ハイスクールD×D Yto   作:今日から禁煙

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小林さんちのメイドラゴン最高!

第31話です。


第31話

 

 この傷は繋がりだった──

  だから消したくなかった──

   この気持ちを伝えるまでは──

 

 ―○●○― 

 

 浴衣を着たグレイフィア様がリビングのソファに横になっている。

 

 その隣には団扇(うちわ)を扇ぎながら柔らかな表情で最愛の妻の頭を撫でるサーゼクス様の姿。

 

 なんと微笑ましい光景だろうか…俺の視界を遮り、目の前に仁王立ちする五人の女性達がいなければ…。

 

「事情は分かったわ。でも、グレイフィアが入って来たときにすぐにお風呂から出ていればこんなことにはならなかったんじゃないかしら、ユー?」

 

 視線を上げれば、目を細めたリアスが腕組みをして俺を見下ろしている。

 

 事情は全て正直に説明した。だが、どうやら俺とリアスの事情と言うのは根本的に違うらしい。そうでなければ硬い床に正座をしているはずがない。

 

「そうですよ…しかもお相手のグレイフィア様は部長さんの義姉様ですよ。これがどういうことかお分かりにならないんですか、ユーさん?」

 

 お分かりになっていないのはそちらですよ、アーシアさん?俺は全てをお話しましたよ?

 

 折角仲良くなれたゼノヴィアが後ろで震えてますよ。

 

「フッフッフ、溜まっているのであれば試着室で言ってくださればよかったのに、ユー君?」

 

 確かにこの数年ご無沙汰だが…ってそういうことではないでしょ、朱乃さん。目が笑っていないよ?

 

「…」

 

 目の前に立ってるんならせめて何か言ってくれませんか、小猫さん?ただ冷たい視線を送られるのは一番辛いんですよ?

 

「小さい頃から口酸っぱく教えてきただろう…人様のものには手を出すなって!育て方を間違ったかな〜?」

 

 これは事故だよ、母ちゃん?貴方の息子は何処に出しても恥ずかしくないくらいに真っ直ぐに育ちましたよ?

 

「まぁまぁ、リーア…今回は知っていて止めなかった私にも否はあるからその辺で勘弁してくれないか?」

 

 そうですか…原因は貴方ですか、サーゼクス様?

 

「お兄様は黙っていて下さい!これは私達とユーの問題です!」

 

「すまない」と言って再び団扇を扇ぎ始めるサーゼクス様。

 

 魔王という立場ではなく、リアスの兄の立場のこの方では言っては悪いが何の役にも立たない。

 

 グレモリー家では完全に女性のほうが立場は上のようだ。

 

 そんなこと考えている場合ではなく、この五人を何とかしないと先がないのだが、全員を納得させる答えなど皆目検討もつかない。

 

「全くお前は本当にモテるな…けしからん!」

 

 脳をフル回転させて事態を収拾する方法を考えていると、完全に頭にアルコールの回った父ちゃんがノコノコと首を突っ込んできた。

 

 雰囲気は確実に地雷を踏みに来たようにしか見えないが、俺にとって救世主になってくれるだろうか?

 

 それにしてもけしからんとは穏やかではないな。

 

「リアス、アーシア…今日から二人一緒にユウと寝ることを禁ずる!」

 

 ど、どうしたんだ急に!?

 

 遂に毎日三人で一緒に寝ていることがどれだけ異常なことか理解したか!?

 

「あっあなた!何勝手なこと言ってるの!?」

 

 父ちゃんのいきなりのド正論に血相を変えて止めに入る母ちゃん。

 

 突然、槍玉に挙げられたリアスとアーシアも母ちゃんと一緒に父ちゃんに詰め寄る。

 

「君達は黙っていなさい!」

 

 珍しく…というか初めて母ちゃんに声を荒げる父ちゃんを初めて見た。

 

 そしてズカズカと俺の前まで歩いてくると、肩を思い切り掴まれる。

 

「今まで黙って見ていたが、お前達はまだ高校生だぞ!それなのに…それなのに!?」

 

 アルコールのキツイ匂いに顔を顰めていると、父ちゃんが涙を流し始めた。

 

 困惑して母ちゃんに視線を送ると「この人は重度の泣き上戸なのよ」と言って呆れていた。

 

 どうやら父ちゃんはワインやシャンパンといったアルコール類では酔わない体質らしいがウイスキーや麦焼酎、日本酒などの穀物が原料のアルコール類では直ぐに酔うらしい。

 

 たまに雰囲気を楽しむために嗜むことはあるようだが、今日のように考え無しに摂取することはまずないらしい。

 

(なにか嫌なことでもあったのか?)

 

 父ちゃんに肩を揺らされながら心当たりを探って見るが思い当たる節がない。

 

 まぁいい!ともあれ、これで刺戟的(しげきてき)な朝とはおさらばだ!!

 

 ありがとう!父ちゃん!!

 

「もしも…もしも二人同時に身籠ったりしたらどうするつもりだ!!」

 

 …

 ……

 …………おぅ?

 

 

 ―●○●―

 

 

「すまないね、ユウ君」

 

 今、俺はベットに横になり、天井を見つめている。

 

 見慣れた天井だ。

 

 そこは数ヶ月前まで俺が寝起きしていた部屋だった。

 

 倉庫になっていたはずなのにいつの間に片付けたのだろうか?

 

「いえ…父がお見苦しいところをお見せしました」

 

 そんな部屋にサーゼクス様と二人。

 

 あのあと更に暴走した父ちゃんが事もあろうに母ちゃんにも絡もうとして母ちゃんの拳が父ちゃんの腹に突き刺さり、失神した父ちゃんを抱えて母ちゃんはリビングを後にした。

 

 その去り際に今日の部屋割りを言い残していったため、こういう事態になっている。

 

 もはや父ちゃんと母ちゃんを連呼しすぎて自分でも何を言っているのか分からずに混乱している。

 

 因みに現在の俺の部屋は今日は女の園となっている。

 

「アザゼルがこの街に来ていることは聞いているかい?」

 

 同じように天井を向いているサーゼクス様に不意に問われ、返事をする。

 

 アザゼルとは確か『神の子を見張る者(グレゴリ)』の総督の名前だ。

 

 先日、兵藤に接触したとリアスが激怒していたのを覚えている。

 

「まだ君の前に現れていないとは意外だよ」

 

 学園でサーゼクス様の話しを聞いたとき、今回の三者会談に際して全勢力が俺を招聘するように望んだということは当然、その中の一勢力である堕天使勢も含まれている。

 

 話を聞く限りでは男のようだが、一体どのような男なのだろうか?

 

「大丈夫さ、アザゼルに関してはそこまで警戒することはないよ」

 

 どうやらアザゼルという男は以前ゼノヴィアが話していた通り奔放な人物のようで、組織のトップという立場にありながら神器(セイクリッド・ギア)の研究に興じる変人らしい。

 

「だがそれでも『神の子を見張る者(グリゴリ)』の頂点はアザゼル…これがどういうことか理解できるね?」

 

 つまりどれだけ奔放に振る舞おうと、どれだけ巫山戯た行いをしようと、キワモノ揃いの堕天使達の頂点に居続けることが出来る程の力を持つということか?

 

 それともその地位に居続けることを望まれる程の得を持つカリスマか?

 

 何れにしても強大な影響力を持っていることは間違いないようだ。

 

「会談が始まれば嫌でも顔を合わせることになるさ、今から気を張っていても仕方ないよ」

 

 サーゼクス様はそう言うが、やはり姿が見えないというのは不気味なもので、知らないということがこれ程怖いことなのだと言うことを最近特に思い知らされている。

 

「…リーアのあんなに楽しそうな姿を久しぶりに見たよ」

 

 突然、脈絡のない話を始め、上半身を起こすサーゼクス様。

 

 今日のどの場面を見てそう思ったのかは疑問だが、この家で暮らすようになってからのリアスはいつもこんな感じだ。

 

「ユウ君…君はリーアのことをどう思っているんだい?」

 

 その問い掛けに視線をサーゼクス様に向けると、真剣な表情をしていたため、俺も上半身を起こしてサーゼクス様と向かい合う。

 

 リアスのことをどう思っているか?おそらくサーゼクス様が聞きたいのは好きか嫌いかという単純なことではないだろう。

 

「君の周りには多くの女性がいるようだ、その中でリーアの立ち位置はどうなのだろと感じてね?」

 

 立ち位置…そう言われると答えに詰まる。確かにリアスを初めとしてアーシアや朱乃、小猫といったオカルト研究部の女性に囲まれているが考えたこともない。

 

 いや、考えるふりをしてその答えを後回しにしてきた。

 

 アーシアからは明確に自分の意思を伝えられ、リアスからも好意を寄せられていることには気づいている。朱乃と小猫はどうか知らないが、一定の関係は保てているだろう。

 

「正直に言いますと…どう答えを出していいのか、分からずに先延ばしにしています」

 

 取り繕ったところでどうしようもないので心の内を素直に打ち明ける。

 

 俺の話を目を細めて聞いているサーゼクス様。

 

 身内に話す内容ではないが、こう答えることしか今の俺には出来ない。

 

「一人を選べば、一人が離れていく。どちらにも嫌われたくないというズルい考えを持っているです」

 

「最低です」と自嘲する。

 

 だが、一つだけ言えることがある。

 

「ただ…なんの好意も抱いていない者のために命を賭けるようなことはありません」

 

 これだけはハッキリ言える。リアスとアーシア……未だにどちらの手を取るかは決められないが、この気持ちだけは確かだ。

 

 この答えに一瞬目を見開いたサーゼクス様の表情が次第に柔らかくなっていく。

 

「…確かにズルい考え方だね。だが、そのズルさは優しさからくるものだ。それだけ妹のことを真剣に考えてくれていると知れただけでも満足だよ」

 

 そう言って再び横になり、目を閉じるサーゼクス様。それを様子を見て俺も再び布団を被る。

 

「リアスのことをこれからもよろしく頼むよ」

 

 サーゼクス様はそう言い残すと、部屋は静寂に包まれる。

 

 しばらく見慣れた天井を見つめていると、サーゼクス様から規則正しい寝息が聞こえて来たので俺もそっと目を閉じた。

 

 

 ―●○●―

 

 

 夏だぁ!

 

 プールだっ!!

 

 おっぱいだ〜!!!

 

 オッス!俺、兵藤一誠!

 

 俺は今、猛烈に感動している!!

 

 なぜなら!右を見てもおっぱい!!左を見てもおっぱい!!!前を見てもおっぱい!!!!後ろを見ても…!

 

「どうしたんだい、イッセー君?」

 

 う、後ろは置いといて…とにかく、俺の視界にはおっぱいが広がっている!!!

 

 憧れの部長と朱乃さんのお姉様おっぱい!恥じらいながらも笑顔弾けるアーシアのおっぱい!まだまだ成長途中でこれからに期待の小猫ちゃんのおっぱい!

 

 この日が来ることをどれだけ待ちわびたことか…毎晩指を折り、眠れぬ夜を過ごしたことか!

 

 ここはパラダイスっ!楽園だ〜!!

 

 俺、駒王学園に入って本当に良かった!!

 

「どうかしらイッセー、私の水着は?」

 

 紅髪と大きなおっぱい!白いビキニから零れそうです。

 

「さ、最高です!部長!」

 

 俺の生涯でこれだけのおっぱいが見れるとは…!

 

「あらあら、イッセー君はリアスのほうが好みかしら?」

 

 黒髪と部長より更に大きなおっぱい!黒のビキニからはみ出しそうです。

 

「朱乃さんも美しいです!」

 

 本当に悪魔になって良かったぜ…!

 

「イッセーさん、私はどうでしょうか?」

 

 金髪に程良いサイズのおっぱい!赤と白と緑のストライプの可愛らしいビキニ。

 

「アーシアもすげぇ似合ってるぜ!」

 

 俺、今日で死んでも後悔はない!

 

「…」

 

 拳を突き上げて歓喜する俺に小猫ちゃんの冷たい視線が突き刺さる。

 

「…小猫ちゃんも可愛いよ」

 

 白髪に映える黄色と白のギンガムチェックの水着の小猫ちゃんは俺の言葉を聞かずに更衣室から出てきた人物に目を向けていた。

 

「みんな早いな、もう着替えたのか?」

 

 その人物は消毒用のシャワーで僅かに濡れた髪を掻き上げながら此方に近づいて来ると、四人の美女達は我先にとその人を囲み、水着自慢をしていた。

 

(…そうだよな、本当に見せたいのは俺じゃないよな)

 

 みんなに囲まれた先輩が一人一人を丁寧に褒める声と褒められたみんなの嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

 羨ましさと悔しさはあるが、正直俺が女でも先輩に褒めてもらいたい。

 

 だって髪を掻き上げながら歩いてくる姿なんてそりゃもう格好良い以外の何者でもない。

 

「日頃の特訓の成果が出てるな、兵藤」

 

 脳内で先輩への嫉妬とその格好良さを再確認していると、さっきまでみんなに囲まれて先輩が俺の隣に腰を降ろしていた。

 

「以前とは比べ物にならないくらいに良い身体になってる」

 

 深く息を吐きながら前屈する先輩。

 

 確かに前に比べたら筋肉質になってきているが、まさか先輩に褒められるとは思っていなかった。

 

 これ迄の先輩との会話の中で肯定的な言葉を貰ったことは殆どなかった。

 

 まぁ、その殆どが感情的になった俺を諌める言葉だから仕方ないけど。

 

「先輩だってシャツの上からでも分かるくらい良い身体してますよ!」

 

 少し大きめのシャツを着ているにも関わらずかなり筋肉質な肉体であることが見て取れる。

 

 そういえば、何で先輩はプールなのにシャツを着てるだろう?

 

「あの店の厨房で二年も働けば自然と筋肉質になる」

 

「お前も働いてみるか?」と言われて慌てて拒否する。先輩が地獄と口にするだけあってあの店のシェフ達はみんなガタイが良かった。

 

「プールなのにシャツ脱がないんすか先輩?」

 

 準備運動をしてるからプールに入る気はあるんだろうけど、シャツを脱ぐ気配はない。

 

「チョット!?コラ、ヤメなさい朱乃!」

 

 俺の質問に珍しく歯切れの悪い返答をする先輩の姿に首を傾げているとプールサイドではしゃぐ部長と朱乃さんの声が聞こえてくる。

 

「あのバカっ!」

 

 先輩がそう悪態ついた瞬間、朱乃さんのイタズラで白いビキニから溢れる部長のおっぱいと部長の抵抗によって黒いビキニからハミ出た朱乃さんのおっぱいが目に飛び込んできた。

 

 その瞬間、俺の視界は鮮血で染まり、快晴の青空が見えた後、ブラックアウトした。

 

 

 ―○●○―

 

 

 全くリアスと朱乃には困ったものだ。

 

 兵藤と話をしていたら、二人の戯れ合う声が聞こえてきた瞬間、それぞれの豊満な胸部が露わになった。

 

 その姿を見た兵藤が鼻血を噴き出して気を失い、今はプールサイドで準備体操していたアーシアにお願いして治療を受けている。

 

 二人には楽しいのは分かるが、あまりはしゃがないように声掛けをすると「俺以外には見せない」などと色っぽく返されてしまった。

 

 因みに治療を終えた兵藤はプールサイドで横たわっている。

 

「ユー、お願いがあるんだけど…」

 

 兵藤に心の中で念仏を唱えていると、アーシアと小猫の肩を抱いたリアスに呼ばれる。

 

「二人に泳ぎ方を教えて欲しいのよ」

 

 恥ずかしそうに視線を送ってくるアーシアとモジモジとしてプールを見つめる小猫。

 

 ある事情であまりシャツは脱ぎたくないのだが、この二人の為なら仕方がない。

 

「喜んで」

 

 そう言って二人の手を取ると、弾ける笑顔を見せるアーシアと気恥ずかしそうに顔を赤らめる小猫が目に映った。

 

 二人がビート板を取りに行っている間に俺は準備運動を済ませてシャツを脱ぐ。

 

「ユー…貴方、その背中──」

 

 ついに気づかれてしまった。

 

 リアスに上半身は見せることはあったが、極力背中は見せないようにしてきた。

 

 何故ならドーナシークの攻撃から彼女を守った時の傷がそのまま残っていたからだ。

 

 まぁ…彼女を抱こうとしたときはグレイフィア様が現れてお互いそれどころじゃなかったし、ライザー・フェニックスと戦ったときなんかは彼の炎で上半身の服が燃やされて裸だったけど、リアスも気づいてない様子だったから敢えて言わなかった。

 

「ユーさん!持って来ました!」

 

 リアスが俺の背中の傷に触れようと手を伸ばしていたのは知っていたが、敢えてその傷には触れさせずにアーシアと小猫の所へ歩を進めた。

 

「アーシア、水は怖くないんだ。もう少しだけゆっくり息継ぎをして。小猫は息継ぎは上手だけどもう少し足を使うんだ、そうすればもっと息継ぎが楽になる」

 

 俺は頭を切り替えて二人に泳ぎ方を教えることに没頭した。

 

 二人の持つビート板の先端を持ちながらスピードを調整して気付いた部分をその都度伝えていく。

 

 時折、リアスの様子を伺っていたが横たわる兵藤の隣に座りながらジッと俺に視線を送っているようにも見えた。

 

 リアスの考えいることは大方予想できるため、今は二人を優先しよう。

 

「二人共上手だよ。今度は一人ずつ俺が手を引くからゆっくり頑張ってみよう」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑顔を見せるアーシアと何か不満そうに隣のレーンに視線を送る小猫。

 

「今日中に裕斗先輩のように泳げるようになりますか?」

 

 小猫の視線は競泳のオリンピアンのメドレーのように次から次へと泳ぎ方を変えて水を掻く木場の姿を捉えていたようだ。

 

 さすがにこの短時間であのレベルまでは無理だと伝えると、爪を噛んで悔しがっていた。

 

 それでも出来る事を精一杯やる二人は短時間で泳ぎ方を体得して一人で泳げるようになった。

 

 俺が少し離れて二人を見ていると、いつの間にか復活した兵藤が鼻の下を伸ばしながら二人と仲良く泳ぎ始め、朱乃も優雅に浮輪に乗って水の流れに身を任せていた。

 

 木場は一体どれだけ泳ぐ気なのだろうか?

 

「ご苦労さま」

 

 プールから上がろうとすると、頭上からリアスが手を差し伸べてくれた。

 

「二人共、飲み込みが早くて助かったよ」

 

 差し出された手を取ってプールから上がり、タオルで身体の水気を取る。

 

「リーアは泳がないのか?」

 

 クーラーボックスからミネラルウォーターを取り出して喉を潤しながら視線を送るが、何かを考えるように遠くを見ているようだ。

 

「背中の傷…あの時のものよね?」

 

 やはりそのことかと思い「ああ」とだけ答えて座り、プールで楽しそうに遊ぶみんなの姿に目を細める。

 

「アーシアに直してもらわなかったの?」

 

 俺に寄り添うように座ったリアスが背中の傷に額を当てて話すが、少し落ち込んでいるようだ。

 

「醜いか?」

 

 正直に言えばアーシアからこの背中の傷も消そうかと相談されたが、俺は断った。別に消しても良かったのだが、その時は何故か傷を消すことに躊躇いがあった。

 

「そんなことない!醜くなんかない!」

 

「でも」と言って言葉を詰まらせるリアスはその手を俺の腹部に回して抱き着いてくる。

 

 俺としては背中に当たるリアスの息が擽ったくて気持ち良いのに加えて、薄い布一枚だけで押し付けられる女性の象徴の弾力に脳内が麻痺しそうだ。

 

「その傷が…貴方を縛りつけている気がしてー」

 

 背中に暖かな何かが伝う。その何かがリアスの涙であることはすぐに理解した。

 

 彼女の真剣さに自分だけが脳内で悦に浸っていたことを後悔して深く息を吐く。

 

 縛る…か、そう言う捉え方も出来るんだな。あの時、どうして咄嗟にリアスを庇ったのかをずっと考えてきた。

 

 考えるより先に身体が動いたなんてのは嘘だった。

 

 ドーナシークの光の矢が迫り、彼女が…リアス・グレモリーが死ぬと思った瞬間、命に変えても守らなきゃと思った。

 

 それはなぜなのか?

 

(あの時、既に答えは出ていたのかもしれません…サーゼクス様)

 

 昨夜、心の内を吐露した相手の顔を思い浮かべて自嘲する。

 

 初めて逢った時から気の合う友人だった。

 

 初めて自分の夢を語った時にも彼女はそこに居た。

 

 何時しか彼女の隣にいることが当たり前になっていた。

 

 そうしたいと思っている自分が居た。

 

 彼女が異形の存在だと知った時も予想はしていたとはいえあまり気にならなかった、彼女は彼女だから。

 

 だからあの晩、彼女から抱いてくれと言われたときは本気で抱こうとした。彼女が何かを抱えていることには気づいていたが、それでも躊躇はなかった。

 

 自分の事を理解されていないと知った時、ショックを受けて彼女の前から姿を消したのも自分は彼女にとって自分は特別な存在だと信じていたからだ。

 

 レーティングゲームでリアスの敗戦を知ったとき、何故自分がそのとき彼女の側に居なかったのかと後悔さえした。

 

 結婚式に乗り込んだ時もそうだ。話がしたいなどと周囲には言っていたが、本当は彼女を失いたくなかった。

 

 まるで答え合わせのようだ。考えれば考えるほど彼女のことが頭を過る。

 

(こりゃ重症だな)

 

 止め処なく溢れてくる彼女への想いにこれ以上蓋をすることは出来ない。

 

 振り返り、彼女と向き合い、その手に触れる。

 

「…俺は──」

 

 不安気に揺れる蒼玉の瞳。僅かに紅潮した頬。その頬に残る一筋の涙の跡。

 

 瞳に彼女の姿が映り、彼女の頬に手を伸ばす。

 

「あらあら、ずいぶんと楽しそうですわねお二人さん?」

 

 凛とした声が耳に届くと同時に”ムニュ“っとした至極の感触を背中に感じる。

 

「あ、朱乃?」

 

 リアスへと伸ばした腕を掴まれ、視線を朱乃に向けると、普段と変わらずニコニコとした表情を浮かべていたが、彼女の艶のある黒髪が水で濡れた姿はどことなく淫猥で目を奪われてしまった。

 

「ちょっと朱乃!?今はユーと大事な話をしてるんだからあとにして頂戴!」

 

 そうだった!普段とは違う朱乃の姿に目を奪われたが、俺は今リアスに心の内を打ち明けようとしていたんだった。

 

「大事な話…?ねぇユー君、よろしければ私にもその大事な話とやらをお聞かせ願えませんか?」

 

 手を握られ、指を絡められる…所謂、恋人繋ぎ。耳に吐息がかかったと思ったら“パクリ”と口に甘噛されてしまった。

 

 あまりの気持ちの良さに鳥肌が起つ。

 

 俺って耳弱かったんだ。

 

「朱乃!貴方、ユーになにをしてるの!!」

 

 激昂したリアスが俺から朱乃を引き離そうと手を伸ばす。その影響で俺とリアスの距離がなくなり、顔が豊満な胸の谷間にスッポリと収まり、視界が真っ暗になる。

 

「何って見れば分かるでしょ?部員同士のいつものスキンシップよ」

 

 背中が軽くなったと思ったら今度は後頭部に重みを感じる。

 

 目が見えていないのでハッキリとしたことは言えないが、この頭部に懸る重み、圧倒的な質量と圧迫感。そして、二人が動くたびに形を変えていく男の憧れ。

 

(…ほぼ間違いなく挟まれている)

 

 頭上で言い争いを続けているのにその声が徐々に遠くなっていく。

 

 五感の一つである視覚が塞がれ、聴覚も機能不全を起こしている分、嗅覚と触覚が異常に鋭敏になっている。

 

 頭部を挟んでいる巨大な四つの物体が好き放題に暴れ狂う。

 

「何がスキンシップよ!こんなのただの痴女じゃない!大体、朱乃はいつもそう、私の大切な物や大事な時間を奪おうとするんだから!」

 

 頭部が二人の動きに合わせて弾む。それに抵抗せずにいると、時折、固く隆起した何かが肌を掠める。

 

「ち、痴女ですって!?なんてことを…そもそもリアスは『王』のくせにケチなのよ!少しくらい良いじゃない!」

 

 この感触は間違いなくあれだよな?後頭部の朱乃のものは髪の毛のあるせいで分かりづらいが、リアスは感触といい肌触りといい完全に脱げてる。

 

 遠くで僅かだが兵藤の奇声とアーシアと小猫の驚いた声が聞こえる。

 

「私のどこがケチだって言うのよ!」

 

 大方、この楽園を目の当たりにした兵藤がまた鼻血でも噴き出して倒れたのだろう。

 

 こっちは天国だが、あっちは地獄だな。

 

「だってリアス…貴方、ユー君に迫られたのにまだ処女(・・)でしょ?」

 

 リアスの心音が大きく速くなる。というか、何故朱乃はその事を知っているんだ?

 

「可哀想なユー君。私ならそんなお預けみたいなことをしないわ」

 

 強引に後ろに引っ張られて目の前がクリアになると、案の定リアスの上半身は何も身に着けておらず、わなわなと肩を震わす度に自慢のバストも一緒に揺れている。

 

 その光景に生唾を飲んでいると、頬を手を添えられて顔の向きを変えられると、艶かしい表情の朱乃がすぐ目の前にあり、そのまま唇を塞がれた。

 

 リアスに対抗して何かしてくるとは思っていたが、まさか唇を重ねるという大胆な行動に出るとは思わず、反応出来ずにされるがままになる。

 

「私なら何時でも準備は出来ていますよ」

 

 唇を離し、朱乃の口元から処理しきれなかった唾液が零れ落ちると、その唾液を指で絡め取ると再び口の中に運ぶ。

 

 その姿はあまりにも淫靡で男の欲情を駆り立てるには十分だった。

 

 朱乃からの突然の口付けに惚けていると、紅い物体が俺と朱乃の間を横切った。

 

「朱乃…貴方、さすがにやり過ぎよ?」

 

 その物体の出処に視線を向けると、全身から迸る紅いオーラを纏った【紅髪の殲殺姫(ルイン・プリンセス)】が問答無用で魔法陣を展開していた。

 

「フフッ、やる気なのねリアス?でもこれだけは譲れないわ」

 

 そんなリアスに受けて立つと言わんばかりに妖艶な笑みを浮かべ、雷を身に纏う朱乃。

 

「ユーは私のなの!誰にも渡さないんだから!」

 

 上半身裸のまま上空に飛び立ち、ドンパチを始める二大お姉様。

 

「男性に興味がないのでしょ?だったら私に下さいな!」

 

 よく考えたらこれはマズイのではないだろうか?

 

「ユーは特別なの!貴方だって男の人は苦手でしょ!」

 

 事の原因は何だったのか思い出してみる。

 

「ユー君のような男性は他にはいませんわ。大体、処女すら捧げていないのに自分のものだなんて烏滸がましいわ!」

 

 リアスに背中の傷のことがバレて、抱き締められてー

 

「そんなの時間の問題よ!もうこの身体はユーに触れられていない所なんてないんだから!」

 

 何で傷を負ったのかを思い出してたらリアスのことしか浮かばなくてー

 

「時間の問題?そういう中途半端なのが一番時間が掛かるのよ、【紅髪の処女姫】様!」

 

 思いの丈を打ち明けようとしたら朱乃に身体を密着されてー

 

「処女姫!?貴方だって処女じゃない!【卑しい巫女】さん!いいえ、【泥棒巫女】よ!」

 

 そして朱乃の唇を奪われて…ってこの状況、原因は俺だな。

 

「泥棒!?リアス、貴方?言ってはいけないことを言ったわね?」

 

 随分と口汚い言葉で罵り合っていたようだが、この騒ぎの原因を作った者としてはこの場を収めなければならないだろう。

 

 俺は他の四人がプールサイドにいることを確認し、プールに人差し指を向ける。

 

「悪かったな二人共!これは俺からの貸しにしといてくれ!」

 

 その人差し指を争いを続ける二人に向けて曲げると、プールの水が一気に噴き出して二人を包んだ。

 

 噴き出した水が重力に従い、元通りプールを埋め尽くすとキレイな虹が出現し、それを見ていたアーシア、小猫、木場の三名は歓声を上げ、拍手をしていた。

 

「バスタオルを持ってくるから二人は水着を着ててくれ!」

 

 文字通りズブ濡れになった二人に声を掛けると、先程までの戦意は失われ、呆気に取られていた。

 

 ―○●○―

 

 俺は男子更衣室の前まで来てドアに手を掛ける。

 

(あの時、もし朱乃が来ていなかったら俺は…)

 

 答えは出た…と言っても先ずは筋を通さなければいけない女性(ひと)がいる。

 

 おそらく泣くだろう…でも、そのとき俺は彼女を抱き締めることは出来ない。何度も抱き締めて来たが、今度は抱き締めてはいけない。

 

 どんなに泣きじゃくろうともただ見ていることしかできない。

 

「先程凄い音がしたが何かあったのか、先輩?」

 

 深く息を吐いていると、慌てた様子のゼノヴィアが女子更衣室から出てきた。

 

「随分と遅かったな、何かあったのか?」

 

 未だにゼノヴィアが更衣室に居た理由を聞いてみると、水着の着用の仕方が分からなかったようだ。昨日、家で来てみたときはアーシアが丁寧に教えてくれて手伝ってくれたが、今日は自分で着てみると息巻いたものの上手く着れなかったらしい。

 

「アーシアはすぐにでも先輩に水着姿を見て貰いたいようだったから」

 

 ゼノヴィアなりに遠慮したのだろう。俺はゼノヴィアの身に着けている水着を一通り確認して間違っている部分を一箇所ずつ直していく。

 

「おぉ!そうだ、こうだった!ありがとう、優しいな先輩は!」

 

 優しい…か。今までは何とも思っていなかった言葉がやけに心に刺さる。

 

「どうしたんだ、先輩?何だか元気がないぞ?」

 

 事情を知らないゼノヴィアでも気付くんだ…余程酷い顔をしているに違いない。

 

「何でもない」と言って男子更衣室のドアを開けてバスタオルを探して手に取ると、開けっ放しにしていたはずのドアが閉まる。

 

 不思議に思い、振り向くと閉められたドアの前にゼノヴィアが立っていた。

 

 ここは男子更衣室だぞ?

 

「先輩には本当に感謝してるんだ。私が今こうしてここに居られるのも先輩のおかげだから」

 

 俺は何もしていないと言ったが、ゼノヴィアは譲らなかった。どうやらコカビエル戦の一部始終をリアスから聞いたらしい。

 

 だからといってゼノヴィアに感謝されることはしていないと思う。

 

「それにイリナにも私のことを話してくれたのだろう?」

 

 後日、彼女からゼノヴィアに手紙が届いたらしく空港での会話が綴られていたらしい。

 

 俺としては彼女の悩みに答えただけなのだか、随分と感謝されているようだ。

 

「私は生まれてこの方一度も教会の外で暮らしたことがないんだ」

 

 ゼノヴィアはこれまでの自分の半生を話してくれた。

 

 彼女は生まれながらに高い聖剣使いの素養を持っており、これまでの多くの異形の存在を容赦なく断罪してきた。

 

 敵を葬ることだけを自分の存在意義として敬愛する神のために人生を捧げてきたが、あの日彼女の中の全てが否定され、生きる糧を失っていたところにリアスから声を掛けられて悪魔へと転生したようだ。

 

「私は頭が悪いから、後先考えずに行動してしまうんだ」

 

 そう言って渇いた笑みを浮かべるゼノヴィアだが、誰だって信じていたものがなくなった時は自暴自棄になる。

 

 それが大きいか小さいかはそれぞれだ。

 

「リアス部長に言われたよ。悪魔に転生したのだがら自分の思うがままに、欲するがままに生きろと。教会では欲こそが禁だったと言うのに…」

 

 異国の地で慣れない環境に戸惑うことも当然だろうし、そこに来て別の種族への転生。ここ数日の劇的な変化に対応出来ないのも仕方がないことだ。

 

「長い悪魔生だ。これからゆっくり考えていけばいい…その内やりたいことや望むことも出来るだろう」

 

 ゼノヴィアの頭を“ポンポン”と撫でて更衣室のドアを開ける。

 

「実はもう一つは決まっているんだ。先輩…私の願いを叶えてくれないか?」

 

「先輩にしか無理なんだ」と言われて振り返ると、何だかとてもバツの悪そうな表情をしていた。

 

「私だってこういうのはいけない事だと分かっている……だけど、先輩しか考えられないんだ!」

 

 ゼノヴィアが何を言いたいのかさっぱり分からない。何がいけなくて、何が俺じゃなきゃだめなのだろうか?

 

「私は子供が欲しいんだ!」

 

 …

 ……

 …………はへ?

 

「せっかくお腹を痛めて産むのだから強い子がいいんだ!だが、先輩は友人であるアーシアの想い人だし、アーシアの許可なくそういうことをするのも気が引ける…でもやはり強い子がいいしー」

 

 話が飛躍しすぎて当の本人であるゼノヴィア自身も混乱しているようだが、俺もかなりの衝撃を受けている。

 

 まさか”好き“だの“愛してる”だのを通り越していきなり子供とは…教会育ちとはいえ感覚がぶっ飛び過ぎている。

 

「悪魔は出生率が非常に低いとリアス部長から聞いている。先輩はアーシアの相手もしなきゃならないから毎日とは言わないが、週に一度くらいは可愛がってほしい!」

 

 この娘は自分の言っていることがどれだけぶっ飛んでいるのか分かってない!

 

 というか昨夜も同じようなやり取りをしたな、どうなってんだここ最近の俺の周りの連中は?

 

「私は初めてだが、先輩はそういうことは慣れているのだろう?」

 

 ちょっと待て!何でゼノヴィアがそんな事を知ってるんだ!?

 

「昨夜、先輩の母上から聞いたのだ。相手の数は片手の指では足りないだろうと」

 

 あの人は初めて家に来た後輩に一体何を喋ってるんだ!?

 

「だから安心して身を任せてもいいとも教えてくれた」

 

 家の親の貞操観念は一体どうなってるだ!?

 

 だからか!リアスと朱乃がいつも以上に距離が近かったのは!

 

 プールで浮かれていたのが理由じゃなかったのか!

 

 本当の黒幕はあの人だった!!

 

「いいかゼノヴィア。家の節操なしが余計なことを言ったかもしれないが、子供というのはそう簡単に授かれるものじゃない」

 

 何で俺が後輩にこんな事を言わねばならんのだ!

 

「なぜだ?私のナカ(・・)に先輩のモノ(・・)イレル(・・・)だけだろ?」

 

 ゼノヴィア、アウト〜!

 

「それくらい知っているバカにするな!」と言って胸を張るゼノヴィア。

 

 マズイ、完全にズレている!

 

 このゼノヴィアという娘はアーシアとは別の意味で難敵だ!

 

 一先ず彼女と距離を置くために後ろ向きに更衣室を出ようとする。

 

 ”ムニュ“

 

 後ろ向きに歩いていると、柔らかいものが背中に当たる。

 

 なんだろう、この既視感のある感じは?

 

「随分と楽しそうな話をしていたわね、二人共?」

 

 刹那、滝のような汗が額から溢れ出てくる。

 

「あらあら、誰のナカに誰のモノをイレルですって?」

 

 悪寒が止まらない。プールで身体が冷えたせいだ!そうに違いない!

 

「私は構いませんよ、ゼノヴィアさんは親友(・・)…ですから?」

 

 昨日までギクシャクしていたのに、もう親友になれたんですねアーシアさん?

 

「性獣」

 

 小猫、お願いだからそれだけはやめて。

 

 誰に何を言われるでもなく俺は更衣室の冷たく、固い床に膝を着く。

 

 まさか半日後に同じ女性達の前で同じ姿勢を取っているとは夢にも思わなかった。

 

(今度、神社で厄祓いしてもらおう)




第31話更新しました。

最近小林さんちのメイドラゴンにドハマリしています。もし、作品を書く前に出会っていれば間違いなく眷属として登場させていたでしょう!

あの絶妙な緩さとキャラデザインが最高です!

内容のほうは原作では陽気だったプールの場面も少しシリアスにしてしまう悪いクセが出てしまい、こんな感じになりました。あとはサーゼクスとの会話の場面ももう少しなんとかしたかったと言うのが本音です。

ハーレムのタグは付けましたが、メインヒロインをしっかりと据えたほうがこの先の展開が書きやすいという当たり前のことに今更なから気づいたので、その方向で今後は執筆していきたいと思います。

読んでくださる方、感想をくれる方、手直しをしてくださる方ありがとうございます。

では、また次回。
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