コンコン
扉の音がする。
「工藤くん。入ってもいいかしら。」
灰原の、声。
「ああ。」
「何か食べて体力を付けないと、治るものも治らないわよ。」
コンビニで買ってきたのだろう、おにぎりやら野菜やらを手にした灰原は、まるで母のような事を呟きながら入ってくる。
「おめぇよぉ、、治らねぇだろこんな奇病…」
「あら、そう?…でもね、調べてみたわよこの病気のこと。」
手にした封筒から資料を取り出し、ベッドの上に座っているオレの膝の上あたりに雑に並べる。
「椅子、借りるわね…っよいしょっと。」
「おいおい…そんなばあちゃんみたいな掛け声するんじゃねぇよ…」
「あら、失礼ね…資料見せないわよ?」
「すまん、それでその資料って…」
1枚手に取ってみるが、良くネットにあるイラストのようなものだった。
「工藤くんの侵されている病気は『花吐き病』ってやつらしいわ。」
花吐き、病…そのままな名前なんだな…
「正式名称は嘔吐中枢花被性疾患。片想いをこじらせて苦しくなると花を吐いてしまうというものらしいわ。 …資料によると、この病気は架空の病気らしいけれど……工藤くんが発症したものはこの病気と同じものと思っていいかもしれないわ… 」
架空の病気… 架空の病気なのにオレ、かかっちまってんのかよ…
確かにそうだ。あいつを想い始めてからというもの、この病気に苦しんでる。
「ねえ、工藤くん、。嫌だったら答えなくてもいいんだけど…誰に片想いしてるの?」
「灰原…お前なら分かるはずだがな。」
「そうね、聞くだけ無駄よね。だってあの、キッドだものね。」
灰原にはお見通しだな。…まぁ、組織の一員だったからな…
「なぁ、それでその『花吐き病』っつーやつはどうやったら治るんだ?」
「片想いが成就すること。 成就したら、感染者は白銀の百合をはきだして完治するらしいわ。」
片想いの、成就。 あーあ。もう治らねぇじゃんか。
残念な人生。小さくされて花吐いて終わる一生。
は、つまんねえな…
「治る見込みは、ないの? キッドと両想いには…?」
「残念だな、もう何ヶ月も会ってねぇのに叶うはずねぇ……」
「そう…それは残念ね…」
思ったより灰原の反応が薄く感じるのは、なんでなんだろうな。まぁオレの人生だ。灰原にゃ関係ねえかんな…
「でもね、工藤くん。このまま何も食べないなんてことはやめてちょうだい。
工藤くんの小さい体じゃ吐き出すのに体力がとてもいるし、このまま何も食べないでいると、吐き出す力がなくなって、窒息死する可能性だってあるの。
…あゆみちゃん達3人や博士、探偵事務所の彼女だって、あなたが元気でいるのが1番いいはずだわ…
だから少しずつでいい、食べて体力をつけて。」
オレを心配しているんだかなんだか。でもそれが灰原らしくて。
灰原の優しさに瞳が潤むのを感じて、オレは灰原の背中を叩く。
「ま、わーったよ。ちゃんと飯食えばいいんだろ、
心配すんな、窒息死はしねーよ。 ほら、博士んとこ戻れよ!オレは大丈夫だからさ!」
「なによもう急に騒いで…分かった。じゃあ戻るわ。」
扉まで歩いていく灰原の背中を見つめて、そっと呟いた。
「…ありがとな。それから、心配かけて、ごめん。」
その声が聞こえたのか聞こえていないのか、灰原はそのまま扉の向こうに消えた。