星屑を見上げて 作:ねむみ。
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監視カメラと言うものがある。それは社内を隅々まで見渡すものであり、つまり青年とプレセアの潜入は初めからバレバレだった訳だ。だと言うのにアリシアと接触なんてしたものだから、兵の派遣は待ったなし。アリシアの部屋に兵を引き連れたリーガルによって、青年はめでたくお縄となった。
「えっ、カツ丼無いんすか? ほんとに??」
両手に枷を嵌められた青年は、硬い椅子の上でボケた。正面に居るリーガルは眉間に皺を寄せた。二人が居るのはレザレノカンパニーにある倉庫で、周囲には書類が収納された戸棚ばかりだ。
それにしてもこの青年、先程からふざけてばかりだ。自分の立場をまるで理解していないかのようか振る舞いだ。こんな男からあれこれ聞き出そうとするには、随分と骨が折れることだろう。
「真面目に答えろ。何の為にアリシアに近付いた」
「それは昨晩答えたっよー。聞くなら他の事を聞いて欲しいんすけど」
「……なら、どのような危険が彼女に迫っているんだ」
「最初っからそー聞けば答えたっすよ。ま、ちと話は長くなりますけどね」
「構わん。話せ」
「……そーーっすね。じゃ、どこから話したもんかねぇ」
ようやく真面目に答えるつもりになったのか、彼は天井を見上げて溜め息をひとつ。それから数秒の沈黙。どこから説明しようか考えているように見える。今回の一件、事は単純なのだがそれを納得させるには様々な事を先に語っておかなければならない。説明を怠ったから、昨夜は港で突っぱねられてしまったのだ。
「プレセアがエクスフィアを装着してるのは、分かってるっすね?」
「……そうだな」
「要の紋の無いエクスフィア。それが人体に悪影響を与える件については、詳しいっすか?」
「知っている。レザレノカンパニーは、エクスフィアで富を得たからな」
「うーーわ……。引くわそれ……。え、こわっ、人身売買でもしたんすか」
「そのような汚い仕事はしていない」
「そーですか。んで、エクスフィアは要の紋無しに装着すると人体に悪影響を与えるっす。具体的には五感の消失や感情の喪失。肉体が成長しなくなる、なんて事もあるっすね」
だからこそ、プレセアは成長していない。彼女がアリシアの姉であることをリーガルが信じられなかったのは、その為だ。
「と言うことは、あの少女は……」
「正真正銘アリシアの姉っすよ。まぁ、アリシア自身もプレセアの姿に驚いてたっすけどね」
「エクスフィアにそのような副作用が………。彼女には、他にも何か悪影響が?」
「感情を失いかけてる。あと、認識や思考能力にも影響が出てる。このまま行くと、プレセアは機械や人形と変わらなくなるな」
「…………だから抑制鉱石に、ドワーフか」
「そっす。分かってくれて助かる」
昨晩は青年の言い分を突っぱねて話を聞こうとしなかったリーガルだが、今は話に耳を傾けてくれている。捕らえた侵入者の言葉をすんなり受け入れようとしている辺り、彼はお人好しの分類だろう。だが、何でもかんでも受け入れようとしていないのもまた事実。青年を見る目付きは依然として険しいままで、そこには油断も優しさもない。
「それで、何故アリシアが危険だと? 私の目から見れば、お前達こそアリシアの危険だが」
「……実験のサンプルは多いに越したことはないんすよ。プレセアはエクスフィアに適合した。となれば、血縁者のアリシアも適合する可能性がある。後は、分かるだろ?」
「……お前が居た組織の者が、アリシアにエクスフィアを付けると? 要の紋も無しに?」
「彼女を誘拐した上でな」
「……お前の居た組織とは、何だ?」
青年が属していた組織が何なのか。それを知りたく思うのも無理はない。人体実験をするような組織がアリシアを狙っていると言われたのだから、気にならない筈がない。ましてリーガルは公爵であり、財力も権力も持っている。組織について調べあげ、叩き潰そうと思えばそう出来るだけの力があるのだろう。
「言わない。言ってもどうにもならない。知ったら狙われる。それで、プレセアは今どこに?」
「……彼女達なら、アリシアの部屋だ。兵に見張らせてる」
「アリシアは?」
「私の部屋に」
「一人で?」
「そうだ。今は掃除を……」
「あんた馬鹿かっ!!?」
手枷が机に叩き付けられて、大きな音を立てた。さっきまでは余裕綽々だった青年の表情が、焦りに染まる。彼の豹変ぶりに、リーガルは目を丸くした。
「一人にするか普通!? 危険だって言っただろ!!」
「ここは安全だ。部屋の外には年のために兵を置いた。危険などどこにも……」
「ああもう!! 大事にしたいなら手元に置いとけってんだ馬鹿野郎!!!」
罵声を浴びせるだけ浴びせるだけ浴びせ、青年は椅子から立ち上がる。そして手枷をそのままに、部屋を飛び出した。廊下に出ると扉の側で待機していた兵士達が何事かと驚いた。彼等からすれば、青年が逃げ出そうとしているようにしか見えないだろう。
「サイクロン!!!」
兵を見るなり、青年は躊躇なく魔術を使う。突如として発生した翡翠の風は渦巻き、兵を吹き飛ばす。悲鳴や鈍い音、何かが折れる音も気にせず、青年は駆け出した。目的は当然、リーガルの部屋。そこで一人になっているアリシアだ。
「待てっ!!」
「待たないっす!!! それよりあんたの部屋どこっっ!!?」
「知らずに飛び出すな! 上の階だ!!」
「そこ素直に教えるんすか!? さてはあんたお人好しっすね!!?」
■
「アリシア!!」
「アリシア!!!」
リーガルの部屋の扉を、血相を変えた男二人が押し開ける。青年の予想が正しかったのなら、アリシアには危険が迫っている筈。しかし、実際のところは……。
「へ?」
「…………」
公爵の部屋は、あまり綺麗とは言えなかった。床には何かの紙が散らばっているし、テーブルには山ほどの書類が積んである。そんな室内にアリシアは居た。プレセアも一緒だ。しかし、二人の格好がおかしかった。
姉妹は、半裸だった。何故、公爵の部屋で半裸なのだろう。二人の足元には服が散らばっている。どうやら、着替えている最中だったらしい。そんな場面に、慌てた男が二人。プレセアはともかくとして、アリシアは思春期の真っ只中。男性に肌を見られて、平然としていられる訳がないのである。
「っっっ!!? きゃああああっっっ!!?」
悲鳴が上がる。と、同時に着替え最中のプレセアが駆け出した。脱げかけのメイド服をそのままに、肌を隠すこともせず彼女は大きく右手を振り上げる。そして、青年の頬を思いっきりぶん殴った。まさかのグーパンである。
「ぶべっっ!!?」
斧で大木を斬り倒す腕力に、足腰の強さ。更にエクスフィアの強化に、助走の勢い。四つの要素がガッチリと噛み合ったアッパーのような右ストレートは的確に青年の顎下を捉えた。これには兵士だろうと耐えられないだろう。まして、軟弱者の彼では尚更絶対に耐えられない。
下からの強烈な突き上げにより青年は吹き飛び、そして後ろに居たリーガルに激突。
「ぐおっ!?」
吹き飛んだ青年に体を押され、リーガルは部屋の外へ。勿論青年の体も、扉の向こうだ。二人の男が部屋から出たことを確認すると、プレセアは勢い良く扉を閉じた。
「…………、どこが危険なんだ?」
「きゅう〜〜〜………」
「……仕方あるまい。何なのだ、この男は……」
プレセアの右ストレートで気絶した男を、リーガルは抱え上げる。彼の右手首の内側には、エクスフィア。人ひとりを持ち上げることぐらい、造作もないのである。