ハイスクールD×D Yto   作:今日から禁煙

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皆様に感謝です。

第4話です。


第4話

富や名誉はいらない。

貴方の側に居られれば。

それだけで。

 

アーシア達と別れた翌日、俺は彼女が働く教会へ向かって歩いていた。

俺の両手には大きな紙袋がぶら下がっている。

 

事の始まりはこうだ。

 

昨夜アーシア達と別れた後、自宅へ帰ろうとした俺は昼間に買った店の食材の存在を思い出し、預けていたロッカーから食材を取り出し店へと向かった。

 

店ではアーシアの来店を待ち望んでいた料理長やスタッフ達がいつも以上に気合いを入れて作ったであろう料理が1人用の小さなテーブルの上に所狭しと並んでいた。

 

俺が顔を出すと満面の笑みを浮かべた料理長とスタッフ達が当然後ろに居るであろうアーシアを探す。

 

しかしどれだけ探してもアーシアの姿はなかった。

 

「なんでおめぇしかいねぇんだよ!アーシアちゃんはどうした!」

 

料理長のみならずスタッフ達からも詰め寄られる。

 

「ア、アーシアちゃんとデ、デートだと!」

 

その料理長の様子に命の危機を感じた俺はアーシアの過去やレイナーレのことを省き、丁寧に事情を説明する。

 

説明を終えるとアーシアのこと想い、涙を流すスタッフまでいたことに驚いた。

 

(どんだけ愛されてんの、アーシア)

 

腕を組み、静かに話しを聞いていた料理長が口を開いた。

 

「アーシアちゃんの側に居てやれと言ったのは俺だ。事情も理解した。だが、デートの最後はこの店だろうが!なんて気の利かねぇ野郎だ!」

 

炸裂する愛のムチに耐えきれず蹲る。いつもなら間に入ってくれるスタッフ達も料理長の後ろで何度も頷いていた。

 

やはり俺は鬼を退治する桃太郎になれないようだ。

鬼さえも魅了してしまう彼女の偉大さを再確認する。

 

(グランデ アーシア カムバック)

 

翌日

 

店の閉店時間 1時間前

 

俺の目の前に2つの大きな紙袋が並んでいた。

 

「アーシアちゃんに料理を作ったから持って行ってくれ。本当は食べに来て欲しいがアーシアちゃんも忙しいだろうからせめてこれ食って元気出して欲しい」

 

料理長とスタッフ達から紙袋を渡され、無理矢理店を追い出された。

 

以前アーシアと2人で歩いた道を1人歩く。

 

教会へ続く道を歩きながら昨日の彼女の話しを思い出す。

 

彼女の過去の話の中に出てきた悪魔や堕天使といった存在。

架空の生命体として漫画や小説に登場するだけの存在。

 

彼女が嘘を言っているとは思えないが余りにも現実離れし過ぎている。最初は自分がうまく聞き取れなかっただけかとも思ったがそうではなかった。

 

彼女を迎えに来たレイナーレと言う女性。アーシアの世話人と言っていたが、彼女にも違和感を感じた。時折彼女が口にする人を下卑したような言葉、自分に向けて放たれたと思われる殺気にも似た感情。時に冷徹で殺意の篭った視線。

 

そのどれもが自分をいや、人間という種族を完全に下に見るような雰囲気を醸し出していた。

 

その一方でアーシアに対しての彼女の接し方は違っていた。

アーシアに向けられる彼女の視線は慈愛に満ちており、大切な妹を相手にする姉のようにも見えた。

 

どちらが本当の彼女なのか分からなくなる。

 

答えの出ない疑問を延々と考えながら歩いていると眼前に目的の教会が見えてきた。

 

(人が居る)

 

教会の関係者と思われる人物が周囲をうろうろしていた。

 

「こちらにアーシア・アルジェントというシスターが勤めていると思うのですが」

 

白髪の男は神父のような格好をしており、よく見ると年若い少年であった。

 

少年の手には玩具の剣が握られていた。

 

俺の声に全く反応しない少年はただじっとこちらをみていた。

アーシア同様外国から来たのではと考え、日本語が通じなかったのではと思った。

 

「あんれー、クソ悪魔くんが来ると思って待ってたのに人間さまじゃーありーませんか!」

 

白髪の少年は独特の口調で下卑た笑い声をあげている。

 

「悪魔?」

 

俺が少年の言葉に小さく反応すると、少年は矢継ぎ早にペラペラと聞いてもいない事をしゃべり始める。

 

「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓いの組織に所属してるただの人間じゃーございやせん。お前さんも運が悪いねー、こんな時にこんな所に来なけりゃ死ぬこともなかったのーにね!」

 

フリードと名乗った少年は話し終える前に、俺に向かって持っていた剣を振り下ろす。

 

突然、目の前で振り下ろされる剣に俺は半歩後ろへ下がる。

少年の剣は俺の前髪を僅かに掠めるとそのまま地面を叩きつける。

 

「おんやー、肩口からバッサリで血がドッパーだと思ったんですがねー、はい」

 

自分の剣が躱されたことを疑問に思った少年は剣を見ながら首を捻っている。

 

「次こそ痛くしちゃいまーすよっと」

 

目の前の男を目掛けてフリードが剣を振り、蹴りを繰り出すも当たらない。振り下ろす剣は空を切り、繰り出す蹴りは地面を叩く。

 

「んーんーちょこまかと、しゃらくせぇ!」

 

それでもフリードの攻撃が男に当たることなく、徐々に怒りを募らせる。

 

「あーもー、マジ邪魔くせぇ!チョベリバ!これで死んじゃえー!」

 

フリードは男に向けてこれまで隠していた銃を発砲する。

 

男はなんとこれも躱して見せるも大きくバランスを崩す。

 

「これでさいならー!」

 

バランスを崩した男の喉元目掛けてフリードが剣を横薙ぎに振るう。

 

(とった)

 

フリードが下卑た笑みを浮かべた瞬間、剣が男の喉元で止まる。

 

「悪いが俺もただの人間じゃないんでね」

 

フリードの剣が喉元を襲う。

バランスを崩し、回避は不可。

迫りくる剣に対してユウは3本の指を添える。

 

「な、なんだそりゃ!」

 

常人の目には映ることさえない少年の剣先を、ユウは僅か3本の指で止めてしまった。

 

「て、てめぇ!まさか神器持ちか!?」

 

男の信じられない行動に、フリードは堪らず叫び出す。

 

「神器?」

 

少年の言っていることがユウには理解出来なかった。

 

「悪いが、中に居る人物に用があるんだ。君と遊んでる時間はない」

 

言い終える前に地面を蹴り出す。

一瞬にして懐へ入り込むと、少年の顎を目掛けて下から上へ拳を突き上げる。

 

ギリギリでその拳を躱わすフリードだったが、突如巻き起こった暴風によって吹っ飛ばされる。

 

「化け物かよ!こんなん付き合ってられっか!ボクちんは一足先にドロンしまーす。アーシアちゃんなら中の地下聖堂に居まーす!生きてればいーけどねー!バイバイキーン!」

 

少年は最後まで軽口を叩きながらどこかへ消えて行った。

 

少年が去っていった方角に目を向けながら、ユウは自分の身体と対話していく。

 

少年との戦いで見せたユウの爆発的な力は決して偶然ではなく、全てはアジュカの元で身に付けたものであった。

 

 

 

 

 

当時、ユウが悩まされたのはなにも聴覚だけではない。力の加減にも相当苦労したのだ。

 

あの日、両親に連れられアジュカの元を訪れたユウは、既に精神崩壊の1歩手前という重症だった。その為、常に自分の目の届く場所での観察が必要だったため、即入院という判断を下した。

 

アジュカの判断は間違っておらず、昼夜関係なく発作を起こすユウから目を離すことが出来なかった。

 

中でもアジュカを驚かせたのはユウの力だった。

 

発作を起こし、暴れるユウを押さえる事が出来なかったのだ。

無論、全力で抑え付けることも可能であったが仮にも患者であるユウにそれは出来なかった。

 

そのため、アジュカはまず五感の調整を優先させた。五感の崩壊は即ち精神の崩壊に繋がり、いずれは生命に関わる。アジュカは持てる全ての知識と経験を駆使して半月の間ひたすら精神を安定させることに努めた。

 

治療の内容は1種の催眠療法で時間を掛けてユウの潜在意識を探って行くという気の遠くなるような作業であったが、そこはアジュカだ。普通の医師であれば10年は掛かるところを僅か半月でユウの容態を安定させた。

 

次にアジュカが取り掛かったのは力のコントロールだった。

 

五感のコントロールはいかにアジュカといえ、時間が掛かるものだった。

それに比べて力のコントロールは1度加減を覚えれば感覚次第で永続的に力の出し引きが可能になると考えたのだ。

こうして五感と力のコントロールの治療を同時進行で行われ、ユウの懸命の努力とアジュカの知識と経験が合わさり、ユウの状態はアジュカがユウ再生計画と銘打った治療計画を大きく上回る成果を生むことになる。

 

その後も計画を上回る成果を出し続けるユウに、アジュカは計画を次の段階へ移行する。

 

それは当初の計画にはなかったものだった。

 

アジュカが用意したのは戦闘能力の向上と戦闘技術の研鑽の2つだった。

 

ユウに目隠しを暴れ狂う猛獣の相手をさせる。流石に最初は戸惑い、逃げ回るばかりであったが、回数を重ねる毎に動きが洗練されて行き、猛獣の数を2匹、3匹と増やしていっても最早ユウの相手ではなかった。

時折不安定になることもあった精神も今では全く問題なくアジュカも驚いた。

 

なにがあったのか問うと、学校で友人が出来たと楽しそうに語ってくれた。

アジュカは両親や自分以外にも心落ち着けられる人物が現れたことを喜んだ。

 

ユウの修行もとい治療を初めて1年の刻が経ち、いよいよ自分の力は必要なくなったと感じたアジュカはユウにそのことを伝える。

 

ユウが何か言っていたような気がしたが無視した。

 

こうしてユウはアジュカの元を旅立っていた。

 

もう会うこともないだろう。

 

ただ1人の弟子とも言える少年の行く末を案じながらアジュカは街から姿を消した。

 

 

 

 

(アーシア)

 

この中に居るであろう少女の安否が気に掛かり、足早に教会の中へ入っていく。

 

教会内は薄暗くとても本来の目的を果たしているとは思えなかった。

 

雲の切れ間から月の光が差し教会内部を照らす。

 

教会内には先程の少年と同じような格好をした者達が数多くいた。

 

その数およそ20人。

 

「アーシア・アルジェントと言うシスターに会いにきたんですが?」

 

その者達は俺の行く手を遮るように道を塞ぐ。

 

その者達が一斉に俺に襲い掛かってくる。

 

「話し合いの余地はなし」

 

襲い掛かってくる者達を1人、2人と戦闘不能に追い込んでいくも数が多く力を抑えながらの戦いでは不利であった。

 

ユウは人との戦闘は先程のフリードが初めであり、馴れていない。それ故、普通の人間がどれだけ頑丈なのか知らなかった。万が一、殺すようなことはあってはいけないためである。

 

これはアジュカにも言われていたことだった。

 

争い事は極力話し合いで解決する事、それでもダメなら自分が折れること、相手に襲われ攻勢に出る場合は力をセーブすること。

 

そう言いアジュカは自分の胸元を開く。

そこには大きな傷があった。

聞けば、我を忘れた俺を止めるために負った傷だという。

自分の力がどれだけ危険であるか、アジュカはその身を犠牲にして教えてくれた。

 

最後にアジュカが教えてくれた自分にとって大切なものを守るために力を解放するのは悪ではないことを。

 

「邪魔だ」

 

俺が目を見開くと、襲い掛かってくる者達が1人また1人と倒れていく。

 

力を解放したのだ。

アーシアという少女を守るために。

 

悪魔祓いと呼ばれる者達は彼の放った殺気に耐えられなくなり、次々と意識を手放していく。

 

「地下聖堂への入り口はどこにある?」

 

辛うじて意識を保った悪魔祓いは全身をガクガク震わせ小水で地面を濡らすと、祭壇を指差す。

 

ユウはその男にハンカチを手渡すと一瞥して地下聖堂へ急ぎ走り出す。

 

地下聖堂への道は一本道で迷う事なく扉まで辿り着き、扉を開こうとした時

 

「助けてユウさん!」

 

 

 

 

 

「ようやくこの時が来たのだ!俺はこの力を以て至高の存在へと生まれ変わるのだ!」

 

奥の十字架に張り付けにされた金色の髪の少女を崇めるようにシルクハットを被り、トレンチコートを着た男が天高く両手を掲げる。

 

男の足下には黒髪の女性が横たわっていた。

 

「話が違うじゃないドーナシーク!アーシアには何もしないって!」

 

男の足に縋り付き叫ぶ女性。

 

「貴様のような下等な堕天使に言ったところで理解できぬと思い、言わなかったまでよ。現に今でも理解してはいまい」

 

男は女性の腹を蹴り飛ばす。

女性はゴロゴロと転がり、壁に身体を打ち付ける。

 

「レイナーレ様!」

 

張り付けにされた少女が蹴り飛ばされた女性に駆け寄ろうするも十字架から逃れられず身体を捩る。

 

「お前は良くやってくれたよレイナーレ。シスターアーシアの心の拠り所となり、私は計画をよりスムーズに進めることが出来た」

 

男はレイナーレに向けて下卑た笑みを浮かべる。

 

「ドーナシーク!」

 

レイナーレは叫びと共に立ち上がると、掌に集めた光を矢に変え、男に向かって放つ。

 

「やった」

 

光が男に直撃し、辺りに砂塵が舞う。

レイナーレが安堵の表情を見せ、アーシアに近付こうとする。

 

「レイナーレ様!危ない!」

 

砂塵の中から一筋の光が放たれ、レイナーレの腹部に突き刺さる。

 

「バカな女だ。だから貴様は何も分かってないと言ったのだ」

 

腹部を押さえ、口から血を吐きながらその場に崩れ落ちるレイナーレ。

 

砂塵が晴れ、男がレイナーレに近づき彼女の頭を踏みつける。

 

「レ、レイナーレ様?」

 

アーシアの翡翠色の瞳からいくつも涙が零れ落ちる。

 

教会に赴任してきてからずっと一緒に居てくれたレイナーレ様。

時に優しく、時に厳しく世間の常識を教えてくださったレイナーレ様。

家族が居ない私にとって初めて出来た姉のようで、何でも話せる友のようだったレイナーレ様。

彼の話をすると、うんざりとしながらも笑顔で聞いてくれたレイナーレ様。

 

「助けて」

 

アーシアの小さな呟きに反応する男。

 

「何か言ったかなシスターアーシア?」

 

男はレイナーレの頭を踏みつけながら頭上のアーシアに視線を向ける。

 

「助けてユウさん!」

 

大粒の涙を溢しながらアーシアは届くはずない彼へ祈りを捧げる。

 

 

 

 

 

「お呼びですか、シスター?」

 

[ドガッ]

 

喧しい音と共に地下聖堂の扉が蹴破られる。

 

辺りに砂塵が舞い、声の主を確認できない。

 

「誰だ!」

 

ドーナシークが砂塵に向けて声を上げる。

 

「人にものを尋ねる時は自分から。どうやら此処の教会の者達には人間の常識が通じないらしい」

 

辺りに覆っていた砂塵が晴れると、そこには白いワイシャツに、腰にエプロンを携えた男が静かに然れど、その瞳には激しい怒りを宿しながら佇んでいた。

 

「ユウさん!」

 

彼女の無事を確認するとユウは安堵し、アーシアに向けて手を振る。

 

「誰だ貴様!」

 

ドーナシークは見覚えのない男に光の矢を放つ。

 

「アーシア、すまないが少し待っててくれ」

 

だが既に男の姿はそこにはなく、ドーナシークの足下に横たっていたレイナーレを抱き抱えていた。

 

「なっ!」

 

ドーナシークに男の姿を捉えることが出来ず、いきなり自分の背後に現れた男に驚愕する。

 

(息はあるが危険な状態だ、間に合うか?)

 

自分を無視して話を進める男に、ドーナシークの怒りが最高潮に達する。

 

「貴様ぁ!」

 

背後の男に向けてドーナシークは渾身の裏拳を放つ。

しかし、ドーナシークの裏拳は空を切り、男に当たる事はなかった。

 

「うるさい」

 

ドーナシークの裏拳を躱わすと、男の拳がドーナシークの鼻を捉え、ドーナシークは吹っ飛ぶ。

 

レイナーレを聖堂のベンチに横に寝かせ、ユウはアーシアの張り付けられている十字架の前に来る。

 

「アーシア、ちょっと我慢してくれ」

 

ユウがアーシアの張り付けられている十字架を壊そうとするが、壊れない。

 

「バカが!その十字架には特別な結界が張ってあるのだ!ただの力バカに解けるはずがない!」

 

ドーナシークが鼻を押さえながら立ち上がり、形勢逆転とばかりに大声で笑う。

 

[パリン]

 

ユウが力を加えると、十字架に張られていた結界がいとも簡単に割れる。

 

十字架から解放され、空中でバランスを崩すアーシアを優しく抱き止める。

 

「お待たせアーシア」

 

頬に流れ落ちる涙を指で拭って優しい笑顔をアーシアに向けるユウ。

 

「ユウさん!ユウさん!ユウさん!」

 

以前もこんなことがあったなと思い出しながら彼女の美しい金色の髪を撫でてあげる。

 

「き、貴様!い、一体なんなのだ!」

「アーシア!」

 

ドーナシークが怯えたような声で叫ぶと同時に茶髪の少年が叫ぶ声が聞こえた。

 

「な、なんだこりゃ!」

 

間の抜けた声が聖堂中に響き渡る。

 

「一誠さん!貴方は兵藤一誠さん!」

 

俺の腕の中からひょいっと顔を出したアーシアが茶髪の少年に向けて声を掛ける。

 

「兵藤君!」

「兵藤先輩!」

 

茶髪の少年の後ろから金髪の美少年と白髪で猫の髪止めが特徴的な小さな少女が現れる。

 

「どうなってんだこれ!て、てめぇはドーナシーク!」

 

茶髪の少年が辺りを見渡すと、以前自分を襲ってきたシルクハットにトレンチコートの男が鼻を抑えながら立ち尽くしている。

 

後ろに居た2人も聖堂内の様子に呆然とする。

 

「塔城ちゃん!」

 

突然、呼ばれたことに小猫は肩を震わせる。

自分をそう呼ぶ人物は1人しか居ない。

 

「ユウ先輩?」

 

白いワイシャツに腰にエプロンを携えた男がこちらを振り返る。

 

「塔城ちゃんは彼女を安全な場所に」

 

ユウ先輩の視線の先に目を向けると1人の女性がベンチに横たわっていた。

 

「夕麻ちゃん!」

 

茶髪の少年も女性の姿を確認すると大声で叫ぶ。

 

「木場祐斗!君はこの子を頼む!アーシアはレイナーレを治療してくれ。かなり危険な状態だ」

 

俺がアーシアを降ろすと木場祐斗が彼女を守りながら地下聖堂の外へ誘導していく。

 

小猫もレイナーレを担ぎながら2人の後を追い掛けていく。

 

「行かせん!」

 

ドーナシークが聖堂の外に出ようとする4人に光の矢を放つ。

 

「させるか!」

 

兵藤一誠がその間に入り、ドーナシークの光の矢を吹き飛ばす。

 

「此処は任せていいんだな兵藤一誠」

 

目の前でドーナシークに対して激しい怒りを見せる兵藤一誠。

 

「はい!だから先輩は皆の所に!」

 

その声を聞くとユウも聖堂の外へ走り出す。

 

 

 

 

聖堂の外に出ると床に横になり、アーシアの治療を受けるレイナーレとその様子を伺う4人の姿が目に入る。安堵の表情を浮かべアーシアを見ると、彼女の瞳から大粒の涙が零れていた。

彼女の涙で俺は全てを理解する。

 

「レイナーレ様ぁ!」

 

大声で泣き叫ぶアーシアは冷たくなっていく彼女の胸に顔を埋めながら何度もレイナーレの名前を呼んでいた。

 

俺の存在に気が付いた黒髪でポニーテールの少女は大きく目を見開き、紅の髪の少女が声を掛ける。

 

「ユウ君!?何故貴方が此処に!?」

 

俺が此処に居ることに驚愕するリアスと朱乃。

 

「後にしてくれ」

 

俺はリアスの問いを制し、泣き叫ぶアーシアと横たわるレイナーレの元で膝を折る。

 

「すまないアーシア」

 

レイナーレの胸に額を当てながら首を左右に振るアーシア。

 

[ドゴッ]

 

聖堂の方から建物の崩れる音が聞こえてきた。

 

「終わったようね」

 

リアスが聖堂の方に視線を移し小さく呟く。

 

「夕麻ちゃん!」

 

兵藤一誠が聖堂の中から大声を上げ走ってくる。

 

「ぶ、部長!」

 

兵藤一誠はリアスがこの場に居ることに驚いているが興奮しているか話を止めない。

 

「部長!俺やりましたよ!ドーナシークの奴をぶっ飛ばしてやりました!」

 

妙な籠手の付いた右腕をブンブン振り回している。

 

「赤い龍の紋章。そう、そういうことなのね」

 

リアスが兵藤一誠の右腕を見て何かを呟いていた。

 

「とにかく此処は危険ですわ。1度外に出ましょう」

 

朱乃の言葉にリアスが指示を出す。

アーシアには小猫が付き添い、俺がレイナーレの身体を抱き上げ教会の外に出る。

 

レイナーレを安全な場所に横にするとアーシアがその横に腰を降ろす。

 

まだ涙の止まらないアーシアの背中を摩ってあげる。

 

リアスが小猫に何か指示を出しているが、今そのことを気に掛けている余裕は俺にもアーシアにもなかった。

 

「部長、夕麻ちゃんはいつ頃目を覚ましますか?俺ドーナシークの奴に聞いて。だから夕麻ちゃんに謝らなきゃって思って」

 

兵藤一誠のその言葉にアーシアは肩を震わせる。

 

「一誠よく聞いて。彼女はもう目を覚まさないわ」

 

リアスも悲痛な表情で事の次第を伝える。

 

「えっ?で、でもアーシアが治療してたんじゃ?」

 

リアスが何を言っているのか分からないと言った様子でリアスに問い掛ける兵藤一誠。

 

「【聖母の微笑】とて死者を甦らせることは出来ないの。残念だけど彼女はもう」

 

視線をこちらに向けると、ふらふらとした足取りでレイナーレの元に腰を落とす兵藤一誠。

 

「う、嘘だ。だ、だってこんなに綺麗な顔でね、寝てるじゃないですか。夕麻ちゃん!俺だよ兵藤一誠だよ!」

 

兵藤一誠の行動にそこに居た全ての者が目を伏せる。

 

「部長、持ってきました」

 

そこへドーナシークを引き摺った小猫が戻ってくる。

どうやらリアスは小猫にドーナシークを連れてくるよう指示していたようだ。

 

「ドーナシーク!」

 

ドーナシークの姿を目にすると、怒りの全てをぶつけるかのように突っ込んで行く。

 

「待ちなさい一誠!その男にはまだ聞かなきゃならないことがあるのよ!」

 

リアスの言葉など耳に入らないのか、兵藤一誠は止まらない。

 

「ダメだよ兵藤君!部長が言ってる!」

 

身を挺して兵藤一誠を止める木場祐斗。

 

「離せ木場!この野郎は生かしておく価値がねぇ!」

 

怒りに我を忘れ、ドーナシークに近付いていく。

 

[パンッ]

 

乾いた音が周囲に鳴り響く。

兵藤一誠の頬をリアスが平手打ちした。

 

「いい加減しなさい一誠!これは王としての命令よ!」

 

リアスの行動に兵藤一誠は目を見開き、その場に肩を落とす。

 

朱乃がドーナシークに水を浴びせるとドーナシークの意識が回復する。

 

「ごきげんよう、堕天使ドーナシーク」

 

咳き込むドーナシークにリアスが声を掛ける。

 

「紅の髪・・・グレモリー一族の娘か」

 

顔を歪め、リアスを見るドーナシーク。

 

ドーナシークに向けて名乗りを上げるリアス。

 

「短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

笑顔で言い渡すリアスとは対象的な表情でリアスを睨み付けるドーナシーク。

 

途端に笑み浮かべ笑い始める。

 

「してやったりと思っているのだろが、私はまだ負けてはいない!」

 

そう言い、リアスを睨むドーナシークの前に2枚の黒い羽を投げつける。

 

「これを見てもそんなことが言えるかしら?」

 

リアスは妖しい笑みを浮かべると、ドーナシークは驚愕の表情を見せる。

 

それからリアスはドーナシークに対して説明を始める。

 

この街に堕天使が入り込んでいたこと。

何かを計画していたこと。

その堕天使が独自に動いていたこと。

 

リアスの言葉にドーナシークの表情はみるみる歪んでいく。

 

「ドーナシーク。貴方が一誠に負けた最大の理由を教えて上げるわ」

 

リアスが唐突に語り始める。

 

「彼の兵藤一誠の神器はただの神器じゃないわ。【赤龍帝の籠手】数ある神器の中でも最強クラスの神滅具と呼ばれる代物よ」

 

リアスの言葉に驚愕するドーナシーク。

 

「【赤龍帝の籠手】だと!あんな小僧に神滅具!」

 

そう言い終えると、リアスの表情が一気に冷たくなる。

 

「種明かしも済んだし。そろそろお別れね」

 

リアスがドーナシークに手を翳すと彼女の手に魔方陣のようなものが形成されて行く。

 

「待ってください部長!」

 

兵藤一誠がリアスに待ったを掛ける。

 

「そいつは俺にぶん殴らせてください!」

 

右腕の拳を握り締めながらリアスに懇願する。

リアスも兵藤一誠に根負けし、俺とアーシアの所まで下がる。

 

「わかったわ一誠。貴方の気が済むようにしなさい」

 

兵藤一誠がリアスに深々と頭を下げる。

 

その時ドーナシークの目が妖しく光る。

俺はそれを見逃さなかった。

 

「どうせ死ぬなら誰か1人を道連れだ!」

 

ドーナシークは光の矢を形成し、投擲する。

 

その目標は兵藤一誠でも子猫でも木場祐斗でもアーシアでも朱乃でも俺でもなく。

 

「死ねぇ!」

 

咄嗟のことに、その場に居た全員が反応出来なかった。

 

(しまった!)

 

狙われたリアスも棒立ちのまま迫り来る光の矢を見ていることしか出来なかった。

 

リアスは目を瞑る。

脳裏に浮かぶのはこれまでの悪魔生と大切な家族や可愛い眷属達の顔、最後に浮かんだのは隣の席の男の笑顔だった。

 

 

 

 

いつまでも感じない痛みにリアスは不思議に思いながら瞼を開く。

 

目の前の現実にリアスの顔が青ざめる。

 

今リアスの目に映るのは自分を守るようにこちらを向き、背中に光の矢が突き刺さっている。

 

菅原 ユウの姿だった。




第4話更新しました。
書いていて1章終わるかもと思いましたが、終わりませんでした。
まぁ、筆者なんてこんなもんです。
読んでいただいた読者の皆様には「何で急に」と思う場面が多々あったと思いますが、そこは筆者の都合と言うことで勘弁してください。
現在は場面が変わるシーンを空白で表現してるんですがなにかいい案がないか思案中です。
余計なことを書きたくないし迷います。

最後まで閲覧してくださった方、コメントをくださった方、誤字・脱字修正をして下さる方ありがとうございます。

ではまた次回。
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