第9話です。
夢を語る貴方は輝いていた
その姿に私は心を奪われた
あの瞬間から私は貴方を・・・
―〇●〇―
「な、なんで先輩は出て行ったんすか?」
一誠が何が何だかわからない様子で周囲を伺う。
何故、彼が出て行ったのか私にもわからない。
でも、彼の横顔がとても悲しそうだった。
私が彼にあのような顔をさせてしまったのだろうか。
「部長さん酷いですぅ」
ドアの前まで彼を追ったアーシアが涙目になりながら訴えてくる。アーシアは小猫に肩を抱かれて涙を流している。
何故、彼女にまでそんな目で見られたのか本当にわからない。
「リアス。貴方、本当にわからないの?」
朱乃が真剣な表情で私の肩に手を置く。彼女の目には怒りと悲しみが混在していた。
「ユウさんにとってあのお店がどういうものなのか?お店で働く方々がどういう存在なのか?よく思い出してみなさい」
朱乃はそう言うと、小猫とアーシアと共に部室を出て行く。
「部長。菅原先輩はお金のためにアルバイトしてたのではないと思います」
祐斗も険しい表情をしてそう言うと、頭を下げて部室を出て行った。
部室に私と一誠だけが残される。
朱乃の言葉が耳から離れない。
(彼にとってお店の意味?スタッフ達の存在?)
恥ずかしそうに頬を紅く染める彼。
(祐斗はお金のためじゃないと言っていた)
子供のように屈託のない笑顔で此方を振り返る彼。
(っ!)
私の脳裏にあの日の出来事が甦る。
あれは私と朱乃が初めてあのお店を訪れた日のことだ。
―〇●〇―
一年前 逢魔刻
この国では、昼が夜に移り変わる時刻のことをこう呼ぶらしい。
古来から魔物に遭遇する、大きな災禍を蒙ると信じられたことからそのように言われるようになったと朱乃が話していたのを聞いたことがある。
自分達悪魔にしてみれば、随分と的を得た呼び名であると納得する。
「グレさんと姫ちゃん?」
私は街の管理者として女王の朱乃と一緒に見廻りを行っていたところ、背後から声を掛けられる。
私は誰が声を掛けてきたのか直ぐに理解した。
「ユウ君。何度言ったらわかるのかしら!」
私をそう呼ぶ彼に文句の一つでも言ってやろうと振り向く。
「姫ちゃん。こんばんは」
彼は私の文句に意を介さず、朱乃に挨拶している。
「はいユウさん。こんばんは」
私を無視して挨拶をする二人。
菅原ユウ
高校の入学式で初めて出逢った男の子。
最初の印象は彼の母親のこともあり、強烈なものだった。
偶然同じクラスの隣の席になり、お互い家族に苦労していることから意気投合して行動を共にするようになった。
とても人懐っこく、心を許した者にはとことん優しい。
どこか自分の一族を連想させる性格で彼と接することがとても心地よかった。
彼と過ごす内に私のことをグレさんと呼ぶようになり、何度注意しても呼び名を変えようとはしない。
「私のことはリアスと呼んでといつも言ってるでしょ!」
いつものように彼に詰め寄り言い聞かせる。
「うん。わかった」
いつもこうだ。
その時は素直に聞いてくれるのだが、次に彼に呼ばれる時は直っていた試しがない。
「ユウさんはこちらで何をなさっているのですか?それにその格好は?」
朱乃に言われ、彼を見ると普段の制服姿とは違い、白いワイシャツで腰にエプロンを携えていた。
「これ?これはバイト先の制服だよ」
彼の腕には多くの食材の入った紙袋を抱えられていた。
「アルバイト?でも貴方のお家は・・・」
私の話を遮るように彼の携帯電話が鳴る。
「ちょっとごめんね。」
彼が電話に出ると電話越しに怒号が響き渡る。
慣れたように携帯を耳から離している。
「はいはい。直ぐに戻りますよ」
そう言って彼は携帯をポケットに戻す。
「俺のこの先のグランデっていうイタリア料理の店でバイトしてるから、もし良かったら今度食べに来てよ」
そう言い残し、彼はその場を後にしようとする。
私は朱乃と顔を見合せ頷く。
「折角だしこれから窺うわ」
私の言葉に彼は驚いたように振り向く。
「えっと、社交辞令で言ったんだけど?」
普通の人なら思っていても口にしないことを彼は平然と口にする。
「折角ですものお邪魔致しますわ」
私達に観念したのか紳士のような振る舞いを見せる。
「では、ご案内します。お嬢様方」
その姿は妙に様になっていた。
彼の案内でお店に向かう途中にどうしてアルバイトをしているのか聞いてみた。
彼の家はとても裕福な家庭だと聞いたことがある。
父親は世界的な建築家で世界を飛び廻っており、年に数日しか家にいないと言っていた。
母親も今は専業主婦だが、結婚する以前は有名な小説家だったと教えてくれた。
私も彼の母親の小説を読んだことがある。悪魔や堕天使を題材とした作品で妙にリアルに書かれていてとても共感出来ることが多かった。
そんな家庭に生まれた彼がアルバイトをして小銭を稼いでいるとは思えなかった。
そのことを聞いてみると、菅原家の家訓というものらしい。
「着きましたよ」
そのお店は多くのお店が軒を連ねる一角にあり、決して大きくはなかったが、外装と店内の雰囲気が見事に調和しており、一目で心落ち着く空間であることが見て取れた。
「ようこそ夢の城へ。今宵は至福の一時をお過ごし下さい」
彼が丁寧にドアを開き、店内へ誘導してくる。
店内に入ると、ホールスタッフが席へ案内してくれた。
とても和やかな雰囲気で食事をするお客さんはみんな笑顔を見せていた。
「とても良いお店ですわね」
朱乃が店内を見渡しながら笑顔を見せる。
「こういうお店もあったのね。知らなかったわ」
メニューを見てみると、その価格設定に驚く。
他のテーブルにサーブされる料理はどれも本格的な皿ばかりで、とてもこの価格で提供されるような品ではなかった。
「たったこれだけの買い出しにどんだけ時間掛けてんだ!」
和やかな店内に似つかわしくない怒号が厨房と思われる場所からホールに響き渡る。
「てめぇ、買い出し中にまたナンパしてやがったのか!」
どうやら怒られているのは自分達の友人のようだ。
騒然とする厨房の雰囲気を気に留めることなくお客さん達は料理を楽しんでいる。
私と朱乃はどうしたら良いのかと店内をキョロキョロ見渡す。
「お嬢ちゃん達。この店は初めてかい?」
初老のご夫婦に声を掛けられ、私と朱乃は頷く。
「この店ではこれが定番でね。最近入ったバイトの子が料理長のお気に入りなのさ。一日三回は雷が落ちるよ」
初老のご夫婦がそう言うと、他のお客さん達も一斉に笑い始めた。
「楽しいお店ですわね」
朱乃を口に手を添えて一緒に笑う。
厨房から威厳のある男性が此方に向けて歩いてくる。
「この度は店の従業員が大変失礼致しました。料理の方は責任をもってご用意させて頂きますので、何卒ご容赦ください。御代の方は此方で持ちますのでお好きな料理をオーダーして下さい」
お店のオーナーと思われる人物は深々と頭を下げてくる。事情を説明するも頑なに首を縦に振ることなく私達はそのご厚意に甘えることにした。
男性が厨房へ戻って行き、オーダーを済ませる。
ホールスタッフからウェルカムドリンクがサーブされる。
白ワインを模したジンジャエールのようだ、グラスを昇る泡が美しく、口に含むと程よい炭酸が弾ける。
「お待たせ致しました。シニョリーナ」
気障なセリフを口にしながら彼が料理を運んできた。
「当店自慢のファゴッテッリでございます」
私と朱乃がオーダーしたのは、四季を問わず一年中楽しめる、本場ローマの郷土料理カルボナーラをアレンジしたパスタの一種で一口サイズに整えられている。
「冷めないうちにお召し上がり下さい」
皿の中には色鮮やかで可愛らしい料理が綺麗に盛り付けられており、見た目にも楽しめる一品だった。
「お、美味しい!」
一口に食べてみると、カルボナーラソースがトロリと口の中に広がり、カリッとしたグアンチャーレの食感とピリッとした胡椒がアクセントとなり、とても美味しかった。
「本当に美味しいお料理ですわ」
朱乃も目を丸くしていた。
「では、ごゆっくりお楽しみに下さい」
彼はニコリと微笑むと厨房へ戻って行った。
その後もオーダーした料理を彼がサーブしてくる。そのどれもが絶品で私と朱乃はペロリと平らげた。
「ふぅー、お腹一杯」
私はお腹を押さえながら椅子に背を預ける。
「本当に。もう食べられませんわ」
朱乃も同じようにお腹を押さえていた。
「ご満足頂けたようで何よりです」
先程のオーナーが紅茶を運んでくる。
「ご提供させて頂いた料理は彼が調理した皿でした」
シェフ達が調理したとばかり思っていた二人はオーナーの言葉に驚愕する。
「美しいお嬢様方に夜道は危険ですので、お帰りの際は彼に送らせます」
私達は紅茶を頂き、席を立つ。厨房から出て来た彼がドアを開けてくれた。
「今日は来てくれてありがとうね」
帰り道、彼が私達に頭を下げる。
「私達の方こそありがとう。とても楽しかったわ」
お店で働く彼は学校で見るいつも眠たそうな彼とは違いとても輝いていた。
「本当ですわ。ユウさんがあんなにお料理が上手だったなんて知りませんでしたわ」
満面の笑みを浮かべる朱乃は珍しい。
「いや、まだまだ」
星空を見上げながら彼が話す。
「今日出した料理だって先輩達を真似た品ばかりだし、作れる料理も少ないしね」
私も女性としては身長が高いが、彼とは頭を一つ分の差があるため、自然と彼を見上げる形になる。
一年くらい一緒に居るが、彼の顔をじっくり見たのは初めてかもしれない。
短く切り揃えられた黒髪は清潔感を漂わせ、眼は大きく中心の瞳は漆黒で見つめられたら吸い込まれそうだ、鼻はスッと伸びており、口はあまり大きくなく、顔はとても小さい。
どこからどう見ても美少年である。
私の眷属で顔が整っていると言われる祐斗と比べても遜色ないだろう。
「どうしたのグレさん?」
彼の容姿の寸評に夢中になっていて彼の顔が目の前にあることに気が付かなかった。
「リアスったらユウさんに胃袋を掴まれてしまいましたか?」
ウフフと妖しい笑みを浮かべた朱乃に揶揄われる。
「ち、違うわよ!そんなに料理が上手くなってどうするだろうって考えてたの!」
慌てて否定するも顔に熱が集まるのが自分でもわかる。
「夢があるんだ」
彼は一歩だけ私達の前に出ると笑顔で振り向く。
彼が語ってくれたのは将来の話だった。
今のバイト先で料理の勉強をして海外にも料理の修行に行くこと。
いつかこの駒王の街に戻り、自分の店を出すこと。
大きな店ではなく、お客さん全員の顔が見えるくらいの広さで良いこと。
尊敬する料理長とバイト先のスタッフ達のように試行錯誤しながらお店を作り上げること。
その店にご両親を招待して自分の料理で振る舞うこと。
「なんか恥ずかしいな」
頬を紅くしながら指で掻く。
いつも大人びた雰囲気を醸し出す彼が子供のように照れている姿はとても新鮮だった。
「とても素敵な夢だと思いますわ」
真っ直ぐ彼を見つめる朱乃の表情はとても穏やかだった。
「誰かに話したのは初めてなんだ。笑わないでくれてありがとう」
紅く染まる顔を隠すように彼は背中を向ける。
「すごいわねユウ君」
お店で働く彼がとても輝いて見えたのはそういうことか。
彼の夢を聞き、自分はどうなんだろうと考える。
私は彼のようなハッキリとした夢や目標がない。
彼に比べて自分はどれだけちっぽけな存在なんだろうと思った。
「もし、店をオープン出来たらグレさんと姫ちゃんも遊びに来てくれる?」
そう言って振り向いた彼の表情に私は心を奪われた。
―〇●〇―
私はその場で崩れ落ちるように膝を付く。
「ぶ、部長!?」
一誠が私を支えてくれる。
だけど、今の私には一誠に視線を向ける余裕はない。
私は彼から夢の場所を奪ってしまった。
私の不用意な行動が彼の夢を奪ってしまった。
彼の輝ける場所を私は奪ってしまった。
もし今から全てを元に戻したところで彼のあの姿が戻ってくることはないだろう。
涙で視界がボヤける。
後悔が私の心を支配する。
「ぶ、部長!」
私は気が付いたら走り出していた。
彼を探して。
もし今、彼に逢ったらどんな反応をされるだろうか?
冷たい視線を送られ、軽蔑されるかもしれない。
酷く罵倒されるかもしれない。
口さえ聞いてもらえないかもしれない。
そう考えると身体が震える。
でも、今の私には誠心誠意彼に頭を下げることしかない。
彼の心が戻ってこないとしても。
あれから私は彼を探して走り回った。
お店に行くも誰もおらず、彼の自宅へ向かうも誰もいなかった。街を探している途中で朱乃と小猫とアーシアに会った。三人も彼を探しているようだった。私の姿を見た三人は静かに頷いてくれた。
それから私達は使い魔を使って、一晩中彼を探した。
二手に分かれて彼の居そうな場所や彼との思い出の場所を探し回った。
だけど、彼を見付けることが出来なかった。
夜が明け、私とアーシアは部室に戻る。
部室には祐斗や一誠が居た。
二人も彼を探してくれていたようだ。
「部長。菅原先輩は?」
祐斗の言葉に流れる汗をそのままに唇を噛み俯く。
朱乃と小猫の二人も部室に戻ってくるも首を横に振る。
登校時間になり、彼が登校するかもしれないと、教室に行くが彼の姿はなかった。
私達はもう一度彼の家に行ってみることにした。
「どうしたんだい、みんな揃って?」
オカルト研究部全員で押し掛けたため彼の母親は目を丸くしている。
私は事の次第を話した。
「そんなことが有ったのかい」
コーヒーを口にしながら目を細め、静かに頷いていた。
「あの子も誰に似たんだか、頑固なところがあるからね。本気でリアスちゃんに怒ってるとかじゃないと思うよ。ただ、気持ちの整理が出来ないんだろうね」
そう言い席を立つと、アルバムを手にして戻ってくる。
「あの子の身体のことは聞いてるかい?」
私達は静かに頷く。
「この頃だね。一番酷かったのは」
そこには私と朱乃と出逢った頃の彼が居た。
お母様はその頃のことをゆっくり話してくれた。
その内容は壮絶なものだった。
以前彼から聞かされていたのはほんの一部だったのだ。
お母様の表情にも悲しみが見てとれた。
朱乃と小猫とアーシアは涙を流し、祐斗と一誠は唇を噛んでいた。
「主治医から聞いたよ。あの子と友達になってくれた子が居たってリアスちゃんと朱乃ちゃんことだろ?」
お母様は私と朱乃に頭を下げた。
「ありがとう。あの子と仲良くなってくれて。友達になってくれて。二人のおかげあの子も私達夫婦も救われました」
お母様の言葉で私は我慢していた涙が溢れ出す。
「でも、私はそんな彼に酷い仕打ちをしてしまいました」
私の頭を撫でながら笑顔を向けてくれるお母様の姿が彼と重なり、また涙が溢れる。
「大丈夫。あの子は大丈夫だから」
そう言ってお母様は私を抱き締めてくれる。その腕はとても暖かかった。
「よし!そうと決まったら休みな!」
急に立ち上がり、手を鳴らすお母様。
「一晩中あの子を探してたんだろ?そんな格好してたらあの子が帰ってきたときびっくりしちゃうよ!まずは休む!そして食べる!そしたらまた考えようじゃないか!」
お母様の言葉に私達はポカンしていた。
「部屋なら貸すほどあるから。お風呂はアーシアに案内してもらいな。男共は別のお風呂だよ。覗くんじゃないよ!」
そうして言われるままにお風呂に入り、部屋に案内されて休む。
目が覚め、時間を確認すると15:00を回ったところだった。驚くほど熟睡していた。
リビングに降りて行くと既にみんなが揃っていた。
「よく眠れたようだね。いつものリアスちゃんだ」
お母様が笑顔で迎えてくれた。
手には料理の乗った皿があり、テーブルにはこれでもかと言うくらいの料理が並んでいた。
「これ食べてこれからのことゆっくり考えな!」
みんなは既に食べ始めており、その大半が小猫の胃に収まっていく。
「ユウさんが料理上手なのはお母様の影響なのですね」
隣に座っていた朱乃が笑顔で料理を口にしていく。
私も料理に舌鼓を打つ。
食事を終え、片付けを手伝おうとするとお母様から止められる。
お母様は静かに頷いてくれた。
「大変お世話になりました」
洗濯してもらった制服に着替えて玄関に並び、頭を下げる。
「またみんなで遊びにおいで」
優しく微笑むお母様に頭を下げ、私達は彼の家を後にする。
「いい子達に囲まれてあの子も幸せだね。そう思わないかい黒歌」
近付いてきた黒歌を抱き上げると、頭を撫でる。
「次はあの子の番だね」
そこにはいない最愛の息子に想いを馳せる。
菅原邸を後にした私達は部室に戻り、これからのことを話し合っていた。
「まずはユウさんの行方ですわ」
朱乃が彼の行方を最優先しようと話す。
「でもお義母様も言われていましたが、ユウさんの気持ちの整理が出来るまで待つと言うのも大切なのではないでしょうか」
アーシアは彼の気持ちを尊重しようと話す。
どちらも正しいことのため話し合いは平行線を辿る。
その時、部室の床に魔方陣が現れる。
「随分と的外れな話し合いをされているようですね」
全員が一斉にドアの方に視線を向ける。
「グ、グレイフィア!」
そこにはグレモリー家のメイドであり、義姉でもある人物が立っていた。
彼女と面識のないアーシアと一誠はポカンとしている。
「初めての方もいらっしゃるようなので。私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。以後お見知りおきを」
グレイフィアが頭を下げると、アーシアと一誠も釣られて頭を下げる。
「お嬢様。今はそのようなことに構っている場合ではないことをお忘れですか?」
彼女の言葉に私は顔を顰める。
「そんなこと?私にとっては何よりも大切なことよ。グレモリーという名を天秤に賭けるくらい」
グレイフィアは一瞬だけ目を見開くもすぐにいつもの表情に戻る。
「なにをバカなことを。旦那様や奥方様が永きに渡り築き上げて来たものと一介の、それも人間の男と天秤に賭けるなど冗談でも口していいことではありません」
グレイフィアから殺気が放たれる。
流石は最強の女性悪魔の名を二分する存在だ。
他の眷属達も苦しそうにしている。私はアーシアを守るように前に立つ。
「な、なんと言われようと私の答えは変わらないわ」
グレイフィアはため息を吐くと殺気を押さえる。
眷属達が息を切らし、膝を付く。
「でしたら私から申し上げることは御座いません」
額に滲む汗を拭いながら、私は立ち上がる。
「あとは当人同士でお話しください」
グレイフィアの話を終える前に床に魔方陣が出現する。
魔方陣から炎が巻き起こり、室内を熱気が包み込む。
「ふぅ、人間界は久しぶりだ」
魔方陣の中から見知った人物が姿を表す。
「愛しのリアス。会いに来たぜ」
私は眉間に皺を寄せ、ため息を吐く。
「ライザー。悪いけど、また後日にしてくれないかしら。今は貴方に構っている暇はないの」
私の言葉など気にせず近づいて来るライザー。
「なに、時間は取らせない。式の会場を見に行くだけさ。一時間も掛からん」
ライザーは私の腕を掴んでくる。
「おい、あんた。部長はいま忙しいんだ。あんたの相手をしてる場合じゃないんだよ!」
一誠がライザーに噛みつく。他の子達も頷く。
「あら?リアス、俺のこと、下僕に話してないのか?」
ライザーは目元を引きつらせながら苦笑いしている。
このままでは埒が明かないと思ったのかグレイフィアが介入する。
「ご存知ない方もいらっしゃるようなので説明致します。この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家の三男であり、リアスお嬢様の婚約者でございます」
一誠の悲鳴が室内に響き渡る。
「いい加減にしてちょうだい!」
勝手に話を進められ、私の怒りは頂点に達する。
「ライザー。貴方とは結婚しないし、今はこんなことしている暇はないの!」
いま最優先すべきはユウ君のこと。余計なことに時間を割いてる訳にはいかない。
「リアス、さっきからそればかりだな。なんかあったのか?」
ライザーのニヤけた表情が鼻に付く。
「貴方には関係ないわ」
私の態度が気に入らなかったのか、ライザーの機嫌が悪くなる。目元が細まり、舌打ちが聞こえる。
「俺もフェニックス家の看板背負った悪魔なんだよ。この名に泥を塗るわけにはいかないんだ」
ライザーの周囲を炎が駆け巡る。
「俺はキミの下僕を燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れて帰るぞ」
殺意と敵意が室内を埋め尽くす。ライザーから発せられるプレッシャーが私達を襲う。
一触即発の雰囲気が室内に漂う。私も魔力を解放していく。
ライザーの背に炎の翼が形成されていく。その姿はまさに火の鳥。
「お二方、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにはいかなくなります」
グレイフィアの視線が私とライザーに突き刺さる。
ライザーは息を深く吐きながら頭を振る。
「こうなることは、両家の方々も重々承知でした。なので最終手段を取り入れることにします」
ライザーもグレイフィアの言葉が理解できないのか怪訝な表情を浮かべている。
「レーティングゲームで決着をつけて頂きます」
グレイフィアの決定に私は言葉を失う。
「俺の方はそれでいい」
ライザーが待ってましたとばかりにニヤけた表情を見せる。
グレイフィアは頷き、私に視線を移す。
「お嬢様もそれで宜しいですね?」
有無を言わせぬプレッシャーが私を襲い、頷く。
「承知しました。では、両家には私の方から通達しておきます」
その決定に私は苦々しい表情を浮かべる。
「では、ゲーム開始は十日後と致します」
周囲を見渡し、グレイフィアは目を細める。
「十日後?なんでそんなに時間が空くんだ?」
その提案にライザーが異を唱える。
「単純な戦力の差を考えたまでです」
その答えを鼻で笑い、私達の様子を窺うライザー。
「十日後!そんな時間は私達にっ」
私の言葉を視線で制すグレイフィア。
「最終手段と申したはずです。従えないのならお嬢様にはこのまま冥界にお戻り頂きます」
本気だ。此までのような冗談ではない。
「決まりだな。では、次はゲームで会おう」
そう言い残し、ライザーは魔方陣の光の中に消えていった。
「私も準備がございますので失礼致します」
グレイフィアによって魔方陣が展開される。
魔方陣の光に包まれるグレイフィアは私に視線を送る。
「この十日間を決して無駄になさいませんように」
そう言うと、グレイフィアは頭を下げ、光に包まれていった。
ライザーとグレイフィアのいなくなった室内に静寂が訪れる。
「余計な時間を取られてしまったわ」
重い空気を切り裂くように私の声が室内に響き渡る。
「改めてユウ君のことを考えましょう」
目の前の眷属達を見渡す。その中で朱乃が一歩みんなの前に出る。
「リアス。本当に宜しいのですか?」
朱乃の言葉を理解できず、私は首を傾げる。
「私は貴方の女王です。王である貴方のことを一番に考えなければいけない立場です」
朱乃の表情はいつもの含みのあるものではなく、真剣な表情だった。
「いまユウさんとお逢いしたとして貴方は素直な気持ちを伝えられますか?」
朱乃の言葉に瞳が揺れる。
「万が一、ユウさんに拒絶されたら貴方は正気でいられますか?」
身体が震え、血の気が引いていくのを感じる。
「いまは貴方の問題を解決するのが先決ではありませんか?」
何度も脳裏に浮かんだ彼の寂しそうな横顔。
「で、でも!」
私に背を向け去っていく彼の姿。
「ユウさんのことは信頼できる方々にお願いしましょう」
私の肩に優しく手を添える朱乃。後ろの眷属達も力強く頷く。
私は眷属達の決意を纏った姿に心を決める。
その後、私達は改めて菅原邸を訪れ、事情を説明した。
話を聞いてくれたお母様は優しく微笑み、私達を送り出してくれた。
私は貴方を酷く傷付けてしまった。
この罪は消えることがないだろう。
でも、もう一度貴方に逢って謝りたい。
そして伝えたい、私のこの気持ちを。
そのために私には先にやらなきゃいけないことがある。
真っ新な自分になって貴方に逢いに行くために。
ごめんなさい、我が儘な私で。
第9話更新しました。
前話の最後からどうやってライザーに繋げようか悩みましたが母ちゃんが頑張ってくれました。
なかなか上手く繋がったと個人的には思いますが、矛盾はあると思いますのでご了承下さい。
今話は全てリアス視点でしたが、意外と書きやすかったです。
最初は今話もオリ主視点にしてライザーの登場シーンも後日談的な話にしていたんですが、納得いかなかったので書き直しました。
最後まで閲覧してくれた方、コメントをくれる方、誤字・脱字の修正をしてくださる方ありがとうございます。
ではまた次回。バイバイ