ある世界で起きたこと   作:人生ツライム

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本当にやりたかったことは(1)

聳え立つ外壁と巨大な門、懐かしい光景だ。これが我々の守護する帝国。

未だに門を潜る前だが、潜る前から感じる歓声と熱気。

 

我々騎士団の勝利の凱旋だ。何度か経験はしているが、帝都に住む多くの民が我々を見ているのだ。なかなか馴れることのない緊張を感じながら馬を進ませる。時折手を振って民たちの歓声を受けつつ城に向かう。道すがら変わらない街並を見ながら、ここに戻ってきたのは何か月ぶりだったか思考する。

弟は元気にしているだろうか。彼女はまだ歌を歌っているだろうか。

ふと懐かしい顔が頭を過ぎって実家のある方向を見やるが、ここからでは見えもしない。溜息を吐きそうになるが凱旋中だと気を引き締めて笑みを絶やさず城へ向かう。

 

 

広大な帝都とはいえ、程なくして城へたどり着く。団員達とはここで別れ、副団長に任せて皇帝陛下に報告を行うために一人謁見の間へと向かう。

 

 

 

謁見の間に入ると中にいる者たちの視線が集中するのを感じる。気圧されそうになるが前に出る。

 

赤剣(しゃっけん)騎士団団長ヴィクトロス・ロムルフ、任を終え只今帰還いたしました。」

 

赤剣騎士団の象徴である二本の剣が交差する紋様の赤い外套に使い古され細かい傷だらけの銀の鎧を身にまとったまま、皇帝陛下の御前で膝をつき頭を垂れる。

 

「此度の任、ご苦労であった。貴公の働きによって我が帝国にまたも勝利と栄光が齎された。誇るがよい。」

「はっ、勿体無きお言葉。」

 

「……陛下。」

「うむ。…我が剣である赤剣騎士団よ、本来であれば褒賞と暫しの暇を与える予定ではあったが、そう言っている場合ではなくなった。次の任を与える。小国とはいえプラムに魔法使いが現れたとの情報が入った。魔法使いに攻め込まれては面倒だ、早急に始末してまいれ。」

「拝命いたします。」

「うむ、仔細は追って伝達する。下がってよいぞ。」

「はっ。」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――い

 

 

――――――おいっ

 

 

「ヴィクト!」

 

己を呼ぶ声に沈んでいた意識が引き上げられる。振り返ると副団長がいた。

 

「あぁ、副団長か。どうした。」

「どうしたもこうしたも、伝令から指示書受け取ってからずっと上の空だし、飯時になっても食堂にもにも来ねぇじゃねーか。」

 

言われて外を見てみれば月が昇っていた。

 

「いったいどんな命令が来たんだよ。」

「ああ……そうだな、お前には知らせておく必要があるか。」

 

机にある指示書を広げる。広げると嫌でも目に入る、十に届くかすら危うい幼い少女の写し画だった。中を読むと嫌気がする。魔法という超常の力を扱える少女を確保したプラムは自国の兵として少女を育てているという。魔法士一人で最低でも魔導士の一個大隊に匹敵する。魔法士の才能次第では一個師団に匹敵し得るとか。

そのような強大な力を持つ存在が敵国に、しかも兵士として育成されているともなれば今の内に殺してしまおう、ということも理解できる。理解は出来るが、吐き気がする。

このような指示も、こんな幼子を兵士に仕立てようとする敵国も、この指示を受け入れてしまっている己自身も。

 

「んだよ、今度は魔法使いを殺すのか。…未成熟な内に、ね。それで皇帝陛下は俺らみたいな少数精鋭に命令を出した訳か。あーやだやだ、こちとら命令でペドウアル王国に占拠された街を取り返して、そっから砦を攻め落として、やっと帰ってきたとこだぜ?そったら次はプラムに潜入して魔法使いを暗殺しろってか。過労死しちまうぜ。」

 

遠征続きで大規模な戦闘が多かった。物資も消耗しているし団員も疲弊している。魔導具も整備しなければならない。

 

「…だが、この任は我々でしか達成し得ないだろう。」

「ま、青盾騎士団はこの国から離れる訳にゃいかねーだろうし、黄翼騎士団はあっちこっち飛んで暴れての大忙し。かと言って軍をそこまで進行させるにも敵が多すぎるし諸外国を放置するっつー事もできない。しゃーなしかね。」

「ああ。だが全員で動く訳にも行かない。今回は目立つ訳にはいかないし、魔導具の整備や調整もある。」

「じゃあ行く人員はどうすんだ。」

「……私一人で行く。」

 

常に飄々として笑みを浮かべている副団長が眉を顰める。

 

「―――は?敵国の首都で暗殺だぞ?」

「だからこそ一人の方が身軽だ。」

「魔導具の調整は。」

「依頼しておいたものが完成したそうだ。」

「物資や足は。」

「一人なら何とでもなるし、当てもある。」

「魔法使いを殺せるのかよ。」

「ああ、その為の私だ。」

「……ヴィクトが死んだらこの騎士団はどうすんだ。」

「お前かローランに引き継ぐ。その準備も済ませてある。」

「…チッ、好きにしろ。」

 

滅多な事では声を荒げない副団長が不機嫌そうに部屋を出ていく。珍しいものを見れたと、少し笑ってしまった。

そうと決まれば、と席を立つが空腹に襲われる。そう言えば飯を食っていなかったな、と思い食堂に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

そして帝都を発つ日となった。

今まで愛用していた魔導具は調整が完全とは言えないが、新しい魔導具がある為に問題はないだろう。今回の任は大手を振って行えるものではないし己が何者かを知られてはいけない。鎧も外套も外して、少なくとも騎士とはパッと見で分からないようにしている。潜入して魔法使いの少女を探し、……帝国の脅威になり得る存在を排除することこそが課せられた使命だ。

ただ、今までは民衆に見送られて騎士として遠征に向かっていたが、今回は一人日が暮れてから誰にも知られずとなるので少し寂しく思えた。

 

「お待たせ、待った?」

「ああ、少しな。」

「相変わらずつまんねー返しだな。女に言われたら今来たとこって返すもんだぜ。」

 

馬車に乗ってやってきたのは今回協力してもらう友人。ルーシアの筋肉質な肉体と広い肩幅、そしてこのカラッとした性格。正直胸が無くて喋らなければ男と間違えてる者もいるだろう。

 

「そうか、覚えておこう。」

「そうしな。んじゃ確認すっぞ。俺は各地を旅する行商人、お前は護衛のヴィスロフ・イサリア。それでいいんだな?」

「そうだ。」

「りょーかいりょーかい、じゃあさっさと乗りな。」

 

催促されたので乗り込むとすぐに馬車が動き出す。

遠征から帰ってきてほんの一日しか滞在出来なかった街を眺め、次はいつ戻ってこれるのかと思考する。少なくとも往復で数日かかるのでひと月は戻ってこれないだろうな、と思いながらも何処かでもう帰って来れない、そんな予感もしていた。

 

 

 







【ペドウアル王国】
キーファ大陸で2番目に大きな国。ただそれでも帝国の半分にも満たない。
帝国とは百年以上昔から戦争を続けているが、一度も首都が落ちた事はない。


【プラム】
キーファ大陸で最も小さな国。
海に面している部分が多く、特産品は海産物。


【魔法使い】【魔法士】
練度によって言い分けることが多い。






国名とか古代語とか、全部キャラ名以外の固有名詞は大体どっかの言語文字ったりそのままだったりする。
今回は少し長くなったりするかも知れなかったりするからちょっと分割してここで切りました。
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