怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

邪鬼にさらわれた羽心を、知らざる者(アンノウンマン)は誰も覚えていなかった。
まるで、羽心の存在が世界から消えたように。
呆れたディアーナは勇気を軽くひっぱたき、彼にもう一度勇気を取り戻させる。
ディアーナとジャネットは勇気を支えるために、改めて力になるのだった。


3 - 炎の正体は?

 その夜、ディアーナとジャネットが路地裏に戻った後。

 母親は『カヤの木・焼き鳥』を買って帰ってきた。

 見捨里市には樹齢500年のカヤの木がある。

 その前に店を構えている焼き鳥屋なのだ。

 見捨里市で一番美味しいと評判の焼き鳥で、勇気も大好きだった。

 それをおかずにして母親は夕飯の用意をする。

 食卓を目の前にして、勇気は母親に尋ねてみた。

「ねえ? 白鳥羽心って子を知ってる?」

「え? さあ、そんな子は知らないわ」

「そう。分かった。ありがとう」

 羽心は小さな時から勇気の家に遊びに来て、いつも父親の書斎で本を読んでいた。

 そんな羽心を母親は微笑ましく眺めていた。

 勇気は、その母親の姿を見るのが好きだった。

 小さな時に父親を亡くした寂しさを、羽心が埋めてくれていたのだ。

 勇気にとって羽心は家族の一人だった。

(なんとしてでも羽心を見つけ出して、連れ戻さないと!)

 勇気はそう誓うと、焼き鳥の串を口に頬張った。

(うん? これ、苦い?)

 色々な事があったせいで味覚がおかしくなっているのだろう。

 何しろ『カヤの木・焼き鳥』は、大ベテランの店主が焼いているのだ。

 こんなに苦いはずがなかった。

 ところが……。

「なんか苦いね」

 母親も一口食べてそう言った。

「お母さんもそう思うの?」

「うん、そりゃ、そうよ。なんかちょっと焦げてるっぽいよね」

 勇気が焼き鳥をじっと見ると、肉の一部が少し黒くなっている。

「あ、焦げてる」

 母親も肉をじっと観察した。

「本当ね。焦げてる。あのお店でこんな事は初めて。取り替えてもらおうかしら?」

「いいじゃん。食べられないほど焦げてるわけじゃないし」

「勇気がそれで良いならお母さんも食べちゃうけど……」

 母親は納得が行かない表情だったが、勇気は食事を済ませた。

 

―ウ~、ウ~、ウ~、カンカンカン

 

 消防車のサイレンの音が響いてきたのは、勇気が二階の自分の部屋に入った時だった。

 火事が起きた時は「ウ~、カンカンカン」、火事が収まった時は「カーン、カ~ン」と、

 間延びした鐘の音が二回鳴らされると学校で教わった。

 どこかで火事が起きたのだろう。

 勇気は不安になって窓を開け、夜の町を見回した。

 だが、赤く染まる場所は見つけられない。

(きっと大きな火事じゃないんだよね)

 勇気が窓を閉めようとすると、隣の家の浴室の小窓から小さな悲鳴が聞こえてきた。

「あちちちちっ!」

 隣の家のおじさんの声だ。

 その声はおばさんに文句を言い始める。

「おい! 風呂が熱すぎるぞ! これじゃ火傷するぞ!」

「え? いつもの温度設定よ。そんなに熱くなるなんて、おかしいわね」

 返答するおばさんの声が聞こえた。

 きっと給湯器が故障でもしたのだろう。

「わぁ! おい、ヤモリがいるぞ!」

「え? ヤモリなら家を守ってくれるんだからいいじゃない!」

「いや、違うな。トカゲだな。とにかく、風呂の外に出してやろう。わぁ! あちちちちっ!」

「今度はどうしたの?」

「トカゲの体がえらく熱かったんだ」

 熱い風呂場にいたのでトカゲの体も熱くなったのだろう。

 勇気はそう考えて窓を閉めてベッドに入った。

 少女の長い金髪が揺れている事に気づかず。

 

 ベッドの上でハッと目覚める勇気。

 胸騒ぎを覚えて、明るくなり始めた窓の外を見た。

 早朝の空に×印状の罅が浮いていた。

 その×印がオレンジ色に輝きメラメラとしている。

 弱火にしたガスコンロから、ちょろちょろと火が出ているような感じだ。

「大変だ!」

 何が起きているのかを確かめるために、勇気は寝間着のままで外に飛び出した。

 そして、×印を目指して走った。

 そこは樹齢500年のカヤの木の上だった。

(あれ? 焦げ臭い!)

 木が燃える臭いがした。

 勇気がカヤの木の根元を見ると、小さな炎がオレンジ色に揺らめいていた。

「大変だ!」

 慌てて炎に近づいて足で踏んで消そうとした。

 だが、その小さな炎には、四本の足と尻尾が生えていた。

「なんだ、これ! わぁ! あちぃ!」

「触らないで!」

 ディアーナに言われて自分の足を炎から避けた勇気は、気づいた。

「これ、トカゲだ! 体が燃えてる!」

 しかも……。

―ボォ!

 口から小さな火を噴いて、カヤの木を燃やそうとしているのだ。

 トカゲを捕まえようとしたら火傷してしまう。

「これは……」

 ディアーナが呟くと、今度は焼き鳥の臭いが漂ってきた。

 『カヤの木・焼き鳥』が、こんな早朝なのに開いている。

 小さな店なので開け放たれた戸の中が丸見えだ。

 店主が一生懸命に串に刺された鶏肉を焼いていた。

「てやんでえ! なんで焦げるんだ!

 俺の腕がなまったなんて言わせないぜ! 練習あるのみだ!」

 『カヤの木・焼き鳥』に「焦げてるぞ」とクレームがいっぱい入ったのだろう。

 焼き鳥を上手く焼き上げるために、店主は徹夜して練習していたのだ。

 しかし、それは上空の罅から来たであろう火を噴くトカゲのせいに違いない。

 店主は練習に夢中になっていて、トカゲに気づいていない。

「違うわよ、腕がなまったんじゃないわ!」

 ディアーナは勇気と共に店に飛び込むと叫んだ。

「お客さん、まだ開店前だ。後で来てくれ」

「だから、火蜥蜴のせいよ!」

 ディアーナは店主を店から連れ出して、トカゲを見せようとした。

 しかし、店主は「何するんだ!」と動かない。

 その瞬間、焼き鳥を焼く炎が勢いを増した。

「わぁ! また焦げちまった! なんでだ!?」

 店主は嘆くばかりで、焼き鳥の脇に原因がいる事に気づかなかった。

 あの体全体が燃えるトカゲが、いつの間にか店に入っていたのだ。

「オジさん、こいつのせいなんだよ!」

 店主は勇気が指差した先のトカゲを見た。

 その瞬間、トカゲが火を噴いた。

「わぁぁ!」

 ビックリして外に飛び出した店主は、空に浮かぶ罅に気づいた。

 ディアーナはこの事態に気づいているのか、髪が光り輝いている。

「ええ! あれはなんだ?」

「あそこから火を噴くトカゲが出てきたんだよ!」

 勇気がそう言った直後、

―ボォォオオオ!

 強烈な炎の音が背後から響いた。

 四人が振り向くと、幾つもの小さな炎が店を焦がしている。

「え!? 一匹じゃないの!?」

「そうよ。ここは、あたしが食い止めるわ。……大人しくなりなさい」

 十数匹のトカゲが火を噴いていて、ディアーナが彼らを宥めようとする。

―ボッボゥッ! メラメラメラ! メラメラメラ!

 『カヤの木・焼き鳥』が燃えてしまった。

「ぬわああぁぁ! 俺の店がぁ!」

 店主は滝のような涙を流しながら地面に崩れた。

「オジさん、しっかりして! ここは危ない! 逃げるんだよ!」

 勇気は泣き咽ぶ店主に肩を貸して走った。

 ディアーナは、トカゲを宥めるために何度か対話し、ようやく事は収まった。

 

「あれは、あたしの友。怪じゃないわ」

「ディアーナ、行きましょう」

 

 店主を安全な場所まで連れて行った勇気は、決意を固めた。

「急いであの怪を倒さないと!」

「違うわ、あたしの友よ」

 怪を「友」と言うディアーナを、勇気は理解できなかった。

 

 いつもの服に着替えた勇気が、書斎のドアを勢いよく開けた。

 まだ寝ていたプーカがビックリして飛び起きる。

 ディアーナとジャネットは、少し呆れていた。

「勇気クン、こんな朝早くからどうしたんだイ?」

「×印状の罅から出てきた怪」

「訂正。友」

「……のせいで、焼き鳥屋が燃えちゃったんだ」

「え? いつもの勇気クンの夢なんじゃないノ?」

「夢なんかじゃないよ!」

 勇気はプーカに窓の外を見るように指さした。

 プーカは羽を羽ばたかせて窓まで来る。

 空にちょろちょろとした炎が漏れ出す罅が浮かんでいた。

「あ! 本当ダ!」

「トカゲが火を噴いたんだ。それに全身も燃えているようなんだ。なんの……友なの?」

「あたしは魔法を使う時、色んな精霊に力を貸してもらっているわ」

「精霊? そっか、友って言ったのはそれが理由だったんだね」

 メデューサにあんな強い竜巻をぶつけたのも、ディアーナの魔法だったっけ……と思い出す。

「だから、あたしはこの友を知ってる。名前はサラマンダーよ」

「え? それって、『ドラゴン』みたいなトカゲの事?」

「炎の精霊よ。エルフはあまり呼ばないけど。

 とにかく、×印を作ったのは奴だから、サラマンダーのもとに行けばあの子がいると思うわよ」

「そうだっ! 羽心!」

 サラマンダーにすっかり気を取られて、大事な羽心の事を忘れていた自分に腹が立った。

 ディアーナも、エルフの精霊使いである事に気が付いた。

「よし! プーカ、ディアーナ、ジャネット、行こう!」

 勇気は月のグローブを嵌めた左手を構えた。

 それを見たプーカが左手の前に飛んできた。

「勇気クン、慌てるなヨ! サラマンダーを大人しくさせる道具を持っていかないト」

「あ、そうか。何を持っていけば良いんだ?」

「相手は火だからネ」

「水かい?」

「いや、それは行った先にあると思うヨ」

「あたしがいるから大丈夫でしょ?」

 こっちには、精霊の力を使う魔法使い・ディアーナがいるから、“ヌルゲー”になる。

「じゃ、あれだね!」

 勇気は自分の部屋から、以前、買ってもらった大きな玩具を持ってきた。

「それは水鉄砲ですか?」

「そうだよ。大型タンクが付いていて、連射できて、遠くまで水が飛ぶんだ」

 勇気はアクション映画の主人公のように大型水鉄砲を構えてみせた。

「それを使うのですか」

「これがあれば、あんな小さなサラマンダーなんてすぐに倒せるよ」

「だから、倒すんじゃないの。大人しくさせるの」

「分かってるよ」

「では、出撃です!」

 頷いたプーカが勇気の胸ポケットに入って身構える。

 勇気は、壁に近づくと、左手をかざして呪文を唱えた。

 

時空貫通(カオス・ゲート)




~次回予告~

時を超えて勇気達がやって来たのは、古代日本だった。
本来、精霊は西洋に住むらしいので、ジャネットにはあまり理解できなかった。
そんな古代日本で、勇気、プーカ、ディアーナ、ジャネットはある人物と出会う。
どうやらある人物は、誰かを助けてほしいようだが……。
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