するために必要な困難みたいな感じなんですよ」

 

 喋りながら奥沢さんの言葉はどんどんと熱を帯びてゆく。

 

「昔の私なら……そう、《ハロハピ》に入った頃の私なら『なんで自分がこんな目に〜』ってなってたと思うんですけど。最近はなんだかんだで、楽しいんですよね《ハロハピ》」

 

 奥沢さんの目は、今は俺から離れてラウンジの床を向いている。ただ、その瞳は床を見ているのではなく、今まで彼女が歩んできた《ハロハピ》のメンバーとしての思い出を映しているであろうことが、手に取るように分かった。

 

「こころに無茶振りされるのも、薫さんにツッコミ入れるのも、はぐみに振り回されるのも、花音さんと一緒にため息を吐いたりするのも、鳴瀬さんに相談に乗ってもらうのも」

 

 そこまで言うと、奥沢さんは顔を上げた。

 

「なんか、《ハロハピ》に入るまでは、私って三人称だったったんですよね。なんか、周りの皆はキラキラ青春してて、でも、それをなんだか醒めてる目で眺めてる自分がいて。皆と同じ青春を生きてる当事者なのに当事者じゃない、みたいな。……変ですかね、こんな感覚」

 

 奥沢さんは苦笑いを浮べてこちらを見る。

 

「いや、変じゃないよ。何にも熱くなれない人ってのは一定数存在するからね。まだ、熱くなれるものを見つけていないのか、あるいは生来そういう性質なのかはわからないけどね」

 

 俺は、奥沢さんの問いを否定して首を振った。

 それを見た奥沢さんはホッとした表情で微笑んだ。

 

「……よかった。でも、私、《ハロハピ》に入って考えが変わったんです。《ハロハピ》で皆に振り回されてるうちに、『あ、今振り回されてるのは、間違いなくここにいる私自身なんだ』って。そうしたら段々、自分が青春の当事者っていう実感が湧いてきて」

 

 奥沢さんが再び俺の方を見た。その目には、強い意志の力が宿っていた。

 美しかった。それは、青春を燃やす一人の少女の魂の輝きを見ているようだった。

 

「だから、無理をしたいんです、私。私を必要としてくれる《ハロハピ》のために、背伸びしてみたいんですよ。なので、これは私の意志です」

 

 飾らない、本心をさらけ出した奥沢さんの言葉に、俺は自分の心配が杞憂であることを悟った。

 「そうか、ならいいんだ」と微笑んで、長椅子から立ち上がった俺に、奥沢さんが頭を下げる。

 

「お気遣いありがとうございます、鳴瀬さん」

「いや、こっちこそ余計な気を回したよ」

「そんなことはないですよ、鳴瀬さんにはいつも助けてもらってますから」

「大したことはしてないさ、俺も《ハロハピ》のためにできることをやってるだけさ」

「あ、なんかその台詞ちょっとキザですね」

「あ、わかった? ちょっとカッコつけてみたんだ」

 

 そう言うと俺たちは、顔を見合わせて笑った。

 するとそのとき、エレベーターのドアが開いて、ピンク色のクマがラウンジへと現れる。それを見た奥沢さんが「パンパン」と音を立てて頬を叩いて気合を入れた。

 

「じゃあ、私も《ハロハピ》のために一つ頑張ってみますか」

「ああ、お互いに頑張ろう。大好きな《ハロハピ》のためにな」

 

 そう言ってお互いに拳を突き合わせると、俺はエレベーターへと歩き出す。ミッシェルを持つ黒服の人とすれ違い様に挨拶を交わしてエレベーターへと潜り込んだ。

 

 さて、奥沢さんが奥沢さんの役目を果たすように、俺も俺の役目を果たさないとな。

 

 そう考える俺の前でエレベーターの扉が閉まっていく。扉が閉まる寸前、ミッシェルの胴体をまとった奥沢さんと目が合う。すると彼女がこちらにウインクを飛ばして、それと同時にエレベーターの扉がしまった。

 なんだか、それだけでどんな無茶でもやれそうな気がする俺なのだった。

 

 

 

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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