見捨里市で起きた火災の原因は、炎の精霊サラマンダーだった。
精霊はディアーナにとっては友なので、彼女はサラマンダーを傷つける事を嫌っていた。
それでも、サラマンダーを放っておくわけにはいかなかった。
勇気、プーカ、ディアーナ、ジャネットは、見捨里市を守るため、時を超えるのだった。
―ゴォォォー!!
どこかの草原に光の渦ができた。
そこから勇気とディアーナがスッと出てきて、ピタリと着地した。
ジャネットは鎧のせいで少しよろめく。
平坦な場所に降りたが、そこは山の中腹だった。
「……ここが、舞台なのね」
ディアーナは、ここが古代の日本である事を理解した。
「プーカ、ここは、どこ?」
「オイラにも分からないヨ」
勇気は周囲を見回した。
森に囲まれ、目の前には小川が流れている。
「とにかく、水鉄砲の水には困らないね」
「そうね、精霊の声も聞こえるし」
勇気は早速、大型水鉄砲に水を吸わせた。
冷たい水が気持ちいい。
もし家族旅行などで来たら、楽しい登山コースになりそうだった。
ところが……。
「う、うう、う~~」
不気味な声が近くから聞こえた。
大型水鉄砲を手にした勇気は、慌てて物陰に隠れた。
ディアーナとジャネットは身構え、勇気は小声でポケットの妖精に尋ねる。
「プーカ、これはサラマンダーの声かい?」
「そんなの分からないヨ。本物のサラマンダーには会った事がないんだかラ」
「珍しいわね」
「オイラでも知らない事はあるんだゾ」
勇気は大型水鉄砲を構えて様子を見た。
「誰か~、助けてくれ~!」
すると、男の弱り果てた声が響いてきた。
「え? 人間?」
勇気は物陰から出て、その声の元を捜した。
「助けてくれ~! 溝に落ちて出られなくなったんだ! 誰か助けてくれ!」
草原から森に入ってすぐの溝に、声の主はいた。
泥まみれになった男が横たわっている。
20代前半くらいの青年だ。
「あら、こんなところに人がいますね」
ジャネットが声を掛けると、「良かった!」と青年は声を上げる。
「ここの溝に気づかず足を滑らして落ちたんだよ。
でも、泥でぬかるんでるから上に上がれなくなったんだ」
それを聞いたディアーナは、ロープになるようなものはないかと見回した。
すぐ近くの大木に、しっかりとしたツタが巻き付いていた。
ディアーナはそれを大木から剥がし、勇気に渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
勇気はディアーナが渡したツタを束ねた。
ツタや草からロープを作る方法は、父親の書斎にあった本で読んだ事があった。
それが役に立った。
やがて、青年が勇気の手製ロープを頼りに溝から這い上がってきた。
「ありがとう」
青年は礼を言うと、疲れ切った様子で座り込んだ。
「何故こんな場所に一人でいたのですか?」
そうジャネットに尋ねられた青年は、厳しい目つきで腕を上げた。
「そうだ。こんなところで休んでちゃダメなんだ」
ジャネットの質問には答えずに、青年は辛そうにしながらも立ち上がった。
「何があったのですか?」
「君に説明している暇なんてないんだ。僕の大切な妹の命が危ないんだからな」
「なら、私も同意します。妹はどうなりましたか?」
ジャネットがニコリと微笑むと、青年は立ち止まった。
「妹は火龍にさらわれたんだ」
「火龍とは……サラマンダーですか?」
「さ、さ、皿回し? 失礼だぞ? お前のくだらない話に付き合う余裕は無い。
一刻も早くミヤズを助けないと!」
「……おかしいですね。日本に西洋の精霊はいないはずなのに」
ジャネットが呟く中、青年は機嫌が悪くなって足早に歩き出した。
「子供は足手まといだ! 付いてくるな!」
いきなり高圧的な態度で勇気を振り払った。
ディアーナとジャネットは、青年の様子に嫌な気分になった。
「ちょっと、待つんダ!」
勇気のポケットから声が響いた。
「妹さんを助けるのに、オイラは役に立つと思うゾ」
「なんだって?」
青年が勇気に向き直った途端に、プーカがポケットから飛び出した。
「わぁ! なんだお前!」
「オイラは妖精族の王子だヨ。こうやって空中を自由自在に飛べるんダ」
プーカは青年の周りをぐるぐると回って見せた。
「あわわわわ!」
「あんたが行けない場所にオイラは自由に行けるんダ。便利な存在だゾ」
「わぁぁぁ!」
青年は怯え出して、身を縮めるようにしゃがみ込んだ。
ディアーナは青年の肩を掴み、暴れないようにした。
「偵察も出来るし、本当に便利なんですよ、プーカは」
「なんなら、あたしもジャネットも戦えるわよ」
勇気とジャネットは青年に歩み寄った。
しゃがみ込んだ青年は、ひょうたん形の水筒の中身をごくごく飲んでいた。
しかし、それは水ではなさそうだ。
「……お酒?」
「五月蠅い!」
青年は勇気を険しい表情で睨みつけた。
「あ、ごめんなさい! 失礼な事を尋ねてしまったようで……」
勇気が慌てて謝ると、青年はやがて気の抜けたような表情になった。
「いや、僕の方こそごめん。
妹を助けると言って村を出たけど、正直に言うと、僕は昔から気が小さくてね。
それで、つい威張ったふりをしてしまうし、水筒にも酒を入れてきたんだ」
正直に話をする青年に、勇気は好感を持った。
青年は自分の頭の上を飛ぶ妖精を見る。
「プーカ?」
「オイラの名前ダ。そして、オイラと一緒にいるのハ……」
「あたしは、ディアーナよ」
「ジャネット・ディ・アルクです」
「僕の名前は真之勇気です。妹さんを一緒に助けに行きましょう」
「勇気くん、ディアーナさん、ジャネットさんか。
でも、僕の妹をさらったのは火龍で、君の友達をさらったのは邪鬼という少年だろ。
相手が違うぞ」
「違うけど、関係はあるわ。とにかく、妹のいる場所に向かう間に説明するから」
青年は勇気、ディアーナ、ジャネット、プーカを改めて見てから頷いた。
「僕の名前はタケルだ」
その名前を聞いた三人は、しっかり青年の姿を見た。
ゆったりとした白いズボンとシャツを着て、頭の両側に長い髪を束ねていた。
(この衣装とこのヘアスタイルは大昔の日本の偉い人だ。そんな人を僕は助けたんだ……)
勇気はつい見入ってしまう。
「どうした?」
タケルの問いに勇気はニコリとして答える。
「じゃあ、これからはタケル兄さんと呼びますね」
「まあ、いいだろう。君は命の恩人だからな」
タケルはニコリと頷いた。
「むっ、あたしでも姉さんと呼ばれた事はないのに」
ディアーナは二人を見て、少し嫉妬していた。
~次回予告~
ミヤズを助けるため、勇気達はサラマンダーが住む洞窟に向かった。
だが、洞窟のサラマンダーは巨大だった。
この大きさは精霊使いのディアーナでもあまり見た事がないという。
果たして、四人はサラマンダーを鎮め、ミヤズを助ける事ができるだろうか。