ハイスクールD×D Yto   作:今日から禁煙

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最近、防振にドハマリしました。

第11話です。


第11話

悲しみ涙を流さないで

ずっとその瞳を見つめている

例え君が背を向けたとしても

 

―〇●〇―

 

翌朝、俺は夜が明ける前に目を覚ました。

時計を確認すると、夜明けは近いようだ。

 

身体に異常を感じてから二年。あれだけ朝に弱かった俺はこの十日間で見違えるように朝が苦ではなくなった。同様に太陽の光も今では気にならなくなった。

 

(自分の身体だというのに相変わらずよくわからん)

 

苦笑いを浮かべつつ、喉を潤すためにリビングへ行く。

 

ミネラルウォーターをグラスに注いでいると、外に人の気配を感じた。

 

新聞の配達にはまだ早いと思い、玄関を開ける。

 

そこには以前部屋を訪れたグレイフィアという女性に頭を下げるアーシアの姿があった。

 

アーシアは俺に気が付くと、翡翠色の瞳から涙が零れ、俺に抱き着いてくる。

 

「ユウさん!ユウさん」

 

涙を流しながら肩を震わせる彼女を抱き締めるのは何度目だろうかと頭を撫でながら考える。

 

アーシアを抱き締めながら視線をグレイフィアに向ける。

 

(気が付かなかった?私が?彼の気配を感じることが出来なかった)

 

グレイフィアは目を大きく見開きながら驚いている様子だった。

 

俺は現状を頭の中で整理する。

 

腕の中で涙を流すアーシア、アーシアを送って来たであろうグレイフィア。

 

そこから導き出される答えは一つだった。

 

(そうか、リアスは・・・)

 

小さく息を吐くと、グレイフィアが改めて頭を下げていた。

 

「お久しぶりでございます、菅原様」

 

昇り始めた太陽の光が彼女の美しい銀髪を照らしていく。

この間はリアスとの情事のこともあり気が付かなかったが、とても美しい女性だ。

端正な顔立ちはもちろんだが、その四肢もまた出るところはしっかりと出て、引っ込むところはきっちり引っ込んでいる。何より彼女の醸し出す雰囲気が妖艶で大人の女性であることを感じさせる。

同じように美しいリアスや朱乃でもこの雰囲気を漂わせることは出来ないだろう。

 

「余計なお世話とも思いましたが、お時間を考えてアーシア様を送らせていただきました」

 

直ぐに頭を切り替えて彼女に頭を下げる。

 

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

 

腕の中のアーシアからは既に寝息が聞こえている。

 

「心身共に疲弊しております。」

 

一見すると冷たい印象を受ける彼女だが、その時アーシアに向けられた彼女の表情はまるで我が子を慈しむようだった。

 

「リアスお嬢様の現状を把握されておりますか?」

 

アーシアを背中を摩りながら俺は頷く。

 

「そうですか。ならばゲームの結果をお伝えしたほうがよろしいですか?」

 

俺は静かに首を左右に振り、アーシアを抱き上げ、家の中に踵を返す。

 

その様子を見ていたグレイフィアは何も言わない。

 

「リアスと話しをすることは出来ますか?」

 

玄関のドアを開け、振り返らずにグレイフィアに問い掛ける。

 

「リアスお嬢様は既に冥界に移動され、結婚式の行われる明日までそちらでお過ごしになられます。もう二度と人間界を訪れることはないでしょう」

 

彼女の発する言葉から感情を読み取ることはできない。

 

「そうですか」

 

家の中に入り、玄関のドアを閉める。

グレイフィアが少しの間その場に留まって居たことは気づいていたが、俺が再び彼女の前に戻ることはなかった。

 

アーシアをベッドに寝かせ、頭を撫でていると黒歌を抱いた母ちゃんが部屋のドアを開ける。

 

母ちゃんはひどく心配していたが、寝ているだけと答えると安堵の表情を見せた。黒歌も母ちゃんの腕を飛び出すといつものようにアーシアに寄り添い身体を丸める。

 

アーシアが寝ていることを確認して俺と母ちゃんはリビングに向かう。

 

「アーシアが目を覚ますまで側に居てあげな」

 

母ちゃんはそう言うと、朝食の準備を始める。

 

俺は頷き、アーシアの部屋へ戻る。椅子に座り眠っているアーシアを見る。

 

オカルト研究部の合宿がどんなものだったかは知らないが、慕っていたリアスのために頑張ったのだろう。

 

よく見ると目が腫れていた。ゲームに敗れたリアスのために涙を流したのだろう。

 

(頑張ったな、アーシア)

 

アーシアの頭を撫でてあげると、身を捩らせ寝返りをうった。

 

―〇●〇―

 

「ユウさん?」

 

16:00を過ぎた頃、ベッドに寝ていたアーシアが目を覚ました。

 

読んでいた本を閉じ、椅子からベッドへ座り直し、アーシアの頭を撫でてあげる。

 

彼女の瞳に涙が溜まっていく。

俺は彼女の身体を起こし、抱き締める。

 

「ユウさんっ!どうして一緒に居てくれなかったんですかぁぁ」

 

その声は俺を責める訳でもなく、諌める訳でもなく、彼女の素直な気持ちだったのだろう。

 

「部長さんがぁぁ!」

 

アーシアの瞳から流れ落ちた涙が俺のシャツを濡らしていく。

 

「すまなかった」

 

俺の胸を力なく叩きながら泣き続ける彼女に、俺は謝ることしか出来なかった。

 

しばらくの間、泣き続けて少し落ち着いてきた彼女に水を注いだグラスを差し出す。

 

「さっきはあんなこと言ってすみませんでした。あの時ユウさんも大変な状況だったのに」

 

グラスを受け取りながら、申し訳なさそうに俺の表情を伺うアーシア。

 

俺は、大丈夫と言って彼女の頭を撫でる。

アーシアからこの十日間何処で何をしていたのかと問われたので俺は素直に全てを話した。

 

彼女はまた泣きそうな顔をしていたので笑い掛けると彼女も笑顔を見せてくた。

 

俺もアーシアに聞いてみた。俺が姿を消してからの十日間のことを。

蒼那からある程度は聞いていたが、その場に居たアーシアの口から聞きたかった。

 

アーシアは静かに話してくれた。

 

姿を消した俺をオカルト研究部全員で探したが見つからなかったこと。

ライザー・フェニックスというリアスの婚約者が部室を訪れたこと。

リアスが婚約を拒否したこと。

冥界で人気のレーティングゲームで決着を着けることになったこと。

レーティングゲームのためリアスの家の別荘で修行していたこと。

ゲームの最中に兵藤が【赤龍帝の籠手】を《禁手》と呼ばれる領域まで解放することが出来たがリアス達が敗北したこと。

 

「一誠さんも木場さんも朱乃さんも小猫ちゃんも部長さんも皆さん本当に頑張ったんです」

 

その時の光景を思い出し、顔を両手を覆うアーシア。

 

「私は見ていることしか出来なくてっ」

 

リアス達の敗北を目の前で受け入れることしか出来なかった彼女の心情を推し量ることは俺には出来ない。

 

彼女は優しすぎるのだ。無論それが彼女の魅力でもあるのだが、皆の悲しみを全て背負ってしまう。

 

もうアーシアに悲しみの涙を流させないと誓ったはずなのに、これではレイナーレに会わせる顔がない。

 

「ユウさんはこれからどうするんですか?」

 

自分の不甲斐なさを痛感していると、アーシアが涙を拭いながら問いかけてくる。

 

「リアスと話がしたい。それだけだよ」

 

そう答えて彼女の頬に残る涙を拭う。

 

「では・・・」

 

アーシアの言葉を遮るように部屋のドアがノックされる。

 

俺がドアを開けると、母ちゃんが両手に料理の乗った皿を手にして立っていた。

 

「アーシア!起きたのかい!」

 

母ちゃんが皿を放り投げてアーシアに駆け寄ろうとする。俺は間一髪でそれを阻止して母ちゃんから皿を受け取ると、母ちゃんはそのままアーシアを抱き締める。

 

「ご、ご心配をお掛けしました」

 

その勢いに少し困惑するアーシア。

 

「本当だよ!アーシアになにかあったら私も旦那も生きていけないよ!」

 

いつか聞いたような言葉だと思ったが、母ちゃんの言葉にアーシアも涙を流していた。

 

二人の姿に自然と笑みが零れた。

 

しばらく二人の会話を聞いていると、家のチャイムが鳴らされる。

 

自分が対応すると言い、部屋を後にする。

リビングのテーブルに皿を置き、カメラで確認すると、兵藤の姿が写っていた。

 

中に入るように言っても動こうとしない兵藤にため息を吐き、アーシアと母ちゃんに外に出てくると言い残し、玄関を開ける。

 

「話があるんじゃないのか兵藤?」

 

俺と兵藤はいつかの公園に来ていた。移動する間兵藤は一言も喋らなかった。

 

「すみませんでした!」

 

勢いよく頭を下げる兵藤。大方、リアスことで謝っているのだろう。

 

「俺、部長を守るって約束したんです。なのに俺は」

 

兵藤の涙が地面を濡らしていく。

 

「部長は諦めずに戦ったんです。でも、最後は負けて涙を流して」

 

拳を握り締めていた左手から血が流れる。

 

「俺、部長がやられるのを倒れて見てるしかなくて。俺にもっと力があれば!」

 

俺はその兵藤の言葉に目を細めると、舌打ちする。

 

「思い上がるなよお前」

 

予想外の言葉が帰って来たことに驚いているのか、顔を上げた兵藤は目を丸くしている。

 

「俺は相手の男を知らないが、少なくとも公爵家の姫であるリアスと婚約するくらいの身分なんだろ」

 

一歩、また一歩と兵藤に近付いていく。

 

「ならば、その男はリアスと並ぶ上級悪魔なんじゃないのか?その男を相手に悪魔になって一ヶ月足らずのお前が力があればだと。笑わせるな!」

 

俺は兵藤の胸ぐらを掴むと、強引に引き寄せる。

 

「確かにお前の持つ神器とやらはとてつもない代物だろう。数年後にはそいつらと同じ領域に足を踏み入れるかもしれない。だがな、たった十日程度でなんとかなる程悪魔が築いてきた歴史は甘くないんだよ!・・・お前もリアスの眷属になったときに聞いただろ」

 

掴んでいた胸ぐらを離すと、兵藤は力なく尻餅を着く。

 

「アーシアがお前は頑張ったと言っていた。彼女が言うならそうなんだろ。悔しいだろが、言い訳はするな」

 

呆然とする兵藤を一瞥して俺は踵を返す。

 

「じ、じゃあ先輩はこのまま指を咥えて見てろっていうですか?」

 

兵藤の言葉に止まることなく歩を進める。

 

「部長が結婚するんですよ」

 

背中越しに聞こえる兵藤の声が震えていた。

 

「リアスはゲームに負けた。それが答えだろ」

 

兵藤ではない者の声が聞こえ、振り向くと兵藤の左手の籠手が光輝いていた。

 

「先輩は部長を助けに行かないんですね」

 

兵藤の声が低くなり、その光が更に輝きを増していく。

 

「助けに行くかどうかは知らんが、俺はリアスと話をする」

 

今にも殴り掛かってきそうな兵藤を目で制すと、途端に左手の籠手から光が失われていく。

 

光を失った籠手を叩きながら、なにか言ってる兵藤を残して俺は公園を後にした。

 

家に帰る道すがら、俺は考えていた。

 

リアスと話をするとずっと言ってきたが彼女は冥界。

 

(冥界ってどうやって行くんだ?)

 

リアスの話では冥界とは人間界でいうところの地獄。そんなところにどうやって行けばいいのか見当も付かない。

 

唸りながら歩いていると、前方に見覚えのある女性が此方に視線を向けていた。

 

「度々申し訳ありません。菅原様」

 

また何かあったのかと首を傾げる。

 

「リアスお嬢様の兄上であらせられるサーゼクス様よりのご伝言をお伝えに参りました」

 

リアスの兄?

そういえば学校の行事がある毎に物陰からこっそり覗いていた紅い髪の男性を思い出す。

 

「『妹を助けたいなら、会場に殴り込んできなさい』だそうです」

 

グレイフィアは俺に紙を差し出す。その紙には魔方陣が描かれていた。

 

「その魔方陣を使えばグレモリー家とフェニックス家の婚約パーティーの会場へ転移出来ます」

 

俺はその紙とグレイフィアの顔を交互に見る。その様子にグレイフィアは首を傾げる。

 

「えっと、俺はリアスを助けたいんじゃなくて、話をしたいんですけど」

 

二人の間に沈黙が訪れる。

 

ポカンと口を開けたグレイフィアが目をパチクリさせている。

 

「でも、これでリアスのところに行けるなら有り難く頂きます」

 

グレイフィアから紙を受け取ると、彼女に頭を下げてその場を後にする。

 

「そういえば結婚式は明日ですよね?」

 

確認のためにもう一度グレイフィアの居る場所まで戻り、聞いてみると彼女はコクリと頷く。

 

俺は会釈をすると、今度こそその場を後にする。

 

家に戻ると、アーシアと母ちゃんがリビングに居て夕食を食べていた。

 

「おかえりなさいユウさん。どこへ行かれてたんですか?」

 

ちょっとそこの公園までと誤魔化して椅子に座る。

 

「なんだいその紙は?」

 

手に持っていたグレイフィアから貰った紙を見て母ちゃんが目を細める。

 

「家に戻る途中で貰った」

 

嘘は言ってない。

家に戻る途中でグレイフィアに貰ったのは本当だ。

ふーんと言って俺の分の夕食を準備する母ちゃん。

なんとか誤魔化せたと胸を撫で下ろす。

 

だからだろう、アーシアがその紙をじっと見ていたことに気が付かなかったのは。

 

風呂に入り、部屋のベッドに横になって頭を抱える。ものすごく大事なことを聞き忘れた。

 

(結婚式って何時からだろう)

 

ベッドで悶々としていると、ドアがノックされ、返事をするとアーシアが入ってきた。珍しく黒歌を連れてはいなかった。

 

「一緒に寝てもいいですか?」

 

彼女がそう聞いてくるのは珍しい。普段は黒歌と一緒に無言でベッドに入り込んでくる。

 

いつも照れながら部屋に入って来る彼女の表情が今日はなぜか真剣だ。

 

俺が頷くと彼女は部屋の電気を消してベッドに入る。

 

「部長さんのところへ行くんですね?」

 

背中越しに彼女が問いかけてくる。

 

なぜ知っているのかと振り返ろうとするが、背中から抱き締められてしまい動けなかった。

 

「無事で帰ってきてください」

 

俺を抱き締める彼女の手が震えていた。

 

彼女の手を握り、大丈夫とだけ答えた。

彼女の温もりを感じながら目を閉じた。

 

―〇●〇―

 

唇に違和感を感じ、目を覚ました。

隣で寝ていたはずのアーシアは既にそこにはいなかった。

 

時間を確認するため、時計を見ると一枚の紙が置いてあり、そこには可愛らしい字で結婚式の時間が記されていた。

 

(ありがとうアーシア)

 

彼女が残してくれた物だと確信する。

 

時間を確認すると、結婚式の開始時間を過ぎていたため、急いでスーツに着替えてグレイフィアから貰った魔方陣を展開する。

一応、結婚式に出席するのだからスーツのほうがいいだろうと考えた。

 

床に描かれた魔方陣の上に立つと、光に包まれていく。

 

(そういえば人間の俺がこれに乗っても大丈夫なんだろうか?)

 

いまさらバカなことを考えていると、視界がブラックアウトした。

 

―〇●〇―

 

目を開けると、知らない場所に立っていた。

 

果てしない廊下。壁には蝋燭がズラリと奥まで並んでおり、壁には巨大な肖像画がかけられていた。

 

(この紅い髪。やっぱり学園に来てたな)

 

俺はその肖像画を見て確信した。

 

(転移とやらは成功だな)

 

奥へ進んでいくと、巨大な扉が開かれており談笑する声が聞こえてくる。

 

中を窺うと、父ちゃんのパーティーに参加していた人達のように着飾った悪魔達が大勢いた。

 

(やはり悪魔も人間も大差ない)

 

人間だろうが悪魔だろうが権威に群がるのは同じかとため息を吐く。

 

俺は会場の中を進みながら周囲を見渡す。

 

目線の先にオカルト研究部の面々の姿を捉える。

 

全員が一点を見つめながら悔しそうな表情を浮かべている。

 

俺も彼女達の視線を追っていく。

 

そこには深紅のドレスを身に纏ったリアスの姿があった。

 

久しぶりに見る彼女の表情は楽しそうに話に華を咲かせる周りの悪魔とは違い、暗かった。

 

俺は悪魔の波を掻き分けるようにして彼女の前に辿り着く。

幸い、ほとんどの悪魔は自分の話に夢中で俺はおろか主役の一人であるリアスにさえ視線を向けている者はいなかった。

 

「ユウ・・・くん?」

 

彼女の呟くような小さな声が耳に届いた。

 

彼女は大きな目を更に大きく見開き、驚いていた。

当然だろう。人間の俺が冥界に居て、招待したはずない自分の結婚式に来たのだから。

 

「リアス。こんな時だか話がしたい」

 

以前喧嘩した時でもこれ程長く彼女と口を利かなかったことはなかったため、少し緊張した。

加えて言うなら今日のリアスはこれまで見てきた中で最も美しかったことも影響しているだろう。

 

俺の瞳がリアスの蒼玉の瞳を捉えると、彼女は肩に力を入れて視線を逸らす。

 

「おいっ!貴様何をしている!」

 

ようやく逢えてそれはないだろうと思い、歩み寄ろうとすると金髪の男に大声で怒鳴られる。

 

男が大きな声を出したことで会場内に居た全員の視線が此方に集まる。

 

多くの悪魔達は一瞬驚いたような顔をしていたが、直ぐに好奇に満ちた視線を俺と男に向けてくる。

 

以前リアスに聞いたことがある。冥界では娯楽が少なく大半の悪魔が欲を持て余していると言っていた。

 

これから何が始まるのかと、にやけた表情で此方を見てくる。

 

「勝手に人の物に近づくとは!貴様何者だ!何処の家の悪魔だ!」

 

その言葉に目を細める。

 

この男何と言った。

 

物だと?この男リアスのことを物と言ったのか?

 

目の前の男に俺の怒りが頂点に達する。

 

「人に物を訪ねる時はまず自分からではないのかい。ライザー君?」

 

一言。

 

そのたった一言で大勢の悪魔の波が真っ二つに割れる。

 

その割れた波の中を悠々と歩いてくる男性がいた。

 

その男性はリアスと同じ紅の髪を携えており、表情は穏やかだが、目は笑っていなかった。

 

「大切な妹のことを物扱いされると私も黙っているわけにはいかないのだが?」

 

紅い髪の男性がライザーと呼ばれた男に視線を向ける。

 

「も、申し訳ありません。ですが、この男がリアスに」

 

先程までの横柄な態度が鳴りを潜め、頭を下げるライザー。

 

(この男がリアスの婚約者。ライザー・フェニックス)

 

良いところのお坊ちゃんと思っていたがなるほど、ろくでもない奴だ。

 

「彼はこのパーティーの最後のゲストだよ」

 

俺に向き直ると手を差し出してくる。

 

「初めまして、菅原ユウ君。私はリアスの兄でサーゼクスと言います。妹が学園でずいぶんお世話になっているようだね」

 

サーゼクスと名乗った男の言葉に周囲がざわつき始める。

 

「学園?ではその男は人間!?」

 

「何故人間風情がここに!?」

 

次から次へと不満を口にしていく悪魔達。オカルト研究部の面々もどうしたらいいのかと、周囲を見渡してる。俺はリアスの様子を窺うと、彼女も忙しなく視線を動かしていた。

 

不満の渦が会場を覆う。阿保らしくなり俺はリアスを眺めていた。

 

アップにした紅い髪と深紅のドレスがとても似合っており、何度も見ても美しかった。

 

(すげぇ可愛い。しかも、ドレス姿が妙に艶かしい)

 

あの日の情景が脳裏を過り、少し罪悪感を感じる。

 

意識が別のところに行きかけてしまい、これではまずいともう一度リアスに視線を戻すと、顔を真っ赤にして視線を泳がせる彼女が居た。

 

周囲の様子も先程までとは違って静まり返っていた。

 

この短時間で何があったのかと周りを見ると、朱乃がいつも通りニコニコしながら口に手を添えており、小猫は呆れたような表情で俺を見ている。木場はため息を吐いて笑っており、兵藤は力強く頷いていた。

 

「き、貴様ぁ~!」

 

ライザーが今にも俺に殴りかからんと拳を握り締めている。

 

「ハッハッハッ!君は本当に面白いね!」

 

サーゼクスも大声で笑っている。

 

「菅原様。心の声が漏れております」

 

訳が解らず困惑する俺にサーゼクスの後ろに控えて居たグレイフィアがボソッと呟く。

 

「んぁに!?」

 

頭を抱えてしゃがみ込むと、会場中から笑いが巻き起こる。

 

またやってしまった。しかもこんな大勢の前で。

 

「さて、笑ってばかりもいられないね」

 

サーゼクスの表情が先程までの穏やかなものから威圧感の漂うものに変わっている。

 

「菅原君。君はリアスと話をしに来たんだったね?」

 

その雰囲気に呑まれ、背中に冷たい汗が伝う。

俺が頷くと、サーゼクスは笑みを浮かべる。

 

「しかし、今は式の最中でね。生憎、そんな時間はない」

 

周囲を見渡しながら俺に問い掛けるサーゼクス。

 

「そう言ったら・・・君はどうするかな?」

 

目を細めながら、俺を窺う。

周りの悪魔達は二人が何を言っているのかと首を傾げる。

 

彼の試すような表情を見て大きく息を吐く。

 

「なら、この場から彼女を奪い去ってでも話をします」

 

再び、周囲の悪魔達がざわつき始める。

 

「本当にそんなことが出来ると思っているのかな?」

 

これまで感じたことのない威圧感が俺を襲う。先程のものとは比べ物にならない。気を抜いてしまえば一気に意識をもっていかれる。

 

俺はサーゼクスの見開かれた瞳を睨むように見返す。

 

「よろしい」

 

サーゼクスはニヤリと笑みを浮かべると壇上に登壇した。

 

「これより、この式の最大の催しを開催致します!」

 

登壇したサーゼクスが高らかに宣言する。

その言葉に会場が静寂に包まれる。

 

「二人には仮想空間で戦って頂きます。そして、勝者の意を汲むこととします」

 

サーゼクスから発せられた提案に会場中がどっと湧く。

 

「サ、サーゼクス様!何故そのようなことを?」

 

ライザーがサーゼクスに詰め寄る。

 

「ちょっとした余興だよ、ライザー君。君もこの式に華を添えたいだろう。君が彼に勝てばこれまで通り。君は僕の義弟になる」

 

サーゼクスの言葉に渋々頷くライザー。

 

「菅原君もそれでいいかな?」

 

俺はリアスの表情を窺う。

 

「そうだったね。リーアはどうしたい?」

 

サーゼクスは微笑みリアスの意見を求める。

 

「わ、わたしは」

 

リアスの瞳が揺れていた。おそらくだが、俺を心配しているのだろう。

 

いきなり式に姿を見せて、自分の婚約者である上級悪魔と戦おうとしているのだ。

 

ライザーの強さを身をもって知っている彼女が首を縦に振ることはないだろう。

 

俺はリアスに歩み寄り、彼女の前で膝を着くと、その手を取り、手の甲に口付けする。

 

その行動にサーゼクスやライザーだけではなく、その場に居た全員が驚愕する。

 

「リアス。後でゆっくり話を聞かせてもらう」

 

頬を染めるリアスの瞳をじっと見つめて頷く。

 

彼女の瞳から涙が溢れる。彼女はその涙を拭うとサーゼクスに向き直る。

 

「お兄様。私も彼と話がしたいです」

 

リアスの言葉にゆっくり頷くサーゼクス。すると、前方に二つの魔方陣が展開されている。

 

「準備が整いましたのでお二方は此方へ」

 

魔方陣の前でグレイフィアが頭を下げていた。

 

俺はリアスの頭を優しく撫でると、魔方陣に向けて歩を進める。途中でオカルト研究部のみんなに声を掛けられ、笑顔で答える。周りをよく見ると蒼那や椿姫の姿もあり、二人は拳を握っていた。その様子に俺は大きく頷く。

 

「お兄様に喧嘩を売るなんてバカな人間ですわ!」

 

俺の前に金髪の縦ロールの少女が出てきた。可愛らしい子だったので頭を撫で、一瞥して魔方陣に向かう。

 

「お二方、準備はよろしいですね」

 

グレイフィアの言葉に頷くと視界がブラックアウトした。

 

―〇●〇―

 

僕は酷い男だろうか?

 

まだ人間である彼を戦いへ誘い、あまつさえ大切な妹の未来さえ彼に委ねた。

 

彼のその姿を、彼のその瞳を見たとき、彼がソフィアさんの子であり、あの時の赤子であることを確信した。

 

ならば、彼が妹のリアスと出逢ったことは運命かもしれない。

 

見せてくれユウ君

 

君の本当の姿を

 

本当の力を

 

冥界に吹く新たな風を




第11話更新しました。
自分で話を難しくしてそこで詰まるという負のスパイラルの嵌まってます。
普通に書いているつもりが何故かシリアスな方向へ進んでいるのは筆者の悪いところです。
なので今回は肝心なところで惚けてみましたがどうだったでしょうか?
惚け方がワンパターンなのは許して下さい。

閲覧してくださった方、コメントをくれる方、誤字・脱字の修正をしてくださる方ありがとうございます。

ではまた次回。バイバイ
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