ジャネットはディアーナと共に出撃し、邪鬼の野望を阻止しようとした。
ディアーナは彼女の強さを認めつつ、勇気の仲間として戦おうとする。
一方、勇気は羽心を救出しようと時のトンネルを開こうとするが、
羽心のいる場所には行けなかった。
果たして、勇気は羽心を救出する事ができるだろうか。
そして、ジャネットとディアーナは見捨里市を邪鬼から解放する事ができるだろうか。
翌朝。
「おはよう。勇気君、大丈夫? 顔色が良くないよ」
学校の教室に入ってきた勇気を見たクラスメイトの桐谷花恋が、心配そうに話しかけてきた。
「あ、うん。昨日、あまり眠れなかったんだ」
「ああ、そうだよね。湖の真ん中にあんな大陸がいきなり出現したんだものね。
ビックリして、うちも家族全員で夜中までテレビやインターネットを見てたもの」
「うん、そうそう。僕もビックリしちゃって」
そう答えた勇気は教室を見回した。
クラスメイトの皆も、やはり海に出現した大陸の話題で持ちきりだった。
だが、勇気は、教室の真ん中辺りの誰も座っていない席に近づいた。
そこが羽心の席だからだ。
しばらくしたら授業が始まる。
しかし、目の前の羽心の席は空席のままだ。
そして、担任の原末兼太先生が不安げな表情で教室に入って来て、きっとこう言うだろう。
「白鳥羽心さんが行方不明になったらしい」
クラスメイト達は「え?」と驚いてざわつくに違いない。
その時、勇気も一緒に驚くべきなのか?
それよりも本当の事を説明するべきなのか?
(でも、本当の事を説明しても誰も信じないよな)
羽心の席を見つめながら、そんな事を考えた。
と、その席の前に、クラスメイトの志水拓馬がやって来た。
「おはよう」
と、拓馬は羽心の座にあっさりと座った。
「え!? 拓馬君、なんでそこに座るんだよ!」
羽心を心配する勇気は、ついきつい口調になった。
「は? なんでってなんだよ! ここは僕の席じゃないか!」
普段は優しい拓馬がムッとして言い返してきた。
「何言ってんだよ! ここは羽心の席じゃないか!」
「うらら? 誰だそれ?」
「白鳥羽心だよ!」
「しらとりうらら? それって誰だよ? おい、勇気君、大丈夫か?」
「大丈夫かって? それは僕が言いたいよ! 何、寝ぼけてるんだよ!」
つい声を荒らげてしまった勇気に、花恋が慌てて近づいた。
「ねえ、勇気君、朝から変な事で喧嘩しないでよ」
「変な事って……。だって、拓馬君が羽心の事を知らないとか言うから……」
拓馬を指差しながら花恋の方に向く勇気。
花恋が奇妙な顔で勇気に疑問をぶつけてきた。
「うららって誰? そんな人、私、知らないけど……」
勇気の頭の中は真っ白になった。
「花恋ちゃんも知らない……? そんな?」
勇気はクラスメイト達を見回す。
全員が勇気をきょとんと見つめていた。
誰も白鳥羽心を知らない。
明らかにそんな表情をしている。
するとチャイムが鳴って、原末先生が入ってきた。
「皆、おはよう」
クラスメイト達は席に着いたが、勇気は先生のもとに飛んでいった。
「先生! 先生! 先生は羽心を知ってますよね? 白鳥羽心です」
原末先生は勇気を見た。
「真之、早く席に座れ。授業が始まるぞ」
しかし、勇気は食い下がる。
「白鳥羽心を知ってますよね? このクラスの子です」
原末先生は眉間に皺を寄せる。
「真之、早く座るんだ。しらとりうらら、なんてこのクラスにはいないぞ」
「えっ」
勇気は呆然となった。
ふらふらと自分の席に向かい、そして力なく座った。
(何故だ? 何故、誰も羽心を知らないんだ?)
勇気はプーカに話しかけてみようと思い、胸のポケットに触れた。
しかし、ポケットには何も入っていなかった。
(そうだ。プーカはまだ書斎で寝てるんだ……)
勇気はぼんやりとしてしまい、その日の授業は何も頭に入らなかった。
放課後。
校門を出てきた勇気は、とぼとぼと家に向かった。
道すがらどうしたらいいか分からなくなり、泣き出しそうになった。
羽心は邪鬼に連れ去られ、皆は羽心の存在さえ忘れている。
(『不甲斐ない』って難しい言葉は、きっとこういう時に使うんだろうな)
どうしようもない絶望的な状況なのに、自分には何もできないので嘆くしかない。
「そうね」
そんな時、ディアーナが現れて勇気に近づき、ぱん、と勇気の頬を軽く右手で叩いた。
彼女は勇気を心配して、ジャネットと共に勇気を探しに来たのだ。
「ディアーナ、それに、お姉さんは……」
「ジャネットです。それ以外は語りません」
「あなたがそんなんだと、あたしも落ち込んじゃうわ。
あの子が言った事、忘れたとは言わせないわよ」
―邪鬼がどれだけ怪を使って人々を恐怖に陥れようとも、絶対に諦めちゃいけない。
諦めなければ、きっと元に戻せる。みんなを救う事ができるんだ。
何があっても決して諦めてはいけないと、ファフロツキーズの時にキユウが言った。
その事を、ディアーナは改めて勇気に教えてあげたのだ。
「邪鬼が絶望を与えたなら、今度はやり返すのよ」
「……やり返すって、僕は君と違ってまともに戦えないんだよ……」
ディアーナとしては単なる一方的な心配に過ぎないのだろう。
しかし、もう一度叩いてくれたおかげで、勇気はほんの少しだけ立ち直った。
勇気はやがて家に辿り着くと、鍵を開け、家に入った。
看護師として働く母親は、今日は夜まで帰ってこない。
書斎ではまだプーカが寝ているはずだ。
「プーカ、具合はどうだい?」
本棚の本と本の間の目立たないところに置いてあるベッドを覗き込んだ。
「え? プーカ?」
プーカがいなかった。
「プーカ!? プーカ!?」
「静かにしなさい」
羽心だけでなく、プーカまで消えてしまったのか?
不安がドッと押し寄せて、妖精の王子の名前を呼ぶ声が裏返ってしまう。
「勇気クン、そんなに慌てるなヨ。女子にも負けるのか?」
部屋の隅の棚から声が聞こえた。
女子というのは、ディアーナとジャネットの事だ。
「プーカ! 心配させるなよ。もう大丈夫なの?」
棚の上に座ったプーカはくるみパンを食べていた。
「お腹が減ってキッチンまで行ったら、このパンがあって助かったヨ」
勇気は嬉しくなってブーカに近づく。
「ああ、元気になったんだね。良かった!」
「オイラは妖精族の王子だゾ。そう簡単にはへこたれないヨ」
くるみパンを頬張りながら、プーカは微笑む。
不安だらけだった勇気の心は、かなり明るくなった。
「あ、そうそウ、海に大変なものが現れたんだネ。テレビで見たヨ。なんだろう、あれハ?」
「プーカにも何の大陸か分からないの?」
「うン、全然。あんな神殿は初めて見たヨ」
「ジャネットは知ってるわよね?」
「ええ」
すると、勇気は一呼吸置いて尋ねる。
「ねえ、プーカ、僕の質問に答えて欲しいんだ」
「質問っテ?」
プーカはくるみパンをむしゃむしゃ食べながら聞き返してくる。
「うん、大事な質問だよ。しっかり聞いて欲しいんだ」
「うン? なんだイ?」
「プーカは、羽心を知ってるよね?」
くるみパンを食べていたプーカの動きが止まった。
「え? 何そレ?」
「だから、プーカは羽心を知ってるよね?」
プーカはきょとんと勇気を見て答える。
「知ってるに決まってるだロ」
勇気は安堵の溜め息をついた。
そして、そんな質問をした理由を説明した。
「それは、多分、邪鬼が羽心チャンを連れ去ったからだヨ」
「どういう事?」
「怪を倒したら怪の存在を忘れちゃうだロ?
羽心チャンを連れ戻せばきっとみんなは羽心チャンを思い出すヨ」
「そうか。そうだよね」
プーカは身体の元気を、そして勇気は心の元気をなくしていた。
しかし、お互いかなり元気を取り戻せてきた。
ディアーナとジャネットは、そんな二人を見守っていた。
(何としてでも……)
(勇気と羽心を助けましょう)
~次回予告~
焼き鳥を食べていた勇気だったが、見捨里市で火災が発生する。
見捨里市で起こった火災の原因は、炎の精霊サラマンダーだった。
ディアーナはやる気になり、勇気と共に怪狩りに向かう事になった。
サラマンダーを止めるために、勇気、プーカ、ディアーナ、ジャネットは時を超える事にした。