ハイスクールD×D Yto   作:今日から禁煙

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今話から漢数字を使ってます。
理由はPCの不調でスマホで書いてるからです。

6話です。


第6話

生き続けることの意味を探していた

貴方がその意味になってくれた

 

入院生活も六日目を過ぎ、検査の結果が良好で明日に退院出来る主治医から言われている。

当初は三ヶ月は絶対安静と言われていたが、日に日に怪我の具合が改善していく俺に主治医も目を丸くしていた。

驚異の回復力を誇る俺の身体は主治医の研究心に火を点けたようで検査や診察など日に何度も行われた。

それはまだ良かった、慣れてるから。

 

俺が頭を悩ませていたのは別のことだった。

 

時刻は17:00を過ぎた頃、その時は訪れる。

 

 

 

 

六日前、早朝に救急車で搬送された俺は一般庶民では生涯お目に掛かることが出来ないであろう豪勢な病室に案内された。

 

聞けばリアスの知人ということで彼女から手厚くお世話するように言われてたようだ。

 

病室に入った俺の元には院長を先頭に看護師長や若手のホープ、女性看護師の綺麗所がズラリと並んでおり、まるで有名政治家や芸能人の極秘入院のような有り様だ。

全員の紹介だけで一体何十分掛かったことか。

 

何処の白い巨塔だよ。

 

リアスが良い所のお嬢様とは聞いていたがこれほどとは。今度ご飯をご馳走してもらおう。

 

その後、両親が病院を訪れると通された病室に驚いていた。

 

「あんた、突っ込んでくるダンプから女の子を守ったんだってね。リアスちゃんから聞いたよ」

 

リアスと朱乃は何度か家に遊びに来たことがあるため、両親と顔見知りであった。

 

母ちゃんの話はこうだ。

 

バイトの買い出し中に道に迷っていた女の子を発見。その子の道案内の途中に事故に遭い、救急車で搬送。大きな事故では有ったが、幸い意識もあり命に別状はないとのこと。本人の意識はあったが、搬送された時の格好が駒王学園の制服ではなかったため身元の確認が取れず、連絡が遅れたこと。

 

「無事で良かった」

 

そう言い残すと、父ちゃんは仕事のため病室を後にする。

 

俺の伸びた髪を撫でながら複雑な表情を見せる母親。

 

「心配掛けてごめんね、母ちゃん」

 

母ちゃんの普段は目にすることない表情を見て、申し訳ない気持ちになる。

 

「本当だよ。どれだけ心配したと思ってるんだい?心臓が止まりそうになったよ」

 

俺は生まれて初めて母ちゃんの涙を見た。

 

「あんたにもしものことが遭ったら父ちゃんも母ちゃんも生きて行けないよ」

 

そっと抱き締めてくれる母ちゃんの身体が少し震えていたことに俺は気が付いていた。

 

報せを受けて慌てて病院に来たため、入院するにあたって必要な物を用意していないため、揃えて来ると言って母ちゃんは一旦病院を後にする。

 

一人になった病室のベッドに腰を下ろすと、昨夜のことを思い出していた。

 

アーシアを取り戻すためとはいえ、初めて人を殴った。

人を殴った感触や骨の軋む音、自分に恐怖し悲鳴を上げる声。

 

その全てが鮮明に思い出される。

何よりそのことに胸を踊らせる自分が居た。

本能が闘争を望んでいる。

相手を倒せ、敵を殺せと心の底で叫ぶのだ。

 

あの時のことが脳裏を過り、身震いする。

自分はどんな顔をして人を殴っていたのだろうか。

あの時、対峙した人の目にはどんな俺が写っていたのだろう。

 

「ユウさん?」

 

両肩を抱き、震わせる俺の耳に聞き覚えのある声が届く。

 

「ユウさん!大丈夫ですか!?顔が真っ青ですよ!」

 

俺は近付いてくる彼女の腰に手を回す。

 

彼女は俺の背中を優しく摩る。

 

「大丈夫ですよユウさん。私は此処に居ますから」

 

彼女は俺の頭を自分の膝の上に乗せると、優しく撫でてあげる。

その姿はまるで子をあやす聖母のようであった。

 

 

 

 

いつの間にか眠っていたようだ。

枕がとても気持ちがいい。

豪勢な病室は枕まで高級らしい。

そんな事を考えながらゆっくりと瞼を開く。

 

「おはようございます、ユウさん」

 

目を開けるとそこには女性が居た。

 

(なんだ女神か)

 

違った。いや、間違ってはいない。

そこに居たのはアーシアだった。

 

「アーシア?どうして此処に?」

 

アーシアの顔が視界に入る。

頭には未だに気持ちの良い枕がある。

 

「リアスさんに教えて頂いて」

 

俺が救急車で運ばれた後、アーシアはリアスの家で世話になっていたようだ。

リアスに俺が運ばれた病院を聞いて来てくれたのだ。

俺の頭を撫でてくれている彼女の手は暖かかった。

 

(もしかして今、アーシアに)

 

自分の現在の状況を冷静に判断する。

 

(目が覚めたらアーシアの顔が目の前に在って、頭には柔らかい物が当たっているこれは)

 

アーシアは変わらずに微笑んでいる。

 

(アーシアの太腿、気持ちいい)

 

俺はアーシアに膝枕をしてもらっていた。

 

アーシアは頬を赤く染め、目を丸くしていた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

再び、心の声が漏れていたようだ。

 

俺の失言により二人の間に微妙な空気が流れる。

 

アーシアの顔が俺に近付いてくる。

 

(アーシア、この状況で)

 

アーシアの金色の髪が俺の顔に触れる。

病室には俺とアーシア以外誰も居ない。

数時間前のようにリアスのわざとらしい咳払いが入ることはない。

俺は目を瞑り、その瞬間が訪れるのを待つ。

 

[ガラッ]

 

「あら?お邪魔したかしら?気にしないで続けて」

 

ボストンバッグを抱えた母ちゃんが何事もないように病室に入って来て、収納スペースに服やらタオルやら仕舞い始める。

アーシアは真っ赤にした顔を両手で隠す。

 

(何このお決まりのパターン)

 

母ちゃんは俺とアーシアを気にすることなく荷物の整理をしていく。

 

「母ちゃん。こちらはアーシア・アルジェントさんです。お友達です」

 

俺は身体を起こしてベットに正座する。

 

「ア、アーシア・アルジェントと申します。ユウさんには大変良くして頂いてます」

 

アーシアは立ち上がり、母ちゃんに対して深々と頭を下げる。

 

「ユウの母です。アーシアちゃんって言うのね。可愛いわ、おばさんアーシアちゃんに一目惚れしちゃった」

 

アーシアの唇に母ちゃんの唇が重なる。

 

「か、母ちゃん!」

 

目の前の出来事に唖然とする。

アーシアも目を見開き、驚きを隠せない。

母ちゃんの唇がアーシアの唇から離れる。

 

「アーシアちゃん。不束な息子ですがこれからもずっとこの子のことお願いしますね」

 

母ちゃんはアーシアを抱き締めながら爆弾を落とす。

如何に世間の常識に疎いアーシアといえど、今の言葉の意味は理解したらしく赤かった顔を更に赤くさせる。

 

「こ、こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします」

 

どうしてこうなった。

 

扉がノックされ、看護師が病室に入ってくる。

それでも母ちゃんははしゃぎ続ける。

 

検査を受けて病室に戻ってくるとすっかり仲良くなった二人が楽しそうに話をしていた。

 

時刻はまもなく17:30

廊下には夕食の準備で慌ただしく動き回る看護師達の姿が見える。

 

「アーシアちゃん。この子、まだ手が痛むみたいだからご飯食べるの手伝ってあげてね」

 

俺に向けて母ちゃんが妖しい笑みを浮かべる。

明らかに何かを企んでいる。

 

「私でお役に立てるのでしたら是非!」

 

事実、手は痛むので誰かに食べさせて貰わなければならないのだ。

夕食を配膳をする看護師に声を掛ける母ちゃん。

 

「おばさんはアーシアちゃんのご飯買ってくるからユウのことお願いね」

 

ウインクをしながら病室から足早に去って行く。

 

「では、お食事にしましょうユウさん」

 

アーシアは満面の笑みを浮かべ、スプーンを持つ。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

俺は照れながら頭を下げる。

 

「フゥー、フゥーどうぞ」

 

料理を取ると、可愛いらしく料理を冷ましながら俺の口に運んでくれる。

 

「美味しいですか?」

 

アーシアは当たり前のことだと思っているようだが、俺はかなり恥ずかしい。

その後も食事が続き、アーシアは楽しそうだ。

汚れた口元を拭いてくれたり、頬に付いたご飯を取ってくれたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれた。

 

「随分楽しそうね二人共」

 

そんな二人の様子を腕を組み、満面の笑みを浮かべるリアスが入り口に立っていた。

その目はやはり笑っていない。

 

「あらあら、楽しそうでわねユウさん?」

 

更に後ろには朱乃も控えていた。

リアス同様に目が笑っていない。

 

「美味しそうです」

 

いつの間にか病室に入って来ていた小猫が羨ましそうに食事を見ていた。

 

「仕方ないわね、私も手伝ってあげるわ。アーン」

 

リアスがアーシアからスプーンを受け取ると、俺の口元に料理を運ぶ。

 

「い、いや流石に」

 

同級生で同じクラスで隣の席の女の子にしてもらうのは流石に恥ずかしいと断ろうとする。

 

「アーシアは良くて私はダメなの?」

 

瞳を潤ませ、此方を窺うリアスに俺は抗えるはずもなくスプーンを口に入れる。

 

「どう?」

 

リアスが笑顔で聞いてくる。

 

「美味しいです」

 

顔を赤くしながら答える俺にリアスは満面の笑みを浮かべ、次の料理をスプーンに乗せる。

 

「次は私ですわ、リアス」

 

朱乃がリアスからスプーンを奪うと同じように俺の口元に料理を運ぶ。

 

「朱乃!まだ私の番よ!」

 

リアスが朱乃のスプーンを奪おうとする。

 

「順番ですわ。どうぞユウさん、アーン」

 

俺はもはや赤子のように口元に運ばれた料理を口にしていく。

二人のスプーンの奪い合いは続く。

 

「次は私です」

 

二人の隙を突き、小猫がスプーンを手にする。

 

「どうぞ先輩」

 

小猫は汁物の温度を確かめるようにスプーンを一度口にすると、そのまま俺の口元にスプーンを差し出す。

 

「小猫!?それはダメよ!」

 

慌てて小猫を止めようとするリアス。

 

「その手がありましたわ」

 

悔しそうに唇を噛む朱乃。

 

所謂間接キスである。

 

パクッとスプーンを口にする俺。

 

その後はリアスと朱乃がスプーンを奪い合い、小猫とアーシアもその争いに加わる。

 

何このカオス。

 

遅れてきた兵藤が涙を流しながら床に手を付き、木場は苦笑いを浮かべる。

 

おい木場、俺はお前の苦笑いした顔しか見てないぞ。

 

「賑やかになったね~」

 

いつの間にか戻っていた母ちゃんが呑気な声を上げて笑っている。

 

21:00になると看護師の巡回が行われる。

 

「にゃは、巡回にゃん」

 

妙な看護師が来た。

 

黒髪でその長い髪は二つの大きな輪のようになっていて他の看護師は被っていないナースキャップを被っている。ナース服の胸元は大きくはだけ、その豊満な胸部からは谷間が見えている。そのプロポーションはリアスや朱乃にも引けを取らず、言葉の語尾には猫の鳴き真似のように特徴的だった。

 

「えっと、看護師さん?」

 

他の看護師とは明らかに違った雰囲気を醸し出すその看護師は妖艶な笑みを見せる。

 

「そうよん、検温にゃん」

 

そう言うと彼女は俺の額に自分の額を重ねる。

 

「ちょっと熱があるかにゃ?顔も赤いにゃ」

 

彼女の行動に俺は頬を赤くする。

 

「また明日来るにゃ」

 

彼女は俺の額に口付けすると、去って行く。

 

この入院中に様々な人がお見舞いに来てくれた。

クラスメイトや担任教師を初め、料理長や店のスタッフ達、生徒会長である支取蒼那さんと生徒会の面々など多く人で賑わい、とても有り難かった。

 

生徒会長の支取さんとはリアス同様に入学式での一件で知り合いとなり、委員会や学校行事の担当でも一緒に活動していたこともあり仲良くなった。黒髪に眼鏡を掛けた知的女子でリアスの親友でもあるらしい。

 

 

 

 

こうして俺の入院生活も残すところ今夜一晩だけとなった訳だか、目の前では夕食時に恒例となった四人によるスプーンの奪い合いが繰り広げられていた。

 

怪我も回復し、もう自分で出来ると伝えるも。

 

「お家に帰るまでは患者ですわ」

 

小学生の遠足のようなことを朱乃から言われた。

 

俺の入院中に変わったことと言えばアーシアが駒王学園に編入したことだ。

 

「に、似合いますか?」

 

恥ずかしそうに制服姿のアーシアが病室を訪れた時は驚いた。

リアスの計らいで学園の二学年に編入し、一人の普通の少女として生活することになったと聞いた時は嬉しかった。

彼女は素直で良い子だ。友達もたくさん出来るだろう。これまでの人生とは180度違う生活になるだろうが、そこは先輩として彼女を精一杯サポートしていこう。

 

就寝前の巡回時間になり彼女がやって来る。

この時間になると必ず彼女は現れる。

 

「明日退院します。ありがとうございました」

 

この時間にしか姿を現さない彼女に頭を下げる。

彼女は残念そうな表情をするといつも通り俺の額に口付けをして去って行った。

 

 

 

 

一週間振りに家に帰って来た。

なんだかとても心が落ち着く。

 

玄関を開けると愛猫の黒歌が出迎えてくれた。

七日振りに会う黒歌も変わっておらず、相変わらず愛らしい。

 

「おかえりなさいユウさん!退院おめでとうございます」

 

人目も憚らず黒歌を撫で回していると、二階から降りてくる少女に目を丸くする。

 

「な、なんで此処にアーシアが!?」

 

目の前の現実を受け入れられず、玄関の表札を確認する。

間違いなく此処は俺の家だ。

 

「アーシアちゃん、お昼の準備するから手伝って~」

 

キッチンからは然も当たり前のようにアーシアを呼ぶ母ちゃん。

 

「母ちゃん!?どうなってんの!?」

 

母ちゃんは持っていたフライパンを置くと、俺の所に来て耳元に口を寄せる。

 

「よく聞け、息子よ」

 

事情はこうだ。

 

アーシアが学園に編入する際、リアスと今後の住居について相談。

アーシアが出来れば俺の側に居たいと発言する。

驚いたリアスだったが、その事を母ちゃんに相談。

母ちゃんが即了承。

 

「羨ましい奴め」

 

頬を赤く染め、ソファーに座って新聞を読んでいる父ちゃんを見ると、うんうんと頷いている。

 

「いいか、ユウ」

 

ここで母ちゃんが真剣な顔をして俺の目を見る。

 

「私はアーシアを義娘にしたいほど可愛いんだ。あんたも男ならこの意味が分かるね?」

 

さらりと爆弾を投下する母ちゃん。何度も頷く父ちゃん。

 

父ちゃん、あんたはさっきから何に頷いている?

 

余りにも簡潔で反論の余地のない説明を受けるも未だに戸惑っている。

 

「分かったら荷物を置いてきな」

 

母ちゃんに背中を押され、自室に向かう。

 

「ユウさん!これからはよろしくお願いします」

 

アーシアの笑顔が眩しい。

 

「此方こそよろしくアーシア」

 

アーシアが幸せならそれでいい。

彼女のその笑顔がこれからも続きますように。

俺は心の中で神に祈りを捧げる。

 

 

 

 

久しぶりに学園への道を歩いている。

俺の背中には悲壮感が漂っている。

隣には笑顔の弾けるアーシアが居る。

 

「ユウさんと一緒に学校に通えるなんて夢のようです!」

 

朝、目が覚めると黒歌が隣に寝ていた。

いつも通りの朝の筈だったが、反対側に可愛らしピンクのパジャマを着たアーシアが寝ていた。

 

軽く浅くを信条にしている俺でも無視できない。

 

更に困ったことにその様子を母ちゃんに見られた。

母ちゃんは歓喜の表情を見せるとサムズアップして去っていった。

 

アーシアが目を覚ますと一緒に寝ていたことを気にもせず挨拶し、自室に戻っていく。

 

「よっ!孝行息子!」

 

準備をしてリビングに行くと、案の定有頂天の母ちゃんが孫という単語を連呼しながら小躍りしていた。

 

 

 

 

「おはようアーシア、ユウ君。なんだか元気がないわね?まだ怪我が痛むの?」

 

リアスが心配そうに俺の顔を覗き込んでいると、朱乃や小猫も合流し、五人は学園へと進み始めた。

 

駒王学園の誇る美少女達を侍らせるユウへの羨望の眼差しと嫉妬の視線は学園に到着するまで向けられる。

 

昇降口で学年の違うアーシアと小猫とは此処で別々になり、三人は教室へ向かう。

 

教室に入ると一週間振りに登校してきた俺の元に多くの生徒が集まって来る。

 

俺は挨拶し、お見舞いのお礼を言うと席に着いた。

 

「放課後時間あるかしら?」

 

リアスからこの間の教会でのことで話があると言われたため頷く。

 

「良かったわ」

 

リアスが安堵の表情を見せると、担任教師が教室に入って来た。

 

 

 

 

リアスと朱乃と共に旧校舎にあるオカルト研究部の部室に向かう。

 

部室の中は相変わらずで謎の文字が至るところに書き込まれており、部室の中央には巨大な魔方陣が描かれている。とても年頃の少女達の集まる場所とは思えない空間だった。

 

兵藤とアーシアが部室に入って来た。

 

「ユウ君、ようこそオカルト研究部へ。貴方を歓迎するわ。悪魔としてね」

 

アーシアは既に知っていたようで動揺はない、皆の視線が俺に集まる。

 

「アーシアのことも聞いてたし、この間のこともあったからもしかしたらとは思っていたけど本当に悪魔だったとは」

 

俺はリアスの後ろに並んでいる皆を見てため息を吐く。

 

「秘密にしてたことは謝るわ。でもそれを言ったら貴方だってそうよ?」

 

リアスは試すような視線を俺に向けてくる。

 

「お互い様ということで」

 

話を終わらせようとするが、リアスは納得しない。

 

「ダメよ。貴方には聞かなければいけないことがあるもの」

 

その発言に元来のプライドの高さを窺わせる。

そうなると梃子でも動かない。

リアスの性格を熟知しているため動かそうと思えばいくらでも動かせるのだが、今はそういう雰囲気ではないため諦める。

 

「貴方とアーシアの関係は聞いたわ。でも何故貴方はあの日、あの場に居たのかしら?」

 

アーシアも知りたかったようで真剣な表情をしている。

 

「うーん、愛?」

 

俺の発言にアーシアは頭から湯気を出すのではと心配するほど顔を真っ赤にする。

リアスは額に青筋を立て、眉間にシワを寄せる。

朱乃もなにやら物騒な言葉を並べている。

小猫には変態と一言で片付けられてしまった。

木場と兵藤のリアクションはいつも通りなので割愛しよう。

 

「冗談はさておき、あの日は」

 

俺はあの日の出来事を思い出していく。

 

バイト先からアーシアに料理を届けるように言われたこと。

少年神父から突然斬り掛かられ、返り討ちにしたこと。

地下聖堂に向かう途中アーシアの声が聞こえたため、扉を蹴破ったこと。

 

「では、偶然あの場に居合わせたと?」

 

紅茶を啜りながら頷く。

 

「では、貴方のその力はどこで身につけたものなのかしら?」

 

当初、リアスは神器の所有者とも思ったがユウからはその反応が一切感じなかった。

 

「どこから話せばいいのか」

 

腕を組み、少し考えると話を始める。

 

15歳の誕生日に突然、力が目覚めたこと。

制御出来ずに専門医の所で一ヶ月入院していたこと。

退院後も一年間治療に通っていたこと。

 

ユウは答えられる範囲で全て答えていく。

 

「俄には信じられない話ね」

 

自分で聞いて後悔するリアス。

 

「では、私達と出会った頃はもう」

 

朱乃が少し悲しいそうに俺を見る。

 

「まあ、もう治療にも通ってないし、自分で制御出来てるから大丈夫なんだけどね」

 

そう言って笑う彼の顔には僅かだが悲しみの色が見えた。

 

「じゃあ、あれは暴走みたいなもんすか?」

 

後ろに居た兵藤がポツリと呟く。

 

「一誠!」

 

リアスの大きな声が部室中に響き渡る。

刻既に遅し。

 

「暴走?」

 

その疑問を誰かに問おうとするも俺と目を合わせる者はなく、全員が目を伏せていた。

 

(そうか、俺はまた)

 

嘗て我を忘れた自分を正気に戻すため、胸に消えることのない傷を負った人物を思い出す。

 

「迷惑を掛けてすまなかった」

 

深々と頭を下げる俺に皆が戸惑っている。

 

「あ、あれは貴方の責任ではないわ!頭を上げて!貴方は私を庇って」

 

リアスは立ち上がり、俺の頭を上げさせようと肩を掴む。

 

「前にも同じようなことがあったんだ」

 

俺は頭を下げているため皆の様子は伺えない。

 

「症状が出て、入院して直ぐの事だった。発作を起こした俺を止めるため、先生は胸に生涯消えることのない傷を負った」

 

俺の言葉に誰一人声を出す者は居ない。

 

「ダメだな俺」

 

俺は今どんな顔して笑ってるだろか。

 

俺のせいじゃない、あれはどうしようもないと皆の声が聞こえる。

 

「笑わないで」

 

皆が俺に同情するなかで彼女の声が静かに響く。

 

「そんな風に笑わないで!」

 

リアスの声に俺は目を丸くする。

 

「なにもかも諦めたような顔して笑わないで!私は貴方のそんな顔見たくない!」

 

リアスは怒りを露にするもその表情は悲しそうだ、すると俺を指差す。

 

「改めて言おうと思ってたけどもういいわ!ユウ君、貴方私の眷属になりなさい!」

 

リアスのいきなりの発言に全員が目を丸くする。

 

「余計なことを考える暇が無いくらい扱き使ってあげるわ!」

 

言葉は悪かったがリアスなりの優しさなのだろうと、その場に居た誰もが理解していた。

 

それでも、今言うことではないと朱乃や小猫から小言を言われている。

 

予期せぬリアスの発言に俺はどうしていいのか分からずに取り敢えず頭に浮かんだ疑問を口にする。

 

「眷属って何?」

 

当然の疑問にリアスの講義が始まる。

 

太古の昔に悪魔、天使、堕天使の三勢力の間で大きな戦争が起きたこと。

戦争は熾烈を極め、どの陣営も滅亡寸前まで追い込まれたこと。

悪魔陣営も純血悪魔を多く失い、他の種族の力を借りなくては存続出来ないほど数を減らしたこと。

元来悪魔は出生率が低いこと。

悪魔陣営は【悪魔の駒】という物を開発し、他の種族を悪魔として転生させることで数を保っていること。

 

その他にも【悪魔の駒】の特性やら色々と説明されたが、頭が追い付かずリアスを止める。

 

「つまり、俺が悪魔になってリアスの下僕になるってこと?」

 

俺の質問にリアスが返答する。

 

「単刀直入に言うわ。貴方を私の物にしたいの」

 

リアスは俺を誘うように妖しく微笑んでいる。

大胆なリアスの発言に奇声を上げる兵藤。

 

「嫌だ」

 

即答する俺に今度はリアスの頭が追い付かない。

 

ある程度の説得は必要だと思っていたリアスだったが即答されるとは思っていなかった。

 

「ど、どうして?」

 

言葉に詰まる。

 

「俺はリアスと対等でいたい」

 

余りにも単純な答えだった。

 

「悪魔だけど、リアスはリアス。その駒を受け取ってしまったら対等でいられない」

 

リアスを除く全員が呆気にとられている。

リアスの頬が赤くなっていた気がするが、西日の影響だろう。

 

「今日はもう帰るかな」

 

そう言って俺は席を立つ。

 

オカルト研究部の部室から出て行く俺の後ろで、アーシアが皆に一礼して俺の後を追う。

 

「良かったんですかリアスさんの誘いを断って?」

 

家に帰る途中、アーシアが先程のやり取りについて聞いてくる。

 

「うん。寿命一万年とか想像も出来ないし」

 

アーシアはそこではないと苦笑いする。

 

「いいんだ、これで。オカルト研究部の連中とワイワイやってアーシアと家に帰る。バイトに行って、母ちゃんに怒られて、黒歌の相手をする」

 

俺の話すのは変わらない日常だった。

アーシアもその言葉に笑顔を見せる。

 

 

 

 

翌日、俺とアーシアはある場所に来ていた。

アーシアの腕には綺麗な花が抱えられていた。

 

「お久しぶりです。レイナーレ様」

 

二人が訪れたのはレイナーレのお墓だった。

お墓と言ってもきちんとした墓地ではなく、レイナーレが最期を迎えたあの教会であった。

そこにレイナーレの遺体がある訳ではないが、アーシアがリアスにお願いして建ててもらったのだ。

 

アーシアはレイナーレのお墓の前で膝を付き祈りを捧げている。

 

二人の間には俺の知らない絆があるのだろう。

 

生前レイナーレはアーシアのことを妹のように可愛がっていた。

俺の知る僅かな時間でもそう見えたのだから間違いないだろう。

アーシアもレイナーレを姉のように慕い、今でもレイナーレの名を口にすることがある。

 

「今の私があるのはユウさんとレイナーレ様のお陰です。どうか安らかにお眠りください」

 

レイナーレ。

彼女も運命に振り回された者の一人だろう。

別の形で出逢っていれば彼女の生涯はもっと違っていたのだろうか?

その答えを持ったまま彼女は永遠の眠りについてしまった。

 

「また逢いに来ますね、レイナーレ様」

 

アーシアは祈りを終え、立ち上がる。

 

「帰りましょうか、ユウさん」

 

その時のアーシアの笑顔はとても印象的だった。

 

俺はアーシアの手を取ると、歩き出す。

 

(安心して眠れ、レイナーレ。貴方がそうしたように俺も命を掛けて彼女を守ってみせる)

 

去っていく二人の背に花が舞った。




第6話更新しました。
一章完結です。
矛盾とキャラ変の連続でした。
申し訳ない。
第0話を書いてときはクールで何事にも動じない謎のある主人公設定だったのが、いつの間にかお惚けムッツリの主人公になってました。
不思議です。

内容は概ね予定通りですかね。
部室でのシーンをもっと書きたかったのですが、どんどんシリアスになってしまって先に繋がらなくなってしまったのでカルい感じになってしまいました。
主人公の暴走モードの姿形に触れなかったのはわざとです。・・・決して忘れていた訳ではないです。

最後まで閲覧してくれた方、コメントをくれた方、誤字・脱字を修正してくれた方ありがとうございます。

では、また次回バイバイ。
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