星屑を見上げて   作:ねむみ。

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お久しぶりです^q^


鍛練っす!

 

 

 

 

「ごっ、あっっ……!?」

 

 悲鳴と同時に花びらが舞う。それは今まさに拳でぶっ飛ばされた青年が色鮮やかな花壇の上に背中から落下したからだ。レザレノ・カンパニーの屋上庭園にて、軟弱エルフが顎を押さえながら転げ回っている。奇妙な色合いの瞳からは涙が溢れ、表情は苦悶に満ちてとても苦しそうだ。それでも手にはしっかり木刀を持っていて、対面には涼しい顔をした余裕綽々のリーガルが立っている。

 この二人、現在運動と称した組み手の真っ最中。事の発端は、部屋に軟禁されていた青年が体を鍛えたいと駄々を捏ねたからだ。

 リーガルからすればこの男はどうにも信用ならない節がある。が、決して悪人ではない。そうと分かってはいるものの、立場や警戒心からそう簡単に野放しにしたくないのも確か。

 なので、仕方なく鍛練の相手を買って出た。デスクワークばかりの毎日を送ってばかりだから、たまには体を動かす機会が欲しいと思っていたのもまた事実だが。

 軟弱エルフとプレセアがレザレノ・カンパニーに潜入してから、既に一週間が経過していたりする。

 

「ぐぉお……っ! ちったあ手加減とかしないんすかっ? こちとらエクスフィア無しなんすけど……っ!!」

 

 木刀を支えにふらつきながらも立ち上がり、花壇に向かって血を吐き捨てながら彼はそう言った。この軟弱エルフの戦力は、仕事ばかりで勘が鈍ったリーガルの足元にも及ばない。先程からボコボコにぶっ飛ばされてばかりで、何とも情けない姿を晒し続けている。

 ただ、それでも根性だけは一人前だ。どんなに殴られようが、投げ飛ばされようが、参ったとは絶対に口にしない。その点だけは、唯一評価出来るところだ。

 

「お前はエルフなのだろう? なら、魔術は使わないのか?」

「使わねーっす。マナを無駄遣いはするもんじゃねえんすから」

「……テセアラのマナは潤沢だ。何を気にする必要がある?」

 

 魔術を使うということは、マナを消費すると言うこと。人間に魔術を扱うことは出来ないけれど、それでも魔術がどのような代物か知っている者は知っている。ましてリーガルは大企業の会長で貴族なのだから、持っている知識量は一般人より遥かに多い。だから、軟弱エルフの言葉に首を傾げるのだ。

 テセアラのマナは潤沢であり、魔術を使ったところで何の問題も無い。なのにどうして、彼は魔術を使おうとしないのか。

 

「……あんたに怪我させたら、プレセアに殺されるんすよ。よくもアリシアに心配かけさせたなって」

「そのような事は、流石に無いと思うが……」

「いーや有るっすね。今のプレセアは、アリシアの心身の安全が行動基準っすから。ああ怖い怖い」

 

 魔術を使わない理由。それは酷く単純だった。顎を擦る彼は、もうプレセアに殴られたくないのだ。うっかりアリシアの着替えを覗いてしまった時、顎の骨をカチ割られたことが少しトラウマになっているらしい。

 

「さーてリーガル。次こそは一発お見舞いしてやるかんな!」

 

 そう言って、彼は木刀を構える。まだまだ鍛練を続けるつもりの青年を前に、リーガルは無言で拳を構える。何だかんだで最後まで付き合うつもりなのだろう。ただ二人の実力差は天と地ほどもあるのだから、万に一つも貧弱エルフが勝つことは無いのだが。

 二秒後、またもぶっ飛ばされた青年は完全に気絶した。

 

 

「あ゛ーーっ、口んなかいってえ。あの野郎バカスカ殴りやがって……」

 

 青痣が出来た顎を指で擦りつつ文句を言いつつ、白衣を着た彼は様々な実験器具の前に立っている。右には薬品棚、左にも薬品棚、足元には散乱した大量のレポート用紙。そして、目の前には実験台。ここは彼がリーガルに無理を言って作って貰った開発室であり、研究室。何の為にわざわざこんな部屋を作ってもらったのか。その理由は明白だ。彼はエクスフィアに蝕まれているプレセアを、どうにかして救いたい。抑制鉱石にドワーフさえ居れば手っ取り早く済ませられるのだが、そのどちらも手元には無い。リーガルが探してくれているようだが、抑制鉱石はともかくドワーフ探しの方が難航している。

 だからと言って、ドワーフが見つかるまでプレセアを放置しておくことは青年には出来ない。彼は元・研究者。持ち得る知恵を活用し、どうにかプレセアの症状の進行を阻止、或いは改善出来ないかと試行錯誤しているのだ。結果は、芳しくないのだが。

 

「作り直しては見たけどなぁ。どんな作用が出るかも分からんってのが。いやのんびりしてる暇は無いんだけど、失敗は許されないわけで。エクスフィアで強化された肉体を信じるか?

 ……いや、拒絶反応が出たり症状を進行させてしまったらそれこそヤバい。かといってこれ以上放っておくのも避けたいんだが……」

 

 ブツブツと独り言を繰り返しながら、彼は研究室の中をぐるぐると歩き回る。実験台の上には既に幾つかの薬品が出来ており、それらはプレセアの為に彼が準備してきたものだ。しかしまだ、投薬をする決心は付いていないらしい。研究者として、科学者として、リスクは避けておきたいようだ。

 

「石炭使って出来る薬だって世の中にはあるんだ。なら抑制鉱石使ったって問題はないだろ。いやでもさぁ、鉱石の摂取はどう考えても毒だろ。いっそ解毒剤も作っておくか? どんな副作用が出てくるかも分からないのに?

 そもそも、副作用が症状進行に作用したら詰みだろ。手頃なモルモットでも居りゃ助かるが……ああそうか。俺が自分で試してみれば良いか。な、訳ねぇだろ。この体で紋無しにエクスフィアを装着したら直ぐ死ぬって」

「あのー……」

「いっそリーガルに協力して貰うか? いやいやそれはアリシアにも殺されるだろ。ああそうだ、向こうの神子で試すってのはどうだ? はっ、馬鹿言え。どんだけ長い間マナの逆転が起きてないと思ってんだ。つーかそもそも、世界再生するような神子は漏れなく連中の手に堕ちる。

 あー、困った。どうすっかなマジで……」

「あのっ!」

「おおぅっ!? なんすかアリシアっ」

 

 思考に耽過ぎて、彼は周囲がまるで見えていない。こうしてアリシアに何度も声をかけられないと、誰かが近寄ってきたことに気づけない程だ。それだけ目の前の物事に集中出来るのか、それともそれ程までにプレセアを助けたいのか。

 足を置くような場所も無いような部屋を見て、ちょっとアリシアは呆れているようだ。

 

「少し休憩しませんか? こんな夜遅くまで、何も食べないでいるのは体にも悪いですし。それに……こんなに散らかして……っ!」

「……ん? そんな時間経ってたっすか? あーでも大丈夫っすよ、別に腹減ってないし」

「良 い か ら 休 ん で く だ さ い」

「えぇ……? いやでも」

「……お姉ちゃんに言いますよ?」

「あ、それは勘弁して欲しいっす。ごめんて」

 

 知り合って一週間。アリシアもそろそろこの男をどう扱えば良いのか分かってきたらしい。今の彼はプレセアへの告げ口をチラつかせると素直に言うことを聞く。

 こうしてプレセアの名前を出された以上、軟弱エルフとしてはアリシアの言葉に従わざるを得ない。

 

「お部屋、掃除しておきますね。だからその間に、晩御飯を食べてくださいっ! ブライアン様みたいな不摂生は駄目ですからね!」

「ぅ、うっす。じゃあちょっと飯食ってくるっすけど、その辺の薬品には触ったら駄目っすからね? 普通に死ねるから。ほんと、触っちゃ駄目っすからね!?」

 

 こうして彼は研究室から追い出され、夕飯を食べに別室へと向かうことになる。今日の飯はなんすかねー、なんて呟きながら。

 

 一時間後、とっ散らかった研究室はアリシアの手によって綺麗さっぱり整頓されていた。もっとも、翌朝にはまた盛大に散らかってしまったのだが。

 

 

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