花音とミッシェルパートです。
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【駄文】
そういえば、ちょっと前にカート・コバーンのギターがギター史上最高金額の6億4000万円で売れましたね。
主人公の鳴瀬くんはカートのフォロワーという設定なのでタイムリーな話題だったなと思ったり。
「……よし、そこまででいいよ。ありがとう、松原さん」
「は、はい! ありがとうございましゅ!」
噛んだ。かわいい。
ではなくて。
肝心なところで言葉を噛んでしまい赤面する松原さんを見て俺は一つ溜め息を吐く。
松原さんの演奏を聴いて言いたいことは色々とある。しかし、少し臆病な性格の彼女のことだ。伝える言葉は慎重に選ぶべきだろう。様々な修辞を尽くして言葉を飾る必要もあるかもしれない。
でも、やっぱり最初の言葉はこれだよな。
松原さんの演奏を聴く途中から、頭の中にずっと浮かんでいた言葉を俺は素直に話すことに決めた。
「松原さん」
「は、はい!」
「……ありがとう」
「…………ふぇっ!?」
俺の口から出た言葉に松原さんが一瞬きょとんとした表情になってから、あたふたと慌て始める。恥ずかしさから赤かったその顔はさらに真っ赤になっている。かわいい。
「ふぇぇぇ!? そ、それはどういう意味のありがとうなんですか鳴瀬さん!?」
「意味は色々あるけど、とりあえずは《ハロー、ハッピーワールド!》に入ってくれてありがとう、だな」
「えっ?」
言葉の意味が飲み込めきれずに首を傾げる松原さんに、俺は詳しい説明を行う。
「松原さんがいてくれるだけで、《ハロー、ハッピーワールド!》は格段に演奏レベルが上がる。いや、むしろ松原さん無しの《ハロハピ》はあり得ないと言っても過言ではない」
「ええ!? か、過言だと思いますけど!?」
そう言って壊れた扇風機みたいに左右に首を振る松原さんを手で制して止めると、俺は更に言葉を加える。
「いや、マジでそうだよ。松原さんがドラムを叩けることは知ってたから、実は俺、今回は松原さんの演奏に一番期待してたんだよね。んで、実際に聴いてみたら松原さん、君の演奏は俺の想像の上を行ったよ」
「そ、そんな……私なんてそこまですごくは……」
少し伏し目がちになった松原さんは消え入りそうな声をあげる。
彼女に課題があるとするならば、それは演奏技術云々というよりはむしろこの消極性に他ならないだろう。
だから、アドバイザーの俺にできること。それは彼女の自己肯定感を伸ばしてあげることに他ならない。
「いや、十分にスゴいぜ。ハイハットの裏打ちは完璧だし、ストロークの粒はきっちり揃ってる。複雑な腕の動きでも足が釣られることもないし、ヘッドの打面も正確に捉えてる。フィルインのバリエーションもある。はっきりいって中高6年間、部活ではほとんどドラムを叩いてきた俺と遜色無いレベルだと思うぞ」
「そ、そうですかね……」
松原さんはスローンに座ったまま、スカートの裾をぎゅっと掴んでぷるぷる震えながら俯いている。誉められたことに照れているのか、相変わらず顔は真っ赤なままだ。
おいおい、かわいいかよ。
小動物的な松原さんのかわいさに見とれていると、俺の後ろからも援護射撃が飛んだ。
「鳴瀬の言う通りよ花音! あなたのドラム、すごく素敵だったわ! やっぱり私が見込んだだけのことはあるわね!」
「ああ、とても儚い演奏だったよ」
「うんうん、はぐみもすごいなーって思った!」
「みんな……」
三人の言葉に松原さんの顔が上がる。感動しているのかその目は少し潤んでいるようだ。
「他のみんなもいってるんだから間違いないだろ、松原さん。本当にすごいんだよ実際」
三人の援護射撃に乗った形の俺の言葉に、松原さんは無言でゆっくりと頷いた。
よしよし、今はとにかく他のメンバーの助けも借りながらどんどん自信をつけてもらわないとな。
リズムの要のドラムが自信に満ちたプレイをすればそれだけ演奏全体が引き締まるものだ。松原さんにはぜひ堂々たるプレイを披露してほしいものである。
そんなことを考えていると、意外にも松原さんの方から俺に声がかかった。
「あ、あの、鳴瀬さん……?」
「ん? どしたの松原さん」
俺が返事をすると松原さんは少しためらうような素振りを見せた後に、意を決した表情を作る。
「わ、私にも何かアドバイスを下さい。 私もみんなのように課題をクリアして少しでも成長したいです」
「……よし、分かった」
引っ込み思案な松原さんが自分から勇気を出して言ってくれたのだ。ここは俺もそれ相応の課題を与えるべきだろう。
となると、技術的な課題よりはむしろ精神面の成長を促すものが内容として彼女にふさわしいはずだ。
ならば、俺が与えるべき課題はこれだな。
「松原さん、俺から君への課題は "selfish" になること。今のところはこれだけだ」
「セルフィッシュ……ですか?」
「そうだ。松原さん、ドラムはバンドをリズムで支える屋台骨だ。当然骨はより骨太である方が望ましい。ここで言う "selfish" は、『自己中心的』というよりも、『自分らしさを出していく』ぐらいの意味で考えてくれ」
「自分らしさ……」
そう呟くと、松原さんは顎に手を当てて考えごとを始める。
「《ハロー、ハッピーワールド!》は、こころが作ったバンドだけど、こころだけのバンドじゃない。こころの、薫の、北沢さんの、そして松原さんのバンドでもあるんだ。あ、後は奥沢さんと、ミッシェル? もだな。だから、松原さんは《ハロハピ》の中でもっと自分を出していくべきなんだと思う。多分その方が《ハロハピ》のためにもなる」
「《ハロー、ハッピーワールド!》はみんなのバンド……」
松原さんが今度は呟くようにではなく、噛み締めるように声を出す。
「イエス。まぁ、すぐには自分らしさなんて見つからないかもしれないけど、頭の片隅にでも置いておくといいよ。何かの拍子にふっと繋がることもあるだろうさ」
「そう、ですね。分かりました、私も頑張ってみようと思います。どうなるかは分からないですけど……」
言葉の最後は自信なさげな尻切れトンボだったが、その表情は演奏終了直後と比べて格段に明るい。いい傾向だ。
「じゃ、そういうことで俺のアドバイスは終了だ」
「あ、ありがとうございます!」
「お、今度は噛まなかったな」
「ふぇぇ!? か、からかわないで下さいぃ~」
「ははは、悪い悪い」
最後にイタズラ心を見せてしまったせいで、少し涙目になってドラムから離れる松原さんの背中を見て、俺は一ついい忘れていたことがあったことを思い出した。
「あ、松原さん。一つ言い忘れてた」
「ふぇ? 何ですか鳴瀬さん」
松原さんがくるりとこちらを振り向いたのを見てから俺はその言葉を口にする。
「松原さん、ドラム辞めなくてよかったよ。絶対才能あるから。『ドラムを諦めないでいてくれてありがとう』。これが二つ目のありがとうの意味だよ。言いたいことはそれだけ」
「……っ! は、はい!」
普段よりも少し大きな声で返事をしてくれた松原さんは、心なしか元気そうな足取りで《ハロハピ》の輪の中に帰った。
すぐには彼女の気質が変わることは無いだろうが、これをきっかけに少しでも前向きになってほしい。そう切に願う。
◇◇◇
「さて、これで楽器組の演奏は全て終わったなー……あれ?」
「どうしたの鳴瀬? 何か気になることでもあるかしら?」
「今気づいたけど、奥沢さん居なくないか?」
「あら、本当ね」
俺の言葉で他のメンバーもスタジオを見回したが、奥沢さんの姿はどこにもない。そういえば、楽器を弾いているときの会話にも奥沢さんは入って来なかったような気がする。
もしかして、結構前から居なかったのか?
よくよく見ると、黒服の人たちの数もなんだか最初よりも少し減っているようだ。気づかない内にみんなで連れ立ってどこかに行ったのかもしれない。
そんなことを考えていると、ふとスタジオのドアのノブが動く音が聞こえた。
皆の視線がそちらに集中すると、ドアの向こうから声が聞こえる。
「すみません、今入りますよー」
その声の主は間違いなく奥沢さんだ。少しくぐもった感じに聞こえるのは、恐らくスタジオの扉が防音のせいだろう。
俺たちは奥沢さんがドアを開けてスタジオに入って来るのを待った。
のだが。
「すみません~、ちょっと手が塞がってて、誰かドア開けてくれませんかー?」
どうやら荷物かなにかで両手が塞がっている奥沢さんはスタジオのドアが開けられないらしい。仕方ないのでドアに一番近いところにいる俺がドアを開けに向かう。
「はいはい、今開けるぞー」
「いやー、すみませんね」
「まったく、一体両手が塞がるぐらい何を持ってきたn……」
それ以上の言葉は続かなかった。
なぜならドアの向こうで俺を待ち受けていたのは、奥沢さんではなく巨大なピンク色の何かだったからだ。
あまりにも近すぎて全容を把握しきれなかった俺は、恐る恐る数歩後ろに下がる。
そして、そこでようやく俺は俺の目の前にあるものの正体を理解したのだ。
「く、く、クマだこれ!?」
「どうも~、みんな大好きミッシェルだよ~」
これが、俺とミッシェルのファーストコンタクト(?)になったのだった。
ミッシェル登場までしか書けなかったわ。
まあ登場したからセーフセーフ(解釈には個人差があります)。
次はミッシェルメインで、ここでスタジオパートは一区切り。次はライブハウスパートに移る予定。
なるはやで書きたい(願望)。
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奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
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田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。