……私は何をしているんでしょうか。クエストを手伝ってもらっているのに彼らを襲う……もう逃げてしまいましょうか……ここから…………この世界から…………
『ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!! …………ッッッ!? 』
「待って……!! 」
振るった手は何かに止められて見れば私の手は葵さんの体を切り裂いて止まっていました。うそ……なんで……!?
「あかね、だよね」
『…………ゥア"ア"アアぁ……』
こちらを見てくる目はどこまでも真っ直ぐで、いつも私に向けられてきた彼の目そのもので……もう込み上げる感情をとどめることは出来ませんでした。
『うああああああ!!! 」
異形と化した両腕で葵さんに抱きつきます。きっと彼ならこんな姿の私でも受け入れてくれるであろうという確信をもって。そしてその確信は私の予想と寸分たがわぬ形で示されました。優しく私を抱きとめいつかの時と同じように、いえ、あの時以上の慈愛がこもった手つきで私を撫でてくれます。
「え、本当に茜ちゃんなの? ガチで? 」
「全然わかんなかったんだけど。逆になんでわかったのさ……」
「いや、もうガチよガチ。分かった理由に関しては何となくとしか言いようがないけどね」
ペンシルゴンさん達の会話も思考の表面を滑っていくだけで、頭の中には何も残りません。ただただ目の前の人に甘えていたい、私が私であると気づいてくれたこの人と離れたくないという思いで頭の中が埋め尽くされていますから。
『……ふん、気づくのが遅いわたわけが! 』
「え?……あ、あれ?」
まだ体は元のままなのになんでノワルリンドさんがいるんですか!? ……というか声戻ってますね。全然気づかなかったです。しょ、正気に戻ると急に恥ずかしさが……! ううう、ペンシルゴンさんやオイカッツォさんの前で葵さんに抱きついちゃったのすごく恥ずかしいです!?
「あれ、ノワリン。どしたの急に出てきて」
『急にでは無い、試練が終わったから出てきたまでのこと! それにだ、最後の問いがまだ残っている。それに答えねば完全に攻略したとは認められん』
「問いぃー? 」
『そうだ……アーサー・ペンシルゴン、オイカッツォ』
「うん、なぁに? 」
「何かな?」
「え、俺は? 」
『貴様は後だ……貴様らは仲間が異形となったとしてどう思う? 』
……それ、は……聞くのが怖い、です。だから耳を塞ごうとしたのに
「だーいじょうぶだよ、秋津茜」
葵さんがそれをさせてくれません。……大丈夫、なのかな……
「そうだねぇ…………まあ理性無く襲ってくるようなら処分するけど、そうでないなら見捨てないよ。「友達」だしね」
「俺? プロゲーマー舐めないでよ。人型なんて捨ててからが本番でしょ。その程度でどうこう思うようななまっちょろい精神してないよってね」
……!!
「ね、言ったでしょ? こういう奴らなのさ」
……! ……!! 何かを言おうとして、でも言葉にできなくて、ただただぎゅっと葵さんを抱きしめます。
『そうか……最後は貴様だ、葵。なぜアレが秋津茜であると気づいた。面影などなく、人の形すら捨てた異形。それを何故?』
「さっきも言ったでしょ、理由なんてないよ。」
『ほう?それが貴様の答えか?何となく、そんな理由で気づいたとでも?』
「そういうことじゃないんだよ、ノワルリンド。
……葵さんは時々小難しいことを言います。何が言いたいのか分からない時もあるけど、それでも私のことを大切に思ってくれている。その気持ちだけは確かに伝わってくるから。だから私は彼の隣にいたいんです。
『ふん……その言葉忘れるなよ』
『昏き道は断たれ、少女は光を取り戻した』
『黒竜の試練は新たなる力と絆をもたらす』
『特殊試練終結』
『ユニーククエスト「ヒトを捨てよ、キズナを捨てよ」をクリアしました』
視界の端にウインドウが流れ、クエストが終わったことを知らせてきます。
「やれやれ、やっと終わったか。ほら、帰ろう秋津茜」
優しく手を差し伸べてくる葵さんに色々なことを思い……それらの全てを一言に集約させます。
「……はいっ!!」