第3話です
太陽の光が燦々と降り注ぎ道行く人々を照らす。
時に多くの生命を育み、永きに渡り生物の営みを助けてきた。
時に生命に不可欠な水を奪い、どれだけの生物を死滅させてきたことだろうか。
然れど太陽は刻が来れば必ずそこにある。
それを疑問に思う者などどれだけ居るだろうか。
少なくとも彼女の眼前に居ないだろう。
休日、多くの家族連れや子供達で賑わう公園のベンチに彼女の姿は在った。
太陽に照らされ、美しく輝く金色の髪。
前方を見つめる翡翠色の瞳にはいつもの光がない。
街の教会に赴任してから1週間が過ぎた。
初めて街を訪れた日、あの日に出逢った1人の青年。
確認してはいないが、おろらく自分より年上だろう。
自分だけに向けられた視線は穏やかで優しさに満ちており、頭部に置かれた手は逞しく自分の全てをそっと包み込んでくれるかのようで、彼の口から紡ぎだされる言葉はいつまでも耳に残り続けた。
偶然ではあるが初めて触れた彼の肉体は想像以上に筋肉質で、聞こえてくる心臓の音にそのまま身を委ねることが出来たらどれだけ幸せだったことだろう。
彼の働くお店のスタッフ達もとても親切で優しい方々ばかりで、この時間がいつまでも続けばいいと感じた。
僅か数時間の出来事であったが、夢のような時間だった。
(私はどうしたら良いのでしょう、ユウさん)
脳裏に浮かぶ男に想いを馳せながら、アーシアは昨夜の惨劇を思い出し、身を震わせる。
その日フリード神父に連れられ、街にある一軒のお宅を訪れた。外で仕事の手伝いをするように指示され、任された仕事が終了したことを神父に報告するため家の中に入ると、フリード神父と茶髪の男の子が対峙していた。
茶髪の男の子には見覚えがある。昨日、街で困っている私に声を掛けて下さった兵藤一誠さん。
教会の仕事で道に迷っていた私に声を掛けてくださり、親切に案内してくれた。
仕事が終わった後も街を案内していただいた。
彼から向けられる視線に時折、違和感を感じたのは気のせいでしょうか?
彼は私を友達と言ってくれた。
とても嬉しかった。
友達というものが居なかった私にとって初めて友達と言ってくれる人が現れたのだ。
ふとアーシアは思った。
ユウさんとはどんな関係になるのでしょうか?
成り行きとはいえ自分の働くお店に案内され夢のような時間をくれた。
教会へ案内していただく途中に偶然ではあるがユウさんに抱き締められ幸せな気持ちになった。
私はユウさんをどう思っているのでしょうか?
ユウさんのことを考えると胸が暖かくなります。
この全身に感じる多幸感は?
いくら考えても答えは出なかった。
この問いに答えられる人物が居るとすれば、それは。
彼も私に気がついたのか、私の姿を確認すると驚愕する。
兵藤一誠さんの足からは血が流れている。
フリード神父によって傷つけられたものだろう。
嫌な匂いを感じ、家の奥に視線を向けると人が逆十字の格好で壁に貼り付けられ、所々に釘が打ち込まれている。
私の悲鳴が周囲に響き渡る。
私に駆け寄ろうとする兵藤一誠さんはフリード神父によって吹き飛ばされる。
今度は私が兵藤一誠さんに駆け寄ろうとする。
そこで神父に告げられた一言に私は愕然とする。
兵藤一誠さんが悪魔?
困っている私に親切に声を掛けてくれて、街の案内をしてくれた兵藤一誠さんが悪魔?
私を友達と呼んでくれた兵藤一誠さんが?
気がつくと、私は教会のベッドに横になっていた。
「アーシア?」
食材の買い出しで外に出ると、燦々と降り注ぐ太陽の光が恨めしく思える。
アーシアと出逢ってから1週間が経つ。
店のスタッフの間では、アーシアの話題で持ちきりだ。
今度はいつ来るか?連絡先は?等々挙げればキリがない。
休日である今日は昼からバイトに出ている。
店ではランチの営業もあるため、昼でも客足は途絶えることはない。
目的の食材を手に入れ、店に戻る途中多くの人で賑わう公園が目に入る。
(よくやる)
太陽の光が得意ではない彼からすれば信じられない休日の過ごし方であった。
一刻も早く店に戻ろうと足を速めようとした時、見覚えのある金色の髪の少女の姿が目に映る。
俺の声が聞こえたのか少女は周囲を見渡し、俺の姿を探しているようだ。
少女がアーシアであることを確認すると、俺は彼女の側に向けて歩を進める。
俺の姿を確認するとアーシアの翡翠色の瞳から大粒の涙が頬を伝い、いくつも流れ落ちる。
勢いよく俺の胸に飛び込んでくるアーシア。
俺は食材を落とさないよう気を付けながらアーシアを抱き止める。
「ユウさん!ユウさん!ユウさん!」
何度も俺の名前を呼び、腕の中で涙を流すアーシア。
「うん」
泣きじゃくる彼女を落ち着かせるため、背中をゆっくりと摩ってあげる。
どれだけの時間そうしていただろうか。
俺の胸に顔を埋め、泣き続ける彼女をベンチに座るように促す。
今なお、涙の流し続ける彼女をあやすように背中を摩っていた手を頭部に回す。
料理長には連絡済みのため、携帯が鳴る心配はない。
メールでのやり取りからでも怒り狂う様子が窺える。
理由はわからないと返信すると、食材はいいからアーシアに付いててやれと返事が来た。
俺の胸で泣きじゃくるアーシアを俺は知らない。
1週間前に出逢った彼女は良く笑う子だった。
ようやく言葉の通じる相手に出逢えたと、安堵の表情を浮かべ笑うアーシア。
旨い物を食べれば頬に手を当てながら口角を上げ、へなへなと表情を緩め笑うアーシア。
ご機嫌になると言うこと聞かず、目の前をくるくると回りながら笑うアーシア。
段差で躓きバランスを崩し、抱き寄せると顔を真っ赤にして笑うアーシア。
教会を見つけると、子供のようにはしゃぎながら笑顔で神に祈りを捧げるアーシア。
こんなアーシアに誰がした。
負の感情が身体中を駆け巡る。
「ユウさん?」
怒りで我を忘れそうになった時、鼓膜を通し脳内へアーシアの優しい声が響く。
「ごめん。頭痛かった?」
アーシアは小さく頭を左右に振る。
俺と逢ってからずっと泣いていたため、目元が赤くなり少し腫れていた。
ハンカチに食材を冷やすために貰った保冷剤を巻き、アーシアに差し出す。
アーシアはそれを受け取ると目元を冷やす。
「ユウさんはどうして此処に?」
出会ってからずっと泣き続けていたため、まとも会話するのは1週間振りである。
1週間振りに会った彼女は外見こそ変化は無かったが少し元気がないようにも感じた。
「アーシアが泣いてる気がしたから」
アーシアの頭を撫でながら優しく微笑む。
「えっ?えっ!」
そう言うとアーシアの表情が徐々に変わっていく。
その様子が面白くて声を出して笑ってしまった。
「もうユウさん!からかわないでくださいぃ!」
顔を真っ赤にしながら俺の胸をトントンと叩くアーシア。
「落ち着いた?」
胸を叩いていたアーシアの両手を自分の手で優しく包み込む。
彼女はその手を自分の頬を添えると、静かに目を閉じる。
数分後、なにかを決意したアーシアが目を開く。
「ユウさん私の話を聞いていただけますか?」
真剣な表情で彼女は自分の過去を語り始めた。
イタリアの小さな街に生まれたこと。
生後まもなく両親に捨てられ、教会と弧寺院を兼務する施設で他の孤児たちと共に育ったこと。
8歳の頃、自分に特別な力が宿ったこと。
治癒能力。
生きとし生ける者を癒す力。
負傷した子犬の怪我をその力で治療したところを偶然、教会の関係者に目撃されたこと。
教会の本部に連れて行かれ、奇跡の力を持つ聖女として担ぎ出されたこと。
訪れた信者を神の加護と称して治療したいたこと。
その結果多くの信者から聖女として崇められていたこと。
心許せる友が1人も居なかったこと。
教会が自分ではなく治癒の能力にしか興味がなかったこと。
悪魔を治療し、教会を追放されたこと。
誰1人として自分を擁護してくる人がいなかったこと。
「きっと、私の祈りが足りなかったんです」
そう言って笑みを浮かべる彼女の瞳から一滴の涙が零れた。
彼女の過去を静かに聞いていたユウは考えていた。
彼女の話に度々で出てきた悪魔や堕天使という言葉。
彼女の持つ特別な力。
彼女が嘘を言っているとは思えなかった。
では・・・本当に?
そこまで考えると、彼は考えるのをやめた。
今はそんな事はどうだってよかった。
この小さな身体に一体どれだけの悲しみを抱えてきたというのか?
これからどれだけの涙を流せばこの子は救われるのだろうか?
神は乗り越えられる試練しか与えない。
誰がそんな事を言っていたのを聞いたことがある。
本当にそうだろうか?
では、神はこの少女にどれだけの試練を与えたというのか?
本当に乗り越えられるのか?
耐えられなくなり倒れた時、神は少女を救うのだろうか?
「そんなことはない」
ユウは握っていたアーシアの手を離し、彼女の頬に触れると、その涙を親指で拭ってあげる。
「あれほど熱心に祈りを捧げていた君に祈りが足らなかったことは絶対にない、神に届いていない訳がない。あの夜、俺が君の前に現れた。それこそが神が与えたもうた奇跡だ」
あの夜、俺とアーシアが出逢ったのは紛れもない事実。
アーシアにとっては言葉が通じる男、俺にとっては道に迷った少女。
最初はその程度の出逢いだったかも知れない。
だが、今は違う。
出逢うべくして出逢ったのだと胸を張って言える。
アーシアは再び涙を流す。
だが、その涙は先程の辛く悲しい涙ではなく幸せに満ち溢れていた。
「行こうかアーシア」
立ち上がり、自分に手を差し出すユウ。
「行くってどこへ?」
俺の手を取り、立ち上がるとアーシアは目をぱちくりさせ、頭を傾ける。
「デート」
アーシアの手を引き、歩き出す。
「デート!?デートとはお付き合いしている男女が行う、あのデートですか!?」
アーシアは口をパクパクさせながら頬を赤く染める。
「うん!」
短く答えると2人は足早に街へと消えていった。
それから2人は目一杯デートを楽しんだ。
アーシアは目に入るもの全てに興味を示し、俺はアーシアの横に並んで歩く。
アーシアが映画に興味を示せば映画館に入り、映画を観る。
アーシアがハンバーガーに興味を示せばバーガーショップに入り、ハンバーガーを食べる。
アーシアのやりたいことを全てやらせて上げたい。
我慢を強いられて来た彼女の人生。
もしかしたら、彼女はそうは言わないかも知れない。
でも、今だけは1人の普通の少女として過ごさせてあげたいという彼の想いでもあった。
ゲームセンターに興味を示したアーシアがあるブースの前で立ち止まる。
「ユウさんこれはなんですかぁ?」
アーシアが興味を示したのはプリクラと呼ばれる機械の前だった。
「これはプリクラだね。このカメラで撮った写真をプリントしてシールにしてくれるんだよ」
ユウ自身そこまで詳しい訳では無かったが、以前オカルト研究部の3人に連れられて何度も撮影された記憶がある。
「ユウさん、私と一緒に撮っていただけますか?」
アーシアは恥ずかしいのか身体をもじもじさせながら懇願してくる。そんな姿を見せられては断れるはずがない。
「もちろん」
太陽のような笑顔を見せるアーシア。
彼の知っているアーシアの笑顔が帰って来た。
2人はブースの中に入り、様々な設定を行う。
以前は3人がそれぞれ設定してくれたため、ユウは見ているだけで良かったが今日は違った。
実際やってみるとなかなか難しい。設定するところが多くアーシアと2人で四苦八苦しながらなんとか設定を終える。
「ユウさん!時間が表示されましたよ!ポーズを取りましょう!」
音声ガイダンスに従い、ポーズを取る俺とアーシア。
お互いのポーズに笑顔を見せながら、1枚2枚と撮影を重ねて行く。
「最後の1枚みたいですね!」
撮影枚数を重ねる毎にどんどん可愛くなっていくアーシア。
最後のポーズはどうしようかと思案している。
最後の1枚のカウントダウンが始まる。まだポーズを決めかねているのかアーシアは動かない。
カウントダウンが3秒を切ったときアーシアの手が俺の肩に乗せられる。
何ごとかとそちらを向くと、アーシアの顔が目の前にあり、俺の唇に柔らかいなにかが触れる。
俺の唇に触れたのはアーシアの唇だった。
そこでシャッターが押され、俺の唇からアーシアの唇が離れる。
俺は目を見開きアーシアを見つめる。
「えへへ、大好きですユウさん」
顔を真っ赤にしながらユウに対して胸の内に秘めた想いを告白する。
まだ出逢って1週間、顔を合わせたのは今日で2回目。それでもアーシアの心は彼で満たされていた。
朝、目を覚ますと浮かんでくるのは彼のこと。
時間を確認する度に彼はいま何をしているかと考える。食事を摂れば、彼の店で食べた料理を思い出す。
就寝前には今度はいつ彼に逢えるだろうかと考えながら眠りに就く。
アーシアにとって彼の存在こそが生きる意味になっていた。
それは最早、彼女の敬愛する神と同等の存在とも言えた。
「あ、ありがとうアーシア」
ほんのりと赤くなった頬を指で掻き、視線を外すユウ。
照れている彼を見るのは初めてだったため、アーシアにはとても新鮮だった。
「えへへ」
プリントされたシールを眺めながら歩くアーシア。
シールには[初めてのデート]と専用ペンで書かれている。
2人はデートを終え、公園に向かって歩いている。
アーシアが転ばないように2人は手を繋いでいる。
「此処に居たのねアーシア」
背後から聞こえてきた声に俺とアーシアは足を止め、後ろを振り返る。
「レ、レイナーレ様」
黒髪の長髪が美しいスレンダーな女性が立っていた。
その女性を目の前にしたアーシアの身体が微かに震え、顔から血の気が引いていく。
「時間になっても帰って来ないから心配したのよ。皆が待ってるわ、戻りましょう」
女性が近付いて来ると、俺の服の裾に力を込めるアーシア。
アーシアの様子が気になり、女性とアーシアの間に身体を入れる。
「なんの真似かしら?と言うか貴方、誰?」
アーシアを守るように前に出た俺の行動が気に入らなかったのか女性は顔を歪める。
「人にものを尋ねるときはまず自分からでは?」
俺の物言いに女性の眉が微か動く。
「人間風情が偉そうに、まぁいいわ。私の名前はレイナーレ。アーシアとはそうね、同僚みたいなものよ」
物騒な物言いをするレイナーレは俺の全身を舐めるよう下から上へ視線を移す。
「菅原ユウ。駒王学園の学生です」
レイナーレを警戒しながら、万が一の場合はアーシアを連れて逃げられるように徐々に力を解放していく。
「菅原ユウ?」
彼女は俺の名前を確認すると小さく息を吐く。
「そう、貴方が。」
彼女は目を閉じ、顎に手を当てながら考え始める。
その様子を疑問に思った俺は更に警戒心を強め、半歩後ろに下がる。
「そう警戒しなくていいわ、何もしない。貴方のことはそこに居るアーシアからこの1週間ずっと聞かされ続けたわ。朝から晩まで事ある毎にユウさん、ユウさんってね」
うんざりと言った表情で手をヒラヒラさせるレイナーレ。
「レ、レイナーレ様!そのことは内緒にしてくださる約束だったのにぃ!」
先程まで俺の後ろで震えていたアーシアが顔を真っ赤にしてレイナーレの腕に縋り付く。
そんなアーシアに様子を見て彼女は穏やかな表情を浮かべ、頭を撫でていた。
そんな2人にユウの警戒心が一気に緩む。
目の前でやり取りしている2人の姿はまるで仲の良い姉妹のようであった。
「アーシア今日はもう遅いから戻りましょう。皆が心配してるのも嘘じゃないわ」
レイナーレが優しく問い掛けると、アーシアは俺の顔を見て残念そうな表情をする。
「またいつでも会えるわ。なんだったら今度彼の家に泊まったっていいわよ」
妖艶な表情を浮かべながら妖しい笑みを俺に向けるレイナーレ。
「お、お泊まりですかぁ!楽しみですぅ!」
教会育ちの純粋なアーシアにはレイナーレの意図していることが分からず、満面の笑みを浮かべ神に祈りを捧げる。
そんなアーシアの姿に俺とレイナーレは苦笑いを浮かべる。
それでも俺はレイナーレに聞いておかなければならないことがあった。
「アーシア。悪いけど彼処の自販機で飲み物を買ってきてくれないか?」
アーシアに財布を渡すと、元気に返事をして自販機まで走っていく。
途中、なにもないところで転んでいた。
「レイナーレさんの姿を見た時アーシアは震えていました、何故です?」
先程のアーシアの姿を思い浮かべ、前置きになしに彼女に問いかける。
「いきなりね、貴方のそういうところにあの子は惹かれたのね」
話の腰を折る彼女に余計な会話はいらないとばかりに話を進めるユウ。
「仕事でね、辛い事があったのよ」
寂しそうに話すレイナーレ。
神に仕える者ならば周囲から謂われなき誹謗中傷に晒されることもあるだろう。
心優しい彼女ならその事で気を病んだのかもしれない。
「彼女の同僚ということ貴方もシスターなんですか?」
矢継ぎ早に質問していくユウ。
「シスターというより世話人ってところかしら。シスターアーシアの身の回りの世話してるわ」
彼女はアーシアと出逢った時のこと思い出しているのか笑っている。
「アーシアをお任せして大丈夫なんですね?」
俺の物言いが気に入らなかったのか彼女の表情が険しくなる。
「まるで自分のものような言い草だな」
彼女の綺麗な声が急に低くなり、明らかに口調が変わる。
目に見えないなにかが俺の全身を襲う。
その正体は彼女の放った殺気だった。
「もう1度お聞きします、アーシアをお任せして本当に大丈夫なんですね?」
彼女の放つ殺気を歯牙にも掛けず、彼女の薄桃色の瞳を真っ直ぐに捉える。
「ッ!」
レイナーレの体温が急激に低下する。
自分が向けた殺気など比べものにならない程の殺気がレイナーレを襲う。
それは最早、殺気という生易しいものではなく明確な殺意であった。
(無意識なのか?これでは私の方がマズイ!)
アーシアの話では只の人間。
最初に見た印象は優男。
それがどうだ?
自分の存在からアーシアを守るように前に出る男。
殺気を放つも逆に堕天使である自分が追い詰められている。
目の前の男が纏う雰囲気はもはや得体の知れない強大な何かでしかなかった。
(本当に只の人間なのか?いや、そもそも人間なのか?)
レイナーレの背中を冷たい汗が伝う。
「お待たせしましたぁ!」
2人の近寄りがたい雰囲気もアーシアにはお構い無し。まるで一仕事終えたかの様に爽やかな声で戻ってくる。
1度会話を止め、2人はアーシアの方に笑顔を向ける。
「重かったですぅ!」
アーシアの姿に俺は愕然とする。
隣のレイナーレも先程の神妙な雰囲気が嘘の様に口をあんぐり開き、眉をピクピクさせていた。
アーシアの手、いや腕の中には大量のお汁粉が抱えられていた。
「ア、アーシア?ど、どうしたのそれ?」
レイナーレが隣で固まって居る俺に代わり、アーシアに問いかける。
「このお汁粉というのが美味しそうだったのでこれにしてみました!」
アーシアが天使のような笑顔で答える。
「種類じゃなくて数よ!数!」
レイナーレは立ち上がり、アーシアの腕の中のお汁粉を指差す。
その数およそ30本。
「全く貴方は!本当に物事を知らないんだから!こういう時は人数分あればいいのよ!しかもお汁粉ってコーヒーかお茶でしょ、普通!」
そう言ってアーシアの抱えているお汁粉をベンチに置いていく。
「はぅ!そ、そうなんですかぁ!」
アーシアはレイナーレの発言と行動に動揺しながらどうしようかと俺を見る。
「だ、大丈夫だよアーシア。ありがとう」
そう言ってアーシアから財布を受け取る。
俺の顔が若干、青ざめていることに気が付く余裕は今のアーシアにはないようだ。
俺とアーシアのやり取りにお汁粉を置きながらレイナーレが収まらない怒りを爆発させる。
「大丈夫じゃないわよ!どうするのよこんなにたくさん!しかもお汁粉ばっかり!貴方、今日1日そうやってアーシアを甘やかしてこの子のやりたいようにやらせてたんでしょう!」
俺の頭上にレイナーレの説教が延々と降り注ぐ。
図星を突かれ、反論出来ない俺。
「レイナーレ様!悪いのは私ですぅ!ユウさんを責めないでくださいぃ!」
いつぞやと同じように俺を庇ってくれるアーシア。
アーシア本当天使。
「当たり前でしょ!そもそも貴方が世間を知らなすぎるのが原因なんだから!いくら教会育ちとはいえ、異常なのよ!」
俺と一緒にベンチに座り、レイナーレの説教を受けるアーシア。
レイナーレの怒りが収まるまで俺とアーシアは亀のように小さくなり、耐えるしかなかった。
「まだ言い足りないけど、キリがないから今日はもう止めるわ、貴方もあまりアーシアを甘やかさないでアーシアのためにならないわ。アーシア、貴方はもっと常識を身に付けなさい。じゃないとこれからの生活大変よ」
レイナーレの言葉に2人同時に大きな声で返事する。
「大分、時間が過ぎてしまったわ。本当に今日は帰るわよアーシア」
説教が終わり公園の時計を確認すると既に22:00を廻っていた。
「ユウさん今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです。また一緒に遊んでくださいね!」
アーシアは深々と頭を下げる。
「こちらこそ楽しかったよアーシア。今度は店にも行こう、皆も待ってるから。」
アーシアに目線を合わせ、頭を撫でてあげると気持ち良さそうに目を細める。
「行くわよ、アーシア」
レイナーレの声に軽く会釈をして背中を追っていく。
「ちょっと待って!」
急に2人の背後からユウの焦った声が聞こえてくる。
何事かと振り返るとそこには。
「お土産にどう?]
大量のお汁粉を指差すユウの姿があった。
「要らないわよ!」
大声を出すレイナーレと苦笑いするアーシアはそのまま夜の闇に消えていった。
第3話更新しました。
ご覧なられ方はご存知と思いますが、戦闘にさえたどり着けませんでした。
前話の後書きで戦闘描写をどうこう言いましたがそこまですら行けないとは。
なので余計なことを後書きで書くのはやめます。
内容のほうはアーシアがメインの話なのでどうしてもアーシアに寄っていきますね。
ですが、レイナーレの扱いがこんなことになるとは。
その場で思ったことを書いていくタイプなのでどうしようかと思案してます。
あとの展開のこともあるので原作主人公も出しました。
最後まで閲覧してくれた方、感想をくれた方、誤字・脱字の修正をしてくれた方ありがとうございます。
ではまた次回。