ある世界で起きたこと   作:人生ツライム

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始まりは願いだった

血に濡れた街。崩れ行く廃屋。燃え広がる炎。

 

炎に照らされた鋼鉄の兵士は、鈍く光りながら死を生んでいた。

 

呆然と立ち尽くし、その光景を眺めていた。頭を埋め尽くすのは絶望と後悔。この光景を作り出したのは紛れもなく自分だった。だからこそ、分かる。…理解してしまう。あれを止めることができないことを―――。

 

「何をしている、早く逃げるぞ!ここはもう持たない!」

 

肩を誰かに強く揺さぶられている。振り返れば見知った顔が幾つか並んでいる。それらの表情はどれもが恐怖や焦燥、絶望に歪んでおり決して心中穏やかではないだろう。彼は逃げると言った。だが逃げることは、できない。逃げたところで、意味はないのだ。震える唇を動かして辛うじて声を出す。その声はあまりにも弱弱しく、覇気の無いものだった。

 

「私は、ここに残る。」

 

掠れた声で周囲の悲鳴や崩落する音にかき消されてしまったかと思ったが、その言葉が届いたのかその表情には怒りが満ちて胸ぐらを掴む。

 

「ふざけるなよ、ここで死んで何になる!こうなってしまったのがお前のせいだと言うのなら、生きてお前が―――」

「無理なんだ。もう、ダメなんだ…。あれは止まらない。それに私は、失ってしまったのだ…。」

「ッ、だよ…勝手にしろ!」

 

彼の表情が怒りに染まる。失望されてしまっただろうか。彼は手を放し他の人達に声をかけ忙しなく動いている。

向き直り、地獄と形容するに相応しき光景を目に焼き付ける。後ろからまた呼ぶ声が聞こえたが、程なくして声は遠ざかっていき、聞こえなくなった。

なぜこんなことになってしまったのか、どこから間違えていたのか、そんなことが頭を過ぎる。思えば自分は傲慢な存在であったのだろう。身の程を知らず、余りにも過ぎた願いを抱いていた。そしてその願いは叶うことはなく、本当に大切だったものまで失ってしまった。

 

視界に影が掛かる。そちらを見ると、鋼鉄の巨体が見下ろしていた。

そして、私は……

 

 

 

 

―――願わくば、この地獄を終わらせてくれる存在が現れることを―――

 

 

 

 

それから一週間後、キーファ大陸でもっとも魔導の栄えていた国、ドゥークは滅びた。

国があった土地は荒廃し、乾いた地と燃え尽きた炭が大地を彩っていた。

しかし国が滅んだ原因は調査すれど知ることはできず、滅ぼしたであろう何かを見つけることは叶わなかった。突然の国家消失に、大陸中が恐怖した。明日は我が国ではないのか、原因が不明ということがその恐怖を増長する。

 

キーファ大陸ではアジウ帝国とその周辺国の戦争が絶えなかったが、ドゥークの滅亡によりその脅威を警戒して戦争を続ける余裕がなくなり、停戦となった。

 

 

 

 

 

 

それから数年後、調査を続けていた調査団はドゥーク首都の跡地にある崩れかけているとはいえ、比較的に無事な施設でとある手記を発見する。

 

その手記はどうやら魔導の技術者が記したものらしく、機密などの問題もあるためか詳しいことは特に記されてはいなかったが、魔導の用語や実験について記されていたため間違いないだろう。手記の途中に魔導騎士【ラミュー】という名が記されていた。そこから今までは短く端的に書かれていた手記だったが、熱が入ったのかいろいろと書かれている。

 

読み進めていくと魔導騎士【ラミュー】という魔導兵器はこの手記の著者が開発したものらしく、名付けたのも己であると。

 

記されている内容曰く、ドゥークを守護する自立兵器。自身の判断で魔力を使用して修復を行うことが可能である。【火】と【風】の魔導が使用可能で、判断能力の向上のために自己進化を行い思考能力まで持つという。

 

「非現実的すぎてまるで妄想を記した物語でも読んでいる気分だな。」

 

手記を読む男は言葉を漏らす。しかし漏れ出た言葉もまた当然とも言えるだろう。

既存の魔導兵器の中に2つ以上の魔導を扱えるだけのものですら貴重なものだというのにも拘らず、ここに記されているものは属性だけなので厳密に幾つの能力があるかは不明であるが属性ごとに1つであったとしても最低でも5つ以上の能力を持つことになる。

その上キーファ大陸のみならず他大陸に渡って調査を行っている調査団でも自己進化能力や思考能力を持つ魔導兵器なんて代物、見たこともなければ聞いたことすらないのだから。

 

そんな手記を読み進めていくと最後のページに辿り着く。

そこには短く『ラミューを止めてくれ。』と書かれていた。

 

「なるほど、これがドゥーク消滅の原因か。ラミュー…ね、皮肉なものだな。古き言葉で【平和()()(ミュー)】…そう名付けられて齎したのは自国の破滅と、一時的とはいえ他国の平和か。」

 

彼は手記を懐にしまい立ち上がると、周囲にいた調査団員に撤収指示を始める。

 

「情報を見つけた!早々にここから離れるぞ!…これ以上は不味い気がするしな。」

 

 

 

程なくして彼ら調査団が施設から出て誰もいなくなった。

―――誰もいなくなった施設に音が響く。

 

からん、からん……

 

その音もすぐに聞こえなくなり、施設に完全な静寂が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……隶セ螳壽眠逶ョ譬?? 蠑?蟋玖。悟勘縲」

 

 

 

 

そして調査団が持ち帰った情報が帝国に知られることはなかった。

 

 

 








ちょっとした用語軽い補足(簡単な説明しかしてないので不要な方は飛ばしてください)

【キーファ大陸】【ドゥーク】【アジウ帝国】
3つの大陸のうち1つで、最も大きな大陸。
キーファ大陸には幾つもの国があり、ドゥークとアジウ帝国はその中に1つ。
アジウ帝国は最も栄えた国でキーファ大陸の約半分の土地を持つ。
周辺国と戦争状態にあるが、圧倒的な武力を持ち、複数国を相手にしてなお優勢を保っている。


【魔法】【魔術】【魔導】
それぞれ魔力を使用する力。
・魔法
大気中の魔力や自身の魔力を使用して行う超常の力。使用できるものは世界単位で見たとしても数十人いるかいないか程度だが、資質次第だが時間の停止や空間転移すらやってのけるとかなんとか。

・魔術
魔法を詠唱や術式で補助して使いやすくしたもの。魔法が如く無から有を生み出したり、物理法則を無視するようなことはできない。
比較的に誰でも使えるが、魔力は自前のものを利用するため魔法ほど強力な力を放つことはない。

・魔導
魔導には核となる回路がある。その回路に事前に込められたものしか使用できない。代わりに魔導具に魔力を込めておけるため、使用者の資質を問わずに使用できる。ただ回路に込めれる魔力や効果には限界があるので強力な効果を得るには相応に魔力が込められる回路が必要。
回路に複数の魔導を込めるのは困難極めるため、2つ以上の能力は稀。


【属性】
火、風、地、水の4属性が存在している。
属性を付与していると精霊に力を借りることができるため、効果が上昇する。
4属性以外の属性、闇や光といったものもあるが、精霊に力を借りることはできないためただ名前があるだけのようなもの。ライトの魔術で灯りをともすにも光源には熱が伴うので光属性より火属性でライトの魔術を使ったほうが効率がいい、というようなもの。


【古き言葉】
かつて大昔に栄えていた文明で使われていた言葉。いわゆる古代語。
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