第13話です。
君とただ話がしたかった
でもいつの間にか君を守りたいと思った
君の涙が俺をそうさせたんだ
―〇●〇―
薄れゆく意識の中で声が聞こえた。
『あの程度の相手に負けてもらっては困る』
誰の声だったかはわからないが、自分の身体が自分ではない誰かの意思で動かれていた。
その声で失いかけていた意識が回復していく。
自分がライザーに向かっていく。
俺は驚愕する。自分では手も足も出なかったライザーと互角に戦っている。
しかし、ライザーとは不思議な男だ。
戦況が互角となり、自分がダメージを受けていると言うのにその表情が徐々に嬉々としていく。
先程までとは違い、まるでこの戦いを楽しんでいるかのようだ。
ライザーが肩で息をしている。
フェニックスとて不死身ではないということか。
『この違和感・・・そうか、既に【再生の生神女】と【沈黙の享愛者】を手にしていたか。ならば、そなたは扉を開くことが出来るだろう。我が役目を果たしたと言えよう』
一体なにを言っているのだろう。理解出来ずにいると、それを最後に声は聞こえなくなる。
急に視界が晴れ、頭の中がクリアになっていくのを感じた。
自分の身体が自分の意思で動くようになった。
「ぐぁ!」
これならなんとかなるとライザーに向かって駆け出そうとした瞬間、頭に激痛が走る。
頭の中に俺の知らない情報が次々と流れ込んでくる。
(こ、これは一体?)
俺は頭を抱えながらライザーを視線を向けると、ライザーの身体が光輝いていた。
ライザーが向かって来るが、こんな状態ではまともに戦えるはずもなく俺は亀のように身を縮めて攻撃を防ぐことしか出来なかったが、ライザーの力が先程までとは比べものならないほど上がっていた。
襲ってくる頭痛とライザーの攻撃に堪えられなくなり、吹っ飛ばされてしまう。
自分で戦えるようになった途端、この様かと唇を噛む。
ライザーからとてつもない魔力を感じた。
俺はいつの間にか魔力を感じられるようになっており、ライザーが放とうとしているものがどれだけ危険な攻撃なのかわかってしまう。
これまでかと思い、地面の土を掴む。
「ど、どういうことだ?」
突然、地面に大きな扉が出現したのだ。
驚いた俺は近くの地面に視線を向けるも、そんな扉は何処にもなかった。
俺が膝をついて動けなくなっているその場所以外には。
(なんだこの扉は?ライザーにも見えているのか?)
訳がわからずに視線を泳がせていると、俺の身体を勝手に動かしていた者の言葉を思い出す。
「この一撃に全てを込める!」
ライザーの叫び声と共に巨大な影が地面を覆い尽くす。
(ちっ!もうどうにでもなれ!)
舌打ちして扉に手をかけると、扉が開いていく。
『汝、【再生の生神女】の心を手にする者なり。悠久の盟約に従い、獣の門を開かん』
先程とは違う者の声が聞こえ、目の前の扉が俺の中に吸い込まれていく。
急に身体が軽くなり、頭痛が治まる。
顔をあげると、巨大な火の鳥が一直線に此方に向かってくる。
危機的状況にも関わらず、俺は冷静だった。
俺はその火の鳥の防ぐ術を知っている。
土を掴んでいた左手を広げ、掌を地面に着けるとリアスやライザー達悪魔と同じように魔方陣を展開していく。
魔方陣から大量の水が現れ、火の鳥を包み込んでいく。
ライザーの唖然とした表情が目に映る。
俺はライザーに向けて歩き出そうとするが背中に違和感を覚え、そちらに視線を向ける。
(これはリアス達と同じ。・・・そうか俺は)
背中には悪魔の最大の特徴でもある羽根が生えていた。
かなり重要なことだが、いまは他にやらなければならないことがある。
「おぉ!飛べた!」
羽根があるなら飛べるのでは考え、意識してみると見事に飛べた。
その事に感動しているとライザーの居るところまで来ていた。
「さっきのはシトリーの魔方陣だな!?お前はシトリーの血縁者か!?それに・・・そ、その羽根の数は!?」
ライザーの質問の意味はわからなかったが、俺はあの魔方陣が水を召喚出来ることを知っていた。
頭痛がした時に様々な魔方陣とその魔方陣で何が出来るのか頭の中に流れ込んで来たのだ。
「なにを言っているか理解出来ないが、こういう事も出来る」
腕を突き出して魔方陣を展開すると、ライザーと同じように火の鳥を召喚する。
「そ、それはフェニックスの魔方陣!?」
火の鳥がライザーを襲い、身体が吹き飛んでいく。
吹き飛んだ身体が再生していくが、その再生速度が明らかに遅くなっており、表情は驚きと戸惑いに満ちていた。
「決着をつけよう。ライザー・フェニックス」
大きく息を吐き、ライザーを見据える。
もう負けないと決意して拳に力を込める。
―〇●〇―
どうなってやがる。
俺の渾身の攻撃が水の魔力で掻き消されたと思ったら、奴の足下にシトリーの魔方陣が展開していた。
外野からの横槍かと思ったがそれはあり得ない。
奴が此方に飛んで来る途中で満面の笑みを浮かべている。
俺の前に立つ奴の背中の羽根は左右十二枚づつ生えていた。
俺は驚愕した。その羽根の数の意味を知らない悪魔などいない。
羽根に気を取られていると、俺に向けて突き出された奴の掌から魔方陣が展開される。
その魔方陣は紛れもなくフェニックスの魔方陣だった。
放たれた火の鳥に反応出来なかった俺は身体を吹き飛ばされる。
先程の攻撃にほとんどの魔力を込めたため、身体が再生するのが遅くなっている。
それよりも奴だ。何故シトリーとフェニックスの魔方陣を操れる?
そんな悪魔は存在しないはず。
奴はシトリーだけではなくフェニックスの血縁者でもあるのか?
「決着をつけよう。ライザー・フェニックス」
その言葉に身構える。額にさっきまでとは違う汗が滲んでいく。
「のわぁ!」
間抜けな声と共に奴の姿が視界から消える。
その瞬間、俺の横をとてつもない速さでなにかが通り過ぎていった。
俺はすぐに反応出来ずにいたが、後方に気配を感じて振り向くと、空中でバランスを崩す奴の姿があった。
俺は呆気に取られていたが、すぐに正気に戻り攻撃を加えていく。
残りの魔力は多くはないため、効率よく使わなければならないが、奴も水の魔力を操りながら俺の攻撃を回避していく。
しかし、魔力を使った戦いの経験値は絶対的に俺のほうが上だ。
奴は動きこそ凄まじいが所々で隙が出来る。
俺はその隙を突いてダメージを与えていくと共にトラップを仕掛けて奴をその場所へ誘導していく。
潜在能力は奴のほうが遥かに上だろう。
それは奴の背中から伸びる悪魔の羽根の数が示している。
だが、いまの奴はその強大な力をもて余している。
だからこそ、この戦いは俺に分がある。
俺の思い通りに奴は攻撃を避けていく。
そして仕掛けたトラップの魔方陣に足を踏み入れる。
「しまっ!」
奴の焦った声と共に爆炎が奴の身体がを包んでいく。
「さっきと同じ轍は踏まんぞ!」
今度は奴に近づくことなく、辺りに配置していた魔方陣を誘爆させていく。
もし、ここが仮想空間でなければ地形が変わっていただろう。
次々と魔方陣を誘爆させ、火力を増していく。
その威力は先程消された火の鳥以上だった。
(一年、いや数ヵ月後にはお前は俺を越えていくだろうが、俺とて負けんぞ)
燃え盛る炎を眼前にしながら俺は決意を新たにする。
「な・・・に?」
俺は目を疑う。
燃え盛る炎の中心から紅い魔力が立ち昇っていることに気がつく。
その場所は最初に奴をトラップに嵌めた場所だった。
紅い魔力はどんどん大きくなっていき、上空に巨大な魔方陣が展開される。
「そ、その魔方陣はグレモリーの!?」
燃え盛っていた炎が消滅していく。
信じられない光景に俺は言葉を失う。
(あの紅い魔力は間違いなくグレモリーの滅びの魔力!だとしたら一体・・・)
まさかと思い、視線をそこに向けると、奴が紅い魔力を身に纏っていた。
「危なかった。あと少し気づくのが遅かったら今頃は炭になっていた」
ボロボロになったYシャツを脱ぎ捨て、腰の高さに両手を広げると、奴の背後に三種の魔方陣が展開される。
「こういう使い方も出来るのか」
それは紛れもなくシトリー、フェニックス、グレモリーの魔方陣だった。
目の前であり得ないことが起こっている。
俺が動揺していると、巨大な水の鳥が紅い魔力を纏って召喚された。
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は慌てて魔方陣を展開して奴の攻撃に備えるが、フェニックスの風によって身体の自由を奪われ、シトリーの水で身体を拘束されてしまい、グレモリーの滅びの魔力で何度も消滅させられてしまった。
「まだだ。まだ貴方には届かない」
拘束が解かれた俺は地面に叩きつけられる。
最早、力など残っていない。
動かない身体とは対象的に頭はスッキリしている。
最初は頭のおかしい奴だと思った。
結婚式の会場でいきなり花嫁であるリアスに近づこうとした不届き者だと。
聞けばリアスの通う人間界の学校の友人だと言うではないか。
つまり人間ということだ。
すぐに会場から追い出そうとしたが、サーゼクス様からこの男と戦えと言われた。
冗談ではない。
何故、上級悪魔であるこの俺が人間などと戦わねばならないのかと抗議したが、サーゼクス様に押しきられてしまった。
力の差を見せつけてやればすぐに諦めると思っていたが、何度倒れても立ち上がる奴の姿が純粋に強くなりたいと思っていた幼き日の自分と重なり、自然と眷属にならないかと持ち掛けていた。
その誘いを奴は断った。
断られること予測できたが、それでも本心から奴を欲しいと思った。
一思いに終わらせてやろうと思ったが、倒れるどころか逆に奴の本当の力を引き出してしまった。
人間だと思っていたこの男は悪魔だった。
変わり果てた風貌と脅威的な力に俺もいつの間にか本気なっていた。
自分の置かれている状況など全て忘れて、目の前の男を倒すことだけに没頭する。
この男と対峙していると力が溢れ、自分の知らない自分が呼び起こされていく。
俺が一歩先へ行こうとすると、奴は更に先へ行く。
そうして俺は敗れた。
とても清々しい気分だ。
今ある自分の全てを出し切った上で相手に更に上を行かれた。
(まだこんな俺もいたんだな)
自分らしくないと自嘲してしまう。
俺は奴の姿を目で追っていく。
せめて最後はどうやってやられたのかだけは見届けたい。
目が覚めたらベッドの上だったなど俺のプライドが許さない。
(菅原ユウ!次は必ず俺が勝つ!)
俺は自然と笑みを浮かべていた。
―〇●〇―
彼が両手を天高く掲げると、そこに五つの魔方陣が出現し始める。
グレモリー、シトリー、アスタロト、グラシャボラス、フェニックスの五つの魔方陣だった。
(君はどれだけ私を驚かせてくれるんだ)
悪魔への覚醒に始まり、三つの魔力の融合ときて、次は五つの魔力で何をしようと言うのだろうか。
なにが起こるのか予測出来ない状況に全ての悪魔達がモニターから目を離せずにいる。
全ての魔方陣が完成する。
すると、天より一筋の巨大な光が魔方陣を目掛けて一直線を降りてくる。
その光は五つの魔方陣を通過すると、それぞれの魔力の特性がその光と融合して地面に突き刺さった。
凄まじい爆音と共に会場が揺れ、砂塵でモニターが見えなくなる。
(なんて威力だ!仮想空間の衝撃がこちらまで届くとは!)
砂塵が晴れていき、彼の姿が見えてくる。
私はその彼の姿に驚愕した。
彼の背中から先程まで生えていた悪魔の羽根が姿を消し、信じられないものが浮かび上がっていた。
それを目にした瞬間に私は身体が震わせた。
「あの御印こそ正に【聖なる対極の紅十字】」
震える私の横からその禁忌の名を口にする者が現れる。
「アジュカ」
式には参列しないと言っていた私の親友が何故、今になって現れたのかと驚く。
「冥界の黎明期、根源的災厄より世界を救ったと言われた者の背に存在したとされる【聖なる対極の紅十字】生きて目にすることがことができるとは」
素晴らしいと何度も呟きながら笑顔を見せる。
彼は研究者でもあるため興味の尽きない様子だった。
「ともあれサーゼクス。用心しなければならないぞ」
アジュカの口調が陽気なものから厳しいものに変わる。
「一般的には殆ど知られていない【聖なる対極の紅十字】の存在だが、古い世代の悪魔や各陣営の幹部クラスなら十中八九知っているだろう。・・・世界が荒れるぞ」
アジュカの言う通りだ。
早急に老人達や各陣営に話を着けなければ大変なことになる。
「あいつを中心に」
そう言うとアジュカは踵を返す。
「アジュカどこへ?」
私に背を向けて歩き出すアジュカを不思議に思い、声を掛ける。
「俺は帰る。まだあいつと顔を合わせる訳にはいかない」
そうかアジュカはユウ君の主治医でもあった。
態度には出さないが、事の次第を聞きつけてユウ君のことが心配で顔を出したのだろう。
「サーゼクス様」
去っていくアジュカを目で追っていると、グレイフィアから声を掛けられたため彼女のほうを向く。
彼女がゲームを取り仕切る悪魔に視線を向けており、その悪魔もどうしたらいいのかとキョロキョロしていた。
私はその悪魔に声を掛け、静かに頷く。
勝者の名が高らかに宣言されると、会場中に驚きと戸惑いの声が溢れかえる。
リーアの様子を窺うと、涙を流しながら少しソワソワしていた。
早く彼のところへ駆け寄りたいのだろう。
フェニックス卿には申し訳ないことをしたが、妹の様子に自然と安堵の表情を浮かべる。
(それよりも今は・・・)
モニターに目を移す。
本当に不思議な子だ。
彼がソフィアさんの子で悪魔の血を受け継いでいることは知っていた。
二年前に彼女から息子であるユウ君に不思議な力が目覚めている聞かされていた。
その力は母親であるソフィアさんから受け継いだものではなく別のなにかの力だと彼女は言っていた。
彼は今日その力の一端を見せてくれた。
悪魔への覚醒を果たし、異なる複数の魔力の融合して見せた。
血族ならまだしも自力での魔力の融合など聞いたこともない。
そして彼の背に浮かび上がった【聖なる対極の紅十字】は伝承でのみ冥界に伝えられてきた幻の存在。
彼の中に存在する力とは一体なんなのだろうか・・・
そこまで考えて私は首を横に振った。
(今は分からなくていい。今後は彼に余計な害が及ばぬように私達大人が尽力するだけだ)
―〇●〇―
勝利が宣言されると、仮想空間から結婚式の会場に戻される。
目の前で倒れているライザーは瀕死の状態だが、辛うじて息はあるようだ。
(まだ息があるな)
俺はライザーに向けて魔方陣を展開する。
「もう決着は着きましたわ!これ以上敗者に手を下すことは許されません!」
俺とライザーの間に先程声を掛けてきた金髪で縦巻きロールの少女が腕を広げて立っていた。
「・・・」
俺はじっとその少女を見つめる。
「わ、私の名はレイヴェル・フェニックス。貴方と戦ったライザー・フェニックスの妹ですわ」
少し怯えた様子だが、自分から自己紹介するだけの常識は弁えてるようだ。
「菅原ユウです。駒王学園の三年です。お兄様の婚約者であるリアスとは友人です」
言葉遣いといい、纏う雰囲気といい、只者ではないと思っていたが貴族の息女だったとは。
同じ貴族のお嬢様であるリアスとは随分違うな。
そんなことを思いながら俺はライザーに向けて魔力を放つ。
「なっ!?なんてことを!」
レイヴェルは俺の行動に驚き、憎しみの籠った視線を向けてくる。
「心配ない魔力を分けただけだよ。直に目を覚ます」
ライザーに寄り添うレイヴェルは安堵からか涙を流していた。
すぐに救護の者達が駆けつけ、ライザーの治療が始められる。
その場を離れようと思ったが、あることを思い出して足を止める。
「お兄さんが目を覚ましたら伝えて欲しい」
涙を浮かべながら首を傾げるレイヴェル。
「また会おう。今度は命を奪い合うことなく。そう伝えて」
よろしくと言って俺はリアスのところへ向かって歩き出す。
「あっ、あの!?」
背後からレイヴェルに声を掛けられ、振り向く。
「ま、またお会いできますか?」
驚いてポカンとしてしまった。
そこに居たのは先程までの傲慢で高飛車な態度をとった少女ではなく。頬を染め、指を擦り合わせながらモジモジと上目遣いで此方を窺う少女の姿があった。
「機会があれば」
レイヴェルの頭を撫でてあげると、初めて逢った時のような人を見下した笑みではなく、年相応の少女が見せる可愛らしい笑顔が印象的だった。
俺は再び歩き始めると、周囲に居た悪魔達が道を開ける。
「ユウ君!」
聞き覚えのある声が耳に届くと共に紅い髪と真紅のドレスの彼女が俺の視界に飛び込んでくる。
俺は彼女をしっかり受け止め、優しく抱き締める。
「ごめんなさい!ごめんなさい!無事で良かった!」
彼女は俺の胸に頭をつけて謝ってくる。
上半身裸の俺の身体に彼女の涙が流れる感触が擽ったかった。
「大丈夫。俺は大丈夫だから」
俺は人目も憚らず泣き続ける彼女の頭を静かに撫で続けた。
「・・・ユウ君・・・わ、わたしっ!」
彼女が顔を上げて何かを言おうとしていたが、唇に指を添えて彼女を制した。
「ずいぶん苦労したけど、ようやく話が出来る」
俺は彼女を抱き締め、肩に額をつける。
「ユ、ユウ君!?」
突然、抱き締められたことに驚いたリアスは戸惑っている様子だった。
「・・・・・」
リアスの声は聞こえている。だが、疲労のため顔を上げるのが辛い。でも、これ以上心配かける訳にはいかないためいつも通りを装う。
「・・・大丈夫。・・・少し眠いだけ」
俺のその様子に疑いの目を向けてくるリアス。
「部長!先輩!」
その時俺とリアスを呼ぶ声が聞こえ、オカルト研究部のみんなが集まってきた。
みんなにも大分心配をかけてしまったようだ。
兵藤と木場の掌には血が滲んでおり、朱乃と小猫の頬には涙の跡がうっすら残っていた。
「みんな心配かけてすまなかった」
俺はゆっくりリアスから身体を離してみんなと向き合う。
みんなは心配の声や労いの言葉を掛けてくれた。
途中でふらつき、バランスを崩しそうになるがリアスがそっと支えてくれた。
彼女には俺が無理をしていることがバレているようだ。
「素晴らしい戦いだった。菅原君」
俺がリアスに目配せをしていると、このゲームの仕掛人が笑顔で此方に歩いてくる。
「このゲームは君の勝ちだ。あとは君の好きにするといい」
サーゼクスがそう言うと、グレイフィアから白いYシャツを差し出される。
俺は渡されたYシャツに袖を通す。
「転移して来たときに使用した魔方陣はお持ちですか?」
グレイフィアに言われ、ズボンのポケットからその紙を取り出す。
「その魔方陣を展開すればリアスと二人だけで話をすることが出来るだろう」
サーゼクスのその言葉に顔を上げると、視線の先にリアスやサーゼクスと同じ紅い髪をした威厳のある男性が此方の様子を窺っていた。
「リアス。少し時間をくれ」
俺の言葉に首を傾げるリアスとサーゼクス。
リアスとサーゼクスから離れ、威厳のある男性のもとに歩き出す。
「リアスさんのお父様ですね?」
その男性がリアスの父親であることを確認する。
「・・・」
男性は無言で頷く。
「リアスさんの友人の菅原ユウと言います。この度のこと全て私の一存でやったことです。彼女には一切の責任はありません。もしものときは全て私が責任を取ります」
目を閉じ、静かに俺の言葉を聞いていた男性が目を開く。
「軽々しく責任を取るなどと言わないことだ。責任が取れぬから子供なのだ」
正論だった。男性の言葉に唇を噛む。
「君はゲームのルールに従い、勝利した。あとの心配などせずに好きにするといい」
そう言い残して男性はその場を後にした。
俺は男性の背中に頭を下げ続けた。
「・・・ユウ君」
リアスが不安そうな顔でYシャツの裾を掴んでいる。
「・・・行こうか」
彼女を頭をポンポンと撫でながら魔方陣を展開すると、上半身は鷲の姿で翼が生えており、下半身はライオンという奇妙な生物が召喚された。
「グ、グリフォン」
その場にいた誰かが呟いた声が耳に届いた。
空想上の生物が目の前にいるとこに驚きながら、リアスを抱き上げる。
所謂、お姫様抱っこである。
顔を真っ赤にしたリアスに笑みを見せて、グリフォンの背中に飛び乗る。
「先に帰ってる」
オカルト研究部のみんなにそう伝えると、グリフォンは翼を広げて大空高く飛び立つ。
会場が小さくなっていくのを見つめながら俺はゆっくり息を吐いた。
―〇●〇―
娘のリアスと彼を乗せたグリフォンが飛び立っていく。
リアスには悪いことをしてしまった。
私は家のことを想うばかりにリアスのことを考えていなかった。
慈愛の一族と言われる家の長として情けない。
「グレモリー卿」
グリフォンの飛び去ったほうを見ていると声を掛けられる。
「この度は誠に申し訳ないフェニックス卿」
何度も頭を下げたところで許されることはないだろう。
結婚式の最中に花嫁が連れ去られたのだ。
伝統あるフェニックス家の名に泥を塗ってしまった。
「顔を上げてください。グレモリー卿」
私はそれでも頭を上げずにいると、フェニックス卿の笑い声が聞こえてくる。
不思議に思い、今度こそ顔を上げる。
「この縁談が破談になってしまったことは確かに残念ではありますが、当家にとって悪いことをばかりではありません」
フェニックス卿の言葉の意図が分からずにいると、更に言葉が続けられる。
「ゲーム中のライザーの表情はここ数年見たことのなかった嬉々とした表情になっておりました」
満足そうに微笑むフェニックス卿。
「あれはフェニックス家の中でも特別な才を持っております。故に同年代には敵がなく、あれの心が冷めて行くのを知っていながら私は見ていることしか出来なかった」
フェニックス卿の目は遠くを見ていた。
「しかし、今日ライザーは全てを出し切った。今持てる全てを出し切って戦い、そして敗れた。その時のあれの表情が忘れられない」
私に向き直ると、フェニックス卿から手を差し出される。
「ありがとうグレモリー卿。本当のライザーを思い出させてくれて」
私はその手を握り返す。
「そう言って頂けると此方としても救われます」
後ろに控えていた妻達も笑顔で話を始める。
「それにしてもリアス殿の側には面白い者が多くおりますな」
フェニックス卿は何かを思い出すように笑みを浮かべる。
「・・・赤き龍を宿す者のことですな」
私は先のレーティングゲームを思い出す。
「赤き龍が現れたということは・・・」
フェニックス卿はそこまで言って目を瞑る。
「えぇ、いずれは白き龍を宿す者も現れるでしょう」
私の言葉に大きく息を吐くフェニックス卿。
「赤き龍と白き龍。そして・・・【聖なる対極の紅十字】」
一度会場中を見渡す。
「【聖なる対極の紅十字】ですか。・・・これから冥界はどうなって行くのでしょうな」
我々の疑問の答えを持つ者など存在しないだろう。
だからこそ彼には期待してしまう。
冥界の変革期であるいま、彼が現れたことには意味があるのだろう。
いずれ訪れるであろう未来に想いを馳せて私は空を見上げた。
―〇●〇―
今はグリフォンの上には俺とリアスしかいない。
もう強がる必要はなかった。
「リアス。悪いけど、膝貸してくれる?」
彼女が返事をする前に彼女の膝に倒れ込む。
「ユ、ユウ君!?」
彼女は驚き、声を上げる。
「ごめん。結構、無理してた」
肩で息をしながら額に手を当てる。
「バカ!こんなになるまで!」
彼女の涙が俺の頬を濡らす。
「バカってひどいな。もう帰って来ないって聞いたから頑張ったのに」
目を閉じているため、彼女がどんな表情をしているのか分からない。
疲労とリアスの太腿の気持ち良さで意識が薄れていく。
顔にチクチクと何かが触れる感触がする。
擽ったくなり、身を捩ると唇に柔らかくて温かいそれが触れる。
触れたのがリアスの唇だとすぐに理解できた。
「ユウ君はバカだけど、私はもっとバカね」
ほんの少し目を開くと、可愛らしい笑顔を浮かべた彼女がいる。
「私のファーストキス。大切にしてね」
おそらく彼女はいま顔を真っ赤にしているだろうと思い、自然と笑みが零れる。
俺はそのまま意識を手放した。
グリフォンの奇妙な鳴き声が天高く響いていた。
第13話更新しました。
最近やたらと忙しくてスマホが手元にない時間が多かったため中々進みませんでした。
しばらくこの状況が続くと思いますが、ちょくちょく書いていきますのでよろしくお願いします。
内容のほうはハイスクールdd以外の作品の設定をちょっとだけ変えて使っていますが、新しいタグが必要でしょうか?
最後のほうはかなりバタバタになってしまいましたが、これはこれで満足してます。
読んでくれた方、コメントをくれた方、誤字・脱字の修正をしてくれる方ありがとうございます。
ではまた次回。