お化け屋敷に縁日、飲食店に喫茶店。いよいよ文化祭まであと一日となった今日、俺と紅音は宣伝係として各クラスにビラを配るべく学校中を歩き回っていた。本日の格好はミニスカサンタ……もう慣れた。慣れちゃダメな気がするけど慣れた。ちなみに我が1年A組が誇る広告塔のもう一人である紅音は俺の横でトナカイの着ぐるみを着てご満悦である。可愛いね。
「1年A組でーす。ビラ置きに来ましたー」
「あー、そこに置いといっ……!?」
「ビラ配りの子ー……!!?」
「失礼しました!」
「え、あんな可愛い女の子新入生に居たの!?」
「知らない知らない!」
「でもあのトナカイの子は隠岐紅音さんだよね……ってことは横の女の子ってまさか……」
「当日絶対行こうね!」
「にしても紅音、やけにご機嫌だねぇ。そんなに文化祭楽しみ?」
「はいっ!第2中の文化祭って小規模って言うか……合唱祭みたいな感じだったじゃないですか。だからこういう雰囲気初めてでとってもワクワクしてます!!」
「あー、まぁ確かにねぇ……でもちょっと分かるかも」
「えへへ、伊鈴くん!当日は絶対一緒に回りましょうね!!」
「当然!クラスの奴らもシフト合わせてくれたしなー、存分に楽しもうや」
よく考えると俺も成長したな……昔だったら絶対協力してないし楽しもうとも思ってなかっただろう。……うん。
「紅音、ありがとね」
「……?何がですか?」
「んー……色々。とにかく俺は紅音に感謝したい気分なの!」
「そんなこと言ったら私だっていっぱい伊鈴くんに感謝したいことありますよ!例えば……」
その後、二人の思い出に耽りながら俺たちは学校中を練り歩いた。
「おかえり、広報2人組!校内デートは楽しかったかい?」
「デ、デートじゃないですよう!ね、伊鈴くん!」
「んー?俺はデートのつもりだったけど?」
「ふぇっ……」
くく、紅音はほんとからかいがいがあるな。とてもいい反応をしてくれる。
「ヒューヒュー!!お熱いねぇ!!」
お前は黙ってようか。
「まぁまぁそれはそれとして2人とも他の子の接客練習見てあげてね?2人が一番よくできてるし」
「はいっ!」
「りょーかい」
さーて、クソゲー仕込みの演技術存分に見せたりますかぁ!
「よーっし!準備しゅーりょーっ!!皆ありがとーっ!!」
時刻は現在午後5時30分。6時が最終下校時刻であるため割とギリギリだったな。あの後俺と紅音は手分けして接客の指導に当たった。最終的にかなりのものにはなったのだが……飲食店でゾンビのコスプレはやめた方がいいと思うなぁ……
「それじゃあ明日に備えてみんなちゃんと寝てくること!かいさーん!!」
明日からが本番だと言うのに渡辺は元気だな。んー、さすがに今日はゲームを控えて早めに寝るか?一応明日朝早いしな……
「伊鈴くん!帰りましょう!」
「ん、おっけー。……ねぇ、紅音今日シャンフロどうする?」
「え?……うーん、軽くノワルリンドさんに挨拶してそれで終わりにしようと思います!明日に備えて早く寝たいですし!」
そーだよな。俺もそうするかー。
「そだよねぇ。……ま、帰ろっか」
「はいっ!」
土曜日朝。いよいよ今日は文化祭の本番である。
「おはよー、お兄ちゃん。今日は私部活だから行けないけど明日は行くからねー」
「……出来れば来て欲しくはないんだけどな……あ、おはよ」
身内にあれを見られるのはなかなかの恥だなぁ……そんなことを考えながらも手はスムーズに朝ご飯と弁当を作り上げる。
「はい、完成っと。これ食ったら俺はもう行くんで洗い物はよろしくな」
「はーい。紅音さんによろしくねー」
うまうま。我ながら良い出来『ピンポーン♪』んあ?誰だこんな朝早くから。
「はいはーい、どちら様で……って紅音?どしたの?」
「おはようございます、伊鈴くん!……えっと、ちょっと早く起きちゃって、それで……」
……ああ。紅音ってあれだもんな。旅行の前日に楽しみすぎて寝られないタイプ。大方待ち合わせ場所に早く着きすぎたんで俺ん家まで来たってとこか。
「んー、じゃあ上がる?もう少し俺は時間かかるし」
俺が遅いように思うかもしれないが待ち合わせ時間にはまだ30分はある。……そう考えるとすごいな。
「え!?良いんですか?」
「良いよー、ってもそんな歓待はできないけど」
「いやいや、無理言って入れてもらってるんですから大丈夫ですよ!」
「んじゃ鍵開けるから入ってきてねー」
「あ、はい!」
「おはよー、紅音」
「はいっ、おはようございます!」
「まぁ、とりあえず上がってよ。飲み物くらいは出すからさ」
「お邪魔します!……うう、ちょっと緊張します……」
「ん?なんか言った?」
「へぁ!?な、なんでもないです!」
ならいいけど。……よく考えるとこの状況って彼女を初めて家にあげてるのか……なんか緊張してきた。
「あ、紅音さん!どうしたんですか?」
「おはよう、夢花ちゃん!えっと、その……」
ん?なんか紅音がチラチラ見てくる。助け舟出せってことか?
「……ああ、そういうことですか。お兄ちゃんはご飯食べてなよ。紅音さんは私がもてなしておくから」
「あ?まあ、助かるけどいいのか?夢花も学校あるだろ?」
「まだまだ時間あるから大丈夫!ささ、紅音さんこっちへどうぞ?」
「うん、お邪魔するね。じゃあ伊鈴くん、準備終わったら呼んでください!」
「おー」
まあ、女子同士俺には聞かせられない会話もあるのだろう。そんなことより冷めないうちにトースト食っちゃお。うまうま。
「紅音ー、準備できたよー」
「ひ、ひゃいっ!」
……?なんかめっちゃ慌ててる?まだ時間は大丈夫だよな。
「じゃ、じゃあ行きましょうか!じゃあね、夢花ちゃん」
「はい!行ってらっしゃい、お兄ちゃん、紅音さん!」
「おー、行ってくるわ。行こうぜ、紅音」
「は、はいっ!」
◆
今日は文化祭とはいえ通学路になにか変化がある訳でもなく、伊鈴くんと一緒に学校に向かっているのですが…………うう、夢花ちゃんに変なこと言われたせいで伊鈴くんのこと、妙に意識しちゃいます。
「…………ねー」
夢花ちゃんがなんで知ってるのか分からないけど……伊鈴くんって家ではそんな感じなんですね……ちょっと可愛いかも……いやいやいや、何考えてるんですか、私!
「…………かねー」
夢花ちゃんの言葉が頭の中で繰り返されます。
『お兄ちゃんは昔から私に弱音を全然吐かないんですけど……結構限界だと思うんですよね、あれ。よく寝ながら泣いてますし。まあ本人は自覚ないし認めないでしょうけど。……だから紅音さん、お願いします。お兄ちゃんを助けてあげて。私じゃあお兄ちゃんを癒してあげることはできませんから』
……夢花ちゃんはああいってたけど私に出来るのかな……
「紅音!!」
「きゃっ!」
強く腕を引かれ、前を見ると青信号なのに高速で車が駆け抜けていった。
「大丈夫!?怪我してない!?」
「あ、はい……大丈夫です。ありがとうございます」
「良かった、無事で。でもどしたの?さっきからぼんやりしてて。寝不足?」
「いえ、そういう訳では無いんですけど……」
さすがに言えませんよね、伊鈴くんをどうやったら癒せるか考えてたなんて。……でも伊鈴くん私と一緒にいる時でも気を張ってるっていうか、甘えてくれないですし。むぅ、前にももっと甘えてくれるようにって言ったのに!
◆
夢花の部屋に紅音が行ったあとなんか紅音の様子が変だ。話しかけてもぼんやりしてるし、さっきなんか車に轢かれかけた。あれは車側が悪いけど。……あいつ何吹き込んだんだ?
結局学校に着くまで俺たちの間に会話はなかった。あれ、これってヤバいのでは?付き合い始めてから一年以内が一番別れるカップルが多いって聞くし……
「お、おはよーご両人!今日も仲良いねぇ!」
いや、タイミングぅ!ちょっと今気まずいの!
「あはは……おはよう、透子ちゃん」
「……?ま、いいか。今日は頼むぜ2人とも!」
―――そして、波乱の文化祭の幕が上がる……!