第1話です。
第1話
月の淡わく優しい光が地上を照らす頃、駒王の町は多くの人々で賑う。
仕事終わりで家路に着く者、同僚と酒を酌み交わし盛り上がる者、家族と一緒に買い物や食事を楽しむ者、恋人同士でデートする者など、その様相は様々である。
建ち並ぶ店舗の煌々とした光に誘われ、1人また1人と店内を訪れていく。
その人の波は、まだ当分途切れそうにない。
レストラン グランデ
多くの店舗が軒を連ねる一角にその店は存在する。本格的なイタリア料理が低価格で楽しめるとあって、連日多くの客で賑わっている。
「6番テーブル行けるよ!」
店の厨房は毎日この時間帯になると、宛ら戦場と化す。
「なんでまだ2番の料理があるんだよ!早くサーブしろ!」
フライパンがコンロにぶつかる音、肉や魚を調理する音や使用済みの調理器具や食器を洗う音など様々だが、その中で一際大きく響くのは、料理長と思われる男性の怒号であった。
「3番前菜行けるよ~」
そんな鬼気迫る厨房に少し間の抜けた男の声が響き渡る。
「こらっ!ユウ!そいつは3番じゃなくて5番だろうが!」
厨房全体に目を光らせていた料理長から透かさずチェックが入る。
「しかし料理長!5番はヤロー共ですが、3番は綺麗なお姉様方です。オーダーが同じならば先に綺麗なお姉様方に料理を楽しんでいただくのが普通ではないでしょうか?」
彼は次の料理の準備を進めながら、真顔でサービス業に従事する者として有るまじき発言をする。
「バカヤロー!何度同じこと言えばわかるんだ!」
[ゴンッ]という鈍い音とともに、料理長の今日1番の怒号が厨房内に木霊する。
「ぎゃぅ!」
料理長渾身の拳骨が頭部に炸裂する。彼はどこから出したのかわからない悲鳴を上げ、頭部を押さえしゃがみこむ。
「全くお前は!そもそもお前ずっと厨房に居てホールに出てねぇだろ。毎回思うが、なんでいつもどの客がどのテーブルに着いたかわかんだよ?」
料理長の疑問に厨房にいるスタッフたちが一斉に頷く。
「それは・・・愛ですかね」
彼は立ち上がり少し考えると、厨房内を見渡し、料理長に対して真剣な表情で答えた。
「ハァ。真面目に聞いた俺がバカだったよ」
料理長は盛大にため息を吐き、額に手を添えて首を左右に振る。その様子に厨房スタッフたちは苦笑いを浮かべる。
「ため息を吐くと幸せが逃げますよ、料理長」
彼の余計な一言で、再び料理長の怒号が店舗内に響き渡ったのは言うまでもないだろう。
「おっ!厨房ではまたやってるね」
料理長の怒号が響き渡ることは常連客の間では名物となっており、店内は笑いに包まれた。
その後もホールには客足が途絶えることなく、閉店時間を迎えるまで店内は客の笑顔で満たされていた。
「お先でーす」
店内の清掃を終え、家路に着くため着替えを済ませて、スタッフに挨拶する。現在、彼が身に付けているのは駒王学園の制服である。
「おう、明日もよろしくな」
帰り際に料理長から声を掛けられ、彼は会釈をして店を後にし、家路に着く。
家に帰るまでの道中、咲き誇る桜を眺めながら彼は考えていた。
自分の身体に妙な力が宿ってから、約2年の歳月が流れた。
五感の異常発達、肉体の急激な成長。そのどれもが常人の範疇を越えるものであった。
15歳の誕生日を迎えたあの日の朝。その瞬間、彼の生活は一変した。
五感は信じられないほど鋭敏になり、肉体には驚くほどの力が宿った。
さすがにおかしいと病院で検査を受けるも異常は見当たらず、それどころか健康優良児というありがたい診断を下された。
それでも彼の身に何かが起こっていることは確かであった。
最も悩まされたのは聴覚であった。
耳が聴こえ過ぎたのだ。
そのため、自分の聞かなくていいこと、聞きたくないことまでも耳に届いてしまい、彼は精神崩壊を起こし掛けた。
このままではまずいと考えた両親が、すぐさま駒王町近くに居を構えていたアジュカという人物のもとを訪れ、息子の症状を説明し、その日から治療を受けることになった。
治療の甲斐あってか、精神の方は半月足らずで落ち着きを取り戻し、普段の生活に戻れるようにはなったのだが、そこからは治療と称してよく分からないことばかりさせられた。
目隠しをして暴れ狂う猛獣に追い掛け回されたり、鼻栓をさせられ、世界一臭い食べ物と呼ばれるシュール・ストレミングを口の中に大量に放り込まれたりと、もはや治療ではなく人体実験に近いようなことを散々させられた。
そんな生活が1年続き、アジュカ先生からもう教えることはなにもないと言われてしまった。
治療をしていたのではないのかと問いただすと、「考えるな」と一言で片付けられてしまった。
その治療の成果なのかどうかは定かではないが、俺は五感と肉体をコントロール出来るようになっていた。
鋭敏になり過ぎた五感は元に戻り、力の加減ができなくなっていた肉体は普段の生活でも不自由がなくなった。
ただ、完全に元に戻ったのではなく、無意識下では存在し、必要な時にそれを引き出せるようになっているとアジュカ先生は言っていた。
試しに聴覚に意識を集中すると、そこに居ないはずの様々な者の声が鼓膜を通して頭の中に入って来た。
俺は驚き、すぐに意識を別のところへ移すと、その声は途端に聞こえなくなった。
俺のその様子を見ていたアジュカ先生が小さく頷いた。
こうして俺は正常な生活を取り戻し、それ以来アジュカ先生のもとに通うことはなくなった。
こうして俺は普段の生活に戻っていった。
「あんた、ぶつぶつとなに言ってんの?」
気がつくと、家に着いていたようで玄関の前に居た母親に妙な視線を送られた。
家に帰ると、すぐにシャワーを浴びて、1日の疲れと汚れを落とすのが習慣である。
「にゃ~」
すると、我が家の愛猫である黒猫の黒歌が姿を表した。
この黒歌は俺がアジュカ先生の所に入院し、治療を受けている時、両親が仕事で京都を訪れた際に拾ってきた猫で、最初は母親にしか気を許さず、俺に気を許すまで随分時間が掛かったが、今では帰宅し風呂に入っていると、必ず後を追い掛けてくるほど懐いてくれている。
因みに黒歌という名前は母親が決めたらしい。
どうやら父親には未だに懐いてはいないようだ。
「父ちゃんは?」
入浴を終え、黒歌を抱えながらリビングに入ると、姿の見えない父親の行方を尋ねる。
「仕事で京都だって。あんたが帰ってくるちょっと前に出ていったよ」
ソファーに腰を下ろし、ワイングラスを傾けるその姿は母親と言えど、美しいと思ってしまう。
「じっと、こっち見てどうしたんだい?まさかと思うけど、母親にあらぬ感情を抱いたんじゃないだろうね?」
ワインで酔いが廻っているのか、ニヤニヤとしながら息子を揶揄う。
「あらぬ感情は抱かないけど、綺麗だとは思うよ」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら、然り気無く質問に答える。
「そういうお世辞も言えるようになったんだね。母ちゃんは嬉しいよ」
目尻を指で拭い、泣き真似をしながら笑っている。
「別にお世[痛っ]」
俺が話を続けようとすると、腕の中に居た黒歌に指を噛まれ、腕から飛び出していった。
「おうおう、良かったな~ユウ。黒歌がやきもち妬いてくれてるぞ~」
近付いてきた黒歌を抱き抱えると、頬擦りをし、お腹を撫で回している。
「ハイハイ、もう寝るから。行くよ黒歌」
そう言うと、母親のおもちゃになっていた黒歌は目を見開き、耳を立て、尻尾をフリフリと揺らしながら俺の後を付いてくる。
黒歌が俺に懐いてくれるようになってから、殆んど寝る時は一緒である。というか、寝ていると必ずベッドに潜り込んでくるのだ。なので、今では黒歌を伴って自室に行くことが習慣になっている。
「黒歌相手に発情するんじゃないよ」
手をヒラヒラと振りながら、グラスに残っていたワインを喉へと流し込む。
「バカ言ってないで母ちゃんも早く寝なよ」
自室に戻り、明日の準備をし、ベットに入る。
バイトを始めてから、家にいる時間が極端に減った。朝、学校へ行き、授業を受けて、学校が終わるとそのままバイト先に直行する。店が閉まるのが22:00のため、そこから店の清掃など雑務をこなすと家に帰るのは早くても23:00。そうなれば家にいる間に出来ることなど限られてくる。
この生活がもう1年になる。
事の発端は父親の一言である。
「学生のうちから社会に出ていた方が将来のためになる」
父親曰く、菅原家の家訓らしい。
それを聞いた母親が次の日には今のバイトを探してきた。俺は言われるがままにその日から働き始めた。
初めは気乗りしなかったが、やってみると中々面白かった。最初は皿洗いなどの雑用だけだったが、初めてのスタッフの賄いを任された時、発達した味覚と嗅覚を活かして料理を作り、提供すると、皆から絶賛され、野菜係に昇格、そこで包丁の使い方をみっちり仕込まれ、たった1年で前菜担当という異例の出世を遂げるまでになった。
父親の言った通り、社会に出ていて良かったと思うし、母親が探してきてくれたのが今の店で良かった。2人には本当に感謝している。自分の身体のことでたくさん心配を掛けた。だから、早く社会に出て一人前になり、たくさん親孝行したいと考えている。
夢も出来た。
もっと料理の腕を磨き、自分の店を持つこと。小さな店でいい、その店に父親と母親を招待して自分が作った料理を振る舞う。
ささやかだが、それがおれの夢だ。
「にゃ~」
あっ、もちろん黒歌もね。
・
・
・
ふと、目を覚ます。
時計を確認すると、いつも起きる時間だ。
いつの間にか眠っていたようだ。
隣にはいつも通り黒歌がまだ眠っている。
頭を撫でてあげると、目を覚ましたのか、可愛らしい鳴き声が聞こえる。
俺と同じように身体を伸ばし、用意してある制服のもとにとことこと歩いて行く。
毎朝見られる光景に俺は自然と笑みが零れる。
制服に着替え、いつもと同じように黒歌を抱えリビングに入る。
「おはよう、起きてきたね。黒歌もおはよう」
俺は母親に挨拶を返すと黒歌をソファーに降ろして、身支度を整えるため洗面台へ向かう。
リビングでは黒歌の鳴き声が響いている。いつも通り、母親に朝食でも要求しているのだろう。
身支度を整えリビングに戻ると、テーブルに朝食が用意されていた。黒歌もミルクを貰い、ご機嫌な様子。
席に付き朝食を摂り始めると、黒歌もミルクを舐め始める。本当に頭のいい猫だと感心する。
「今日もバイトかい?」
昼食の弁当をテーブルに置きながら、今日の予定を聞いてくる。
「うん」
味噌汁を啜りながら簡単に返事を返す。
「楽しいかい?バイト」
黙々、箸を進める息子に自然と笑みが零れる。
「うん。どうしたの急に?」
新聞を片手にコーヒーを飲む姿はいつものことだが、あまりそういうことを普段、母親に聞かれることがないので疑問に思う。
「いやなに。相変わらず朝はダメみたいだからさ」
フフッと笑いながら、洗面台で整えたはずの寝癖を直される。
「楽しいよ。ご馳走様」
食器を片付け、洗面台に行き歯を磨く。
リビングに戻り、鞄を持ち、黒歌を一撫ですると、準備完了。
「じゃ、行ってきます」
そう言って玄関を開け出て行く息子の後ろ姿はいつも通りだが、妙な胸騒ぎがする。
「無事に帰って来なよ」
届くことのないその言の葉は言霊となり、そこに漂い続ける。
家を出てしばらく歩くと、登校する生徒がポツポツと出てくる。すでに始業時間が迫っており、このまま行けば遅刻であろう。
しかし、彼は急ぐことはない。彼にとってはいつも通りなのだ。母親が言っていた通り、やはり朝はダメらしい。
彼が校門を通り過ぎると同時に、始業のチャイムが校内に鳴り響く。
それでも急ぐことのない彼は廊下で担任教師と鉢合わせになり、軽く会釈し、同時に教室に入る。
これが彼の登校の一連の流れである。
席に付くと、隣の席の紅の髪の女子生徒にクスクスと笑われてしまう。
朝のホームルームが終わると、その女子生徒の姿はなく、代わりにクラスの女子生徒たちが一斉に俺の所へやって来てあっという間に囲まれる。
いつもなら眠そうにしている俺には誰も近づいて来ないというのに、今日はどうしたことだろう。
「どうなってるの菅原君!」
凄い剣幕で話し掛けてくる1人の女子生徒、すると周りを囲っていた女子たちも一斉に話し始める。
「えっと、何かあった?」
なんのことやら皆目検討も付かない俺は、女子生徒に聞き返してみる。
「リアス様よ!」
女子生徒たちが聞きたいのは、同じクラスで隣の席のリアス・グレモリーに関することのようだ。
「グレさんがどうかしたの?」
彼とリアス・グレモリーが初めての出会ったのは入学式当日の帰りのホームルームであった。
双方、入学式の出来事でお互いの存在だけは認識していたものの話をするのはもちろん、顔を合わせるのも当然初めてである。
「ここあなたの席だったのね菅原ユウ君」
突然、初めて顔を合わせる人物に名前を呼ばれたことにも驚いたが、自分の目の前に居るのは絶世の美女とも言われるリアスであれば、男なら誰でも動揺し、混乱するのが普通だろう。だか、この男は予想の斜め上を行く。
「えっと、ハロー?」
リアスがクラスで初めて朱乃以外の生徒に声を掛けた。
周囲の生徒はそれだけでも興味津々だというのに、男の返答に周囲の生徒は驚愕する。
「なにそれ?私、日本語で話し掛けたのよ」
フフッと口元を押さえながら、笑顔を見せるリアス。
一見すれば、クールで近寄りがたい雰囲気を纏うリアスだが、この時見せた彼女の可愛らしい笑顔は15歳という年相応のものであった。
「君は入学式で退場する時、大声で名前を叫ばれてた」
リアスにとってあまり思い出したくない出来事を平気で口にする男。
「そ、それは忘れてちょうだい!あなただって入学式に遅刻した上に体育館に入ってくるなり、いきなり蹴り飛ばされてたじゃない」
入学式でのお互いの痴態をいきなり大声で言い合う2人に周囲も驚きを隠せない。
「そうなんだよ。家の母ちゃん普段は優しいんだけど、1度火が付くと周りが見えなくなって大変なんだよ」
職員室で無理矢理下げられ、痛む首を押さえながら、母親の愚痴を初対面の相手にいきなり相談し始める男。
「あなたの家もそうなのね。家はね兄がそうなの。普段はとてもいい兄なのよ。でも、スイッチが入っちゃうと止まらなくなってしまうの」
リアスもまた兄に対する愚痴を口にする。
お互い初めて顔を合わせたというのに、お互い同じような境遇だったようで意気投合する。
その結果に周囲も驚きを隠せずにいたが、近寄りがたいと思っていた2人が急に近くに感じ、2人はその後クラスの人気者になる。
「改めて菅原ユウです。よろしく」
ユウが初めて自分の名を口にして、彼女の前に手を差し出す。
「リアス・グレモリーよ。よろしくね、菅原ユウ君」
差し出された手を握り返し、2人は握手を交わす。
その様子に周囲も大盛り上がり、初日にしてクラスが1つになった瞬間であった。
「あらあら、なにやら楽しそうですわね」
2人が握手を交わしていると、黒髪でポニーテールの女子生徒が声を掛けてくる。
「朱乃。菅原ユウ君よ。彼とは仲良くなれそうだわ」
リアスから朱乃と呼ばれた女子生徒に視線を移すと、こちらも滅多なことではお目にかかる事が出来ない美女で、リアスと比べても遜色なかった。
「姫島朱乃と申します。リアスとは親友の間柄ですわ」
そう言うと朱乃も手を差し出してきた。
「菅原ユウです。入学式ではお見苦しいところお見せしてすみませんでした」
朱乃の手を握り返し、入学式での痴態を詫びる。
「ウフフ、なかなか面白い趣向でしたわ」
3人それぞれの自己紹介を終えると、周囲には自分もとどんどん人が増えて行き、ホームルームの前に全員の自己紹介が終わってしまった。
「お前らホームルームは」
担任教師の呟きが虚しく教室に木霊する。
それからというもの3人で一緒に居る時間が多くなり、体育祭や文化祭、修学旅行などでも共に行動するようになっていた。
ユウはリアスをグレさんと呼び、朱乃のことは姫ちゃんと呼ぶようになった。
リアスは最初こそ拒否反応を見せたが、ユウの「可愛いのに」の一言により遂に陥落。顔を真っ赤にしながら俯くリアスの姿に、ユウと朱乃は互いに顔を見合わせ笑った。
次第に学園生徒の間で2人の絶世の美女を手に入れた者として、ユウは【学園の皇帝】の異名を授けられることになる。
リアスと朱乃もまた【学園の二大お姉様】として学園生徒の注目の的となっていった。
「それでグレさんがどうかしたの?」
周囲を囲って居る女子生徒たちに、さも興味無さげに問い掛ける。
「リアス様ったら今朝、あの変態3人組の1人と一緒に登校してきたのよ。菅原君なにか聞いてない!」
変態3人組。2年生の中にそう呼ばれる3人組が居ることは彼の耳にも届いていた。
周囲の迷惑を考えず、堂々と卑猥なDVDや本を広げたり、女子更衣室を何度も覗きに入ったりなどなどその3人組の悪行は挙げればキリがない。
ユウのところにも3人組をなんとか出来ないかと、1日何件もの苦情が寄せられている。
その都度、ユウは女子生徒たちに助言を送り、何度も3人組から女子生徒たちへの被害を防いできた。
「私がどうかしたかしら?」
ユウが頭を捻り、考え込んでいると後ろから声が掛けられる。
「リ、リアス様!今朝、あの変態3人組の1人と一緒に登校してきたと言うのは本当ですか!?」
女子生徒の1人がリアスに詰め寄る。
「そのこと。えぇ、本当よ」
リアスのその一言にクラス中が絶叫する。
「リアス様が汚された!」
「兵藤一誠許すまじ!」
などなど物騒な言葉が辺りに飛び交う。
「ふーん。グレさん今日、そいつと一緒に学校来たんだ」
席に着いたリアスに頭を机に付けたまま、顔をリアスの方に向け話しかける。
「そうよ。あなたがそういうことに興味を示すなんて珍しいわね。もしかして、嫉妬してくれたかしら」
彼を挑発するように妖艶な笑みを浮かべながら、リアスはユウに問い掛ける。
「うん、した」
ユウのストレートな物言いにリアスは驚き、顔を真っ赤にし、口をパクパクさせる。
「学園の男の中でグレさんと一番仲良しなのは自分だと思ってたから」
すでに精神の限界を迎えているリアスにユウは更なる追い討ちを掛ける。
菅原ユウは知っていた。
ときに妖艶な顔を見せ、人を挑発するような発言をすることを。
菅原ユウは知っていた。
ときにプライドが高く、傲慢な態度を見せる事があることを。
菅原ユウは知っていた。
ときに冷徹で周囲を寄せ付けない雰囲気を纏うこと。
菅原ユウは知っている。
とても純情で可愛らしい夢見る乙女であることを。
菅原ユウは知っている。
自分に自信がなく。常に周囲の期待に答えようともがいていることを。
菅原ユウは知っている。
信じた友を誰よりも大切にし、友を守るためならば、自らを省みないことを。
「ユ、ユウ君!そ、それって!」
リアスは動揺の余り、ユウを顔を見ることができないでいる。
「どうしたのですか、リアス?顔を真っ赤にして」
教室に戻ってきた朱乃がリアスの様子がいつもと違うことに気が付き、声を掛ける。
「あ、朱乃!こ、これはその」
リアスはまるで恋する乙女のように顔を真っ赤にし、両手の人差し指を胸の前で擦り合わせいる。
「見てくださいリアス。ユウさんのお顔」
朱乃に促され、自分がこうなった原因を作った男の顔を横目でチラチラ見るがユウの様子は窺えない。
「スゥースゥー」
リアスが意を決してユウの方を見ると、そこには180㎝前後の大きな身体を九の字に折り曲げ、顔だけリアスの方を向き、寝息をたてるユウの姿があった。
「あらあら、可愛らしい寝顔ですね。まるで子供のようですわ」
リアスはその姿を見て愕然とする。
自分がどんな気持ちで高鳴る鼓動を沈めようとしているか。
確かに最初に挑発したのは自分だが、流石にこの仕打ちはないのではないだろか。
ユウの幸せそうな寝顔を見ていると、徐々に怒りが沸いてくるリアスであった。
「それで姫ちゃん、グレさんはなんでこんなに機嫌が悪いわけ?」
昼休みいつもの3人で昼食を摂るため、屋上へ向かっていた。
「それが、何を聞いても教えてくれなくて」
明らかに機嫌の悪いリアスの後ろでこそこそと話をする2人。
「2人共、何をこそこそ話しているのかしら?」
リアスは笑顔ではあるが、目がまったく笑っていない。
ユウには身に覚えがあった。
(まずい。ああいう顔をした時の女性は本当にまずい)
菅原家の最高権力者が本気で怒った時と同じ顔をリアスがしていたのだ。
「あっ!飲み物忘れたから買ってくるから先に行ってて」
ユウは2人の返事も聞かずに、一目散にその場を去った。
「ふぅ、危なかった」
中庭の自販機まで逃げてきたユウは飲み物を買うため財布を手に取る。
「なにが危なかったんですか?」
背後から声を掛けられ振り向くと、そこには140㎝にも満たないだろう背丈の少女がこちらを見ていた。
彼女を知らない人ならば、高等部に迷い混んだ幼稚舎の生徒と間違っても致し方ないだろう。
「塔城ちゃんこそどうしたの?お茶飲む?」
塔城 小猫
それが今、俺の目の前に居る少女の名前。
美しい白髪のショートカットで可愛らしい猫の髪止めが印象的な女の子である。
身長が低いため、幼稚舎の生徒に間違われてもおかしくはないが、歴とした高等部の1年生なのだ。
最近では【学園のマスコット】なる二つ名で有名だ。
「お茶より牛乳がいいです」
俺は自販機で牛乳を購入し、彼女に手渡した。
「ありがとうございます」
俺が彼女と初めて出会ったのはグレさんの紹介だった。
グレさんと彼女は元々知り合いで、来年度から高等部に入学するからよろしく言われた。
それを機に彼女は度々こうして俺の前に現れる。
「先輩は猫を飼ってますか?」
初対面でいきなりそんなことを聞かれたのは初めてだったため、印象に残っている。
「今日はリアス部長たちと一緒じゃないんですか?」
リアス部長
グレさんは高等部に入学した時に姫ちゃんと一緒にオカルト研究部という部を設立している。
実際、俺も何度か誘われたが、バイトで忙しいと断っている。
学園の旧校舎を活動場所としているらしいが、活動内容がよく分からない部活でもある。
あと1人、2年生で【学園の王子様】の異名を持つ木場祐斗も所属していて、現在は4人で活動しているらしい。
「グレさんの機嫌が悪くてね。姫ちゃんに聞いてもわからないし、飲み物でも買っていって機嫌直してもらおうかと思ってね」
理由がわからないという俺に、塔城ちゃんが核心を突く。
「リアス部長のことをいつまでもグレさんなんて呼んでいるからじゃないんですか?」
腕を組み、真剣な表情で悩む俺を見て塔城ちゃんがアドバイスをくれる。
「1度リアス部長の目を見て、リアスと名前で呼んであげれば解決すると思いますよ」
塔城ちゃんのアドバイスを実行すべく、俺は屋上へ戻る。
「ありがとうね塔城ちゃん。また今度、牛乳ご馳走するから」
そう言って先輩は屋上へ走って行った。
リアス部長から先輩のことを紹介された時、なんだかとても懐かしい感じがした。なにかはわからないが、先輩を見てると胸の辺りがぽかぽかし、暖かい気持ちになるのだ。
それから事ある毎に先輩に接触した。
登校途中の先輩を待ち伏せしてみたり、先輩に会うためだけに3年生の区画を歩いてみたり、今日のように昼休みに一緒に昼食を食べたりと、出来るだけ一緒に居れば胸がぽかぽかする理由がわかると思ったからだ。
どんな時でも優しい笑顔を見せてくれる先輩を見てると、胸がぽかぽかするのだが、それ以上にモヤモヤする。
この胸のモヤモヤはなんだろうか。
もっと先輩と一緒に居れば晴れるのだろうか。
塔城ちゃんのアドバイスを実行するため、俺は屋上の扉を開けた。
「遅かったですわねユウさん。お先に頂いておりましたわ」
姫ちゃんに飲み物を手渡し、まだ機嫌の直らないグレさんに近づく。
「遅くなってごめんね、リアス。これ、リアスの分の飲み物」
俺がリアスと名前で呼ぶと、リアスは驚いたようにこちらに振り返り、差し出した飲み物を手に取る。
「あ、ありがとう」
リアスは飲み物と俺の顔を交互に見て、ようやく笑顔を見せる。
「こ、今回は許してあげるけど、次にああいう事したら許さないから」
内心、リアスが何を言っているのかわからなかったが、リアスの機嫌が直ったことに安堵した。
「あらあら、でしたら私のことも姫ちゃんではなく、朱乃と呼んでくださいな」
一難去ってまた一難。
今度は朱乃が身体を寄せて、耳元で囁くように話し掛けてくる。
「ちょっと朱乃!あなた、距離が近すぎるわよ!もっと離れなさい!ユウ君が困ってるじゃない!」
朱乃の行為を見て、リアスが急に立ち上がると、なぜか俺の手を引っ張り始める。
「そんなことありませんよねユウさん?リアスだけ名前で呼ぶなんてズルいですわ」
2人は俺の手を引っ張りながら口論を始めてしまった。
「わかった、わかったから。これからは2人共名前で呼ぶから、喧嘩はダメ」
2人がようやく手を離したところで昼休み終了を告げるチャイムがなり、満面の笑みを浮かべたリアスと朱乃の後ろをぐったりとしたユウが2人に手を引かれ、教室に戻って行く。
放課後、玄関口で塔城ちゃんに会ったので2人を名前で呼ばなければなくなったことを伝える。
「それは先輩の要領が悪いからです」
とバッサリと切り捨てられた。
第1話更新しました。
思った以上に書けていることに自分でも驚いてます。
ようやく原作の主要キャラを何人か登場させることができました。
口調や仕草など自分なりに解釈して書いたつもりですが、こんなの違うと思われた方はすみません。
本当はこの話の最後に金髪のあの人も出したかったのですが、気がついたら10000字を越えていたのでキリがいいところで次話に持ち越しました。
このような作品を最後まで読んでくれる方ありがとうございます。
また誤字・脱字の報告をしてくださった方ありがとうございます。
では、また次回。