今回の東卍リベコラボは走るかもしれないので、暫く更新が遅くなるかもしれませんわ……(死)
「うへぇ……今日も午前様ギリギリかぁ……」
マンションの自室前。鍵穴に鍵を挿し込みながら、スマホのロック画面に浮かぶデジタル時計を眺めた俺は、思わず辟易とした呟きを漏らしてしまう。
《G4SProject》が走り出してからというもの、俺の睡眠時間が5時間を超えた日はない。
重い足取りに、垂れ下がる瞼。徐々に、体へとツケが溜まっているのをひしひしと感じるが、それでも全てから解き放たれるのはこのライブが終わってからだ。
「とりあえず、シャワー浴びてから飯食って、軽く楽器を弄ってから寝よ……」
これからの流れを声に出して確かめると、俺は自室へと入り、洗濯物ハンガーに掛かったままだった着替えを一式剥ぎ取るように外すと、バスルームへ向かいさっさとシャワーを浴びた。
シャワーを浴びた後は、バスタオルで頭をガシガシと乾かしながらキッチンへ向かい、冷蔵庫の冷凍室を開ける。そこには大量のタッパーや耐熱容器がエフェクターボードよろしく整然と並んでいる。これは、休日に作り置きしている一食分の食事だ。
バンドをやっていると、スタジオ帰りの日などは疲労が深刻で、料理をする気どころか買い出しに行く気力もない日はザラにある。なので、そんなときのために休日に日持ちする料理を作って冷凍保存しているのだ。
「今日はオニオングラタンにすっかな~。コンソメスープも沸かすか〜」
冷凍庫を漁って耐熱容器を一つ取り出すと、レンジに放り込み解凍ボタンを押す。その流れで電子ケトルにも水を注いでスイッチを入れる。一人暮らしの静かな部屋に電子機器の放つ微かな駆動音だけが響く。
んー、温まるのを待ってる間にメールの確認でもするかな……
こんな環境で手持ち無沙汰でいると睡魔に負けて寝落ちするかもしれないので、俺はひとまずスマホの電源を入れる。ロック画面を確認して、そこに表示された通知のポップを見て、俺は思わず「お?」と声を漏らした。
「松原さんから電話? 珍しいな……」
通知ポップに浮かんだ名前は松原さんのものだった。俺は《ハロハピ》のメンバーとは連絡先を交換してあるので、たまに(ペグ子だけは頻繁に)彼女たちから連絡が入るのだ。
しかし、松原さんはその中でもあまり連絡をしてこない方で、しかも夜遅い時間は気を使ってメールやSNSすらしてこない。夜中の一時に鬼電してきて「鳴瀬、今日は満月が綺麗よ!」なんて言ってくるペグ子には、ぜひ爪の垢を煎じて飲んでもらいたい。
ともかく、そんな松原さんがわざわざ電話をしてくるのだ。かなりの喫緊の案件であることは間違いないだろう。着信履歴を見ると、どうやらシャワー中にかけてきたようなので、まだ寝てはいないはずだ。
俺はすぐにポップをタップしてリダイヤルをかけた。数回のコール音のあと、スピーカーから少し上擦った声で「は、はい松原ですっ」と松原さんの声が響く。
「こんばんは、松原さん。夜分に電話して申し訳ないね」
「い、いえっ、先に連絡したのは私の方ですし……」
「夜も遅いから明日にしようかとも思ったんだけどさ、松原さんがこんな時間に電話してくるなんて、ただ事じゃないって思ってさ。何かトラブルでもあった?」
「あっ、いえ、そういうわけではなくて……あっ、でもある意味そうなのかも……ふぇぇ……」
俺が電話の理由を尋ねると、松原さんはとても歯切れの悪い調子で、曖昧な答えを返す。
トラブルであって、トラブルじゃない……? 《ハロハピ》絡みではないってことかな?
《ハロハピ》のメンバーには、他のバンドとの渉外を任せたりしているので、他のバンドから何かしらトラブルの連絡があったことは可能性としてあり得る。
ただ、松原さんには、メインでは渉外の仕事は頼んでないんだよなぁ……。
しかし、その線を考えたとき不自然なのが、他のバンドが何故あまり縁のない松原さんにトラブルの連絡をしたのかだ。一応、各バンドにはそれぞれ別の窓口となるメンバーを充てがっている。だから、それを飛び越して松原さんに連絡を取る理由が無いのだ。
「どんな些細なことでもいいから気になることがあれば言ってくれていいよ、松原さん。不安な要素は少しでも削っておきたいからね」
とりあえず、今の手持ちの情報では正解に辿り着けないと判断した俺は、松原さんに話の続きを促すことにした。
「あ、それでしたら……実は、鳴瀬さんにお願いがあるんです……」
「え、俺に?」
「聞いてもらっても構わないでしょうか?」
「うん、言ってみてくれるかな」
「実はですねーー」
松原さんの口から出た「俺へのお願い」という意外な言葉に戸惑いを覚えつつ先を促した俺だったが、それを遮るような通知音がスマホから響いた。
「ーーむ」
「あっ、鳴瀬さん、何か通知が入りましたか?」
「ああ、ちょっとキャッチが入ったみたいだ。ちょっと待ってくれるかな」
「わかりました」
通知音の正体は、新たな電話がかかってきたことを報せるキャッチ機能だった。誰からか確認するためにスマホを耳から離して画面を見ると、そこには「《アナタの王子様》瀬田 薫」の文字が表示されていた。
「うわ……薫かぁ。薫は話し始めると会話が回りくどくて長いからなぁ……先にこっちを片付けるか」
薫はペグ子ほどの頻度ではないがそこそこ俺のところに電話をかけてくる。
しかし、薫からの電話は、彼女が非常に冗長な表現を使うため長電話になることが多い。だから、俺は今回、松原さんを待たせていることをダシにして、早めに電話を切り上げようと先に薫の電話を処理することにした。
俺がキャッチのポップをタップすると、待ちかねたように、すぐに薫の声が響いた。
「やぁ、素敵な夜だね、Mr.鳴瀬!」
「相変わらず気障な挨拶だな薫は」
「はっはっは! 私はいついかなる時でも私さ!」
もう夜も深いというのに、相変わらずのテンションの薫に思わず苦笑いが溢れてしまう。
「ははっ、そいつは良かったな。今、松原さんとの通話を留めてるんだ。要件があるならさくっと言ってくれ」
俺が松原さんの名前を出すと、薫は「おや」と意外そうな口調の声を漏らした。
「花音からも連絡があったのかい? ふーむ、するとだ、私と花音の連絡は同じ内容なのかもしれないね」
「え、そうなのか? まぁ、とりあえず先に話してみろよ、薫」
「OK! 実はだねーー」
そこから暫く薫の独演会が始まった。その内容は中々に衝撃的なもので、普段なら話を長引かせないように限りなく黙っている俺も、思わず何度か突っ込みを入れてしまった。
「ーーというわけなのさ」
「……状況は分かった。だが、こればかりは聴いてみないことにはなんとも言えないな」
「おお! ということはこの話自体はーー」
「ああ、とりあえずはOKということで、先方に話をつけておいてくれ」
薫の持ってきた話にGOサインを出すと、スマホの向こうから「そうかい、そうかい」と嬉しそうな薫の頷きが聞こえてくる。
「ああ、感謝するよ、Mr.鳴瀬! 仔猫ちゃんたちもきっと喜ぶと思うよ!」
「あまり期待をもたせるような発言はするなよ、まだ、決まりってわけじゃない。あくまでも『検討する』って状態だからな」
嬉しそうに話す薫に対して、俺は釘を刺す。
薫の提案はあくまで検討事項で決定事項ではない。全ては明日の《arrows》での会合で決まることだ。
「ふっ、分かっているとも! では、慌ただしくてすまないが電話はこれで切らせてもらうよ! この福音を早く仔猫ちゃんたちに伝えなければならないからね!」
「はいはい、くれぐれも大袈裟に伝えるなよ」
薫の中ではもう、この件は決定事項となっているようで、ハイテンションな彼女に苦笑いで再び釘を刺すと「それではMr.鳴瀬、良い夜を!」と相変わらず気障な言葉を残して通話が切れた。
俺は、素早くスマホを操作して、再び松原さんとの通話を試みる。
「ごめん、松原さん。少し長く待たせたね」
「あっ、いいんです! 私も急なお電話だったから……」
思いがけず長く待たせることになってしまった俺に対して、気遣わしい言葉をかけてくれる松原さんに、「ありがとう」と謝意を告げてから、俺は早速本題に入る。
「さっきの電話の相手なんだけどさ、薫だったんだよ。それで、もしかすると松原さんと同じ話題かもしれないっていうからさ、先に薫の方を片付けることにしたんだ」
「あっ、お電話の相手は薫さんだったんですね。なら、薫さんの言うとおり、私の話も同じことかもしれないですね」
薫の名前が出た瞬間、松原さんの声のトーンが上がる。
「ま、とりあえずは松原さんの話も聞かせてもらってもいいかな?」
「あっ、そうですね。では、私の話なんですけれどーー」
そして、そこから松原さんの話が始まった。
◇◇◇
「ーーOKだ。それじゃあ、明日は《arrows》でよろしく頼むよ、松原さん」
「はい。お忙しい中、急なお願いですみません、鳴瀬さん」
「いや、気にしないでいいよ。俺としても、こういうプラスになりそうなイレギュラーなら悪くない」
「ありがとうございます、鳴瀬さん」
「それじゃあ、また明日。おやすみ、松原さん」
「は、はい! おやすみなさい鳴瀬さん」
松原さんへの挨拶を済ませると、俺はスマホの通話ボタンをタップして、スマホを机の上に置いて天を仰いだ。
「あ゛~、忙しいのに安請け合いしたかなぁ……」
真っ先に俺の口から溢れるのは、二人の提案を呑んでしまったことへの後悔の言葉だ。
結論からいうと、二人の提案はどちらも同じものだった。なので、呑んだ提案は2つではなく1つなのだが、こいつが中々に、ヘヴィなものだった。
ーー
二人から受けた中身の提案がこれだ。
「タイムテーブル、見直さないとなぁ……。あと、サブステージとのローテーションもだな。いや、そもそもまだ、出すとは決まってないしな」
俺は、参加バンドを一つ増やすことによる、様々な負担に頭を悩ませる。祭りの時間が長くなる分には商店街は、特に難色を示すことはないだろうが、それよりも問題は人の流れを止めないためのローテーションが崩れてしまうことだ。円滑なイベント運営のためには、緻密な計算が求められる。
もし、新しいバンドの参加が決まるなら、アッ君先輩こと、
そしてそれは、貴重な俺の睡眠時間がまた削られることを意味していた。
「……でも、聴きたいもんなぁ、
そう、俺が今回の提案を検討するに至った最大の理由が、この話を持ち込んできたのが、あの大和麻弥さんだということだったのだ。
実は、大和さんは松原さんとの買い物のときに出会ってから程なく、あるガールズバンドに正式なドラマーとして参加することになったらしい。そして、今回はそのバンドをうちのイベントに参加させてほしいという、彼女からの依頼だったわけだ。
あの店で見せつけられた、大和さんの演奏スキル。それを考えれば、いくら忙しいとはいえ、この依頼を断るのは大きな損失になると、俺の直感が囁いていた。
「いやぁ、楽しみだ。本当に楽しみだなぁ、大和さん……いやーー」
俺は、相変わらず天を仰いだまま、口元に笑みを浮べてその
「ーー《pastel✾palette》」
大和さんの所属する《pastel✾palette》は、いわゆるアイドル系のガールズバンドであり、しかもどうやら大きな
それでも、それらの不安要素をひっくるめても、大和さんのドラムがあるだけで一考に値する、そう俺は判断した。
そして、その参加の是非を、俺は明日の午前中、《arrows》で彼女たちの演奏を聞いて判断しなければならない。
「あー、明日は買い出しに行こうと思ってたんだが、予定が狂ったなぁ〜、大変だなぁ~」
ただでさえ詰まった予定の中に捩じ込まれた選考会。それでも、俺の顔からは笑みが消えてくれそうにない。
新しい
「まぁ、細かいことは明日……いや、今日考えるかぁ……」
気付けば、既に夜中の十二時を回った壁掛け時計の針を眺めながら、俺は既に冷えてしまったグラタンに火を通すため、再びレンジへと向かうのだった。
はい、ということでした〜。
続きは、まったりお待ちくださいまし!
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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