野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。


野良ベーシストは240時間戦える 【2日前・午後】

商店街を舞台にしたライブイベント《G4SProject》。その実施まで、いよいよ後2日となった。

この日、俺は計画の主催者としてステージの設営作業に立ち会っていた。しかし、時刻はもう夕方の5時を回って、今日の作業はおしまいとなっている。夕食の材料、あるいは惣菜を買いに来たのであろう、少し厚着をした主婦が行き交う中で、俺はベンチに腰掛けてぼんやりと作りかけのステージを見上げていた。

ステージは、秋祭りの太鼓用のものを流用しているが、照明だけに電源を使っていた太鼓のときと違い、今回はPA機器などのために電源を上手く配置しなければならない。図面と照らし合わせながら、各所からケーブルで電源を引き込んだステージの骨組みは、どこか朽ち果てて骨だけに成り果てた異形の怪物の姿を想起させた。

しかし、この怪物はあと2日で蘇る。そして、この商店街を熱狂の渦に巻き込むのだ。

怪物に魂を吹き込むのは、もちろん俺たち《ハロー、ハッピーワールド!》。

そして――

 

「わあっ! みんな、もうステージが組まれかけてるよ!」

「おい、急に走り出すなよ、あぶないだろ!」

「わぁ、もうこんなに出来てるんだね」

「これを見たら、興奮しちゃう気持ちもわかるなぁ」

「うん、なんかこうなってくるといよいよステージに登る実感が湧くよね」

 

――そんなことを話しながらやって来た《popin'party》も、その一つだ。

バンドの実質的なリーダーである、戸山さんは組み上がりつつあるステージの周りを衛星のようにくるくると回る。他のメンバーはそんな戸山さんの姿に呆れたような、でもどこかワクワクした表情でステージを眺めていた。

そして、戸山さんは3回ほどステージの周りを回ったところでようやく俺の姿に気づいて、まるで地球をスイングバイする彗星のようにステージから飛び立った。

 

「あっ! 鳴瀬さん、お疲れ様です!」

「やぁ、戸山さん。それにみんなも、学校お疲れ様」

 

頭を下げる戸山さんに向けて、労うように手を挙げると、残る《ポピパ》のメンバーも続々とこちらにやってくる。

 

「お世話になってます、基音さん」

「鳴瀬さん、どうも〜」

「お疲れ様です、基音さん」

「基音さんは、ステージの確認に来られたんですか?」

「そうだよ、これでもイベントのプロモーターだからね。やっぱり、現場には目を通しておかないと」

俺が山吹さんの問いに答えると、その奥で市ヶ谷さんが申し訳無さそうな表情で頭を下げた。

「なんか、すみません。うちのバカがバカな申し出をしたせいで余計な手間をかけたみたいで」

「えぇ〜!? 今日の有咲、なんだか酷くない!?」

 

戸山さんが、2回も「バカ」と呼ばれたことに抗議の声を上げるも、市ヶ谷さんは怯むことなくジロリとした視線を戸山さんに送る。

 

「いや、だって市役所に行ってから、私たち何も手伝ってないだろ!」

「そ、それはそうかもだけど〜、だって練習も忙しいし〜!」

「だからって全部人任せにしていいわけじゃないだろ」

「うう〜……」

相変わらずの市ヶ谷さんの鋭いツッコミに、流石の戸山さんも今回は劣勢のようだ。うめき声を上げて蹌踉めきながら、花園さんの後ろへと隠れる。

 

「たえたえ〜、有咲が怖いよ〜」

「よしよし、もう大丈夫だからね〜」

 

小動物をあやすように、戸山さんを慰める花園さん。それを見て呆れた様子の市ヶ谷さんと、苦笑いを浮かべる牛込さんと山吹さん。どうやら、この手のやり取りは彼女たちにとっては定番のようで、なんだか表情が板についていた。

 

多分、戸山さんをペグ子に置き換えれば、傍から見たら俺たちもこんな風に見えてるんだろうな。

 

俺は、《ハロハピ》の癖の強いメンバーたちの顔を思い出して苦笑いを浮かべてしまう。それを見た市ヶ谷さんが「ほら、基音さんも微妙な表情してるだろ」と更なる追撃の言葉を戸山さんに投げかける。どうやら、俺の表情が誤解を産んでしまったらしい。

誤解をそのままにしておくのは気が憚られたので、俺は戸山さんのフォローに回ることにした。

 

「あ、違う違う。この表情は思い出し笑いみたいなものだよ。勘違いさせてすまないね」

「あ、そうでしたか」

 

俺のフォローで、市ヶ谷さんは幾分かトーンダウンした。それを見計らって、俺は言葉を続けた。

 

「こっちとしても、今最高に活きがいいガールズバンドとマッチングさせてもらえるんだ。むしろ、ありがたいって気持ちの方が強いかな。それに――」

 

俺は、ここで一呼吸置いた。これは、俺が彼女たちに一番伝えたかった言葉だ。だから、彼女たちがしっかりと耳を傾けてくれているときにこそ、この言葉を発するべきだと思った。

彼女たちの視線が俺に集まり、戸山さんが「それに?」と先を促す。十分だと判断した俺は、そこから先の言葉を音に乗せた。

 

「――これは、俺たちの物語(ステージ)でもあるし、君たちの物語(ステージ)でもあるんだ。楽器を握って舞台に立てば、その時点で誰だって主人公(ヒーロー)なんだ」

 

俺たちは皆、本質的には主観でしか世界を認識できない。それは、言ってしまえば「誰もが皆、自分が主人公の物語を演じている」訳だ。

だから、俺は誰かが誰かの物語の脇役になる必要はないと思っている。人生という物語は誰が主役だったとしても構わないんだ。

 

「誰だって……」

「ヒーロー、か」

 

牛込さんと山吹さんが、俺の言葉を噛みしめるように呟く。二人以外のメンバーも何かしらの思うところはあったようで、真剣に俺の話に耳を傾けている。

 

「俺の敬愛するギタリスト、カート・コバーンはこう言った。『ギターは死んだ木だ』と」

「死んだ木ですか……」

 

つぶやくようにそう言った花園さんの手が、彼女の持つギターケースを強く握る。

 

「ああ、そうだ。ギターは木を削って作り出した、不格好な死体でしかない。ベースやキーボード、ドラムだって本質的には同じだ。みんな色んなものを継ぎ接ぎした不格好なキメラなんだ。そのままじゃ、寺とかに保管されてる人魚の《木乃伊(ミイラ)》何かと変わらない」

 

俺の言葉に、花園さん以外のメンバーもみんな自分の楽器を強く握りしめている。「それは違う」、彼女たちのそんな言葉が聞こえてきそうだ。

 

そしてもちろん、俺だって「それは違う」と思っている。

 

「でも、とびっきりの情熱(パッション)を叩き込めば、ギターは何度だって蘇る。それは、ベースだって、ステージだって、この商店街だって同じさ。音楽は、人の想いは永遠なんだ。情熱さえあれば、いつだってどこからだって命は始まるし、始められるんだ」

 

そう、大切なのは情熱だ。こいつさえあれば、人はいつだってどこからだって、何度だって何かを始めることができる。

だから、俺は俺の夢を諦めたくないし、本気になってる誰かの夢を否定したくはない。《ポピパ》には、彼女たちの夢を否定できないだけの情熱がある。

 

それは若者だけに許される特権、《十代の若者の香り(スメルズ・ライク・ティーン・スピリット)》に他ならない。

 

彼女たちからは、いつも青春の匂いがする。

 

「だから、君たちも派手に暴れてくれ。今回のイベントに、命の炎を灯すのは、他でもない君たちなんだから」

 

彼女たちは、熱に浮かされたような、それでいて瞳に青い炎を宿したような表情で、俺の話を聞いていた。もう、完璧にスイッチが入ったとみていいだろう。

そして、それでこそ彼女たちを《ハロハピ》にぶつける価値がある。

 

踏み台、というのは烏滸(おこ)がましいが、彼女たちが俺を利用するように、俺も《ハロハピ》の成長のために彼女たちを利用させてもらう。俺たちだって、俺たちが主人公の物語(ステージ)に立っている。なりふり構ってはいられない。

そして、それは何も俺に限った話じゃない。

《Pastel✾Palette》も。

《Roselia》も。

《Afterglow》も。

皆が皆、それぞれの思惑で、それぞれが主人公の物語を生きている。そして、それは誰も何も間違ってなんかいない。それでいいんだ。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。当日、君たちの演奏を楽しみにしてるよ」

「はい! お話ありがとうございました、鳴瀬さん!」

 

戸山さんが、いつもと変わらぬ元気さで勢いよく頭を下げる。それに釣られるように他のメンバーも頭を下げた。

俺は、軽く右手を挙げると、踵を返して商店街を歩き始める。秋深い商店街の空気は寒い。吐く息の白さは、俺の魂の熱量に等しい。

 

「……さぁ、勝負(チェック)をかけるぞ」

 

ぼそりと零れた俺の呟きは、誰の耳に届くこともなく、灯り始めた街灯の明かりに融けて消えた。

 




時間が足りないと、何も試しもせずに、日が暮れるぅ〜♪

というわけで、久々の投稿でしたわ!

4月からの新生活に向けて、リアル多忙でおまたせしておりますわ~!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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