少し本好きの下剋上? 〜目的の為に全力でいく〜 作:名無し
ダンッ! ダンッ! と何かを床や台に叩きつけるような音が聞こえてくる。それと同時に全身を揺らすほどの振動が俺の寝ている場所へ来る。頭がズキッと痛み、そのせいか少しずつ頭が覚醒していく。
振動……頭痛? 何処かで見たような気がする。
その音と振動は続いていて、そう早く終わるものでは無さそうだった。
何とかして起き上がろうとしたものの、高熱があるのか少しボーッとして、関節も痛い。
「……もしかして」
熱のせいかボーッとして中々回らない頭を回転させ、状況確認をする。
思わず発した言葉は高く幼い声で聞こえた。明らかに成人男性の声では無い。
上手く動かない体を少し動かして今居る場所がどうなのか身近な物を触る。
すると、掛けている布団からカサカサと草らしきものが擦り合わさるような音がした。
少しだけ重い瞼を開けると、知っているものよりも視界が鮮明に見えた。
天井は黒く煤けて汚れていて、何本か黒っぽい太い柱が組まれていて、長い間掃除していないのか、巨大な蜘蛛の巣があった。
これらは身近にこそ無かったが、確かに知っているものだった。
本当にこれたのか……?
西洋風の建築様式に比較的澄んでいる空気。板に布を被せただけかと思うようなベッド。そばがらより違和感のあるチクチクする枕のようなもの。薄汚れて異臭に近い所まできてる掛け布。
少なくとも日本には無いと言い切ってもおかしくないものだった。
……手は?
痛む関節を動かし手を目の前へあげると、そこには細く小さな子供の手があった。栄養が取れていないことが丸わかりで、栄養失調になっていると断言出来るほどだ。
自分の意思で確かに動かせる、あまりに変わってしまった手。衝撃を受けた俺は思わず口角があがってしまう。
来たんだ……本当に、本好きの世界に。
転生した。そう決めてもいい程に情報は集まったと言える。流石に大きく声には出せないが、これまでで一番嬉しいことに間違いはない。
見てもわからない程度に歓喜に打ち震えていると隣からギシッと音がした。
転生して、この状況。ならば隣にいる人は決まっている。
「本、ないし……」
原作主人公、マインただ一人。
横に顔を向けるとそこにあるベッドの上にいるマインと目が合った。
金色の瞳に夜空のような髪。間違いなくマインだ。
「あなたは……?」
マインがこちらに向けて言葉を放つ。すると少し遅れて一人の女性が部屋へ入ってきた。動いた音か、マインの声で気づいたのだろう。
三角巾のようなものを頭にした美人だ。顔立ちは美人なのだが、所々汚れている。マイン達の母エーファだろう。
隣にいるマインにはなんとも言えない表情が浮かんでいる。勿体無いと思っていたはずだ。
「マイン、ラティス、%&$#+@*+#%?」
「ぃあっ!?」
エーファの謎の言葉を聞いた途端、凄まじい量の情報、記憶が一気に流れ込んできた。数年分の記憶が数秒あるかどうかぐらいの間に入ってくる。
流石に簡単には耐えきれず、顔を顰めてしまう。
「マイン、ラティス、大丈夫? 全然目覚めないから心配したのよ」
「……母さん?」
マインの頭をゆっくりと撫で、顔を覗き込んでいる女性は自分の母親で、自分の名前はラティスだと言うことが記憶から出てくる。
言葉も分かるようになり、受け入れは一応終わったみたいだった。しかし、少々辛いので優しめに流せないのだろうかと考える。
「気分はどう? マインは頭が痛そうだし、ラティスは顔色がまだ悪いわね」
自分達の額へ向かう指が、いくつかの色で染まっている。染物関係の仕事だからだろう。前世の記憶があるので少し微妙な気分になってくる。
「……まだ、頭痛い。寝たい」
マインの言葉に便乗して返事をする。
「そう、ゆっくり休みなさい」
そう言って寝室から母親が出ていく。言葉の通り寝てもいいが、やる事は既にあるのでそれをやっていく。
まずは流れ込んできた記憶を改めて一から見ていく。そこまで生きていないことや既に覚えていないこともあってか、記憶の中で見ただけでは中々理解出来ない語彙があった。
元々のラティスが理解出来ていなかったからだろう。しかし、下地はあるので、覚えるのはそう難しくないと判断出来る。
「母さん、ごめん……」
マインが呟くように言ったその言葉が耳に入ってくる。死んでしまった事実を改めて突きつけられ、色々な感情が湧き出て複雑に絡み合った結果だろう。
俺にはもう家族はいないからな。
自分の事も少しだけ思い出したが直ぐに元の思考に切替える。
最期の記憶は辛く苦しいことが刻まれ、少しずつ薄れていく意識に逆に安心して逝ったことがわかった。
俺がここにいる理由は、死んでしまった体に憑依したと考えれば良いだろうか。前世を思い出したというよりは自然だろう。
「どっちでもいいよね。これからマインとして生きていかなきゃいけないのは変わらないんだし……」
マインが割と大きな声で独り言を言う。普通に聞こえる声量なので、こちらは声を出さない方が懸命だろう。
次は魔力について考える。マインと一緒に寝込んでいるのと記憶を考えれば、身食いである事はおそらく確定だろう。体の内側を探ろうとすると、熱を持った何かがあった。これが魔力だろう。
これをどうするべきだろうか。将来的には圧縮していきたいが、下手に圧縮し過ぎると死ぬことになる可能性が高い。それは避けなければならない。やらない訳では無いが。
今の状況でやれる事となると本当に少ない。圧縮はそれなりでいいとして、出来るならば魔力の扱いには慣れておきたい。
魔術関連は基本的に触れられないので、魔術具関係も難しい。体内で動かす練習程度だろう。下手にやってしまえば処分も考えられなくはない。
後は魔力感知だろうか。薄く体外に広げるのは身食いの場合危険度が跳ね上がると考えられるが、出来ないよりは出来た方が良いだろう。
……今の所は本当に出来ることが少ない。あの人に会って告白する為にも準備しておきたいが、当面待つしかないか。
序盤はそもそも行動が縛られ過ぎているからな。やりたい事があったとして、出来ることはほぼ無い。
「マイン、ラティス、起きてる?」
丁度区切りがついた時にトゥーリが入ってきた。俺達の姉だ。三つ編みをしているが、母であるエーファと同じでパサついている。
「トゥーリ、『本』持ってきて?」
ご丁寧に本の部分が日本語になっているようだ。この世界の人に日本語は通じないだろう。聞いた事がない単語だからだろう。記憶を元にしてもこの世界の言語になっていない。
「トゥーリ、お願い」
マインの言葉にトゥーリはキョトンとした顔になった。何を言っているか分からないからだろう。
「え?『本』って何?」
「何って……えーと、『絵』や『字』が『書かれた』もので……」
「マイン、何言ってるかわからないよ? ちゃんとしゃべって?」
「だから、『本』!『絵本』がほしいの」
「それ、何? わからないよ?」
トゥーリが本気で不思議に思っているからか、通じていない事にマインがイラつき始めた。
「あぁ、もう!『翻訳機能、仕事しろぉっ』!」
「マイン、なんで怒るの!?」
「怒ってない。頭が痛いだけ」
傍から見ればただ姉に八つ当たりしている妹にしか見えないだろう。しかも勝手に自分の都合で。
……いや事実だけど。
「……まだ熱あるから怒るの?」
トゥーリが心配して熱を計ろうとする。しかしその手をマインは掴む。
「まだ熱いから、うつるよ?」
姉が自分に触ることで病気が移ってしまうことを危惧する心優しい妹のようだ。
……避けたな。いくらなんでも可哀想……日本に慣れてたらそうもなる、のか?
「そうだね。気を付ける」
何かを決心したような顔をしているマインを、どことなく仕方なさそうな表情を含ませたトゥーリが見ている。
「トゥーリ、夕飯の支度を手伝ってちょうだい」
「はい、母さん」
どこからかエーファの声がして、トゥーリがバタバタと駆けていく。
子供でも労働力として数えられているものの、俺達は体が弱く直ぐに倒れるから入らないだろう。
少しすると、またもやダンッ! ダンッ! という音が聞こえてくる。何度考えても料理でこの音は中々だと思う。
エーファや帰ってくるであろうギュンターの事もせめて父さん母さん程度にはしなければならない。意識すれば問題ないので気負う必要はないが。
マインが寝始めたので、そろそろ寝た方がいいだろう。魔力の圧縮はまだだが、閉じ込める感覚は早く掴みたいのでこの熱の間に始めていきたい。
できるなら寝ながらでも魔力を動かせるようになりたい。何があるか分からないので、こういった無意識下でも動かせるようにしておいた方が後々便利だろう。原作で出なかったはずなので、出来るかどうかは分からないが。
「ただいま」
「おかえり、父さん」
どうやら父さんが帰ってきたらしい。とはいえ、高熱を出している俺達が夕食に参加するのは難しい。
とりあえずこの熱を治すことをしよう。大人しく寝て体を治すのだ。
はい、本編開始です。
別に底辺って程でもなければ下克上が主目的でもありません。結果的に下克上っぽくなるだけです。(多分)
まあその為にタイトルをこうしてるんですけどね。
初めの頃はネタバレは何処まであっていいだろう?
-
ガッツリあっても大丈夫!
-
半々ぐらい?
-
分かりづらい程度で……
-
ほぼ無しでオナシャス
-
勝手にしてもいいのよ?