野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
パスパレ編の③です。


野良ベーシストは240時間戦える 【6日前・午前②】

 俺と《Pastel✽Palette》御一行が腰を落ち着けた会議室は、先程も触れた通りスタジオの一室に長机を運び込み、そこにパイプ椅子やらドラムスローンやらとにかく椅子になるものを詰め込んだ、簡素なものだ。

 できれば長居はしたくないのだが、今回のイベントの運営者として、彼女たちの抱えるものは明らかにしておかなくてはならない。

 

「では、早速本題に入りましょう。《Pastel✽Palette》は、なぜ《G4SProject》に出なければならないのか、その理由をお聞かせいただきたい」

 

 《Pastel✽Palette》の所属する《ムジカエンターテイメント》は、アイドル事務所の中では上から数えるほうが早い。あまりこんなことは言いたくはないのだが、一商店街の秋祭りの代わりとなる、この規模のイベントなんかに出なくても、自前で大きなイベントを打てるはずなのだ。

 

 ということは、《Pastel✽Palette》の弱味は()()だ。彼女たちには自社でイベントを打てない理由があるんだ。もしかすると、何らかのミスで社内で干されてるのか?

 

 俺の辿り着いた結論は推測の域は出ないが、可能性は高いだろう。そうでもない限り、《ムジカエンターテイメント》ほどのスタミナ(財力)のある会社が、目玉となる新規のユニットにイベントを回さない理由がないからだ。

 

 ま、すぐに答え合わせは万里小路さんの口から聞けるだろう。問題は、それが俺たちに飛び火するかどうかだ。

 

 俺が案じるのは、《G4SProject》への影響よりも、そこに集まってくれた4つのガールズバンドへの風評被害の方だった。《Pastel✽Palette》が俺達にとって厄ネタとなるならば、たとえどんなにその演奏が上手かろうと、俺は彼女たちを守るために《Pastel✽Palette》を切らなければならない。純粋に音楽を楽しむ彼女たちに、大人のいざこざでケチを付けるようなことがあれば、バンドマンの先達として、それこそ憤死ものである。

 俺は、そこまでの覚悟を決めて、万里小路さんの言葉を待った。

 

「わかりました。……まずは、私達《Pastel✽Palette》の置かれている状況についてお話しします」

 

 万里小路さんはそこで言葉を区切ると、《Pastel✽Palette》のメンバーに視線を送った。そして、彼女たちが無言で頷いたのを確かめると、彼は再び口を開いた。

 

「単刀直入に申します。私達《Pastel✽Palette》は《ムジカエンターテイメント》の中で、仕事を回されない、いわゆる干された状態にあります。そして、このまま何もしなければ《Pastel✽Palette》というガールズバンドは会社の意向で自然消滅させられてしまうのです」

「やはり……」

 

 予想の一部が当たった俺は、思わずそう呟いていた。

 

「でも、そうなった原因は彼女たちにはないんです! 彼女たちは《ムジカエンターテイメント》という会社の不手際を擦り付けられて、不当に葬り去ろうとされているんです!」

 

 万里小路さんはそれから、彼女たちがなぜ社内で不遇をかこつことになったのか、熱弁を振るった。

 

 曰く、《Pastel✽Palette》はガールズバンドが隆盛を極める昨今の情勢を鑑み、《ムジカエンターテイメント》が自社を代表するガールズバンドとして送り出す肝煎りのプロジェクトだったそうだ。それは、彼女たちがデビュー初日からドーム公演を計画していたという話からも窺えた。

 しかし、ここでトラブルが1つ起きる。ガールズバンド隆盛の昨今、《Pastel✽Palette》の立ち上げを待ってからドーム(ハコ)を確保するのは難しいと判断した会社側が、なんと見切り発車で先に日程を決めてドームを確保してしまったのだ。

 そして、間の悪いことに《Pastel✽Palette》ではドラマー集めが難航。本来は裏方だった大和さんが、急遽ドラマーにコンバートしたときには、既に公演の日まであと一ヶ月を切っていた。

 今から楽器の練習をしても間に合わない。しかし、押さえたハコは手放したくないし、違約金も払いたくない。《ムジカエンターテイメント》の上層部は揺れに揺れた。そして、その果に《ムジカエンターテイメント》は、ある大きな決断をすることになる。

 

 ーーそれは、別録音源の使用だった。

 

 演奏を別のプロバンドに任せて音源を作り、《Pastel✽Palette》にはステージの上で楽器を弾くふりをさせて音源を流すという、バンドへの冒涜ともいえるその行為。卑しくもムジカ(音楽)を冠する会社の暴挙に、音楽の神(ミューズ)も怒りを禁じえなかったか、彼らには鉄槌が下ることとなる。なんと、ライブの途中で機材トラブルが発生、生演奏でないことが観客にバレてしまったのだ。

 当然、生演奏を期待していた観客たちがそれに納得するわけもなく、《Pastel✽Palette》の評価は地に落ち、炎上する彼らの怒りは《ムジカエンターテイメント》にまで飛び火を始めていた。

 事態を重く見た《ムジカエンターテイメント》上層部は事態の沈静化を画策。そこで彼らが採ったのが、《Pastel✽Palette》の活動の無期限休止という選択肢だったのである。

 一度付いた風評というものは、中々消えてはくれない。

 つまり、《Pastel✽Palette》はこのまま《ムジカエンターテイメント》に飼い殺されて、自然に消えていく運命なのだ。

 

 万里小路さんはここまでを一気に話すと、大きく息を吐いた。そこに滲むのは悔恨と慚愧の念だった。

 

「私は悔しいんです。彼女たちは何も悪くないんです……それなのに大人の都合で翼をもがれ、それでも、いつかまた空を飛ぶ日を夢に見ているんです」

「万里小路さん……」

 

 俺は、彼の言葉に込められた思いの大きさに、思わずその名前を呼んでいた。彼は俺の目を見ると、力強く頷いた。

 

「私は知っています。丸山さんは、《Pastel✽Palette》が無期限の待機を命じられてからも、ずっとボイストレーニングなどを欠かしていないことを。他の皆さんも、まだ《Pastel✽Palette》を諦めていないことを」

 

 万里小路さんの言葉に、丸山さんが目を見張った。他の《Pastel✽Palette》のメンバーも、力強く頷いたり思うところがあるように視線を逸らした。

 彼女たちの想いは、程度の差はあれど一つの方向に向っている。彼女たちは《Pastel✽Palette》をこの世に残したいのだ。ようやく手に入れた自分たちの居場所を失いたくないのだ。

 万里小路さんは彼女たちのそんな様子を確かめてから、少し語気を弱めて言葉を続けた。 

 

「私も、自分の立ち位置はよくわかってます。親の七光りで入社して、別に結果を出さなくてもいいから、もう二度と日の目を見ることがないと思われている《Pastel✽Palette》の担当にされたんです」

 

 そこまで言うと、万里小路さんは俯いた。そこに込められた感情は現状を打破できない自分への不甲斐なさか、あるいは自分に対する周囲の評価への怒りなのか。もしかすると、その両方なのかもしれない。

 

「でも、私にだってこの会社で実現したい夢があるんです。アイドルは夢を与える仕事でしょう。じゃあ、大人の都合で夢を奪われた彼女たちは、一体どうすればいいんですか!」 

 

 弱まっていた語気は、最後は半ば叫ぶような形に変わり、万里小路さんが拳で机を叩いた。その手は蒼白で小刻みに震えていた。誰も何も言わなかった。ただ、黙って彼の言葉の続きを待っていた。

 万里小路さんは、荒くなった呼吸を整えながら、握り拳を解いた。それからゆっくりと顔を上げる彼の目尻には、光るものが浮かんでいた。

 

「失礼しました。……私は、彼女たちに夢をあげたい。もう一度夢を見て、そして夢を見させて欲しい。だから、おねがいします。どうか彼女たちにチャンスを与えてはくれませんか」

 

 万里小路さんは再び頭を下げた。それは万感の想いのこもったものだった。

 

「私からもお願いします。このまま、《Pastel✽Palette》が終わってしまうのは寝覚めが悪いですから」

「千聖さん……!」

 

 万里小路さんに続くように頭を下げたのは白鷺さんだった。その姿に驚いたように声を挙げた丸山さんだったが、すぐにそれに続くように頭を下げる。

 

「わ、私からもお願いします! ようやく掴んだアイドルへの切符と同じ道を歩んでくれる仲間を、ここで手放したくないんです!」

「私からもお願い申し上げます! 私も、まだまだ皆さんと《Pastel✽Palette》を続けたいです!」

「私も、お話を持ちかけた以上、いえ、《Pastel✽Palette》の一員としてお願いするッス!」

「日菜は、駄目なら駄目でもいいんだけど〜、バンドって結構『るんっ!』ってするから、できれば続けたいな!」

 

 そうして、最後には《Pastel✽Palette》全員の頭が下がった。その姿を見た俺の胸には熱いものがこみ上げてきた。

 

 何だよなんだよ、思ってたよりも熱いじゃないか《Pastel✽Palette》!

 

 たとえ上から捻じ伏せられようとも、決して夢を諦めようとしないその姿勢。それは俺の敬愛するグランジという音楽の源流にある反体制(パンク)の精神に他ならなかった。

 

 個人的には、《Pastel✽Palette》を救ってやりたいところだ。だが……

 

 俺は、目の前に下げられた彼らの頭を見ながら、すぐには頷かなかった。

 バンドマンとして、彼らの熱い想いは確かに俺に伝わった。しかし、それとは別に《G4SProject》の責任者として冷静な判断を下さなければならない。

 

 ーーCool head(頭はクールに)but warm heart(心は熱く).

 

 俺は、経済学者アルフレッド・マーシャルの残した、あまりにも有名なこの格言を胸に、ゆっくりと口を開いた。

 

「理由は分かりました。そちらの意向としては、このイベントを通じて《Pastel✽Palette》が下積みを経て成長しているという絵面が欲しいわけですね」

「はい、有り体に言えばそういうことです。地に落ちた《Pastel✽Palette》の名誉を回復するには、一歩一歩地道に上を目指す彼女たちの姿がどうしても必要なんです」

 

 万里小路さんが頷いた。

 《Pastel✽Palette》が欲しいのは、彼女たちに付いた風評を拭い去るような新しい風評だ。しかし、それは《ムジカエンターテイメント》では与えられない。今の彼女たちにつきまとう悪い風評は、ともすれば《ムジカエンターテイメント》にも向けられたものだからだ。

 だからこそ、《Pastel✽Palette》は会社に頼ることなく、彼女たちの積み上げた努力を披露するのに相応しい場所が必要だった。そこで、俺たちの立ち上げた「商店街の活性化を目指したライブイベント」は、風評を跳ね除けようとコツコツと努力をする彼女たちを演出するにはうってつけのステージだったのだ。

 そう考えると、この申し出はかなり打算的に計画されたものだといえる。

 

 ……それでも、いいじゃないか。

 

 元々、このイベント自体、商店街の活性化という打算が引っ付いているのだ。今更、打算がどうとかで彼女たちを切る必要もないだろう。だが、今はそれよりも重要なことがある。

 

「今回の件、《ムジカエンターテイメント》は了承済みですか?」

 

 そう、俺が確認したかったのは《Pastel✽Palette》の動きが、彼女たちの親会社である《ムジカエンターテイメント》の許可を得たものであるかだった。

 もし、《ムジカエンターテイメント》が《Pastel✽Palette》の()()()()()()()()()なら、彼女たちを招き入れることは、《ムジカエンターテイメント》との敵対を意味する。そうなると、会社からイベントに対する何かしらの圧力がかかる可能性は否定できなかった。

 

 ……一応、うちにはペグ子って合法ヤクザみたいなのがいるんだけど、火煙を立てないに越したことはないからな。

 

 こと《ハロー、ハッピーワールド!》にだけ関したら、圧力などあってないようなものだ。しかし、他のガールズバンドには、何かしらの不利益があるかもしれない。例えば、彼女たちが将来メジャーデビューをしようとしたときに、業界内に良くない噂を撒かれるなども考えられる。芸能界の横のつながりはかなり太い。

 

 そんな俺の懸念を否定するように、万里小路さんは首を左右に振った。

 

「それについては問題ありません。我社は、あわよくば《Pastel✽Palette》に復活してほしいと考えてますから」

「それは間違いない情報ですか」

「ええ、我社としては今隆盛を見せるガールズバンド事業には、なんとしてでも食い込みたいんですよ。でも、《Pastel✽Palette》の先例がある以上、たとえうちから後続のガールズバンドを出しても、色眼鏡で見られることは不可避ですから」

「確かに、二度目も同じことをしない保証はないですからね。《ムジカエンターテイメント》としては、なんとか禊を済ませたいわけだ」

 

 俺の口から出た「禊」という言葉に、万里小路さんは頷く。

 

「はい、おっしゃる通りです。ただ、だからといって上層部に現状を打破する手立てがあるわけでもない。今回の件は、あくまでも上の落ち度ですから、上がでしゃばれば話が拗れるのは目に見えています。だから、上の意向としては《Pastel✽Palette》には、なんとかして自力風評を跳ね除けてほしいところなんです。私が自由に動けるのも、上層部の暗黙の了解があるからです」

「なるほど」

 

 万里小路さんの言うことは理に適っている。《Pastel✽Palette》の復活を上層部が許さないなら、そもそも万里小路さんのような彼女たちに理解のある人間をマネジメントやプロデュースの担当につけたりはしないだろう。万里小路さんのようなポジションで、彼女たちに対してもっとシビアに対応できる人材など、《ムジカエンターテイメント》には掃いて捨てるほどいるはずだ。つまり、俺の懸念する最大のリスクは回避されたと考えていい。

 

 なら、もう答えは一つしかないよな。

 

 俺は、今自分が言うべき言葉を確かめると椅子から立ち上がった。

 

「その申し出、受けさせていただきましょう」

「……っ! ありがとうございます、基音さん!」

「感謝の言葉はまだ早いですよ、万里小路さん。正式に参加が決定するのは、このあとの選考を突破できればの話ですから。こちらとしては、今集めたガールズバンドの評価を落とすようなダサい演奏のバンドは、彼女たちの名誉のためにも受け入れたくありませんから」

「承知しています。でも、彼女たちはこれまでずっと立ち上がる日を夢に見て練習を続けてきています。きっと、夢を叶えられると私は信じています」

「それは楽しみです。よろしくおねがいします、皆さん」

 

 そういって差し出した俺の手を、万里小路さんが力強く握り返す。

 契約はここに交わされた。後は彼女たちがその力を示すだけだ。

 

 さぁ、ここからが今日のヘッドライナーだ。派手にもがいてくれよ《Pastel✽Palette》!

 

 いよいよ彼女たちの演奏が聴ける。

 そう考えると、俺は胸の高鳴りを抑えきれないのだった。




オリキャラの万里小路くんは、当初はもう少しなよなよしたキャラを想定してましたが、動き出すと中々に熱いキャラになってくれましたわ!

元々、期待されていない者同士が力を合わせてのサクセスストーリーなんかが好物なので、《Pastel✽Palette》にもそんなイメージでサクセスに向かってほしいのですわ〜!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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