郷原宗司は交際したい   作:沖縄の苦い野菜

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第十一話 生徒会のリバーシ

 

「なぁ、石上」

「なんですか会長」

 

 生徒会室のソファーで対面した白銀と石上は、お互いにぐったりとした様子で、首を背に預けて天井を見ていた。覇気のない声に、こころなしかやつれているように見える頬が、彼らの疲弊具合を物語っている。

 

「宗司と四条、本当に付き合ってないのか?」

「ないっすねー。翼先輩の誤解を解くのが大変でしたよ」

「いやいや、冗談はよくないぞ。あんなに仲良くデートしておいて、そんな交際していないなんて。いやー、少なくとも宗司か四条のどっちかは、相手に恋してるんじゃないのか?」

「ちょっと前にツンデレ先輩にさらっと聞いてみましたけど、あれマジトーンでしたね。宗司さんは喋る雑草らしいです」

「……つまり四条は雑草飼育員か」

「どっちが聞いても怒りますよそれ……喋る雑草と飼育員、シュールですね」

「……ぷっ、やばい。想像したら笑えてきた」

「絵面がアレで半ばホラーっすね」

 

 はははー、とお互いにやる気のない乾いた笑い声をあげる。

 お互いのターゲットを狙ったデートは、確かに円満に終わったと言える。もしもこれが普通の初デートであれば、二人も素直に……いや、石上は半ば毒づきながらも祝福したことだろう。

 

「翼先輩まったく心配してなかったんですけど。宗司さんがもうちょっと危ない人感出してくれないと心配してもらえないんですけど」

「龍珠なんて途中で帰って俺に丸投げしたな。自分を宗司の恋愛対象の数に入れるなって言い捨ててな。理由の説明ないと俺もわけがわからないんだけど」

「――あー、それアレっすね。過去に絶対なんかあったヤツですね。こっ酷く振ったりしたんじゃないですか?」

 

 愚痴の投げ合いが始まった――というのは表向きの話。少なくとも、石上かしてみればそれは違った。

 

(龍珠先輩自身は数に入れるな? え、宗司さんのこと本気で嫌い……ってわけじゃない、と思うけど。わざわざ嫌いな相手に骨折ったりしないでしょ。……それとも、本当に嫌いだけど、能力は確かだから会長になってもらおうってこと? え、いやでもそれなら会長巻き込む意味がない。交際相手くらい、龍珠先輩側のコネでどうにでもなるでしょ)

 

 つまり、この時点で龍珠桃が郷原宗司のことを心の底から嫌っている、という線は薄い。いくら予断を許さない状況だとしても、そもそも龍珠桃の単独行動というわけでなければ、家の力を全力で使えばいい。嫌いな相手のために龍珠桃が単独で手助けする? 現実的に有り得ない。

 

(……これって、つまり龍珠先輩も宗司さんに後ろめたさがあるってこと? じゃなきゃ自分を頭数に入れるな、なんて明言する理由がないし。……でも、ケジメって龍珠先輩が責任とったのに? 責任とっても後ろめたいって、それでも宗司さんが不利になるような結果になった、ってことだよな……)

 

 不利になること。それは今後の課題に支障が生じるような内容か、それとも何かペナルティを与えられたか。あるいは両方か。

 

 石上優が答えにたどり着けないのは当然だ。

 彼が宗司と出会ったのは、宗司と龍珠桃が不仲になる前の話。仲が良かった頃の二人を、石上優は知らないのだ。

 

 だから、郷原宗司の決定的な違いに気づけない。そもそも、知らないのだから。

 

「いや、そういう関係じゃないらしい。俺も逆のこと……龍珠が告白してフラれたんじゃないか、って挑発してみたが、どうにも違うらしい。多分、宗司の刀傷が原因だと思うんだが」

「――え? 刀傷? 元からじゃなかったんですか?」

 

 ここで石上、目から鱗が落ちる。

 てっきり、宗司の刀傷は元からついているオプションみたいな、ヤクザの箔みたいなものだと思っていた。それが、宗司と龍珠桃の不仲の原因だといわれて、頭の中にわずかな空白が生まれる。

 

「あぁ、そうか。石上は知らなかったな。宗司に刀傷ができたのは、去年の夏休みの後だな。俺も詳しい時期までは知らないが、その時から龍珠とは、顔を合わせるだけで無視か口喧嘩に発展していた」

「え、というか元々は仲良かったんですか? てっきり僕、家同士のいざこざとか、そっち関係で気に食わないことがあった、とかでずっと険悪だと思ってたんですけど」

「今はアレだが、一年の前半はベッタリだったな。龍珠は宗司にくっ付いてて、宗司は今以上にむっつりしてたよ。何て言うか、宗司はいつも抜き身の刃みたいな雰囲気をずっと出しててな」

 

 あの頃は凄かったぞ、と白銀は当時のことを思い出して疲れたように、深いため息を吐く。思い出すだけで心がキュッと悲鳴を上げるほど、白銀にとっての一年は濃密だった。

 

「今は歩く重力発生装置ですからね」

「……知り合いにはまともなのにな。いつも俺たちと接する時くらい柔らかくなれば、もっとモテただろうに」

「いやいや。あの刀傷があったらそれでもやっぱり――」

 

 石上の頭の中で火花がはじけた。その衝撃は全身に駆け巡り、背筋に氷でも入れられたような冷たい怖気が姿勢を矯正する。腹の中は石でも詰め込んだようにズシリと重くなり、今にも中身がすべて出てきそうだった。自分が座っているという感覚すら忘れて、宙に投げ出されたような浮遊感が脳内をグチャグチャにかき乱す。

 

 頭の中に去来する真実への糸。手繰り寄せれば、大量の情報と可能性が脳みそで縦横無尽に暴れ出す。その衝撃は瞬きの間の出来事だったが、石上にとっては体験したことのない未知の世界。思わず口元を抑えて吐き気を堪えた。

 

「――それしかない」

 

 ぽつり、と誰にも聞こえないほど小さな声で、彼は確信をもって呟いた。

 郷原宗司が龍珠桃に後ろめたさを持っていて。龍珠桃も、郷原宗司に後ろめたさを持っている理由。

 

 状況証拠はすべて出そろっている。物的証拠も残っている。

 だが――

 

(……こんなの、わかったところで、どうなるっていうんだよ。無理だ。こんなの、絶対に無理だ。龍珠先輩から告白させても、宗司さんは絶対に断る。宗司さんから龍珠先輩に告白することは――まず、ない。だって、ここで宗司さんから告白したら、龍珠先輩にさらに責任を追及してることになる)

 

 だからか、と石上は額に手を当て、わしゃっと雑に髪を掻きあげた。

 

(甘かった。僕が甘かったんだ。宗司さんに、龍珠先輩の攻略は不可能だ。そもそも攻略対象キャラじゃない。友人ポジション、あるいは物語の裏に隠された影のヒロイン。DLCで解放されるあたりのヒロインだけど――)

 

 現実世界にDLCなどという都合のいいシステムはない。

 

(宗司さんが、いくら龍珠先輩のこと好きになっても関係ない。――絶対に成功する告白って、こんなに重いのか)

 

 解決方法は、針の穴に糸を通す様に繊細だ。

 龍珠からの告白は不可能。宗司からの告白もあり得ない。だが、それは宗司の気持ちが伴っておらず、且つ龍珠の気持ちを知らないからだ。

 

 つまり、宗司が龍珠とくっ付くための条件は――

 

(……宗司さんが龍珠先輩のことを心の底から好きになって、龍珠先輩も宗司さんに惚れていること。且つ、龍珠先輩の気持ちを宗司さんが知ることが出来なきゃ……どんなムリゲーだ)

 

 告白の段階で、気になる相手、嫌じゃない相手止まりではどうしようもない。その時点で、相手に対する愛情のパラメーターを、お互いに最大値にしておかなければならない。

 だが、そのパラメーターを上げるには宗司と龍珠、お互いに交流が必要なのだ。交流が必要なのに――お互いに、出会えば無視か口喧嘩。周りが委縮するほどの険悪ぶりを見せて、まともな話し合いなど当然できない状況

 

 攻略のために必要なパラメーター水準があるのに、そのパラメーターを上げるための方法を封印されている状態。正攻法ではクリアできないクソゲー。

 

(……そもそも、龍珠先輩、どんなケジメとったの? ぱっと見わかるような傷なんてないし、指詰めてるわけでもないし。宗司さんの顔の傷より重いって……宗司さんから見てそうであって、僕らからすれば違うんじゃないか?

 

 

 もちろん、服で隠しているだけで大きな傷を負っている可能性もあるが、それは石上からは確認できないこと。考えたところで進展がない。

 そもそも、宗司、石上、四条の集まりは責任取って龍珠と交際しろ、という集まりだ。それの手助けをするのが石上と四条で、当事者が宗司。

 

 宗司が龍珠にとらせてしまったケジメというものの、内容による。

 もしもそれが、女性としてではなく――極道絡みで立場を脅かすものであったとしたなら。

 

(……そっちの関係なら、もう僕が、龍珠先輩ばかりに加担する意味はない)

 

 失敗とは、成功を以て雪ぐものなのだ。石上はそう考えているし、あの性格のことだ。きっと宗司もそう考えているだろう。

 もしも龍珠桃の失態によって郷原宗司が顔に傷を負ったのであれば――

 

 ――石上優はもう、龍珠桃にこだわらない。宗司が会長になるための条件、ここだけに注力して力を貸そう。

 

 それこそが、お互いの間にできた溝を雪ぐ方法だから。

 

「やっぱり、アレが原因だよな。……でも、明らかに極道絡みで、俺から聞いても答えてくれなさそうでな」

「会長がダメなら、僕が聞いても答えてくれなさそうですね」

「正直、俺はもう宗司と龍珠くっ付けた方が早いんじゃないか、って思ってる」

「へぇ、それはまたどうして?」

「龍珠の方は明らかに脈ありに見えたからな。事情があって複雑になっているが、そこさえ解けば後は自然と解決しそうだ。お互いに意固地になっているだけだからな」

 

 その解決方法が致命的に難しいんですけど――などと、石上は口にはしない。少なくとも白銀の目の前にいる石上は、極道関係の事情に対して何も知らない状態でいなければならないのだ。

 

 石上が今の結論にたどり着いたのは、宗司から聞かされた情報によるところが大きい。それがなければ、どれだけ白銀と情報を共有したところで、核心に迫ることはできなかった。

 

(……ツンデレ先輩にも伝えられない。もしも僕の推論が正しくて、龍珠先輩のケジメも極道関係の立場だったら、僕は――)

 

 ――四条先輩と宗司さんをくっ付けるために、全力を出す。

 

 だとすれば、この龍珠攻略班という名目の集まりは、交流を深めるためには必要不可欠な組織だ。それを破綻させるような情報を、わざわざ石上の口から出す必要はない。

 

(何より、まだ推論なんだ。確証があるわけじゃない。伝えないのは、当然だ)

 

「その事情っていうの、解決する糸口とかあるんですか?」

「さっぱりだ。もう、ここは宗司に直接聞くことにする。情報が何もないからな」

「……会長は、龍珠先輩と宗司さんをくっ付ける方向に切り替えるんですか?」

「事情次第だな。解決できそうなら、龍珠に切り替える。無理なら無理で、四条と宗司をくっ付けるために尽力するさ」

「わかりました。また方針決まったら、一声かけてください」

「あぁ、その時はよろしく頼む」

 

 白銀も石上も、確かに問題の核心に迫っている。

 リードしているのは情報量の多い石上だが、少ない情報からも問題の中心点を洗い出す白銀の洞察力もまた侮れない。

 

(きっと、宗司さんならツンデレ先輩とも上手くやっていける)

(龍珠と宗司が意固地になっている理由。それさえわかれば、後はどうにでもしてみせる)

 

 

 

 思惑は再び、交差する。

 

 

 





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近頃は筆の進みが微妙で、毎日投稿できないのは悔しくはありますが、そこは気長に待っていただければ幸いです



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