ハイスクールD×D Yto   作:今日から禁煙

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今作始まって以来の最多文字数です。

第21話です。


第21話

 私はいやです

 先輩がいないのは寂しい

 だからいなくならないでください

 

 

 ―〇●〇―

 

 

「ふぅ。今日も収穫なしか?」

 

 気落ちするように匙が肩を落とす。

 

 先輩とアーシアのバイトする店でイリナとゼノヴィアに聖剣の奪取、または破壊を手伝うと宣言してから二日が経過していた。

 

 俺と木場と小猫ちゃん、更には生徒会の匙を加えた四人は部活を終えると、首に作り物の十字架をぶら下げ、神父とシスターの格好をして出来るだけ人気のない場所を散策しているが、全くと言っていいほど手掛かりがない。

 

 俺は落ち込む匙の肩を叩く。

 

 匙も最初はこの計画を手伝うことを躊躇していたが、今では俺達の中で一番気合いが入っている。

 

 初めて顔を合わせた時は嫌な奴だと思ったが、話をしてみると印象が変わった。

 

 なんでも匙の目標は生徒会長であり、自分の主である上級悪魔ソーナ・シトリー様とデキちゃった婚をすることらしい。

 

 まさかこんな近くに同じような目標を持つ奴がいるとは思わなかった。

 

 俺の目標も主である部長のおっぱいを揉むことだ。

 

 前に部長と約束した通り、最強の兵士(ボーン)になって心行くまであの巨大なおっぱいを堪能することを夢見ている。

 

 俺の場合はその前に巨大な菅原ユウ(ヤマ)が聳え立っているが、いつかその山を越えて部長を手に入れてやる。

 

 お互いの目標を宣言したことで、俺と匙は意気投合して今回の問題解決に全力を尽くそうと誓い合った。

 

 その時の俺達を見る小猫ちゃんの目は、まるで虫けらでも見るような目をしており、心にダメージを負ったのは言うまでもないが、匙の奴はそんな視線にさえも喜んでいた。

 

 もしかしたらこいつは、俺よりヤバイ奴なのかもしれないと思ったのは内緒だ。

 

 でも、そんな小猫ちゃんが木場に寄り添って寂しげな表情で訴えた時は驚いた。

 

 普段無表情な小猫ちゃんのその変化にはさしもの木場も困惑していつも通りの苦笑いを浮かべていた。

 

 最後まで首を縦に振らなかった木場だけど、可愛い後輩の懇願に遂に折れて、こうして俺達と行動を共にしてくれることになった。

 

 匙を励ましながら歩いていると、先を進んでいた木場が歩みを止めて立ち止まっている。

 

「上です!」

 

 小猫ちゃんが突然叫ぶと、その場にいた全員が上空を見上げる。

 

 その瞬間、俺の全身を寒気が襲った。

 

「フリード・セルゼン!」

 

 木場が魔剣を取り出して一目散にフリードに斬りかかる。

 

 その表情はこれまでにない程の怒りに満ちていた。

 

「ありゃ?チミはこの前の魔剣使いちゃん?」

 

 フリードも剣を取り出して木場の魔剣を止めるが、フリードの剣を見た瞬間、背筋が凍った。

 

 俺はあいつの持つ剣を知っている。あの剣はイリナとゼノヴィアの持っていた剣と同じ。

 

「てめぇフリード!なんでその剣を持ってやがる!!」

 

 間違いねぇ!あれは聖剣エクスカリバー!

 

「…………ダレ?」

 

 木場の剣を軽々止めながら俺を一瞥するフリード。この野郎、俺のことなんか覚えてないってか!

 

「ふざけんなっ!俺は兵藤一誠だぁぁぁ!」

 

 天高く左腕を掲げて【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】を発現させる。

 

Boost(ブースト)!』

 

 そんな俺の怒りに呼応するように籠手の宝玉が光を放ち、ドライグが目覚める。

 

「紅い籠手?……あ~はいはい、思い出しましたよ。お前さんはあのときのお下劣なドラゴンすっね」

 

 相変わらず人をコケにするのが好きな野郎だ。だが、相手は聖剣。迂闊に手は出せない。

 

「伸びろ、ラインよ!」

 

 どう攻撃するか考えていると、匙の手元から黒い触手らしきものがフリードの右足に巻きついた。

 

「これでそいつは逃げられねぇ!存分にやれ、木場!」

 

 すげぇじゃねぇか、匙!足の早いフリードの動きを制限するなんて考えたな。

 

「ありがたい!」

 

 二刀の魔剣でフリードを攻め立てる木場。

 

「複数の魔剣所持……なるほど【魔剣創造(ソード・バース)】でございますか?そんなレアな【神器(セイクリッド・ギア)】をお持ちとは罪なお方ですこと!」

 

 木場が押しているのは間違いないが、フリードの野郎からは余裕を感じる。

 

「くっ!」

 

 何度目かの打ち合いで木場の魔剣が破砕音を立てて、砕け散る。

 

 くそっ!エクスカリバーってのはそんなに強力なのか!

 

「木場!譲渡するか?」

 

 俺は倍加した力を他者に譲渡することの出来るサポート技『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』をライザー戦の特訓の中で会得し、それをいつでも木場に向けて放てるように準備しているが、木場はまだやれると言ってフリードに向かっていく。

 

(意地を張ってる場合じゃないぜ木場)

 

 確かに何度もエクスカリバーに負けないというお前のプライドは分かるが、そいつはゼノヴィアと違って本気で殺しにきてるんだぞ!

 

「エクスカリバーがそんなに憎いかねぇ~!」

 

 フリードの攻撃に耐えていた木場だったが、強烈な攻撃に魔剣が耐えられなくなり、遂には折れてしまい、防ぐ術を失った木場にフリードの凶刃が襲い掛かる。

 

 木場が殺られると思い、駆けつけようとした時、俺は浮遊感に襲われる。

 

「こ、小猫ちゃん!?」

 

 何故か俺は小猫ちゃんに持ち上げられていた。

 

「……一誠先輩。祐斗先輩を頼みます」

 

 怪力少女によって豪快に宙に放り投げられた俺はそのまま神器(セイクリッド・ギア)を発動させる。

 

「木場ぁぁ!譲渡っすからなぁぁぁ!!」

 

 飛んでくる俺に驚く木場だか、その言葉に大きく頷く。

 

Transfer(トランスファー)!!』

 

 力の譲渡が完了して木場の全身からオーラが迸る。

 

「せっかくだから使わせてもらうよ!……魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 四方八方から刃の花が咲き乱れ、フリードに向かって伸びていく。

 

 フリードは舌打ちしながら、横なぎに破壊していくが、一瞬の隙をついた木場が一本の魔剣を手にして消えた。

 

 創造した魔剣を足場にして目にも止まらぬ速さでフリードに向かっていく。

 

 すでに俺の目には木場は映っていない。

 

(こ、これが騎士(ナイト)の駒を宿した木場の本気!)

 

 俺はそのスピードに呆気に取られているが、フリードには木場の動きが見えているようで、忙しなく視線を動かしていた。

 

(マジかよ!やっぱりこいつも普通じゃねぇ!!)

 

 風切音と共に宙に浮いていた魔剣がフリード目掛けて飛んでいく。

 

 どうやら木場は魔剣をただ足場にしていたのではなく一本、一本フリードに向けて飛ばしていたようだ。

 

「俺様のエクスカリバーは『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラビッドリィ)』!速度だけなら負けませ~ん!」

 

 軽口を叩くもフリードの表情には狂喜に満ちており、縦横無尽に向かってくる魔剣を一本一本打ち落としていく。

 

 その速度は更に増していき、遂にはその切っ先が消え去ってしまった。

 

(なんつう速さだ!)

 

 軈て全ての魔剣を破壊し尽くしたフリードは木場に向かって斬りかかる。

 

(これだけやってもダメなのか!?)

 

 フリードの聖剣が木場の魔剣を打ち砕く。為す術を失った木場にフリードの刃が振り下ろされる。

 

「やらせるかよ!」

 

 もはやこれ迄と思ったのは時、フリードがバランスを崩す。

 

 匙だ。あいつがフリードの右足に巻きついていたラインを引っ張ってバランスを崩させたんだ。

 

 そのラインはそれだけに留まらずに淡く光を放ち始めると、フリードから匙に向かって何かが流れ込んでいるようだった。

 

「これが俺の神器(セイクリッド・ギア)!【黒い龍脈(アブソーブ・ライン)】だ!」

 

 どうやら匙の神器(セイクリッド・ギア)は相手の力を吸収する力を持つようで対象が倒れるまで吸い続けるようだ。

 

「こっちもドラゴン系の神器(セイクリッド・ギア)かよ!」

 

 フリードが匙の神器を取り払おうと攻撃するが、全くの無傷だった。

 

(匙のやつも俺と同じドラゴン系の神器なのか?)

 

 確かにフリードに向けて伸びているラインがドラゴンの舌に見えなくもないが、物理攻撃でダメージが与えられないとは、厄介な神器だ。

 

「木場!聖剣のことは後回しだ!まずはそいつを倒せ!そいつを生かしておくと危険だ!」

 

 匙の叫びに複雑な表情を浮かべる木場だか、フリードの危険性は木場も理解しているようで魔剣を造り出す。

 

「いいんか?俺を殺して?お前さんの満足いく聖剣バトルがなくなるぜ?」

 

 命乞いとも取れるフリードの言葉だが、残る二本のエクスカリバー使いはフリードよりも断然技量が下のようで木場が満足出来ないと話す。

 

 木場の表情が変わる。なにを躊躇してやがる木場!お前の目標は聖剣だろう!

 

「ほぅ、【魔剣創造(ソード・バース)】か?使い手の技量次第では無類の力を発揮する神器(セイクリッド・ギア)だ」

 

 その時、この場にいない第三者の声が辺りに響き、そちらに視線を向けると、神父の格好をした初老の男が立っていた。

 

「ちょうど良いところに」

 

 初老の男を見たフリードが不気味な笑みを浮かべる。一体誰なんだこのじいさん。

 

「バルパー・ガリレイィィィィ!!」

 

 そのじいさんを見た瞬間に木場の金髪が逆立つのではないかと思うほどの怒りを滲ませる。

 

 怒髪天を衝くとはまさにこのことかもしれない。

 

 しかもバルパー・ガリレイってゼノヴィアやイリナの言っていた『聖剣計画』で木場達を処分したっていう。

 

 つまりこの男が木場の仇!

 

「じいさん、助けてくださいよ~」

 

 緊張感のあるこの場にはそぐわないフリードのふざけた声が響く。

 

「お前に渡した『因子』を聖剣の刀身に込めろ。自ずと切れ味が増す」

 

 バルパーが呆れたようにそう言うと、フリードの持つ聖剣にオーラが集まりだして輝きを放ち始める。

 

 その聖剣を振るうと、先程までどうにもならなかった黒いラインがいとも簡単に切れてフリードを拘束するものがなくなってしまった。

 

「逃げさせてもらうぜ!次に会うときこそ、最高のバトルだ!……それから、あの化物にも必ず殺すと言っておけ!」

 

 捨て台詞を吐くフリード。あの化物って先輩のことか?そういえば先輩とフリードは因縁があったんだっけ?

 

「逃がさん!」

 

 俺の横を凄まじいスピードで通り過ぎていく影があった。

 

 その影は一直線にフリードへ向かっていくと、いきなり斬り掛かる。

 

「ゼ、ゼノヴィア!」

 

 フリードも応戦して互いの剣が火花を散らした。

 

「やっほ。一誠君も居たんだ」

 

 ゼノヴィアがいるということは当然イリナもいるわけで、この土壇場で共同戦線が完成した。

 

「フリード・ゼルセン、バルパー・ガリレイ。反逆の徒め!神の名のもと、断罪してくれる!」

 

 形勢逆転だ。ここで確実にフリードとバルパーを仕留める。

 

 鍔迫り合いを繰り返すゼノヴィアとフリードだが、奴が懐に手を突っ込んだのを俺は見逃さなかった。

 

「気をつけろゼノヴィア!そいつは銃を使うぞ!」

 

 俺の言葉に警戒したゼノヴィアはフリードと距離を取る。

 

「バァ~カ!」

 

 フリードが懐から取り出したのは銃ではなく光の玉だった。

 

 しまった!あれはゲームなんかでよく見る逃亡用のアイテムだ!

 

「あばよ!教会のビッチにクソ悪魔共!」

 

 フリードが光の球体を地面に叩きつけると、目を覆うばかりの眩い閃光が辺りを包み込んだ。

 

 俺達は視力を奪われ、視力が戻った時にはフリードとバルパーは既にその場から消えていた。

 

「クソ!追うぞイリナ!」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナも頷き、二人に駆け出していく。

 

「逃がすか!バルパー・ガリレイ!」

 

 木場もゼノヴィアとイリナと同じように消えた二人を追って行った。

 

「おい!木場!」

 

 走り去る木場の背中に叫ぶも、すぐに見えなくなってしまった。

 

 その場に取り残された俺と匙は息を整えているが、小猫ちゃんはどこから取り出したのか分からないあんパンを口にしていた。

 

 今後のことを話し合っていると、背後に気配を感じる。

 

「一誠、これはどういうこと?説明してもらうわよ」

 

 そこには険しい表情の俺の主てある部長と……

 

「匙、簡潔に説明しなさい」

 

 匙の主である生徒会長の姿がそこにはあった。

 

 その二人の登場に俺と匙は一気に青ざめた。

 

 

 ―〇●〇―

 

 

「む……朱乃の淹れてくれた紅茶のほうがうまいな」

 

 ある店内の一席で提供された紅茶を口に含むと、俺は顔を顰める。

 

「うふふ、嬉しいことを言ってくれますわね」

 

 対面の席に座り、優雅に紅茶を啜りながら微笑みを浮かべる女性。

 

 姫島 朱乃(ひめしま あけの)

 

 高校三年生の十七歳でこの街にある駒王学園に通う所謂女子高生。彼女とは高校入学当初からの付き合いで、今日に至るまでずっと同じクラスに所属し、様々な活動や行事で多くの時間を共有してきた。語るに烏滸がましいほどの美しい顔立ちと同性であれば百人が百人羨む、抜群のプロポーションを備えたまさに完璧と言える女性だ。また、美人にありがちな傲慢な性格はしておらず、家事全般を得意とし、男の後ろを三歩下がって歩くような今の時代に稀少種とも呼べるような大和撫子である。

 

 すれ違えば誰もが振り返る女性である朱乃と俺が何故テーブルを挟んで仲良く紅茶を飲んでいるのか?

 

 それは数時間前まで遡る。

 

 

 ―〇●〇―

 

 

「今日は羊羹ではなくあんパンがいいです」

 

 昨日、最強3トップから助けてもらった報酬である牛乳と羊羹を持って昼休みに小猫の元を尋ねると、開口一番にそう言われてしまったので仕方なく購買にあんぱんを買いに行くと、飲み物を持ったアーシアと桐生に会った。

 

「ユーさん!どうしたんですか?」

 

 俺の姿を見つけると、嬉しそうに歩み寄ってくるアーシア。

 

 学校が一緒でも学年が違えば、意識的に逢いに行かなければそうそう逢うことはないので、偶然俺を見つけたアーシアは本当に嬉しそうだった。

 

 俺は購買にいる理由を彼女に話すと、少し落ち込んでしまった。

 

 小猫に報酬を払うことになった原因の一端はアーシアにもあるので、それを気に病んだようだ。

 

 後輩との交流だから気にすることはない、と言って頭を撫でてあげると、いつも通りの笑顔を見せてくれた。

 

「アーシア、今日のこと先輩には言ったの?」

 

 それをニヤニヤしなが見ていた桐生がアーシアに声を掛ける。

 

 なにかを思い出したようにアーシアが手を合わせて俺を見ている。

 

「今日桐生さんのお家にお泊まりしてもよろしいでしょうか?」

 

 珍しい、というか初めてだな。アーシアが自分からなにかしたいと言ったのは。

 

 リアスや朱乃に影響されて大胆な行動に出てみたり、母ちゃんや桐生に唆されて奇行に走ることはあったが、こうして面と向かってやりたいことを言ってくれたのは初めてだったので、その事に嬉しさを感じた。

 

「勿論いいよ。楽しんでおいで」

 

 目線を合わせて笑顔を向けると、弾けるような笑顔で喜んでいた。

 

(本当にいい友達に巡り会えたなアーシア)

 

 それがあの桐生というところに一抹の不安を感じるが、二人のはしゃぐ姿に目を細める。

 

「じゃあ、新しい下着が必要ね!」

 

 楽しそうに今夜の予定を話し合う二人に背を向けて、あんパンを購入しようと思ったが、桐生が妙なことを言っているのが聞こえた。

 

(本当に大丈夫だろうか?)

 

 拭いきれない不安を感じながら、購買のおばちゃんに百円を手渡した。

 

 購入したあんパンを持って小猫の待つ旧校舎へ急ぐ。

 

 小猫はリアス達と昼食を食べるため旧校舎で待っていると言っていた。

 

「お待たせ」

 

 旧校舎に到着して部室に入り、小猫にあんパンを手渡すと、リアスと朱乃が不思議そうな顔で俺達を見ていた。

 

 因みに二人は何故俺が小猫にあんパンを渡しているのか分かっていない。

 

 俺もソファに座って弁当を食べ始める。今日の弁当はリアスとアーシアが作ってくれた。

 

「今日アーシアが友達の所に泊まるって言ってた」

 

 リアスに今夜はアーシアが不在であることを伝える。アーシアが居ないということは、今夜はあの家に俺とリアスの二人だけということになる。

 

 それはそれで危険だ。

 

「そうなの?実は私も悪魔の仕事で夜遅くなるのよ」

 

 アーシアだけではなく、リアスまで居ないのか。

 

 以前は母ちゃんが父ちゃんの仕事に同行すると、一人で留守番することも多かったが、アーシアとリアスが同居するようになってからは母ちゃんも出掛けることが少なくなり、常に誰かが家に居るようになった。

 

 リアスは遅くなると言ったので帰ってくるとは思うが、誰もいない家に帰るのは約二ヶ月振りで少し寂しい気持ちなった。

 

「そうか……気をつけてな」

 

 その声の機敏を敏感に察したリアスが目尻を下げて俺の顔を覗き混んでくる。その表情はまるで我が子を見つめる母親のような表情に見えた。

 

「出来るだけ早く終わらせて帰ってくるから、そんな顔しないの」

 

 リアスに言われるまで気づかなかったが、頭の中で考えていたことが顔に出ていたようだ。

 

「意外と寂しがり屋なのね」

 

 俺の新しい一面が見れた、と言って嬉しそうに笑うリアス。その様子を見ていた朱乃や小猫も興味深そうな表情をしていた。

 

 俺はそんなに強い男に見えるのだろうか?俺だって一人で居るより誰か側にいてほしいと思う。

 

 最近、賑やかな連中に囲まれていたから、より一層そう思うのかもしれない。

 

「久しぶりに一人の時間を堪能するよ」

 

 弁当を食べ終えて、空になった弁当箱を持って先に教室に戻る。

 

 HRが終了して部活に行く者、教師に呼び出される者、友人と遊びに行く者、恋人同士で帰宅する者などクラスメイトの動きは様々である。

 

(帰って黒歌と遊ぼ)

 

 既にリアスと朱乃の姿は教室にはなく、クラスメイトに挨拶をして学園の敷地の外に出ようとすると、校門のところに朱乃が立っており、誰かを待っている様子だった。

 

 その佇まいは美しく、立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花。とはよく言ったものだ。

 

「朱乃?」

 

 どうして彼女がここに居るのかは分からないが、声を掛けると、待ち人が来たかのように笑顔になる。

 

「これから仕事か?」

 

 リアスが仕事なのだから、そのサポートに付くのだろうと思っていた朱乃が首を左右に振る。

 

「今日の仕事はリアスだけですわ。私もこの後時間があるんですよ」

 

 そう言うと、朱乃は自分の鞄から一冊の雑誌を取り出した。

 

「私がこれを読んだら、相手をしてくださると約束しましたよね」

 

 彼女の手に握られた本には今時の恋愛マニュアルとデカデカと書かれていた。

 

 あれは……確か体育祭の練習の最中だったか?そんなことを朱乃から言われたような気がする。

 

「なのでこれからデート致しませんか?」

 

 あのときは考える、と言って保留にしていたはずだが、朱乃の中では既に決定事項だったようでニコニコと可愛らしい笑顔を向けてくる。

 

「それにあんなに寂しそうなユーくんを放っておけませんわ」

 

 そう言って俺の腕に自分の腕を絡めてくる朱乃。かなり強めに腕を掴まれているため身動きが取れない。

 

 しおらしい言葉とは裏腹に捕まえた獲物は絶対に離さないとばかりに拘束されている。

 

(これでは選択肢を与えている意味がないぞ、朱乃)

 

 リアスと朱乃。本当に似た者同士の主従だ。とはいえ、俺に気を使ってくれての行動なのでありがたい。

 

「ならお言葉に甘えようかな」

 

 家で留守番をしている黒歌のことは気になったが、隣で弾けるような笑顔を見せる彼女の誘いをどうして断れようか。

 

 あちらこちらから刺すような視線を感じながら俺と朱乃は歩き始める。

 

 どうやらデートプランは予め朱乃が考えて来たようで、それに従って俺を案内しようとする。

 

「デートなんだから」

 

 こんな時でも俺の三歩後ろを歩く朱乃に対して、手を繋ごうと思い、彼女の手を握る。

 

「こんなところをリアスやアーシアちゃんに見られたらまた怒られてしまいますわよ」

 

 乙女のように顔を紅潮させながら俺を揶揄かってくるが、本当に逆効果だ。

 

 普段は大人びた凛とした佇まいで何事にも冷静な彼女を知るものならば、そのギャップに一瞬にしてやられてしまうだろう。

 

「デート中に他の女の名前を出すのはルール違反」

 

 握った手を引き寄せて身体を密着させる。

 

「それとも俺と二人だけだと、つまらない?」

 

 慌てて俺の言葉を否定する朱乃。こういう時、いつもの彼女なら俺のイジワルを見抜いて揶揄かい返してくるのだが、今日はその余裕すらないようだ。

 

 こうして俺と朱乃のデートは始まった訳だが、彼女が予め考えてきたデートプランを聞いたときに違和感を感じた。

 

(ペットショップにクレープ屋?ゲームセンターに行ってタワー?最後に夜景のキレイなレストランで夕食?なんだこの如何にも初めてデートする箱入り娘が計画しそうなデートプランは?)

 

 俺に体重を預けて嬉しそうに微笑む朱乃のイメージとはずいぶん違うな、と思う反面で彼女も十七歳の少女であると改めて実感した。

 

 予定通りにペットショップに到着すると、朱乃は頬を緩ませて様々な動物たちと触れ合っていく。その様子に癒されながら、遠巻きに眺めている。

 

 何故かと言うと、俺は動物が苦手だ。我が家の愛猫である黒歌は別だが、それ以外の動物とは極力関わりたくない。

 

 爬虫類や両生類などもってのほか、鳥類や魚類も無理。それらを愛して止まない人には悪いが、何がいいのかさっぱり分からない。

 

 犬や猫に対しても尻込みしてしまう。つまり、会話の出来ない生物は無理。

 

 極論を言えば黒歌以外の動物は受け付けない。

 

 朱乃にその事を悟られないように少し離れたところで黒歌と遊ぶためのオモチャを物色している。

 

 もちろん彼女の様子は逐一チェックしている。突然、動物を押し付けられでもしたら、たまったものではないからだ。

 

 俺が黒歌用のオモチャを何品か購入して朱乃のところに行くと、犬に胸部を刺激されて艶かしい声を上げていた。

 

(なんとTPOを弁えた犬だ。あれとなら仲良くなれそうだ)

 

 ショップの店員に犬から解放してもらった朱乃は身なりを整えて俺のところへ来ると、何故助けてくれなかったのかと、怒られてしまった。

 

 ペットショップを出ると、彼女からなにを買ったのか聞かれたので見せてあげると、俺が猫を飼っていることを知らなかったらしく驚いていた。

 

(そういえば、まだリアスと同居する前に二人が遊びに来ていた時はいつも黒歌が居なかったな)

 

 不思議な偶然もあるものだと思いながら、次の目的地であるクレープ屋を目指した。

 

 購入したクレープを店のベンチで食べていると、俺の頬に付着した生クリームを朱乃が舌で直接舐めとってくれた。端から見れば完全にイチャイチャしている恋人同士にしか見えないだろう。

 

 クレープを半分まで食べたところでゲームセンターに向かって歩き出す。途中で通行人とぶつかりそうになった朱乃を抱き寄せると、彼女は顔を真っ赤にしていた。

 

 ゲームセンターではクレーンゲームのブースで立ち止まった朱乃が景品をじっと見ていた。巷で話題の某有名歌姫の愛称の書かれたキーホルダーで、簡単に取れそうだったので挑戦してみると、見事に失敗した。

 

 それが悔しくて五百円ほど使ってしまったが、無事に入手することが出来たので朱乃にプレゼントしてあげると、とても喜んでくれた。

 

 嬉しそうな朱乃を見て、彼女がこういうものにも興味があるのかと勉強になった。

 

「次はタワーだったか?」

 

 プレゼントしたキーホルダーを口角を上げて眺めている朱乃に次の行き先を確認すると、急に真剣な表情になって行きたい場所があると言われた。

 

(花?)

 

 彼女が何処に向かっているのか分からずに付いて行くと、フラワーショップで花束を購入していた。その後も何も語らずに歩き続ける。

 

 西の空に太陽が沈もうとしていた。

 

 黙って朱乃に付いて行くと、見覚えのある建物が目に入ってくる。すると、彼女はある建物の前で足を止めた。

 

「朱乃……何故ここに?」

 

 その場所は二ヶ月前のあの日から月に一度、俺とアーシアが必ず訪れていた場所だった。

 

 朱乃が訪れたのはレイナーレの眠る教会だった。

 

 目を見開いて朱乃を見ると、見たことのない憂いを帯びた表情の彼女が俺を一瞥して中に入っていく。

 

 朱乃の後を追って中に入ると、レイナーレの墓に花を供えて手を合わせる彼女の姿があった。

 

 何故、朱乃がレイナーレの墓に手を合わせているのかは分からないが、その姿に特別な事情があるようにも思えた。

 

(朱乃とレイナーレ。二人の間になにかあるのか?)

 

 しばらくの間、手を合わせていた朱乃が立ち上がり、振り向くと、いつもの笑顔に戻っていた。

 

「では、ご飯を食べに行きましょうか?」

 

 そう言って腕を絡めてくる彼女の肩が少し震えていたことに俺は気づいていたが、敢えてそこには触れなかった。

 

 いや、触れてはいけないと思った。俺は朱乃のことで知らないことがあった。

 

 それは彼女の両親のことだ。

 

 以前、リアスと一緒に彼女の家を訪れたことがあったが、その家には朱乃以外の人の生活している気配がなかった。その時、彼女が一人暮らしであることを知ったのだ。

 

 両親について訪ねようとも思ったが、リアスがあからさまに話を逸らしたので聞けず仕舞いだった。

 

(リアスの眷属はみんな一癖あるな)

 

 聖剣に囚われた木場、指名手配の姉を持つ小猫、スケベ心に支配された兵藤。

 

 王と同じで皆、一筋縄では行かない面子ばかりだ。

 

 朱乃もおそらく心に傷を抱えている。

 

「辛くなったら……いつでも言ってくれ」

 

 俺の言葉に大きく肩を震わせた彼女の頭を優しく撫でてあげた。

 

 

 ―〇●〇―

 

 

「それで今日のデートプランは誰が考えたものなんだ?」

 

 食事を終えて紅茶を口にしながら朱乃に問う。どう考えても今日のプランは彼女が考えたようには思えなかった。

 

「うふふ、気づかれていましたか?」

 

 昼間の一件を心配したが、いつも通りイジワルな表情で笑う朱乃に戻っていたので安心した。

 

 どうやら今日のデートプランはリアスから借りた恋愛マニュアル本に挟まっていたらしく、それを実行したらしい。

 

 確かにリアスの考えそうなプランだと二人で笑った。

 

 支払いを済ませて店を出て、朱乃を家まで送って行く。

 

 彼女の家は神社で長い階段を登らると、自宅が見えてくる。

 

「今日はありがとう。楽しかったよ」

 

 玄関まで彼女を送り、また明日と言って踵を返す。

 

「ユーくん」

 

 呼ばれて振り向くと、頬に彼女の唇が触れる。

 

「こちらこそ、楽しかったですわ」

 

 そう言い残して、顔を赤くした朱乃は足早に家の中に入っていった。

 

 頬を熱が帯びるのを感じながら家路に着く。

 

(朱乃とレイナーレは関係があるのか?)

 

 答えの出ない疑問を頭の中に巡らせながら歩いていると、目の前の公園から悲鳴が聞こえて来たので様子を伺って見ると、リアスとソーナに尻を叩かれている兵藤と匙を発見した。

 

(……バレたのか)

 

 兵藤と匙だけなら揶揄いに行ってもよかったのだか、小猫もお仕置きを受けるようで、少女のあられもない姿を観賞する趣味は俺にはなかったので、見なかったことにして公園を後にした。

 

 最も気になったのはソーナに尻を叩かれているにも関わらず、歓喜の表情を浮かべる匙の姿だった。

 

 家に帰ると、黒歌が迎えてくれたのでご飯を用意してあげると、お腹が空いていたようで夢中になって食べていた。

 

 しばらくテレビを見てリアスが帰ってくるのを待っていたが、帰ってくる様子がなかったので風呂に入って黒歌と一緒にベッドに横になった。

 

 

 ―〇●〇―

 

 

 隣で何かが動くのを感じて目を覚ますと、リアスがベッドから出ていく姿を見つけた。

 

 リアスに挨拶をして時計を確認すると、いつも起床する時間を指していた。

 

 彼女が帰って来たことにも気づかないほど熟睡していたようだ。

 

 準備をしてリビングに入ると、朝食の用意をするリアスがいたので一緒にキッチンに立った。

 

 朝食を食べながら、昨日なにをしていたのか聞かれたので、朱乃と出掛けていたことを伝えると、今度は自分ともデートしてほしいと言われたので了承した。

 

 だからなのかは知らないが、その日のリアスは終始ご機嫌で登校時に朱乃が昨日のことでリアスを挑発しても喧嘩になることもなく朱乃は不思議な顔をしていた。

 

 昼休みになり、珍しくアーシアが合流して木場と兵藤を除いたオカルト研究部の五人で昼食を食べた。

 

 アーシアの弁当もリアスが用意しており、それを美味しそうに食べながら昨日のお泊まりのことを話してくれた。

 

 人生初の友人宅へのお泊まりが、余程楽しかったようで昼休みが終わるまで話は続いた。

 

 HRが終わり、バイトがあるのでリアスと朱乃に挨拶して学校を出た。

 

 因みにアーシアは今日は休みだ。

 

 店がオープンすると、相変わらず大忙しで次から次へとくるオーダーを手際よく捌いていく。

 

 録に休憩も取れないうちにラストオーダーの時間になり、そこで厨房スタッフ達が一斉に一息つく。

 

 相変わらず目の回るような忙しさだ。

 

 全てのオーダーを調理し終えると、厨房の片付けが始まり、客が全員いなくなったところでホールの掃除を取り掛かる。

 

 全ての掃除・雑務が終わって、着替えを済ませて時間を確認すると、十一時を過ぎた頃だった。

 

 料理長とスタッフ達に挨拶して店の外に出た瞬間だった。

 

 曾て無いほどのプレッシャーが俺を支配した。




第21話更新しました。

前話の後書きで皆様の好きなキャラを聞きましたが、王道キャラや人妻キャラ、更には少女キャラまで様々な名前がありました。改めてHSDDの女性キャラは一人一人が魅力的なんだなと感じました。
アンケートでもないのにコメントくれた方ありがとうございました。

内容のほうは前半が完全な原作遵守でした。やはりあの絡みがないと今後の展開が成り立たないと思いました。後半はあの時朱乃さんは何をしていたんだろうと思ったので主人公と絡めてみました。

最終盤をあっさり書いたのは嵐の前の静けさ的な感じにしたかったからです。

読んでくださる方、コメントをくれた方、誤字・脱字の修正をしてくださる方ありがとうございます。

ではまた次回。
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