怪狩り ~ 人の絆と怪の決意   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

見捨里市で起きた火災の原因は、炎の精霊サラマンダーだった。
精霊はディアーナにとっては友なので、彼女はサラマンダーを傷つける事を嫌っていた。
それでも、サラマンダーを放っておくわけにはいかなかった。
勇気、プーカ、ディアーナ、ジャネットは、見捨里市を守るため、時を超えるのだった。


4 - 青年タケルと少女ミヤズ

―ゴォォォー!!

 

 どこかの草原に光の渦ができた。

 そこから勇気とディアーナがスッと出てきて、ピタリと着地した。

 ジャネットは鎧のせいで少しよろめく。

 平坦な場所に降りたが、そこは山の中腹だった。

「……ここが、舞台なのね」

 ディアーナは、ここが古代の日本である事を理解した。

「プーカ、ここは、どこ?」

「オイラにも分からないヨ」

 勇気は周囲を見回した。

 森に囲まれ、目の前には小川が流れている。

「とにかく、水鉄砲の水には困らないね」

「そうね、精霊の声も聞こえるし」

 勇気は早速、大型水鉄砲に水を吸わせた。

 冷たい水が気持ちいい。

 もし家族旅行などで来たら、楽しい登山コースになりそうだった。

 ところが……。

 

「う、うう、う~~」

 不気味な声が近くから聞こえた。

 大型水鉄砲を手にした勇気は、慌てて物陰に隠れた。

 ディアーナとジャネットは身構え、勇気は小声でポケットの妖精に尋ねる。

「プーカ、これはサラマンダーの声かい?」

「そんなの分からないヨ。本物のサラマンダーには会った事がないんだかラ」

「珍しいわね」

「オイラでも知らない事はあるんだゾ」

 勇気は大型水鉄砲を構えて様子を見た。

 

「誰か~、助けてくれ~!」

 すると、男の弱り果てた声が響いてきた。

「え? 人間?」

 勇気は物陰から出て、その声の元を捜した。

「助けてくれ~! 溝に落ちて出られなくなったんだ! 誰か助けてくれ!」

 草原から森に入ってすぐの溝に、声の主はいた。

 泥まみれになった男が横たわっている。

 20代前半くらいの青年だ。

「あら、こんなところに人がいますね」

 ジャネットが声を掛けると、「良かった!」と青年は声を上げる。

「ここの溝に気づかず足を滑らして落ちたんだよ。

 でも、泥でぬかるんでるから上に上がれなくなったんだ」

 それを聞いたディアーナは、ロープになるようなものはないかと見回した。

 すぐ近くの大木に、しっかりとしたツタが巻き付いていた。

 ディアーナはそれを大木から剥がし、勇気に渡す。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 勇気はディアーナが渡したツタを束ねた。

 ツタや草からロープを作る方法は、父親の書斎にあった本で読んだ事があった。

 それが役に立った。

 やがて、青年が勇気の手製ロープを頼りに溝から這い上がってきた。

「ありがとう」

 青年は礼を言うと、疲れ切った様子で座り込んだ。

 

「何故こんな場所に一人でいたのですか?」

 そうジャネットに尋ねられた青年は、厳しい目つきで腕を上げた。

「そうだ。こんなところで休んでちゃダメなんだ」

 ジャネットの質問には答えずに、青年は辛そうにしながらも立ち上がった。

「何があったのですか?」

「君に説明している暇なんてないんだ。僕の大切な妹の命が危ないんだからな」

「なら、私も同意します。妹はどうなりましたか?」

 ジャネットがニコリと微笑むと、青年は立ち止まった。

「妹は火龍にさらわれたんだ」

「火龍とは……サラマンダーですか?」

「さ、さ、皿回し? 失礼だぞ? お前のくだらない話に付き合う余裕は無い。

 一刻も早くミヤズを助けないと!」

「……おかしいですね。日本に西洋の精霊はいないはずなのに」

 ジャネットが呟く中、青年は機嫌が悪くなって足早に歩き出した。

「子供は足手まといだ! 付いてくるな!」

 いきなり高圧的な態度で勇気を振り払った。

 ディアーナとジャネットは、青年の様子に嫌な気分になった。

 

「ちょっと、待つんダ!」

 勇気のポケットから声が響いた。

「妹さんを助けるのに、オイラは役に立つと思うゾ」

「なんだって?」

 青年が勇気に向き直った途端に、プーカがポケットから飛び出した。

「わぁ! なんだお前!」

「オイラは妖精族の王子だヨ。こうやって空中を自由自在に飛べるんダ」

 プーカは青年の周りをぐるぐると回って見せた。

「あわわわわ!」

「あんたが行けない場所にオイラは自由に行けるんダ。便利な存在だゾ」

「わぁぁぁ!」

 青年は怯え出して、身を縮めるようにしゃがみ込んだ。

 ディアーナは青年の肩を掴み、暴れないようにした。

「偵察も出来るし、本当に便利なんですよ、プーカは」

「なんなら、あたしもジャネットも戦えるわよ」

 勇気とジャネットは青年に歩み寄った。

 しゃがみ込んだ青年は、ひょうたん形の水筒の中身をごくごく飲んでいた。

 しかし、それは水ではなさそうだ。

「……お酒?」

「五月蠅い!」

 青年は勇気を険しい表情で睨みつけた。

「あ、ごめんなさい! 失礼な事を尋ねてしまったようで……」

 勇気が慌てて謝ると、青年はやがて気の抜けたような表情になった。

「いや、僕の方こそごめん。

 妹を助けると言って村を出たけど、正直に言うと、僕は昔から気が小さくてね。

 それで、つい威張ったふりをしてしまうし、水筒にも酒を入れてきたんだ」

 正直に話をする青年に、勇気は好感を持った。

 青年は自分の頭の上を飛ぶ妖精を見る。

「プーカ?」

「オイラの名前ダ。そして、オイラと一緒にいるのハ……」

「あたしは、ディアーナよ」

「ジャネット・ディ・アルクです」

「僕の名前は真之勇気です。妹さんを一緒に助けに行きましょう」

「勇気くん、ディアーナさん、ジャネットさんか。

 でも、僕の妹をさらったのは火龍で、君の友達をさらったのは邪鬼という少年だろ。

 相手が違うぞ」

「違うけど、関係はあるわ。とにかく、妹のいる場所に向かう間に説明するから」

 青年は勇気、ディアーナ、ジャネット、プーカを改めて見てから頷いた。

「僕の名前はタケルだ」

 その名前を聞いた三人は、しっかり青年の姿を見た。

 ゆったりとした白いズボンとシャツを着て、頭の両側に長い髪を束ねていた。

(この衣装とこのヘアスタイルは大昔の日本の偉い人だ。そんな人を僕は助けたんだ……)

 勇気はつい見入ってしまう。

「どうした?」

 タケルの問いに勇気はニコリとして答える。

「じゃあ、これからはタケル兄さんと呼びますね」

「まあ、いいだろう。君は命の恩人だからな」

 タケルはニコリと頷いた。

 

「むっ、あたしでも姉さんと呼ばれた事はないのに」

 ディアーナは二人を見て、少し嫉妬していた。




~次回予告~

ミヤズを助けるため、勇気達はサラマンダーが住む洞窟に向かった。
だが、洞窟のサラマンダーは巨大だった。
この大きさは精霊使いのディアーナでもあまり見た事がないという。
果たして、四人はサラマンダーを鎮め、ミヤズを助ける事ができるだろうか。
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