郷原宗司は交際したい   作:沖縄の苦い野菜

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第六話 生徒会のコントラスト

 

「――そっちはどうだった?」

「宗司さんは、龍珠先輩と仲直りしたいみたいですね」

 

 時間は既に夕刻。生徒会室の窓からは紅葉色の残光が差し込んでいる。

 電気もつけていない薄暗い室内。テーブルを挟んだソファーで対面している白銀と石上は、今日手に入れた情報を共有している最中だった。

 

 そんな中で、石上は嘘ではないものの、情報を不自然に思われない程度に伏せて端的に語る。宗司から白銀には秘密だという要望を守るためには、嘘を吐かない範囲で欺くことが最適だ。石上優は、嘘を吐くのが上手くないから。

 

(……それに、会長は後ろ盾がない。いくら宗司さんが頑張っても、きっと限界がある)

 

 宗司が白銀にも他言無用とした件について、石上からの否はない。むしろ、全力で賛成している側である。何の後ろ盾もない白銀が、極道の問題に首を突っ込めばどうなるか。

 極道は確かにカタギに手を出すことは滅多にないが、それはある種、非アクティブエネミー的な側面を持っている。要するに、少しでも刺激すれば全力で牙を剥いてくる。

 

 今回の一件は特に根が深い。次期会長を決めるための事実上の内部抗争。これに、いくら学生といえども加担するような姿勢がバレたらどうなるか――石上もある程度はわかっているつもりだ。

 

(人質、拷問、取引材料、人身売買……最悪、会長の家族にも危険が迫るかもしれない。その点、ツンデレ先輩は家の力でどうとでもなるし、僕は学園内の活動に留めれば、まずバレない。バレずにやっていける。最悪、ツンデレ先輩に泣きつけばいいし)

 

 手を広げ過ぎれば、情報漏洩のリスクが嵩む。万が一に陥れば、護衛対象が増えすぎて首が回らなくなる。いくら事態を進めるための頭脳が欲しいとしても……あまりに、リスクが膨大だ。そんな手、石上からしてみれば有り得ない暴挙だ。

 

「……宗司の方は、前向きか」

「龍珠先輩の方はどうでした?」

「条件を提示してきたよ。宗司と四条をくっ付けろ、だって」

「はぁ――?」

 

 思わず苛つきと困惑の混じった声が出た。しまった、と石上はすぐに切り替え、呆れた風を装って頭を振った。

 

「何ですかそれ。自分とくっ付けるの手伝え、じゃなくてそっち? 宗司さんはともかく、何でツンデレ先輩なんですかね」

(……これ、龍珠先輩も宗司さんを応援してるってこと? え、だったら何であんなに険悪だったの? 宗司さん、龍珠先輩にどんだけ酷いケジメとらせたの!?)

 

 情報が錯綜しているし、圧倒的に足りない。石上は龍珠桃がケジメをとったと聞いただけで、具体的な内容まで聞き及んでいない。本人の名誉も考えて、石上から追及することもなかった。

 

「俺も聞かされていない。大方、俺が挑発したのが原因だろうな」

「挑発?」

「宗司が最近、四条のことを気にし始めている。宗司との痴情のもつれじゃないのか、って」

「……ちなみに、ツンデレ先輩と必ずくっ付けろって言っていました?」

「いや、それがな。四条じゃなくても、女性なら誰でもいいような言い方だったんだよ。結婚前提、って最後に言い逃げされた」

「結婚前提!?」

 

 ポーズだけでも驚いた声を出して、その裏で石上は全力で頭を回していた。

 

(ほぼ確定だ。龍珠先輩は、間違いなく宗司さんのことを応援はしてる。あの人も、宗司さんのことを「郷原会」の会長に就けたいんだ。……自分から積極的に動かないのは、意地? ツンデレ先輩を指名したのは、宗司さんの好みを考えて? 何それ新手のツンデレ? ダメだ、情報が足りない)

 

 石上優が持っている情報だけでは、核心を突けない。どうして龍珠桃が怒っているのか。怒っているのに、宗司に手を貸そうとしているのか。彼が持っている龍珠桃のイメージと、今の行動が結びつかない。

 

 これでもし、石上が白銀と龍珠の話している内容を知っているのであれば。

 彼は限りなく正解に近い答えを導き出せたのに。

 

「ツンデレ先輩と結婚前提で付き合わせるって……そもそも、あの人をどうやって誘うんですか」

 

 石上側からしてみれば、四条眞妃と宗司を誘う理由は幾らでも思いつく。作戦会議といえば、時間の許す限り付き合ってくれるだろう。

 だが、それは白銀が知らない、知ってはいけない情報。だから、石上は白銀に選択権を委ねる(まるなげする)ことにした。

 

「それについてはプランがある」

「え、もう?」

「あぁ。宗司の方を誘うのは簡単だろう。問題は四条というわけだが――ここは少し心苦しいが、柏木の彼氏を利用するとしよう」

「――あ、そういうことですか」

 

 柏木の彼氏とは、四条が今も片想い中の男のことだ。この男が関わってくるということはつまり――

 

「四条には、『押してもダメなら引いてみろ作戦』とでも言って誘うとしよう。嘘にならないように、都合が合えば俺も柏木の彼氏と一緒に二人を尾行する。柏木の彼氏を誘う文句は、宗司と出掛ける四条が心配だから一緒に様子を見てくれないか、でいいだろう」

「……宗司さん、今も学園内だと危険人物扱いですからね」

「あぁ。その悪評を逆に利用する。これは四条にも俺から話を通しておく。まずはとにかく、宗司と交流を重ねて知ってもらうことが大切だからな」

 

(押してもダメなら引いてみろ、か。……これ、龍珠先輩にも応用できるかも)

 

 いくら宗司が龍珠のことを恋愛対象として好きになったとしても、龍珠にその気がないのでは骨折り損のくたびれ儲けだ。何より、期限付きの条件のせいで、龍珠側が恋愛感情もないのに折れなきゃいけない、なんて最悪の事態になるのは、石上から見れば本末転倒もいいところだ。

 

「それ、僕が柏木先輩の彼氏に話通しておきます。同行も、僕が行けば十分でしょう。会長は、龍珠先輩を連れて宗司さんの尾行をしてくれませんか?」

 

 ここで石上、打って出る――!

 一見、ここで龍珠桃が出てくる道理はないように見える。事実、宗司と誰かをくっ付けるだけであれば、龍珠桃を関わらせる必要はほとんどないといえるが。それを覆す理論武装を、石上は用意している。

 

「龍珠を? 必要あるのか、それ」

「女性なら、誰でもいいんでしょう? なら、ここは龍珠先輩も巻き込んで、的を増やしておきましょう。こっちはこれだけ手を焼いているんですから、可愛い意趣返しですよ。龍珠先輩に脈があるなら、ツンデレ先輩が無理だった時に、そっちとくっ付ける方法も模索できますからね」

 

 その理論武装は、普段の石上からは考えられないようなものだった。合理的とは言えども、道徳としてお粗末と言わざるを得ない戦略。「可愛い意趣返し」などと言葉を濁していたとしても、それは変わらない。石上自身が嫌う、モノ扱いのような発言。

 

 しかし、石上の視点は違う。彼からしてみれば本命のターゲットは龍珠桃なのだ。四条眞妃はあくまで協力者。端からそちらは勘定に入れていない。そのせいで生まれた、石上の性格と言動との乖離。

 

「保険か。……わかった。龍珠は俺から誘う」

 

 しかし白銀は石上の違和感に気づかない。それどころか、白銀視点からしてみれば実に合理的と言わざるを得ない。

 そもそも、白銀は宗司と龍珠どちらとも交流がある。その年月は実に1年以上。その間、仲が良い時の二人も、仲が悪い今も見てきている。石上が知り得ない情報を、彼は持っている。

 

 だからこそ、白銀は思うのだ。

 

(――確かに。四条より、まだ龍珠の方が脈ありだろうな)

 

 一度、他の誰かに惚れている相手を惚れ直させるなど。並大抵のことでは無理なことは白銀にだって容易に想像がつく。

 そう考えれば、表向きは龍珠に賛同して四条と宗司の仲を深めさせ、その上で、龍珠を巻き込んでそちらの出方も窺う。そうして時を進めていくうちに、本命の狙いを定める。宗司にプッシュする相手を決めていく。それが、彼にとっての最善。

 

 彼にできる、精一杯の恩返し。

 

「それじゃあ、自分は柏木先輩の彼氏の方を。決行日はいつにしますか?」

「それは宗司と相談してからにしよう。また今度に」

「わかりました。じゃあ、そろそろいい時間ですし、僕はこれで帰りますね」

「あぁ、気をつけて帰るんだぞ。近頃、何かと物騒だからな」

「ははは。まぁ、いざというときは元陸上部の底力、みせますよ」

 

 石上優は、薄暗い生徒会室を抜けて、茜差す廊下を歩く。もうすぐ夜の帳も降りてくるだろう。そうなれば、暗闇の世界が待っている。闇の中には――

 

「――っ」

 

 ぶるり、と身を震わせた石上は早足で廊下を抜け、階段を駆け下り、下駄箱に向かう。早く帰ろう、と。

 

 カツカツ、とせわしない足音が、誰もいない廊下にむなしく木霊した。

 

 




皆様の温かい評価、感想、お気に入り登録などなど。いつも言っていますが、大変励みになっており、更新が続いている今日この頃です。
これからさらに、物語を進めていきながら、「かぐや様は告らせたい」の要素を色濃くだしていければいいなと思いつつ。

出来る限り、更新を早めにしていきたいと思います。
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