ハイスクールD×D Yto   作:今日から禁煙

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スマホ新しくなりました。
5Gです!

第26話です


第26話

 一人で強くなれると思っていた。

 これからもそうであると疑わなかった。

 私は彼女の心に負けた。

 

 

 ―○●○―

 

 

「これが魔王の一人が冥界の未来(さき)を託した力……か」

 

 足元で転がっている堕天使コカビエルの首根っこを掴みながら、俺の視線はある男に注がれていた。

 

 世話になっている【神の子を見張る者(グリゴリ)】の総督であるアザゼルから人間界で勝手に行動しているコカビエルを連れ戻せと言われて来てみたが、なかなか興味深いものが見れた。

 

 最初は気乗りせずに迷っていたが、今代の【赤龍帝】がこの地に存在することを聞かされて、俺の好敵手(ライバル)に成りうる人物かどうかをこの目で確かめたくなった。

 

 ──白と赤は闘争、未だに終わらず──

 

(これが嘗て世界を救った力の片鱗……)

 

 燃え盛る背中の紅十字、天を貫かんばかりの五芒星の光、その何れもが今では神話となり、刻の流れと共に忘却の彼方に秘された力。

 

 幼い頃、ジジィの研究室が遊び場だった。いつも優しかったジジィが激昂したことがあった。

 

 俺がジジィの大切な研究資料に落書きをしたからだ。その光景はあまりにも衝撃的で今でも鮮明に覚えている。

 

 その研究資料こそ目の前の【聖なる対極の紅十字】についての資料だった。

 

 それが原因かどうかは知らないが、ジジィの俺に対する態度は激変し、迫害を受けることになった。

 

 その後、ジジィと父に捨てられた俺はシェムハザに拾われ、アザゼルの元に身を寄せた。

 

 俺は自分が捨てられる原因となったと思われる【聖なる対極の紅十字】について調べ始めた。

 

 だが、どれだけ調べても全く情報が出て来なかった。まるで始めからそんなものなど存在していないかのように。それでも諦められない俺は自称研究者を名乗っていたアザゼルにも聞いてみることにした。

 

 アザゼルは一瞬驚いたようなリアクションをとると、真剣な表情で一言だけ言った。

 

 ──そいつには二度と触れるな──

 

 普段おちゃらけた態度のアザゼルがそんな顔をするのを初めて見た。

 

 それでも納得していない俺にアザゼルは自分の知っていることを話してくれた。

 

 嘗て世界を救った力と言われているが、今では存在しない力のため誰も詳しいことを知らないとのことだった。その後、強制的に話を打ち切り仕事と言って出て行ってしまった。

 

 その時のアザゼルの様子を見て、まだ何かを隠していると確信したが、それ以上調べる術を持たない子供だった俺はいつか真実に辿り着くことを胸に秘めて、その機会をじっと待っていた。

 

 そして遂にその時が訪れた。

 

 ──冥界に【聖なる対極の紅十字】を刻む者が現る──

 

 魔王の筆頭であるサーゼクス•ルシファーの妹の結婚式に乱入し、花婿であるライザー•フェニックスから花嫁を奪い去ったというニュースが冥界中を駆け巡った。

 

 そのニュースを聞き、コカビエルは神の子を見張る者(グリゴリ)の拠点を飛び出して行き、アザゼルはアザゼルで情報統制が緩いだの、事態の深刻さを理解していないだのと怒り心頭の様子だった。シェムハザとバラキエルは事実確認に奔走しており、この二人が一番大変そうだった。

 

 俺も直ぐに行動しようとしたが、長年追い求めてきた真実が何の前触れ無く、突然目の前に現れたことに柄にもなく身震いした。

 

 何れにせよ、男の居場所は知れている。

 

 魔王サーゼクス•ルシファーの妹であるリアス•グレモリーの結婚式に乗り込んだということは、このリアス•グレモリーを張っておけば相まみえるだろうと思っていたが、アザゼルから声が掛かり、俺はこの街にやってきた。

 

 神話と伝説の混在するこの街に……。

 

 魔王の妹が治めている街だと聞いていたが、平凡な街だった。

 

(こんな街に本当に俺の目的とライバルがいるのか?)

 

 良く統治されていると言えばそれまでだが、刺激が足らない。こんな温い雰囲気では折角の牙も抜け落ちてしまう。

 

 少々ガッカリしながら、公園の横を通り過ぎると、黒いボンテージ姿の栗毛の女が倒れているのが目に入った。

 

 傷の形状からして女をやったのはコカビエルだろう。

 

 アザゼルから聞いていた通り、好き勝手に暴れているようだ。

 

 息はあるようだが、このまま放置すれば生命も危ないかも知れない。

 

 だが、俺には関係のないことだ。知らない女が死んだところで俺に影響があるわけでもないので無視してその場を去った。

 

 おそらくコカビエルのいる場所は空間の歪んでいるあの場所だろう。かなり広範囲に渡って結界が張られている。

 

 直ぐに向かおうと思ったが、この街にはもう一箇所だけ僅かながら空間の歪んでいる場所があった。

 

 此方はコカビエルの居るであろうと思われる場所とは違い、かなり巧妙に結界が張られていた。

 

(この俺がここまで気づかないとはな……)

 

 この結界を張った者は余程の実力者だろうと思い、どんな人物が出て来るのか気になって、少しその場に留まることにした。

 

 ガードレールに腰を下ろし、美しい光を放つ夜の星々を見上げていると、凄まじい速さで駆けてくる男がいた。

 

 年の頃は俺と同じか、少し下くらいの顔立ちの整った男だったが、不思議な気配を纏う男だった。

 

 何より尋常ならざるその速さはおおよそ普通の人間とは思えず、気がつけば声を掛けていた。

 

 男からは僅かだが、様々な食材や香辛料の匂いが漂ってくる。男は料理人なのだろうか?

 

 この男の作る料理は美味そうだ。

 

 男はかなり焦っているようだったが、こちらの呼び掛けに応えて足を止めた。だが、気まぐれで声を掛けただけで特に話すこともなかったので、この先の公園に女が倒れていることを教えてやると、軽く会釈してまた凄まじい速さで消えて行った。

 

(!?)

 

 走り去る男の姿を見て俺の脳裏にある光景が()ぎった。

 

【聖なる対極の紅十字】を憧憬の念を持って崇め、深く頭を垂れる赤と白の姿。

 

 古より二天龍と称され、世界より畏怖されて来た存在が平身低頭する光景に俺は言葉を失った。

 

 今のは……一体?

 

 俺の記憶では無い。だとしたら、俺に宿る白き龍アルビオンの記憶と言う事だろうか?

 

 だが、肝心のアルビオンは『(いず)れ解る』の一点張りでそれ以上語ろうとはしなかった。

 

 一体、どれ程の刻が過ぎただろうか?

 

 気がつけば街の灯りは既に消えており、星々の瞬きが一層際立っていた。

 

 男の走り去った方角を見つめながら、この邂逅が運命であると確信して俺はその場を後にした。

 

 目的の場所に着くと、コカビエルとリアス・グレモリー眷属達による戦いも佳境を迎えていた。

 

 もう一人の魔王の妹であるソーナ・シトリーとその眷属達は戦いには参加せずに結界を張ることを優先していた。

 

(聖書に名を遺すほどの存在を侮ったな……)

 

 如何に上級悪魔であってもリアス・グレモリーは所詮成人前の未熟な悪魔に過ぎない。本来であれば早々に冥界へ援軍要請をし、その援軍が到着するまで現状考え得る全ての戦力を以て時間を稼がなければならない。それが現状を打破する最善の策であり、唯一の方法だった。

 

 外への影響を考えて役割を分担したのだろうが、コカビエルを止められなければ、どの道同じことだ。

 

 案の定、リアス・グレモリー眷属達はコカビエルを止めることが出来なかった。

 

禁手(バランス・ブレイカー)』に至っている騎士(ナイト)、『雷の巫女』と称される女王(クイーン)、『猫又』の血を引くと噂される戦車(ルーク)、更には眷属ではないものの『聖剣デュランダル』を手にした教会戦士、『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』をその身に宿す()聖女、そして我が終生の好敵手(ライバル)である赤龍帝。

 

 バラエティーに富んだ眷属達ではあるが、コカビエルを相手にするには百年早かったな。

 

 期待していた今代の赤龍帝も『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』はおろか『禁手(バランス・ブレイカー)』すらまま成らない有様であり、期待ハズレもいいところだ。

 

 これ以上見ている価値もなければ、グレモリー眷属に勝ち目は無い。コカビエルも十分暴れただろうし、悪魔側との関係を悪化させる訳にもいかない。

 

 今ならコカビエル一人に責を負わせてアザゼルが冥界と天界に上手く話をつけるだろう。

 

(さて……)

 

 アザゼルの指示通りにコカビエルを連れ帰るため結界内に突入しようとしたその時、ソーナ・シトリーの居た場所から結界内に突入した者がいた。

 

 その者は迸る怒りを滾らせ、金色のオーラを纏いながらコカビエルの前に立った。

 

 

 −○●○−

 

 

 あまりに突然の出来事に俺の頭が追いつかねぇ。

 

 コカビエルが態とらしく隙きを見せた所へ先輩が突っ込んだ時はもうダメだと思い、叫んだ。そうしたら、いきなり天に昇る五本の光の柱が現れてコカビエルの攻撃を無効化し、先輩の勝ちだと思ったら、地面に膝を着いて動かなくなった。そうしたら、その先輩を担いだコカビエルがアーシアに先輩を渡して回復するように言うし、もう何が何だか分からん!

 

 この場を立ち去ろうとするコカビエルを先輩が引き留め、詰め寄る。

 

 俺も二人の話を聞いていたけど、内容がよく分からねぇ。でも、コカビエルが言葉を発するたびに先輩の顔から血の気が引いていく。

 

 木場、小猫ちゃん、アーシア、俺の後輩組は顔を見合わせて首を振るが、部長と朱乃さんは険しい表情をしている。

 

 コカビエルが此方を振り返り、何かを語ろうとしたその時だった白き閃光がコカビエルの心臓を貫いた。

 

 何が起こったのか理解出来ずに辺りを見渡すと、事の次第にいち早く反応した先輩が後ろを振り返っていた。

 

 俺も先輩の視線を追って後ろを振り返ると、白い鎧を身に着けた不気味な存在が宙に漂っていた。

 

「コカビエルの話しに興味は尽きないが、時間切れだ」

 

 全身を駆け巡る言い知れない緊張感と恐怖。

 

 背中から生える八枚の光の翼、闇夜を切り裂き、神々しいまでの輝きを発している。

 

(似てる……)

 

 そう、色やカタチこそ違いがあるが俺の『赤龍帝の鎧(ブーステッド•ギア•スケイルメイル)』にそっくりだ。

 

「白龍皇……貴様……」

 

 そいつはゆっくりと俺達の横を通り過ぎる。だけど、その場にいた誰一人として動くことが出来なかった。

 

 俺達だけ時間が止まったような感覚を覚えた。

 

「はっ、白龍皇!?」

 

 先輩に寄り添っていた部長から驚きの声が上がる。

 

 じゃあ、あいつが!?

 

 俺の……いや赤龍帝の永遠のライバル白龍皇!

 

「まさかあの程度一撃で動けなくなるとは……聖書に記された堕天使ともあろう者が情けない」

 

 コカビエルの首を掴み、持ち上げながらそう言うと、鎧に埋め込まれた全身の宝玉が光を放つ。

 

Divide(ディバイド)!』

 

 今のは一体なんだ?まるでドライグが反応するのと同じだ。

 

「いや……コカビエルが情けない訳ではないか」

 

 全身が鎧に覆われているため、そいつの視線が誰を捉えているか定かではなかったが、この時ばかりはその瞳に誰が映っているすぐに分かった。

 

「卵が先か……鶏が先か……か?アザゼルも上手いことを言うものだ……」

 

 何言ってんだこいつは?

 

 とにかくこいつから発せられるオーラは危険すぎる。

 

 そう感じているのは俺だけではないようで全員が警戒している。先輩なんかは万が一の時のために女性陣を護るように一歩前に出ている。

 

「悪くない反応だ。だが、全てを出し尽くしたお前達に俺を止められるか?」

 

 白龍皇から放たれる気迫にみんなが後退りをしてしまうが、先輩だけは前に出た。

 

「止める、止められるではない。止めなければならない」

 

 マジか!コカビエルとの戦いで全部出し尽くした筈なのに、立っているだけでも辛い筈なのに。

 

 先輩だけに負担を掛けまいと、俺も前に出ようとするが、足が地面にくっついたみたいに動かない。

 

(なんて情けないないんだよ俺は!)

 

 クソ!白龍皇は赤龍帝のライバルなんだ!俺がやらなきゃならないのに!

 

 白龍皇は俺を歯牙にも欠けずに先輩と対峙している。それが悔しくて堪らなかった。

 

「フフッ……お前の気概は伝わってくるが、生憎俺には時間がないのでな。それに……今のお前を倒しても何も面白くない」

 

 視線は外していない。瞬きもしていない。なのに白龍皇が消えた。

 

 そう思った瞬間、先輩の前に現れた白龍皇が指で先輩の肩を静かに押した。

 

 先輩は何の抵抗も出来ずにその場に尻もちをついた。

 

 その光景に全員が絶句する。

 

 ウソだろ!先輩がここまでアッサリ、しかも簡単に倒されるなんて!

 

「先ずは体力を回復するんだな。お前と決着をつけるのはそれからだ」

 

 そう言い、白龍皇はコカビエルとフリードを抱えて空へ飛び立とうとした。

 

『無視か、白いの?』

 

 急に左腕の籠手が光り出したと思ったら、今まで何も言わなかったドライグが奴に向けて言葉を発した。

 

『起きていたのか、赤いの』

 

 すると、白龍皇の鎧の宝玉も白く輝きを放ち、宝玉に宿る二頭の龍が会話を始めた。

 

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

 

 ドライグはどこか懐かしんでいるようにも感じた。

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

 

 白龍皇の方も同じように感じた。

 

(そっか……この二頭の龍は宝玉に封じられる数千年前から争ってきた間柄。敵だけど友達みたいな感覚なのか?)

 

 俺はそう思いながら二頭の会話を聞いていた。

 

『だが、赤いの……俺はお前の気が知れない。まさか再び【聖痕(スティグマ)】を刻まれたか?』

 

 和やかな雰囲気から一転し、二頭の会話の温度が急激に下がる。

 

『ほざくな、白いの……獣の力如きに右往左往している男などに(ほだ)される俺ではない」

 

 急にどうしたんだ?再会を懐かしんでたんじゃないのか?

 

「いい加減にしろ、アルビオン」

 

 突然、二頭の会話に白龍皇が割って入る。

 

『フッ、お前も奴に興味があるんだったな』

 

 今度は白龍皇と宝玉……アルビオンって呼ばれた奴が会話を始めた。だが、会話の内容はさっぱりだ。

 

『悪いな、赤いの。俺の宿主はお前の宿主よりも他に興味があるようだ』

 

 アルビオンの言葉を待たずに白龍皇が飛び立つ。

 

 永遠のライバルである赤龍帝よりも興味があるって一体?そういえば白龍皇の視線が先輩を捉えていた……まさか!

 

「待て!白龍皇!まだお前には聞きたい事が……!」

 

 先輩が疲弊した身体にムチを打って白龍皇を呼び止めようとする。

 

「全てを理解するには時間と力が必要だ。だが、これだけは言っておく。貴様を倒すのはこの俺だ【聖十字】」

 

 あの野郎!先輩に喧嘩を売りやがった!永遠のライバルである俺じゃなくて先輩に!

 

「それから……お前もだ、赤龍帝。俺は相手が蟻だろうが全力で踏み潰す。精々、強くなることだな……宿命のライバル」

 

 そう言い残して、白き閃光と化したそれは飛び立っていく。

 

 その姿は一瞬にして見えなくなった。

 

(蟻……だと?ふざけんな!絶対に強くなってやる!白龍皇よりも……先輩よりも!)

 

 俺の密かな誓いにドライグも同意してくれた。

 

「ユー?大丈夫!?」

 

 部長の叫び声と共に俺も視線をそちらに向けると、先輩が糸の切れた人形のように座り込んでいた。

 

 全員が心配して駆け寄る。

 

 部長が右から……アーシアが左から……朱乃さんが後ろから……小猫ちゃんが正面から……それぞれ抱き着いている。

 

 なんて羨ましい!

 

 部長とアーシアは一緒に住んでるから、そうだとは思っていたが、朱乃さんや小猫ちゃんまでとは!

 

 しばらく座り込んで夜空を見上げていた先輩が大きく息を吐き、ゆっくりと立ち上がり静かに頷いた。

 

 こうして戦いは終わった。

 

 俺達の住む駒王の街は救われた。

 

 

 ―○●○―

 

 

 白龍皇が去り、戦いが終わった。

 

 俺の目の前ではみんなの傷を癒やすために忙しなく動き回るアーシアの姿があった。

 

「終わりました。身体の調子はいかがですか木場さん?」

 

 自分も疲れているだろうにそれを一切見せずに最後の一人まで献身的にサポートしてくれる彼女には本当に頭が下がる。

 

「ご苦労さま、アーシア」

 

 木場の治療を終え、戻ってきたアーシアの笑顔は少しばかりぎこちなく、疲れが見えたので隣に座るように促す。

 

「少し休んだほうがいい」

 

 そう言うと、彼女は申し訳なさそうに俺の肩に頭を預けてきた。

 

「大丈夫。側にいるから」

 

 そう言って彼女の頭を撫でて話をしていると、すぐに可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 

「裕斗」

 

 アーシアの眠りを確認して前方に目を向けると、木場がリアスに頭を下げていた。

 

「よく無事に帰ってきてくれたわ。それに【禁手(バランス•ブレイカー)】だなんて、私も誇らしいわ」

 

 木場の帰還を喜ぶリアス。その瞳には薄っすらと涙を浮かべていた。

 

「……部長、僕は……部員のみんなに……。何よりも、一度命を救ってくれたあなたを裏切ってしまいました……。お詫びの言葉もありません……」

 

 木場の頬をリアスが撫でる。その姿を見て不思議と納得してしまう。おそらくリアスはなにかある度に今のように木場を慰めて来たのだろう。

 

「でも、あなたは帰ってきてくれた。私はそれだけで十分。彼らの想いを無駄にしてはダメよ」

 

 その光景を見ていた小猫が涙を流していると、朱乃が優しく抱き寄せていた。

 

「部長……。僕はここに改めて誓います。僕、木場裕斗はリアス・グレモリーの眷属―『騎士(ナイト)』として、あなたと仲間達を終生守り抜くことを誓います」

 

 一時はどうなることかと思ったが、目の前の二人の姿に元の鞘に戻って良かったと安堵する。

 

 その後、木場が兵藤や小猫、朱乃に頭を下げて回っていると、涙や鼻水で顔を濡らした生徒会の匙が合流して兵藤と木場の三人で肩を抱き合っていた。

 

 ……うん、出来ればあれは遠慮したい。

 

「お疲れ様でした。菅原君」

 

 木場の制服で涙や鼻水を拭いている匙の姿を見て、顔を引き攣らせていると、頭上から声を掛けられた。

 

「そーちゃんとつーちゃんもお疲れ様」

 

 彼女達生徒会のおかげで街に被害が出ずに済んだ。本当に感謝の言葉もない。

 

「あのコカビエルを退けるとは……あなたは本当に不思議な人です」

 

 そう言って彼女は笑顔を見せてくれた。彼女の笑顔を見れるのは珍しいことなので得をした気分だ。

 

「後のことは生徒会に任せて休んでいて下さい」

 

 蒼那はそう言うと、バカ騒ぎしている匙の襟を強引に掴み、引き摺って行った。

 

「何だか嬉しそうね」

 

 笑顔で蒼那と椿姫を見送っていると、リアスから声を掛けられた。

 

「珍しくそーちゃんの笑顔が見れたからね。得したよ」

 

 隣で寝息を立てるアーシアを見ていたら、俺も眠くなってきたため、目を擦りながらリアスに視線を送ると、目を細めて俺を見る彼女がいた。

 

「ソーナが男性に笑顔を?……あなた……まさかソーナまで……」

 

 リアスの言っていることが理解出来ず、首を傾げると、彼女がそっぽを向いてしまった。

 

(……俺なんかしたか?)

 

 リアスが急にぶつぶつと独り言を話し始めた。

 

 スタイルは自分の方が勝っているとか、眼鏡の方が好みとか、とにかく意味不明なことを……。

 

「リアス!」

 

 未だ何かを考え込むリアスを見ながら本格的に眠くなってきたので目を閉じると、遠くから彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 

「グ、グレイフィア!?」

 

 その声の人物はグリモリー家のメイドであるグレイフィアだった。だが、彼女の姿は此れまで何度か目にした冷静沈着な姿ではなく酷く狼狽した姿だった。

 

 何より此れまで彼女はリアスのことをお嬢様と呼び、いつ如何なる時もグレモリー家のメイドとしての立場を崩すことはなかった。

 

「無事で良かった……本当に無事で良かった!」

 

 メイド……といよりもその関係性は姉妹のようでもあり、子を慈しむ母のようにも見えた。

 

「も、申し訳ありません。少し取り乱してしまいました」

 

 頬を赤く染め、忙しなく視線を動かす。俺が彼女を目にしたのはこれが四度目。最初はリアスとの情事の時、二度目は冥界に行く方法を教えてもらった時、三度目はレーティングゲームからアーシアを送ってくれた時、四度目は式の会場。

 

 俺の彼女に対する印象はとても綺麗な女性ではあるが、どこか冷たさと儚さを感じさせる、そんな印象だった。

 

(なんだこの人、めちゃくちゃ可愛い!)

 

 普段クールで事務的な大人びた女性が気を許した者だけに見せる僅かな隙。

 

 俺の視線はこの女性に釘付けになった。

 

「グレイフィア様は既婚者ですよ、ユー君」

 

 あぁ、やだ、このお決まりの展開。

 

 ゆっくりと後ろを振り返ると、眩しいほどの笑顔を見せながら瞳の奥を鋭く光らせる朱乃が居て、更には今の今迄気持ち良く可愛らしい寝息を吐いていた筈なのに俺の右腕を力一杯圧迫してくるアーシアがいた。

 

「姐さん、若い男と乳繰り合ってないで指示出して下さいよ」

 

 右と後ろからの圧倒的なプレッシャーに冷や汗で背中を冷たくしていると、屈強な男がやる気なさそうに頭を掻いて歩いてくる。

 

 誰かは知らんが、火に油を注ぐを注ぐような真似はやめてくれ。

 

 その言葉を聞いた瞬間、右腕に先程までとは比べものならない痛みを感じたが、後ろにいた朱乃は立ち上がり、目を丸くして驚いた様子だった。

 

 不思議に思い、朱乃に声を掛けようとしたとき、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。

 

「……ベオウルフ……私が何ですって?」

 

 ベオウルフと呼ばれた男の腰が綺麗に直角を描くが、目の据わったグレイフィアはベオウルフの耳を強引に引っ張り、大きな身体を軽々と引きずっていく。

 

「リアス、詳細は後程冥界で聞きますが、私はその前に不届き者の再教育がありますので、少々お待ち下さい」

 

 その後、俺達の見えない所で男性の断末魔が聞こえてきたのは言うまでもない。

 

「……冥界から援軍に来てくれたのね」

 

 態とらしく咳払いをするリアス。色々と説明してほしいところはあるが、見なかったことにしよう。

 

「でもグレイフィアの言うことも一理あるわ」

 

 素敵な笑顔で右手に紅い魔力を籠めるリアス。

 

「名門グレモリーの次期当主として下僕の教育もしなければならないわね……裕斗」

 

 先程の感動的なシーンとは何だったのかと思うほど滑稽な絵面を見て爆笑する兵藤。あらあらといつも通りの反応で笑顔を見せる朱乃。先輩のあられもない姿を目にして赤面する小猫。ひたすら木場を心配するアーシア。

 

 まぁ、いつもの日常だな。

 

「……んっ」

 

 周囲がバカ騒ぎをする中、神の死を知り、意識を失っていたゼノヴィアが目を覚ました。

 

「起きたか?」

 

 ゼノヴィアは辺りをキョロキョロと見渡した後で俺の声に反応した。

 

「戦いは終わったよ」

 

 険しい表情のゼノヴィアにそう伝えると、彼女の表情が少しだけ緩んだ。

 

「アーシアに礼を言っておけ。君を癒やしたのは彼女だ」

 

 自分の身体を触りながら首を傾けるゼノヴィア。

 

「彼女が?」

 

 リアスのお仕置きによってダメージを負った木場の治療を行うアーシアに視線を向けるゼノヴィア。

 

「……彼女はお人好しなのか?」

 

 治療を行う彼女の周囲には俺を除いたオカルト研究部のみんなが集まっており、和気藹々としていた。

 

「お人好しだよ……聖女と呼ばれるほどな」

 

 その言葉に目を伏せるゼノヴィア。先日、部室で彼女にしてしまった仕打ちを悔いているようにも見えた。

 

「ユーさん!……あぅ!」

 

 木場の治療を終えて笑顔で此方に駆け寄って来たアーシアは隣に居た人物を見て、躊躇して歩みを止めてしまった。

 

 先日のことが尾を引いているのだろう。俺とゼノヴィアを交互に見ながら此方の様子を伺っていた。

 

 この間のゼノヴィアの行動がアーシアの心を深い恐怖心を与えたことは間違いない。

 

(……いきなり魔女呼ばわりされて聖剣を突きつけられれば仕方ないか)

 

 あの時はアーシアの立場に立ってゼノヴィアと話しをしたが、ゼノヴィアの立場に立てばアーシアのような存在は是非を問いたい存在だろう。

 

 もう会うことはないにしてもこのままと言うのは良くない。今後生活していく上で自分と考え方の違う相手と共存して行かなければならない場面も多くあるだろう。未来ある二人だからこそ広い視野で物事を捉えてほしい。

 

 そう思い、二人の仲裁に入ろうと立ち上がるが、俺より先にゼノヴィアがアーシアに近づいた。

 

「先日の事、本当に申し訳なかった」

 

 アーシアの前で深々と頭を下げて謝罪するゼノヴィア。

 

 突然の謝罪に戸惑うアーシアはどうしていいのか分からずに俺に視線を送ってくる。

 

 俺はアーシアと視線を合わせてゆっくり頷いた。

 

 改めてにはなるが、アーシア自身の言葉で伝えたほうがいい。

 

 第三者から伝えられた言葉では相手の心には届かない。自分を理解してもらう為には自分の言葉で伝えるしかないのだ。

 

「顔を上げてください、ゼノヴィアさん」

 

 アーシアはゆっくりと頷いて深呼吸をすると、ゼノヴィアに手を差し伸べた。

 

 アーシアとゼノヴィアが対峙している事に気がついたリアス達が慌てて二人の間に入ろうとするのを俺は止めた。

 

 アーシアの言葉にゆっくりと顔を上げるゼノヴィア。

 

「貴方は傷付いていた。そして、私には傷を癒やす力がある。傷付いた人を放っておくことは私には出来ません」

 

 そう言って静かに目を閉じるアーシア。

 

「だが、私は君に酷い仕打ちをした。そんな私を癒やすなんて……」

 

 言葉を詰まらせるゼノヴィア。

 

「関係ありませんよ」

 

 ゼノヴィアの手を取り、笑顔を見せるアーシア。その笑顔は正に万物の母を連想させるものだった。

 

「……強いんだな、君は……私などよりもずっと……」

 

 アーシアの手を握り返して笑うゼノヴィア。最初に見たときとは随分と印象が変わった。

 

「私は強くありませんよ。もし、強く見えたのならそれはいつも一緒にいてくれる皆さんのおかげです」

 

 目を丸くするゼノヴィア。その言葉は一人で強くなるしかなかった彼女には青天の霹靂だろう。

 

「……私にもいつかわかる時が来るだろうか?」

 

 そう言うゼノヴィアに変わらなぬ笑みを浮かべるアーシア。

 

「……必ず」

 

 敵わないな、全く。今日この場で一人の戦士の心が救われた。救ったのは嘗て聖女と呼ばれた少女だ。

 

「ありがとう。では、これで失礼するよ。これからイリナを探さなくてはならないのでね」

 

 ゼノヴィアの口から出たイリナと言う名前に俺が反応し、家で寝ていることを伝えるとリアス達に詰め寄られた。その瞬間、万物の母としてゼノヴィアを導いた人物の瞳から光が消えた。命を危機を感じて直ぐに事情を説明する。

 

「そうか……イリナが世話になった」

 

 俺に頭を下げてくるゼノヴィア。早速、紫藤イリナの所に行こうとしたが、ゼノヴィアは行かないと言った。事情を聞くと神の不在を知り、考えたい事があると言っていた。更には紫藤イリナに神の死を秘密にしてほしいとも言われた。彼女はゼノヴィア以上に敬虔な信徒のため、真実を知れば混乱は免れないとのことだった。リアスと朱乃も冥界への報告があるとのことでゼノヴィアと共にこの場で別れた。

 

「……先輩」

 

 兵藤、アーシア、小猫、木場の五人で紫藤イリナの様子を確認するために家に向かう。その道中で木場に呼ばれたので振り向くと、先程同様に深々と頭を下げていた。

 

「……今回のことで先輩にも──」

 

 木場が言いたいことは分かってる。でも、こいつは十分に頭を下げた。俺は木場が全てを言い終える前に頭に手を乗せる。

 

「良く頑張ったな、木場」

 

 俺がそう言うと、木場は頭を上げて目を見開く。その様子に俺が静かに頷くと、木場の頬を一筋の涙が伝う。

 

 頭に置いていた手で木場の髪を乱暴に乱して、家への道を歩き始める。後ろからは啜り泣く木場と彼に寄り添う兵藤と小猫がいて俺の隣ではアーシアが笑顔を見せていた。

 

 

 ―○●○―

 

 

「……」

 

 家に着き、紫藤イリナの休んでいる部屋のドアを開けると、何故か全裸の紫藤イリナがそこに居た。

 

 ゆっくりとドアを閉めると、アーシア達に不思議な顔をされたが何事もなかったようにリビングのソファに座り、大きく深呼吸する。

 

 アーシア達が俺の行動に首を傾げていると、着替えを済ませた紫藤イリナが顔を真っ赤にして部屋から出てくる。

 

 紫藤イリナの姿を確認してアーシア達もソファに座るが、当の紫藤イリナはもうお嫁に行けないなどと言って身体をくねくねさせていた。

 

 紫藤イリナが正気に戻るのを待って、今回の顛末を話すと、反応は様々だったが、俺達が無事に帰ってきたことを喜んでくれた。

 

 木場がリアスから預かった聖剣の欠片を紫藤イリナに手渡すと、改めて確認した上で受け取った。

 

 紫藤イリナの傷はアーシアが治療してくれた。以前アーシアを強く罵倒した事についてもゼノヴィア同様に誠心誠意謝罪してアーシアもそれを受け入れた。

 

 こうして今回の全ての事件に決着がついた。

 

(……後は俺のことだけだな)

 

 コカビエルは言っていた真実を知る者は近くに居ると……。

 

 真実とは一体なんなのか?それを知る者とは一体誰なのか?

 

 俺にとってはまだ終わっていない。

 

 

 ―○●○―

 

 

「……報告ありがとう。よく頑張ったね、リーア」

 

 僕の目の前にはコカビエル事件の顛末を説明するため、妹のリアスと彼女の女王(クイーン)である朱乃君が並んでいた。

 

「まさかコカビエルを退けるとは驚いたよ」

 

 報告書によれば、コカビエルを退けられた最大の要因は菅原ユウ君、そして白龍皇の乱入。

 

「お兄……いえ、魔王様。一つお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

 妹のリアスが僕のことを魔王と呼ぶときは、いつも此方が答えづらい質問をするときだ。

 

 大方、彼のことを聞きたいのだろう。

 

「彼、菅原ユウの背中に刻まれている【聖なる対極の紅十字】とは一体何なのですか?」

 

 椅子の背もたれに背中を預けて、僕はリアスと朱乃君から視線を外す。

 

「コカビエルはその真実を知る者が彼の近くにいると言いました。魔王様なら何かご存知なのではありませんか?」

 

 矢継ぎ早に質問してくるリアス。適当なことを言って誤魔化せる雰囲気ではない。

 

「リアス、朱乃君……それを答えるのはもう少しばかり待ってはくれないだろうか?」

 

 僕の返答は二人の考えていたものとは違っていたのだろう。その証拠に二人とも無意識に喉を鳴らす。

 

「【聖なる対極の紅十字】とは世界にとって何よりも重要なものだ。いずれ彼を交えて話をしなければならない。その時まで待っていてはくれないだろうか?」

 

 僕は普段リアスに魔王としての顔は見せない。だが、冥界の大事に関わる彼の存在については、統治者の一人として対応しなければならない。

 

「では、真実を知る者について……お心当たりはございますか?」

 

 リアスと朱乃君の表情は真剣そのもの。二人にとって彼は余程大切な存在なのだろう。

 

「……すまない、それについては心当たりはない」

 

 だが、それでも君達に話す訳にはいかない。これ以上、若い世代の君達に負わせることではない。

 

「……そうですか。では、お話し頂けるまで待ちます。行くわよ、朱乃」

 

 そう言って一礼するとリアスと朱乃君は部屋を出て行った。

 

 僕は大きく息を吐き、目頭を抑える。

 

「グレイフィア、堕天使陣営と天使陣営に連絡を頼む」

 

 グレイフィアも一礼して部屋を後にする。

 

『世界が荒れるぞ、あいつを中心に』

 

 僕は以前、親友に言われた言葉を思い出す。

 

 その言葉が現実味を帯びてきた。

 

 数百年間、不安定ながらも均衡を保ってきた三者の関係が有り得ない速度で変化して行く。

 

 その先になにが待つのか、誰にも分からない。

 

 突如として降り始めた雨を見つめながら、来たるべき時に備えるため、僕は世界にとって重要な決断を下した。




第26話更新しました。

更新を開始してから5月で一年になります。
熱しやすく冷めやすい筆者が一年近く続けられているのは作品に目を通してくれる読者様のおかげです。
今後も不定期ではありますが、更新していきますのでよろしくお願いします。

内容のほうはようやく3章の最終盤に入って来ました。一応、次話で3章終了の予定です。オリジナルの展開が多くなると思いますので自由に書いていきたいと思います。

では、また次回。
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