少し本好きの下剋上? 〜目的の為に全力でいく〜 作:名無し
こちらの世界に来てからマインは毎日体を布で拭いてもらっている。贅沢にお湯を使って。俺も便乗しているが。
この家でお湯はどれだけ貴重なのか気になる所だが、まあ許してるなら問題は無いだろう。大変だろうが。
トゥーリが何かを言って辞めさせようとするが、何がなんでも辞めないからか、寝室の一角が湯浴みスペースとなっている。
この前は髪を結いたくても結えなかったからか、簪もどきを作って貰っていた。その際、トゥーリが大事にしている人形の足を折ろうとしていた。
正直笑いそうになった。記憶はどこへ行ったのか。
その後トゥーリに細かくここをこうして欲しいと言いつつ、簪もどきを完成させた。
それを使い、上の半分程を巻いて結い上げた。前から見ると突き刺さって見えるので少し面白い。最初の発明は簪だった。
マインの伝説はここから始まるのだ。
とある日にトゥーリが色々採って帰ってきたのだが、マインが油欲しさにハンマーでメリヤの実をぶっ叩いた。
トゥーリから分けて貰ったとはいえ、貰って直ぐに叩くのはどうなのだろうか。巻き込まれなくてよかった。
おかげで悲惨な現場になったが、その後教えて貰いつつ油を取り、簡易ちゃんリンシャンという懐かしい気もする名前のシャンプー兼リンスを作り出した。
これによってこの家の女性陣の髪はサラサラツヤツヤみたいになった。
今まではよくて石鹸をそのまま使っていたので、かなりボサボサな上、髪も傷んでいただろう。
トゥーリも母も自分から使いに行った辺り、いつの時代もどこの世界も女性というのは美容関係への興味は凄いと感じた。
……マインは微妙だけど。
またある日。ついに重要人物が登場した。
今日は母さんが仕事に行ったため、家にはトゥーリとマインと俺の三人だけだ。
マインが何かを言いたそうにこちらを見ている。昨日のことを考えるときっと紙についてだろう。
「トゥーリ、ラティス、『紙』ってどこに売ってるか知ってる?」
「……?」
「何て言ったの、マイン?」
「だから、『紙』……あ!」
明らかに日本語だったが、トゥーリと俺の表情を見て通じていないと気づいたようだ。
日本語が通じないことが不便で仕方なさそうな顔をしているが、何がなんでも本を作ろうとする意気込みは見える。
……日本語を懐かしく感じる日が、いつかくるんだろうか。心残りは無いとはいえ、あの人を知ることが出来た世界の事は忘れたくないものだ。
「……知らない、よね?」
「うん」
「ごめんね。わからないみたい。面白い言葉だね」
マインがガクンと項垂れ、深い溜息を吐いた。
本がない。本を作るための紙がない。同じように必須なペンも無い。
作るために必要な道具すら無い状況だ。かなり大変だろう。
……そんな状況から始めるとか。行動力の塊だよな。マインって。
「あーっ! 父さんったら、忘れてる!」
いつの間にか台所へ移動していたトゥーリの声が響いた。のっそりとマインが向かったので着いていくと、トゥーリが何かの包みを持っていた。
今朝、父さんが寝起きのぼへーっとした顔で「今日の仕事に使うから出しておいて」と、朝の忙しい時間に言いだして「なんでもっと早く言わないのよ!?」と母さんの機嫌を急降下させた物だ。
結婚したら相手の行動に気をつけないと、いつか後悔するんだ、ってね。
わざわざ物置から引っ張り出して来ていたので、忘れたと知られたら、父さんはお亡くなりになるだろう。
「トゥーリ、きっと母さん、怒るよね?」
「マインもそう思う?」
全世界共通で母の怒りは凄い。俺はあまり関係無かったが、普段温厚な人ほどそのギャップは凄いので、きっと相当だろう。
「トゥーリ、これ、父さんに届けた方がいいよね?」
「……うーん、でも、マインとラティスだけにするのは……」
マインは色々とやらかしていて信用は底を這いつくばっている。俺はその流れで巻き込まれているだけだろう。
……まあこの歳で放置ってこと事態が少し危険そうではあるが。
「父さんもないと困るよね?」
「……マイン、門まで歩ける?」
このままでは俺だけ留守番になるだろう。だがしかし、ここで放置される訳にはいかない。
「が、頑張る」
「マインが行くなら俺も行く」
「……マインが心配だけど、ラティスも行くなら手伝ってね」
……手伝いを要求されるのは別に良いのだが、マインは俺の知らない所でもやらかしているのだろうか。同じ家にいたはずだが。
母さんと出掛けた時と同じように何枚も服を着込むことになった。動きずらさは制服以上だ。いくら冬でも少し暑い。
「トゥーリ、重くて動きにくいよ?」
「でも、全部着ないと、どれも継ぎ接ぎが当たっている服だから、どこから風が吹きこんでくるかわからないでしょ? 特に、マインは風邪を引きやすいから、ちゃんと着なきゃダメ」
大人しくとは言っているものの、俺は発言しなさすぎなので、めちゃくちゃ良い子みたいに思われている節がある。
別に良い子ぶっている訳では無いが、反抗することも無いので結果的にそうなった。
マインに恨まれていないかは少し心配だ。
「マイン、ラティス、大丈夫?」
「ぜぇ、ぜぇ……ゆっくり、歩けば、大丈夫」
「うん、大丈夫」
大丈夫とは言ったが、無理やり抑えているだけでかなり辛い。
この体は体力が無いことはわかっているが、階段を降りるだけでここまで消耗するのは大変だ。
マインは前回と同じくらい息切れしている。体力をつけるにはかなり時間がかかるだろう。
道が石畳なのでかなり歩きにくい。でこぼこが激しいのだ。マインはトゥーリと手を繋いで自分の足元に全力を注いでいる。
マインの速度に合わせるため少し遅いが、こちらも丁度良いので助かる。
「あれ? トゥーリじゃん! 何やってんだ?」
少し先にいた背負子と弓を持った三人の男の子が近づいてくる。赤、金、ピンクの髪なのがまだ珍しく感じる。
……ルッツが来たわ。ついに登場だわ。otherストーリー出来る。詰まってるよ。ほんと。
「あ、ラルフ! ルッツとフェイも一緒ね!」
記憶の中からルッツ以外の記憶も引っ張り出してくる。
ラルフがトゥーリと同い年。赤毛で体格が良く、子供達のまとめ役のような存在らしい。雰囲気はさながらみんなの兄ちゃんだろうか。
フェイもトゥーリと同い年。ピンク髪で、悪ガキそうな見た目をしている。関わる事は少なかったが、なんだかんだ優しい所もあるらしい。
ルッツはラルフの弟で、金髪で俺達と同い年だ。マインに対しては背伸びをしたような発言が多い。今後も続くかは分からないが。
三人はトゥーリが森に行く時によく一緒に行くメンバーらしい。俺やマインも連れて行ってもらったことがあるらしいが、前の俺は本当に大人しく、インドア派だったようで苦手としていたようだ。
これから先、ルッツとは沢山関わる事になるはずだが、今はまだそんな気配はあまり無い。
……どっちでもいいが、マインは俺の姉なのか妹なのか。区別しているのかは分からないが、聞いてみてもいいかもしれない。
「父さんが忘れ物したから、門まで届けに行くの。ラルフ達は森?」
「そう。門まで一緒に行こうぜ」
「うん!」
ラルフと話すトゥーリの顔は輝いている。余程森に行くことが好きなのだろうか。仲の良い友人と森にいる方がのびのびと出来るからだろう。
そしてラルフ達と一緒に行くことになった途端、マインに合わせていた歩くペースが早まり、マインが足をもつれさせ、引きづられそうになる。
俺は手は繋いでいなかったのでそんな事にはならなかったが、かなりの早歩きだ。
「わわわっ!」
「マイン!?」
「マイン!?」
トゥーリがそれに気付き、足を止めたおかげでマインはなんとか転ばずにすんだが、その場に膝をついてしまった。
「ごめん、マイン。大丈夫?」
「……うん」
「……なぁ、マイン。オレ、背負ってやろうか?」
おお、ルッツが助けに入った。スっと手を差し伸べるその姿は正に王子……悪ノリは辞めよう。
しかし、記憶の中でも紳士的な行動をよく取っていて、マインに対しては庇ったり荷物を持ったりと、特におにいちゃんぶる事が多かったようだ。
「マイン、また熱出してたんだろ? 辛そうだし、背負ってやるよ」
……ルッツの体格ではまだ無理だろう。下手すれば潰れてしまう。
「ルッツが背負うんじゃ、いつまでたっても森に着かないって。オレがマインを背負うよ。お前はオレの弓を持て。フェイは背負子な」
「ラルフ兄……」
残念ながら背負うことは出来なかったことに不満気なルッツ。将来はむしろやりたくなくなりそうなくらい手伝わされるので、頑張ってほしい。
「ルッツが一番に心配してくれたの。優しいね。ありがとう、ルッツ。嬉しかったよ」
マインがルッツの手を握って褒める。それに対してルッツは照れたように笑い、弓を手に取る。
無自覚だが、世界が世界なら何人落としていただろうか。最終的にはプラマイゼロだろうが。
「ほら、来いよ」
「うん、ありがと、ラルフ」
俺は虚弱体質ではあるが、マインに比べるとあまり弱くないのでわざわざ気にかける人も少ない。
記憶中でも静かに大人しく着いてくる場面が多いため、平気だと思われているのだろう。
……この体、本当に5歳児が耐えられるレベルなのだろうか?
「うわぁ、高ーい! 速ーい!」
「あんまり興奮するなよ? また熱出るぞ」
「うん。気を付ける」
視点が大きく変わり、それに興奮したようだ。初めて飛行機や船に乗る子供みたいなものだろう。
同じくらいの日本人に比べて、肉体労働が多いからか筋肉もありそうだ。そうでなければいくら1つ年上でも背負うのは厳しかっただろう。
道は汚いどころの話ではない程の光景だが、慣れるしかないだろう。その内綺麗になるはずだが、当分後だった気がするので慣れてしまった方が早い。
「ラルフ、大丈夫? マイン、重くない?」
心配そうにラルフに問いかけるトゥーリ。本当に良い姉だ。人気になる理由がよく分かる。
「いいって。マインはちっこくて軽いし、歩かせたらお前だって困るだろ?」
ラルフが心配ないことを示すように体を揺すってマインを背負い直す。
ラルフはトゥーリ狙いなのか、記憶の中でもちょくちょくトゥーリを手伝おうとしている。幼なじみの恋愛へ発展しそうだが、先にラルフへ黙祷すべきだろう。
ラルフは頑張ってアプローチしているが、トゥーリはそんな事一切考えていないだろう。そもそも気づいていないのではないだろうか。
この世界に対する思い込みで、自由な恋愛は基本的に無いと考えてしまうのだが、さすがにそんな事は無いはず。
「ホントだ。いい匂い」
「どれどれ?」
意識を逸らしていた間に、トゥーリの三つ編みの香りを嗅ぐフェイとルッツの姿が見えた。簡易ちゃんリンシャンの効果が出ているのだろう。
「髪もすごい艶々だ」
「何したんだ?」
最近はポプリのようなものや、ハーブオイルなども開発し、髪や匂いなどは大きく改善された。
とは言ってもこの家だけの話で、ルッツ達や街の人は中々キツイ匂いだ。身も蓋もなく言えば、臭い。
「マインもいい匂いだ。それに、髪結ったら顔がよく見えて可愛くなったな」
ルッツがマインの髪もトゥーリと同じように少しだけ引っ張って嗅ぎ、どう頑張っても一般人なら羞恥が激しく襲いそうな言葉を間近で目をしっかり合わせて発する。
……直接的な言葉って、あの人に言う機会ないよなあ。多分。
マインがルッツの言葉によって完全に固まっているが、他のみんなは既に違う話題に移っていた。俺はただ黙々と着いていくがふととある事に気付く。
……俺も同じもの使ってるから、一応同じ匂いはするはずだよな? 気付かれなかったのか、やっぱり性別だからなのか。どっちでもいいが。
影が薄く、存在感ほぼ皆無なラティス。彼がガッツリ話すようになるのはいつなのか。きっと相当後だろう(多分)
それと、アンケートの方を締め切らせて頂きました。ありがとうございますm(_ _)m
結果として、ネタバレはありとさせていただきます。
既にネタバレ要素は出ていますが、今のところはラティスの脳内で色々出てくるものとなる予定です……ので、原作崩壊は早々しません。ルートが少しずつ変わっていくだけです。
最終的に全部出るし、原作既読勢の方が多そう(偏見) なので、ガツガツとはいかずとも、程々に出していく事にします。
それではまた次の話で。
初めの頃はネタバレは何処まであっていいだろう?
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ガッツリあっても大丈夫!
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半々ぐらい?
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分かりづらい程度で……
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ほぼ無しでオナシャス
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勝手にしてもいいのよ?