新大陸の森の一角で色とりどりの花が咲き誇る。ある花は周囲を巻き込んで燃え盛る業火の矢であり、ある花は触れたものを瞬時に凍りつかせる氷獄の刃であり、はたまたある花は雷速をもって敵対者を滅する轟雷の獣である。悪辣なる意思に蝕まれた哀れなる蜻蛉には逃げる術はなく・・・・・・さりとて、蜻蛉を守護せんとする一本の刃は決してその輝きを失わせまいとその力を振るう。
「秋津茜っ!!」
ええい、前もあったなこんな状況!とはいえ今回はあの時とは何もかもが違いすぎる。秋津茜は疲労ではなくシステム的な制限によってその行動を封じられているし、そんな彼女を狙う攻撃の密度もまた段違いだ。そして、俺の位置から秋津茜の元までに地味に距離があり、魔法が着弾するまでの到着はほぼ不可能。であれば諦めるのか?秋津茜を見捨てて、自分だけ逃げおおせるのか?まぁ、可能不可能でいえば可能だろうな。
「・・・・・・ははっ・・・・」
そんなつまんねぇ事するわけねぇだろ!!女の子の前でカッコのひとつもつけられねぇ様じゃあなァ!
「やってやろうじゃねぇか!秋津茜ェ!そこで見てなァ!!」
「
己の内に守ると決めたものがあるのならば!俺の鎧は砕けねぇ!!魔法の嵐、何するものぞ!
「うおおおおおおぉ!!」
痛い痛い痛い!偉そうなこと言ってすみませんでしたー!めっちゃ痛てぇ!え、こんなに痛覚再現されてましたー!?
魚人忍法【不転・珊瑚障】・・・攻撃・補助系統の技術が多い魚人忍法の中でも貴重な完全防御特化魔法。物理、魔法両方への高い耐性と一定範囲へのかばう、一時的な体力自動回復効果など、多くの効果が詰め込まれているがその代償として少なくない魔力と圧倒的なまでの激痛を味わうこととなる。
あー、やっべ
刹那、トドメとばかりに巨大な火球が放り込まれ俺の視界は爆炎に塗りつぶされた。
「・・・・・・へへっ、やったな?」
「ははははは!ざまぁみろ!ドラ姫だなんて持ち上げられていい気になるからこんなことになるんだよ!はっはははぁ!」
「ちょ、ちょっとグルメチキンさんヤバくないっすか?ただでさえ天ぷら騎士団の評判はダダ下がりだって言うのにこんなことしちまったら・・・・・・」
「おいおい、今更ビビってんのかぁ!?気にすんなよ!あのジークヴルムを倒したドラ姫を倒したってなりゃァ、だーれも文句なんかつけられねぇよ!」
「・・・・・・待ってください、グルメチキンさん!まだあいつら生きてぐべっ」
「おい、どうした!」
「ははっ、不意打ちで魔法の雨とはやってくれる。なーにが目的だァ?」
「っテメェ!生きてやがったのか!!」
そーだよ。いや、めちゃくそ痛かったけど。VRにあるまじき痛みだわー。魔法が任意のタイミングで解除できるのもいやらしい。最早途中から魔法を解除しようとする己の指との戦いだった・・・・・・ただその分性能は破格だったがな・・・・・・っとぉ
「おいおい、話の最中に切りかかってくるとかキレてんねぇ。カルシウム足りてないんじゃなーい?鮭食う?鮭」
「食うか!・・・・・・へへっ、虚勢を張ってるようだけど意味ねぇぜ!てめぇの弱点は知ってんだよ!」
ほう?俺の弱点?気になるねぇ・・・・・・
「忍者の隠し職業についてるらしいがどうせハズレ職だろ!なんせ状態異常特化職なんだからなぁ!つまり状態異常無効アクセサリを大量につけてる俺たちにはてめぇはなんにも出来ねぇってことだよォ!」
「ただなぁ・・・・・・?俺たちが用があるのはあくまでそっちのドラ姫ちゃんだけだからさぁ・・・・・・あんたが逃げたいって言うなら見逃してやってもいいぜぇ!・・・・・・ああ、そうだ!なんならあんたも一緒にPKしようぜぇ!女を殺すのはいいぞぉ・・・・・・ホントに殺ってるみてぇですげぇ興奮すっからよォ!」
はァ・・・?俺が秋津茜を見捨てて逃げる?挙句の果てには秋津茜を殺せ?笑わせんな・・・!
「・・・・・・ん・・・・・・くっ・・・」
「っ秋津茜!起きたのか。良かった、大丈夫か?」
後ろで秋津茜が何とか身を起こそうと体をよじらせている。
「ああ、無理すんな。ここは俺に任せとけ」
「おいおいおい、起きちまったのかよ!」
「・・へへっ、まぁいいかぁ。意識無いやつを嬲っても気持ちよくなれねぇしなぁ・・・・・・!」
反吐が出るな。正直、こんなやつの言葉を1ミリたりとも秋津茜に聞かせたくない。こんな奴のせいで純粋な秋津茜が歪む様を見たくない。
「へへっ、にしてもあんたえらくドラ姫ちゃんにご執心じゃねーか。ひょっとして、身体でたらしこまれた口かァ?」
「はぁ?何言って・・・・・・」
「つーかドラ姫さんよォ!ジークヴルムの時から思ってたんだよ!あんたは楽でいいよなぁ!無責任に頑張れ頑張れってよォ!!あんたが好き放題やってジークヴルムを倒したせいでこっちは大迷惑なんだよ!これだから周りのことも考えないで自分のことばっかり考えてるやつは困るんだよなぁ!」
「おい!さっきから聞いてりゃベラベラと・・・いい加減にしろ!」
言いがかりにも程があるだろ・・・!この世には言っていい悪口と言ってはいけない悪口があるが、こいつのは完全に後者だ。カルマ値はたまるがしょうがない。仕留めるか・・・・・・
「あァ!?いい子ちゃんぶってんじゃねぇよ!てめぇもさぁ、心の中じゃ思ってるんだろ!?「あーあー、こいつについて来たせいでPKに襲われるし最悪だよ。マジで迷惑だな」ってよォ!なぁ!?あんたも可哀想だなぁ!向こう見ずの馬鹿女に振り回されてよォ!」
「しかもよォ!そこの女はユニークを独占してんだぜ!?あのツチノコ野郎もそうだが、こいつらには周りを思いやるって言うことが出来ねぇのかなぁ!!自分たちの行動のせいで何人ものプレイヤーがシャンフロを本来の楽しみ方できてねえってのによォ!!しかもそれを悪びれもしねぇ!何だ何だァ!?勝者の当然の権利とでも思ってんのかぁ!?負け犬は黙ってろってか!?あーあー、やだやだ!勝者はなぁ、敗者に気を使うんだよ!お前のせいで苦しんでるヤツがいるってことを知って、それを後悔し続けなきゃいけねぇんだよォォ!!」
「それを知らねぇで楽しそうにしてるだぁ!?有り得ねぇなぁ!どうせリアルでもお前の周りのヤツは迷惑してるだろうよォ!!ホント、楽でいいよなぁ!!」
「―――黙れ」
「あぁ?なんか言ったかぁ?」
もういい。こいつは
「お望み通り見せてやるよ―――てめぇの見たがってたユニークだ・・・・・・!」
――今ここに狂気は舞い降りた。