これは忍者ギルドの奥深く、星忍たちの住まう場所にて与えられた試練の話である・・・
◆
「・・・でも、何の用でしょうか。葵さんと私をわざわざ指名してくるなんて。」
「何だろうねぇ。まぁ、龍忍とか関係ではあるんだろうけど・・・」
新大陸でのジークヴルム戦が終わってしばらくしたあと俺と秋津茜は星忍のじーさま達に呼び出しをくらっていた。用件を言わない緊急の呼び出し。この時点で怪しさ度合いはだいぶ高いのにあの時以来あんまり会ってないの秋津茜との共同呼び出し。・・・疑えと言っているようなものだろう。
「こんにちは!」
「こんちはー」
互いの性格がよく出た挨拶とともに星忍の間に入る。
「・・・うむ、よく来たな龍忍秋津茜、蛸忍聖葵・・・」
「・・・今日呼び出したのはお前たちにある試練を受けてもらうためだ・・・」
試練?
「試練ってどんなのですか?」
「・・・そう急くな、龍忍秋津茜・・・」
「・・・この試練で試されるのは汝達の対応力、適応力・・・」
「・・・そして、絆・・・」
「・・・どうだ、この試練受ける気はあるか・・・?」
「クエスト「星忍の試練」を受けますか? はい/いいえ」
んー、どうしよ。
「葵さん、葵さん!どうしましょう?」
「んー、秋津茜はどうしたい?何をするかもわかってないけど・・・」
「私は受けてみたいです!何をするのかも気になりますし・・・それに何かあっても前みたいに葵さんがきっと守ってくれますから!」
そんなこと言われたら受ける以外の選択肢がないんですけどぉ!?
「よし、じゃあやってみよっか!」
視界の端に浮かんでいたウインドウのはいの部分を勢いよく押し込む。
「・・・試練の内容は単純・・・」
「・・・ある場所に行き、あるモンスターを倒すだけだ・・・」
「・・・では頑張れよ・・・」
あるモンスター?ちょっと情報が少なすぎやしないだろうか。そう思い、詳しく話を聞こうとしたが・・・
「・・・では試練を始める・・・」
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
鋭い光が部屋を覆い、一瞬の後、俺たちの意識は光に溶けていった。
◆
あー、頭がふわふわしてる・・・そう、これは寒い冬の朝に布団の中で微睡んでいる時の感覚・・・・・・ああ、もうちょい寝かせてー・・・
「みゃっ!?」
顔面に水滴がぶち当たり慌てて体を起こす。何!?何事!?・・・・・・あー、確か星忍のじーさまたちの試練を受けて・・・んでなんか急に光って・・・
「・・・ここ、どこ・・・?」
ってか、秋津茜!確か光る前までは一緒にいたはずだけど・・・・・・・・・
「・・・え?」
え?え?・・・はぁ!?秋津茜を探すべく周囲を見渡した俺の視界に飛び込んできたのは、うつ伏せで倒れている
「え、え?どゆこと!?」
そ、そういえば何か声が妙に高いような・・・そう、あえて言うなら裏声を出している時の声のような・・・それはつまり女声ということで・・・!
「えーっと、鏡鏡。何か顔を見れるものは・・・」
いや、体見ればいいだろとか思うかもしれないが、予想が当たってたら事案になりかねんし・・・ええい、俺は誰に言い訳してるんだ。
「・・・あ、あった。水溜まり・・・」
「・・・・・・・・・ああああああああああ!!やっぱりぃぃぃい!!」
水溜まり、いや、池かこれ?を覗き込めば、映り込んでいるのはよく見なれた狐面であり、つまりそれは俺の体が秋津茜のそれになっているという事実の証明にほかならなかった。
「絆を試すって・・・そういうこと?」
つまり、体が入れ替わった状態でモンスターを倒してみろと。訳わかんねぇなぁ・・・前回の試練といいだいぶ私情入ってない?
「・・・ん・・・・・・あれ、ここは?」
お、秋津茜が起きた。さっきの悲鳴で起こしちゃったかな。
「ってええ!?私が2人!?え、え!?」
うーん、いい反応。俺もきっとこんな反応してたんだろうなぁ・・・でもね秋津茜。その体で分かりやすく女の子女の子した感じの動きするのやめよっか。酷い見た目になるから。
「んん、とりあえず秋津茜。何があったか思い出せる?」
「え?えーっと、確か星忍の人達のクエストを受けたら急に光が当たって・・・???」
んー、まぁそうなるかぁ。ヘーイ、秋津茜。カモンカモン。
「葵さんですよね?でもなんで私の体?」
「とりあえずほら、こっち来てみ?」
「はいっ、わかりましわぶっ!」
おおう、思いっきしコケた。
「秋津茜!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫です・・・ひゃあ!」
あー、分かった。
「っとと・・・秋津茜、ほれ肩貸してやるから掴まれ。」
うう、秋津茜の身体、体格はリアルの俺とほとんど変わらないのに、1部分だけ決定的に違うせいで重心がブレまくる・・・この状態で戦闘はキツくなぁい?
「ありがとうございます!よっと!」
うあ、自分じゃ気づかなかったけど触手に触られるってこんな感じなんだ・・・小柄な少女に体を預ける体のあちこちから触手が覗いている痩躯の青年・・・・・・事案臭が漂ってんなぁ・・・
「んー、にしてもここどこだ?見たことないエリアだけど・・・・・・秋津茜見たことある?」
正直地上にあまり上がってないこともあり、シャンフロ世界の地理は疎いからな。秋津茜も最近は新大陸にいることが多いらしいがそれでも俺よりはマシだろう。そう思ったのだが・・・
「うーん、見たことないです!モンスターもみあたらないですね!」
そう、モンスターを倒すだけの試練といってたくせにモンスターがどこにもいない。となると後は・・・
「やっぱりこの池の中かぁ・・・?」
自分の顔を確認するために覗き込んだ、割と狭い空間であるこの鍾乳洞の半分以上を占める巨大な池。モンスターがいるとしたらここ以外にないだろう。
「戦闘ってなるとスキルやらインベントリの中身がどうなってるのかも確認しなきゃな・・・秋津茜、なんかわかりやすいスキル持ってたりしない?」
「うーん・・・えいっ!」
うわ、秋津茜が空中ジャンプし始めた・・・ああ、スカイウォーカーか。俺はムーンジャンパー止まりなことを考えるとスキルは変わってないと見るべきか。それなら戦力はそこまで・・・・・・いや、落ちてるわ。魚人忍法やら刃隠心得・蛸の巻とか使えねーじゃん。触手ないし・・・クソっ、まさか触手に愛着が湧く日が来るとは思わなかった。
「使えました!スキルはそのまま使えるみたいですね!」
「ああ、そうだな。ってなるとインベントリの中身も・・・」
思った通り、中身はそのままだな。ってことは体が入れ替わったと言うより一時的に見た目が変わってるって言う方が近いか?
「あのー、葵さん。」
「ん?どうした、秋津茜。」
「触手ってどうやって動かすんですか?なんかすごい違和感があるというか・・・」
んんん、罪悪感っ・・・!いや、別に俺は悪くないんだけどまだ年端も行かないような女の子に触手の使い方、動かし方?を教えるっていう状況が何とも・・・
「あー、そうだな・・・言うて俺もいつも全部の触手を動かしてるわけじゃないからな・・・とりあえず1番太いこの触手を腕と思って・・・」
口で言っただけでは分からないと思い、触手を掴んだのだが・・・
「ぁんっ・・・」
んんんんん!?!?!?
「あ、あああああ秋津茜さん・・・?」
「あっ、すいません!ちょっと変な感じがして・・・」
「いやいやいやいや!こっちこそごめんね!うん!」
びびった。マジで。や、何つーか今まで手のかかる後輩とか妹くらいにしか思ってなかった秋津茜も女の子なんだなーって思ったというか・・・・・・・・・ああああああああ!!!何考えてんだあああ!!クールダウン!クールダウンをさせろ!!
「あっ、葵さん!?」
急速に顔に血が上り、冷やしたくなった俺が選んだ選択肢は非常にシンプルな・・・そう、水で冷やすというものだった。
ブクブクブク・・・
わー、透明度たかーい。きれーい。
「ぷはぁっ!」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・大丈夫ですか?」
ガチトーンで心配された。そりゃそうだ。
ごく一部の者しか知らぬ秘密の鍾乳洞の中にある淡水湖。この奥底深くに潜む主は己の領域を侵害するものの気配を敏感に感じ取り、その巨体をくねらせ水面へ向かう・・・