星屑を見上げて   作:ねむみ。

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評価ありがとうございました。ライブ感でやっていきますがよろしければ今後ともお付き合いくださいませ。

あ、それとpixivにもアリシア救済IFが無かったのには殺意が芽生えましたね。


筋☆肉☆痛

 

 

 

 

 

「だぁあーーーっっ!!!」

 

 夜。オゼットの外れで青年が大声を上げ、大の字に倒れた。彼の前には、薪の立った切り株。手には斧が握られている。ちなみにプレセアはそんな男の側で膝を抱えて座っている。無表情だから何を考えているか分からないが、呆れているように見えるような、見えないような。

 男は、居候と言うこともあり家事を買って出た。が、料理はてんでダメ、掃除は微妙、洗濯も出来ない。最後に残ったのが肉体労働だったわけで、薪割りにチャレンジしてみた訳なのだがこれが全く上手く行かない。まず、斧を真っ直ぐに振り下ろせない。上手い具合に振り下ろせたと思ったら、薪が割れない。そもそも斧を持ち上げることすら一苦労だ。

 子供のプレセアに出来て、大人の自分には出来ない現実が男のプライドを粉砕した。が、彼はめげなかった。虚ろな瞳で見詰められながらも、何度も何度も薪割りに挑む。しかし成果は全く出ないのである。なんと情けない事か。

 半ばヤケになりつつ薪割りに挑戦すること、数時間。綺麗に割れた回数はプレセアに手伝って貰った一回のみ。それ以外は斧を外すか、当てても割れないかのどちらかだ。

 

「……へた」

「ぐぉお……っ」

 

 少女の一言が、青年の胸を抉った。薪が割れない現実よりも彼女の一言が重かったのか、彼は丸くなって地面を転げる。とてつもなく滑稽だ。

 だが薪割りが出来ないのは、仕方がない事かもしれない。彼は元々研究員だ。頭脳労働はともかく、肉体労働は向いていない。その上、身体能力を高めてくれるエクスフィアを装着していない。別にエクスフィアなど無くとも薪割りは出来るが、この男の場合は装着していた方が良いだろう。

 馬鹿な男の相手に疲れたのか、プレセアは軽々と斧を持ち上げて家の中へと戻っていく。表に放置されてしまった青年は、額からダラダラと流れる汗をそのままに夜空を見上げている。起き上がれるぐらい体力が回復するまで、このままだろう。

 

「あ゛ーー、しんっっど。こんな事良くやってられるな……? 魔法使った方が早いって絶対」

 

 ぶつくさ文句を言いながら、男は地面から起き上がる。まだ体力は回復しきっていないようで、フラフラだ。

 彼は腰掛けている木剣を引き抜き、その刃先を切り株の上の薪に向ける。眉間に皺を寄せ、意識を集中。そして。

 

「……ウィンドカッターっ」

 

 魔術を行使。すると木剣の先から緑の風が噴出し、それはくるくると縦回転しながら薪に直撃。そして薪を大きく弾き飛ばした。

 

「……っげ、切れねぇ。エクスフィア外してるから魔法も弱くなってるけど、これはちょっと……」

 

 ウィンドウカッター。それは風の刃を飛ばす初級魔術だ。エルフであるなら子供でも扱えるような代物だ。威力は、鉱物だろうと人体だろうと容易く引き裂けるぐらいのもの。この男の魔法も、狼の群れを容赦なく切り裂く威力が有った筈だ。

 だと言うのに、今は薪を吹き飛ばすぐらいが精々で切断は出来ない。エクスフィアがなければ、十分な威力を発揮できない。それが、この男の本当の実力のようだ。

 

「……、ウィンドカッターっ!」

 

 もう一度、同じ魔術を行使する青年。木剣から放たれた風の刃は渦巻きながら遠くの薪に当たるが、やはり切断は出来ていない。ただ吹き飛ばすだけだ。

 

「……ファイアボールっ」

 

 次に放ったのは、拳大の火の玉だ。しかしそれは、遠くの薪に当たることなく空中でバラバラに霧散した。

 

「アクアエッジ!」

 

 まるでじょうろから出る水のような勢いで、木剣から水が出た。花壇への水やりぐらいしか役に立たなそうな威力である。

 

「ストーンエッジ!!」

 

 薪の上に小石がひとつ落ちた。

 

「……このやろ。悠久の時を廻る優しき風よ、我が前に集いて裂刃と成せ。サイクロン!」

 

 今度は、別の風魔術だ。わざわざ詠唱までして威力を高めている。放たれたのは、緑の竜巻。風の刃を纏ったそれは、鎮座している薪を切り裂きながら空高く巻き上げた。……が、薪は切れていない。表面に幾つもの大きな傷が出来た程度で、粉々になったりはしていない。

 完全に、出力不足だ。エクスフィアを外した影響は、とてつもなく大きいようだ。この調子では、自分の身を守ることも難しいだろう。

 

「かーーっ! ま、仕方ないな。こっちは地道な鍛練でどうにかしよう。後回し後回し」

 

 木剣を腰に納めつつ立ち上がった青年は、体についた土を叩き落としながら家へと戻った。既に夕飯が作られ始めているようで、鼻を擽る香ばしい匂いがキッチンから玄関まで流れ出ている。

 

「今日の晩飯は何?」

「……スープ」

「良いね。じゃあ俺は出来るまでお父さんの様子見てるから」

「……はい」

 

 短い会話を交わして、青年は寝室へと足を運ぶ。初めてこの家に来たときのような悪臭はもうしないし、蠅の羽音も聞こえない。ベッドの上に安置された成人男性の死体は、まるで生きているかのように綺麗なものだ。肌が青白い事を除けば、眠っているようにしか見えないぐらいに。

 これは、彼がこの家に住まい始めてから出した最初の成果だ。何をどうやったのかは分からないが、どうにかして死体の状態を清潔なところまで引き戻した。今から行われる何らかの処置は、更に遺体の状況を良くしていくのだろう。

 

(……取り敢えず、現状維持が出来れば良いな。エクスフィアの無い今じゃ、ちょっとサボれば直ぐに腐乱死体に逆戻りするだろうし。さっさと埋めてやりたいところだけど、今のプレセアじゃ反対するだろうしな)

 

 はーーーっ。と大きく溜め息を吐き散らかして、青年は遺体の処置に入る。夕飯が出来上がる頃には、作業は終わっていそうな感じだ。

 

 

「……さて、プレセア。触診しようか」

 

 風呂上がり。だぼだぼのシャツに袖を通した青年は、今で木彫りをしていたプレセアに向かってそう言った。彼女は彼女で、とっくに入浴済みだ。今はパジャマ姿で、ノミを片手に芸術に勤しんでいる。

 何でも、プレセアが彫った彫刻は土産物として人気らしい。そして、趣味のようでもある。普段から仕事ばかりしている彼女にとって、木を彫って何かを作る時間は癒しの一時なのだろう。

 

「……、嫌です」

「そう言えるなら触診は無し。今日は何彫ってんの?」

「……くま」

「……またか。好きだな熊。たまには別のものでも彫ったらどうだ? 鳥とか」

「…………」

「はいはい。邪魔してごめん。俺も作業するから、放っておいてくれ」

 

 少女の対面の椅子に腰かけた青年は、机の上に放置されていた紋様入りのアクセサリを手に取った。これは、要の紋。エクスフィアの毒性を緩和し、便利に扱う為に必要なものだ。これがなければ、エクスフィアの装着者はプレセアのようになってしまう。

 この要の紋をどうにか細工して、目の前の少女をエクスフィアから救うのが当面の彼の目標だ。無論、直ぐにどうにかなるような事ではない。要の紋の細工は、ドワーフでなければ出来ないからだ。それを自称エルフが知識もないままにやろうと言うのだ。どれだけ時間が掛かるのか分からない。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 二人は無言のまま、それぞれの作業を進めていく。プレセアの木彫りはすんなり進んでいくのに対して、青年の細工弄りはこれっぽっちも進まない。

 沈黙が続くこと、一時間。男の集中力は消えてしまったようで、彼はどこからか取り出した葉っぱを口に放り込んで咀嚼を繰り返す。すると、強い爽やかな香りが居間に充満し始めた。

 

「…………」

「…………」

「…………ん? 何?」

「…………」

「あぁ、これ。気付け。ほんとは気絶した人を覚醒させるための薬草なんだけど、俺は眠気覚ましに使ってる。まぁ……ミントみたいなものかな」

 

 気絶している者を覚醒させるような代物を常用している辺り、この男の睡眠不足は随分と深刻なもののようだ。長い前髪に隠れて分からないが、よく見れば目の下の隈が酷い。生きている者とは思えないぐらいの色をしている。もしこの薬草を噛まなかったら、彼は何十時間も眠っていることだろう。不健全な話である。

 

「近い内に仕入れないとな。そろそろ無くなる。同じもの、どこかに売ってたり生えてたりしてない?」

「…………」

 

 彼の質問に、プレセアは首を横に振った。残念ながら、この薬草の補充も一筋縄では行かないらしい。少女からの回答を得た青年は、口を閉じて自分の作業に戻る。とは言え、手は一向に進まない訳なのだが。

 

(やっぱ、俺じゃ要の紋の細工は出来ないな。ドワーフ探しもしなきゃいけない訳だが、俺地上に詳しく無いしな……。さて、どーしたもんか)

 

 天井を見上げて、思考に耽る。手は相変わらず止まったまま。今の彼に出来るのは、出来そうにないことに挑戦することと、これからの事を考えておくことぐらいだ。

 そうしてあれこれと考えていると、プレセアは作業を止めて寝室へと引っ込んでいく。居間に一人取り残された青年は、朝日が登るまで思考の渦から抜け出せなかった。

 

 

 翌日、青年は筋肉痛で地獄を見た。そんな彼を見たプレセアは「……軟弱」と、毒を吐いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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