野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。

少し日付が飛んでいよいよライブまで3日です。ここからまた少し時間が飛ぶので、ライブまでもうあと少しです。

【謝辞】
誤字報告ありがとうございます!
案の定紛れ込んでいたようで、報告助かりました!


野良ベーシストは240時間戦える 【3日前・午後】

「というわけで、練習だ」

 

イベント当日3日前。スタジオ《arrows》に集合した《ハロー、ハッピーワールド!》のメンバーの前で、俺は腕組みして仁王立ちしていた。

 

「ん〜、鳴瀬が練習に来るのは久しぶりね!」

「なんだかんだで、あんまり時間が取れなかったからなぁ……」

 

ペグ子の言葉に、俺は後頭部を掻きながら思わずボヤいてしまった。

《Pastel✽Palette》の参加が決定したのが3日前。それからの2日は、俺にとってはあまりにも目まぐるしく過ぎ去っていった。

 

 

◇◇◇

 

 

一昨日は、契約の締結と契約書への調印のために《Pastel✽Palette》の所属する事務所《ムジカエンターテイメント》に赴き、一日中そこで話を詰めることとなった。万里小路さんだけでなく、アイドル部門のトップ等、会社の重役も居並ぶ会議室で、出演条件などの詳細を事細かに確認し合ったおかげで、俺の疲労はピークになった。だから、その日は家に帰り着いてからの記憶がない。

 

――でも、条件はかなりいい形で結ばせてもらった。《ムジカエンターテイメント(あちらさん)》としても、やっぱりこのままアイドルバンドの路線を潰すわけにはいかなかったんだろうな。

 

今回の契約で、俺が《ムジカエンターテイメント》と結んだ中で重要だったのは、イベントで撮った《Pastel✽Palette》の映像や音源は、こちらの自由に使っても構わないということと、既に会社が持っている宣材の貸出や、イベントへの出演料はロハ(タダ)で構わないという契約だった。

こちら側も商店街の活性化に向けたプロモーションが必要な以上、今回のイベント最大の目玉となるであろう《Pastel✽Palette》参加の告知に、プロが撮った映像や音源を使えるのは願ってもないことだ。加えて、事後にイベントの映像を編集無しで動画サイトなどに載せることができるのも、PRの観点からするとかなり有り難い話だった。

《ムジカエンターテイメント》としても、初ライブに失敗した《Pastel✽Palette》が、コツコツ努力して地域のイベントから再出発をするという絵面を、外部から提供してもらえるのは願ってもないことのようだった。

 

――《Pastel✽Palette》は会社主体のプロデュースでやらかしてるからな。もう一度自分たちでアピールしたとしても、どうしても「ヤラセ臭さ」が拭えないからな。ま、この辺りは持ちつ持たれつの関係ってやつだな。

 

「商店街の活性化」と「自社アイドルバンドの復活」。お互いの利益が噛み合ったことによって、俺たちと《ムジカエンターテイメント》の協力関係は、かなり対等な形で結べたと言っていい。万が一、向こうが大企業のパワーで無理を通そうとしてきたところで、俺たちには、一応弦巻家という強力なバックがついていた。

しかし、大きすぎる力は、必ず人の心に慢心や油断を生むものだ。それに、大人のしがらみが出てくると、純粋な想いで今回のイベントに臨む、ペグ子たちや《Poppin' party》の想いを穢すことにもなりかねない。だから、俺としては弦巻家の力はできる限り使いたくなかった。

結果として、それは杞憂に終わったのだが、その分の負担が俺にのしかかったというわけだ。

 

 

◇◇◇

 

 

昨日は《Pastel✽Palette》に向けたステージ上での配置や演奏に対してのアドバイスで一日を潰した。初心者バンドのデビュー戦にしては、今回のステージ配置は些か複雑過ぎる。なので、ステージに立ったときどのように振る舞えば映えるのか、誰がどこに立つべきなのかを入念に確認しておく必要があった。

加えて、俺としてはこの練習風景も事前告知サイトにアップロードしておきたかったので、ビデオ撮影をするという役目もあった。

そして、《ムジカエンターテイメント》も俺と同じことを考えていたようで、あちらからも本職のカメラマンたちがやってきていた。彼らから撮影時の画角などのアドバイスを貰って、素人が撮影したにしては中々の映像を撮ることに成功した。

夜になって編集を終えた動画を告知サイトに上げると評判は上々で、《Pastel✽Palette》の参戦が決まってから湧いていた、一部のアンチコメントも彼女たちの練習の様子を見て下火になっていった。

しかし、過激なコメントの削除やサイトの編集などに追われて、結局俺は、気がつくとパソコンの前で寝落ちしてしまっていたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

そんなこんなで、イベント三日前の今日。恐らく、今日が俺の《ハロハピ》へのまともな演奏指導ができる最終日になる。

二日前の明日は、商店街のステージ設営や機材の確認、各商店代表との打ち合わせがあるし、前日は舞台上でのリハや、出演者一同でのイベント全体の流れの再確認をしなければならない。もう、ぎりぎりの予定を縫ってようやく確保した貴重な一日なのだ。

 

「とにかく、今日が俺が練習をまともに見られる最後の日だと思ってくれ。当日演奏する3曲、今日中に仕上げるつもりでいくぞ」

「おー!(×5)」

 

俺の言葉に《ハロハピ》のメンバーが大きな声で応える。

今回のイベントに向けたセトリは、オリジナル2曲と版権カバー1曲の構成になっている。このイベントの映像は、今後《ハロハピ》のPRに使われる、全国区へ向けた足掛かりになるものだ。オリジナル3曲で固めてもよかったのだが、商店街のPRを兼ねている以上、知名度の高い曲は外せない。

ということで、各バンドにもカバー曲を最低1曲入れることをお願いしている。演奏の順番は各バンドの裁量に任せてある。《ハロハピ》はオリジナル2曲でカバー曲を挟む構成にした。オープニング・アクトなら、カバー曲で場を温めても良かったが、今回は《Pastel✽Palette》と《Poppin' party》に続く3番手の演奏だ。既に場が温まっているなら、最初からオリジナルでいっても大丈夫だろう、そう判断した。

 

「とりあえず、セトリの順番通り1曲ずつ演奏して、ブラッシュアップが済んだら次の曲に移る。3曲全部終わったら、通しで行くぞ」

「わかったわ!」

「よーし、今日は頑張るぞー!」

「『男子三日会わざれば刮目して見よ』というからね。Mr.鳴瀬には、私たちの鮮やかな成長をお目にかけようじゃないか」

「私たち、女子ですけどね。でも、成長を見せたいってのはミッシェルも同意でしょうね〜」

「わ、私も精一杯頑張ります!」

 

メンバー各々が、それぞれの形で気合を入れる。練習に向けてテンションは最高潮だ。それを見てから、俺は大きく頷いて力強く右手の拳を掲げた。

 

「よし、それじゃあ1曲目『えがおのオーケストラ』、いくぞ!」

「おー!(×4)」

 

俺の拳に応えて、四人が拳を上げる。

 

――あれ、ひとり足りなくないか?

 

そんなことを考えたとき、俺たちを尻目に、奥沢さんがスタスタとスタジオの入り口に歩いていくのが見えた。

俺が彼女の背中を目で追うと、視線を感じた奥沢さんが、振り向いて気まずそうな表情を浮かべた。

 

「……あ。えーと、私、ミッシェル呼んでくるので……」

「……あ。うん、お願いね、奥沢さん」

 

そう答える内に、奥沢さんはミッシェルになりにスタジオを抜けて行った。

何とも言えない空気の中、俺は行き場のなくなった拳をゆっくりと下ろした。

 

数分後、ミッシェルになった奥沢さんが戻って来て、なんだか微妙に締まらない空気の中、練習が始まった。

 

 

◇◇◇

 

 

「……よくやった。後はリハで実際の舞台上での配置を確認して、本番のステージで、積み上げてきたもん全部ぶちまけろ」

「はーい(×5)」

 

あれから4時間後。

締まらない雰囲気の中始まった練習だったが、いざ演奏が始まると彼女たちの成長に俺は驚かされた。

 

――俺が突っ込みそうなところは、完璧にあわせてきたか。

 

曲の中で、難所と思える箇所が幾つかあったが、彼女たちはそこを上手く弾きこなす術を身に付けていた。薫の言っていた格言は、あながち間違いではなかったらしい。

だから、俺からのアドバイスは途中から、演奏というよりも、ステージを意識した立ち回りの方へとシフトしていた。例えば、本番であればアイコンタクトできないはずの二人が視線を交わし合ったり、タイミングを取るために視線で相手の動きを追ったりという感じだ。

 

――当日まで、俺がついていられないのは不安だったが、取り越し苦労だったな。

 

俺は、心の中でほっと胸を撫で下ろす。

夏休み明けからのライブ攻めで、練習が疎かになっていたことが少し気がかりだったが、そんな中でも《ハロハピ》は、自分たちで前に進んでいたのだ。それだけ彼女たちは、俺の教えをしっかりと自分のものにしてくれていたのだ。

 

――なんというか、あれだな。教え子が育っていくのを見るのは嬉しいもんだな。俺のことを教えてくれた先生もこんな気分だったのかもな。

 

俺は、柄にもなく昔のことを考えていた。

俺には、恩師と呼べる先生がいた。それは高校時代の部活の顧問をしてくれた音楽の先生だった。

 

バンドで生きていきたいです。

 

先生は、そう話した俺の言葉を真剣に受け止めて、作曲や演奏のイロハを叩き込んでくれた。今、俺が《ハロハピ》のみんなに対して偉そうに指導ができるのも、先生の力添えがあったからこそだ。卒業以来、高校には訪ねていないが、お元気だろうか。

卒業式が終わった後、音楽室を訪ねて別れの挨拶を交わし、固く手を握りあった先生。その姿を思い出したとき、先生の姿に俺の姿がダブって見えた気がした。

 

――卒業、か。

 

俺は口の中でその言葉を呟く。

今回の件で分かったが、俺が《ハロハピ》に対してできることは、段々と少なくなってきている。演奏に関してはほとんど口を出さなくてもよくなってきた。ステージでの経験値は俺の方が上だが、すぐにそれも追いつくだろう。

 

――そうなったとき、俺の居場所はどこにある?

 

「鳴瀬、どうしたの? ボーっとして」

「……ん。ああ、何でもないさ。最近忙しかったからな。お前らがサボらずにちゃんと練習してたのが分かって、ちょっと気が抜けたかな」

 

どうやら、昔のことを考えながら、しばらく上の空だったらしい。

俺の顔を覗き込んでくるペグ子に、蝿を払うように軽く手を振ると、ペグ子がハムスターのように頬を膨らませた。

 

「わたしたちがサボるわけないじゃないの!」

「鳴瀬くん、ひどーい!」

「おやおや、Mr.鳴瀬は私たちへの評価を改める必要があるみたいだね」

「あ、それには完全に同意かなー」

「わ、私は毎日頑張ってますよ!」

「だー! 悪かった、俺が悪かった! みんな、ちゃんと成長してまーす!」

 

怒り狂う彼女たちにわちゃもちゃにされないように、俺は追及を躱すとスタジオの扉を開けた。

 

「ほら、今日はもう遅いからさっさと帰るぞ。途中まで送ってやるから」

 

俺がそう言って振り返ると、ペグ子が少しきょとんとした表情で「えっ……」と、言葉に詰まった。ペグ子にしては珍しい反応だ。

 

「何、その反応?」

 

俺が聞き返すと、ペグ子はいきなり「おかしいわ!」と叫びだした。

 

「何かおかしいんだよ」

「だって……鳴瀬がこんなに優しいなんて!」

「おい」

 

思わずツッコミを入れる俺を無視して、ペグ子の言葉に同意するように《ハロハピ》全員が騒ぎ出す。

 

「うん、鳴瀬くんなんか変だよー!」

「働きすぎてついにおかしくなったのかい、Mr.鳴瀬?」

「うわー、それは大変だー(棒)」

「な、鳴瀬さんはいつも優しいですよ……?」

「ええい、喧しいわお前ら! そんなんならもう知らん! みんな一人で帰れ! あ、松原さんは別だからね」

 

一人だけ俺を労ってくれた松原さんを脇に寄せて、残る四人にしっしっと手を振る俺。

 

「あっ! 鳴瀬が差別したわ!」

「わー、鳴瀬くんいけないんだー!」

「見損なったよ、Mr.鳴瀬! でも、私は寛大だから、もう一度私たちを送るチャンスをあげようじゃないか!」

「はぁ〜、まさか鳴瀬さんに梯子を外される日がくるなんて……」

「違いますぅ〜。これは差別ではなく区別ですぅ〜。言葉は正しく使うよ〜に」

「ふ、ふええぇぇ……」

 

そんなこんなで、犬も食わないような不毛なやり取りを繰り広げながら、俺たちは《arrows》を後にした。

結局、《ハロハピ》の皆を途中まで送って帰ることで、なんとか彼女たちの追及は回避することができた。

 

しかし、胸の内に湧いた疑問への答えは遂に分からずじまいとなった。




なんとかお話もジリジリと進んでおりますわ!

ちなみに、ライブはバンド数が増えたので、各バンド1曲ずつ演奏風景を描写できたらと思いますわ~! 演奏順は、
①《パスパレ》
②《ポピパ》
③《ハロハピ》
④《アフロ》
⑤《ロゼリア》
でいきますわ~! もう少しお待ちくださいまし!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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